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         主    文
一 原判決中、平成一〇年(オ)第一四九九号・同第一五〇〇号各被上告人B1及
び同B2が同第一四九九号被上告人・同第一五〇〇号上告人B3及び同第一五〇〇
号上告人A1に対し第一審判決別紙物件目録記載の三ないし五の土地について共有
持分権確認及び持分移転登記手続を求める部分を除く、その余の部分を破棄する。
二 前項の破棄部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
三 右B3の上告中、第一審判決別紙物件目録記載の三ないし五の土地に関する部
分を棄却する。
四 右A1の上告を棄却する。
五 第三項の部分に関する上告費用は右B3の負担とし、前項の部分に関する上告
費用は右A1の負担とする。
         理    由
 第一 本件事案の概要
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 D(以下「被相続人」という。)は、第一審判決別紙物件目録記載の一ない
し五の土地(以下「本件各土地」といい、各個の土地は「本件一土地」のようにい
う。)等を所有しており、本件各土地の登記名義人であったが、平成五年一月二二
日に死亡し、相続が開始した。
 2 E、平成一〇年(オ)第一四九九号被上告人・同第一五〇〇号上告人B3(
以下「一審被告B3」という。)、F、同第一四九九号上告人・同第一五〇〇号被
上告人補助参加人C(以下「補助参加人」という。)、G及びHの六名は、いずれ
も被相続人の子であり、同第一五〇〇号上告人A1(以下「一審被告A」という。)
は、一審被告B3の子であって被相続人の養子である。また、同第一四九九号・同
第一五〇〇号各被上告人B1及び同B2(以下「当事者参加人ら」という。)は、
被相続人の長男である亡Iの子であり、その代襲相続人である。
 3 被相続人は、昭和五七年一〇月一五日、公正証書により、その所有する財産
全部を一審被告B3に相続させる旨の遺言(以下「旧遺言」という。)をした。
 4 被相続人は、昭和五八年二月一五日、公正証書により、旧遺言を取り消した
上、改めて次の内容の遺言(以下「新遺言」という。)をした。
 (一) 本件一土地をE、F、補助参加人、G及びHの五名(以下「Eら」とい
う。)に各五分の一ずつ相続させる。
 (二) 本件二ないし五土地を一審被告B3及び一審被告Aに各二分の一ずつ相
続させる。
 (三) 被相続人所有のその他の財産は、相続人全員に平等に相続させる。
 (四) 遺言執行者として平成一〇年(オ)第一四九九号上告人・同第一五〇〇
号被上告人B4(以下「一審原告」という。)を指定する。
 5 しかるに、一審被告B3は、平成五年二月五日、旧遺言の遺言書を用い、本
件各土地について、自己名義に相続を原因とする所有権移転登記をし、さらに、本
件訴訟が第一審に係属中である平成七年四月六日、本件三ないし五土地の各持分二
分の一について、一審被告Aに対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権一
部移転登記をした。
 6 当事者参加人らは、平成五年九月二九日、他の相続人ら及び一審原告に対し
て遺留分減殺の意思表示をし、右意思表示は、同年九月三〇日から同年一〇月八日
までの間にそれぞれ到達した。
 二 記録によって認められる本件訴訟の概要は、次のとおりである。
 1 一審原告は、新遺言の遺言執行者として、一審被告B3に対し、本件一土地
についてEらへの、本件二土地の持分二分の一について一審被告Aへの各真正な登
記名義の回復を原因とする持分移転登記手続を求めた。これに対し、一審被告B3
は、特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言(以下「相続させる遺言」
という。)がされた場合には遺言執行の余地はないとして、一審原告の原告適格を
争うとともに、Eらが、平成五年一月二三日、一審被告B3に対して相続分の放棄
又は譲渡をし、本件一土地の共有持分権を失ったと主張する。
 2 当事者参加人らは、遺留分減殺の意思表示をした上、本件各土地についてそ
れぞれ三二分の一の共有持分権を取得したとして右1の訴訟に独立当事者参加をし、
右共有持分権に基づき、(1) 一審原告に対し、右共有持分権の確認を求めると
ともに、(2) 一審被告B3に対し、右共有持分権の確認と遺留分減殺を原因と
する持分移転登記手続を求めた。これに対し、一審被告B3は、右遺留分減殺請求
権の行使は権利の濫用に当たり、一審被告B3の寄与分を考慮すべきであると主張
するほか、Eらが右遺留分減殺請求権の行使より前に本件一土地の共有持分を一審
被告B3に対して譲渡したから、民法一〇四〇条一項本文により、当事者参加人ら
は一審被告B3に対して本件一土地につき遺留分に相当する共有持分の返還等を請
求することができないと主張する。
 3 また、当事者参加人らは、遺留分減殺により取得した共有持分権に基づき、
右2の訴訟とは別個に、一審被告Aに対し、本件三ないし五土地についての共有持
分権の確認と遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続を求めた。これに対し、一
審被告Aは、右遺留分減殺請求権の行使は権利の濫用に当たると主張する。
 三 原審は、一審原告の一審被告B3に対する訴え(二1)及び当事者参加人ら
の一審原告に対する訴え(二2(1))については、遺言執行者である一審原告は
当事者適格を有しないとして、いずれもこれを却下し、当事者参加人らの一審被告
B3に対する請求(二2(2))及び一審被告Aに対する請求(二3)については、
いずれもこれを認容すべきものとした。平成一〇年(オ)第一四九九号事件は、一
審原告が提起した上告であり、同第一五〇〇号事件は、一審被告らが提起した上告
である。
 第二 平成一〇年(オ)第一四九九号上告代理人浅見雄輔の上告理由について
