弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人和田栄重の上告理由第一点について。
 訴外亡D、同E両名が被上告人の印章を使用した事実はあつても、いまだ両名が
本件各根抵当権設定契約を締結する代理権を有していたとは認められない旨の原判
決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)認定の事実は、その挙示する証
拠関係に照らして首肯することができる。原判決には何等所論の違法はない。それ
故、論旨は、いずれも採用しえない。
 同第二点について。
 原判決の確定したところによれば、訴外亡D、同Eが被上告人の代理人と称して
第一審判決別紙目録(一)記載の宅地(以下第一物件という。)につき昭和三四年三
月二五日被上告人主張の内容の根抵当権を設定した際、これとあわせて貸金債務八
〇万円を担保するため停止条件付代物弁済契約を締結して右根抵当権設定登記と同
時に所有権移転の仮登記を経たこと、また同じく第一審判決別紙目録(二)記載の建
物(以下第二物件という。)につき昭和三四年一〇月一〇日被上告人主張の内容の
根抵当権を設定した際、これとあわせて貸金債務六〇万円を担保するため停止条件
付代物弁済契約を締結して右根抵当権設定登記と同時に所有権移転の仮登記を経た
こと、そして第一、第二物件とも昭和三五年五月二五日被上告人において債務を弁
済しなかつたので上告人に所有権が移転したとしてその旨の所有権移転登記がなさ
れたこと、その後被上告人は、上告人に対し右代物弁済契約は訴外D、同Eが被上
告人に無断で上告人と締結したものであるから無効であるとして第一、第二物件に
対する上告人の所有権取得登記の各抹消登記手続を求める訴を提起し、反面上告人
もまた被上告人に対し右代物弁済が有効であることを前提として、第一、第二物件
を上告人に明け渡すことを求める訴を提起し、右二つの訴訟は津地方裁判所熊野支
部において併合審理された結果、昭和三七年二月五日被上告人の主張どおり第一、
第二物件に対する代物弁済契約は、訴外D、同Eが被上告人に無断で締結したもの
であつて、被上告人にその責任はなく、したがつてこれに基づく代物弁済も無効で
あるとして、上告人に所有権取得登記の抹消登記手続を命じ、上告人の主張を全面
的に排斥した被上告人勝訴の判決がなされ、この判決は同年二月二五日確定したこ
とが認められるというのである。さらに原判決によれば、右第一物件に対する代物
弁済契約と極度額八〇万円の根抵当権設定契約とが同一機会になされたものとなつ
ており、また第二物件に対する代物弁済契約と根抵当権設定契約とが同一機会にな
されたものとなつており、右の如く、そのうちの代物弁済契約が判決をもつて前記
理由で無効であると判断されている以上、通常の注意を払えば代物弁済契約と同じ
く根抵当権設定契約も同様の理由により無効であろうと考えるのは当然であり、ま
た右契約の中間時期に行われたとされている第一物件に対する昭和三四年七月二九
日付の根抵当権設定契約も同様の理由で無効ではないかとの疑いを抱くべきが当然
であるのにかかわらず、上告人は、前記別件判決が確定した後である昭和三七年一
二月一七日たまたま前記各根抵当権設定登記が抹消されていないとの一事に基づき、
右根抵当権の存否につき慎重な調査方法を講ずることもなく、あえて津地方裁判所
熊野支部に対し第一、第二物件につき不動産競売の申立をしたというのである。そ
うだとすると、このような事実関係の下においては、上告人は、右競売申立にあた
り、前記各根抵当権の不存在について、かりに故意がなかつたとしても、少なくと
も社会通念上過失があつたとした原審の判断は正当であるというべきである。しか
して、右競売裁判所は、右競売申立に基づき同日競売開始決定をし、さらに競売期
日の指定、公告等の手続を進めていたこと原判決の確定するところであるから、被
上告人がこの競売手続を阻止する手段を講じなければ、被上告人の第一、第二物件
の所有権の行使に一層重大な障害を惹起すること明らかであり、被上告人が右競売
手続上の異議の申立等によりその手続の進行を阻止するにとどまらず、かかる根抵
当権の実行を窮極的に阻止するため、根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める本
訴提起に及んだことも、けだしやむをえない権利擁護手段というべきである。
 思うに、わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行
なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の余地が当事者に残されているのみなら
ず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の訴訟はますます専
門化され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求する以上、一般人が単独にて
十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。従つて、相手方
の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方か
ら容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀
なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟
活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認め
られるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案
の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の
範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。
 ところで、本件の場合、被上告人が弁護士Fに本件訴訟の追行を委任し、その着
手金(手数料)として支払つた一三万円が本件訴訟に必要な相当額の出捐であつた
との原審の判断は、その拳示する証拠関係および本件記録上明らかな訴訟経過に照
らし是認できるから、結局、右出捐は上告人の違法な競売申立の結果被上告人に与
えた通常生ずべき損害であるといわなければならない。したがつて、これと同趣旨
の原審の判断は正当である。さらに、上告人の過失相殺の主張を排斥した原審の事
実認定も正当として首肯することができる。結局、原判決には何等所論の違法がな
く、論旨はすべて採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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