弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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             主       文
    被告人を懲役2年6月に処する。      
    未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
押収してある鉄パイプ1本(平成14年押第162号の1)を没収する。
             理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,神戸市a区bc丁目d番e号所在のホテル「A」251号室に居住し
ていたものであるが,同ホテル213号室に居住するB(以下「B」という。)と
ガス台の使用方法を巡って言い争いになったことや,Bが度々その仲間らと飲酒し
ては大声で騒いだりしたことなどから,Bに対する悪感情を募らせていたところ,
平成14年9月26日午後5時25分ころ,B(当時54歳)から,同ホテル2階
の炊事場兼洗面所の使い方が汚い旨荒っぽい口調で文句を言われたことなどから,
難癖を付けにこられたと思って憤激し,上記被告人の居室から鉄パイプ(長さ約6
1.5センチメートル,直径約3.3センチメートル,重量約1,452グラム,
平成14年押第162号の1)を持ち出し,同ホテル2階通路において,Bに対
し,Bが死亡するに至
るかもしれないことを認識しながら,あえて,上記鉄パイプでその頭部を狙って4
回くらい殴打したが,駆け付けた上記Bの飲み仲間に制止されるなどしたため,上
記Bに全治約10日間を要する頭部外傷,両肩打撲の傷害を負わせたに止まり,殺
害するには至らなかったものである。
(証拠の標目)-括弧内は証拠等関係カードの検察官請求証拠番号
省略
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,本件公訴事実について,被告人には被害者に対する殺意はなく,傷
害罪が成立するに止まる旨主張し,被告人も公判廷ではこれに沿う供述をするが,
当裁判所は,前示のとおり,被告人には被害者に対する未必的な殺意があったと認
定したので,以下,その理由について補足して説明する。
2 上記証拠によれば,以下の事実が認められる。
 (1)凶器の性状
   本件凶器の鉄パイプは,金属製で,長さ約61.5センチメートル,直径約
3.3センチメートル,重量約1,452グラムの円筒状のものであって,相当な
力をもって頭部等身体の枢要部を殴打する方法により人間を殺傷することができる
ものである。
 (2)創傷の部位,程度
   本件創傷は,被害者の頭部2か所及び両肩部に生じた全治約10日間の頭部
外傷,両肩打撲であるが,頭部外傷のうち1か所は約7センチメートルの切創,1
か所は挫創であって,相当量の出血があったために縫合処置が取られており,本件
の約2か月後においても少しへこんでいて,触ると痛みを感じる状態である。
 (3)凶器の用法,犯行態様
   被告人は,自己の額の辺りまで振り上げた本件鉄パイプを,自分より身長が
約19センチメートルも低い被害者の頭部を狙って2回振り下ろし,頭部から血を
流している被害者の頭部を狙って,更に本件鉄パイプを同様に2回ほど振り下ろし
たが,被害者の両肩部に当たるに止まった。
   なお,この点,弁護人は,被告人は頚髄症(頸椎椎間板ヘルニア),両肩関
節周囲炎に罹患していて,握力等の筋力低下が認められるので,被告人は,本件犯
行当時,本件鉄パイプを力強く頭上まで振り上げて振り下ろすことができなかった
旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。
   なるほど,被告人が頚髄症(頸椎椎間板ヘルニア)術后,両肩関節周囲炎に
罹患していて,握力等の筋力低下が認められることは,弁護人の主張のとおりであ
るけれども,被告人が本件鉄パイプを自己の額の辺りまで振り上げることはできた
し,本件犯行の際に,被害者及びその飲み仲間と本件鉄パイプの奪い合いをしても
これを奪われていないことなどからすれば,被告人はなお相当の力でこれを振り下
ろすことができたと認めることができる。
 (4)本件犯行に至る経緯,動機
   被告人は,平成14年4月下旬ころ,被害者に対しガス台の使い方を教えて
やったつもりであったのに,被害者から「お前のガスコンロか。」などと大声で言
い返されたことや,自己が安静にしている際に被害者が度々その飲み仲間らと酒盛
りをして大声を出して騒いだりしたことなどから,被害者に対する悪感情を募らせ
ていたところ,本件犯行当日,被告人が2階の炊事場兼洗面所で洗い物をしている
と,被害者が「お前1人の流し場かい。汚くしやがって。」などと荒っぽい口調で
文句を言うなどしてきたことから,被告人は,被害者から難癖を付けてこられたと
