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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
東京都収用委員会が平成20年1月31日付けで原告らに対してした都市再
開発法85条に基づく裁決に係る同法73条1項3号の宅地の価額を,原告ら
各自につき各1億7444万2959円と変更する。
第2事案の概要
本件は,α地区第一種市街地再開発事業(以下「本件事業」という)の施。
(「」。)行地区内に所在する別紙物件目録記載の各土地以下本件各土地という
の共有者である原告らが,都市再開発法73条1項3号の宅地(本件各土地)
の価額につき,被告が権利変換計画で定めた価額の評価を不服として,同法8
5条1項の規定による裁決の申請をしたところ,東京都収用委員会から,平成
20年1月31日付けで,被告が権利変換計画で定めた価額をもって同号の宅
地の価額とする旨の裁決(以下「本件裁決」という)を受けたことから,そ。
の価額の評価を不服として,同条3項の規定により本件裁決に係る同号の宅地
(本件各土地)の価額の変更(増額)を求めている事案である。
1都市再開発法の関係規定の定め
(以下の(1)ないし(3)において,同法の規定は条名のみを掲げる)。
(1)従前資産の価額及びその評価
ア73条1項
市街地再開発事業の施行者は,権利変換計画において,次に掲げる事項
を定めなければならない。
①施行地区内に宅地,借地権又は権原に基づき建築物を有する者で,当
該権利に対応して,施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物
の一部等を与えられることとなるものが,施行地区内に有する宅地,借
地権又は建築物及びその価額(3号)
②床面積が著しく小であるため,施設建築物の一部又はその施設建築物
の一部についての借家権が与えられないこととなるものが,施行地区内
に有する宅地,借地権又は建築物及びその価額(11号)
③施行地区内の宅地若しくは建築物又はこれらに関する権利(以下「従
前資産」という)を有する者で,この法律の規定により,権利変換期。
日において当該権利を失い,かつ,当該権利に対応して,施設建築敷
地若しくはその共有持分若しくは施設建築物の一部等(以下「従後資
産」という)又は施設建築物の一部について借家権を与えられないこ。
ととなるものが,施行地区内に有する失われる宅地若しくは建築物又
は権利及びその価額(12号)
イ80条1項
73条1項3号の従前資産(上記ア①の宅地,借地権又は建築物)の価
額は,次の①ないし③のいずれかの日(以下「評価基準日」という)に。
おける近傍類似の土地,近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近
傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の
価額とする。
①市街地再開発組合の設立認可の公告があった日から起算して30日を
経過した日(71条1項)
②上記①の期間経過後6月以内に権利変換計画の縦覧の開始がされない
ときは,当該6月の期間を経過した日から起算して30日を経過した日
(同条5項前段)
③上記②の30日の期間経過後更に6月を経過しても権利変換計画の縦
覧の開始がされないときは,当該6月の期間を経過した日から起算して
30日を経過した日(同項後段)
従前資産に係る補償及び清算()2
91条1項ア
,(「」。)施行者は施行地区内の従前資産を有する者以下地権者という
で,都市再開発法の規定により,権利変換期日において当該権利を失い,
かつ,当該権利に対応して,従後資産又は施設建築物の一部についての借
家権を与えられないものに対し,その補償として,権利変換期日までに,
80条1項の規定により算定した相当の価額に評価基準日から権利変換計
画の認可の公告の日までの物価の変動に応じる修正率を乗じて得た額に,
当該権利変換計画の認可の公告の日から補償金を支払う日までの期間につ
き年6%の割合により算定した利息相当額を付してこれを支払わなければ
ならない。
イ103条1項
