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裁判例


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○ 主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨(原告ら)
1 原告らの大阪法務局北出張所昭和五六年九月二一日受付第四六五一五号抵当権
設定登記申請につき、被告が同年一〇月六日付でした却下処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二 当事者の主張
一 請求の原因(原告ら)
1 原告らは、昭和五六年九月一八日、司法書士である原告Aに対し、別紙抵当権
目録記載の抵当権設定登記申請の代理権を授与し、別紙のとおりの代理権限授与証
明書(以下本件証明書という)を作成して同人に交付した。
2 原告Aは、昭和五六年九月二一日大阪法務局北出張所に出頭して、同原告及び
その余の原告の代理人として右抵当権設定登記の申請をなし、その申請書に添付に
て本件証明書を提出した。
3 右申請は同出張所同日受付第四六五一五号をもつて受付けられたが、同出張所
登記官Bは、同年一〇月六日付で右登記申請に不動産登記法(以下、法という)三
五条一項五号に定める代理権限を証する書面の添付がないことを理由として右登記
申請を却下する処分をした。
4 右却下処分は次の理由により違法である。
(一) 法三五条一項五号は、代理人によつて登記の申請をする場合、その権限を
証する書面を添付しなけれぼならない旨定めているが、右書面の形式、内容につい
ての具体的な定めはなされていないから、右書面は登記申請の代理人が当該代理権
限を有している事実を証明する書面であれば足り、委任状の形式によらなければな
らないものではない。
(二) しかも、原告らが登記申請にあたり代理人に交付した本件証明書は、授与
者である本人らが代理すべき事項と期間を明示して自ら作成した書面であつて、代
理権限の存在を証するという点において最も直接的で確実な書面といえるから、委
任状と比べてその証明力に劣る点はなく、いわゆる処分証書でないことのゆえに前
記条項の解釈上委任状と異なる扱いを受けるいわれはない。なお、作成日、有効期
間の起算日を示す本日という文言から代理権授与の日が作成日であることの事実も
証明している。
現に実務にあつても、法定代理権限を証する書面と1して戸籍橙本、代表権限を証
する書面とし)ていわゆる資格証明がそれぞれ添付されており、法三五条一項五号
にいうところの代理権限を証する書面がいわゆる処分証書に限られないことを示し
ている。
さらに、処分証書は本来いつまでも受任者が所持しでいるべきもので、第三者に交
付することを予想していないものであるから、法三五条が法務局に提出を求めてい
る書面について処分証書を求めていると解することはできない。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1項中、原告Aが司法書士の資格を有することは認めるが、その余
は不知。
2 同2、3項は認める。
3 同4項は争う。
三 被告の主張
原告Aが大阪法務局北出張所に提出した本件証明書は、次に述べるとおり法三五条
一項五号にいう代理権限を証する書面に該当しないから、その添付がないことを理
由として原告らの登記申請を却下した被告の却下処分には何らの違法もない。
1 法三五条一項五号にいう代理権限を証する書面が具体的にどのような書面であ
るかについての法令の定めはないが、そのことのゆえに代理権限の存在を証明する
という書面のすべてがこれに該当することになるわけではなく、同条の趣旨や不動
産登記制度の趣旨等を考察し、同条項がどのような書面を予定しているかを検討し
なければならない。
2 即ち、法が代理人によつて登記の申請をする場合に代理権限を証する書面を添
付させる趣旨は、登記官に形式的審査権限しか与えず、大量かつ迅速な処理が予定
されている不動産登記制度のもとで、登記の申請が真正な代理人によつてなされる
ことを担保することにあるから、右代理権限を証する書面についても、登記官の形
式的審査によつて代理権限の有無を判断しえるだけの十分に証明力の高い書面が要
求されているものといえる。
この点、同じく代理権限を証する書面の提出が必要とされる場合であつても、訴訟
代理権限の存否が受訴裁判所の職権調査事項に属し、民訴法八〇条二項により私文
書である訴訟代理人の権限を証する書面について公証人の認証を受けることを命ず
るなど、受訴裁判所において訴訟代理権限の存否について事実調査を行ないうるこ
とから、訴訟代理人の権限について、訴訟委任状に限らず他の書面で授権の事実を
明らかにしてもよいとされている(大審院昭和一七年三月二六日判決、民集二一巻
二七三頁)民事訴訟の場合とは対照的である。
3 ところで、一般に代理人によつて登記申請をする場合、代理権限を証する書面
として委任状が用いられており、これが法三五条一項五号に該当する書面であるこ
とに異論はない。
委任状は本人の代理人に対する代理権授与行為そのものを記載した文書であり、そ
