弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中430日をその刑に算入する。
甲府地方検察庁で保管中の果物ナイフ1本(平成16年領第687
号符号2)を没収する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1多額の借金から逃れるため,平成16年11月中旬ころ,当時暮らしていた東京を
離れ,山梨県内で無為徒食の生活を始めたが,いよいよ所持金が尽きてくると今後の
身の振り方について思い悩み,自殺することも考えたものの実行できなかったことか
ら,最早刑務所に入って生きてゆくほかない,人を殺せば確実に刑務所に入れるなど
と考え,服役するために殺人を行うことを決意し,同月28日午後6時7分ころ,山
,(。梨県南都留郡鳴沢村○番地○○店駐車場において同店従業員であるA当時19歳
以下「被害者」という)に対し,殺意をもって,その左胸部,頸部等を,所携の刃。
体の長さ約9.5センチメートルの果物ナイフ(甲府地方検察庁で保管中の平成16
年領第687号符号2)で数回突き刺し,よって,同日午後6時52分ころ,同郡富
,,士河口湖町○番地○病院において被害者を出血性ショックにより死亡させて殺害し
第2業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午後6時7分ころ,判示第1記
載の○○店駐車場において,同記載の刃体の長さ約95センチメートルの果物ナイ.
フ1本を携帯した。
(証拠)
省略
(争点に対する判断)
1弁護人は,被告人が本件犯行当時心神耗弱の状態にあった旨主張する。
2なるほど,関係各証拠によれば,被告人には精神科の通院歴があり,過去に統合失調
症と診断されたこともあったと認められるものの,本件犯行当時の症状についてみる
と,本件犯行の2週間前(平成16年11月15日)までタクシー運転手として稼働
するなど特段の支障なく単身日常生活を送っていたようにうかがえるし,同年2月か
ら7月まで被告人を診察した医師も,被告人には統合失調症の諸症状は見受けられな
かったと供述している。当裁判所が被告人の犯行当時の精神状態について鑑定を依頼
した鑑定人B作成の精神状態鑑定書以下B鑑定というによれば現在鑑「」(「」。),(
定時)の状態を見ても,統合失調症の診断には否定的にならざるを得ない旨の指摘が
されている。
3また,被告人の本件犯行時の行動等に着目すると,まず殺人を決意した後の被告人の
行動をみると,被告人は,所持していたカッターナイフでは確実には人を殺せないと
考え,店を回って凶器とする果物ナイフを購入したり,本件以前に別のコンビニエン
スストアで殺人を実行しようと考えたものの,人が多くてこれを断念し,人目に付き
づらい場所として本件犯行場所を選択したり,殺害対象として被害者に目を付けた後
もすぐには犯行に及ばず,被害者が勤務を終えて車に乗ろうと駐車場に戻ってきたと
ころを狙えば確実に殺すことができると考え,敢えて被害者を待ち伏せして殺害に及
んだりするなど,計画的で冷静な行動をとっている。被害者を殺害する際も,被告人
は,まず被害者の左胸を狙って続けざまに果物ナイフを強く突き刺し,被害者が抵抗
すると,今度はその頸部を狙って果物ナイフを突き刺すなど,確実な殺害方法を選択
。,,,している犯行後の行動を見ても被告人は被害者が店内に逃げ込んだのを見ると
いったんは怖くなって現場から逃走し,その後,自らが負った怪我の手当てをしても
らうことも兼ねて消防署に出頭し,自首に及ぶなど,状況に応じた行動を選択してい
る。
4さらに,被告人の記憶状況についてみても,被告人は,捜査段階において,本件犯行
状況や犯行前後の行動につき,自らの心情も含め詳しく供述し,いわゆる秘密の暴露
と目すべき供述もしているほか,公判廷でも,捜査段階に比してあいまいに供述する
部分もあるものの,犯行前後の行動や犯行状況について供述できており,記憶の欠落
が多いようには見受けられない。
5加えて,被告人の犯行当時の責任能力に関するB鑑定も「被告人は,以前から境界,
域の知能を有しており,本件犯行にはそれに基づく短絡性が寄与していると考えられ
