弁護士法人ITJ法律事務所

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平成22年(あ)第1632号詐欺被告事件
平成25年2月26日第三小法廷決定
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人甲の弁護人野村創,同清水夏子,同片野田志朗の上告趣意のうち,判例違
反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,
その余は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であり,被告人乙の弁護人
宮村啓太ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法
令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由
に当たらない。
なお,被告人乙の弁護人らの所論に鑑み,公判調書中の被告人乙の被告人供述調
書の末尾に添付された書面を事実認定の用に供したことの適否について職権で判断
する。
1記録によれば,本件の審理経過について,次の事実が認められる。
第1審第10回公判期日において,被告人乙の被告人質問が行われ,その際,検
察官は,被告人乙が送信した平成17年10月30日付け電子メールのうち,同メ
ールにより転送されたオリジナルメッセージ(同年9月21日にBが被告人乙に宛
てて送信した電子メール)部分(以下「本件電子メール」という。)を被告人乙に
示して質問した。
本件電子メールは,第1審第10回公判調書中の被告人乙の被告人供述調書の末
尾に添付されたが,これとは別に証拠として取り調べられてはいない。
第1審判決は,本件電子メールの存在及び記載内容を被告人乙の詐欺の故意や共
犯者との間の共謀の認定の用に供した。
2原判決は,上記第1審判決が本件電子メールを事実認定の用に供したことに
ついて,①本件電子メールは証拠物と同視できる客観的証拠であること,②それを
示された被告人乙がその同一性や真正な成立を確認していること,③本件電子メー
ルを被告人乙に示すに当たり刑訴規則199条の10第2項の要請が満たされてい
たことを根拠として,本件電子メールは被告人乙の供述と一体になったとみること
ができるとし,訴訟手続の法令違反はないとした。
3しかしながら,上記原判断は是認することができない。その理由は,次のと
おりである。
本件電子メールは,刑訴規則199条の10第1項及び199条の11第1
項に基づいて被告人乙に示され,その後,同規則49条に基づいて公判調書中の被
告人供述調書に添付されたものと解されるが,このような公判調書への書面の添付
は,証拠の取調べとして行われるものではなく,これと同視することはできない。
したがって,公判調書に添付されたのみで証拠として取り調べられていない書面
は,それが証拠能力を有するか否か,それを証人又は被告人に対して示して尋問又
は質問をした手続が適法か否か,示された書面につき証人又は被告人がその同一性
や真正な成立を確認したか否か,添付につき当事者から異議があったか否かにかか
わらず,添付されたことをもって独立の証拠となり,あるいは当然に証言又は供述
の一部となるものではないと解するのが相当である。
本件電子メールについては,原判決が指摘するとおり,その存在及び記載が
記載内容の真実性と離れて証拠価値を有するものであること,被告人乙に対してこ
れを示して質問をした手続に違法はないこと,被告人乙が本件電子メールの同一性
や真正な成立を確認したことは認められるが,これらのことから証拠として取り調
べられていない本件電子メールが独立の証拠となり,あるいは被告人乙の供述の一
部となるものではないというべきである。本件電子メールは,被告人乙の供述に引
用された限度においてその内容が供述の一部となるにとどまる(最高裁平成21年
(あ)第1125号同23年9月14日第一小法廷決定・刑集65巻6号949頁
参照)。
したがって,上記の理由により本件電子メールが被告人乙の供述と一体となった
として,これを証拠として取り調べることなく事実認定の用に供することができる
とした原判決には違法があるといわざるを得ない。
4しかし,被告人乙が本件電子メールについてした供述やその他の関係証拠に
よれば,被告人乙について第1審判決判示の犯罪事実を認定することができるか
ら,上記の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえない。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官田原睦夫裁判官岡部喜代子裁判官大谷剛彦裁判官
寺田逸郎裁判官大橋正春)

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