弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

(事案の要旨)
被告人が,同居して介護に当たっていた認知症の被害者(被告人の実姉)の
反抗的態度に立腹し,被害者に対し,無理やり寝かせようと考えて,被害者の
左脇腹付近に自分の右膝を乗せて圧迫するなどの暴行を加え,死亡させた事案
主文
被告人を懲役3年6月に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,平成17年8月2日午後2時ころ,北海道江別市a町b番地のc
A(当時71歳)方において,自己が介護に当たっていた実姉である同女の反
抗的態度に立腹し,同女に対し,同女が布団から起きあがろうとするや,無理
やり寝かせようと考え,その両肩付近を両手で押さえ付け,その左脇腹付近に
右膝を押し付けるなどして同女を押し倒し,さらに,同女の両肩付近を両手で
押さえ付けたまま,同女の左脇腹付近に右膝を乗せて圧迫するなどの暴行を加
え,同女に肋骨多発骨折の傷害を負わせ,よって,そのころ,同所において,
同女を上記傷害に基づく動揺胸郭及び外傷性気胸による窒息並びに筋肉内出血
による出血性ショックにより死亡させたものである。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
第1争点
弁護人は,被告人は,両手で被害者の両肩を押さえ付けたが,これは被告人
が介護する立場上,被害者におとなしく寝ていてもらいたいとの一心から行っ
たものであって,不法な暴行には該当しない,そして,被告人は他に暴行を加
えておらず,仮に両肩を押さえる以外の暴行があったとしても,故意がないの
で過失致死罪が成立するにすぎず,本件公訴事実(判示事実と同旨)について
被告人は無罪であると主張する。被告人は,捜査段階においては,公訴事実に
沿う自白をしていたが,公判においては,布団の上で上半身を起こした被害者
の両肩を押して,被害者を倒したことはあるが,その後,暴行を加えた記憶は
ないと,弁護人の上記主張に沿う供述をしている。
第2被害者の死亡経過の概要及び死因
1被告人の捜査段階の供述のうち任意性に争いのない部分及び被告人の公
判供述,被害者の死亡に関する客観的証拠によれば,以下の事実は明らかであ
る。
被告人は,平成15年4月から,認知症・舞踏病に罹患していた被害者と2
人で同女方に住み,その介護をしていた。
本件当日の平成17年8月2日の午後2時ころ,被害者は自宅の自分の布団
が敷いてある部屋で,冬物のカーディガンを着ていた。被告人は,被害者が夏
なのに冬服で外を歩いたりすれば近所の人に笑われるなどと思い,被害者にカ
ーディガンを脱ぐように言った。しかし,被害者がこれに従わなかったことか
ら,両手で被害者の両手首を掴んでひねり上げ,被害者が両腕を振るって抵抗
すると,左手を放して被害者のカーディガンを掴んで引っ張り,これを無理や
り脱がせた。被害者は,その反動で布団の上に倒れたが,そのころ「ひどい
ね。」などと言った。被告人がそのカーディガンをしまって,再び被害者を見
ると,被害者は,上半身を起こそうとしていた。そこで,被告人は,被害者に
寝ていて欲しいなどと思い,「寝ときっ。」と言って,両手で被害者の両肩を
押して被害者を布団の上に倒した(この押し倒した態様や,その後右膝を乗せ
て圧迫したことなどについて争いがある。)。
その後,被告人は,被害者が布団の上でおとなしくなったことから,被害者
に掛布団を掛け,被害者のおむつを買いに出かけた。被告人は,帰宅後の同日
午後4時半過ぎころ,被害者に声をかけたが返事がなかったため,被害者の様
子を見ると,被害者は,被告人が買い物に出かけたときと同じく,上記布団を
掛けた状態で横になっていた。被告人は,さらに被害者の顔を叩くなどしたが,
反応がなかったため,救急車を呼び,被害者は病院に搬送されたが,その後死
亡していることが確認された。
2被害者の死体の鑑定書(以下「本件鑑定書」という。)及び同鑑定を行
った医師Bの警察官調書によれば,①被害者の死亡推定時刻は,平成17年8
月3日午後3時17分の解剖開始前約24時間前後であること,②死因は,左
右側胸部打撲ないし圧迫によって肋骨多発骨折を来たし,その結果生じた,動
揺胸郭及び外傷性気胸による窒息並びに広範囲の筋肉内出血による出血性ショ
ックであること,③上記肋骨多発骨折が生じた原因は,同死体には外部所見と
して,左側胸部後に19cm×8cmの変色が,右側胸部にも同様の変色が存
在したことから,胸部の左右やや後からのある程度の面を持った物体による打