るが,事理の善悪を判断し,あるいはその判断に基づいて行動する能力については,
若干の低さはあるにしても,著しく減弱していたという程度には達していないと考え
られる」旨結論づけているところ,この鑑定手法や鑑定結果について格別問題とされ。
るべき点も見当たらない。
6以上の点を総合すると,被告人は,本件犯行当時,事理弁識能力及び行動制御能力の
いずれについても著しく減退した状態にはなかったと認めるのが相当である。
7この点,確かに,刑務所に入りたいがために敢えて他人の命を奪うという本件犯行の
動機や,被告人が,当日見かけたにすぎない被害者の左胸部等を,果物ナイフで執拗
に突き刺すなどして殺害している点は,通常人の考え方を基準にすれば了解困難な部
分もあるようにも思われるが,B鑑定で明らかにされた被告人の知的能力の程度や,
,自殺を考えるまでに追いつめられた状況下での判断であったことなどをも踏まえると
被告人がそのような短絡的な思考の下に本件犯行に及んだとみても十分に説明ができ
るものである。また,被告人については,被告人質問の際に理解しがたい言葉を発し
,,,てみたり突如笑い出したりするなど公判廷における異常な言動がみられるものの
これらは,いずれもB鑑定が指摘する拘禁反応による症状の出現と見るのが相当であ
って,犯行時の責任能力に疑いを差し挟むべき事情とはならない。
8よって,被告人が心神耗弱の状態にあったとする弁護人の主張は採用できず,被告人
は,本件犯行当時,完全責任能力を有していたと認められる。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前
の刑法199条(有期懲役刑の長期はその改正前の刑法12条1項による)に,裁判時。
においてはその改正後の刑法199条(有期懲役刑の長期はその改正後の刑法12条1項
による)に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるか。
ら,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,判示第2の所為は銃砲刀
剣類所持等取締法32条4号,22条に該当するところ,各所定刑中判示第1の罪につい
ては無期懲役刑を,判示第2の罪については有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は刑法4
5条前段の併合罪であるが,判示第1の罪につき無期懲役刑を選択したので,同法46条
2項本文により他の刑を科さないこととして,被告人を無期懲役に処し,同法21条を適
用して未決勾留日数中430日をその刑に算入し,甲府地方検察庁で保管中の果物ナイフ
1本(平成16年領第687号符号2)は,判示第1の殺人の用に供した物で被告人以外
の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用
は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1本件は,被告人が,いわゆる刑務所志願の意図の下,たまたまコンビニエンスストア
で見かけたにすぎない被害者を果物ナイフで殺害したという,殺人(判示第1,銃砲)
刀剣類所持等取締法違反(判示第2)の事案である。
2まず,本件犯行の動機には,一片の酌量の余地も認められない。
被告人は,借金苦から逃れるべく無為徒食の生活を過ごした挙げ句,自殺も実行しか
ねたことなどから,生き延びる手段としては最早刑務所に入って生きてゆくほかない,
人を殺せば確実に刑務所に入れるなどと考え,偶然見かけただけの何の恨みもない被害
者を殺害したものであって,その動機は,あまりに短絡的かつ身勝手極まりない。精神
的に追いつめられた状況にあったとはいえ,そのような状況に追い込まれる原因である
自らの生活態度を真剣に省みないばかりか,自分が生き延びるための手段として,何の
落ち度もない他人の生命を奪うという方法を選択する被告人には,人命軽視の態度が甚
だしく,人格面での問題は非常に大きいと言わざるを得ない。
3また,本件は,計画性が認められる事案である上,殺害態様も非情で悪質である。
