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令和3年2月17日判決言渡
令和2年(行ケ)第10011号審決取消請求事件
口頭弁論終結日令和2年12月8日
判決
原告ベー・ブラウン・メルズンゲン・
アクチエンゲゼルシャフト
訴訟代理人弁理士山田卓二
前堀義之
訴訟復代理人弁護士清水正憲
被告特許庁長官
指定代理人栗山卓也
高木彰
千壽哲郎
関口哲生
小出浩子
主文
1特許庁が不服2018-6969号事件について令和元年9月26日
にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
⑴原告は,発明の名称を「カテーテル組立体」とする発明について,平成2
6年8月18日(優先日平成25年8月21日,同月29日及び同年10月
31日(以下「本願優先日」という。),優先権主張国英国及び中国)を国際
出願日とする特許出願(特願2015−563128号。甲26)の一部を分
割して,平成27年12月11日,新たに特許出願(特願2015−2420
55号。以下「本願」という。)をした。
原告は,平成28年7月14日付けの拒絶理由通知(甲9)を受けたため,
平成29年1月13日付けで特許請求の範囲について手続補正(甲11)を
し,更に同年4月13日付けの拒絶理由通知を受けたため,同年10月18
日付けで特許請求の範囲,明細書及び図面について手続補正(甲14)をし
たが,平成30年1月17日,拒絶査定(甲15)を受けた。
⑵原告は,平成30年5月22日,拒絶査定不服審判(不服2018−696
9号)を請求するとともに,特許請求の範囲及び図面について手続補正(以
下「本件補正」という。甲17)をした。
その後,特許庁は,令和元年9月26日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年10月
8日,原告に送達された。
⑶原告は,令和2年2月4日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し
た。
2特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし34からなり,その請求項
1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」と
いう。甲17)。
【請求項1】
遠位端及び近位端を有するとともに内室を有するカテーテルハブであっ
て,該カテーテルハブの近位端は,前記内室に流体を注入し又は前記内室か
ら流体を引き抜くための装置に接続可能であるカテーテルハブと,
近位端及び遠位端を有する中空管状のカテーテルであって,該カテーテル
の近位端は前記カテーテルハブの遠位端に接続され,かつ該カテーテルの中
空部は前記カテーテルハブの前記内室に開口しているカテーテルと,
先鋭な針先端部と針軸を有する針であって,準備完了状態にあるときには
前記カテーテルハブの前記内室と前記カテーテルとを通って伸び,前記針先
端部は前記カテーテルの遠位端より遠位側に位置する針と,
遠位端及び近位端を有する中空の延長チューブであって,該延長チューブ
の遠位端は前記カテーテルハブの近位端と遠位端との間で前記カテーテルハ
ブに接続され,該延長チューブの遠位端は前記カテーテルハブの前記内室に
開口し,該延長チューブの近位端は前記カテーテルハブの前記内室に流体を
注入するための装置に接続可能である延長チューブと,
前記カテーテルハブの前記内室内に配置されたバルブ組立体とを備えて
いるカテーテル組立体であって,
前記バルブ組立体は,
前記延長チューブの遠位端を閉じる一方,前記延長チューブ内の加圧
された流体の作用により開口可能な第1弁部材と,
流体が,前記内室を介して,前記カテーテルハブの近位端へ流入し又
は前記カテーテルハブの近位端から流出するのを阻止する第2弁部材とを備
えていて,
前記第2弁部材は,二方弁であり,流体が,前記カテーテルハブの前
記内室を通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるよ
うに開口可能であり,
該カテーテル組立体は,
第1アームと第2アームと近位壁とを有する針保護組立体をさらに備え
ていて,前記第1アーム及び前記第2アームは,前記針の両側部で遠位方向
に伸びており,
前記針保護組立体は,準備完了状態においては,前記カテーテルハブと取
り外し可能に係合し,
前記針の保護状態への移行により,前記針保護組立体は前記カテーテルハ
ブとの係合が解除される,ことを特徴とするカテーテル組立体。
3本件審決の理由の要旨
⑴本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は,本願発明は,本願優先日前に頒布された刊行物である引用文
献1(甲1)に記載された発明と引用文献3(甲3)に記載された事項及び
引用文献4ないし7(甲4ないし7)に記載された周知の事項に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規
定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明につ
いて検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものであるというものである。
引用文献1,3ないし7は,次のとおりである。
引用文献1特表2009−513267号公報
引用文献3米国特許出願公開第2013/0090609号明細書
引用文献4特開2007-136246号公報
引用文献5特開2003-180833号公報
引用文献6米国特許出願公開第2013/0030370号明細書
引用文献7国際公開第99/08742号
⑵本件審決が認定した引用文献1に記載された発明(以下「引用発明」とい
う。),本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明
カテーテルを使用して,流体の患者への注入や患者の循環系からの除去
を可能にする一体型カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリであ
って,流体除去または投入のためにカテーテルに装置を取り付けることが
できるものであり,
隔壁を組み込んだ一体型カテーテル及びイントロデューサ針アセンブ
リは,カテーテル・アダプタに取り付けられたカテーテルを含むカテーテ
ル・アセンブリと,軸を備えたイントロデューサ針を有する針アセンブリ
とを備え,
カテーテル・アダプタは,遠位端及び近位端を有するとともに中空部を
有し,該中空部に隔壁が配置され,近位端及び遠位端を有するカテーテル
が,その近位端でカテーテル・アダプタの遠位端に接続され,カテーテル
の中空部はカテーテル・アダプタの中空部に開口しており,
隔壁は,カテーテルの近接端に設けられ,近接部,遠位部,及びキャビテ
ィ部を備え,その遠位部は,針が引き出された場合に密閉されて流体がそ
の中空部を介してカテーテル・アダプタの近接端へ流入し又はカテーテ
ル・アダプタの近接端から流出するのを阻止するとともに,該流入及び流
出を可能とするように開口可能なスリットを有しており,
針が,カテーテル・アダプタの中空部とカテーテルとを通って伸び,針
先端部はカテーテルの遠位端より遠位側に位置しており,針の遠位端は,
患者の皮膚を穿刺する鋭い先端を有しており,
延長チューブが遠位端及び近位端を有し,その遠位端はカテーテル・ア
ダプタの近位端と遠位端との間でカテーテル・アダプタに接続されている,
一体型カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリ。
イ本願発明と引用発明の一致点及び相違点
(一致点)
「遠位端及び近位端を有するとともに内室を有するカテーテルハブであ
って,該カテーテルハブの近位端は,前記内室に流体を注入し又は前記
内室から流体を引き抜くための装置に接続可能であるカテーテルハブと,
近位端及び遠位端を有する中空管状のカテーテルであって,該カテー
テルの近位端は前記カテーテルハブの遠位端に接続され,かつ該カテー
テルの中空部は前記カテーテルハブの前記内室に開口しているカテーテ
ルと,
先鋭な針先端部と針軸を有する針であって,準備完了状態にあるとき
には前記カテーテルハブの前記内室と前記カテーテルとを通って伸び,
前記針先端部は前記カテーテルの遠位端より遠位側に位置する針と,
遠位端及び近位端を有する中空の延長チューブであって,該延長チュ
ーブの遠位端は前記カテーテルハブの近位端と遠位端との間で前記カテ
ーテルハブに接続され,該延長チューブの遠位端は前記カテーテルハブ
の前記内室に開口し,該延長チューブの近位端は前記カテーテルハブの
前記内室に流体を注入するための装置に接続可能である延長チューブと,
前記カテーテルハブの前記内室内に配置されたバルブ組立体とを備え
ているカテーテル組立体であって,
前記バルブ組立体は,
流体が,前記内室を介して,前記カテーテルハブの近位端へ流入
し又は前記カテーテルハブの近位端から流出するのを阻止する第2弁部
材を備えていて,
前記第2弁部材は,二方弁であり,流体が,前記カテーテルハブ
の前記内室を通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能
となるように開口可能である,
カテーテル組立体。」である点。
(相違点1)
「バルブ組立体」について,本願発明は,「延長チューブの遠位端を閉
じる一方,前記延長チューブ内の加圧された流体の作用により開口可能な
第1弁部材」を有するのに対して,引用発明は,そのような構成を有しな
い点。
(相違点2)
本願発明は,「第1アームと第2アームと近位壁とを有する針保護組
立体をさらに備えていて,前記第1アーム及び前記第2アームは,前記
針の両側部で遠位方向に伸びており,前記針保護組立体は,準備完了状
態においては,前記カテーテルハブと取り外し可能に係合し,前記針の
保護状態への移行により,前記針保護組立体は前記カテーテルハブとの
係合が解除される」ものであるのに対して,引用発明は,そのような構
成を有しない点。
4取消事由
本願発明の進歩性の判断の誤り
第3当事者の主張
1原告の主張
⑴一致点の認定の誤り及び相違点の看過
本件審決は,引用発明の「隔壁」がその遠位部に「該流入及び流出を可能
とするように開口可能なスリット」を備えていることは,本願発明の「前記
第2弁部材は,二方弁であり,流体が,前記カテーテルハブの前記内室を通
って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように開口
可能であ」るとの構成(以下「本件構成」という場合がある。)に相当すると
して,本件構成は,本願発明と引用発明の一致点である旨認定した。
しかしながら,以下のとおり,引用文献1には,「隔壁」の遠位部が「該流
入及び流出を可能とするように開口可能なスリット」を有することについて
の記載はなく,引用文献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセン
ブリは,本件構成を有しない点で本願発明と相違するから,本件審決は,上
記一致点の認定を誤り,相違点を看過したものである。
ア本件審決は,引用文献1記載の【0012】,【0023】,【0044】
及び図26を根拠として挙げて,「隔壁の遠位部」は,針が引き出された場
合に密閉されて流体がその中空部を介してカテーテル・アダプタの近位端
へ流入し又はカテーテル・アダプタの近位端から流出するのを阻止すると
ともに,「該流入及び流出を可能とするように開口可能なスリット」を有
していると認定した上で,引用発明は,「隔壁」の「遠位部」は,「該流入
及び流出を可能とするように開口可能なスリットを有して」いる旨認定し
た。
しかしながら,【0012】,【0023】及び【0044】には,スリッ
トが「流入及び流出を可能とするように開口可能」であるとの記載や示唆
はない。また,図26に示された隔壁410の遠位部460及びそこに形
成されたスリット462は,軸方向に相当長いため,スリットが「スリッ
トを通じた流体の流入及び流出を可能とするように開口可能」であるとは
考えられない。
