弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。
       当審における未決勾留日数中610日を本刑に算入する。
         理    由
 弁護人近藤節男,同園高明,同近藤義徳,同萩原浩太の上告趣意について
 1 所論指摘の第1審判決判示第一,第二の各犯罪事実は,これらに対応する各
訴因と同内容であり,その要旨は,「被告人は,宗教法人Aの責任役員であるとこ
ろ,Aの代表役員らと共謀の上,(1) 平成4年4月30日,業務上占有するA所
有の川崎市中原区a町(地番略)の土地(以下「本件土地1」という。)を,B株
式会社に対し代金1億0324万円で売却し,同日,その所有権移転登記手続を了
して横領し,(2) 同年9月24日,業務上占有するA所有の同区a町(地番略)
の土地(以下「本件土地2」という。)を,株式会社Cに対し代金1500万円で
売却し,同年10月6日,その所有権移転登記手続を了して横領した。」というも
のである。
 2 原判決の認定によれば,上記各売却に先立ち,被告人は,各土地に次のとお
り抵当権を設定していた。すなわち,本件土地1については,昭和55年4月11
日,被告人が経営するD株式会社(以下「D」という。)を債務者とする極度額2
500万円の根抵当権(以下「本件抵当権①」という。)を設定してその旨の登記
を了し,その後,平成4年3月31日,Dを債務者とする債権額4300万円の抵
当権(以下「本件抵当権②」という。)を設定してその旨の登記を了し,また,本
件土地2については,平成元年1月13日,Dを債務者とする債権額3億円の抵当
権(以下「本件抵当権③」という。)を設定してその旨の登記を了していた。
 しかし,原判決は,本件抵当権①,③の設定の経緯やその際の各借入金の使途等
はつまびらかでなく,これらの抵当権設定行為が横領罪を構成するようなものであ
ったかどうかは明瞭でないし,仮に横領罪を構成することが証拠上明らかであると
しても,これらについては,公訴時効が完成しているとし,また,本件抵当権②の
設定は横領に当たるが,本件土地1の売却と本件抵当権②の設定とでは土地売却の
方がはるかに重要であるとして,本件土地1,2を売却したことが各抵当権設定と
の関係でいわゆる不可罰的事後行為に当たることを否定し,前記(1),(2)の各犯罪
事実を認定した第1審判決を是認した。
 3 所論は,原判決の上記判断が最高裁昭和29年(あ)第1447号同31年
6月26日第三小法廷判決・刑集10巻6号874頁(以下「本件引用判例」とい
う。)に違反すると主張する。
 本件引用判例は,「甲がその所有に係る不動産を第三者に売却し所有権を移転し
たものの,いまだその旨の登記を了していないことを奇貨とし,乙に対し当該不動
産につき抵当権を設定しその旨の登記を了したときは,横領罪が成立する。したが
って,甲がその後更に乙に対し代物弁済として当該不動産の所有権を移転しその旨
の登記を了しても,別に横領罪を構成するものではない。」旨を判示し,訴因外の
抵当権設定による横領罪の成立の可能性を理由に,訴因とされた代物弁済による横
領罪の成立に疑問を呈し,事件を原審に差し戻したものである。
 なお,所論は,原判決が大審院明治43年(れ)第1884号同年10月25日
判決・刑録16輯1745頁に違反するとも主張するが,同判決は,抵当権設定と
その後の売却が共に横領罪に当たるとして起訴された場合に関するものであり,本
件と事案を異にするから,この点は,適法な上告理由に当たらない。
 4 そこで,本件引用判例に係る判例違反の主張について検討する。
 【要旨1】委託を受けて他人の不動産を占有する者が,これにほしいままに抵当
権を設定してその旨の登記を了した後においても,その不動産は他人の物であり,
受託者がこれを占有していることに変わりはなく,受託者が,その後,その不動産
につき,ほしいままに売却等による所有権移転行為を行いその旨の登記を了したと
きは,委託の任務に背いて,その物につき権限がないのに所有者でなければできな
いような処分をしたものにほかならない。したがって,売却等による所有権移転行
為について,横領罪の成立自体は,これを肯定することができるというべきであり
,先行の抵当権設定行為が存在することは,後行の所有権移転行為について犯罪の
成立自体を妨げる事情にはならないと解するのが相当である。
 このように,所有権移転行為について横領罪が成立する以上,先行する抵当権設
定行為について横領罪が成立する場合における同罪と後行の所有権移転による横領
罪との罪数評価のいかんにかかわらず,検察官は,事案の軽重,立証の難易等諸般
の事情を考慮し,先行の抵当権設定行為ではなく,後行の所有権移転行為をとらえ
て公訴を提起することができるものと解される。また,【要旨2】そのような公訴
の提起を受けた裁判所は,所有権移転の点だけを審判の対象とすべきであり,犯罪
の成否を決するに当たり,売却に先立って横領罪を構成する抵当権設定行為があっ
たかどうかというような訴因外の事情に立ち入って審理判断すべきものではない。
このような場合に,被告人に対し,訴因外の犯罪事実を主張立証することによって
訴因とされている事実について犯罪の成否を争うことを許容することは,訴因外の
犯罪事実をめぐって,被告人が犯罪成立の証明を,検察官が犯罪不成立の証明を志
向するなど,当事者双方に不自然な訴訟活動を行わせることにもなりかねず,訴因
制度を採る訴訟手続の本旨に沿わないものというべきである。
 以上の点は,業務上横領罪についても異なるものではない。
 そうすると,本件において,被告人が本件土地1につき本件抵当権①,②を設定
し,本件土地2につき本件抵当権③を設定して,それぞれその旨の登記を了してい
たことは,その後被告人がこれらの土地を売却してその旨の各登記を了したことを
業務上横領罪に問うことの妨げになるものではない。したがって,本件土地1,2
の売却に係る訴因について業務上横領罪の成立を認め,前記(1),(2)の各犯罪事実
を認定した第1審判決を是認した原判決の結論は,正当である。
 以上の次第で,刑訴法410条2項により,本件引用判例を当裁判所の上記見解
に反する限度で変更し,原判決を維持するのを相当と認めるから,所論の判例違反
は,結局,原判決破棄の理由にならない。
 よって,刑訴法414条,396条,平成7年法律第91号による改正前の刑法
21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 検察官熊崎崎勝彦,同小津博司,同坂井靖 公判出席 
(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 福田 博 裁判官 金谷利廣 裁判官 北川
弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷 玄 裁判官 深澤武久 裁判官 濱田邦
夫 裁判官 横尾和子 裁判官 上田豊三 裁判官 滝井繁男 裁判官 藤田宙靖
 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 徳治 裁判官 島田仁郎)

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