弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決を破棄する。
       本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人城正憲ほかの上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例
を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,事実誤
認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 所論にかんがみ職権により判断する。
 1 第1審が認定した罪となるべき事実の要旨は,次のとおりである。
 被告人は,株式会社E銀行(以下「E銀行」という。)の代表取締役頭取として
,業務全般を統轄していたが,F信用保証協会(以下「協会」という。)のため職
務を誠実に遂行すべき任務を有していた協会の代表権を有する専務理事であるA,
常務理事であるB,常勤理事であるC(以下,「A」などといい,この3名を「協
会役員ら」という。)と共謀の上,協会が保証したD精機株式会社(以下「D精機」
という。)のE銀行に対する8000万円の債務について,協会がE銀行に保証条
件違反を理由とする免責を通知し,保証債務が消滅したにもかかわらず,E銀行の
利益を図る目的をもって,A,B及びCらにおいて,前記任務に背き,平成8年3
月下旬ころ,正当な理由がないのに上記免責の通知を撤回した上,同年7月19日
,E銀行に対する8000万円の代位弁済を実行し,協会に同額の財産上の損害を
加えた。
 第1審は,上記の事実を認定して被告人を懲役2年6月に処するとともに,4年
間その刑の執行を猶予し,原審は,事実誤認,法令違反を理由とする被告人の控訴
を棄却した。
 2 原判決が是認する第1審判決は,本件の事実関係を大要次のとおり認定して
いる。
 (1) 協会は,信用保証協会法に基づいて設立され,中小企業者等に対する金融
の円滑化を図る目的をもって債務保証等の業務を行っていた認可法人であり,E銀
行は,協会の保証債務のうち45%強に当たる債権を有する,石川県最大の地方銀
行であった。
 (2) 協会は,E銀行が平成5年6月30日にD精機に融資した8000万円の
債務について保証をしていたが,D精機は,その直後の同年7月9日,裁判所に会
社整理の申立てを行い,事実上倒産した。
 (3) 協会の事務担当者は,E銀行がD精機の経営状態の悪化を知りながら融資
を実行したのではないかとの疑いを抱いたものの,その確証が得られなかったので
,代位弁済の実行に向けた審査手続を進めていたが,その過程で,融資の担保とな
っていた工場財団の機械166点(これらの当時の時価評価額は約3億円である。)
のうち機械4点(同じく約6000万円である。)が登記漏れになっていることに
気付き,この点が保証条件違反に当たるとの理由で,代位弁済できない旨をE銀行
側に伝えた。その後,双方の担当者が折衝し,機械4点の登記の追完がされれば代
位弁済を行う旨の妥協案も出されたが,登記の追完が実現しなかったことから,E
銀行の審査部は,代位弁済を受けることは困難と判断して,協会に対し,債権償却
のための免責通知書の発行を求めるに至り,平成8年2月15日ころ,その交付を
受けた。
 (4) 他方,協会においては,平成6年度から平成10年度までの間,経営基盤
の強化等を目的として,県,市町村及び金融機関の出捐金や負担金により,合計1
0億5000万円を基本財産に充てるという基本財産増強計画があり,E銀行も,
平成6年度及び平成7年度には,各4000万円を超える負担金を拠出していた。
平成8年3月28日,Cは,被告人に面会して,同計画に基づき,平成8年度の負
担金の拠出を依頼したところ,被告人は,「負担金拠出には応じられない。それよ
りもD精機の代弁否認は無茶ではないか。160件余りの担保物件の追担の4件ぐ
らいで否認は無茶ではないか。」などと言って,前記債務に係る協会の免責方針を
見直し,代位弁済に応ずるよう強く要請した。
 (5) Cは,AとBに被告人の要請を報告し,対応を協議した。その結果,協会
役員らは,E銀行が負担金を拠出しなければ基本財産増強計画に支障を来すおそれ
があることから,被告人の要請に応じざるを得ないと判断し,被告人から折衝する
よう指示を受けて協会を来訪したE銀行審査部部長らに対し,代位弁済に応ずる旨
を告げた。
 (6) 同年4月1日,Cが再度,被告人に面会して負担金の拠出を依頼したとこ
ろ,被告人は,協会が免責通知を撤回したことについて礼を述べるとともに,拠出
に応ずる態度を示した。そして,協会は,同年7月19日,E銀行に対し,800
0万円の代位弁済を実行した。
 3 以上の事実関係を前提として,第1審判決は,被告人が協会役員らとの間で
順次共謀し,協会役員らにおいて,E銀行の利益を図る目的をもって,その任務に
背き,保証債務が消滅しているにもかかわらず,免責通知を撤回した上,上記代位
弁済を実行し,協会に同額の財産上の損害を加えたとして,背任罪の共同正犯の成
立を認め,原判決はこれを是認した。
 原判決の理由の要旨は,次のとおりである。
 (1) 免責事由の有無は免責通知書に記載された事由に限定されず,免責通知書