かえって,引用文献1の記載(【0010】,【0012】,【0023】,
【0025】,【0026】,【0034】,【0035】,【0041】,【00
44】)によれば,引用文献1記載の隔壁は,保管及び使用中に針の周りに
シールを提供し,針が引き出された場合に密閉されるように隔壁アセンブ
リ内に設けられているから,隔壁を通じた流体の流入又は流出を可能にす
るものでなく,また,隔壁の遠位部にはスリットが設けられているが,こ
のスリットは針の挿入を簡単にするだけのものであって,スリットを通じ
た流体の流入及び流出を可能とするように開口可能なものでないと理解
できる。
したがって,本件審決認定の引用発明のうち,「隔壁」の「遠位部」は,
「該流入及び流出を可能とするように開口可能なスリットを有して」いる
との部分は誤りである。
そうすると,引用発明の「隔壁」の遠位部は,本願発明の「前記第2弁
部材は,二方弁であり,流体が,前記カテーテルハブの前記内室を通って
近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように開口可
能であ」るとの構成(本件構成)に相当するものといえず,引用文献1記
載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリは,本件構成を有しな
い点で本願発明と相違するから,この点において,本件審決には,一致点
の認定の誤り及び相違点の看過がある。
イこれに対し被告は,引用文献1には,カテーテル及びイントロデューサ
針アセンブリについて,従来より,患者に流体を注入することができると
ともに,患者の循環系からの流体の除去を可能にするものであることが述
べられていること(【0002】),患者への流体の注入及び患者の循環系
からの流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された,「二方弁」と
して機能する「スリットを備えた隔壁」を介してなされることが技術常識
であること(例えば,甲3,乙6)からすれば,当業者は,引用文献1記
載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,
流体がその中空部を介してカテーテル・アダプタの近接端へ流入し又はカ
テーテル・アダプタの近接端から流出するのを阻止するとともに,「該流
入及び流出を可能とするように開口可能なスリットを有して」いると当然
に把握するから,引用発明の認定に誤りはなく,一致点の認定にも誤りは
ない旨主張する。
しかしながら,引用文献1の【0002】の記載は,患者への流体の注
入や患者の循環系からの除去が,延長カテーテルを通じて行われることを
「背景技術」として指摘したものにすぎない。また,引用文献1記載の複
数の実施形態(図1ないし27)並びに【0006】及び【0007】の
記載から,引用文献1に記載された実施形態に係るイントロデューサ針ア
センブリにおいて,カテーテルハブの近位端を通じて流体の注入や除去を
行うことが予定されていないことは明らかである。
したがって,被告の上記主張は失当である。
⑵相違点1の容易想到性の判断の誤り
本件審決は,相違点1に関し,引用発明の「延長チューブ」も,その近位
端において,カテーテル・アダプタの中空部に流体を注入するための装置を
接続することが予定されていることから,延長チューブの遠位端を閉じる一
方で,延長チューブ内に加圧された流体が作用した場合に開口する弁部材を
設けることは,引用発明に内在する課題であるといえるから,引用発明に引
用文献3の記載事項を適用し,引用発明の延長チューブにおいても,延長チ
ューブの遠位端を閉じる一方,前記延長チューブ内の加圧された流体の作用
により開口可能な第1弁部材を設けるようにして,引用発明において相違点
1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである
旨判断した。
しかしながら,引用文献1の記載(図13ないし15,17,18,21,
22,26,27)によれば,引用発明の延長チューブは,延長チューブを
通じて流体を引き抜くためにも利用されるものであるところ,延長チューブ
の遠位端を閉じると,流体を引き抜くことができなくなるから,引用発明に
おいて,引用文献3記載の技術事項を適用し,延長チューブの遠位端を閉じ
る一方,延長チューブ内の加圧された流体の作用により開口可能な第1弁部
材を設けることについての動機付けはなく,かえって阻害要因がある。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
⑶相違点2の容易想到性の判断の誤り
本件審決は,相違点2に関し,カテーテル留置の技術分野において,カテ
ーテル組立体に「針の両側部で遠位方向に伸びる第1アームと第2アームと,
近位壁とを有し,準備完了状態においてカテーテルハブと取り外し可能に係
合し,針の保護状態への移行によりカテーテルハブとの係合が解除される針
保護組立体」を設けることは,本願優先日前の周知の事項であり(例えば,
引用文献4,6,7),患者から抜き取った針の針先を保護し,医療従事者の
針刺し事故を防止することは,本願優先日における技術常識であることから
すると,引用発明に上記周知の針保護組立体を備えることについての動機付
けがあるから,当業者は,引用発明において相違点2に係る本願発明の構成
とすることを容易になし得た旨判断した。
しかしながら,引用文献1記載の針保護組立体は,針刺事故を防止するた
めに十分な構成と機能を備えているのに対し(図26,27等),本件審決が
挙げる周知例記載の針保護組立体は,引用文献1記載の針保護組立体とは全
く異なる構造であることに照らすと,引用文献1記載の針保護組立体を上記
周知例記載の針保護組立体の構成に置換するには,引用文献1記載のアセン
ブリ及びカテーテル・アダプタを全体的に改変する必要があるから,当業者
において,上記置換の動機付けはなく,かえって阻害要因がある。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
(4)小括
以上によれば,本件審決は,本願発明と引用文献1に記載された発明との
一致点の認定を誤り,相違点を看過し,相違点1及び2の容易想到性の判断
を誤った結果,本願発明の進歩性を否定する誤った判断をしたものであるか
ら,違法として取り消されるべきである。
2被告の主張
⑴一致点の認定の誤り及び相違点の看過の主張に対し
ア引用文献1には,カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリに関し,
カテーテルハブ,カテーテル,針及びカテーテルハブからの流体の漏れを
防ぐスリットを備えた隔壁に相当する構成を備えるとともに,カテーテル
ハブの側部にはポートが設けられ,延長チューブが接続されているという
基本構成が記載されている(【0012】,【0022】,【0023】,【00
44】,図1等参照)。
そして,引用文献1には,カテーテル及びイントロデューサ針アセンブ
リについて,従来から,流体を患者に注入することができるとともに,患
者の循環系からの流体の除去を可能にするものであることが記載されて
いる(【0002】)。
イ(ア)本願優先日前に頒布された刊行物である乙6(国際公開第2008
/052791号)及び引用文献3には,次のような記載がある。
a乙6
乙6には,バルブ組立体の具体的構造として,側部のポートに沿っ
て配置され,ポートを閉じる弁であって,ポート内の加圧された流体
の作用により開口可能となる第1バルブ要素(チューブ要素5),血液
がカテーテルハブの孔部を介して近位方向に漏出するのを阻止し,遠
位方向又は近位方向のいずれかに流体が流れることを可能にする二方
向バルブとして形成されるスロット6aを備えたバルブディスク6が
示されている(原文4枚目7行~5枚目3行(訳文5枚目),原文5枚
目17行~20行(訳文6枚目),図1,2等)。
b引用文献3
引用文献3(甲3・訳文乙5)には,スリットを有する隔壁と隔壁
作動体とを含み,当該バルブの使用中は,隔壁作動体が隔壁のスリッ
トを通って前進し,隔壁を通る流体経路を形成する血液制御バルブと,
カテーテルアセンブリ内の流体がサイドポートから漏れることを防止
できるポートバルブの記載がある(【0002】,【0003】),
そして,「カテーテルアダプタは,隔壁作動体と隔壁とを含む血液制
御バルブを収容する。隔壁は,管腔の一部を封止する。1つ以上のス
リットが隔壁を貫通して延在することで,隔壁を通る選択的なアクセ
スを提供できる。よって,ポートバルブは,ポートを介してカテーテ
ルアダプタの内部管腔に対する一方向の選択的なアクセスを提供し得
る。」(【0005】))との記載もあることからすると,引用文献3には,
ポートバルブは,ポートとカテーテルアダプタの内部管腔を連絡する
流体経路において,ポートからカテーテルアダプタの内部管腔の方向
への一方向の流体の流れのみを可能とするものであり,血液制御バル
ブは,隔壁を通る流体経路が形成された際は,血液制御バルブを介し
て遠位方向又は近位方向のいずれにも流体を流すことを可能にする,
いわゆる二方弁として機能するものであることが示されている。
(イ)前記(ア)の記載によれば,①カテーテル及びイントロデューサ針ア
センブリにおいて,患者への流体の注入及び患者の循環系からの流体の
除去は,カテーテルハブの中空部に配置された,二方弁として機能する
スリットを備えた隔壁を介してされること,②側部にポートが設けられ
たカテーテルハブの内部に備えられたバルブ組立体について,側部のポ
ートに沿って配置されたポートを閉じる弁であって,ポート内の加圧さ
れた流体の作用により開口可能となる第1弁部材と,血液がカテーテル
ハブの孔部を介して近位方向に漏出するのを阻止するとともに,遠位方
向又は近位方向のいずれかに流体が流れることを可能にする二方弁と
して形成される第2弁部材とを備えるようにすることは,本願優先日当
時,カテーテル組立体における技術常識であったものである。
ウ引用文献1に接した当業者は,①前記アのとおり,引用文献1には,カ
テーテル及びイントロデューサ針アセンブリについて,従来から,流体を
患者に注入することができるとともに,患者の循環系からの流体の除去を
可能にするものであることが記載されていること,②前記イ(イ)のとおり,
カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリにおいて,流体の患者への
注入及び患者の循環系からの流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配
置された,「二方弁」として機能する「スリットを備えた隔壁」を介してさ
れることが,本願優先日当時の技術常識であったことに照らすと,引用文
献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリにおいては,カ
テーテルハブからの流体の漏れを防ぐ「スリットを備えた隔壁」を介して,
流体を患者に注入することができるとともに,患者の循環系からの流体の
除去を可能にしていると,当然に把握するものといえる。
そうすると,引用文献1には,引用発明の「隔壁」の遠位部は,「該流入
及び流出を可能とするように開口可能なスリット」を有することの開示が
あるといえるから,本件審決における引用発明の認定に原告主張の誤りは
ない。
そして,引用発明の「隔壁」の遠位部が「該流入及び流出を可能とする
ように開口可能なスリットを有」することは,本願発明の「前記第2弁部
材は,二方弁であり,流体が,前記カテーテルハブの前記内室を通って近
位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように開口可能
であ」るとの構成(本件構成)に相当するものであるから,本願発明と引
用発明は,本件構成を有する点において一致するものといえる。
したがって,本件審決における一致点の認定の誤り及び相違点の看過を
いう原告の主張は理由がない。
⑵相違点1の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
引用文献1記載の延長チューブは,延長チューブを通じてカテーテル・ア
