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平成25年2月28日判決言渡
平成24年(ネ)第10064号名称抹消等請求控訴事件
(原審東京地方裁判所平成23年(ワ)第18147号)
口頭弁論終結日平成24年12月10日
判決
控訴人(被告)一般社団法人花柳流花柳会
訴訟代理人弁護士張界満
被控訴人(原告)Y
被控訴人(原告)花柳流花柳会
上記両名訴訟代理人弁護士錦戸景一
藤田浩司
岡部美奈子
井上龍太郎
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
控訴人は,原判決取消しとともに,被控訴人らの請求をいずれも棄却する判決を
求めた。
第2事案の概要
被控訴人らは日本舞踊の普及等の事業活動をしている。控訴人はその事業活動に
「一般社団法人花柳流花柳会」の名称(控訴人名称)を使用している。被控訴人ら
は,「花柳流」及び「花柳」の名称は「」の芸名を有
する被控訴人Yの営業表示として,「花柳流花柳会」の名称は権利能力なき社
団である被控訴人花柳流花柳会の営業表示として,それぞれ著名又は周知であると
し,控訴人名称の使用が不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該
当する旨主張して,控訴人に対し,同法3条に基づき,控訴人名称等の使用の差止
め及び控訴人名称の抹消登記手続を求めた。原判決は被控訴人らの請求をいずれも
認容した。
第3当事者の主張
1被控訴人らの請求原因及び控訴人の認否主張は,原判決「事実及び理由」中
の「第3当事者の主張」に記載のとおりである。
2控訴人は,抗弁として次のとおり述べた(当審主張)。
(1)不正競争防止法19条1項2号該当性
控訴人の設立の経緯からすれば,控訴人が控訴人名称を花柳流舞踊に関する事業
活動に使用する意図について言えば,被控訴人側の名声にただ乗りし,また,その
事業の表示が著名であることを奇貨として,他人に両者の誤認混同を生じさせ,も
って利得しようとする意図がなかったことは明らかである。したがって,控訴人が
控訴人名称を花柳流舞踊に関する事業活動に使用する行為は,不正競争防止法19
条1項2号にいう「自己の氏名」を「不正の目的でなく」使用するものとして,不
正競争防止法2条1項の適用が除外される。
(2)権利の濫用
控訴人を構成する名取らは,それぞれの名取が,花柳流の宗家家元から許諾され
て「花柳」姓を冠した芸名(いわゆる「名取名」)を使用し,また,専門部の名取
となったのちは「花柳流」の師匠として門弟を募って教授料を得ることで自己の生
計を立てることを花柳流の宗家家元から許容されている。「花柳流」及び「花柳」
の表示は,名取名が「花柳流」のグループの一員としての各名取の行う舞踊普及事
業を表示するものであって,各名取の生計の資本そのものである。
その生計の資本となるものは,控訴人を構成する名取らが門弟を募って徴収する
授業料であるが,名取らが門弟を募ることができる由縁は,各名取が取立師匠とし
て門弟を名取試験に推薦することができる点にある。
各名取が取立師匠として門弟を名取試験に推薦するためには,名取試験を実施す
る主体がなければならないが,本来の実施主体である花柳流の伝統を受け継ぐ正統
な四代目宗家家元が存在しない現状では,その代わりとなる主体が必要であり,花
柳流の伝統を守ろうとする控訴人を構成する名取らにとっては,四代目宗家家元に
代わる実施主体が本件の控訴人にほかならない。
控訴人における「花柳流」及び「花柳」の表示は,控訴人を構成する名取の生計
の資本そのものであるから,控訴人を構成する名取の生計の資本と同様に保護され
なければならない。
被控訴人らは,控訴人を相手として「花柳流」及び「花柳」の表示の抹消を求め
る行為は,それが認められると,控訴人を構成する名取らが生計の資本を失うこと
となり,その結果,被る被害は計り知れないものがある。これに対して,控訴人が
「花柳流」及び「花柳」の表示を続けたとしても,これによって,被控訴人らが特
段の経済的損失を被るものでもないし,社会的な信用を毀損するものでもない。
以上からすれば,本件の請求が認められれば,控訴人を構成する名取らに重大な
損害を与えることになる以上,被控訴人らの請求は権利の濫用であるから,許され
ない。
3被控訴人らは,抗弁に対して次のとおり述べた。
(1)不正競争防止法19条1項2号にいう「自己の氏名」とは,自然人の氏名
を指し,法人の名称は含まれない。控訴人は一般社団法人であることから,控訴人
