弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人が平成4年6月2日付けで控訴人に対してした,
ア 平成元年4月1日から平成2年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分
のうち所得金額1028万4643円,納付すべき税額277万6600円を超え
る部分及び無申告加算税の賦課決定処分のうち41万5500円を超える部分(た
だし,平成8年1月22日付け裁決によりいずれも一部取り消された後のもの)
イ 平成元年4月1日から平成2年3月31日までの課税期間の消費税の更正処分
のうち課税標準額118億9924万8000円,納付すべき税額1億9196万
1900円を超える部分(ただし,平成8年1月22日付け裁決によりいずれも一
部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件事案の概要は,次のとおり付加・補正するほか,原判決「事実及び理由」中
の「第2 事案の概要」記載のとおりである。
1 原判決22頁18行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「そして,役務提供の対価であるかどうかは,客観的に立証できるものと解され,
対価であることを客観的,具体的に認める事情がない限り,役務提供の対価と認定
することはできないというべきである。また,製薬会社としては,高名な教授等に
研究費として寄附する場合,あたかも治験等の依頼をし,その成果物としての報告
書等が作成・提出されたかのようにして会社内部の決済をしている例があるから,
治験等の結果としての報告書の完成と提出がない限り,役務提供の対価と認めるこ
とはできない。
 すなわち,本件においては,治験等の結果としての報告書の完成と提出が存在し
ない限り,役務提供の対価と認めることはできないというべきである。」
2 同24頁5行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 別表9の医学部の番号13の寄附金は,甲19,乙54,原審における証人A
の証言によれば,雑誌投稿に対するものであり,名目なくして研究費を会社から支
出できないので,乙54の別添21ないし23のような書面を内部的に作成したも
のと認めることができる。したがって,少なくとも,治験等に係る役務提供の対価
であることを疑わせる具体的な事情があるから,純粋な寄附である。」
3 同25頁9行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 そして,別表9の医真菌研究センター番号6については,乙5の①②に「in
 vivo」と記載されているので,人に対する治験の実施を意味するが,これ
は,医真菌研究センターではなしえないことであり,また,医師であるB教授がマ
ウスを用いた実験をしたとして,これを委託研究とするのも常識に合致しないか
ら,高名な教授に研究費として支出するために,名目上治験等の委託をしたかのよ
うに書類を作成することは理解できるところである。したがって,委託研究の対価
であることを疑わせる特段の事情があるから,純粋な寄附である。
 また,別表9の医真菌研究センター番号8及び9については,治験とすることは
できないし,委託研究としての成果物も存在しない上,書面上の記載の研究機関と
研究費の支払時期も前後しているという事情がある。したがって,委託研究に係る
役務提供の対価を疑わせる特段の事情があるから,純粋な寄附である。」
4 同頁18行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 なお,別表9の医学部の番号43については,乙37,63によれば,委託研
究が完了したときは,その結果の報告を提出することになっていることが認められ
るので,この報告書の提出が役務提供の対価性を認定する重要な要素となっている
ところ,甲19,原審における証人Aの証言によれば,このような報告書の提出は
存在しないので,治験等に係る役務提供の対価と認めることはできないから,純粋
の寄附である。
(h) 別表9の医学部の番号11については,乙6の①②の作成時期からして,
投稿論文は既に執筆済みのものであり,当該原稿の執筆の対価としてではなく,権
威のあるC助教授から「次回からこの本にネオヨジンの名前を出していただくこと
になっております。」(乙6の①)と記載されているので,論文執筆の名目で研究
費を支払うものとしたことが認められる。したがって,治験等に係る役務の対価で
はなく,まさにお礼としての純粋の寄附である。」
5 同頁19行目「(h)」を「(i)」に改める。
6 同26頁8行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「すなわち,附属病院本院に係る寄附金のほとんどは,治験薬の管理を起因とする
ものであり,治験の実施を起因とするものではない。そして,管理する治験薬の量
に応じて寄附金の額も変動しているようにみられるが,治験薬当たりの単価は具体