施行者は,第一種市街地再開発事業の工事が完了したときは,すみやか
に,当該事業に要した費用の額を確定するとともに,その確定した額及び
80条1項に規定する相当の価額を基準として,従後資産を取得した者又
は施行者の所有する施設建築物の一部について77条5項ただし書の規定
により借家権が与えられるように定められ,88条5項の規定により借家
権を取得した者ごとに,従後資産の価額,施設建築敷地の地代の額又は施
行者が賃貸しする施設建築物の一部の家賃の額を確定し,これらの者にそ
の確定した額の通知をしなければならない。
ウ104条1項前段
103条1項(上記イ)の規定により確定した従後資産の価額とこれを
与えられた者がこれに対応する権利として有していた従前資産の価額とに
差額があるときは,施行者は,その差額に相当する金額を徴収し,又は交
付しなければならない。
(3)従前資産の価額に係る争訟手続
ア85条1項
権利変換計画における73条1項3号の従前資産(上記ア①の宅地,借
地権又は建築物)の価額について83条2項の意見書を提出し,同条3項
の規定によりこれを採択しない旨の通知を施行者から受けた者は,収用委
員会に従前資産の価額の裁決を申請することができる。
イ85条3項
(),85条1項上記アの規定による収用委員会の裁決に不服がある者は
土地収用法133条2項及び3項の規定に準じて,従前資産の価額に関す
る訴えを提起することができる。
2前提となる事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の
全趣旨により容易に認められる事実)
(1)被告は,東京都文京区α地区を施行地区とする第一種市街地再開発事業
(),,本件事業の施行者である市街地開発組合であり平成17年2月25日
東京都知事から設立の認可を受け,同日,その設立の認可の公告がされた。
(甲1,6,7)
,,(2)原告らは本件事業に係る施行地区内にある本件各土地の共有者であり
原告ら各人の持分は,本件各土地につき,それぞれ56分の10(合計56
分の40)である(甲6,7)。
(3)被告は,権利変換計画の策定に当たり,平成17年12月26日の臨時
総会において,同計画における従前資産の評価の取扱基準として「従前資産
評価基準(甲7別添資料7枚目。以下「本件取扱基準」という)を採る」。
ことを決議し同基準の9条宅地の評価2項において宅地の価格単,(),「(
価)は,地価公示価格,基準地価格,近傍類似の土地取引価格及び価格形成
上の諸要因を考慮して求めた標準地の正常価格を基準として,これに各画地
の接道条件,公法上の規制,形状,規模等の個別的要因による個別格差修正
を行って求めた価格に,事業による評価の増加分を加えた価格とする」と。
定めた(以下,上記「事業による評価の増加分」を「開発利益」という。。)
(甲7)
(4)被告は,平成18年11月24日の臨時総会において,本件取扱基準に
従って策定した権利変換計画(以下「本件権利変換計画」という)の採択。
を決議し,本件権利変更計画において,本件各土地につき,1m当たりの2
土地価格に1m当たりの開発利益58万9000円を加算して得た額に土2
地面積底地割合及び共有割合を乗じた上で同法73条1項3号の宅地本,,(
件各土地)の価額を,別表1「権利変換計画において定めた価額の内訳」の
価額欄(合計)のとおり,原告aにつき1億1385万5000円,その余
の各原告につき各1億1386万0000円と定めた(なお,被告は,土地
価格の査定に当たり,借地権の及ぶ範囲をもって一画地とみなし,別表1記
載のとおり,K−53ないし58及びK−64ないし70の合計13の画地
に区分して評価した(甲6,7)。)。
(5)被告は,平成18年11月26日,本件権利変換計画の縦覧を開始した
(なお,本件事業に係る都市再開発法80条1項所定の評価基準日は,平成
18年5月27日である(甲6)。)。
(6)原告らは,被告に対し,都市再開発法83条2項に基づき,同法73条
1項3号の宅地(本件各土地)の価額は各原告につき各2億7882万900
0円である旨を記載した平成18年12月9日付けの各意見書を,それぞれ
提出した(甲2の1ないし4。)
(7)被告は,原告らに対し,都市再開発法83条3項に基づき,平成19年
