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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告
1 被告が、原告の昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの事業年度
の法人税について、昭和四四年一二月二六日付でした更正処分及び過少申告加算税
の賦課決定処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は、昭和四四年五月三一日、被告に対し、原告の昭和四三年四月一日から
昭和四四年三月三一日までの事業年度(以下、「本件事業年度」という。)の法人
税について、所得金額を二九〇万四、五八一円、法人税額を七六万三、八〇〇円と
して確定申告をしたところ、被告は、昭和四四年一二月二六日、原告の所得金額を
六〇九万九、六一八円、法人税額を一八七万五、三〇〇円とする更正処分(以下、
「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税五万五、五〇〇円の賦課決定処分
(以下、「本件決定処分」という。)をした。
2 しかしながら、本件更正処分及び本件決定処分は、原告の所得金額を過大に認
定した点において違法であるので、原告は右各処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する被告の認否及び主張
1 請求原因1の事実は全部認め、同2の主張は争う。
2 本件更正処分の適法性
(一) 本件事業年度の法人税に関する原告の確定申告による所得金額は、二九〇
万四、五八一円であるが、原告の所得金額は、これに左のとおり合計三一九万五、
〇三七円を加えて、六〇九万九、六一八円とすべきである。
(二) 棚卸計上洩れ       二万八、四〇〇円
原告は期末の棚卸に仕判輪子頭の仕掛品を計上洩れしていたので、その価額二万
八、四〇〇円を益金に加算すべきである。
(三) 保険料の損金否認額   一六万六、六三七円
原告は保険料として四五万六、八二〇円を損金に計上していたが、右保険料のう
ち、一六万六、六三七円は未経過分であり、翌期分の費用とすべきであるから、右
一六万六、六三七円は損金に加えるべきではない。
(四) 固定資産除却損の損金否認額 三〇〇万円
原告は、昭和四四年二月二八日、原告の代表者であるAから東京都大田区<以下略
>所在、家屋番号同町<以下略>、木造スレート葺平家建工場建坪一一八・一八平
方メートルの建物(以下、「本件建物」という。)をその借地権(以下、「本件借
地権」という。)とともに買い受け、建物代金として三〇〇万円、借地権の代金と
して二〇〇万円をAに支払つた。ところが原告は、わずか一か月も経過していない
同年三月一五日、本件建物を取り毀し、右建物の買受代金相当額三〇〇万円を固定
資産除却損として、損金に算入して確定申告をしている。
このように原告が本件建物の取得後わずか一か月も経たない間にこれを取り毀して
いることからみて、原告が本件建物と本件借地権を買い受けたのは専ら本件借地権
を利用する目的であつたと認められるので、本件建物の代金三〇〇万円は、実質的
には本件借地権取得の対価と見るべきである。従つて、右三〇〇万円は本件建物を
取り毀したことによる固定資産除却損として損金に算入すべきではない。
三 被告の主張に対する原告の認否及び反論
1 被告の主張2の(一)の事実のうち、原告の確定申告による所得金額が二九〇
万四、五八一円であつたことは認め、その余の主張は争う。同2の(二)及び
(三)の事実は認める。同2の(四)の事実のうち、原告がAから本件建物(但
し、その建坪は現況一四二・九七平方メートルであつた。)と本件借地権を、建物
代金三〇〇万円、借地権代金二〇〇万円で買い受けたこと(但し、買受け年月日
は、後述のとおり昭和四一年八月一九日である。)、原告が本件建物を取得した
後、昭和四四年三月一五日、本件建物を取り毀し、右建物代金三〇〇万円を固定資
産除却損として損金に算入したうえ確定申告をしたことはいずれも認め、その余の
事実は否認する。
2 固定資産除却損に関する原告の反論
(一) 本件建物の敷地はもともと訴外Bの所有であり、訴外株式会社協和鉄工所
(以下、単に「協和鉄工所」という。)が右Bから借地権の設定を受けて本件建物
と他の一棟の建物を所有していたところ、Aが、昭和三四年一月一〇日、右協和鉄
工所から、本件建物とその中に存した機械、設備、材料及び他の一棟の建物を、本
件借地権とともに譲り受けたものである。