ダプタの隔壁遠位側中空部分に流体を注入するだけでなく,カテーテル・ア
ダプタの隔壁遠位側中空部分から延長チューブを通じて流体を引き抜くた
めにも利用されるものであり,延長チューブの遠位端はカテーテル・アダプ
タの隔壁遠位側中空部分に開口している。
そして,カテーテル・アダプタから延長チューブに不意に流体が流出しな
いようにし,あるいは,延長チューブからカテーテル・アダプタに不意に流
体が流入しないようにすることは,当業者であれば当然に配慮すべき設計的
事項であるところ,このような手段を講じるに当たり,引用発明と同様の構
成を併せ持つ引用文献3に記載された手段であって,技術常識ともいうべき
形式の技術事項を適用することは,当業者であれば容易に想到し得ることで
ある。
したがって,本件審決における相違点1の容易想到性の判断の誤りをいう
原告の主張は理由がない。
⑶相違点2の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
患者から抜き取った針の針先を保護し,医療従事者の針刺し事故を防止す
べきことは,針を有する医療機器における周知の課題であるから,引用発明
に針保護組立体を備えようとする動機付けは存在する。
そして,針保護組立体として知られている種々の構造のものの中から,当
業者は適宜選択し得るものであり,また,引用発明においては,特定構造の
ものを必ず備えるようにしなければならない特段の事情は存在しないこと
(引用文献1の【0051】)に照らすと,当業者は,引用発明において,引
用文献4,6及び7記載の周知の針保護組立体の構成を適用し,相違点2に
係る本願発明の構成とすることを容易になし得たものといえる。
したがって,本件審決における相違点2の容易想到性の判断の誤りをいう
原告の主張は理由がない。
(4)小括
以上のとおり,本件審決には,原告主張の一致点の認定の誤り及び相違点
の看過はなく,相違点1及び2の容易想到性の判断にも誤りはないから,原
告主張の取消事由は理由がない。
第4当裁判所の判断
1本願明細書の記載事項について
⑴本件補正後の明細書(以下,図面を含めて,以下「本願明細書」という。
甲8,14,17)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図
1ないし3,7a,7b及び7cについては別紙1を参照)。
ア【技術分野】
【0001】
本発明はカテーテル組立体に関するものであり,とくに静脈内カテーテ
ル組立体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静脈内(IV)カテーテルは,患者の静脈(vein)にアクセスする(access)
ために用いられ,とくに患者に対して流体を供給し,又は患者から流体,
とくに血液を除去するのに用いられる。IVカテーテルは,患者に穴をあ
ける(puncturing)前に装置から空気を除去するために,滅菌溶液(sterile
solution)を受け入れる(primedwith)ことができる。これは,患者が空
気塞栓症(airembolism)になる危険性を減少させる。
【0003】
IVカテーテル組立体は,カテーテルハブの遠位端から伸びるカテーテ
ルを備えている。カテーテルハブ及びカテーテルを通って針が伸び,先鋭
な針先端部は,カテーテルの遠位端より遠位側に位置している。患者の静
脈にカテーテルを挿入する典型的な手順においては,医療従事者が先鋭な
針先端部及びカテーテルを患者に挿入し,これらを静脈内に配置すること
が必要である。針先端部が静脈内に配置された後,医療従事者は,手動操
作で,カテーテルを針軸に沿って遠位方向に滑らかに移動させる(slide)
ことにより,カテーテルを静脈内に進入させる。カテーテルが静脈内に適
正に配置された後,針は引き抜かれる。そして,カテーテルハブをテープ
で留めることにより,カテーテルは患者の皮膚に固定される。この後,静
脈に対して,カテーテルハブ及びカテーテルを介しての流体の注入又は除
去などといったアクセスがなされる。
【0004】
カテーテル及びカテーテルハブを介しての流体の流れを制御(調節)す
るために,とくにカテーテルを介して静脈から血液が流出するのを阻止す
るために,カテーテルハブ内にバルブを設けるといった技術が知られてい
る。
【0005】
特許文献1には,液体を,患者に注入し又は患者から排出するための装
置が開示されている。その1つの実施形態では,装置は,カテーテルを有
するカテーテルハブを有し,カテーテルはカテーテルハブから伸びている。
カテーテルハブの内部には,カテーテルを介しての流体の流れを制御する
ために,可撓性を有するバルブが設けられている。カテーテルハブの近位
端を介して流体が注入され又排出されるときにバルブを開くために開弁
具が設けられている。特許文献1は,カテーテルハブに,横方向に伸びる
ポートを設けるといった技術を開示している。可撓性を有する円柱形又は
円筒形のシールが,カテーテルの内側のまわりでポートに沿って円周方向
に伸びている。
【0006】
特許文献2は,一体化されて単一体となっている結合バルブ(バルブ組
立体)を有するとともに,側部ポートを備えているカテーテルアダプタに
関連する文献である。この結合バルブは,カテーテルアダプタの孔部と側
部ポートとを閉じるといった態様で,カテーテルアダプタのハブ内に配置
されている。また,結合バルブは,ハブの内側のまわりでポートに沿って
円周方向に伸びる全体的形状が円柱である本体部を備えている。さらに,
結合バルブは,ハブの近位端からカテーテル内への流体の流入を可能にす
る円錐形のバルブ部材を備えている。特許文献2に開示された装置は,患
者から流体を除去することができず,ポート又はアダプタハブの近位端を
通して患者に流体を注入することができるだけである。
【0007】
特許文献3には,医療用のコネクタが図示・開示されている。このコネ
クタは,主通路を備えた本体部とポートとを有し,主通路はコネクタを貫
通している。本体部内にはポートに沿って,全体的形状が円柱形であるバ
ルブが配置されている。このバルブからポート内にタブ(tab)が伸びてい
る。バルブは通常は開かれ,主通路に沿う流体の流れを可能にする。ポー
ト内でタブを押し下げると,主通路と交差しているバルブが閉じられ,主
通路に沿う流体の流れが阻止され,流体を,ポートを介してコネクタに注
入し,又はコネクタから引き抜くことが可能となる。
【0008】
より関連性の高い特許文献4には,注入ポート及びバルブを備えたカテ
ーテル装置が開示されている。この装置は,中空のカテーテル延長部
(hollowcatheterextension)を有し,その遠位端はカテーテルに接続す
ることができる。接続装置は,延長部の近位端に設けられている。ポート
は延長部から径方向に伸び,延長部の孔部内に開口している。バルブ組立
体は,延長部内でポートに沿って配置され,全体的形状が円柱形でありポ
ートを閉じる第1弁部材を備えている。第2弁部材は,血液が,延長部か
ら孔部を介して近位方向に漏出するのを阻止する。第2弁部材は,二方弁
として形成され,遠位方向又は近位方向のいずれかに流体が流れることを
可能にする。
【0009】
最近では,特許文献5が,カテーテル組立体及びその部品を開示してい
る。このカテーテル組立体は,カテーテルハブ内に配置されたバルブと開
弁具とを備えている。開弁具は,IVセットルアーコネクタ(IVsetluer
connector)により押圧されてバルブを開き,流体がカテーテルを流通する
ことを可能にする。開弁具内には,針がカテーテルハブを通してカテーテ
ルから引き抜かれる際に,針先端部を覆うように動作する針先端部保護具
を設けることができる。
イ【発明が解決しようとする課題】
【0018】
かくして,カテーテルを介しての患者への流体の注入及び患者からの流
体の引き抜きの高度な制御(調節)を行うことができる改良されたカテー
テル組立体が求められている。
ウ【課題を解決するための手段】
【0019】
(1)本発明は,下記の構成要素を備えたカテーテル組立体を提供する。
・遠位端及び近位端を有するとともに内室を有するカテーテルハブ。
このカテーテルハブの近位端は,カテーテルハブ内の内室に流体を注入し
又は内室から流体を引き抜くための装置に接続可能である。
・近位端及び遠位端を有する中空管状のカテーテル。このカテーテル
の近位端はカテーテルハブの遠位端に接続され,カテーテルの中空部はカ
テーテルハブの内室に開口している。
・先鋭な針先端部を有する針。準備完了状態(readyposition)にあ
るときにはカテーテルハブの内室とカテーテルとを通って伸び,針先端部
はカテーテルの遠位端よりも遠位側に位置している。
・遠位端及び近位端を有する中空の延長チューブ。この延長チューブ
の遠位端はカテーテルハブの近位端と遠位端との間でカテーテルハブに
接続され,延長チューブの遠位端はカテーテルハブの内室に開口し,延長
チューブの近位端はカテーテルハブの内室に流体を注入するための装置
に接続可能である。
・カテーテルハブの内室に配置されたバルブ組立体。
(2)ここで,バルブ組立体は,下記の構成要素を備えている。
・延長チューブの遠位端を閉じる一方,延長チューブ内の加圧された
流体の作用により開口可能な第1弁部材(firstvalvemember)。
・流体が,内室を介してカテーテルハブの近位端へ流入し又はカテー
テルハブの近位端から流出するのを阻止する第2弁部材(secondvalve
member)。この第2弁部材は,二方弁であり,流体が,カテーテルハブの内
室を通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるよ
うに開口可能である。
【0020】
本発明に係る装置は,カテーテルハブを備えている。カテーテルハブは
中空であり,その内部に内室(internalchamber)を有している。内室は,
カテーテルハブの近位端及び遠位端の両方に開口している。カテーテルハ
ブは,単一の物(singlepiece)として形成されていてもよい。あるいは,
カテーテルハブは,互いに接続された2つ又はこれより多い個別の物
(separatepieces)として形成されていてもよい。
【0021】
カテーテルハブは,その近位端で,注射器(syringe)などといった,患
者に流体を注入し又は患者から流体を除去するための装置に接続するこ
とができるように形成されている。このような装置は,当該技術分野では
よく知られており,当業者にはなじみ深いものである。とくに,内室を画
成するカテーテルハブの近位端の内壁には,メス形ルアーテーパである内
側ルアーテーパ(internalLuertaper)が設けられ,カテーテルハブの近
位端に接続される標準オス形ルアーテーパを有する標準取付具(standard
fitting)の使用が可能となる。当業者には,標準ルアーテーパ(Luertaper
standard)及びこれに必要なもの(requirements)はなじみ深いものであ
ろう。
【0023】
カテーテルハブに中空管状のカテーテルが接続され,このカテーテルは
カテーテルハブの遠位端から遠位側に伸びている。
【0024】
カテーテル組立体は,さらに先鋭な針先端部(sharpenedneedletip)
を有する針と,該針を貫通する孔部(bore)とを備えている。準備完了状
態においては,針は,その近位端で,当該技術分野ではよく知られている
ように針ハブ(needlehub)に接続され,準備完了状態においてはカテー
テルハブ及びカテーテルを通って伸びている。準備完了状態においては,
先鋭な針先端部はカテーテルの遠位端より遠位側に位置し,針及びカテー
テルを既知の手法で患者の静脈内に挿入することが可能である。針ハブは,
針軸内の孔部と連通する内室(chamber)を有しているのが好ましく,この
場合,ユーザによって既知の手法で針ハブの内室内での血液のフラッシュ
バック(flashback)が観察されれば,針が静脈内に適切に配置されている
ことになる。典型的には,針ハブの内室は,その近位端で,該内室から空
気を排出することは可能であるが,血液は通さない通気性の栓(vented
plug)によって塞がれている。
【0028】
本発明に係るカテーテル組立体は,さらに遠位端及び近位端を有する中