1月16日付けで,上記(6)の原告らの各意見書を採択しない旨の通知をし
た(甲3)。
(8)原告らは,上記(7)の通知を受け,都市再開発法85条1項に基づき,東
京都収用委員会に対し,平成19年2月14日付けで,同法73条1項3号
の宅地(本件各土地)の価額につき,裁決の申請をした(甲4)。
(9)東京都知事は,平成19年3月16日,都市再開発法72条1項に基づ
き,本件権利変換計画について認可をした(甲7別添資料1枚目)。
(10)東京都収用委員会は,平成20年1月31日付けで,原告らに対し,本
件権利変換計画で定められた価額をもって同法73条1項3号の宅地(本件
各土地)の価額とする旨の本件裁決をした。本件裁決においては,本件各土
地の1m当たりの土地価格及び底地割合は本件権利変換計画よりも高額・2
高率とされたが,1m当たりの評価土地価格に開発利益を加算しないで土2
地面積,底地割合及び共有割合を乗じて価額の算定が行われ(なお,別表1
と同様に,本件各土地は合計13画地に区分して評価された,同法80。)
条1項の規定により算定した本件各土地の相当の価額は,別表2「収用委員
会が相当とする価額の内訳」の価額欄(合計)のとおり,各原告につき各1
億0248万8832円とされ,本件権利変換計画で定められた上記(4)の
価額よりも低額となったが,同法85条1項において準用される土地収用法
94条8項により,被告の申立ての範囲内において本件権利変換計画で定め
られた価額をもって同法73条1項3号の宅地(本件各土地)の価額とされ
た(甲6)。
,,。()(11)原告らは平成20年7月30日本件訴えを提起した顕著な事実
3争点及び争点に対する当事者の主張の要旨
(1)本件の争点は,都市再開発法85条1項の規定による裁決において,同
法73条1項3号の従前資産(宅地)の価額を算定するに当たり,市街地再
開発事業による開発利益を加算すべきか否かである。
なお,本件各土地について,1m当たりの土地価格及び底地割合が東京2
都収用委員会が相当とした金額及び割合(別表2「収用委員会が相当とする
」),価額の内訳の土地価格欄及び底地割合欄記載の金額及び割合であること
1m当たりの開発利益が被告の定めた58万9000円であること(前記2
前提事実(4)参照)は,いずれも当事者間に争いがない。
(2)本件の争点に対する当事者の主張の要旨は,後記第3の2に掲記するも
ののほか,以下のとおりである。
(原告らの主張の要旨)
東京都収用委員会が相当とした土地価格及び底地割合に被告が定めた開発
利益を加算して計算した金額を,本件各土地に係る従前資産の価額とすべき
である。
被告の総会において,権利変換計画の基準となる従前資産の評価基準とし
て,取引価格に開発利益を加算して従前資産の価額を算定する本件取扱基準
の採択決議がされ,かつ,本件取扱基準に従って策定された権利変換計画の
採択決議がされ,審査委員の承認や東京都知事の認可も得ている以上,被告
と被告の組合員である原告らとの間においては,本件取扱基準は,従前資産
の評価基準としての規範性を有しているから,収用委員会は,本件取扱基準
を無視して裁決をすることはできず,形式的当事者訴訟である本訴において
も,内部規範である本件取扱基準を適用して判断しなければならない
(被告の主張の要旨)
都市再開発法73条1項3号の従前資産の価額は同法80条1項に従って
算定されるべきところ,同法80条1項所定の相当の価額は,その文言から
して,開発利益を含むことを予定していない。
市街地再開発組合が従前資産の価額について開発利益を加味する取扱い自
体は,市街地再開発事業の円滑な遂行を図る趣旨のものであって,同法の趣
旨に反するものではないというにすぎない。
第3争点に対する判断
1(1)都市再開発法80条1項は,同法73条1項3号の従前資産(宅地,借
地権又は建築物)の価額を,評価基準日における近傍類似の土地,近傍同種
の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利
(以下「近傍類似資産」という)の取引価格等を考慮して定める相当の価額。
とすると定めており,同法80条1項の上記の文言及び構造によれば,同法
