弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
 控訴人代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らは控訴人に対し各自金二〇〇
〇万円及びこれに対する昭和五一年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合によ
る金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決
を求め、被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張並に証拠の関係は次のとおり付加するほか原判決事実
摘示のとおりであるからこれを引用する。
(控訴人の主張)
一 控訴人は、控訴人が保温着だけを縫製し被控訴人らのような大手家電メーカー
が電熱板を作つてこれを組合せて販売する計画で、本件意匠登録後の昭和四二年一
〇月頃訴外【A】(名古屋市議会議員)を介して本件登録意匠に係る保温着の見本
と意匠公報を被控訴人らに(直接には被控訴人日立家電販売株式会社に、同被控訴
人を通じてその余の被控訴人らにも)渡し、その趣旨の提案をしたところ、右訴外
人からいずれ被控訴人の方から交渉に来るので待つておるようにとの被控訴人らの
回答が伝えられた。そこで控訴人は期待して待つていたところ、被控訴人らは、昭
和四三年一〇月、控訴人に無断で、被控訴人製品(1)の物件を製造し、販売し始
めたのである。したがつて、被控訴人らは、控訴人の本件意匠権を盗用し、実施し
たものであり、右の経過は、本件登録意匠と被控訴人製品の類否を判断する上で重
視さるべきである。
二 また、本件登録意匠に係る保温着は、控訴人が、最初に、創作、開発し、実用
化した新製品であることも、類否判断の上で重視されるべきである。本件登録意匠
の出願前になされた原判決添付実用新案公報(実用新案出願公告昭三八ー一三一三
一号)に示された考案の対象物件は実用不適であり、実際にも、実施、実用化され
たことのないものであつた。このように、本件登録意匠は、控訴人が最初に実用化
した物の意匠なのであるから、その用途、機能に伴う必然的形状をも含む広い範囲
で意匠の類否が決定されるべきである。
三 被控訴人製品(1)(2)(3)の意匠がいずれも本件登録意匠に類似するこ
とは、以下に詳しく述べるとおりあきらかである。すなわち、
(一) 本件登録意匠と被控訴人製品(1)の意匠の類似性
 本件登録意匠の形状は次のとおりである。
1 両肢を入れるウエスト上部丈の保温着であること
2 底面をほぼ正方形としていること
3 上面穿口部をしぼつた形でほぼ正方形としていること
4 上穿口部から底面部にかけて外方に向つてゆるやかな膨らみがあり、その全体
の輪廓が上下に両端の尖鋭部分を切除した紡錘形状(こけし人形の首部を除いたも
のを思わせる形状)をなしていること
5 正面中央において、上縁から高さの半ばよりやや下方にかけてチヤツクを設け
ていること
6 正面上方部の左右に、口縁が両側方に下向傾斜したポケツト口をチヤツクの近
接位置側に配していること
7 胴形部と足首形部を下方に渉るに従いしぼらしめた縦縫合線を形成しているこ

8 口部周側は両側中央部に段差を形成して後半部を前半部より高く形成している
こと
9 一側方の下辺にコード口孔を設けた形態を有すること
 被控訴人製品(1)の意匠は、このうち1ないし4及び9については差異がな
い。相違はただ被控訴人製品(1)においてはチヤツクが正面中央でなく正面側方
において上縁から深い切込みを形成して設けられていること、正面上方部左右のポ
ケツト口の形状と位置、本件登録意匠が胴形部と足首形部を下方に渉るに従いしぼ
らせた縦縫合線を形成し、穿口部周側は両側中央部に段差を形成して後半部を前半
部より高く形成しているのに対し、被控訴人製品(1)においては正面中央部には
胴形部下方より足首形部の下端に至るやや傾斜した縫合線を形成している点におい
て、前記5ないし8と若干の相違がみられるに過ぎない。しかし、これらは全体的
に観察した場合、いずれも微細なものであり、被控訴人製品(1)の意匠と本件登
録意匠及び本件類似意匠との類似は否定すべくもないのである。
(二) 本件登録意匠と被控訴人製品(2)の意匠の類似性
 被控訴人製品(2)の意匠は前記1、2及び9の点においては本件登録意匠と差