被告人は,刑務所に入るために殺人を犯すことを決意すると,手持ちのカッターナイ
フでは凶器として心許ないと考えて果物ナイフを購入しているほか,犯行場所として人
目に付きづらい場所を選択し,さらに,自分よりも小柄な女性である被害者に目を付け
ると,約1時間もの間被害者を待ち伏せした上,被害者が一人で自動車に乗り込んだと
ころを見計らって本件犯行に及んだものであって,計画性のある卑劣な犯行である。
殺害態様そのものも「この野郎「死ね」などと怒鳴りながら,必死に抵抗する被,」,
害者の胸部や頸部等を鋭利な果物ナイフで手加減せずに数回にわたって繰り返し突き刺
したという,強固な殺害意図に基づく執拗で非情なものである。被害者の負った傷の数
や程度,おびただしい出血量は,被告人の犯行の残忍さを如実に示している。
4そして,何よりも,本件犯行のもたらした結果は,あまりに重大である。
被害者は,被害当時19歳といまだ若く,看護師を目指しながら勉学やアルバイト
に励み,家族や友人らとの関係も良好で,充実した毎日を送っていたものであり,本
件当日も,普段どおりコンビニエンスストアでのアルバイトを終え,帰宅のために自
動車に乗り込んだところ,突如として本件凶行に遭遇し,恐怖と苦痛の中で非業の死
を遂げたものである。その被った恐怖心や身体的苦痛は計り知れないし,正に人生も
これからという時期に,何ら落ち度がないにもかかわらず,突然,その可能性に満ち
た将来とともに一命を奪われた被害者の無念さや,遠のく意識の中で被害者の胸に去
来したであろう家族らに対する愛惜の思いなどは,筆舌に尽くしがたく,誠に痛まし
いというほかない。
被害者の父親は「私は,怒りを抑えることが出来ませんし,かといってこの怒りを,
,。どこにぶつけたらいいのかもわからずはっきり言って腸が煮えくりかえっています
ましてや,看護師の道を選び,その上助産婦の資格も取ろうと頑張り,人の命を助け
る仕事をしようとしていた娘がどうして命を奪われなければならないのですか。私も
妻もやり場のない怒りで気持ちが休まることは一時もありません」などと被告人に対。
する憤りを露わにし,被害者の母親も「1年後は成人式だったのに,何でこんなにも,
短い命で終わってしまったの,命を助ける看護師を目指していた娘が,なぜ,人に殺
されなければならなかったの,と叫びたくなる」などと苦しい胸の内を語っていると。
,,おり大切に慈しみ育ててきた被害者を失った被害者の遺族の悲しみや憤りは大きく
「極刑以外望む刑はない「極刑でも許されない」などと述べているように,被告。」,。
人に対する処罰感情は極めて峻烈である。にもかかわらず,被告人は,いまだ被害者
の遺族に対する具体的な慰謝の措置を何ら講じてはいない。
また,本件は,コンビニエンスストアの駐車場において,利用客も少なくない夕方
の時間帯に突如として敢行された通り魔的殺人であって,本件が社会一般に与えた不
安感も軽視することはできない。
5そうすると,被告人の知的能力や精神的に追いつめられた不安定な心理状態下にあっ
たことなどが,被告人のあまりにも短絡的な本件犯行の動機形成に影響を与えたものと
認められることや,当初から刑務所志願の犯行であったとはいえ,一度は犯行現場から
逃走したものの約30分後に自首していること,被告人には古い業務上過失傷害罪によ
る罰金前科のほかは前科がないこと,当公判廷において被害者の遺族に対する配慮を欠
く言動なども見られるものの,これらは拘禁反応が影響しているとうかがわれる一方,
被害者やその遺族に対する謝罪の気持ち自体は捜査段階から表明していることなど,被
告人にとって酌むべき事情を最大限考慮しても,被告人の本件刑事責任は極めて重大で
あるというほかなく,被告人に対しては,主文のとおり無期懲役の刑をもって臨むのが
相当と判断した。
(検察官佐藤方生,国選弁護人早川正秋各出席)
(求刑無期懲役,没収)
平成18年4月27日
甲府地方裁判所刑事部
裁判長裁判官川島利夫
裁判官矢野直邦
裁判官肥田薫は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官川島利夫

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