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裁判例


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       主   文
一 被告は、兵庫県美方郡αに対し、金八五八万円及びこれに対する平成九年九月
一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
主文同旨及び仮執行の宣言
第二 事案の概要
一 争いのない事実
 兵庫県美方郡β六一九番二八六平方メートルの土地(以下「本件土地」とい
う。)は、土地改良法に基づき兵庫県美方郡α(以下「α」という。)が井土今岡
金屋圃場整備事業として行った土地改良事業の平成元年三月二五日換地処分により
創設され、αの所有とされた公衆用道路であったところ(平成七年一二月二〇日所
有権保存登記経由)、αは、本件土地を含む地域に下水道処理場施設を建設するに
際し、本件土地をいったん平成七年一二月二〇日にA所有のγ四八九番三田二四〇
平方メートルと交換したうえ(同月二一日付けで、本件土地につきA名義に、四八
九番三の土地につきα名義に各所有権移転登記経由。以下「本件交換」とい
う。)、本件交換によりA名義となった本件土地を改めて買収し(平成九年二月一
三日買収を原因として、同月一八日所有権移転登記経由)、平成九年二月一八日ま
でに右買収費八五八万円を支出した。
 本件交換について、α議会の議決は経ていない。
 原告らは、本件訴訟に先立つ平成九年六月二四日、右買収費の支出を違法とし
て、α監査委員に対して監査請求をしたが、同監査委員は、同年八月一二日、原告
らに対し監査請求を棄却する旨の通知をした。
二 本件訴訟
 本件訴訟は、αの住民である原告らが、本件土地の買収費八五八万円の支出(少
なくとも、本件土地の面積がA所有の四八九番三の土地の面積を超える四六平方メ
ートル分に対応する一三八万円の支出)は違法であると主張して、αに代位して、
平成九年度にαの町長の職にあった被告に対し、右買収費相当額八五八万円(予備
的に一三八万円)の損害賠償及び平成九年九月一四日(訴状送達の日の翌日)から
支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を請求している住民訴
訟である。
三 争点
 本件土地の買収費の支出は違法であるか。
四 争点に関する当事者の主張
(原告の主張)
1(一) 本件交換は以下の理由により無効である。
(1) 本件土地は公衆用道路であり、行政財産であるところ、本件交換は、用途
廃止もすることなく本件土地を私有地と交換するも
のであるから、地方自治法二三八条の四に違反し、無効である。
(2) また、αには公有財産の交換に関する条例はないところ、本件交換は、議
会の承認も無いままされたものであるから、地方自治法九六条一項六号及び同法二
三七条二項に違反し、無効である。
 被告主張の本件土地をαが購入することについての議会の議決は、その議案自体
においても議会における町当局の説明においても本件交換については何ら触れられ
ていないから、本件交換についての追認の趣旨が含まれるはずがない。
(3) 本件交換、買収の結果、αは下水道処理場用地の外に本件土地とほぼ同面
積の土地(四八九番三の土地)を取得しただけであり、そうであるなら、本件土地
をそのまま下水道処理場用地として利用し、別途、道路用地が必要ならこれを買収
すればよかったはずである。にもかかわらず、そのような方法を採らなかったの
は、そのような方法では別途道路用地を買収する事業は町単独事業として行わなけ
ればならないのに対し、下水道処理場用地の買収には国県の補助金があるので、交
換して本件土地を私有地としてから買収した方が町費の負担が少ない、との理由に
よるもののようであるが(証人Bの証言)、これは国県税の不当な取得である上
に、行政手続の正確性・透明性・公平の観点からみて違法な目的をもった手続であ
り、その目的の違法性は本件交換をも無効にするというべきである。
(二) 本件交換が無効である以上、αは、本件交換に基づいてA名義とはなった
が、本件交換が無効であることによりα所有のままである本件土地を買収したこと
になるから、買収代金八五八万円の支出は違法である。
2 仮に、議会の承認の有無が問題にならないとしても、本件交換、買収の経緯か
らすると、αは、結果的に二四〇平方メートルの土地(四八九番三の土地)を二八
六平方メートル(本件土地の面積)として買収したことになるから、少なくとも四
六平方メートル分一三八万円の支出は、理由のない違法な支出である。
