弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人らは連帯して控訴人に対し金五万円およびこれに対する昭和二
七年一二月二五日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
     訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その一を控訴人の、その
余を被控訴人らの連帯負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文第一、二項同旨(従前の請求の趣旨を減縮)および「訴訟費用
は第一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは
控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は、控訴代理人において
 一、 原判決二枚目表一二行目「相互にうち合つて遊戯中」の次に「控訴人およ
び訴外A、Bの三名はパチンコの弾丸を消費し尽したので、被控訴人らの子供四名
が二名宛双方に別れてうち合うこととなり、控訴人および右A、Bの三名が傍観
中」を加える。
 二、 控訴人としては被控訴人C、Dの子Eのうつた弾丸が控訴人の左眼に命中
したのではないかと考えるのであるが、それが確然としないところ、被控訴人らの
子供四名中の誰かのうつた弾丸が控訴人の左眼に命中したのであるから、いずれに
せよ被控訴人らは民法第七一九条第一項、第七一四条第一項による損害賠償の責に
任ずべきである。
 三、 なお、従前の損害賠償請求金額を慰藉料金五万円のみに減縮し、被控訴人
らに対し右金五万円およびこれに対する被控訴人らに本訴状が送達された日の後で
ある昭和二七年一二月二五日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損
害金の支払を求める。
 と述べ
 証拠として新たに控訴代理人において甲第一四号証の一ないし四、第一五号証の
一ないし三、第一六号証の一ないし四、第一七号証の一ないし三、第一八号証を提
出し、当審証人F、G、H、Iの各証言並びに当審における控訴人法定代理人J、
控訴人各本人尋問の結果を援用し、被控訴人C、D、K、Lにおいて当審証人M、
E、Nの各証言並びに当審における被控訴人K、C各本人尋問の結果を援用し、当
審提出の前記甲号各証中第一四号証の二、第一六号証の一については公務所作成部
分の成立のみを認め、その他の部分の成立は知らない、その余の同号各証の成立は
いずれも認めると述べ、被控訴人Oにおいて当審証人Pの証言を援用し、当審提出
の前記甲号各証の成立はいずれも知らないと述べ、被控訴人Qにおいて右甲号各証
の成立はいずれも知らないと述へたほかは、すべて原判決の事実摘示と同じである
ので、これを引用する。
         理    由
 一、 控訴人および控訴人主張の被控訴人らの各子供が昭和二六年当時いずれも
未成年者(被控訴人Rについては真正に成立したものと認めるべき、その余の被控
訴人については成立に争いのない甲第五ないし第九号証によれば、控訴人は昭和一
七年五月一三日生、被控訴人C、Dの二男Eは昭和一三年一二月二一日生、同K、
Lの二男Nは昭和一四年九月一二日生、同O、Sの長男Pは昭和一六年一月三日
生、同Q、Rの三男Tは昭和一五年一月二七日生であることが認められる。)で、
それぞれ法定代理人である被控訴人ら実父母の保護監督下にあつたものであるとこ
ろ、同年一一月二〇日に控訴人と被控訴人らの右子供四名が控訴人主張のU方附近
でパチンコ遊びをしていた際、控訴人がその左眼を負傷したことは当事者間に争い
がない。
 二、 控訴人は控訴人の右負傷は右パチンコ遊びの遊戯中被控訴人らの前記子供
四名の中のいずれかの発射した弾丸が控訴人の左眼に命中したことによるもの、す
なわち右子供四名の共同不法行為によるものである旨主張するので、次に判断す
る。
 (1) 成立に争いのない甲第一号証の一、二、被控訴人C、D、K、Lについ
ては成立に争いがなく、その余の被控訴人らについては公文書であるから真正に成
立したものと認める同第一四号証の三、第一五ないし第一七号証の各一、二、原審
証人Vの証言により成立を認める同第二号証に原審証人W、Xの各証言並びに当審
における控訴人本人尋問の結果を綜合すれば、前記パチンコ遊びは前示一一月二〇