73条1項3号の従前資産の価額,すなわち,同法80条1項所定の相当の
価額は,評価基準日における従前資産の評価額をいうものであり,権利変換
計画の決定前の日である評価基準日の時点における近傍類似資産の取引価格
その他の諸事情を考慮して定められるべきものと解するのが相当であって,
開発利益は,評価基準日後の権利変換計画の認可及び権利変換期日を経た市
街地再開発事業の進展及びその完成によって生ずるものである以上,都市再
開発法上,従前資産に係る上記「相当の価額」の算定において,評価基準日
後の事後的な事情に基づいて発生する開発利益は考慮すべき対象に含まれて
いないものというべきである。
都市再開発法80条1項所定の相当の価額は,従前資産の地権者のうち,
権利変換期日において,当該権利を失い,当該権利に対応して従後資産を与
えられない者との関係では,補償金の額を算定する基準となり(同法91
条,従後資産を与えられる者との関係では,清算金の額を算定する基準と)
なるものであり(同法104条1項,これらの規定にかんがみれば,都市)
再開発法は,財産権の保障の見地から,市街地再開発事業によって従前資産
の地権者が被る特別な犠牲の回復を図ることを目的として,補償金及び清算
金並びにその算定基準に関する規定を設けているものと解され,かかる観点
からは,従前資産に関する権利の喪失の前後を通じて従前資産の地権者の保
有する資産の財産価値が等しくなるように補償金及び清算金の額を定めるべ
きであり,従前資産の地権者が近傍において従前資産と同等の代替地等を取
得し得る金額を補償することを要しかつそれで足りるものと解されるな,,(
お,最高裁昭和48年10月18日第一小法廷・民集27巻9号1210頁
参照。)
そして,この従前資産の地権者が近傍において従前資産と同等の代替地等
を取得し得る金額は,同法80条1項の規定により評価基準日における近傍
類似資産の取引価格等を考慮して定める相当の価額であり,したがって,上
記のいずれの観点からも,同項所定の相当の価額に開発利益は含まれないも
のと解されるので,これに開発利益が含まれるとする原告らの主張は理由が
ない。
(2)なお,市街地再開発事業の施行者である被告において,権利変換計画に
おける従前資産の価額の算定において開発利益を加算する取扱い(本件取扱
基準)が採られたことは,都市再開発法の規定により本来考慮すべき事情以
外の事情も算定要素に加えることにより,施行者に帰属すべき将来の事業利
益の一部を補償金の額に上乗せすることで,補償金を巡る争訟等の時間と費
用を節減し,市街地再開発事業の円滑な遂行を図る趣旨で行われたものと推
認されるところ(弁論の全趣旨,本件権利変換計画で定められた同法73)
(),,条1項3号の宅地本件各土地の価額は開発利益を加算した点において
同法80条1項所定の相当の価額を超過するものといえるが,上記(1)のと
おり都市再開発法の補償金及びその算定基準に関する規定は従前資産に係る
財産権の保障を目的とするものであり,市街地再開発事業の円滑な遂行も同
法の目的に適合するものであることにかんがみると,その超過によって,本
件権利変換計画のうち同法73条1項3号の宅地(本件各土地)の価額を定
めた部分が直ちに違法となるものではないと解するのが相当である。
そして,前記前提事実(10)のとおり,本件裁決においては,同法73条1
項3号の宅地(本件各土地)の価額について,開発利益を加算しないで適法
に算定された同法80条1項所定の相当の価額(各1億0248万8832
),()円が本件権利変換計画で定められた価額各1億1385万5000円
を下回ることから,同法85条3項において準用される土地収用法94条8
項により,被告の申立ての範囲内において本件権利変換計画で定められた価
額が同法73条1項3号の宅地の価額とされたものであり,上記のとおり本
件権利変換計画で定められた価額自体が違法ではない以上,本件裁決は適法
であり,同裁決に係る同号の宅地の価額は変更を要しないものというべきで
ある。
2上記1の検討を踏まえ,以下,原告らの主張について検討する。
(1)原告らは,本件取扱基準が従前資産の評価基準としての規範性を有して
,,,いるから収用委員会は本件取扱基準を無視して裁決をすることはできず