 なお、右一三八万円はAがαに返納すべきであるが、Aから直接地権者に支払わ
れたとしても、αの支出が違法でなくなるというものではない。
(被告の主張)
1 本件土地は、法律的には、形式的にも実質的にもαの所有となったものである
が、土地改良事業の際、地権者の無償提供により道路として創設されたものであ
り、αとしては、地権者に対し、本件土地を道路として
使用させるべき義務を負っていた。そのため、今回、その道路である本件土地をα
の意向で下水道処理場用地に用途変更するに際しては、他に代替道路用地を確保す
るとともに、右代替道路用地が本件土地に比して面積が不足する分については補償
をする必要があった。そこで、下水道処理場建設予算から支出するために、本件交
換をした上買収する措置がより便宜であったのである。
2 本件交換の際には議会の議決を得ていないが、その後、本件土地をαが購入す
ることについては議会の議決を得ており、本件交換を前提として、結果的には二四
〇平方メートルの土地を二八六平方メートルとして買収して、四六平方メートル分
の買収代金一三八万円は、井土今岡金屋圃場整備組合が取得することになること
も、議会の承認を受けている。したがって、本件交換については、議会の追認が得
られたというべきであり、その手続に違法性はない。
第三 当裁判所の判断
一 前記争いのない事実に証拠(甲三ないし一一、一二の4、一五、乙三二の1な
いし3、証人B、同A、同C)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認めら
れる。
1(一) αは、特定環境保全公共下水道事業として下水道処理場の建設を計画
し、本件土地(公衆用道路)を含む地域にその用地を取得することとした。しか
し、処理場建設予定地内に二〇一二平方メートルの田を所有するDが買収に応じず
代替地を希望したので、予定地外にγ四八九番一田八四二平方メートルを所有する
A及び同四八九番二田一四一〇平方メートルを所有するEが自己所有地を代替地に
充てるためにD所有地との交換に応じてもよいと申し出たが、右のとおりA及びE
の所有地の合計面積二二五二平方メートルはD所有地より二四〇平方メートル多か
った。
(二) そこで、αは、下水道処理場建設用地になる本件土地が土地改良事業に基
づき地権者の所有地の減歩によって創設された公衆用道路であったことから、これ
を公衆用道路でなくする以上は地元に還元する必要があると考え、地元からの道路
の付替えの要望に従い、A所有の四八九番一の土地のうち右超過分の二四〇平方メ
ートルを付替え道路の用地とし、さらに付替え道路の面積が本件土地(二八六平方
メートル)より四六平方メートル小さいことに対して補償することを考えたが、補
償金の出所がなく、また、本件土地を町有のまま下水道処理場用地として利用して
別途新たに公衆用道路用地と
して右二四〇平方メートル分を買収したのでは、右買収につき国の補助金が得られ
ないので、同補助金が得られるように、右買収費を下水道事業の予算から支出する
ために、本件土地をA所有の四八九番一の土地から分筆すべき二四〇平方メートル
(分筆後の四八九番三の土地)と交換してAの所有地とした上で、そのAの所有地
となった本件土地(二八六平方メートル)を改めて同人から買収することとした。
2 αは、本件土地とA所有地二四〇平方メートルとの交換(本件交換)につい
て、本件土地が右のとおり地権者の所有地の減歩によって創設された公衆用道路で
あったことから、議会事務局とも相談のうえ、実質的な権利者は土地改良事業に参
加した地権者であるとして、議会の議決を要しないとの見解に立ってこれを経ない
で処理することとし、平成七年一一月二〇日付けの「下水道処理場用地確保に関す
る覚書」と題する書面にD、A、E及び「兵庫県α 実質権利者 井土今岡金屋圃
場整備組合運営委員長 C」が記名押印することにより、本件土地とA所有の四八
九番一の土地のうち二四〇平方メートル(分筆後の四八九番三の土地)を交換する
旨の合意を含む前記一連の交換をする旨の合意がなされた。同覚書において右のよ
うにαではなく「兵庫県α 実質権利者 井土今岡金屋圃場整備組合運営委員長 
C」が記名押印したのは、前記のとおり本件交換については議会の議決を要しない
との見解に立つとしても、αが交換の合意の当事者として覚書に記名押印をすれ
ば、議会の議決を要する案件であるかのような様相を呈するので、これを避けるた
めであった。なお、同覚書は、αの職員が起案し、個別に各人から押印を徴するこ
とにより作成された。
3 α長(被告)は、平成八年六月一七日、α議会に対し、平成八年六月議会議案
第四四号として、特定環境保全公共下水道の処理場用地に供するため、兵庫県町土