思い,被害者に対して激しい怒りを感じ,本件犯行に及んだ。
3 殺意の認定についての判断
 (1)以上の事実によれば,被告人は,被害者の頭部を狙って,相当な重量のある
本件鉄パイプを,自己の額の辺りまで振り上げた上これを相当な力で4回ほど振り
下ろし,最初の2回が身体の枢要部である頭部に当たったことを認識しながら,頭
部への殴打を更に続けようとしたものであって,被告人は被害者が死亡するに至る
危険性が高い行為をあえて行ったものといわざるを得ないから,被告人には被害者
に対する未必的な殺意があったものと認定することができる。
 (2)この点,検察官は,被告人が確定的な殺意を持っていた旨主張し,被告人
も,捜査段階では,現行犯人として逮捕された時点から一貫して被害者に対する確
定的な殺意を認める旨の供述をしていたことが認められるが,①本件犯行に至る経
緯からみれば,本件は一時の激情による偶発的な犯行であること,②上記認定の本
件犯行に至る経緯は,被告人をして被害者を殺害することを決意させるほどのもの
とは思われないし,被告人が,本件犯行当時,「殺してやる。」という言葉を発し
ていることは認められるものの,些細なことに激高しやすい被告人の性格からすれ
ば,死んでしまっても良い程度の意図のものと解することもでき,必ずしも確定的
な殺意に基づく発言とは思われないこと,③本件鉄パイプは,被告人の握力等筋力
低下の病状から考える
と,被害者を必ず殺害することを可能とするような凶器であるとはいえないこと,
④被告人は,本件犯行当時,より殺傷能力が高い包丁等を自室に置いていたにもか
かわらず,これを用いていないこと,⑤本件犯行により被害者の受けた傷害の程度
は,前示のとおりであって,頭蓋骨骨折や脳挫傷等は生じておらず,致命的なもの
ではないこと,⑥被告人の捜査段階の供述には,体を壊して鳶を辞め,2度と鳶の
仕事ができないなら死んだも同然であり,被害者を殺害して自分も死のうと思った
など,本件犯行に至る経緯や犯行態様からみてそのままには信用できない部分が含
まれていることなどからすると,捜査段階の供述のうち確定的殺意を認める部分を
直ちに信用することはできず,被告人が被害者に対して確定的な殺意を有していた
とまでは認めること
ができない。
 (3)以上のとおりであって,被告人には被害者に対する未必的な殺意があったと
認定するのが相当であるから,被告人には殺人未遂罪の成立を認めることができ
る。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,同じホテルに居住する被害者に対し,未必の殺意をもってそ
の頭部等を鉄パイプで殴打したが,殺害するに至らなかったという殺人未遂の事案
である。
 被告人は,以前から悪感情を抱いていた被害者から,炊事場兼洗面所の使い方が
汚い旨荒っぽい口調で文句を言われ,難癖を付けられたと思って憤激し,本件犯行
に及んだものであって,犯行動機は短絡的かつ自分勝手でそこに酌量の余地は乏し
いこと,被告人は,相当な重量がある本件鉄パイプを自己の額の辺りまで振り上げ
た上,自分より20センチメートル近く身長の低い被害者の頭部を狙って4回程度
振り下ろしたものであって,その犯行態様は危険かつ悪質であること,被害者は,
本件犯行により全治約10日間を要する前示の傷害を負わされたものであって,そ
の肉体的精神的苦痛は小さくないこと,被告人は被害者に対して何ら慰謝の措置を
講じておらず,また真摯に反省しているかどうか疑わしいところもあることなどを
併せ考えると,犯情
はよくなく,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
 しかしながら,本件犯行は,酒に酔った被害者が被告人に対し荒っぽい口調で文
句を言ったことに端を発したものであって,被害者にも責められるべき点がないと
はいえないこと,本件は一時の激情による偶発的な犯行であること,幸いにも本件
犯行は未遂に止まり,被害者が受けた傷害の程度も比較的軽いものであること,被
告人も,本件について一応は反省の弁を述べていること,被告人にはこれまで前科
前歴がなく,その健康状態がよくないこと,本件で約5か月間身柄拘束を受けてい
ることなどの,被告人のために酌むべき事情もまた認められるので,本件は,被告
人に対し,その刑執行猶予の言渡しをなすべき情状の事案とは認められないもの
の,法律上の減軽をした上で,被告人を主文掲記の刑に処するのが相当である。 
(検察官の科刑意見 懲役6年)
 よって,主文のとおり判決する。            
  平成15年2月28日
     神戸地方裁判所第2刑事部
            
         裁判長裁判官  森  岡  安  廣
           
裁判官  前  田  昌  宏
  裁判官  伏  見  尚  子

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