 一 上告理由は、被相続人の遺言執行者である一審原告が、一審被告B3に対し、
本件一土地及び本件二土地の持分二分の一について持分移転登記手続を求める訴え
の当事者適格(原告適格)を有するか否かに関するものである。
 二 原審は、前記の事実関係の下において、次のとおり判断し、一審原告の一審
被告B3に対する右訴えを不適法として却下した。
 1 新遺言は、特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨のものであり、右
相続人らは、被相続人の死亡の時に遺言に指定された持分割合により本件各土地の
所有権を取得したものというべきである。そして、この場合には、当該相続人は、
自らその旨の所有権移転登記手続をすることができ、仮に右遺言の内容に反する登
記がされたとしても、自ら所有権に基づく妨害排除請求としてその抹消を求める訴
えを提起することができるから、当該不動産について遺言執行の余地はなく、遺言
執行者は、遺言の執行として相続人への所有権移転登記手続をする権利又は義務を
有するものではない。
 2 新遺言に「その他の財産」についての包括的な条項が含まれていることは、
右のように解する妨げにはならない。また、本件において、他に、遺言において相
続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなど、直ちに権利が承継
されると解すべきでない特段の事情は存しない。
 3 したがって、被相続人の遺言執行者である一審原告は、一審被告B3に対す
る本件一土地及び本件二土地の持分二分の一の持分移転登記手続請求に係る訴えに
ついて、当事者適格を有しないというべきであり、右訴えは不適法である。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 1 特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)
は、特段の事情がない限り、当該不動産を甲をして単独で相続させる遺産分割方法
の指定の性質を有するものであり、これにより何らの行為を要することなく被相続
人の死亡の時に直ちに当該不動産が甲に相続により承継されるものと解される(最
高裁平成元年(オ)第一七四号同三年四月一九日第二小法廷判決・民集四五巻四号
四七七頁参照)。しかしながら、相続させる遺言が右のような即時の権利移転の効
力を有するからといって、当該遺言の内容を具体的に実現するための執行行為が当
然に不要になるというものではない。
 2 そして、不動産取引における登記の重要性にかんがみると、相続させる遺言
による権利移転について対抗要件を必要とすると解すると否とを問わず、甲に当該
不動産の所有権移転登記を取得させることは、民法一〇一二条一項にいう「遺言の
執行に必要な行為」に当たり、遺言執行者の職務権限に属するものと解するのが相
当である。もっとも、登記実務上、相続させる遺言については不動産登記法二七条
により甲が単独で登記申請をすることができるとされているから、当該不動産が被
相続人名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続
をすべき権利も義務も有しない(最高裁平成三年(オ)第一〇五七号同七年一月二
四日第三小法廷判決・裁判集民事一七四号六七頁参照)。しかし、【要旨】本件の
ように、甲への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産につき自己
名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したよ
うな場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、右の妨害を排除するため、
右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、甲への真正な登
記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが
相当である。この場合には、甲において自ら当該不動産の所有権に基づき同様の登
記手続請求をすることができるが、このことは遺言執行者の右職務権限に影響を及
ぼすものではない。
 3 したがって、一審原告は、新遺言に基づく遺言執行者として、一審被告B3
に対する本件訴えの原告適格を有するというべきである。
 そうすると、これと異なる原審の右判断には、法令の解釈適用を誤った違法があ
り、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点に関する
論旨は、理由がある。
 第三 平成一〇年(オ)第一五〇〇号上告代理人奥川貴弥、同川口里香の上告理
由について
 一 前記の事実関係によれば、当事者参加人らはそれぞれ被相続人の相続財産に
ついて三二分の一の遺留分を有するものであるところ、上告理由は、当事者参加人
らが一審被告らに対し、本件各土地につき遺留分に相当する共有持分の返還等を請
求することができるか否かに関するものである。
 二 原審は、次のとおり判断し、一審被告らの抗弁をいずれも排斥して、当事者
参加人らの本訴請求を認容すべきものとした。
 1 当事者参加人らの父である亡Iが、被相続人の夫である亡Jから多数の不動
産の贈与を受け、亡Jの相続に際して相続の放棄をした事実は認められるが、亡I
ないし当事者参加人らが被相続人の相続に関して相続を放棄し、又は遺留分を主張
しないとの約束をしていた事実を認めるに足りる証拠はなく、その他、全証拠によ
るも、当事者参加人らの遺留分減殺請求権の行使が権利の濫用に当たると認めるこ
とはできない。
 2 寄与分は、共同相続人間の協議により定められ、協議が調わないとき又は協
議をすることができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであって、
遺留分減殺請求に係る訴訟において抗弁として主張することは許されない。
 3 一審被告B3の主張事実をもってしても、Eらは、被相続人の遺産相続につ
