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平成20年(少コ)第438号敷金等返還請求事件(通常訴訟手続に移行)
判決
主文
1被告は,原告に対し,金34万2000円及びこれに対する平成21
年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを10分し,その2を原告の負担とし,その余を被
告の負担とする。
4この判決は,1項及び3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,金44万7000円及びこれに対する訴状送達の
日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3仮執行宣言
第2事案の概要
1請求原因の要旨
原告は,被告との間で,平成20年10月5日,k市l区m町n−o所
在の建物(以下「本件建物」という)について,原告を借主,被告を貸主。
とする賃貸借契約(以下「本件契約」という)を締結した。。
原告は,被告及び仲介業者に対して,本件契約に基づき,次の金員を支
払った。
①敷金30万円
②同年11月分家賃12万6000円
③仲介手数料13万2300円
④消毒料1万6275円
⑤家賃保証料2万5200円
⑥鍵交換代2万1000円
⑦火災保険料3万円
合計65万0775円
原告は,同年10月24日,仲介業者を通じて,被告に対し,本件契約
を解除する旨申し入れた。
その後,仲介業者から,前記③仲介手数料,⑤家賃保証料,⑦火災保険
料の合計18万7500円の返還はあったが,残りの金員の返還はない。
よって,原告は,被告に対し,本件契約の合意解除又は解約に基づく現
状回復請求として,前記①敷金,②同年11月分家賃,⑥鍵交換代の合計
44万7000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで
年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
2請求原因に対する認否及び被告の主張
(1)敷金,平成20年11月分家賃及び鍵交換代を請求原因のとおり受け
取った事実は認める。
(2)本件契約を合意解除した事実はない。また,本件契約を解約する場合
は,約定により,書面により申し入れすることとされているが,書面に
よる解約申し入れはなく,解約は成立していない。原告が仲介業者の従
業員のEに解約を申し入れたとしても,被告は仲介業者に賃借人の募集
を依頼し,本件契約は締結され,金銭の授受はなされ,仲介業務は終了
しているから,被告に対して,いかなる効果も生じない。原告は,本件
建物に一度も入居しておらず,被告としては,入居する意思はないもの
として,同年12月末日をもって本件契約は終了したものとして扱い,
同21年1月から原告とは別の入居希望者に賃貸したものである。
(3)敷金に関しては,約定により,全額償却するものとされている。本件
建物の家賃は月額20万円から25万円が相場であるが,全額償却を前
提としていること,賃貸借期間は5年で,延長は認めないという定期借
,家契約を条件としていることから,月額15万円で賃貸しようとしたが
原告から減額の申し出があったことや,2階部分はリフォームせず,2
階にある5部屋のうちの2部屋に本件契約時に置かれていた荷物を引き
続き置かせてもらうという条件で,月額12万6000円にしたもので
ある。
敷金は60万円で全額償却するのが相場であるが,本件では敷金を3
0万円としていることから,これを全額償却としても,賃貸人に一方的
に有利とはいえず,敷金の償却の約定が社会的相当性を逸脱していると
もいえない。
(4)鍵交換代については,原告が費用は負担するので鍵を交換して欲しい
ということで,交換に要する費用として,被告は仲介業者の従業員であ
るEから2万1000円を受け取ったものである。
被告が鍵交換代を負担することになっていたのであれば,そもそも原
告はEに鍵代を支払う必要はなかったはずである。
3原告の主張
(1)本件契約はすべて仲介業者であるFを通じて行われており,担当者は
Eであったことから,解約もEを通したもので,一般的に解約申し入れ
は仲介業者を通して行われるものであるから,本件でも解約申し入れは
有効である。
なお,解約申し入れは書面で行っている。
(2)敷金を全額償却する旨の契約条項は,賃借人の権利を不当に制限する
ものであるから無効であり,被告は敷金返還義務を負うべきである。
被告から敷金を全額償却する代わりに家賃を低額に抑えておくという
説明は受けていないし,家賃は低額ではなく,適正な額である。
(3)引っ越しの際に鍵の交換を行うのは常識である。原告は仲介業者から
鍵交換代として求められた金額を支払ったに過ぎない。
第3裁判所の判断
1原告と被告間で本件契約が締結され,その後,本件契約は終了している
事実並びに敷金,平成20年11月分家賃及び鍵交換代を原告が被告に支
払った事実は,当事者間に争いはない。
2本件契約の終了理由,被告に敷金等の返還義務があるのかという点に関
して,当事者間に争いがあるので,以下,検討する。
(1)本件契約終了理由について
原告は合意解除ないし原告からの解約申し入れにより,本件契約は終
了した旨主張するのに対し,被告はそれらの事実をいずれも否定し,原
告が入居しないので,平成20年12月末をもって本件契約が終了した
ものと扱った旨主張している。
甲4,甲5及び原告の弁論によれば,同年10月24日に原告はEに
