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          決        定
 上記抗告人らから,東京地方裁判所が平成15年4月15日同庁平成1
5年(モ)第3215号移送申立事件(本案・同庁平成15年(ワ)第3
481号譲受債権請求事件)についてした決定に対し,適法な即時抗告の
申立てがあったので,当裁判所は,次のとおり決定する。
          主        文
        原決定を取り消す。
        本件の本案事件を奈良地方裁判所に移送する。
          事 実 及 び 理 由
第1 抗告の趣旨及び理由
 1 抗告の趣旨
   主文同旨
 2 抗告の理由
   原決定は,C銀行から相手方に譲渡された本件債権の弁済の場所
は,別段の意思表示が存在しない限り,相手方の現時の住所(民法484
条)となることは当然の事理であるとした。
 しかし,C銀行と抗告人らとの間では,本件債権の弁済の場所は,C銀
行奈良支店と定められていたのであるから,本件については,民法484
条が適用される余地はない。債権譲渡があっても,債権は同一性を失わず
に移転するのであるから,弁済場所の定めは譲受債権者を拘束するもので
あり,債権譲受人の住所が弁済の場所になることはあり得ない。なお,債
権譲渡通知に対し,特段異議を述べなかったからといって,債務者が弁済
の場所等の変更を容認したといえないことは明らかである。
 原決定は,本件について保証責任を争う抗告人Bが東京地方裁判所に出
頭を余儀なくされる負担は,過大なものではないとしたが,その負担の程
度はともかく,本来,奈良地方裁判所で審理を受けうる同抗告人が管轄も
ない東京地方裁判所に出頭を余儀なくされる理由はない。
第2 当裁判所の判断
 1 一件記録によれば,C銀行は抗告人会社Aに対し,平成6年12月
に手形貸付けの方法により1億円を貸し付け,平成12年8月31日の手
形書替えの際には,その債権額が6680万円となっていたこと,上記貸
付けは,C銀行奈良支店の取扱いであり,その各手形の支払場所も同支店
とされていたこと,抗告人会社AとC銀行との銀行取引約定書には,その
約定に基づく諸取引に関して訴訟の必要を生じた場合には,同銀行本店あ
るいは同銀行奈良支店の所在地を管轄する裁判所を管轄裁判所とする旨の
定めがあったこと,相手方は,平成14年9月30日,同債権の残元金6
420万円(本件債権)の譲渡を受け,同年10月2日,抗告人会社Aに
その旨の譲渡通知をしたこと,本訴は,本件債権の譲渡を受けた相手方
が,抗告人Bは,上記手形貸付を含む抗告人会社AのC銀行に対する債務
を連帯保証していたと主張して,抗告人らに,本件債権の内金1600万
円とこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案であること,これに対
し,抗告人らは,主に抗告人Bの保証責任を争っていること,以上の事実
が認められる。
 2 本件のような金銭債権の弁済場所は,別段の意思表示なき限り,債
権者の現時の住所である(民法484条)。そして,債権の弁済時までに
債権者の住所変更があった場合,債権者の現時の住所とは,当初の住所で
はなく弁済時の新住所とされるのと同様に,債権譲渡があった場合,その
債権の履行場所は新債権者の住所地となると解される。
 抗告人らは,C銀行と抗告人らとの間で,本件債権の弁済の場所は,同
銀行奈良支店と定められていたところ,債権譲渡があっても,債権は同一
性を失わずに移転するのであるから,弁済の場所の定めは譲受債権者を拘
束し,債権譲受人の住所が弁済の場所になることはあり得ないと主張す
る。
 確かに,本件債権は,手形貸付けによるものであり,その手形の支払場
所はC銀行奈良支店とされていたこと,また,本件のような銀行取引に伴
う債権については,その取扱いをした銀行の本支店の店舗所在地をもって
履行場所とするのが一般であることなどからすれば,本件債権について
は,弁済場所に関する別段の意思表示があったとみることも可能である。