的には決められておらず,治験薬の管理は,治験を実施する医師において保管する
ものではなく,薬剤部で行うものであり,治験の厳正な実施に必要なものであるか
ら,このお礼として寄附することは十分に考えられる。なお,乙13の②等の契約
書については,医学部に属する教授等の医師は,すべて附属病院本院の医師を兼ね
ているので,このような契約書が作成されることになるにすぎない。
 したがって,附属病院本院における治験薬の管理に伴う寄附は,寄附金収入とし
て非課税とすべきであり,仮にそうではないとしても,予備的に,治験薬の管理に
伴う寄附を治験収入として寄附金収入とすべきである。」
7 同頁11行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 D病院に係る寄附は,治験等に係る役務提供の対価であることを疑わせる特段
の事情があるから,純粋な寄附である。」
8 同頁18行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 E病院(番号132ないし134を除く)に係る寄附は,治験等に係る役務提
供の対価であることを疑わせる特段の事情があるから,純粋な寄附である。」
9 同27頁11行目の末尾に次のとおり加える。
「控訴人が医学部等で受け入れた寄附金のすべてが,治験等に係る役務提供の対価
とは認められるものではなく,薬学部においても,製薬会社等から寄附金として金
員が支払われた事実のみをもって,直ちに当該金員が委託研究等に係る役務提供の
対価として支払われたものと推認するのは相当ではなく,諸般の事情を個別的に検
討すべきであり,薬学部に係る寄附金については,委託研究等の対価性はなく,寄
附収入である。」
10 同28頁19行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 なお,会社と社員との関係,親と子の関係など,患者が医療行為を受けるに際
して,その患者以外の者が医療機関に治療費等を支払うことがあるから,製薬会社
等が医療機関に支払う金員については,直ちに患者に対して行った医療行為の対価
ではないということはできない。」
12 同29頁16行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 すなわち,治験が患者に対する医療行為の側面を有することを認めながら,こ
の部分に対する対価の要素はなく,すべて製薬会社等からの事務の委託等の対価で
あるとすることは,治験の実態とこれに対する金員の支払の実態を誤っている。そ
して,治験の実態に照らせば,治験の医療行為面の方がはるかに重大であり,これ
に伴う報告書の作成自体の比重は,些少のものである。また,治験自体は,新薬の
開発になくてはならないものであり,高度な先端医療として極めて重要である。国
民の健康増進,医療の発展のためになされるものであり,製薬会社等の利益のみの
ためになされるものではないから,治験の対価としての金員は,医療行為の対価と
して把握すべきである(甲9,19)。」
13 同30頁13行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 そして,上記のとおり学校法人の設置する医療機関における医療保健業のみは
収益事業として除外されており,また,平成14年4月1日以降は一定の治験等の
委託研究は,請負業の範囲から除外され,非課税とされている(甲25)のは,学
校法人のような教育機関における治験等の委託研究による対価については,課税す
るまでもないとする趣旨であるから,治験による対価については,医療保健業に当
たるので,施行令5条1項29号ハの解釈として非課税というべきである。」
14 同頁18行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 すなわち,治験等を起因とする寄附金について対価性が認められるとしても,
治験(臨床前試験,第1相試験,第2相試験,第3相試験,第4相試験と分類され
る。)の実態・本質が医療行為であることに照らし,請負業ではなく,医療保健業
に当たるものである。教育又は学術の振興,社会福祉への貢献に寄与する学校法人
の設置する病院等による医療保健業に当たるものは,仮に収益があっても,非課税
であるから,本件も医療保健業による収入として非課税になるというべきである。
 なお,医療結果報告は,治験を前提とするものであり,治験なくしてはあり得な
いものであるから,治験と一体不可分のもの,あるいはこれに付随するものとして
分断できないものというべきである。」
15 同31頁5行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 すなわち,治験による収入については,治験を医療行為と認める以上は,一般
医療行為の経費である,患者に投与した薬品の薬品費及び入院患者の給食材料費も
経費認容額の算定において考慮するべきである。」
16 同頁20行目「あっせんをしたことはない。」を「あっせんをしたことはな
く,また,あっせん手数料として金員を受領したことはない(甲16,17,2