(二) その後、Aは昭和三七年九月に原告会社を設立し、以来本件建物は原告が
使用してきており、原告の代表者となつたAは、昭和四一年八月一九日、本件建物
と本件借地権を原告に譲り渡したのである。従つて、原告が本件建物を取得したの
は、同日であつて、本件建物を取り毀すまでに約三年間原告は本件建物を使用して
いるのであるから、被告が主張するように、原告が専ら本件借地権を利用する目的
で、昭和四四年二月二八日に本件建物を取得した事実はないのである。
(三) 原告が昭和四一年八月一九日に本件建物を取得したことは、次の事実から
も明らかである。すなわち、地主Bが借地権の無断譲渡を理由として抗議してきた
ので、昭和四一年八月一八日に借地権者を原告として地主Bとの間で新たに賃貸借
契約を締結し、翌一九日その旨の公正証書を作成し、原告はBに名義変更料として
三〇万円を支払つた。また、それ以降本件借地権の地代は、原告がBに支払つてい
る。これらによれば、原告が昭和四一年八月一九日本件借地権を取得したことは明
らかである。従つて、本件建物も右同日原告が取得したものと考えなければ不合理
である。現に右同日以降本件建物の火災保険料も原告が支払つているのである。
四 原告の反論に対する被告の認否及び再反論
1 原告の反論2の(一)の事実は認める。もつとも、Aは昭和三五年八月一五日
協和鉄工所に対する債権を本件建物に設定された抵当権付で譲り受け、協和鉄工所
が倒産したころ、本件建物の所有権を本件借地権とともに取得したものである。同
2の(二)の事実は否認する。もつとも、Aが昭和三七年九月に原告会社を設立
し、以来原告が本件建物を使用してきたことは認める。同2の(三)の事実は争
う。もつとも、原告とBとの間に昭和四一年八月一八日原告を賃借人として本件建
物の敷地に関し賃貸借契約が結ばれ、原告がBに名義変更料として三〇万円を支払
つたことは認める。
2 本件建物は昭和四四年二月二八日に原告が取得したものである。すなわち、
(一) 昭和四四年二月二八日付でAが原告に対し本件建物を売り渡す旨の売買契
約書及び原告の取締役会が右売買を承認する旨の取締役会議事録が作成され、原告
の帳簿上においても同日原告が本件建物及び本件借地権を取得したとして経理が行
なわれ、本件建物及び本件借地権の売買代金の支払いは、額面各一〇〇万円、支払
期日昭和四四年六月から同年一〇月までの毎月末とする約束手形五通によつて行な
われているのである。
これらの事実は、原告が同年二月二八日に本件建物を取得したことを示すものであ
る。
(二) 昭和四一年八月一九日作成された原告を借地権者とする旨の原告と地主B
間の公正証書は、Bからなされた借地権の無断譲渡を理由とする抗議により生じた
紛争を解決し、かつ、Aが借地権者となることにより生じる経済的負担及び事務的
な煩雑さを避けるため、全く形式的に借地権者を原告としたものである。名義変更
料三〇万円を原告が出捐したのは、原告がAに対する本件建物の家賃の支払いに代
えてしたものであつて、このことから直ちに原告が借地権者と認められるわけでは
ない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1の事実並びに本件事業年度において原告には確定申告にかかる所得
金額二九〇万四、五八一円のほかに棚卸計上洩れ二万八、四〇〇円を益金に加算す
べきこと(被告の主張2の(二)の事実)及び原告が損金に計上した保険料のうち
一六万六、六三七円は損金算入を否認すべきであること(被告主張2の(三)の事
実)は、いずれも当事者間に争いがない。
二 本件における唯一の争点は、本件建物を取り毀したことにより、その価額三〇
〇万円を固定資産除却損として損金に算入することが許されるか否かにあるので、
この点について検討する。
1 原告が昭和四四年三月一五日本件建物を取り毀したことは当事者間に争いがな
い。
2 そこで、まず、原告がいつ本件建物を取得したかについて考える。
いずれも原本の存在及び成立に争いがない乙第二ないし第六号証の各一、二、同第
七号証の一ないし三、同第八ないし第一三号証、同第一四号証の一ないし五、証人
Cの証言及び原告代表者尋問の結果により成立が認められる甲第六、第七号証に弁
論の全趣旨を総合すれば、Aが本件建物を原告へ売り渡す旨の昭和四四年二月二八
日付売買契約書及び原告の取締役会が右売買を承認する旨の同月一五日付取締役会
議事録がそれぞれ作成されていること、原告の帳簿上は同月二八日にAから原告が
本件建物を譲り受けたとして、借方に建物三〇〇万円、借地権二〇〇万円、貸方に
支払手形五〇〇万円と記載されていること、本件建物及び本件借地権の売買代金五
〇〇万円の支払いは原告振出しにかかる金額各一〇〇万円、支払期日昭和四四年六