空の延長チューブ(extensiontube)を備えている。延長チューブは可撓
性を有する。延長チューブの遠位端は,カテーテルハブの近位端と遠位端
の間でカテーテルハブに接続されている。延長チューブの遠位端は,カテ
ーテルハブの遠位部に接続されているのが好ましい。延長チューブの遠位
端は,カテーテルハブの内室に開口し,流体が,延長チューブと内室との
間を流れることを可能にする。延長チューブの近位端は,注射器などとい
った,カテーテルハブの内室に流体を注入するための装置に接続可能であ
る。例えば,延長チューブの近位端に,接続ハブ,好ましくはメス形ルア
ーテーパを有するハブが設けられていてもよい。
【0029】
使用時においては,延長チューブにより,カテーテルハブ及びカテーテ
ルに流体を導入することができる。流体を導入する装置を延長チューブの
近位端に接続することにより,この装置を患者の静脈内に配置されたカテ
ーテル及びカテーテルハブから離間した位置に配置することができる。延
長チューブを可撓性のものとすることにより,延長チューブの近位端にお
ける流体供給装置の接続動作又は取り外し動作の結果として生じるカテー
テルハブ及びカテーテルの移動ないしは変位を低減又は防止することがで
きる。これにより,カテーテルを取り付けた領域における静脈の静脈炎の
発生を減少させることができる。
エ【0030】
カテーテル組立体は,カテーテルハブの内室内に配置されたバルブ組立
体を備えている。バルブ組立体が閉じられたときには,該バルブ組立体は,
延長チューブとカテーテルハブの内室との間を流体が流れるのを阻止する
ともに,流体が内室を介して近位方向又は遠位方向に流れるのを阻止する。
バルブ組立体は第1弁部材(firstvalvemember)を有し,この第1弁部
材が開かれると,延長チューブからカテーテルハブの内室への流体の流入
が可能となる。ここで,バルブ組立体は,延長チューブとカテーテルハブ
の内室の間に配置された一方弁(one-wayvalve)であってもよい。また,
バルブ組立体は第2弁部材(secondvalvemember)を有し,この第2弁部
材が開かれると,カテーテルハブの近位端からカテーテルに向かって遠位
方向に流体を供給することが可能となり,又はカテーテルからカテーテル
ハブの近位端に向かって近位方向に流体を引き抜くことが可能となる。こ
のように,バルブ組立体は,カテーテルハブを介してのカテーテルハブの
近位端への又は該近位端からの流体の流れを制御(調節)する二方弁(two-
wayvalve)として動作することができる。
【0031】
第1弁部材は,延長チューブとカテーテルハブの内室との間の流体の流
れを制御(調節)する。1つの好ましい実施形態においては,第1弁部材
は,可撓性を有し弾性を備えた弁体(valvebody)を備えている。延長チ
ューブ内の高められた流体圧力の作用により,弁体は延長チューブの遠位
端を開口させ,流体がカテーテルハブに流入することを可能にする。弁体
は管状弁体であるのが好ましく,とくにカテーテルハブの内室内において,
カテーテルハブの壁の内表面に当接するように配置されているのが好ま
しい。1つの実施形態においては,弁体,及び,該弁体が配置されたカテ
ーテルハブの内室の一部分の横断面は円形であってもよく,また楕円形で
あってもよい。
【0033】
バルブ組立体は,第2弁部材を備えている。前記のとおり,第2弁部材
は,カテーテルハブの内室を介して,カテーテルハブに流入し又はカテー
テルハブから流出する流体の流れを制御(調節)する。第2弁部材は,カ
テーテルハブの内室内において,延長チューブの遠位開口部及び第1弁部
材よりも近位側の位置に配置されている。1つの実施形態によれば,第2
弁部材は,カテーテルハブの内室と交差して横方向に延びる(広がる)可
撓性を有し弾性を備えたバルブディスク(valvedisc)を備えている。こ
のバルブディスクには,スリット(slit)などといった1つ又は複数の閉
止可能な開口部,とくに径方向に伸びる1つ又は複数のスリットが設けら
れている。
【0035】
準備完了状態においては,針軸はバルブ組立体を通って伸びている。第
2弁部材は,準備完了状態においては針軸の周囲をシールするものである
のが好ましく,空気が該第2弁体を通って近位方向に流出することが可能
である一方,血液が該第2弁部材を通り抜けるのが阻止されるといった形
態に構成されているのがより好ましい。第2弁部材が1つ又は複数のスリ
ットを有するバルブディスクを備えている実施形態においては,このよう
な構成は,特定のスリット又は各スリットを,準備完了状態においては該
特定のスリット又は各スリットが針軸によって十分な量だけ開くように
保持され,気体の通り抜けは可能であるが血液の通り抜けは阻止されるな
どといった適切な形態にすることにより達成することができる。
【0036】
第2弁部材は,該第2弁部材と交差する方向の流体圧力差の作用により
開くように構成してもよい。とくに,第2弁部材は,該第2弁部材の近位
側に高い流体圧力を作用させることにより開かれ,流体をカテーテル内及
び患者の静脈内に注入することができるように構成してもよい。同様に,
第2弁部材は,該第2弁部材の近位側に低い流体圧力を作用させることに
より開かれ,流体をカテーテル内及び患者の静脈内から引き抜くことがで
きるように構成してもよい。
オ【発明を実施するための形態】
【0064】
図1及び図2は,包括的に参照番号2が付された,本発明の第1実施形
態に係る装置を示している。図1及び図2に示す装置2は,準備完了状態
ないしは準備完了位置(readyposition)にある。図3に示す装置2は,
針が近位方向に後退させられた後退状態ないしは後退位置(retracted
position)にある。
【0065】
装置2は,遠位端6と近位端8とを有するカテーテルハブ4(catheter
hub)を備えている。そして,細長い中空管状のカテーテル10が,既知の
仕様で,カテーテルハブ4に接続されるとともに,カテーテルハブ4の遠
位端6から伸びている。カテーテルハブ4は内室12(internalchamber)
を備えている。内室12は,カテーテルハブ4の近位端8で開かれるとと
もに,カテーテルハブ4の遠位端6で中空管状のカテーテル10と連通し
ている。以下,カテーテルハブ4の構造をより詳しく説明する。
【0066】
全体的形状が円柱形であるニードルハブ20(generallycylindrical
needlehub)は,遠位端22と近位端24とを有している。ニードルハブ
20は,内室26(internalchamber)を備えた形態に形成され,その開
かれた近位端24は,通気性フラッシュバックプラグ28(vented
flashbackplug)によって閉じられている。装置使用時には,ニードルハ
ブ20の内室26は,既知の態様で,ユーザが血液のフラッシュバック
(flashback)を観察するためのフラッシュバック室(flashbackchamber)
として機能する。
【0067】
針30の近位端32が,ニードルハブ20の遠位端22に接続されてい
る。針30は,貫通穴(bore)を有するとともに,その遠位端に先のとが
った針先端部36(sharpenedneedletip)を有する針軸34(needle
shaft)を備えている。図1及び図2に示す準備完了状態においては,針3
0は,先のとがった針先端部36がカテーテル10の遠位端より遠位側に
伸びるといった態様で,カテーテルハブ4の内室12を貫通するとともに
カテーテル10を貫通して伸びている。
【0068】
針30は,その遠位端部(distalendportion)に,先鋭な針先端部3
6から離間したスロット38(slot)を設けることができる。準備完了状
態においては,スロット38はカテーテル10の内部に位置する。装置使
用時には,針軸34内の貫通穴に流入した血液は,スロット38を経由し
て,針軸34とカテーテル10の内表面との間を通って流出する。これは,
針先端部36が患者の静脈(vein)内に適切に配置されていることをユー
ザに示すフラッシュバック指標(flashbackindication)となる。針軸3
4の貫通穴を流通する血液は,ニードルハブ20の内室26に流入し,前
記のように,ユーザに対する最初のフラッシュバック指標(primary
flashbackindication)となる。
【0069】
前記のとおり,装置2は,内室12を有するカテーテルハブ4を備えて
いる。カテーテルハブ4は,近位部40と遠位部42とを有している。内
室12は,カテーテルハブ4の近位端8で開かれる一方,カテーテルハブ
4の近位部40及び遠位部42の両方を通って伸び,中空管状のカテーテ
ル10と連通している。カテーテルハブ4の近位部40は,全体的形状が
円錐形であり,その内部にテーパ部44(taper),とくに標準形状のメス
形ルアーテーパ(femaleLuertaperofstandardform)が形成されてい
る。カテーテルハブ4の近位部40には,ルアーテーパの遠位側に配置さ
れ内室12内で伸びる突起部46(protrusion)が設けられている。図1
及び図2に示す実施形態では,突起部46は,円周方向に伸びるリング状
のもの(circumferentiallyextendingring)である。
【0070】
カテーテルハブ4の近位部40には開弁具50(valveopener)が配設
されている。開弁具50は,細長いステム52(elongatestem)と,この
ステム52ないしはシャフトの遠位端に配置された円錐形の頭部54
(conicalhead)とを有している。図1及び図2に示すように,開弁具5
0をその長手方向に貫通して伸びる貫通孔が設けられ,この貫通孔は,準
備完了状態にある針30の針軸24を受け入れるようになっている。開弁
具50は,カテーテルハブ4の内室12の内部に保持され,その近位方向
への移動は突起部46によって規制される(limited)ようになっている。
開弁具50は,カテーテルハブ4の近位端8に挿入された注射器(syringe)
などのオス形取付具(malefitting)の動作に伴って遠位方向に自在に移
動することができる。
【0073】
可撓性を有する延長チューブ62(extensiontube)がカテーテルハブ
4の遠位部42から伸びている。延長チューブ62の遠位端は,カテーテ
ルハブ4の内室12内に開口している。延長チューブ62の近位端には,
その近位側開口部を有する中空の接続ハブ64が設けられている。この接
続ハブ64には,注射器などの取付具(fitting)を既知の態様で受け入れ
るための,内部テーパ部(internaltaper),とくに標準メスルアーテーパ
が設けられている。図1に示すように,無菌状態を維持するために,接続
ハブ64の近位端に通気性プラグ66(ventedplug)が設けられている。
図3に示すように,接続ハブ64は,例えば注射器68により,延長チュ
ーブ62及び装置2(カテーテル組立体)に流体を導入するのに用いるこ
とができる。
カ【0074】
カテーテルハブ4の遠位部42の内部には,さらにバルブ組立体70
(valveassembly)が設けられている。バルブ組立体70はカテーテルハ
ブ4の内室12内に配置され,開弁具50より遠位側において内室12内
に配置された第1バルブ部72(firstvalveportion)と,第1バルブ部
72より遠位側に配置された第2バルブ部74(secondvalveportion)
とを備えている。
【0075】
第1バルブ部72の機能は,カテーテルハブ4内において内室12をシ
ールするとともに,該第1バルブ部72が閉じられたときに,近位方向又
は遠位方向に流体が流れるのを阻止することである。第1バルブ部72は,
カテーテルハブ4の内室12を横切って横方向に(laterally)伸びる可撓
性を備えたバルブディスク76(valvedisc)を備えている。バルブディ
スク76は,可撓性及び弾性を有する材料(flexible,resilientmaterial)
で形成されている。バルブディスク76の内部には,その径方向に伸びる
1つ又は複数のスリット(slit)が設けられている。かくして,図1及び
