弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金弐万円に処する。
     右罰金を完納できないときは金五百円を一日に換算した期間被告人を労
役場に留置する。
     訴訟費用は全部被告人及び原審相被告会社A株式会社の平等負担とす
る。
         理    由
 本件控訴の趣旨は末尾添附の弁護人井本台吉、同高瀬太郎、同三輪寿壮各名義の
いずれも控訴趣意書と題する各書画に記載の通りである。これに対して次の様に判
断する。
 高瀬弁護人論旨第一点に対して。
 原判決が単に労働者に対して賃金を払わなかつたという形式的事実を以て本件の
犯罪とは認定せず、本件当時の被告会社の経済状態のみならず、本件賃金不払を生
ずるに至つた過程につき、昭和二三年初頭からの経済界の状況及び被告人Bの会社
経営、賃金対策等の処置、延いては、原審相被告会社の経理状況を綜合観察する
と、本件賃金不払が止むを得なかつたものとも、其の支払が不可抗力に基く不能の
ものであつたとも認められないし、被告人Bに本件賃金支払を期待することが不能
であつたとまで云うことができないとしたことは原判文上明白である。従つて原審
は本件賃金不払については被告人Bに相当の責任があつたものと認めたものと解す
るを相当とする。従つて被告人の原判示行為について期待可能性なく、又違法性も
阻却せられるという所論は本件においてはその事実上の根拠がないから、これを認
め得ない。又援用にかかる判例はいずれも本件に適切でない。原審相被告会社と原
判示労働者又は労働組合との間に賃金の一時的遲払は止むを得ないとする了解が成
立し、その為被告人等に賃金支払の義務がなくなつたものとは記録上認められない
から、被告人の原判示行為が仮令公序良俗に著しく反しなかつたとしても、所論の
ようにその違法性が阻却せられる程度のも<要旨>のであつたとは認められない。労
働基準法第一二一条第一項本文に所謂事業主のために行為した代理人中に
法人の代表者をも含むものと解するを相当とする。蓋し同条項に所謂事業主中には
法人を含むことは同条但書によつて明白であり、純粹な代理人、使用人その他の従
業員が行為した場合に事業主に対して罰金を科するのに、純粋な代理人よりも更に
会社に密接している代表者が行為した場合に事業主を罰しないのは同条に現れた労
働基準法の精神に反するからである。同条項但し書が法人の代表者に違反の防止措
置を認めているのは代表者以外の者に違反行為のあつたことを前提とするものと解
するを相当とし、代表者に違反行為があつた場合には、その違反の防止措置は事実
上考えられないから、かかる場合は法が当然予想していないと解すべきである。自
己の違反行為を防止するのは矛盾であるという単なる論理的帰結から推して、法人
の代表者の違反行為を罰すべき前示法理上の根拠を否定するのは当らない。同条第
二項は広く事業主が行為者として罰せられる場合を規定したものであるから、法人
の代表者に同条項所定の行為があれば、矢張り直接の行為者として罰せられるのは
当然であり、そのために事業主たる法人の代表者に当然当該事業の労働者に関する
事項について同法第二十四条其の他に違反する行為があつた場合を罰すべき理由は
毫も解消せらるべきものではない。原判決の擬律は正当である。論旨は理由がな
い。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 佐伯顯二 判事 久礼田益喜 判事 武田軍治)

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