撲ないし圧迫であることが認められる。そして,上記1の被害者が死亡した経
緯を併せて検討すれば,上記肋骨多発骨折は,被告人が本件当日午後2時ころ,
被害者を上記のとおり布団の上に倒したときから被害者がおとなしくなるまで
の間に生じたものと認めることができる。
第3自白の任意性及び信用性について
1被告人の自白の内容
被告人は,平成17年9月27日から同年10月3日まで任意の取調べを受
け,同日付け警察官調書において,以下のように被害者に対する暴行を自白し
た。
すなわち,「当時,姉に抵抗されたことや文句を言われたことで頭に来てい
て,静かにさせて,昼寝をさせるため無理矢理布団に押し倒した時,自分の足
が姉の胸辺りを押し付けていることは間違いなく,自分の83キロの体重が姉
の胸にのしかかり,起き上がれないようにしたことも間違いないのです。」
「(カーディガンをしまった後)姉を見ると布団の上で上半身を起こし私に向
って『ひどいねえ。』と言う言葉を言って来ました。」「上半身を起こした姉
は,真っすぐ正面を向いていたか,立ち上がろうとして,少し右側を向いてい
たように思います。私は姉の左側の腹辺りから胸にかけ,右膝もしくは両膝か
らすねの辺りを押し付けて,うるさい姉を押し倒しました。その時,両手で姉
の体を押していると思います。当然,私の膝からすねに私の体重がかかり,つ
まりは姉の腹から胸にかけて,私の83キロの体重が思いっきり,かかってい
ます。腹が立っていたので30秒程はそういう状態で押し付けていました。(
その後,被害者がおとなしくなり,掛布団を掛けてその部屋を出た。)」とい
うものである。
被告人は,同月4日午前零時55分に通常逮捕され,警察官・検察官の各弁
解録取及び勾留質問でも,被疑事実(被害者に,左胸付近を膝で強く押し付け
る等の暴行を加えて死亡させた旨)を認めた。その後の供述調書も,犯行状況
に関するもの(同月11日付け警察官調書,同月18日付け検察官調書はほぼ
同趣旨であるが,乙7号証(同月18日付け検察官調書)では,要旨「ひどい
ねと非難されとても腹が立った。今はおとなしく寝ててほしい,起き上がって
こないで欲しいと思った。そこで,起き上がろうとしている姉に対し,前屈み
の姿勢をとり,両手で姉の両肩付近を押さえ,自分の右膝を姉の左の脇腹辺り
に押し付け,布団の上に押し倒した。『今は,おとなしくしてて。起きてこな
いで。』という一心で,両肩付近を両手で押さえつけ,右膝を左脇腹付近に乗
せて,そのまま姉の上に乗っかり,10秒から30秒位布団に押さえ付け
た。」と述べている。
2弁護人の主張
弁護人は,被告人の上記10月3日付け警察官調書の自白部分につき,任意
性・信用性がないと主張する。すなわち,取調べ担当のC警察官は,本件鑑定
書等から暴行態様を想定した上,記憶がないという被告人の供述を聞き入れず,
婦人警察官を被害者役にして被告人に再現を求め,「違う。もうちょっとこっ
ちだ。もうちょっと左わきのほう。うんそうそう。」などと暗に指示したり,
納得の合図を出したりした。被告人は,C警察官の誘導に迎合して体位を再現
し,自白調書の作成に応じたというのである。弁護人は,その後の上記検察官
調書等についても,訴えを取り合ってもらえない被告人が絶望感,無力感に陥
って供述したもので,同様であると主張する。被告人も,公判において,これ
らの主張に沿う供述をしている。
3任意性について
(1)証人Cの公判供述,被告人の公判供述等の関係証拠によれば,10月
3日に被告人が犯行を自白する前の経緯は,以下のとおりである。
被告人は,平成17年9月27日から10月2日まで,毎日,D警察署に出
頭してC警察官から取調べを受けた。被告人は,被害者ともめごとになり,カ
ーディガンを脱がせた反動で,被害者が布団の上に倒れたことを認め,一時は,
被害者を蹴ったとも供述したが,そのほかの暴行は否定し(C証言),あるい
は,被害者の肩を押して倒したが,あとは分からない(被告人供述)と供述し
ていた。C警察官は,同月1日,本件鑑定書等による情報に基づき,被害者の
肋骨が多数折れていたことを説明して,被告人を問い質した。このころ,被告
人は自宅で自殺を図っている。同月2日夜,被告人は,被告人の次女のEとの
電話で「全部正直に話して。」などと言われ,同女に対し,「ママもそれが原
因でそうなったと始めは思っていなかったんだ。警察の人から話を聞いて,あ
れが原因でお姉ちゃんが死んだということが分かった。」などと話した(Eの
警察官調書)。次女との電話の後,被告人は,自宅近くにいた捜査員に対し,
「踏ん切りがついた。明日はちゃんと話しますので,担当の刑事さんにお伝え