解約の申し入れを行い,同月25日にEは被告にその旨伝えた事実が認
められる。
ところで,被告の弁論によれば,被告は原告の解約申し入れに納得し
ていなかった事実が認められること,本訴が提起されているということ
は,原告と被告間で,現在にいたるも本件契約に関する精算が行われて
いないことの表れであることからすると,原告と被告間で,合意解約が
成立したものと解することは困難である。
しかしながら,原告から被告に対して,解約申し入れが行われた事実
は認められることから,本件契約は解約によって終了したものと解する
ことはできる。
なお,この点に関して,被告は被告自身に対する解約申し入れがなか
った旨主張し,さらに,本件契約条項上,書面によることとされている
,が,書面によっていない旨主張している。しかしながら,甲5によれば
Eを通して,原告の解約申し入れは被告に伝えられたものと認められる
し,被告自身,原告は幽霊が出る,妖気を感じたとして,本件契約に因
縁をつけてきたので怒りを抑えることができなかった旨述べており,原
告から解約申し入れがあったことを知っていたことを推認させる弁論を
,行っている。また,被告は甲4の書面は見たことがない旨述べているが
原告の弁論からすれば,原告がEに解約申し入れを行った際,原告はE
から甲4の書面に署名押印するよう求められ,甲4はその場で作成され
たものであると認められるから,書面による解約申し入れはなされたも
のと解される。Eは仲介業者としての立場で,本件契約の締結に関与し
ており,Eによって,原告の解約申し入れは被告自身に伝わっているこ
とからすると,Eを通じて行われた原告の解約申し入れが無効となるい
われはない。甲2によれば,同年11月分の家賃は同年10月6日に支
払済みであることが認められることから,甲1の14条の規定により,
本件契約は被告に告知されたと考えられる同月25日に終了したものと
解するべきである。
(2)敷金等の返還義務について
甲1の契約条項7条には,保証金(敷金)30万円は全額償却する旨
の記載が認められるが,敷金は一般に賃貸借契約から生ずる賃借人の債
務(未払家賃や賃借人が負担する必要のある修繕費等)を担保するため
に賃借人から賃貸人に差し入れられたものであるから,賃借人に未払家
賃,修繕費等の債務がない場合には,他に合理的な理由がない限り,賃
貸人は賃借人に返還する義務を負い,これと異なる定めは消費者契約法
10条により無効になると考えるべきである。被告は,敷金の全額償却
の定めは賃料及び敷金を相場と比べて低額にしているためである旨主張
しているが,当該事実を裏付ける証拠はないし,被告自身,賃料を低額
にした理由として,契約期間を5年間として,更新できない定期借家と
したことや,リフォームを一部行わないことにしたからである旨述べて
,いるところであり,また,敷金を低額(相場の半額)に抑えたとしても
それは早期に契約を締結し,空室状態をできるだけ防ぐという経営上の
措置であるとも考えられるところであり,敷金の全額償却を正当化する
合理的な理由は認められないから,被告は,原告に対し,敷金30万円
の返還義務を負う。
次に,同年11月分の家賃の返還義務の有無について検討するに,解
約申し入れにより,本件契約は同年10月25日に終了したものと解さ
れるところ,甲1によれば,契約条項14条に,1か月分の月額家賃を
賃貸人に支払うことにより即時中途解約することができる旨定められて
おり,本件ではこの条項に該当すると考えられるから,原告は,初日不
参入により,同月26日から1か月後の同年11月25日までの賃料に
ついては返還請求することはできず,同月26日から同月30日までの
5日間分のみ返還請求することができるものと考えられる。12万60
00円の30日分の5日分は2万1000円となるから,被告が返還義
務を負うのは2万1000円である。
次に,鍵交換代の返還義務について検討するに,新たに賃貸借契約が
締結される場合の鍵の付け替えは,賃貸人が当該物件管理上の責任を負
っており,その義務の履行としてとらえるのが相当であるから,賃借人
が負担した場合には,賃貸人は自らの支出を免れたことによる利得を得
たことになるから,原則として,当該費用の返還義務を負うと解するべ
きである。鍵の交換を原告が要求して,その費用の負担を了解していた
ものであるか否か,原告と被告とで主張は異なっており,事実関係は明
らかではないが,少なくとも,鍵は交換され,その費用を原告が負担し
た事実は明らかであり,原告が負担する必要がないのに鍵交換代を支出
したことを裏付ける証拠はないから,原則に従い,被告が鍵交換代2万
1000円の返還義務を負うと解するべきである。
なお,訴状送達の日の翌日が同21年1月24日であることは顕著な
事実である。甲1によれば,契約条項8条に敷金の返還時期は原告又は
,物件管理者が退去確認後,原則として1か月以内とする旨定めているが
訴状送達の日の翌日はその後であるから,遅延損害金の起算日は後者と
なる。敷金以外の既払金(11月分家賃の一部及び鍵交換代)について
も,同日以降遅滞となる。
3結論
以上によれば,原告の請求は,34万2000円及びこれに対する平成
21年1月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払
いを求める限度で理由があるから,主文のとおり判決する。
名古屋簡易裁判所
裁判官佐藤有司

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