0)。」に改める。
17 同34頁17行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 すなわち,ウエノハラスポーツヒルズは,役員登記を9年間も放置している会
社であり,休眠状態の会社である。そして,不動産競売手続は,債権者が債務者に
対し何度も請求をし,挙げ句相当の長期間にわたって返済を受けられず,また,も
はや任意には返済を受けられる見込みもないときにやむなく取られるのであること
は,経験則上明らかである。上記競売手続の申立てには費用も要するから,債権者
は,対象物件が売却できるかどうか,また,売却できるとしていくらで売却できる
かなど,いろいろな事情を考慮した上で最終的に競売手続の申立てしかないと考え
られるときに競売申立てをするものであって,債務者が返済を怠ったり,期限の利
益を失ったからというだけでは直ちに行うものではない。したがって,平成3年1
0月にウエノハラスポーツヒルズの所有する不動産につき競売手続申立てがなされ
たこと自体から,平成2年3月期において,債務者たるウエノハラスポーツヒルズ
において債務超過に陥っていることその他相当の理由により,債権者がその支払を
督促したにもかかわらず,当該貸付金から生ずる利子の額のうち最近発生利子の全
額が当該事業年度終了時において未収となっており,かつ,直近1年以内に最近発
生利子以外の利子について支払を受けた金額が全くないか若しくは極めて少額であ
ること,又は,債務者につき債務超過の状態が相当期間継続し,事業好転の見通し
がないこと,当該債務者が天災事故,経済事情の急変等により多大の損失を蒙った
こと,その他これらに類する事由が生じたため,当該貸付金の額の全部又は相当部
分についてその回収が危ぶまれるに至ったことなどの事情が十分に認められるか
ら,基本通達2-1-25に該当する事実がある。」
18 同36頁4行目「タガタ産業が業績不振で」の次に「納税申告はゼロであ
り,役員登記を約10年間も放置し」を加える。
19 同50頁9行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 したがって,治験に関して大学が製薬会社から収受する金銭は,治験薬に係る
臨床試験の試験成績に関するデータを収集・整理し,製薬会社に報告するという事
務処理に対する対価としての性格を有するものであり,このような対価の収受を伴
う治験に関する製薬会社との間の行為は政令5条1項10号所定の請負業に該当す
る。」
20 同53頁6行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 すなわち,医療収入に対する直接経費である患者に投与した薬品の薬品費及び
入院患者の給食材料費は請負業収入との関連がないので,治験収入の経費認容額の
計算をするに当たりこれを除外して計算することが相当である。」
21 同55頁22行目「施行令1項19号」を「施行令5条1項19号」に改め
る。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所の判断は,次のとおり付加・補正するほか,原判決「事実及び理由」中
の「第3 当裁判所の判断」記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決73頁10行目「あって,」の次に「むしろ,当事者がそれぞれの立場
で当該役務と報酬額を検討し,例えば当事者間で類似の契約を反復して締結する必
要性や有益性等諸事情を考慮して,等価性あるものと評価して契約を締結すれば,
契約として有効に成立するのであり,当該役務と報酬額との間に客観的に厳密な等
価性があることは契約の有効要件ではないので,」を加える。
2 同頁16行目「主張」を「証拠」に改める。
3 同74頁22行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「c もっとも,控訴人は,役務提供の対価であるかどうかは,客観的に立証でき
るものと解され,対価であることを客観的,具体的に認める事情がない限り,役務
提供の対価と認定することはできないというべきであると主張するとともに,製薬
会社としては,高名な教授等に研究費として寄附する場合,あたかも治験等の依頼
をし,その成果物としての報告書等が作成・提出されたかのようにして会社内部の
決済をしている例があるから,治験等の結果としての報告書の完成と提出がない限
り,役務提供の対価と認めることはできないと主張する。
 しかし,上記ア及びイのとおり,治験等の結果としての報告書の完成と提出がな
い場合にも,本件寄附金のうち治験等を起因とするものの中には実質的に役務提供
の対価というべき金員が存在し,治験に係る役務の提供に対する対価の支払が想定
されるものがあるので,控訴人の上記主張はその前提を欠いているから,これを採
用することはできない。」
4 同77頁末行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 なお,控訴人は,番号13の寄附金は,雑誌投稿に対するものであると主張す