地開発公社との間で本件土地を含む七筆の土地合計六八八九平方メートルを二億〇
六六七万円で取得する契約を締結するについて、議会の議決に付すべき契約及び財
産の取得又は処分に関する条例三条の規定により議会の議決を求めるとの議案を提
出し、議決を得た。
4 本件土地は、本件交換により平成七年一二月二一日付けでA名義に所有権移転
登記がされ、改めて同人から右開発公社を通じてαに買収された。本件土地の買収
代金八五八万円(平方メートル単価三万円)を
含む買収代金が平成九年二月一八日までにA名義の銀行口座に振り込まれて支払わ
れたが、αは、本件交換に供したA所有地(四八九番三の土地二四〇平方メート
ル)の面積が本件土地の面積より小さい四六平方メートル分である一三八万円は地
元に補償金として交付すべきであるとして、町職員がAから委任状を徴して、平成
九年三月四日、同人名義の銀行口座から右一三八万円を引き出し、同額を地域営農
事業特別会計、井土区長普通預金口座に振り込んだ。
二1 右一の事実によれば、本件土地は町有財産であるから、仮に本件土地が普通
財産であるとしても、αに公有財産の交換に関する条例が存すると認めるに足りる
証拠がない以上、本件土地を交換に供するについては、地方自治法九六条一項六号
及び二三七条二項により議会の議決を要するところ(議会の議決を要することにつ
いては被告も争わないところである。)、本件交換は、議会の議決を経ずになされ
ているから、右条項に違反し無効であるというほかない。したがって、本件交換に
よって本件土地の所有権がαからAに移転することはなく、Aからの買収時におい
ても本件土地の所有権はαにあったというべきであり、本件土地の所有権がαにあ
った以上、αが本件土地を買収する必要はないから、本件土地の買収費八五八万円
の支出は、必要がないのになされたものであって、違法であることが明らかであ
る。
2 被告は、本件土地を買収するについて議会の議決を得たことをもって、本件交
換について議会の追認が得られたというべきである旨主張する。
(一) しかしながら、本件土地を買収するについて議会の議決を得た前記一3認
定の平成八年六月議会議案第四四号の内容は、同認定の内容にとどまる上、本件土
地の登記簿上の地目は「公衆用道路」である(甲三)にもかかわらず、右議案の審
議資料においては、本件土地の地目は「田」と記載されており(甲一五)、右議案
では、交換により個人所有名義とされた町有地の買収事案であることに気付き難い
と解される。
(二) 甲第一四号証(平成八年六月議会議事録抜粋)によれば、平成八年六月一
七日から二五日にかけて開催されたα議会において、議案第四四号につき、処理場
用地の中に農道があるが、その農道の確保についてはどのようにしたのかとの議員
の質問に対し、αの水道課長は、公簿上の名義はαだが、実質の所有権は圃場整備
組合にあり、右組合との話合いの中
で円満解決をしたい旨答弁していることが認められる。
 しかし、議案第四四号提出の時点では、すでに本件交換がなされ、登記手続も済
んでいたにもかかわらず、議案第四四号自体においてはもちろん、右答弁において
も、本件交換については何ら触れられておらず、他に本件交換について議会の審議
にかけられたことを認めるに足りる証拠はない。
(三) そうすると、仮に、ある議案の議決によって右議案の前提事項について追
認の議決を得たということができる場合があるとしても、本件においては、議会が
町当局を深く追及していればあるいは本件交換の存在につき言及する答弁を引き出
せた可能性はあったものの、現実に本件交換につき審議がされたとは認められない
以上、本件土地の買収について議会の議決を得たことをもって本件交換について追
認が得られたとみることはできない。よって、被告の主張は採用することができな
い。
三 以上のとおり、本件土地の買収費八五八万円の支出は違法であるから、その余
の点を検討するまでもなく、被告は、当時αの町長の職にあった者として、右支出
によりαの被った同額の損害を同町に対し賠償する責めを負うものといわなければ
ならない(本件交換が無効である以上、αもA所有の四八九番三の土地の所有権を
取得し得ないから、右八五八万円全額をもってαの被った損害といわざるを得な
い。)。
四 結論
 よって、原告の請求を認容することとし、主文のとおり判決する(なお、仮執行
の宣言は、事案にかんがみ相当でないから、これを付さないこととする。)。
神戸地方裁判所第二民事部
裁判長裁判官 水野武
裁判官 田口直樹
裁判官 大竹貴

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