異がなく、ただ次の点に若干の相違がみられるに過ぎない。
イ 本件登録意匠が上面穿口部をしぼつた形でほぼ正方形とし、上穿口部から底面
部にかけて外方に向つてゆるやかな膨らみがあり、その全体の輪廓が上下に両端の
尖鋭部分を切除した紡錘形状をなしているのに対し、被控訴人製品(2)は上面穿
口部の形状をその後半部分を強くしぼつた形の小さい半月形にして、上穿口部から
底面部にかけて外方に向つてわずかに曲線を示す膨らみがあり、その全体の輪廓は
頭陀袋を細長くしたような形状をなしている。
ロ チヤツクが被控訴人製品(2)においては正面中央でなく正面と右側面との間
の布地のつなぎ目に添つて設けられている。
ハ 本件登録意匠が前記6の如き形状のポケツト口をチヤツクの近接位置側に配
し、前記7の縦縫合線を形成しているのに対し、被控訴人製品(2)は正面上方の
中央部に中央に仕切りを入れ、口縁をその中央から両側に向つてわずかに外方下向
の斜直線状にしたポケツトを配し、背面膝下部においてゴム紐による絞りがかけら
れ、その上下にわたつて大きいひだが形成されており、また本件登録意匠は穿口部
周側は両側中央部に段差を形成して後半部を前半部より高く形成しているのに対
し、被控訴人製品(2)は穿口部によつて形成される上縁は何らの段差もないほぼ
水平な一線であり、さらに被控訴人製品(2)では左右側面は全体の輪廓がローマ
字のBをややくずした形を思わせる形状で、両側線の一方がその上端及び下端に近
い部分においてごく僅かに曲線を示すほかはほぼ垂直な直線であるのに対し、他の
一方は上端から下端にかけてなだらかに外方への膨らみを見せつつ膝下部において
緩いハート型の凹部を形成する二段曲線である。
 しかし、右イの点は全体の輪廓が紡錘形状であると頭陀袋を細長くした形である
とによつて看者の受けるイメージにさほどの変化はなく、ロの点は部分的小差であ
り、ハの点も使用する際にもつとも看者の注意をひくのは正面の形状であるから、
意匠全体を左右するほどのものではない。
被控訴人製品(2)の本件登録意匠及び本件類似意匠との類似は否定すべくもない
のである。
(三) 本件登録意匠と被控訴人製品(3)の意匠の類似性
 被控訴人製品(3)には背当てがついているが、両肢を入れるウエスト上部丈の
保温着である点は本件登録意匠と異ならず、前記(一)記載の本件登録意匠の形状
のうち、2、9は両者に共通である。他方、両者の間には、3の上面穿口部の形状
が被控訴人製品(3)では前半部分を強くしぼつた形の小さい半月形をなしている
こと、4の上穿口部から底面部にかけての膨らみ、紡錘形状の輪廓の紡錘形状が被
控訴人製品(3)では背当て部を除く両側線の一方が上端にごく近い部分でわずか
に曲線を示すほかはほぼ垂直な直線をなし、他の一方は上端から下端にかけてなだ
らかな外方への膨らみをみせつつ膝下部において緩いハート形の凹部を形成する二
段曲線で、全体の輪廓は徳利ないしビール瓶を思わせる形状であること、チヤツク
が被控訴人製品(3)では正面中央の布地のつなぎ目に添つていること、本件登録
意匠が胴形部と足首形部を下方に渉るに従いしぼらせた縦縫合線を形成し、穿口部
周側は両側中央部に段差を形成して後半部を前半部より高く形成しているのに対
し、被控訴人製品(3)は左右側面は全体の輪廓が子守りがねんねこで赤子を背負
つたような形状で両側線が腰部から背当てにかけての部分及び下端に近い部分でわ
ずかに曲線を示すほかはほぼ垂直な直線であり、背面膝下部においてゴム紐による
しぼりがかけられ、その上下にわたつて大きいたてひだが形成され、穿口部と背当
て部とによつて形成される側面上縁はローマ字のJの横棒を後にずらしたような形
状であり、背当て部分は富士山状の形状で、その上縁の両端から前面上縁にかけて
垂直に二本のサスペンダーが取りつけられていることなど若干の相違点が存する
が、右は、使用する際にもつとも看者の注意をひくのは正面の形状であることに照
し、全体的には重要でない。被控訴人製品(3)の正面形状が本件登録意匠のそれ
に非常に近似していることから、両者の類似性はあきらかである。
(被控訴人の主張)
右控訴人主張一、二の事実はいずれも否認する。
同三において控訴人は、被控訴人が本件登録意匠の要部であり、被控訴人製品
(1)(2)(3)にはかかる特徴がないとする二つの点(原判決二〇枚目裏記載
の本件登録意匠の特徴(1)(2)に関する被控訴人の主張を参照)の一つである