 しかし,当事者間で明示の約定があったわけではなく,別段の意思表示
があったと断定することも困難である。そこで,以下は,この別段の意思
表示があることを前提としないで検討する。
 そうすると,本件債権の弁済場所は相手方の住所地であるとみる余地が
大きく,その住所地を管轄する東京地方裁判所が義務履行地の管轄権を有
することになる。
 3 しかし,他方,本件の銀行取引に基づく訴訟については,上記1の
とおり,C銀行本店あるいはその奈良支店の所在地を管轄する裁判所(名
古屋地方裁判所あるいは奈良地方裁判所)を管轄裁判所とする旨の管轄の
合意がある。
 このような管轄の合意(付加的な管轄合意と認められる。)は,訴訟法
上の合意ではあるけれども,内容的にはその債権行使の条件として,その
権利関係と不可分一体のものであり,いわば債権の属性をなすものであ
る。そして,本件のような記名債権においては,その属性,内容は当事者
間で自由に定めうるものであるし,その譲渡の際には,それらの属性,内
容はそのまま譲受人に引き継がれるべきものである。とすれば,本件債権
について上記の管轄合意の効力は,相手方にも及ぶことになる。そして,
本件債権は,C銀行の奈良支店が行った手形貸付けに基づくものであるこ
とからすれば,上記管轄合意によって本来的に予定されていた管轄裁判所
は,奈良地方裁判所であると認めるのが相当である。
 また,抗告人らの普通裁判籍も,その住所地である奈良地方裁判所であ
る。
 4 そこで,本件の本案訴訟を東京地方裁判所と奈良地方裁判所のいず
れで審理すべきかについて検討する。
 上記1からすれば,本件の主たる争点は,抗告人Bの保証責任の有無で
あると考えられる。そうすると,本案事件の審理に際しては,抗告人Bの
本人尋問のほか,その取扱支店であったC銀行奈良支店の担当者らの証人
尋問が必要になる可能性が高いが,同抗告人はもちろん,証人予定者も奈
良市あるいはその周辺に住所を有すると考えられる。
 このようにみてくると,本案事件の審理の便宜という面では,東京地方
裁判所よりも奈良地方裁判所の方が優っていると認められる。
 また,債権譲渡に伴い,その義務履行地が新債権者の住所地に変更され
るとみるべきこと,それは本件債権についても基本的に同様であると考え
られることは上記2のとおりである。しかしながら,銀行取引をする者に
とっては,通常,その銀行の取引店舗あるいは本店を履行場所として考え
るのが一般であろう。そうすると,このような新債権者の住所地が債務の
弁済場所とされ,このような義務履行地に基づいて管轄裁判所が決定され
ることは予想外の事態であり,それによって,債務者の被る不利益は多大
なものがあると考えられる。それは,本件についても同様であるが,この
ような不利益を抗告人らが甘受すべき合理的理由は乏しい。また,これは
上記3のような管轄についての合意の趣旨にも反するものである。なお,
本訴は,手形貸付けの原因債権の譲渡に伴う履行請求であるが,それと表
裏一体の関係にある手形債権の行使の場合には,その債権は取立債権であ
り,その義務履行地は,債務者の営業所又は住所ということになる(商法
516条2項)点も考慮されなければならない。
 5 以上のようにみてくると,本件について,東京地方裁判所に管轄権
があるとしても,本件については,訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者
間の衡平を図るため,本案事件を抗告人らの住所を管轄する奈良地方裁判
所に移送する必要があると認められる。
 したがって,本件移送申立てを却下した原決定は失当であるから,これ
を取り消し,本件の本案事件を奈良地方裁判所に移送することとする。
   平成15年5月22日
    東京高等裁判所第19民事部
       裁判長裁判官    淺   生   重   機
            裁判官    及   川   憲   夫
            裁判官    竹   田   光   広

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