るけれども,甲19,乙54,原審における証人Aの証言によっても,同事実を認
めるに足りず,他に同事実を認めるに足りる証拠はない。」
5 同79頁9行目「A教授は」の次に「番号279を除き,」を加える。
6 同頁23行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 なお,甲19,原審における証人Aの証言中には,番号43の寄附金は,医薬
品等を購入した際の返礼として支払われたものであるとの部分があるが,これら記
載及び証言は上記証拠に照らして採用することができない。また,控訴人は,番号
43の寄附金については,委託研究の結果としての報告書が存在しないので,治験
等に係る役務提供の対価ではないと主張するが,報告書の存在についての証拠がな
いことだけによって,上記認定を覆すことはできない。」
7 同頁24行目冒頭から同25行目「対し,」までを,「一方,その他の寄附金
については,番号279を除き,前記のとおりA教授が控訴人の主張に沿う内容の
説明をしており,また,甲19,乙18の<22><23>,原審における証人A及び弁論
の全趣旨によれば,番号279も292番及び293番と同様に製薬会社から返礼
として支払われたものと認めうるのに対し,」に改める。
8 同80頁22行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 もっとも,控訴人は,番号11の寄附金について,当該論文は既に執筆済みの
ものであり,当該原稿の執筆の対価としてではなく,権威のあるC助教授によって
「次回からこの本にネオヨジンの名前を出していただくことになっております。」
(乙6の①)というものであるから,論文執筆の名目で研究費を支払うこととした
のであって,治験等に係る役務の対価ではなく,まさにお礼としての純粋の寄附で
あると主張する。そして,乙6の①には,控訴人の主張のような上記文言の記載が
あることが認められるけれども,上記文言によっては,番号11の寄附金が純粋の
寄附であると認めることはできず,また,C助教授が当該論文を既に執筆済みであ
ったと認めるに足りる証拠はないから,控訴人の上記主張は採用することができな
い。」
9 同82頁9行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 ちなみに,控訴人は,附属病院本院に係る寄附金のほとんどは,治験薬の管理
を起因とするものであって,治験の実施を起因とするものではなく,管理する治験
薬の量に応じて寄附金の額も変動しているようにみられるが,治験薬当たりの単価
は具体的に決められておらず,治験薬の管理は治験を実施する医師が保管するので
はなく,薬剤部で行うものであって,治験の厳正な実施に必要なものであるから,
このお礼として寄附することは十分に考えられ,乙13の②等の契約書について
は,医学部に属する教授等の医師は,すべて附属病院本院の医師を兼ねているの
で,このような契約書が作成されることになるにすぎないとして,附属病院本院に
おける治験薬の管理に伴う寄附は,寄附金収入として非課税とすべきであり,仮に
そうではないとしても,予備的に,治験薬の管理に伴う寄附を治験収入として寄附
金収入とすべきであると主張する。
 しかし,上記認定のとおり附属病院本院は,製薬会社等との間において,治験の
実施に関する契約を多数締結した上,治験を受託していることが明らかであるか
ら,番号66を除く各寄附金は,治験等に係る役務提供の対価であって,また,治
験薬の管理に伴う寄附金と認めることはできないから,控訴人の上記主張を採用す
ることができない。」
10 同83頁19行目「同66の1ないし13」を「同13の①ないし⑦」に改
める。
11 同86頁3行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 なお,控訴人は,番号8及び9の寄附金は,治験とすることはできないし,委
託研究としての成果物も存在しない上,書面上の記載の研究機関と研究費の支払時
期も前後しているという事情が認められるので,委託研究に係る役務提供の対価を
疑わせる特段の事情が認められるから,純粋な寄附であると主張するが,上記各寄
附金はB教授の委託研究の対価であり,その支払時期等からこれを否定する理由が
ないことは,上記認定のとおりであるから,控訴人の上記主張を採用することはで
きない。」
12 同87頁11行目「実施できないことから,」の次に「高名な教授に研究費
として支出するために,名目上治験等の委託をしたかのように書類を作成すること
は理解できるところであるとして,委託研究の対価であることを疑わせる特段の事
情があるので,純粋な寄附であって,」を加える。
13 同頁24行目「番号8」を「番号6」に改める。
14 同91頁末行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 なお,控訴人は,会社と社員との関係,親と子の関係など,患者が医療行為を
受けるに際して,その患者以外の者が医療機関に治療費等を支払うことがあるか
ら,製薬会社等が医療機関に支払う金員については,直ちに患者に対して行った医