本訴においても,本件取扱基準を適用して判断しなければならない旨主張す
る。
しかしながら,都市再開発法85条1項の規定による裁決及びこれに係る
同条3項の規定による訴訟において,収用委員会及び裁判所は,従前資産の
価額について,同法の規定により相当と認められる価額を認定し,その認定
額が権利変換計画の定め又は裁決に係る価額を上回るときはその定め又は裁
決を違法とすべきものと解されるところ,都市再開発法は同法80条1項に
おいて従前資産の価額の評価基準を法定している以上,同法80条1項の規
定により算定した相当の価額がその認定の対象となることは明らかであり,
施行者が権利変換計画の策定の過程で同法80条1項所定の評価基準と異な
,,る取扱基準を採る旨の決議をしたとしてもこのような事実上の取扱基準は
法令の根拠を欠くものである以上,上記の裁決及び訴訟における収用委員会
及び裁判所の判断を何ら拘束するものではなく,収用委員会及び裁判所は,
かかる取扱基準の有無にかかわらず,専ら同法80条1項所定の評価基準に
基づいて同項の規定により算定した相当の価額を認定すべきであり,かつ,
それで足りるというべきであるから,本件取扱基準に関する原告らの上記主
張は理由がない。
(2)原告らは市街地再開発事業を前提とする土地の物理的要因即地的地,,(
域限定・場所限定)要因,行政的要因の変更を踏まえて従前資産の評価がさ
れるべきであり,開発利益はこれらの要因の変化に応じて段階的に発生する
もので,評価基準日の時点において既に発生しているものであるから,従前
資産の評価にも開発利益が当然に考慮されるべきである旨主張する。
しかしながら,都市再開発法80条1項の相当の価額は,評価基準日にお
ける近傍類似資産の取引価格等を考慮して定めるものであり,評価基準日に
おいて,既に近傍類似資産の取引価格に市街地再開発事業による市街地の活
性化,利便性の向上等の将来発生する開発利益が加味されて反映されている
場合には,近傍類似資産の取引価格を介して,事実上,従前資産の評価に開
発利益が加味されたと同様の結果になることはあり得るとしても,上記1の
とおり,同法の定めとしては,同法80条1項の文言・構造上,同項の相当
の価額の算定において,評価基準日後の事情により将来発生する開発利益が
別個に加算されることは予定されていないので,原告らの上記主張は理由が
ない。
(3)原告らは,開発利益を従前資産の評価に算入しない場合,同じ地権者で
あっても,地区外へ転出する者がある場合に,開発利益は権利変換を受ける
者だけに配分され,転出者との間に不公平が発生し得る旨主張し,甲8の文
献(都市再開発事業コンサルタント・コーディネーターの執筆に係るもの)
には,この主張に沿う趣旨の記述として,権利変換を受ける者は権利床価格
(法104条1項の従後資産の価額)と時価との差額相当の開発利益の配分
を受けるが,転出者はその配分を受けられず,不公平が発生する旨の記載が
ある。
しかしながら,権利変換計画によって与えられた従後資産の価額と従前資
産の価額とに差額があるときは,清算をすることが義務付けられており(同
法104条1項,法的には,権利変換を受ける者が,権利変換計画に定め)
られた従前資産の価額以上の利益を得ることはできないものとされており,
,,同法の構造上権利変換を受ける者と権利変換を受けない者との間において
法的に不公平な得失が発生する余地はない。仮に,事実上,権利床価格(同
法104条1項の従後資産の価額)と時価との間に差額が生ずるとすれば,
それは従後資産の価額の定め方の問題であり,そのことが従前資産に係る同
,,法80条1項の価額の法的解釈を左右するものとはいえずいずれにしても
原告らの上記主張は理由がない。
(4)原告らは,都市再開発法73条1項3号の従前資産の価額は,同法80
条1項所定の相当の価額とすると定められているのであるから,同法80条
1項で排除されている算定方法で同法73条1項3号の従前資産の価額を権
利変換計画において定めることは許されないことになり,被告が同法73条
1項3号では開発利益の加算が許されるとするのは矛盾している旨主張す
る。
しかしながら,上記1(2)で検討したとおり,本件権利変換計画で定めら
