弁護士法人ITJ法律事務所

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平成25年(あ)第1676号
詐欺,証券取引法違反,金融商品取引法違反被告事件
平成27年4月8日第二小法廷決定
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人河津博史ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は
単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらな
い。
所論に鑑み,第1審判決判示第3の金融商品取引法(平成20年法律第65号に
よる改正前のもの。以下同じ。)166条1項1号(2項1号イ,2項4号)違反
の罪(同法197条の2第13号)の成否に関し,職権で判断する。
1原判決が是認する第1審判決判示第3の犯罪事実の要旨は,次のとおりであ
る。
被告人は,その発行する株券を東京証券取引所市場第二部に上場している株式会
社A(平成20年8月31日までの商号は「株式会社B」。以下「A社」とい
う。)の財務及び人事等の重要な業務執行の決定に関する職務に従事していたもの
であるが,A社が平成20年9月1日に公表した第三者割当による新株式発行増資
(発行価額の総額19億9998万円,発行価額1株につき金90円,払込期日同
月19日)について,(1)遅くとも同年5月28日頃までに,その職務に関し,
同社の業務執行を決定する機関が株式を引き受ける者の募集を行うことについての
決定をした旨の重要事実を知るや,他の者らと共謀の上,法定の除外事由がないの
に,その公表前である同年6月4日から同年8月28日までの間,東京証券取引所
において,同社が発行する株券合計43万1000株を代金合計3526万700
0円で買い付け,(2)同年9月16日,その職務に関し,上記第三者割当による
新株式発行増資につき,払込総額の約9割に相当する新株式の発行は失権すること
が確実になり,連結業績向上のための基幹事業としていた子会社事業等への投資資
金を確保するめどが立たなくなった旨のA社の運営,業務及び財産に関する重要な
事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要事実を知るや,他の者ら
と共謀の上,法定の除外事由がないのに,その公表前である同月17日から同月1
9日までの間,東京証券取引所において,同社が発行する株券合計60万株を代金
合計8172万7000円で売り付けた。
2金融商品取引法166条1項1号は,同号及び同法163条1項所定の上場
会社等の役員(会計参与が法人であるときは,その社員。以下同じ。),代理人,
使用人その他の従業者であって,当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を
その者の職務に関し知ったものが,当該業務等に関する重要事実の公表前に,当該
上場会社等の株券等の売買等をすることを禁止している。
所論は,同法166条1項1号にいう「その他の従業者」の意義について,上場
会社等に対して職務を提供する義務を負う立場にある者や,実質的に役員,代理
人,使用人に相当する権限を与えられ,これを行使している者に限られ,被告人の
ように大株主として会社経営を実質的に支配する地位にある者はこれに当たらない
旨主張する。
しかしながら,まず,同号の文言及び会社関係者による内部者取引を規制する同
条の趣旨等からすれば,同号にいう「役員,代理人,使用人その他の従業者」と
は,当該上場会社等の役員,代理人,使用人のほか,現実に当該上場会社等の業務
に従事している者を意味し,当該上場会社等との委任,雇用契約等に基づいて職務
に従事する義務の有無や形式上の地位・呼称のいかんを問わないものと解するのが
相当である。これと同旨の原判断は相当である。
3そして,原判決が是認する第1審判決の認定及び記録によれば,被告人のA
社における立場は,以下のとおりであった。
(1)被告人は,上記1(1),(2)の各重要事実を知った当時,借名取引による取
得分並びに被告人の意向に従って運営される会社及び投資事業有限責任組合による
保有分を合わせると,A社の発行済み株式総数の4割以上の株式を実質的に把握し
ていた。平成19年5月24日に開催されたA社の株主総会では,被告人が影響力
を有する金融会社からA社の株式を担保として多額の融資を受けていた大株主の協
力も得て,被告人側が指定した者6人が取締役に選任され,同日の取締役会におい
て,その一人で,被告人の知人であるC(以下「C」という。)が代表取締役に選
任された。
(2)被告人は,その翌日か翌々日頃,Cとの間で,CによるA社の業務運営に
関し,「役員の人選と資本政策に関わる点については,事前に被告人に相談する」
旨の取決めをした。以後,Cは,同取決めに基づいて,おおむね2週間に1度の頻
度で被告人と面談し,A社の役員人事,資本政策その他の重要な業務執行につい
て,事前に被告人に相談してその了承を求め,被告人の意向に反する場合には,そ
れに合わせるか,被告人を説得するなどしていた。また,被告人は,Cに対し,新
規事業や増資,他社への出資等について提案し,その実現のための対外交渉や業務
意思決定の会議に出席するなどして意見を述べ,自らの意向を業務意思決定に反映
させるなどしていた。
4上記のとおり,被告人は,A社の代表取締役と随時協議するなどして同社の
財務及び人事等の重要な業務執行の決定に関与するという形態で現実に同社の業務
に従事していたものであり,このような者は,金融商品取引法166条1項1号に
いう「その他の従業者」に当たるというべきである。これと同旨の原判断は相当で
ある。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官山本庸幸裁判官千葉勝美裁判官小貫芳信裁判官
鬼丸かおる)

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