は既に発生している免責の効果を確認するにすぎないと解されるところ,本件保証
には,免責通知書に記載された担保の対象となった機械4点の登記漏れだけでなく
,旧債振替禁止違反,会社整理申立て等の隠ぺいの各免責事由が存在するから,協
会の保証債務は消滅している。
 (2) したがって,免責通知は正当なものであったと認められるから,これを撤
回して代位弁済をした協会役員らの行為はその任務に違背するものであり,同人ら
の当時の発言等に照らせば,任務違背の認識があったことも優に認められる。
 (3) 被告人の行為は正常な交渉とはかけ離れたもので,E銀行の頭取等として
の影響力に基づいて協会役員らに対し不当な要求をしたものといわざるを得ず,協
会役員らがこれに応ずることはその任務に違背するものであることをも,明確に認
識していたと認められる。
 (4) 被告人は,Cを介して協会役員らと順次共謀を遂げたと認められ,協会役
員らの義務違反行為を手段として自己の背任罪を犯したものといえる。
 4 しかしながら,原判決の上記判断は是認することができない。その理由は,
次のとおりである。
 (1) 原判決は,前記2(4)のとおり,被告人が,平成8年度の協会に対する負担
金の拠出に応じないことを利用して,代位弁済を強く求めたとする。
 記録によれば,負担金の問題については,次のような経緯がある。平成6年度か
ら5年計画で協会の基本財産を10億5000万円増加させることとなり,5年間
で石川県が5億円,関係市町村が5000万円,県内の金融機関が5億円を協会に
拠出することとなった。E銀行は,平成6年度に4200万円余,平成7年度に4
400万円余を拠出し,平成8年度には4300万円余の拠出が求められていた。
金融機関の拠出額は,協会の保証を受けた債務の前年末の残高及び過去1年間に受
けた代位弁済額によって算定されることになっていた。E銀行関係は,当時におい
ては,協会の保証債務残高の約5割弱,代位弁済額の約3割強ないし4割弱を占め
ており,いずれの額においても断然第1位であった。このような状況の下において
,独りE銀行のみが負担金の拠出を拒絶し,協会から利益は受けるけれども,応分
の負担をすることは拒否するという態度を採ることが実際上可能であったのか,ひ
いては,原審の認定のように,被告人が協会に対する負担金の拠出に応じないこと
を利用して代位弁済を強く求めることができたかどうか,については疑問があると
いわざるを得ない。
 (2) E銀行が協会に対する平成8年度の負担金の拠出を拒絶することが実際上
も可能であり,かつ,協会側が被告人から負担金の拠出に応じられない旨を告げら
れていたとしても,協会としては,(ア) 本件代位弁済に応ずることにより,E銀
行の負担金の拠出を受け,今後の基本財産増強計画を円滑に進めるべきか,それと
も,(イ) E銀行からの負担金を断念しても,本件代位弁済を拒否すべきか,両者
の利害得失を慎重に総合検討して,態度を決定すべき立場にある。上記(ア)の立場
を採ったとしても,負担金の拠出を受けることと切り離し,本件代位弁済をするこ
とが,直ちに協会役員らの任務に背く行為に当たると速断することは,できないは
ずである。
 (3) 原判決は,本件では免責通知書に記載された事由すなわち工場財団の対象
となる機械166点のうち4点について,登記手続が未了であったという事実以外
にも免責事由が存したとして,協会役員らが免責通知を撤回し代位弁済をした行為
がその任務に違背するものであった旨を詳細に判示しているが,上記の登記手続が
未了であったという事実以外の事実を当時の被告人が認識していたことは確定して
いないのであるから,そのような事実を直ちに被告人が行為の任務違背性を認識し
ていた根拠とすることはできない。そして,記録によれば,上記の機械4点の登記
漏れの事実が8000万円の債務全額について協会の保証責任を免責する事由とな
り得るかどうかについて,議論があり得るところである。
 また,原判決は,被告人の要求は事務担当者間の実質的合意等を無視したもので
あるから根拠のある正当な行為とはいえない旨を判示しているが,事務担当者間の
交渉結果につき役員による交渉によって再検討を求めること自体が不当なものと評
価されるべきものではない。
 (4) 【要旨】これらの諸事情に照らせば,本件においては,被告人が協会役員
らと共謀の上,協会に対する背任行為を実行したと認定するには,少なからぬ合理
的な疑いが残っているといわざるを得ない。
 5 そうすると,原判決は,事実を誤認して法律の解釈適用を誤った疑いがあり
,破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 よって,その余の所論について検討するまでもなく,刑訴法411条1号,3号
,413条本文により,原判決を破棄し,前記指摘の点などについて更に審理を尽
くさせるため,本件を原裁判所に差し戻すこととし,裁判官全員一致の意見で,主
文のとおり判決する。
 検察官吉田博視公判出席
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 福田 博 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野
 修)

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