の記載日時に、その記載内容の代理権授与行為があつたことを代理人をして証明さ
せるものであり、処分証書であるがゆえに同時に提出される印鑑登録証明書等によ
り文書の成立が認められれば、その文書記載の法律行為がなされたことが認められ
ることとなり、その意味で直接的な証明力を有するものである。なお、処分証書で
あることから、委任の終了等により代理権限が消滅した場合にはその回収等の処置
がとられることが予定されている。
本件証明書は授権者本人によつて証明されているものではあるが、本人が代理人を
して代理権限授与行為そのものを証明させるものではなく、法務局に対し本人が代
理人に代理権限を授与した法律効果を証明するものにすぎず、それゆえ代理権授与
行為が行われた日時等を明らかにすることはなく、また、代理権限の消滅に伴つて
代理権限授与証明書の回収等の処置がとられることを予定した文書でもない。
したがつて、代理権限授与証明書の証明力は委任状と比較してかなり低いものとい
わざるを得ない。
4 さらに、法が代理権限を証する書面として私人作成の証明書を原則として許容
していないことは、次の点からも明らかである。
不動産登記法施行細則(以下、細則という)は、法三五条一項五号の規定により提
出すべき代理権限を証する書面にして官庁又は公署の作成するものはその作成後三
か月以内のものに限る旨定めているが(細則四四条)、私人が作成する証明書等に
ついて何ら有効期限を定めていない。私人作成の証明書よりもその証明力が高いと
考えられる官公署作成の証明書等にことさら有効期限を設け、私人作成の証明書等
に触れなかつたのは、そもそも法三五条一項五号の代理権限を証する書面として私
人作成の証明書を予想しておらず、委任状が右書面に該当し、これが処分証書にあ
たることから有効期限を定めることになじまないと考えていると思われる。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 司法書士の資格を有する原告Aが、昭和五六年九月二一日大阪法務局北出張所
に出頭して、同原告及びその余の原告の代理人として別紙抵当権目録記載の抵当権
設定登記の申請をし、その申請書に添付して本件証明書を提出したこと、その申請
が同出張所同日受付第四六五一五号として受付けられ、被告が同年一〇月六日付で
登記申請書に必要な書面の添付がないという理由で右申請を却下したこと及びその
添付がないとされた書面が法三五条一項五号に定める代理権限を証する書面である
ことは当事者間に争いがない。
二 本訴の争点は本件証明書が法三五条一項五号の書面にあたるか否かであるか
ら、以下この点について判断する。
1 法は代理人によつて登記を申請する時はその権限を証する書面の提出を義務づ
けているが(法三五条一項五号)、その書面の方式、内容について特に規定すると
ころがない(但し、法七七条一項参照)。ここで代理人とは法定代理人、任意代理
人及び法人の機関をいうものと解せられているが、弁論の全趣旨によれば、登記実
務上一般に代理権限を証する書面として、法定代理人の場合については戸籍謄本、
任意代理人については委任状、法人の機関についてはその法人の代表者資格を証す
るもの、例えば登記簿謄本又は資格証明書が用いられていることが認められる。
しかし、法文が単に権限を証する書面とのみ定め、その書面の方式、内容について
特に規定せず、右登記実務上の取扱いからも明らかなように、代理権限を証する書
面といつても、公文書も私文書もあり、また報告文書の場合も処分証書の場合もあ
ることからすると、法三五条一項五号の書面として、任意代理の場合処分証書であ
る委任状以外の文書が全く排除されていると解釈することは同条の文言からだけで
はできない。
そこで、任意代理の場合いかなる内容の書面が求められているかは、登記手続の関
係法規との関連で更に検討を要する。
2 登記は不動産に関する権利関係を公証するものであるから、実体上の物権変動
を正確かつ迅速に公示することが望まれる。登記は登記官によつて扱われ、登記申
請がなされると、登記官が管轄、登記適格、当事者、申請意思、登記原因について
確認をし、登記の許否を決することになる(法四九条)。その確認のための審査は
原則として申請書主義をとつているから(例外は表示に関する登記)、提出された
書類のみにもとづいて実体法上及び手続法上の問題を審査することになる(書面審
査主義)。
3 代理人によつて登記申請がなされた場合、登記官は申請書に添付して提出され
た代理権限を証する書面自体及び他の添付書類を審査して、当事者が代理人によつ
て登記する意思を有することの確認をしなければならないから(一旦登記がなされ
ると、代理権限の瑕疵を理由として当該登記の無効を主張するためには当事者間ー
登記権利者・義務者間ーで代理人に代理権限を授与したか否かが争われることにな
るが、登記官が登記申請を受理する際に審査すべき点もまさに右の代理権限授与の
意思表示の存否である)、代理権限を証する書面はその確認に資する内容を包含
し、しかも書面審査の建前からも後日疑問を残さないような信用性のあるものであ
