弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を長野地方裁判所上田支部に差し戻す。
         理    由
 本件控訴の趣旨は末尾に添附した弁護人渡辺卓郎、同渡辺元連各提出の控訴趣意
書記載のとおりであつて、これに対し、当裁判所は次のとおり判断をする。
 控訴趣意第一点について、
 原判決が被告人等の原判示第一乃至第三の各犯罪事実を認定し、その証拠とし
て、
 一、 被告人A、同B、同Cの当公廷における各日関係部分につき判示同趣旨の
供述、
 一、 検察官事務取扱副検事石谷寛作成にかかる被告人A、同B、同Cに対する
各供述調書、
 一、 D、E、F、G、H、I、J、K作成にかかる各答申書
 を挙示引用していることが明らかである。而して昭和二十六年五月十七日附副検
事に対する被告人等の各供述調書その他の前記各証拠の内容を仔細に検討すれば、
被告人Aは昭和二十六年四月五日頃Lから長野県議会議員候補者M当選を得させる
ため選挙運動を依頼されたので、その頃懇意な間柄にある被告人B、同Cと協議し
た結果、E、G、F、H、I等に依頼して同人等の部落の票を集めて貰うことと
し、被告人Bがその運動を引き受けることに一決し、その資金としてDから提供さ
れる金員は前記部落の有力者達に投票まとめを頼んで渡すことの話合ができ、その
結果原判決の如それぞれ供与資金の授受があつたことが窺われるのであつて、被告
人等の原審公判廷における各供述も必ずしも右の趣旨とくいちがうものとは解し難
く、他にこれに反する証拠は発見することができない。然らば原判示第一の(一)
及び(二)において被告人AがDから供与資金を受け取るについては被告人等三名
の間に共謀があつて、その供与資金から他の選挙人に供与することにも共謀があつ
たものと解するを相当とする。
 <要旨>凡そ選挙に際し数人共謀して選挙運動並びに投票の報酬となるべき資金を
受領し、これを選挙人に投票の報酬等として供与する場合には共謀者は全員
一体としてその共同の犯意を実現することを計るのであるから、共謀者のうち何人
が資金を受領し、又その供与実行の任に当つても、等しく右犯意実現のためにする
行為の分担であると言うことができるのであつて、出捐された資金を供与行為実行
の分担者をして選挙人に現実に供与させる必要上、共謀者間において順次これを授
受することは、少くとも現実に選挙人に供与された部分に関しては、単に共謀者内
部の関係における金員供与実行のためにする準備的行動に外ならないものと解すべ
きであつて、従つて右共謀者間における供与資金授受の行為はそれのみでは公職選
挙法第二百二十一条第一項第一号又は第四、五号の罪に該当するものではないこと
は勿論、何等の犯罪を構成するものではないと解するを相当とする(大審院判決―
昭和九年四月十六日判例集第十三巻第六号四百八十五頁、昭和十二年六月二十二日
判例集第十六巻第十二号九百八十四頁、同年七月九日判例集第十六巻第十四号千九
十七頁参照)。
 然るに原判決は原判示第二の(四)乃至(八)、第三の(三)、(一)の各選挙
人に供与した金員(供与資金)の被告人等間の授受を以つて原判示第一の(三)、
(四)第二の(一)乃至(三)及び(九)、第三の(一)、(二)掲記のとおり供
与をなし或は供与を受けたものと認定し、これを公職選挙法第二百二十一条第一項
第一号又は第四号に当るものとして処断したのは明らかに理由のくいちがいがある
ものと謂うべきであるから、原判決はこの点において既に破棄を免れない。それゆ
え論旨は理由がある。
 (控訴趣意第二点に対する判断省略)
 よつてその余の控訴趣意に対する判断を省略した上、刑事訴訟法第三百九十七
条、第三百七十八条により原判決を破棄すべく、同法第四百条本文により本件を原
裁判所たる長野地方裁判所上田支部に差し戻すべきものとし、主文のとおり判決す
る。
 (裁判長判事 中村光三 判事 鈴木重光 判事 野本泰)

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