下さい。」などと述べた(捜査報告書)。
そして,被告人は,同月3日午前10時50分ころから,D警察署で再び取
調べを受けた。
(2)C警察官は,被告人が自白した経緯について,以下のとおり証言する。
10月1日に肋骨骨折について説明したときは,被告人は,怖いと言って泣
いていた。2日には,肋骨骨折のことを聞いて,あっと思うようなことがある
が,それについては言えないと述べていた。3日の取調べでは,被告人は,服
を脱がせて倒れた後,被害者を寝かそうとしたときに,左側の脇腹を(右膝だ
けか両膝かはあいまいだったが)膝で押さえつけたということを最初に言った。
Cは,解剖医から,「左あるいは前からの暴行があったのであれば,右あるい
は後ろからも暴行があった可能性がある。」と聞いていたので,被告人が左側
から膝を押し付けただけというのは納得がいかず,何度も右側に回り込んでい
ないかなどと質問したが,左側だけからという点は一貫していた。そこで,婦
人警察官に取調室の壁を右側にして仰向けに寝てもらい,被告人に再現させた
ところ,被告人は,同警察官の左の腰の辺りに位置して,しゃがみ込むように
右膝を脇の方に当てるようにした。被告人は,すんなりその姿勢を取っており,
被告人に指示したことはなかった。この日,被告人は,両手を被害者の両肩に
あてがって,後ろに押し込むようにしたとも供述したが,中腰で前かがみにな
ることがつらそうだったので,壁に両手を突いて再現させた。
(3)このC証言は,その内容に格別不自然な点はなく,上記(2)認定の経緯
(解剖所見の説明,被告人と娘との電話,被告人の自宅近くの捜査員に対する
発言)にもよく符合する合理的なものである。上記10月3日付け警察官調書
中の,要旨「自分が原因であることは間違いないため,大変なことになってし
まったという気持ちもあって,正直な説明ができなかった。蹴ったので死んだ
のではないかと嘘を話していた。自殺しようとしたが死ねなかった。昨日,娘
と電話で話して,『知っていることは話して。』と泣いて言われ,吹っ切れた
という気持ちと,これ以上嘘を付くこともできないと思った。」という供述記
載(同意部分)も,C証言及び上記経緯に沿うものである。
弁護人は,取調官は鑑定書等から暴行態様を想定して誘導したと主張するが,
本件鑑定書は,肋骨多発骨折の原因は直達力による骨折と介達力による骨折の
二通りが考えられる,介達力による場合,前方と後方から広い面による力によ
って生じたことが考えられる,左右胸部に対する打撲ないし圧迫が考えられる
などと述べるにとどまっており,このような記載から,具体的な暴行態様を想
定し,まして特定することは困難である。また,被告人は,公判において,婦
人警察官が右側を壁にして仰向けになり,C警察官がこういう姿勢だったらど
うやって乗るかと聞いてきたので,婦人警察官の左側のおなか辺りに膝を掛け
たなどと供述するが,被害者の左側に位置して被害者を押さえ付けたという点
は,被告人が公判でも供述している上,前記のとおり,C警察官は,解剖医の
説明をもとに,被害者の右側にも回り込んでいないかと質問したが,被告人は
供述を変えなかったと述べているのであって,被告人の位置についてC警察官
が誘導したとは考えられない。
一方,被告人の公判供述に従えば,被告人は,10月2日夜,次女との電話
の後,自宅付近にいた捜査員に対し,「明日はちゃんと話します」と言ったに
もかかわらず,翌3日の取調べにおいても,自発的には何ら新しい供述をしな
かったことになる。また,被告人は,公判において,前夜,何を話そうと考え
たのかと質問されても,「もう死ぬものも何もないもんですから。」などと言
うのみで合理的な答えをしていない。
(4)以上によれば,C証言の信用性は高いということができ,同警察官が
何らの示唆も暗示もしなかったとはいえないにしても,上記自白部分がいずれ
も誘導に迎合したものであるという被告人の公判供述は,到底信用することが
できない。したがって,被告人は自発的に上記の暴行態様を供述・再現したも
のと認められる。その他の点でも任意性を疑わせる事情は窺われず,上記10
月3日付け警察官調書の自白部分の任意性は肯定することができる。その後の
上記検察官調書等についても同様である。
4信用性について
(1)上記認定のとおり,被告人は,10月2日夜,次女から「全部正直に
話して。」と言われて,捜査員には「明日はちゃんと話します」と告げ,翌3
日に上記暴行の態様を自白して再現し,弁解録取及び勾留質問においても,被
疑事実を認め,その後も同様の暴行態様を自白していた。これらの自白内容は,