日の夕刻頃控訴人および被控訴人らの前記子供四名のほか同年配のA、Bが各自俗
にパチンコ(豆鉄砲ともいう)と称する玩具(木の又にゴム紐をつけ、これで木の
実などの弾丸をはじいて遊戯するもの)を手にして前記U方前の幅六・六米の県道
をはさんでふた手に別れ、右パチンコで木の実(かの実)をはじいて射ち合いをし
ていたもので、その遊戯中被控訴人らの前記子供四名のうちいずれか一人の発射し
た木の実が、弾丸がなくなつたので射つ手をやめてそばで見ていた控訴人の左眼に
命中し、よつて控訴人が同部位に治療約三ケ月を要する外傷性白内障並びに硝子体
出血症の傷害を受けたことが認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。
 <要旨>(2) 「ところでパチンコ遊びは前認定のとおり子供らの遊戯の一つで
はあるにしても、石の投合いと同様そこによるべきなんらのルールもなくた
ゞ木の実等を射ち合うもので、豆鉄砲ともいわれるごとくそれ自体ある程度の怪我
のもととなるべき危険を蔵していることは経験則上明らかなところであつて、その
点において危険な遊びとして子供らに禁止されてしかるべきものである。従つて遊
戯者としてはこの場合相手方に怪我を与えないようできるだけの注意を払うべき義
務があるといわなければならないところ、前記子供らの遊戯中の状況から見れば、
子供らは右のような注意義務を尽していなかつたことが明らかである。
 (3) 尤も右パチンコ遊戯のやり方から見て遊戯者は木の実等が自分に命中す
ることをあらかじめ容認しているものと認められなくはないが、前記のような危険
な遊びについて前記子供らにそのような容認能力があるかどうかはきわめて疑わし
く、その点で右パチンコ遊戯中の弾丸の命中に違法性がないということはできな
い。
 (4) そうすると前記子供四名のうちの誰の発射した木の実の弾丸が控訴人の
左眼に命中したかについて明らかな主張も立証もない本件においては、右遊戯中に
控訴人がその左眼に受けた前記傷害は前記子供四名の共同不法行為によるものと見
るほかはない。
 三、 次に前記子供四名が右共同不法行為当時前示のとおりいずれも未成年者
(満一〇年ないし一二年)であつたとすれば、反証のない限り右子供らは民法第七
一二条の規定によりその行為につき賠償の責に任じないことになるが、その反面前
示のとおり右子供らの監督者である被控訴人らにおいてその監督義務を怠らなかつ
たことの反証を挙げない限り(本件にはそのような主張も反証もない。)、同法第
七一四条の規定により各自その子供らが前記共同不法行為により控訴人に加えた損
害、すなわち前示傷害を賠償する責に任ずべきものである。」
 四、 そこで右賠償すべき損害の額について案ずるに、この点につき控訴人は慰
藉料として金五万円のみを主張するが、原審証人Vの証言並びに原審および当審に
おける控訴人法定代理人J、当審における控訴人本人尋問の結果に徴すれば、控訴
人は前記共同不法行為により左眼に前示のような傷害を受けた結果、昭和二六年一
二月二三日から同二七年三月二五日まで仙台市aにある鬼怒川眼科病院に入院のう
え手術、冶療を受け、退院後も一年くらい同病院に時折通つて治療を続ける等の手
当を続けたため、左眼の失明は免れたものの、その視力は〇、五以上に回復せず、
そんなことから勉学も思うに任せず、現在(昭和三六年七月当時)は高校進学を諦
めて家業の農業に従事していることが認められ、右事実よりすれば控訴人が右傷害
を受けたことにより覚えた精神的苦痛はきわめて大きいものであつたことが察知で
きるのであつて、これに対する慰藉料の相当額は、控訴人が前記パチンコ遊戯の仲
間の一員であつたという状況を勘案して見ても、金五万円を下るものではないと考
える。
 五、 それなら被控訴人らに対し慰藉料金五万円円よびこれに対する被控訴人ら
に本訴状が送達された日の後であること記録に徴し明らかな昭和二七年一二月二五
日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める控
訴人の本訴請求は正当であつて、これを認容すべきである。右と認定を異にする原
判決は不当であつて、その取消を免れない。
 六、 よつて民事訴訟法第三八六条、第九六条、第九三条、第八九条に従い、主
文のとおり判決する。
 (裁判長判事 高井常太郎 判事 上野正秋 判事 新田圭一)

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