正面、背面、左右側面の各両側線の膨らみについて、本件登録意匠の構成を特定す
るにあたつても、被控訴人製品(1)の意匠を特定するにあたつても、「上下に両
端の尖鋭部分を切除した紡錘形状(こけし人形の首部を除いたものを思わせる形
状)」とこれを表現し、両形状が当然に同一の形状であるかの如き誤まつた前提を
とつて、本件登録意匠と被控訴人製品(1)の意匠の類似を主張している。しか
し、「上下両端の尖鋭部分を切除した紡錘形状」(本件登録意匠)と「こけし人形
の首部を除いたものを思わせる形状」(被控訴人製品(1)の意匠)を同一視する
ことはできない。またその他の点については控訴人も右二つの点の相違を本件登録
意匠と被控訴人製品(1)(2)(3)の間に認めながら、これを徴細な相違点と
している。しかし、本件登録意匠の要部に関する形状の差異を部分的小差として無
視することは許されない。
(新たな証拠)(省略)
       理   由
 当裁判所も本件登録意匠と被控訴人製品(1)、(2)、(3)の意匠とはいず
れも非類似であるから控訴人の請求は排斥を免れないと判断するのであつて、その
理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決が理由において説示するところと
同一であるから、これを引用する。
一 原判決二九枚目表四行目から五行目にかけての括弧書きの部分を削除し、同三
〇枚目裏七行目に「よるものとする」とあるのを、「よるものとする(もつとも意
匠公報に「左側面図」として掲載されている写真は「右側面図」と認められ、「正
面図」と「背面図」、「正面図」と「平面図」「底面図」相互間にも厳密には不統
一のところがないではない。しかし、これらは別段右対比を困難ならしめるもので
ない。)。」と改める。
二 同三〇枚目裏八行目に「検甲第二号証」とある次に「、検乙第二号証」と加
え、同末行に「検乙第一号証」とあるのを「検乙第一、二号証」と改める。
三 同三二枚目表二行目と三行目の間に次を加える。
「(四) 成立に争いのない甲第五七号証中の参考図(イ、ロ、ハ号物件)は弁理
士【B】が控訴人から提供を受けた被控訴人製品(1)(2)(3)を本件登録意
匠の意匠公報に表わされた写真とできるだけ同じ条件で(正投象図法)観察した結
果を記載したものである。したがつて、写真撮影したものではないが、これも対比
に当つては参考とすることとする。」
四 同三二枚目裏四行目に「面側線」とあるのを「両側線」と訂正し、三三枚目表
六行目、三六枚目表五行目、三七枚目裏二行目、三九枚目表二行目に各「8 全外
周面をキルテイングで現わしていること。」とある次に、いずれも「一側方の下辺
にコード口孔を設けた形態を有すること。」を加え、同三三枚目裏四行目に「尖
鉛」とあるのを「尖鋭」と訂正する。
五 同三六枚目表六行目の前に次のとおり加える。
「9 正面中央部の左右に胴形部下方より足首部下端までやや傾斜した縫合線のみ
られること。
 前記甲第五七号証によれば、弁理士【B】もその鑑定において、被控訴人製品
(1)が「上面穿口部をしぼつた形でほぼ正方形としている」、「上穿口部から底
面部にかけて外方に向つてゆるやかな膨らみがあり、全体の輪廓が上下に両端の尖
鋭部分を切除した紡錘形状をなしている」、「正面側方において、上縁から深い切
り込みを形成してチヤツクを設けている」ことのほかは、右の如き構成の意匠であ
ることを認めている。なお右観察の相違するところは上部穿口に縫い込まれたゴム
のたるみ等によつて生じたものと推認されるが、右鑑定が上穿口部から底面部にか
けての全体の輪廓を紡錘形状と判断している点は検乙第二号証、前記乙第一二号証
の一と対比し採用することができない。」
六 同三七枚目裏三行目の前に次のとおり加える。
「前記甲第五七号証によれば、前記【B】鑑定も、被控訴人製品(2)が「上穿口
部から底面部にかけて外方に向つてわずかに曲線を示す膨らみがある」ことのほか
は、右の如き構成の意匠であることを認めている。なお、
右観察の相違するところは検乙第一号証と対比しこれを被控訴人製品(2)の意匠
の形態として特記すべきものとは認めがたい。」
七 同三九枚目表三行目の前に次のとおり加える。
「前記甲第五七号証によれば、前記【B】鑑定も、被控訴人製品(3)が右の如き
構成の意匠であることを認めている。」
八 同四〇枚目表二行目の「本件登録意匠」から同四行目の「(9)」までを削除