図2に示すように,準備完了状態においては,針30の針軸34はバルブ
ディスク76を貫通して伸びる。バルブ組立体70の詳細な実施例は図7
a~図7cに示されているが,その詳細は後で説明する。
【0077】
第1バルブ部72は二方弁(two-wayvalve)である。針30が後退させ
られてバルブディスク76が閉じられると,カテーテルハブ4内における
遠位方向又は近位方向への流体の流れが阻止される。開弁具50がない場
合,バルブディスク76は,該バルブディスク76の近位側において,例
えばカテーテルハブ4の近位端8と係合する注射器でカテーテルハブ4の
近位端8に真空(減圧)状態を生じさせることにより低下した流体圧力の
作用で開くことになる。かくして,流体を,カテーテルハブ4を通して,
カテーテル10からカテーテルハブ4の近位端8まで近位方向に引き抜く
(withdraw)ことができる。例えばカテーテルハブ4の近位端8と係合す
る注射器により,バルブディスク76の近位側に高い流体圧力を作用させ
ることにより,バルブディスク76が開き,流体がカテーテルハブ4を通
して遠位方向に流れることが可能となる。かくして,カテーテルハブ4及
びカテーテル10を通して患者に流体を注入する(infuse)ことができる。
【0078】
オス形テーパ(maletaper),とくに標準オス形ルアーテーパ(standard
maleLuertaper)を有する注射器などの取付具(fitting)をカテーテル
ハブ4の近位端8と係合させることにより,開弁具50を遠位方向に移動
させることができる。開弁具50の遠位方向への移動は,開弁具50の頭
部54をバルブディスク76に当接させ,バルブディスク76のスリット
を開く。このようにバルブディスク76を開くことにより,流体を,患者
から引き抜き又は患者に注入することができる。バルブディスク76は,
弾性材料で形成されている。カテーテルハブ4の近位端8と係合している
オス形取付具(malefitting)を除去すると,開弁具50はバルブディス
ク76によって,該バルブディスク76のスリットが閉じるまで,近位方
向に移動させられる。前記のとおり,開弁具50の近位方向へのさらなる
移動は,カテーテルハブ4の近位部40の突起部46によって阻止される。
【0079】
第2バルブ部74は,第1バルブ部72の遠位側でカテーテルハブ4の
内室12内に配置されている。第2バルブ部74の機能は,延長チューブ
62の遠位端の開口部をシールすることである。第2バルブ部74は,可
撓性及び弾性を有する材料からなるチューブ80(tube)の形態のもので
あり,カテーテルハブ4の内室12の周囲に沿って延びている。チューブ
80は,カテーテルハブ4の遠位部42の内表面に対応した形状を有し
(comfort),この内表面に対する流体密封シール(fluid-tightseal)を
生じさせる。カテーテルハブ4の遠位部42内の内室12の全体的形状は
円柱形であり,このためチューブ80の全体的形状も円柱形である。なお,
このようにせず,カテーテルハブ4の遠位部42内の内室12を,横断面
が楕円形となるように形成してもよい。このような構成とした場合は,チ
ューブ80も,横断面が楕円形となるように形成される。図7(a)~図
7(c)にはバルブ組立体の実施例が記載されているが,以下このような
バルブ組立体の詳細を説明する。
【0080】
前記のとおり,チューブ80は,カテーテルハブ4内の内室12への開
口部において延長チューブ62の遠位端をシールする。チューブ80とカ
テーテルハブ4との間の締り嵌め(interferencefit)は,チューブ80
の外表面を,カテーテルハブ4の遠位部42の内表面に当接させ,流体密
封シールを生じさせる。延長チューブ62内の流体圧力が上昇すると,チ
ューブ80の一部は内室12の内表面から離間し,流体が,延長チューブ
62から内室12内に流れ,さらにカテーテル10内を遠位方向に流れる
ことを可能にする。かくして,図3に示すように,例えば接続ハブ64に
接続された注射器68から,延長チューブ62を経由して,カテーテル1
0内に流体を注入することができる。
キ【0096】
以下,図7a~図7cを参照しつつ,カテーテルハブ4の遠位部42で
用いるバルブ組立体の実施形態を説明する。
【0097】
図7aには,本発明に係る装置(カテーテル組立体)で使用するための
バルブ組立体の縦断面図(longitudinalcross-sectionalview)を示して
いる。包括的に参照番号702が付されたバルブ組立体は,液体及び気体
を通さない可撓性を有する材料(flexiblematerial)で形成されている。
バルブ組立体702は,全体的形状が管状である第1弁部704(first
valveportion)と,この第1弁部704の近位端に設けられたバルブディ
スク706(valvedisc)の形態の第2弁部(secondvalveportion)と
を備えている。
【0098】
図7b及び図7cは,バルブ組立体702のバルブディスク706の実
施形態を示す図である。図7bに示すように,バルブ組立体702は,全
体的形状が円形である断面を有するものであってもよい。また,このよう
にせず,図7cに示すように,バルブ組立体702は,全体的形状が平坦
化され(flattened),楕円形の断面(ellipticalcross-section)を有す
るものであってもよい。カテーテルハブ4の遠位部42内の内室12は,
バルブ組立体702に順応する(conform)形状に形成され,具体的には,
バルブ組立体702が内室12内にぴったりはまり(tightfit),第1弁
部704が内室12の内表面に密接し(closecontact),バルブ組立体7
02とカテーテルハブ4の内表面との間に流体密封(fluidtightseal)
が生成されるように形成される。
【0099】
バルブディスク706の内部には,複数のスリット708(slits)が設
けられている。図7b及び図7cに示す実施形態では,それぞれ,バルブ
ディスク706の中心から半径方向外向きに伸びる3つのスリットの配列
(array)が設けられている。バルブディスク706に前記と異なる形態の
スリット708を設けることも可能であり,例えば単一のスリットを設け
ることも可能である。
【0100】
準備完了状態においては,針軸34は,バルブディスク706を通り抜
けて伸びる。針軸34は,スリット708を十分に開かれた状態に保ち,
これにより気体がバルブディスクを通ってとくに近位方向に流れることが
可能となるが,この開き状態は,血液がバルブディスク706を通り抜け
るのが可能となるには不十分なものである。かくして,前記のように,ユ
ーザにフラッシュバック指標(flashbackindication)が提供される。
⑵前記⑴の記載事項によれば,本願明細書には,本願発明に関し,次のよう
な開示があることが認められる。
ア従来,カテーテル組立体において,カテーテル及びカテーテルハブを介
しての流体の流れを制御(調節)するために,特に,カテーテルを介して
静脈から血液が流出するのを阻止するために,カテーテルハブ内にバルブ
を設ける技術が知られていたが(【0001】,【0004】),「本発明」は,
カテーテルを介しての患者への流体の注入及び患者からの流体の引き抜
きの高度な制御(調節)を行うことができる改良されたカテーテル組立体
を提供することを課題とするものである(【0018】)。
イ「本発明」のカテーテル組立体のバルブ組立体は,延長チューブの遠位
端を閉じる一方,延長チューブ内の加圧された流体の作用により開口可能
な第1弁部材と流体が内室を介してカテーテルハブの近位端へ流入し又は
カテーテルハブの近位端から流出するのを阻止する第2弁部材を備えてお
り,第1弁部材が開かれると,延長チューブからカテーテルハブの内室へ
の流体の流入が可能となり,第2弁部材が開かれると,カテーテルハブの
近位端からカテーテルに向かって遠位方向に流体を供給することが可能と
なり,又はカテーテルからカテーテルハブの近位端に向かって近位方向に
流体を引き抜くことが可能となるものであり,このように第2弁部材は,
カテーテルハブの近位端への又は該近位端からの流体の流れを制御(調節)
する二方弁として動作することができる(【0019】,【0030】)。
2引用文献の記載事項について
引用文献1(甲1)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図
1ないし3,10ないし12,16ないし18,20,23ないし27につい
ては,別紙2を参照)。
⑴【技術分野】
【0001】
本発明は,カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
医療では,このようなカテーテル及びントロデューサ針アセンブリは,患
者の脈管系内に適切にカテーテルを配置するのに使用される。定位置になる
と,静脈(すなわち,「IV」)カテーテルなどのカテーテルを使用して,生
理食塩水,医療化合物,及び/または栄養組成(完全非経口栄養,すなわち
「TPN」を含む)を含む流体をこのような治療を必要とする患者に注入す
ることができる。カテーテルは加えて,循環系からの流体の除去,及び患者
の脈管系内の状態の監視を可能にする。
【0004】
末梢IVカテーテルはしばしば,鋭い遠位先端を備えたイントロデューサ
針の上に取り付けられた「オーバー・ザ・ニードル」カテーテルとして提供
される。この鋭い先端はしばしば,皮膚の穿刺中に患者の皮膚から離れるよ
うに配向することを意図した先端面取り部を備えている。カテーテルの少な
くとも遠位先端を含むカテーテルの一部は,患者の循環系内へのカテーテル
の挿入中のカテーテルの剥がれを防ぐように,針の外側をしっかり把持する。
このようなカテーテルを配置するいくつかの技術が当技術分野で実施されて
いるが,その多くは普通,ターゲット血管内に針の少なくとも一部を挿入し,
その後,カテーテルを針の上で定位置までスライドさせるステップを含んで
いる。
【0006】
針の定置が確認されると,ユーザはカテーテル先端で血管内の流れを一時
的に塞ぎ,針を取り除いてカテーテルを定位置に残し,流体除去,投入,ま
たはカテーテルの密封のためにカテーテルに装置を取り付けることができる。
この方法は実際はいくらか難しい。というのは,多くの定置部位は単にター
ゲット血管の簡単な閉塞が可能ではないからである。加えて,このような閉
塞が得られた場合でさえも,不完全である可能性があり,それによってカテ
ーテルから血液が漏れることにつながり,それを使用する医療従事者を危険
にさらす。
【0007】
したがって,イントロデューサ針の除去中,及びその後の流体の流出を防
ぐ様々なシールまたは「隔壁」を提供する,カテーテル及びントロデューサ
針アセンブリが当技術分野で開発された。これらの構造物は普通,漏れを防
ぐために保管および使用中に針の形状にしっかり一致し,その後針の除去の
際に密封するように設計されたエラストマー・プレートである。これらの隔
壁は,望ましくない血液の漏れを防ぐために,針の除去中に切り欠き及び針
先端を封入するように,フラッシュバック切り欠きを備えた針の中に延びて
いる必要がある。このように隔壁が延びることにより,針の上に定置された
摩擦量,及びそれを除去するのに必要な労力の量が大きくなる。これを回避
するために,使用される針より僅かに大きい内径を有する内部キャビティを
備えた隔壁が開発された。この結果,針がこのキャビティの外側の領域のみ
で隔壁と接触して,隔壁と接触する表面積が小さくなる。
【0008】
これらの隔壁は現時点では,必要な機能を提供する2部品構成部品として
提供されている。これらは普通,遠位部,近接部,及び合成物キャビティを
備えた隔壁を形成するように組み合わせる少なくとも2つの部品を含んでい
る。しかし,これらの隔壁の組立てはしばしば難しく大きな労力を要するこ
とが証明された。したがって,設置を容易にし,優れた機能性を提供するた
めに,より少ない部品を有する隔壁を提供することが,当業界における改良
であろう。
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって,本発明はカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリ内で
