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平成16年(行ケ)第50号 審決取消請求事件
口頭弁論終結の日 平成16年7月22日
          判    決
    原       告     ピエールバルマンエスアー
    同訴訟代理人弁護士     佐 藤 雅 巳
    同             古 木 睦 美
    被       告     特許庁長官 小川 洋
    同指定代理人        井 岡 賢 一
    同             伊 藤 三 男
    同             涌 井 幸 一
    同             宮 下 正 之
          主    文
     1 原告の請求を棄却する。
     2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を3
0日と定める。
          事実及び理由
第1 請求
 特許庁が不服2002-7001号事件について平成15年10月23日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要及び争いのない事実
 本件は,後記本願商標の出願人である原告が,拒絶査定を受けたので,これを
不服として審判請求をしたところ,特許庁が,審判請求不成立の審決をしたことか
ら,原告が同審決の取消しを求めた事案である。
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は,平成10年5月28日に商標法施行令1条別表第25類の「洋服,
コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,和服,エプロン,
えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カ
バー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポ
ーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽
子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動
用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品とし,別紙記載(1)の構成からなる商標「以
下「本願商標」という。)について商標登録出願をした(平成10年商標登録願4
4094号)ところ,平成13年12月12日拒絶査定を受けたので,平成14年
3月19日審判を請求した。特許庁はこの請求を不服2002-7001号として
審理した結果,平成15年10月23日上記請求は成り立たないとする審決(以下
「本件審決」という。)をし,その謄本は同年11月17日に原告に送達された。
 2 本件審決の理由の要旨
(1) 登録第904167号商標(別紙記載(2)。以下「引用A商標」とい
う。)及び登録第1360351号商標(別紙記載(3)。以下「引用B商標」とい
い,引用A商標と合わせて「引用各商標」という。)は,いずれも,その構成文字
に相応した「バンベール」の称呼を生ずるものである。
(2)ア 本願商標は,1行目に「VENTVERT」,2行目に「par」,3行目
に「PIERREBALMAIN」とそれぞれ欧文字で横書きしてなるものである。
 そして,これらの各文字を一体不可分のものとして把握すべき格別の事情はない
こと,及び,1行目の「VENTVERT」は同じ書体及び大きさで他の文字部分に比べて
顕著に書されていることからすれば,「VENTVERT」の文字部分は独立して自他商品
識別標識としての機能を果たすものである。
イ 「VENTVERT」は「緑の風」を意味するフランス語であり,また本願指定
商品を取り扱う業界においては比較的フランス語がなじまれていることか
ら,「VENTVERT」の文字はこれをフランス語読みにした発音による「ヴァンヴェー
ル」の称呼が生ずると認められる。
 このうち,「ヴァ」及び「ヴェ」の音は通常使用する日本語の発音にはない音で
あり,「バ」及び「ベ」に置き換えて発音される場合も少なくない。したがって,
本願商標からも「バンベール」の称呼を生じる。
(3) よって,本願商標と引用各商標とは,「バンベール」の称呼を共通にする
類似の商標と認められ,指定商品が同一又は類似するものであるから,本願商標が
商標法(以下「法」という。)4条1項11号に該当するとしてその登録を拒絶し
た原査定は相当である。
第3 原告主張の取消事由
1(取消事由1)