ることが要求され、その意味で証拠価値の高いものでなければならない。
法定代理人及び法人の機関の場合に用いられている戸籍騰本、登記簿騰本等はその
記載の身分事項、登記事項等が公簿に登記されている事実が明らかにされ、その事
実から法定代理権や代表者資格を肯定させ、これを公証するための公簿の騰本で、
しかも細則四四条により作成後三か月以内のものに限られているから、右要求を満
す書面であることに異論をみない。
4 任意代理人の場合、委任状が提出されると、それが処分証書であり、証明すべ
き法律行為が文書自体に包含されていることから、その文書が真正に成立したと認
められると、経験則上内容である法律行為(登記申請の場合申請にかかる当該登記
の申請行為の授権)の存在が認められ(反証をあげて争うことが容易でない)、法
律行為のなされたことが証明される。そして、登記申請書には登記義務者の印鑑証
明書が添付されるから(細則四二条、四二条ノ二)、登記官はその印鑑証明書の印
影と委任状の印影とを対照することにより、少くとも登記義務者に関する限り容易
に委任状の成立を確認し得る。
5 本件の証明書はいわゆる報告文書といわれるもので、文書の内容をなす作成者
の表現された思想を資料として法律行為の存在を証明しようとするものであるか
ら、それが真正に成立したと認められても、作成者の表現する思想の存在が認めら
れるにすぎず、証明しようとする法律行為の存在とは観念上別個(証明しようとす
る法律行為が存在しないことも考えられる)なものである。この点処分証書が即法
律行為を包含し、その真正な成立が認められると内容である法律行為の存在が認め
られ、その書面に法律行為が存在するがゆえに、その撤回、取消あるいは無効の主
張等に制限が存することと対比すると、報告文書は登記官の書面審査のもとで登記
申請の代理権限を証明する方法としては、処分証書である委任状と比べて証明すべ
き法律行為の存否の判断につき証拠価値に格段の差があるといわねばならない。
さらに本件証明書についていえば、その記載内容は原告らが原告Aを代理人と定め
て、別紙抵当権目録記載の抵当権設定登記申請をする一切の件に関する代理権限を
授与しているという観念の通知と、証明書の有効期間を作成日(昭和五六年九月一
八日)から向う三か月間とする意思の通知がなされているもので、その原因をなす
授権の意思表示が何時誰に対していかなる方式でなされたかの事実について何ら触
れるところがない。したがつて、本件証明書の記載内容からは、登記官において代
理権限発生の原因事実を確認し得る資料がないといわねばならない(登記官は単に
代理権を与えた旨の観念の通知の存在のみを認識しうる)。
原告らは証明書発行日が授権の日である旨主張するが、証明書の有効期間の記載が
あることから証明書発行日に授権がなされたと認めるべきであるとする経験法則は
ない(現に本訴において、原告C及び同Dが弁護士岡田尚明に訴訟代理権限を授権
した旨の代理権授与証明書を裁判所に提出しているが、当裁判所が訴訟代理人に対
し授権が何時、どのような方式でなされたかを釈明したところ、同弁護士は裁判所
へ提出した代理権授与証明書の作成日付の数日前に原告Cについてはその夫Aを通
じ、原告Dについてはその夫Eを通じ、それぞれ口頭で授権の意思表示がなされた
旨釈明していることからみれば、証明書作成日付と授権の意思表示がなされた時と
は区別されるべきものであり、右証明書の記載内容からだけでは代理権限授与の方
式等を明確にしえないことが明らかである)。
6 以上の検討により明らかなように、任意代理人の場合その権限を証する書面と
して、処分証書である委任状と報告文書である証明書とではその証拠価値に著しい
差のあること、殊に本件証明書は登記官において代理権限の発生を確認し得る資料
に値いしないものであること、したがつて、本件証明書が委任状あるいは法定代理
人及び法人の機関の場合に提出される戸籍謄本、登記簿謄本等の証明文書と対比し
て、その記載内容及び信用性の両面からみて著しく証明力の劣るものであることは
明らかである。任意代理の場合代理権限授与の証明が公正証書によつてなされてい
るような場合は格別、本件証明書のように授権行為の存在を証明するに十分でない
書面は法三五条一項五号の書面にあたらないといわざるを得ない。
三 そうすると、被告が原告らの登記申請の審査に際し、登記申請書に添付されて
提出された本件証明書について法三五条一項五号に定める代理権限を証する書面に
あたらないと判断し、登記申請に必要なる書面の添付がないという理由で登記申請
を却下したことに違法な点はなく、原告Aが本件証明書以外に授権を証する書面を
提出していないことは弁論の全趣旨により明らかであるから、右登記申請却下処分
は適法なものと認められる。
四 よつて、原告らの本訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行
訴法七条、民訴法八九条、九三条に従い主文のとおり判決する。
(裁判官 志水義文 宮岡 章 中川博之)
別紙抵当権目録(省略)

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