使用する一体型隔壁を提供する。
⑵【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の隔壁は,針の保管及び使用中にイントロデューサ針を中心として
シールを提供し,その後,針が流体の漏れを防ぐために引き抜かれる場合に
アセンブリを密封する。
本発明の隔壁は普通,遠位部及び近接部,キャビティ部,及び長手軸を備
えている。遠位部は,装置のユーザから最も離れて,患者の最も近くに位置
決めされて,1次シールとして働き,カテーテルからの血液の漏れを防ぐ。
隔壁はまた,針上の摩擦を少なくするように,遠位部と近接部の間に配置さ
れたキャビティ部を備えている。キャビティ部は普通,針の除去中の摩擦を
少なくするように,隔壁で使用される針の外径より大きいまたはこれと等し
い内径を有する。したがって,一部の構成では,隔壁はその遠位部及び近接
部のみで針と接触し,他の構成では,その長さに沿って針と接触する。隔壁
の近接部は,キャビティからの材料の漏れを防ぐ2次シールとして働き,キ
ャビティを密封し,引き出されているときに針を拭き取る。
【0011】
本発明の隔壁は普通,隔壁に圧縮を行うことができる隔壁ハウジング内に
配置されている。このハウジングは,別の構成部品であってもよく,または
代わりにカテーテル・アダプタの領域であってもよい。隔壁ハウジングは,
径方向圧縮を行うキャニスタであってもよい。ハウジングからの径方向圧縮
は,そこを通して挿入される針の形状に対する隔壁の整合性,及び針の引き
出しの際の密封シールを保証するのを助ける。隔壁は,圧縮のみによって,
機械的取付けまたは連結によって,及び/または当業者に知られているよう
な接着剤によって定位置に保持することができる。この圧縮は,単一の径方
向,対向する径方向,または複数の径方向からであってもよい。
【0012】
本発明の一体型低抵抗隔壁は,保管及び使用中に針の周りにシールを提供
し,その後,針が引き出された場合に密閉されるように隔壁アセンブリ内に
設けられている。この隔壁アセンブリは,隔壁ハウジング,及びその中に設
けられた一体型隔壁を備えている。隔壁は,遠位部及び近接部,キャビティ,
及び長手軸を有する。キャビティは,隔壁の近接部を通して完全に延びてお
り,隔壁は,近接部の外径から離れて外向きに延びる少なくとも1つのフレ
ア状領域を備えている。この隔壁が隔壁ハウジング内に挿入されると,フレ
ア状領域が圧縮されて,近接部を通して延びるキャビティの部分が閉じ,キ
ャビティの近接端にシールが提供される。
【0013】
別の方法では,隔壁の近接部は,近接部の外径に互いにほぼ対向して位置
決めされた2つのフレア状部を備えることができる。この隔壁が隔壁ハウジ
ング内に設置されると,径方向圧縮が2つのフレア状部それぞれの方向から
行われる。多数の追加フレアを設けることができる,または別の方法では,
円周方向リッジを使用して追加の径方向圧縮を行うことができる。
【0014】
キャビティは代替形態では,隔壁の近接部を通して完全に延びることがで
きる。この場合,隔壁の近接部はキャビティの近接部を囲む細長いシースを
備えることができる。キャビティの近接部は,針を把持し,シールとして働
き,出るときに針を拭き取るために,針の外径と等しいまたはこれより僅か
に小さい内径を有する。
【0017】
本発明は,本発明の一体型隔壁を使用するカテーテル及びイントロデュー
サ針アセンブリを含んでいる。このようなアセンブリは,隔壁アセンブリ及
びイントロデューサ針を備えている。いくつかのアセンブリでは,イントロ
デューサ針は,針の適切な定置の確認を可能にするフラッシュバック切り欠
きを含んでいる。これらでは,隔壁は,引き出されるときに針の適切な密封
を保証するように,切り欠きの近接端と針先開口の遠位端の間の距離より長
くまたはこれと等しくされる。
⑶【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の現時点で好ましい実施形態は,図面を参照して最もよく理解され,
図面では同様の部品は全体を通して同様の番号によって示されている。本明
細書の図で全体的に記載および図示したように,本発明の構成部品は,幅広
い異なる構成で配置及び設計することができることがすぐに分かるだろう。
したがって,図1から7に示すように,本発明の一体型低抵抗隔壁の実施形
態の以下のより詳細な説明は,請求するように,本発明の範囲を制限するこ
とを意図したものではなく,本発明の現時点で好ましい実施形態を単に示す
ものである。
【0020】
「近接」という用語は,通常の使用中に,ユーザの最も近くで患者から最
も遠くにある装置の一部を示すために使用されている。「遠位」という用語は,
通常の使用中に,装置を扱うユーザから最も遠くで患者に最も近接している
装置の一部を示すために使用されている。
【0021】
以下の詳細な説明の部分では,本発明は一体型拡張管(一体型カテーテル)
を有する末梢IVカテーテルに関連して記載する。本発明の一体型低抵抗隔
壁は,他のカテーテル・システムで使用することができることを理解すべき
である。本発明は,標準的な末梢IVカテーテル,探り針によって針ハブに
針を連結する必要がある拡張留置カテーテル,及び空間内またはそこからの
流体の流れを調整するように隔壁を備えていることが望ましい他の医療用
装置に適用することができる。
【0022】
本発明の一体型低抵抗隔壁10を組み込んだ一体型カテーテル及びイント
ロデューサ針アセンブリ20が,図1に全体的に示されている。カテーテル
及びイントロデューサ針アセンブリ20は,カテーテル・アダプタ24に取
り付けられたカテーテル22を含むカテーテル・アセンブリ18と,軸12
を備えたイントロデューサ針30を有する針アセンブリ16とを備えている。
カテーテル22は,これに限らないが,フッ素化エチレンプロピレン(FE
P),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),及びポリウレタンなどの熱
可塑性樹脂を含む材料から構成することができる。いくつかの実施形態では,
カテーテル22は,患者の身体に存在する生理的状態に曝された場合に軟化
する熱可塑性親水性ポリウレタンから製造することができる。また,透明ま
たは半透明の形でカテーテル22を提供することが有用である可能性がある。
これにより,イントロデューサ針30が,血管内への定置が成功した際に,
このような血流を可能にするように,その遠位端に隣接して切り欠きまたは
開口を備えている場合,イントロデューサ針30とカテーテル22の間の環
状空間内での血液の逆流の観察が可能になる。カテーテル・アダプタ24は,
これに限らないが,ポリカーボネート,ポリスチレン,及びポリプロピレン
などの熱可塑性ポリマー樹脂を含む材料から製造することができる。
【0023】
図1に示すカテーテル・アダプタ24は,カテーテル・アダプタ24のい
ずれか側から径方向外側に延びるウィング26を備えている。ウィング26
は,カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリ20の処理を簡単にし,
患者に対するカテーテル22の取付けのためのより大きな表面積を提供す
る。ウィング26は任意選択では,縫合糸孔28を含むことができる。カテ
ーテル22の近接端は,カテーテル・アダプタ24の近接端からの流体の漏
れを防ぐために,本発明による一体型低抵抗隔壁10を備えている。カテー
テル22及びイントロデューサ針アセンブリ20はさらに,イントロデュー
サ針30を備えている。針30の近接端が針ハブ32内に格納され,針30
の遠位端は,患者の皮膚を穿刺する鋭い先端34,及び患者の血管内への遠
位先端34の定置が成功した際に血液の逆流を行う切り欠き36を有する。
使用の際,針30及びカテーテル22は患者の血管に挿入され,適切な挿入
が確認され,針30が取り除かれて,カテーテル22を定位置に残す。
【0024】
図2は,カテーテル・アセンブリ18から離れて示された隔壁10を備え
たカテーテル・アセンブリ18の部分展開図である。組み立てられた場合,
隔壁10はカテーテル・アダプタ24の近接端を密封して,カテーテル・ア
ダプタ24の近接端からの流体の漏れを防ぐ。
【0025】
本発明の隔壁10は,カテーテル・アダプタ24内に嵌合するようになっ
ている一体型装置である。いくつかの実施形態では,隔壁10は最初に隔壁
ハウジング40内に定置される。隔壁ハウジング40は,ハウジング40の
近接端を通して延び,ハウジングの管腔44に開口している通路42を備え
た近接端を有する。ハウジング40の遠位端は,隔壁10を受けるように幅
広く開いている。しかし,他の実施形態では,別の隔壁ハウジング構成部品
は必要ない。これらの実施形態では,カテーテル・アダプタ24は,隔壁ハ
ウジングの代わりをし,隔壁10に圧縮力を保持および提供する。アセンブ
リ20の使用中に,隔壁10は,患者内への挿入後にアセンブリ20からの
流体の漏れを防ぐように働き,その後,針30が患者から引き出された場合
に流体の漏れを防ぎ続けて,カテーテル22を定位置に残す。
【0026】
図3~7は,以下により詳細に論じるように,隔離した,端部から見た,
または断面の,図1及び2(及びその小さな変更)の隔壁10を示している。
最初に図3を参照すると,図1及び2の隔壁10は隔離した斜視図で示され
ている。隔壁10は全体的に,近接部50,遠位部60,及びキャビティ部
70の3つの領域を含んでいる。いくつかの実施形態では,近接および遠位
部50,60のいずれかまたは両方ともは,アセンブリ20内のイントロデ
ューサ針(図示せず)の位置決めを簡単にするように予めスリットを入れる
ことができる。ここで,遠位部60は図ではスリット62を備えている。キ
ャビティ部70は普通,近接部50と遠位部60の間で中心に配置されてい
る。キャビティ部70は普通,針上に配置された小さな摩擦領域を提供する
ように働く。本発明の隔壁10の実施形態では,キャビティ部70は,近接
部50を通して完全に延びており,近接出口72で隔壁10の近接部50か
ら出る。
【0027】
図2及び図3~7に示す隔壁10では,隔壁10の近接部50は,少なく
とも1つのフレア状領域52を備えている。図3を参照すると,これらの図
の隔壁10は,隔壁10の近接部50上で互いに対してほぼ対向して配置さ
れた1対のフレア状領域52を備えている。図4及び6に示す隔壁10の端
面図は,隔壁10の設置前の,遠位端60に対する隔壁10の近接端50の
相対形状及び寸法を示している。特に,フレア状領域52は,隔壁10を閉
じるのにどちらが使用された場合でも,隔壁10の外径を隔壁ハウジング4
0またはカテーテル・アダプタ24の内径より大きくする寸法を有する。カ
テーテル・アセンブリ18の製造中に,隔壁10は,隔壁ハウジング40及
び/またはカテーテル・アダプタ24のいずれかの中で定位置に押される。
隔壁ハウジング40またはカテーテル・アダプタ24内への隔壁10の設置
により,フレア状領域52が圧縮される。フレア状領域52の圧縮により近
接出口72が閉じて,シールとして働くことが可能になる。図6及び7は,
図4~5の図から90度回転させた,図3~5の隔壁10の端面図および断
面図を提供する。これは,フレア状領域52の形状をさらに示している。
【0029】
次に図10及び11を参照すると,隔壁10が隔壁ハウジング40内に設
置され,その後,ハウジングはカテーテル・アダプタ24内に配置されて示
される。上で論じたように,カテーテル・アダプタは別の方法では,隔壁ハ
ウジング40の介入なしで直接隔壁10を受けるように構成することがで
きる。隔壁10の近接部50は図では,近接出口72およびキャビティ部7
0を密封するように変形されている。隔壁10内では,隔壁10の遠位部6
0は全体的に,保管中,及びその後針が引き出された場合に,イントロデュ
ーサ針を中心としてしっかり圧縮することによってアセンブリ20に対す
る1次シールとして働くように構成されて,流体の漏れを防ぐように針を中
心として径方向にしっかり閉じる。隔壁10の近接部50は,隔壁10のキ
ャビティ部70を閉じる2次シールとして働く。いくつかの実施形態では,