(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合
に,商品の出所について誤認,混同を生じるおそれがあるか否かによって決すべき
であるところ,その判断にあたっては,商品に使用された商標の称呼,外観,観念
によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであ
り,しかも,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況
に基づいて判断すべきである(最高裁昭和43年2月27日判決 民集22巻2号
399頁)。
 従って,本件においても,本願商標がいかなる態様で使用されるかを前提として
類否判断をなすべきものである。本願商標を商品またはその包装に付して使用する
場合,「VENTVERTparPIERREBALMAIN」が一体として表示されるのであり,その
一構成要素に過ぎない「VENTVERT」のみが表示されるのではないから,本件審決
が,この部分のみを抜き出して引用各商標と対比したことは誤りである。
 そして,「VENTVERTparPIERREBALMAIN」からは,「『VENTVERT』・パル・ピ
エールバルマン」の称呼が生じるのに対し,引用各商標からは「バンベール」の称
呼が生じるものであって,「パル・ピエールバルマン」を含まない。よって,本願
商標と引用各商標は称呼において相違し,非類似の商標というべきである。
(2) このことは,次の点からみても明らかである。
ア 法50条1項の適用に関して,被告の審判便覧53-01に従えば,仮
に「VENTVERTparPIERREBALMAIN」よりなる登録商標の不使用を理由として同条
項に基づく取消請求がなされた場合,商標権者が「VENTVERT」の部分のみを使用し
ていた事実があるとしても,これをもって登録商標の使用の事実としては認めない
こととされている。すなわち,被告自身,後者は前者の同一性の範囲外にあるもの
と取り扱うこととしているのであり,本件審決の判断はこれと矛盾するものであ
る。
イ 被告の審査例においては,例えば「PASTEL」なる既登録商標がある場合
にも「PasteldeGRES」の登録出願を認めたような例が多数存在し,本件審決の判
断はこれらの先例とも矛盾する。
(3) 本件審決は,本願商標のうち「VENTVERT」の部分が「parPIERRE
BALMAIN」とは独立して自他商品識別標識としての機能を果たすと認定し,「VENT
VERT」の部分のみを引用各商標との類否判断において対比の対象としているが,か
かる認定判断の方法をするのが相当であることについて何ら理由を示していないの
であって,本件審決には理由不備の違法がある。
2(取消事由2)
 仮に,本願商標のうち「VENTVERT」の部分のみを抜き出して引用各商標との
類否判断を行うことが許されるとしても,「VENTVERT」から「ヴァンヴェール」の
称呼が生じるとした本件審決の判断は誤りである。
 すなわち,我が国におけるフランス語の普及度を考慮すれば,一般の取引者及び
需要者は「VENTVERT」をフランス語読みして「ヴァンヴェール」と発音することは
できない。本件審決は,本願指定商品を取り扱う業界においては比較的フランス語
が「なじまれている」ことを理由に「VENTVERT」の文字から「ヴァンヴェール」の
称呼が生ずると判断しているが,何ら証拠に基づかない判断である点で不当である
ばかりでなく,フランス語が「なじまれている」としても,一般の取引者及び需要
者のうち相当多数の者がフランス語の綴りを正確に発音して称呼することができる
とは限らないのであり,この点においても不当な判断である。
3(取消事由3)
 仮に,「VENTVERT」の文字から「ヴァンヴェール」の称呼が生ずるとして
も,「バンベール」の称呼が生じることはなく,かかる称呼も生じ得るとした本件
審決の判断は誤りである。
(1) 「ヴァ」「ヴェ」と「バ」「ベ」とは発音が異なり,容易に聴取識別する
ことができるから,「VENTVERT」を「バンベール」と称呼することはない。
 被告は、「外来語の表記」の記載を根拠として、本願商標から「バンベール」の
称呼が生ずると主張するが、「外来語の表記」は外国語の表記に関する内閣の告示
にすぎず、本願商標の指定商品に係る取引者、需要者が本願商標をどのように称呼
するかとは無関係であって、被告の上記の主張は誤りである。
(2)ア 原告は、我が国を含め世界的に著名なオートクチュールであって、その
保有する商標の「PIERREBALMAIN」も、我が国を含め世界的に著名である。原告
は、1996年以降,「VENTVERT」を「PIERREBALMAIN」のサブブランド