れた同法73条1項3号の宅地(本件各土地)の価額は,開発利益を加算し
,,た点において同法80条1項所定の相当の価額を超過するものといえるが
都市再開発法の補償金及びその算定基準に関する規定は従前資産に係る財産
権の保障を目的とするものであり,当該取扱いの企図と推認される市街地再
開発事業の円滑な遂行も同法の目的に適合するものであることにかんがみる
と,その超過によって,本件権利変換計画のうち同法73条1項3号の宅地
(本件各土地)の価額を定めた部分が直ちに違法となるものではないと解す
るのが相当であり,原告らの上記主張は理由がない。
(5)原告らは,都市再開発法110条の全員同意型の市街地再開発事業にお
,,,いては同法80条の適用がないので開発利益の配分が認められているが
それ以外の場合であっても権利者が集まって事業を遂行する立場は同様であ
るのに,同法80条の適用によって開発利益の配分が認められないならば,
その不均衡は明らかである旨主張する。
しかしながら,都市再開発法上,同法80条の適用が除外されるのは,権
利変換期日に生ずべき権利の変動その他権利変換の内容につき,地権者及び
参加組合員又は特定事業参加者の全員の同意を得た場合に限られており,こ
れらの全員の同意が得られないにもかかわらず同法80条の適用を除外する
ことは,同法の明文に反し許されない。そもそも,同法80条の適用が除外
されるのは,権利変換の内容について地権者等の全員の同意がある以上,権
利変換計画に定めた従前資産の価額の多寡にかかわらず,地権者の保護に欠
ける結果となるおそれがないことによるものであり,権利変換の内容につい
て地権者等の全員の同意が得られないにもかかわらず同法80条の適用を除
外すると,従前資産の価額が同法80条1項所定の相当の価額を下回った場
合には,地権者の保護に欠ける結果となり,同法の趣旨に反する結果を招来
することは避けられない。したがって,原告らの上記主張は理由がない。
(6)原告らは,原告ら以外の組合員については,開発利益の全額が配分され
ているのに,原告らについては,土地価格と都市再開発法80条1項所定の
相当の価額との間の差額(不足額)に開発利益が充当される結果,他の組合
員と異なり,開発利益の一部しか配分されない結果となり,組合員間の実質
的な公平に反している旨主張する。
しかしながら,前記1で検討したとおり,本訴における審判の対象は,本
件裁決の適法性,すなわち,本件裁決に係る同法73条1項3号の従前資産
(宅地)の価額が同法80条1項所定の相当の価額を下回るか否かであり,
本件裁決に係る同法73条1項3号の従前資産(宅地)の価額が同法80条
1項所定の相当の価額を下回るものではないと判断される以上,本件裁決は
適法であり,その変更を求める理由はないことになるから,仮に原告らと他
の組合員との間で同法80条1項所定の相当の価額を超過する部分の配分が
異なるとしても,そのことによって,本訴における本件裁決の適否及びその
変更の要否の判断に影響が及ぶものではなく,原告らの上記主張は理由がな
い。
(7)以上によれば,都市再開発法85条1項の規定による裁決において,同
法73条1項3号の従前資産(宅地)の価額を算定するに当たり,市街地再
開発事業による開発利益を加算すべき旨の原告らの主張は,いずれも理由が
なく,原告らのその余の主張も,前記1の判断を左右するものとは認められ
ない。
第4結論
よって,原告らの請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟
費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文
を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官岩井伸晃
裁判官本間健裕
裁判官倉澤守春

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従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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