し、同裏四行目に「類似しない。」とある次に、次のとおり加える。
「前記甲第五七号証によると【B】鑑定は右(6)の相違点を認めず、両意匠は共
に「全体の輪廓が上下に両端の尖鋭部分を切除した紡錘形状(こけし人形の首部を
除いたものを思わせる形状)」を有するとしているが、本件登録意匠の紡錘形状と
被控訴人製品(1)のこけし人形の首部を除いたものを思わせる形状とを同一視す
ることはできない。」
九 同四〇枚目裏六行目に「(10)」、同八行目に「(11)」、同四一枚目表
八行目に「(12)」、同末行に「(13)」、同裏二行目に「(14)」、同六
行目に「(9)」、同八行目に「(11)」、同四二枚目表八行目に「(1
5)」、同九行目に「(16)」、同四三枚目表一行目に「(17)」、同四行目
に「(18)」、同七行目に「(19)」、同一〇行目に「(14)」、同裏二行
目に「(16)、(17)」とあるを、それぞれ「(9)」、「(10)」、
「(11)」、「(12)」、「(13)」、「(8)」、「(10)」、「(1
4)」、「(15)」、「(16)」、「(17)」、「(18)」、「(1
3)」、「(15)、(16)」と改める。
一〇 本件登録意匠の(一)穿口部から底面部にかけての緩やかな膨らみ、その全
体の輪廓が上下に両端の尖鋭部分を切除した紡錘形状をなしていること、(二)穿
口部の両側面にある段差、そのため人体の後部に当たる後半部が前半部より顕著に
高くなつていることの二点は本件登録意匠の要部と認められる。したがつて、本件
登録意匠と右の二点を含まない被控訴人製品との相違をいずれも意匠の類似性を損
わない部分的小差とする甲第五七号証の【B】鑑定は採用することができず、
従つてこれに基づく控訴人の主張も同様採用することができない。因みに、同号証
によれば、被控訴人製品(1)に関する限り、右(一)の点の相違が本件登録意匠
との間にしかく明瞭でないように観察記載されている。右に従いえないことは既に
述べたが、仮りにこの点を問わないこととしても右(二)の点で両意匠は明らかに
異なつているから、両者を類似の意匠とすることはできない。
 なお、控訴人はかかる意匠の類否判断においては、本件登録意匠が実用化された
保温着に関する最初の登録意匠であることを重視すべき旨主張する。しかし、たと
えそうだとしても、保温着自体は本件登録出願前にすでに考案され公知のものにな
つていたと認められる(原判決三四枚目表の記載参照。因みに成立に争いのない乙
第四号証、同第二九号証と原審における控訴人当人尋問の結果によれば、控訴人は
本件意匠登録にかかる保温着をその登録申請のころ実用新案としても出願したが、
拒絶すべき旨の査定を受けたことが認められる。)から、実用新案権を有しない控
訴人が本件意匠権によつて意匠権以上の保護を求め得ないのはもちろん(甲第二
二、第二三号証、同第五〇号証、同第五四ないし第五六号証、原審における控訴人
本人の供述などに現われた控訴人本人の意見はこの点を誤解しているのではないか
と思われるふしがある。)この種保温着の用途、機能に伴う必然的形状をなすとみ
るべき部分についてまで本件意匠による保護を拡大することはできない。また、控
訴人は、控訴人が被控訴人らに対し本件登録意匠に係る見本等を渡したところ、被
控訴人らは被控訴人製品を製造、販売するに至つたもので、この点を類否判断にお
いて重視すべきであるとも主張するが、成立に争いのない乙第二〇号証、同第二一
号証の一、二、同第二二、第二三号証によれば、同種の足温器としてはすでに昭和
四〇年頃から松下電器株式会社の製品が市販されていたものが存することが認めら
れるばかりでなく、仮に控訴人主張の如く被控訴人製品が控訴人提供の見本にヒン
トを得ているとしても、当該製品が本件登録意匠を侵害しているかどうかの判断
は、被控訴人製品の有する意匠と本件登録意匠の対比のみによつて行われるべきで
あるから、いずれにしても右の事実は前記結論を左右しえない。
 よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は正当で、本件控訴は理由がないから棄
却し、控訴費用の負担について民訴法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決
する。
(裁判官 宮本聖司 海老澤美廣 笹本淳子)

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