月から同年一〇月までの毎月末とする約束手形五通によつて行なわれたが、右約束
手形は支払期日ないしその翌日にすべて決済され、株式会社富士銀行川崎支店にお
ける原告の当座預金口座から同支店におけるAの普通預金口座へ各一〇〇万円がそ
のつどそれぞれ振替入金されていることが認められ、これらの認定を覆えすに足り
る証拠はない。
ところで、原告は、Aから昭和四一年八月一九日に本件建物を譲り受けた旨主張す
る。
本件建物の敷地はBの所有であり、協和鉄工所がこれを賃借して本件建物及び他の
一棟の建物を建築所有していたこと、Aが協和鉄工所から本件建物と他の一棟の建
物をその中に在つた機械、設備、材料や本件借地権とともに譲り受けたこと、Aが
昭和三七年九月に原告会社を設立し、以来原告が本件建物を使用してきたこと、原
告とBとの間に昭和四一年八月一八日原告を賃借人として本件建物の敷地に関し賃
貸借契約が結ばれ、原告がBに名義変更料として三〇万円を支払つたことは当事者
間に争いがなく、成立に争いがない甲第二号証、原告代表者尋問の結果(ただし、
後記信用しない部分を除く。)及びこれにより成立が認められる同第一号証によれ
ば、Aは協和鉄工所に対する貸金債権の代物弁済として昭和三四年一月一〇日本件
建物や本件借地権等を譲り受けたこと、本件建物には第三者のために抵当権が設定
されていたので、Aが右第三者に対する債務を弁済して抵当権を消滅させたこと、
結局、Aは本件建物及び本件借地権を取得するのに合計一、〇〇〇万円ほど出損し
ていること、原告会社が設立されるまではAの個人営業のために本件建物を使用し
ていたが、昭和三七年九月に個人営業を法人化して原告会社を設立した後は原告が
本件建物を使用し、本件借地権の地代は原告が協和鉄工所名義でBに支払つていた
こと、しかるに、昭和三九年の春ごろBが原告に対し本件借地権の無断譲渡である
として抗議をし、土地の明渡しを求めたことから紛争が生じたが、結局、名義変更
料三〇万円を支払つて原告とBとの間に本件建物の敷地に関する賃貸借契約を結ぶ
こととなり、昭和四一年八月一九日に同月一八日付賃貸借契約に関する公正証書が
作成されたこと、原告の株式のほとんど大部分はAが所有しており、原告はAのい
わば個人会社ないし同族会社といつたものであることが認められ、これらの認定に
反する証拠はない。
さて、原告代表者尋問の結果中には、原告とBとの間に本件建物の敷地の賃貸借契
約に関する公正証書が作成された昭和四一年八月一九日より二、三日前に、原告は
Aより取締役会の承認を受けて本件建物及び本件借地権を譲り受けたものであり、
前記認定にかかる昭和四四年二月二八日付売買契約書や同月一五日付取締役会議事
録は後日に至つて形式を整えるために作成したものにすぎないという部分がある。
しかしながら、前掲甲第六、第七号証(昭和四四年二月二八日付売買契約書及び同
月一五日付取締役会議事録)をみても、昭和四一年八月の売買契約を追認あるいは
確認するとか右売買を承認したことを確認するとかいつた文言は用いられておら
ず、右売買契約書には、Aと原告との間において「次の通り売買契約を締結した」
として物件の表示、売買金額、代金支払方法が記載されており、右取締役会議事録
には、「昭和四四年二月一五日午后一時当会社本店において、取締役全員出席のも
と取締役会を開催し次の議案を協議の上、次のとおり可決確定し午后二時三〇分散
会した。」として本件建物購入の件が記載されているのみならず、前記認定のとお
り原告がその帳簿上本件建物及び本件借地権取得に関する経理上の処理をしたのは
昭和四四年二月二八日においてであり、本件建物及び本件借地権の代金の支払いは
同年六月三〇日より同年一〇月三一日までの間になされていること、成立に争いが
ない乙第一号証の一ないし三に証人Cの証言を合わせ考えれば、原告が昭和四二年
五月三一日被告へ提出した昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事
業年度分法人税の確定申告書に添付された第五期決算報告書の付属書類の一つであ
る地代家賃の内訳書には、Bに三〇万円を支払つたとしてその摘要欄に「仮工場家
賃」と記載されていること、その記載は(誤つた記載であるかどうかはともかくと
して)原告が本件建物を仮工場として使用しており、その家賃(に代るべきもの)
としてBに三〇万円を支払つたものであるという趣旨でなされたものであることが
認められることに照らし、原告代表者尋問の結果DがAより本件建物を譲り受けた
のは昭和四一年八月一九日より二、三日前であるとの部分は、たやすく信用できな
いというべきである。