後に,より詳細ないし明確になった部分はあるが,基本的に一貫している。こ
うした被告人の自白経過は,その信用性を強く裏付けるものである。
(2)自白に係る暴行の態様について,鑑定を担当したB医師は,被告人の
暴行再現写真のように,倒れた被害者役がやや右に体を傾けた状態のところに,
被告人の右膝が被害者役の左側胸部に当たって,全体重を掛ければ,肋骨に多
発骨折が生じうること,敷き布団が圧力によってつぶれて薄くなり,さらに被
害者の左側胸部に乗った際の被告人の膝部分が前後,左右に動くなどのぐらつ
く状態で全体重をかけたならば,左側胸部のほか右側胸部にも変色及び骨折が
生じうると供述しており(警察官調書),上記自白は死体の客観的状況と整合
している。
(3)ところで,弁護人は,被害者(元教師であった。)は被告人にとって
先生の立場であり,被告人は被害者に口答えしたことはなく,被害者に腹が立
ったとしても,おとなしくさせるために,全体重を乗せて圧迫するようなこと
を故意に行うことは不自然不合理であると主張し,被告人も,公判において,
私がいつも生徒でしたなどと供述している。
しかし,被害者方の隣のアパートに住んでいた証人Fは,平成17年6月こ
ろから,被害者方から,「どうしてできないの。」などという怒鳴り声や,ほ
おを平手で打つような音が聞こえ,平成17年6月ころから1か月位はそれぞ
れ4日に1回くらい,その後は毎日のように聞こえてきた,子供が虐待されて
いると思い,下宿のおばさんに相談したと証言している。被害者方の隣家に住
む証人Gも,平成16年夏ころから,被告人が「早くパジャマ着替えろ。」
「早く歯磨け。」などとヒステリックに怒鳴っている声をしょっちゅう聞くよ
うになり,平成17年春から,ますます酷くなったと証言している。被害者が
通っていたデイケアサービスの職員らは,以前から被害者の身体に多数のあざ
ができていたことに気付いていた(証人Hの証言等)。そして,被告人は,警
察官調書において,平成16年4月ころ,ときどき被害者が被告人に体当たり
をしたり,叩いてきたりしてきたので,大声で怒鳴ったり,頭に来て思い切り
平手で顔を殴ったりしたことがあったこと,平成17年6月からは,大声で
「何するの」「何でできないの」などと怒鳴ることが多くなり,口答えしたり
する被害者に苛立って,言うことを聞かせるために被害者を叩くようになり,
竹製の物差しで五,六回,平手で10回位叩いたこと,同年7月30日(公判
では31日と訂正)には,被害者が体当たりしてきたので,物差しで叩いたこ
とを供述している。
上記各証拠のほか,被害者の死体に多数のあざが存在したこと,被告人が救
急車が来る前にそれらのあざの上から何枚も湿布を貼っていることなどを総合
すれば,被害者が服用していた血栓をできにくくするバイアスピリン錠の副作
用により,皮下出血が生じやすく,消えにくい状態にあったこと(担当医Iの
警察官調書)を考慮しても,被告人は,以前から被害者の言動に腹を立てて,
大声で怒鳴りつけることが少なくなく,少なくとも平成17年6月ころからは,
しばしば被害者の顔や体を叩いていたことが認められる。被告人は,公判にお
いて,平成16年秋に1回と平成17年7月31日に叩いただけであると供述
しているが,上記各証拠に照らして採用できない。したがって,被告人の被害
者に対する接し方は,弁護人が主張するようなものではなかったといえる。
(4)そこで,あらためて本件の経緯をみると,被害者の左手首からやや肘
関節寄りの位置には捻転骨折があり,これは被告人が被害者の左手首を握りな
がら,被害者のカーディガンを無理やり脱がせた際に生じたものと認められ,
このとき被告人は相当に強い力を出し,被害者もかなり強く抵抗したものと認
められる。このような出来事の中で,上記自白にあるように,被告人が被害者
に腹を立て,さらに被害者に「ひどいね。」と言われて,ますます腹を立てた
こと,そして,立腹した被告人が,手荒な方法を使ってでも,力ずくで被害者
を寝かせておこうとしたことは,当時の被告人の被害者に対する乱暴な接し方
にも照らすと,被告人の心情及び行動として決して不自然不合理とはいえず,
十分ありうるものであったといえる。
(5)他方,被害者の両肩を両手で押して倒した後,被害者がおとなしくな
って掛布団を掛けるまでの間について記憶がないという被告人の公判供述につ
いては,それ自体不自然であることは否定できない上,捜査段階の自白経過に
ついて述べたところからすれば,到底信用できないものである。
(6)以上によれば,被告人の上記自白の信用性を肯定することができる。
第4結論
以上に検討した,被害者の死亡経過の概要及び死因並びに任意性・信用性の