の本抗弁は,失当である。
控訴人と,その代表者・構成員である個人とは,相互に独立した法人格を有する
別個の存在であり,両者の間には,実質的同一性もない。控訴人の代表理事及び理
事は,その全員が被控訴人花柳流花柳会を不行跡により除名となった者であり,被
控訴人花柳流花柳会との結びつきもない。
また,被控訴人側は,遅くとも平成20年3月頃には,松田弁護士の管理下にあ
った花柳流に代々伝わる伝承品を承継するために法人化の検討を開始し,控訴人設
立前の平成22年12月24日には,財団法人の定款案等の資料を,控訴人の理事
らを含む全会員に向けて発出していた(甲7)。そしてこの際,花柳流花柳会会則
案も併せて全会員に送付されたところ,同会則第5条記載の事業内容(甲2)と,
控訴人の事業内容(甲4)がほぼ同一であることからも分かるとおり,控訴人は,
被控訴人側の財団法人設立資料を流用して設立されたものと考えざるを得ない。控
訴人側は,訴外一般財団法人花柳流花柳会が平成23年1月28日の花柳流新年総
会を経て同年2月4日に設立する予定であることが控訴人の理事らにも示された
後,それを知った上で,あえてその数日前の平成23年1月24日に,同名の一般
社団法人を設立している。以上の経緯からすれば,控訴人側が,被控訴人側を真似
た社団法人を設立することにより,被控訴人側の名声に「ただ乗り」しようとした
ことは明らかである。
(2)控訴人の設立の前後を通じて控訴人代表理事A個人が行ってきた一切
の活動は,控訴人の違法な不正競争行為を禁止するかどうかを判断するにあたり,
何らの関係もない。
控訴人が被控訴人らの営業表示を冒用して名取試験を実施することにより,被控
訴人らは,本来獲得すべき名取を喪失し,その結果として,指導料や受験料・名取
金,入会金や年会費等の対価が失われる。また,そもそも不行跡により除名となっ
た者が理事を務める控訴人が「花柳」を名乗ること自体,被控訴人らが積み上げて
きた地位,名声,信頼等の無形の利益を侵害するものであって,その被害の大きさ
は計り知れない。控訴人の不正競争行為が禁止されることにより,控訴人を構成す
る名取らに損害が生じるとすれば,それは不正競争行為に起因する違法な収益であ
るから,これが守られるべき何らの意義も必要性もない。
第4当裁判所の判断
1当裁判所も,被控訴人らの請求はいずれも理由があるものと判断する。
その理由は,当審で主張された抗弁につき2以下で判断するほかは,原判決「事
実及び理由」中の「第4当裁判所の判断」1ないし4(10頁18行目~21頁
8行目)に記載のとおりである。なお,原判決14頁19行目の「舞踏会」を「舞
踊会」に,17頁8~9行目,18頁15行目及び19頁5行目の「需用者」を「需
要者」に,それぞれ改める。
控訴人は,被控訴人Yが花柳流四世宗家家元として継承したことについて控
訴理由で争っているが,その事実が認められることは原判決認定のとおりであるし,
この主張が控訴人の不正競争行為該当性を直接に否定するものでもない。
2不正競争防止法19条1項2号該当性について
控訴人が設立されたのは,「花柳流」及び「花柳」の表示が被控訴人Yの営
業表示として,「花柳流花柳会」の表示が被控訴人花柳流花柳会の営業表示として,
いずれも既に周知となっていた平成23年1月24日である。控訴人は,それまで
に存在し周知となっていた「花柳流」,「花柳」又は「花柳流花柳会」の名称を含
む個人ないし法人と実質的同一性を有するものとは認められず,また,設立時にお
いて控訴人代表者は上記周知となっていた名称を当然知っていたものと認められる
から,「花柳流」,「花柳」又は「花柳流花柳会」の名称を使用する控訴人の行為
が,「自己の氏名」を「不正の目的」でなく使用するものとして不正競争防止法1
9条1項2号に該当するということはできない。
3権利の濫用について
控訴人が「花柳流」,「花柳」又は「花柳流花柳会」の名称を使用して名取試験
を実施できなくなったとしても,控訴人において自らする名取試験自体を実施でき
なくなるわけではなく,控訴人を構成する名取らが舞踊普及事業をすることができ
なくなるわけでもない。被控訴人らが経済的損失を被るものでもないとの主張事実
も,これを裏付ける証拠はない。
控訴人の権利濫用の主張は,前提を欠き,理由がない。
4よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
池下朗
裁判官
古谷健二郎

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