隔壁10の近接部50は,隔壁10を通して引き出されたときに針から流体
を拭き取るようにスキージとして働くことができる。隔壁10は,これに限
らないが,ポリイソプレンなどの熱可塑性エラストマー,またはシリコーン
などの熱硬化性エラストマーを含む,様々な適切な材料で作ることができる。
【0030】
図11に示す隔壁ハウジング40は,開口近接端,及び開口遠位端を有す
る。ハウジング40は,隔壁10の近接部50の少なくとも一部を囲み,カ
テーテル・アダプタ24内の定位置に隔壁10を保持するように,締まり嵌
めで隔壁10の遠位部60を囲むことができる。別の方法では,隔壁10は,
ハウジング40を使用することなくカテーテル・アダプタ24内に配置する
ことができる。隔壁ハウジング40の使用は,いくつかの例では,カテーテ
ル・アダプタ24内への隔壁10の設置を容易にすることができる。図11
に示すように,隔壁ハウジング40は隔壁10の遠位部60の一部に沿って
のみ延びている。ハウジング40は別の方法では,隔壁10の長さに沿って
完全に,または隔壁10の遠位部60に単に沿って延びることができる。こ
のような代替構成では,ハウジング40は以下に論じるように,カテーテル・
アダプタ24の代わりに隔壁10に圧縮力を加えることが分かるだろう。隔
壁ハウジング40の開口近接端及び遠位端により,イントロデューサ針(図
示せず)は,隔壁10を通して及びハウジング40を通して延びることがで
きる。いくつかの実施形態では,隔壁10の近接端50の面上に部分的に延
びるように,ハウジング40の近接端にリップ46を提供することが有用で
ある可能性がある。これにより,カテーテル・アダプタ24の近接端50へ
の別の医療用装置の取付けを防ぐことができる。
⑷【0034】
本発明の隔壁の前の実施形態と同様に,図12の隔壁210はそこを通し
たイントロデューサ針(図示せず)の挿入を簡単にするように予めスリット
を入れることができる。このような準備は,当業者に知られている。
【0036】
次に図16を参照すると,本発明の一体型低抵抗隔壁110の別の実施形
態の部分切取図が示されている。この隔壁110は同様に,近接部150,
遠位部160,及びキャビティ部を備えている。この場合,キャビティ17
0は図では近接及び遠位部150,160内に潜在的に延びているが,これ
らを貫通しない。その結果,近接及び遠位部150,160は,そこを通る
イントロデューサ針(図示せず)の挿入を簡単にするように予めスリットを
入れることができる,またはこのような針は隔壁110の材料を通して簡単
に挿入することができる。この隔壁110は,これに限らないが,気体アシ
スト射出成形などの射出成形技術を使用して生成することができる。
【0039】
本発明の隔壁の前に論じた実施形態と同様に,図17に示すように,針1
30が隔壁110の近接及び遠位部150,160の両方を貫通すると,隔
壁110は針130と一致する。同様に,針130が引き出される場合,図
18に部分的に示すように,隔壁110の遠位部160上で見られるように
隔壁110が密封される。
【0041】
隔壁310は,図20に示すように,イントロデューサ針30周りで組み
立てることができる。別の方法では,隔壁310は最初に折り畳むことがで
き,針はその後に隔壁310を通して挿入することができる。この隔壁31
0は,近接及び遠位部350,360内にスリットを設けて,隔壁310を
通る針の挿入を可能にする必要を避けることによって組立てを簡単にする。
⑸【0044】
図23~25は,カテーテル及びントロデューサ針アセンブリ420の部
分展開斜視図で最初に隔離し,その後断面で示した,本発明のさらに別の一
体型低抵抗隔壁410の一連の図である。図23では,隔壁410は,カテ
ーテル及びイントロデューサ針アセンブリ420内のその位置から展開し
た,隔離斜視図で示されている。隔壁410は,近接部450,遠位部46
0,及びキャビティ部470を備えている。遠位部460は,上で論じた本
発明の隔壁410の他の実施形態のものと似ており,そこを通るイントロデ
ューサ針(図示せず)の挿入を簡単にするようにスリット462を備えるこ
とができる。近接部450は,そこを通って前進するイントロデューサ針(図
示せず)を囲むように,遠位部460から延びている細長いシースを備えて
いる。このシースは実際,キャビティ壁面474の延長である。
【0045】
図24は,隔壁410のキャビティ部470が前に開示したものと異なる
ことを示している。図2~11に示す隔壁10と同様に,図24に示す隔壁
410のキャビティ部470は,近接出口472で環境に対して開いている,
隔壁410の近接部450を完全に通して延びている。しかし,この実施形
態とは異なり,図25から27で分かるように,キャビティ部470は遠位
キャビティ476b及び近接キャビティ476aを備えている。遠位キャビ
ティ476bは,隔壁410の遠位部460の近くに配置されている。遠位
キャビティ476bは遠位内径478bを有し,近接キャビティ476aは
近接内径478aを有する。隔壁410では,遠位キャビティ476bの遠
位内径478bは,アセンブリ420で使用されるイントロデューサ針の外
径より小さい。近接キャビティ476aの近接内径478aは遠位内径47
8bより大きいが,イントロデューサ針(図示せず)の外径よりまだ僅かに
小さい。
【0046】
内径478a,478bにより,近接及び遠位キャビティ476a,47
6bは,これらを通って前進する針に異なる力を加える。遠位キャビティ4
76bの小さい直径478bにより,隔壁の遠位部460から出るときに,
これをすすぐように針の上に強い力を加えることが可能になる。近接キャビ
ティ476aのより大きな直径478aにより,隔壁410によって針の上
に加えられる力が小さくなり,それによって針上の抵抗が小さくなるが,ス
キージとして働き続けて,出るときに針をすすぐ。上で前に論じた隔壁と同
様に,針の引き出しの際に,隔壁410が密封される。
【0047】
図25は,カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリ420内に設置
された隔壁410の断面図である。アセンブリ420はさらに,隔壁410
を通して通過するイントロデューサ針430を備えている。針430は,逆
流切り欠き436a及び係止切り欠き436bを備えた遠位先端434を
備えている。針430はさらに,針遮蔽装置496と相互作用するリッジ4
38を備えることができる。アセンブリ420は加えて,単一の取り除きの
後に,アセンブリ420内に針430が再び入るのを防ぐようになっている
クロージャ498を備えることができる。
【0048】
図25に示す隔壁410では,キャビティ壁面474は任意選択では,そ
の外側表面490上に様々な追加の機構を備えることができる。このような
1つの機構は,図25に示すように,カテーテル・アダプタ424へ隔壁4
10を取り付けるのを簡単にする溝492である。このような別の機構は,
図示もされている針遮蔽装置496およびリテーナ497を取り付けるよ
うに,図25~27に示した隔壁410の実施形態で有用である連結機構4
94である。針遮蔽装置496は,隔壁410から引き出された場合に,針
430の遠位先端434を覆うようにリテーナ497と相互作用する。
【0049】
図26は,アセンブリ420から部分的に取り除かれた針430を示して
いる。より詳細には,図20では,針430の先端が隔壁410の遠位部4
60を通過した。上に記載したように,隔壁410の長さは,針430の逆
流切り欠き436aが隔壁410から出なく,それによって流体の漏れが防
止されるようになっていることに留意されたい。取り除きのこの段階では,
針430のリッジ438が隔壁410周りに設けられた針遮蔽装置496
と係合して,装置496を隔壁から取外し,引き出されるときに針430と
共に前進させる。図27は,針430がアセンブリ420から完全に引き出
された場合に,遮蔽装置496が針430の遠位先端434を囲んで,ユー
ザを潜在的な針穿刺によるけがから守ることを示す。同時に,クロージャ4
98はアセンブリ420内の開口部上で閉じ,これを通して針430が隔壁
410内に前進した。これにより,針の再挿入を阻止することによって装置
の再使用が防止される。
【0050】
本発明は,保管及び使用中にカテーテル及びントロデューサ針アセンブリ
内で使用される針を中心としてシールを提供し,その後それによって,初期
使用後の針の引き出しの際にアセンブリを密封する一体型隔壁を提供する。
本発明の隔壁の様々な実施形態は全て,急速射出成形技術を使用して生成さ
れやすい。それぞれ,患者からの流体流に対する1次シールとして働く遠位
部,2次シール及びいくつかの場合で針クリーナとして働く遠位シール,及
びキャビティを備えている。本発明の隔壁は,血管内に入ることを確認する
ように働く切り欠きを備えた針を適当に囲むのに十分なだけ長いが,隔壁に
よって針上に加えられる抵抗の量を少なくする内部キャビティを備えてい
る。
【0051】
本発明は,本明細書に概して記載し,頭記に請求するように,その構造,
方法,または他の基本的特徴から逸脱することなく他の特定の形で実施する
ことができる。記載した実施形態は,全ての態様において,単に例示的なも
のであり,制限的なものではないと考えるものとする。したがって,本発明
の範囲は前述の記載によってではなく,頭記の特許請求の範囲によって示さ
れる。特許請求の範囲の同等物の意味及び範囲内にある全ての変更は,その
範囲内に含まれるものとする。
3一致点の認定の誤り及び相違点の看過について
⑴原告は,本件審決は,引用文献1記載の【0012】,【0023】,【00
44】及び図26を根拠として挙げて,引用発明は,「隔壁」の「遠位部」に
「該流入及び流出を可能とするように開口可能なスリットを有して」いると
認定した上で,引用発明が「隔壁」の遠位部に「該流入及び流出を可能とす
るように開口可能なスリット」を備えていることは,本願発明の「前記第2
弁部材は,二方弁であり,流体が,前記カテーテルハブの前記内室を通って
近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように開口可能で
あ」るとの構成(本件構成)に相当するとして,本件構成は,本願発明と引
用発明の一致点である旨認定したが,引用文献1には,「隔壁」の遠位部が「該
流入及び流出を可能とするように開口可能なスリット」を有することについ
ての記載はなく,引用文献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセ
ンブリは,本件構成を有しない点で本願発明と相違するから,本件審決には,
上記一致点の認定の誤り及び相違点の看過がある旨主張する。
アそこで検討するに,本件審決は,引用文献1には,「i隔壁の遠位部は,
針が引き出された場合に密閉されて流体がその中空部を介してカテーテ
ル・アダプタの近位端へ流入し又はカテーテル・アダプタの近位端から流
出するのを阻止するとともに,該流入及び流出を可能とするように開口可
能なスリットを有している(【0012】,【0023】,【0044】,図2
6)。」(6頁)との技術的事項が記載されていると認定した。
しかるところ,引用文献1の【0012】には,「本発明の一体型低抵抗
隔壁は,保管及び使用中に針の周りにシールを提供し,その後,針が引き
出された場合に密閉されるように隔壁アセンブリ内に設けられている。こ
の隔壁アセンブリは,隔壁ハウジング,及びその中に設けられた一体型隔
壁を備えている。隔壁は,遠位部及び近接部,キャビティ,及び長手軸を
有する。キャビティは,隔壁の近接部を通して完全に延びており,隔壁は,
近接部の外径から離れて外向きに延びる少なくとも1つのフレア状領域
を備えている。この隔壁が隔壁ハウジング内に挿入されると,フレア状領
域が圧縮されて,近接部を通して延びるキャビティの部分が閉じ,キャビ
ティの近接端にシールが提供される。」,【0023】には,「カテーテル2
2の近接端は,カテーテル・アダプタ24の近接端からの流体の漏れを防
ぐために,本発明による一体型低抵抗隔壁10を備えている。」,【0044】