肯定できる暴行態様についての被告人の自白によれば,被告人が被害者に対し
故意に判示の暴行を加え,判示の傷害により死亡させた事実を認めることがで
きる。そして,被告人の判示行為は,被害者を押し倒した点も含め,被害者の
介護にとって必要なものではなく,行使された有形力の程度に照らしても,そ
れが違法な暴行に当たることは明らかである。
(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法205条に該当するところ,その所定刑期の範囲内
で被告人を懲役3年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中90日
をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して
被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1被告人は,認知症等に罹患していた実姉である被害者の介護のために,平
成15年4月から同居を始め,週3回のデイケアサービス以外のときは,被害
者の介護を一人で行っていた。被害者の認知症が進行するに従い,被告人は,
被害者を大声で叱るようになり,遅くとも平成17年6月ころからは,言うこ
とを聞かせるために,被害者の顔や体を手や物差しで叩くなどの暴行を加える
ようになっていた。そして,犯行当日,以前にも何度か注意していたのに,被
害者が冬物のカーディガンを着ていたことから,近所の人に笑われるとの思い
もあって,これを強引に脱がせて転倒させ,その際被害者に抵抗されたり,
「ひどいね。」と言われたことから立腹し,起き上がろうとしていた被害者を
無理やり寝かせておこうと考えて,本件犯行に及んだものである。
2被告人は,介護に当たる者として,冬物のカーディガンを着るなどの被害
者の行動が認知症に影響されたものであることを十分に心得た上で対処すべき
であったのに,いたずらに立腹して冷静さを失い,あえて寝かせておく必要も
ないのに,無理やり寝かせようとして,本件犯行に及んだものである。しかも,
被告人は,以前から,被害者が病気であることを忘れ,感情に流されて,姉で
あり高齢の被害者に対して,しばしば暴行を含む手荒な扱いをしてきたもので
あり,本件はこうした被告人の不適切な介護態度に由来するものである。
犯行の態様は,体重約49kgの被害者の脇腹付近に膝を押しつけるなどし
て押し倒し,その脇腹付近に膝を乗せた状態で,体重約83kgの被告人がそ
の体重をかけて圧迫し,肋骨多発骨折の傷害を生じさせたというもので,乱暴
で危険なものである。被害者に大きな苦痛を与えた上,その尊い生命を奪った
という本件の結果が重大であることはもちろんである。加えて,被告人は,救
急車を呼んでいるものの,その前に被害者のあざの上に湿布を貼って,これま
での自己の暴行を隠蔽しようとし,その後も,周囲に対して被害者の死亡への
関与を否定し,公判においても不合理な弁解を重ねている。こうした被告人の
犯行後の態度もあって,被害者の他の妹2名の被害感情には厳しいものがある。
3一方,本件における暴行は,殴打や足蹴といった本来的な暴行ではなく,
被害者に再び変わった行動をとって欲しくないと考えて,寝かせようとした行
為が,立腹もあって,行き過ぎたものになったというべきである。従来,被告
人は,被害者を真面目に介護しようという姿勢はあったものと認められ,被害
者に対するかつての暴行や大声による叱責も,被害者を虐めようという気持ち
から出たものとは認められない。したがって,本件は,積極的な加害の意図で
暴行を加えた事案や,もともと被介護者・被養育者に対して悪意をもって虐待
していた者がそれと同様の暴行を行って死に至らせた事案とは質的に異なるも
のであり,本件の量刑に当たっては,この点に留意することが必要である。
また,被告人は,公判において,被害者が死亡した原因が自分にあることは
認めており,それについて謝罪の気持ちを表している。被告人に前科前歴はな
い。
4上記2のとおり本件の結果は重大であり,被告人に不利な情状は少なくな
いが,他方で,上記3の諸点も総合考慮して,主文の刑を定めたものである。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑懲役6年)
平成18年4月6日
札幌地方裁判所刑事第1部
裁判長裁判官半田靖史
裁判官多田裕一
裁判官網田圭亮

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