療行為の対価ではないということはできないと主張する。
 しかし,仮に臨床試験において製薬会社等が患者が本来負担すべき治療費等を負
担したとすれば,控訴人の経理上もその旨明確にされているはずであるが,このよ
うに製薬会社等が負担したといいうる個別具体的な治療費の費目,内容及び金額を
特定しうるような証拠はなく,また,製薬会社等が本来何ら人的関係や契約関係の
ない患者の治療費等を負担する法的根拠も不明である。そこで,上記認定のよう
に,製薬会社等が医療機関に支払う金員は,治験等に係る役務提供の対価であっ
て,医療機関が患者に対して行った医療行為の対価ではないというべきであって,
控訴人の上記主張は採用することができない。」
15 同93頁2行目の次に行を改めて,以下のとおり加える。
「 さらに,控訴人は,治験が患者に対する医療行為の側面を有することを認めな
がら,この部分に対する対価の要素はなくすべて製薬会社等からの事務の委託等の
対価であるとすることは,治験の実態とこれに対する金員の支払の実態を誤ってい
るものであって,治験の実態に照らすと,治験の医療行為面の方がはるかに重大で
あり,これに伴う報告書の作成自体の比重は,些少のもので,治験自体は新薬の開
発になくてはならないものであり,高度な先端医療として極めて重要であることに
加えて,国民の健康増進,医療の発展のためになされるものであり,製薬会社等の
利益のみのためになされるものではないから,治験の対価としての金員について
は,これを医療行為の対価として把握すべきであると主張する。
 しかし,或る治験が医学的あるいは社会的に如何なる意義を有するかということ
と,大学と製薬会社等が当該治験につき如何なる法律関係を形成するかということ
は別個のことであり,本件における控訴人の製薬会社等からの金員の収受は,上記
のとおり治験等に係る役務提供の対価と認められるから,控訴人の上記主張は理由
がない。」
16 同頁4行目冒頭から同7行目末尾までを以下のとおり改める。
「イ また,控訴人は,学校法人の設置する医療機関における医療保健業のみは収
益事業として除外されており,また,平成14年4月1日以降は一定の治験等の委
託研究は,請負業の範囲から除外され,非課税とされている(甲25)のは,学校
法人のような教育機関における治験等の委託研究による対価については,課税する
までもないとする趣旨であるから,治験による対価については,医療保健業に当た
るので,施行令5条1項29号ハの解釈として非課税というべきであり,また,治
験等を起因とする寄附金について対価性が認められるとしても,治験(臨床前試
験,第1相試験,第2相試験,第3相試験,第4相試験と分類される。)の実態・
本質が医療行為であることに照らすと,請負業ではなく,医療保健業に当たり,教
育又は学術の振興等に寄与する学校法人の設置する病院等による医療保健業に当た
るものは,仮に収益があっても,非課税であるから,本件も医療保健業による収入
として非課税になると主張する。」
17 同94頁22行目「誤りであり,」の次に「また,治験を医療行為と認める
以上は,一般医療行為の経費である,患者に投与した薬品の薬品費及び入院患者の
給食材料費も経費認容額の算定において考慮するべきであり,」を加える。
18 同101頁4行目「その所有不動産が」から同5行目末尾までを次のとおり
改める。
「ウエノハラスポーツヒルズは,役員登記を9年間も放置している休眠状態の会社
であり,一般に競売手続申立てがなされるということは,同申立前から債務者が債
務超過等に陥っていたことを示すものであるところ,平成3年10月にウエノハラ
スポーツヒルズの所有する不動産につき競売手続が申立てられていること自体か
ら,平成2年3月期において上記①又は②の事由に該当する事実が存在する旨主張
する。」
19 同頁14行目末尾の次に「なお,甲27によると,ウエノハラスポーツヒル
ズは,平成6年からはその役員登記はなされておらず,平成14年12月3日商法
406条ノ3第1項により解散登記がなされていることが認められる。しかし,本
件全証拠によっても,平成2年3月期において,ウエノハラスポーツヒルズが休眠
状態の会社であって債務超過に陥っていたことを認めることはできず,また,上記
ア①又は②の事由に該当する具体的事情を認定することもできないから,控訴人の
上記主張を採用することはできない。」
20 同105頁14行目「タガタ産業が業績不振で」の次に「納税申告はゼロで
あり,役員登記を約10年間も放置し」を加える。
第4 結論
 よって,控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであって,これと同旨の
原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,控訴
費用の負担について,行訴法7条,民訴法67条,61条を適用して,主文のとお
り判決する。
東京高等裁判所第24民事部
裁判長裁判官 大喜多啓光
裁判官 水谷正俊
裁判官 河野清孝

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