以上に述べたところにもとづいて考えれば、原告がAより本件建物を買い受けた時
期は、売買契約書及び取締役会の承認に関する議事録が作成され、原告の帳簿上も
原告が本件建物を取得したとして経理上の処理がなされ、かつ、右売買契約書にお
いて定められた方法に従つて代金が支払われていることからみて、昭和四四年二月
二八日であると解するのが相当である。
もつとも、右のように解すれば、原告が昭和四一年八月一八日Bとの間に本件建物
の敷地に関する賃貸借契約を結んで賃借権を取得したのに、昭和四四年二月二七日
まではAが本件建物を所有してその敷地を利用し、原告は本件建物を借用していた
という一見不自然な法律関係が続いていたことになるわけであるが、それというの
も原告がAのいわば個人会社ないし同族会社といつた特殊な事情にあつたためとみ
るのが相当であつて、一見不自然な法律関係が続いたことをもつて前記判断を左右
するに足りない。
3 ところで、減価償却資産たる建物を除却した場合に未償却残額があるときは、
その未償却残額を当該本業年度の損金に算入することができると解すべきであるが
(法人税法二二条三項三号)、右建物をその敷地の所有権ないし借地権とともに取
得した後、短期間内に右建物の除却に着手するなど当初から右建物を除却してその
敷地を利用する目的であることが明らかである場合には、右建物の取得費用は実質
的にはその敷地の所有権ないし借地権取得の対価的性質をもつとみるのが相当であ
るから、このような場合には、租税公平の見地から、右建物が除却されてもその取
得費用ないし未償却残額を当該事業年度の損金に算入できないと解するのが相当で
ある(成立に争いがない乙第一五号証によれば、法人税基本通達七-三-六は「法
人が建物等の存する土地(借地権を含む。以下七-三-六において同じ。)を建物
等とともに取得した場合または自己の有する土地の上に存する借地人の建物等を取
得した場合において、その取得後おおむね一年以内に当該建物等の取りこわしに着
手する等、当初からその建物等を取りこわして土地を利用する目的であることが明
らかであると認められるときは、当該建物等の取りこわしの時における帳簿価額お
よび取りこわし費用の合計額(廃材等の処分によつて得た金額がある場合は、当該
金額を控除した金額)は、当該土地の取得価額に算入する。」としていることが認
められるが、その趣旨は右に述べたところと同旨であると解される。)。これを本
件についてみるに、原告が本件建物を取得したのは昭和四四年二月二八日であり、
これを除却したのは同年三月一五日であること前記認定のとおりであるから、取得
後わずか一五日で除却されていること、証人Eの証言及び原告代表者尋問の結果
(ただし、前記信用しない部分を除く。)によれば、原告は本件建物が木造でクレ
ーン台が取りつけられないため、昭和四三年の暮ごろから本件建物を取り毀し、重
量鉄骨の建物を建築することを計画するに至り、株式会社金塚工務店に右建築を依
頼したこと、当初は本件建物の解体工事の依頼の話も出ていたが、株式会社金塚工
務店において右解体工事の下請けへの手配が早急につかなかつたことと解体費用の
点で結局右解体工事の依頼はなされず、昭和四四年二月の初めごろから原告の方で
工員七、八人を使つて本件建物の取り毀しに着手し、同年三月一五日に取り毀しを
完了したことが認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はないので、原告が本件
建物を取得した同年二月二八日にはすでに本件建物の解体工事が進行している最中
であつて、原告は専ら本件借地権を利用する目的で取引をしたもの、正確に言え
ば、かつてAが本件借地権を取得するために出捐した費用を補填する趣旨で取引を
したものと解するのが相当である。
してみれば、原告は本件事業年度において本件建物の取得費用三〇〇万円を固定資
産除却損として損金に算入することは許されないというべきである。
三 以上のとおりであるから、本件建物の取得費用三〇〇万円の固定資産除却損と
しての損金算入を否認し、本件事業年度における原告の所得金額を六〇九万九、六
一八円としてした本件更正処分及びこれに伴つてなされた本件決定処分はいずれも
適法である。よつてこれらが違法であるとしてその取消しを求める原告の本訴請求
は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九
条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 高津 環 上田豊三 慶田康男)

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