いての話合いの結果、相続分の放棄をし、又は共同相続人である一審被告B3に相
続分を譲渡したというのであって、これが民法一〇四〇条一項にいう「減殺を受け
るべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したとき」に当たらないことは明らかで
ある。
 三 右1及び2の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、
正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専
権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原
判決を論難するものであって、採用することができない。したがって、一審被告A
の上告は既に理由がない。
 四 しかしながら、原審の右3の判断は是認することができない。その理由は、
次のとおりである。
 特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)がさ
れた場合において、遺留分権利者が減殺請求権を行使するよりも前に、減殺を受け
るべき甲が相続の目的を他人に譲り渡したときは、民法一〇四〇条一項が類推適用
され、遺留分権利者は、譲受人が譲渡の当時遺留分権利者に損害を加えることを知
っていた場合を除き(同項ただし書)、甲に対して価額の弁償を請求し得るにとど
まり(同項本文)、譲受人に対し遺留分に相当する共有持分の返還等を請求するこ
とはできないものと解するのが相当である。また、同項にいう「他人」には、甲の
共同相続人も含まれるものというべきである。したがって、当事者参加人らが遺留
分減殺請求をする前に、Eらが一審被告B3に本件一土地の共有持分を譲り渡した
とすれば、当事者参加人らは、同項ただし書に当たる場合を除き、一審被告B3に
対して本件一土地につき遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することができ
ない筋合いである。原審は、一審被告B3の主張を相続分の放棄又は譲渡をいうも
のと解し、その主張自体からして同項に該当しないと判断したものと見られるが、
記録によれば、一審被告B3は、本件一土地についてEらが共有持分を譲渡したと
も主張していることが明らかであるから、原審としては、一審被告B3の主張する
共有持分の譲渡の事実の有無を認定し、同項本文の適用の可否について判断すべき
ものであった。
 そうすると、これと異なる原審の右3の判断には、法令の解釈適用の誤りないし
判断遺脱の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであ
る。この点に関する論旨は、右の趣旨をいうものとして理由がある(付言するに、
仮に当事者参加人らの一審被告B3に対する持分移転登記手続請求に理由があると
しても、本件一土地の登記原因については検討を要する。本件二土地の持分二分の
一の登記原因についても、同様である。)。
 第四 さらに、職権により次のとおり判断する。
 一 原審は、当事者参加人らが遺留分減殺請求に基づき一審原告に対して本件各
土地について共有持分権の確認を求める訴えについても、本件においては遺言執行
の余地がなく、一審原告は当事者適格(被告適格)を有しないとして、当事者参加
人らの一審原告に対する右訴えを不適法として却下した。
 二 しかしながら、原審の右判断のうち本件一及び二土地に係る訴えに関する部
分は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 当事者参加人らはそれぞれ被相続人の相続財産について三二分の一の遺留分を有
しており、一方、遺言執行者である一審原告は、一審被告B3に対し、本件一土地
についてEらへの、本件二土地の持分二分の一について一審被告Aへの各持分移転
登記手続を求めていて、これが遺言の執行に属することは前記のとおりである。そ
して、一審原告の右請求の成否と当事者参加人らの本件一及び二土地についての遺
留分減殺請求の成否とは、表裏の関係にあり、合一確定を要するから、本件一及び
二土地について当事者参加人らが遺留分減殺請求に基づき共有持分権の確認を求め
る訴訟に関しては、遺言執行者である一審原告も当事者適格(被告適格)を有する
ものと解するのが相当である(これに対し、本件三ないし五土地については、被相
続人の新遺言の内容に符合する所有権移転登記が経由されるに至っており、もはや
遺言の執行が問題となる余地はないから、一審原告は、右各土地について共有持分
権の確認を求める訴訟に関しては被告適格を有しない。)。
 そうすると、原審の右判断のうち本件一及び二土地に係る訴えに関する部分には、
法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすこと
が明らかである。
 第五 結論
 以上の次第で、原判決中、当事者参加人らが一審被告B3及び一審被告Aに対し
本件三ないし五土地について共有持分権確認及び持分移転登記手続を求める部分を
除く、その余の部分を破棄した上、更に所要の審理判断を尽くさせるため右破棄部
分につき本件を原審に差し戻すこととし、一審被告B3の上告中、本件三ないし五
土地に関する部分及び一審被告Aの上告は理由がないので、これを棄却することと
する。
 なお、一審被告B3の上告中、本件二土地に関する部分は理由がないが(ただし、
その持分二分の一の登記原因については、前記のとおりである。)、本件一及び二
土地に関する本件訴訟は、一審原告、一審被告B3及び当事者参加人らの間におい
て訴訟の目的を合一に確定すべき場合に当たるから、右部分については、主文にお
いて上告棄却の言渡しをしない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井
正雄 裁判官 大出峻郎)

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