には,「図23~25は,カテーテル及びントロデューサアセンブリ420
の部分展開斜視図で最初に隔離し,その後断面で示した,本発明のさらに
別の一体型低抵抗隔壁410の一連の図である。」,「隔壁410は,近接部
450,遠位部460,及びキャビティ部470を備えている。遠位部4
60は,上で論じた本発明の隔壁410の他の実施形態のものと似ており,
そこを通るイントロデューサ針(図示せず)の挿入を簡単にするようにス
リット462を備えることができる。」との記載がある。
上記記載から,引用文献1において,隔壁アセンブリに設けられた隔壁
410は,カテーテル・アダプタ24の近接端からの流体の漏れを防ぐた
めに設けられたものであること,隔壁410の遠位部460には,そこを
通るイントロデューサ針の挿入を簡単にするように,スリット462を備
えることができることを理解できる。
そして,図26(別紙2参照)には,隔壁410の遠位部460に,厚
み方向の略中央付近に,その近接端から遠位端まで長手軸方向に設けられ
たスリット462が図示されている。
一方で,引用文献1の【0012】,【0023】,【0044】には,ス
リット462が流体の「流入及び流出を可能とするように開口可能」であ
ることについての記載はない。
また,図26記載のスリット462の形状に照らすと,図26から,ス
リット462が流体の「流入及び流出を可能とするように開口可能」であ
ることを直ちに看取することはできない。
さらに,引用文献1の記載全体(図面を含む。)をみても,スリット46
2が流体の「流入及び流出を可能とするように開口可能」な構成であるこ
とをうかがわせる記載はない。
イかえって,引用文献1には,隔壁に関し,前記【0012】のほか,「本
発明の隔壁は,針の保管及び使用中にイントロデューサ針を中心としてシ
ールを提供し,その後,針が流体の漏れを防ぐために引き抜かれる場合に
アセンブリを密封する。」,「遠位部は,装置のユーザから最も離れて,患者
の最も近くに位置決めされて,1次シールとして働き,カテーテルからの
血液の漏れを防ぐ。」,「隔壁の近接部は,キャビティからの材料の漏れを防
ぐ2次シールとして働き,キャビティを密封し,引き出されているときに
針を拭き取る。」(【0010】),「組み立てられた場合,隔壁10はカテー
テル・アダプタ24の近接端を密封して,カテーテル・アダプタ24の近
接端からの流体の漏れを防ぐ。」(【0024】),「本発明の隔壁10は,カ
テーテル・アダプタ24内に嵌合するようになっている一体型装置であ
る。」,「アセンブリ20の使用中に,隔壁10は,患者内への挿入後にアセ
ンブリ20からの流体の漏れを防ぐように働き,その後,針30が患者か
ら引き出された場合に流体の漏れを防ぎ続けて,カテーテル22を定位置
に残す。」(【0025】)との記載がある。
上記記載から,引用文献1記載の隔壁は,針の保管及び使用中に針の周
りにシールを提供し,患者内への挿入後にアセンブリ20からの流体の漏
れを防ぐように働き,針が患者から引き出された場合に密閉されるように
隔壁アセンブリ内に設けられてことを理解できる。
また,引用文献1には,「スリット」に関し,「いくつかの実施形態では,
近接および遠位部50,60のいずれかまたは両方ともは,アセンブリ2
0内のイントロデューサ針(図示せず)の位置決めを簡単にするように予
めスリットを入れることができる。ここで,遠位部60は図ではスリット
62を備えている。」(【0026】),「図12の隔壁210はそこを通した
イントロデューサ針(図示せず)の挿入を簡単にするように予めスリット
を入れることができる。」(【0034】),「キャビティ170は図では近接
及び遠位部150,160内に潜在的に延びているが,これらを貫通しな
い。その結果,近接及び遠位部150,160は,そこを通るイントロデ
ューサ針(図示せず)の挿入を簡単にするように予めスリットを入れるこ
とができる,またはこのような針は隔壁110の材料を通して簡単に挿入
することができる。」(【0036】),「別の方法では,隔壁310は最初に
折り畳むことができ,針はその後に隔壁310を通して挿入することがで
きる。この隔壁310は,近接及び遠位部350,360内にスリットを
設けて,隔壁310を通る針の挿入を可能にする必要を避けることによっ
て組立てを簡単にする。」(【0041】),「図23~25は,カテーテル及
びントロデューサ針アセンブリ420の部分展開斜視図で最初に隔離し,
その後断面で示した,本発明のさらに別の一体型低抵抗隔壁410の一連
の図である。」,「遠位部460は,上で論じた本発明の隔壁410の他の実
施形態のものと似ており,そこを通るイントロデューサ針(図示せず)の
挿入を簡単にするようにスリット462を備えることができる。」(【00
44】)との記載がある。
上記記載から,隔壁の遠位部に備えたスリットは,隔壁の遠位部を通る
イントロデューサ針の位置決めをし,その挿入を簡単にするために設けら
れたものであることを理解できる。
さらに,図1,23,25ないし27から,延長チューブの遠位端が,
カテーテル・アダプタの近位端と遠位端との間で,かつ,隔壁の遠位部の
遠位端よりも更に遠位側に開口した中空部分に接続していることを看取
できるから,引用文献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセン
ブリにおいては,患者への流体の注入及び患者の循環系からの流体の除去
は,延長チューブを通じてカテーテル・アダプタの上記中空部分を介して
行うものであることを理解できる。
ウ以上によれば,引用文献1記載の隔壁は,針の保管及び使用中に針の周
りにシールを提供し,針が引き出された場合に密閉されるように隔壁アセ
ンブリ内に設けられたものであって,隔壁の遠位部に備えたスリットは,
そこを通るイントロデューサ針の挿入を簡単にするために設けられたも
のであるから,隔壁の遠位部は,流体の「該流入及び流出を可能とするよ
うに開口可能なスリットを有して」いると認めることはできない。
そうすると,引用文献1記載の「隔壁」の遠位部は,本願発明の「前記
第2弁部材は,二方弁であり,流体が,前記カテーテルハブの前記内室を
通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように
開口可能であ」るとの構成(本件構成)に相当するものといえず,引用文
献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリは,本件構成を
有しない点で本願発明と相違するから,この点において,本件審決には,
一致点の認定の誤り及び相違点の看過があるものと認められる。
⑵これに対し被告は,①引用文献1には,カテーテル及びイントロデューサ
針アセンブリについて,従来より,流体を患者に注入することができるとと
もに,患者の循環系からの流体の除去を可能にするものであることが述べら
れていること(【0002】),②流体の患者への注入及び患者の循環系からの
流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された,「二方弁」として機能
する「スリットを備えた隔壁」を介してされることが技術常識であること(例
えば,甲3,乙6)からすれば,当業者は,引用文献1記載のカテーテル及
びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相当す
ると当然把握するから,本件審決における一致点の認定に誤りはない旨主張
する。
ア①について
引用文献1の【0002】には,「医療では,このようなカテーテル及び
ントロデューサ針アセンブリは,患者の脈管系内に適切にカテーテルを配
置するのに使用される。定位置になると,静脈(すなわち,「IV」)カテ
ーテルなどのカテーテルを使用して,生理食塩水,医療化合物,及び/ま
たは栄養組成(完全非経口栄養,すなわち「TPN」を含む)を含む流体
をこのような治療を必要とする患者に注入することができる。カテーテル
は加えて,循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視を
可能にする。」との記載がある。
上記記載から,カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリのカテー
テルは,「循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視」を
可能にすることを理解できるが,上記記載は,隔壁の遠位部又はその遠位
部に設けられたスリットが流体の「流入及び流出を可能とするように開口
可能」な構成であることを示唆するものとはいえない。
イ②について
乙6(国際公開第2008/052791号)には,バルブ組立体の具
体的構造として,側部のポートに沿って配置され,ポートを閉じる弁であ
って,ポート内の加圧された流体の作用により開口可能となる第1バルブ
要素(チューブ要素5),流体が遠位方向又は近位方向のいずれかに流れる
ことを可能にする二方向バルブとして形成されるスロット6aを備えたバ
ルブディスク6(原文4枚目7行~5枚目3行(訳文5枚目),原文5枚目
17行~20行(訳文6枚目),図1,2等)の記載がある。
引用文献3(甲3・訳文乙5)には,①スリットを有する隔壁と隔壁作動
体とを含み,使用中は,隔壁作動体が隔壁のスリットを通って前進し,隔
壁を通る流体経路を形成する血液制御バルブと,カテーテルアセンブリ内
の流体がサイドポートから漏れることを防止できるポートバルブ(【000
2】,【0003】),②「カテーテルアダプタは,隔壁作動体と隔壁とを含
む血液制御バルブを収容する。隔壁は,管腔の一部を封止する。1つ以上
のスリットが隔壁を貫通して延在することで,隔壁を通る選択的なアクセ
スを提供できる。よって,ポートバルブは,ポートを介してカテーテルア
ダプタの内部管腔に対する一方向の選択的なアクセスを提供し得る。」(【0
005】)との記載がある。
上記記載から,カテーテル組立体において,流体の患者への注入及び患
者の循環系からの流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された「二
方弁」として機能する「スリットを備えた隔壁」を介してされ得る技術が,
本願優先日当時,一般に知られていたことが認められる。
一方で,上記記載から,カテーテルハブの中空部に配置された「スリッ
トを備えた隔壁」が常に「二方弁」として機能するとまで認めることはで
きないから,上記技術が一般に知られていたことを踏まえても,前記⑴ウ
の認定を左右するものではなく,当業者は,引用文献1記載のカテーテル
及びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相
当すると当然把握するものと認めることはできない。
ウまとめ
前記ア及びイによれば,本件審決における一致点の認定に誤りはないと
の被告の前記主張は理由がない。
4小括
以上によれば,本件審決には,一致点の認定を誤り,相違点を看過し,ひい
ては,この相違点についての容易想到性の判断をすることなく,本願発明の進
歩性を否定した判断の誤りがある。この誤りは,本件審決の結論に影響を及ぼ
すものであることが明らかである。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告主張の取消事由
は理由がある。
第5結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があるから,本件審決は取り消さ
れるべきである。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官小林康彦
裁判官高橋彩
(別紙1)
【図1】
【図2】
【図3】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
(別紙2)
【図1】
【図2】
【図3】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】

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