(「PIERREBALMAIN」を使用する商品より低価格帯の商品に使用する商標)とし
て、あらゆるファッション関連製品について使用し、我が国においてその商品展開
を行うことを決め,このことが新聞によって大々的に報じられるなどした。
 そして、原告は、「VENTVERT」を使用した商品展開を我が国で行うに当た
り、「VENTVERT」がフランス語であって「ヴァンヴェール」と称呼すること及び
「緑の風」を意味することを周知徹底させている。
イ 上記の経緯により,本願商標は「ヴァンヴェール」と称呼するものとし
て周知であるから、本願商標からは「ヴァンヴェール」の称呼のみが生じ、「バン
ベール」の称呼は生じない。
4(取消事由4)
 仮に本願商標から「バンベール」との称呼が生じるとしても,本願商標と引
用各商標とが類似するということはできず,両者が類似するとした本件審決の判断
は誤りである。
(1) 前記最高裁判決の示す基準に従えば,商標の類否は,本願商標の称呼,外
観,観念によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察し,
しかも,本願商標が付された商品の具体的な取引状況に基づいて判断すべきであ
る。そして、その場合、商標の称呼、外観、観念の類似の有無は、あくまでも、そ
の商標を使用した商品についての出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準
にすぎないものというべきであって、称呼、外観、観念のうち、一つが類似しても
他の二つにおいて著しく相違するものや、取引の実情のいかんによって、商品の出
所に誤認混同を来すおそれを認め難いものについては類似商標と解すべきではな
い。
(2)ア 本願商標は引用各商標と外観において全く相違する。また,観念におい
ても,前記3(2)アの経緯により,本願商標からは「『緑の風』を意味する原告のサ
ブブランド」の観念が生ずるのであり、引用各商標からは何らの観念が生じないの
とは相違する。
イ そして、本願商標は、「PIERREBALMAIN」のサブブランドであることを
示すために、「VENTVERT」に続けて「parPIERREBALMAIN」の語を同時に表示する
という態様の構成となっている。すなわち、本願商標の構成自体からも、本願商標
を使用した商品の出所が著名な原告であることが明示されているのである。
 加えて、本願商標を付したその指定商品は量販店向けであり、引用各商標を付し
たその指定商品は専らデパート向けであるから、両商品は、販路や販売店を異に
し、その出所において誤認混同の生ずる余地はない。
 さらに、本願商標の指定商品は、商品ごとに品番が付され、流通過程における取
引及び在庫管理は品番によって行われていて、取引者はこれを称呼によって取引す
るのではない。また、本願商標の指定商品は、購入者の個人的な好みが強く反映す
る商品であり、消費者は、型、サイズ、色、デザインなどを基準に商品の選択をす
るものであって、称呼のみによって商品を購入することはない。
(3) 以上のように、観念及び外観の相違並びに取引の実情を総合して全体的に
考察すれば、本願商標と引用各商標とは,仮に「バンベール」の称呼において同一
であるとしても,それぞれの指定商品に使用されたとき,商品の出所について誤認
混同を生ずるおそれは全くない。したがって、本願商標と引用各商標とは類似しな
いというべきである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1について
 原告は,本願商標を構成する「VENTVERTparPIERREBALMAIN」の全体を引
用各商標と対比すべきであり,その一部である「VENTVERT」のみを抜き出して対比
するのは不当であると主張するが,次のとおり理由がない。
(1) 一般に,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然
であると思われる程に不可分的に結合しているのでない限り,しばしば,その一部
だけによって簡略に称呼,観念されることがあるから,かかる部分を分離したう
え,当該部分について他の商標との類否の判断を行うことが必要となり,当該部分
について他の商標との類似が認められれば,両商標はなお類似するものというべき
である。
(2) 本願商標については,以下のとおり,上記(1)にいう不可分的な結合があ
るとは認められない。
ア 外観については,「VENTVERT」と「parPIERREBALMAIN」とは字体及び
大きさを著しく異にするから,視覚上分離して把握され得る。
イ 称呼についてみると,本願商標全体を一連のものとして称呼するのは冗
長であり,「VENTVERT」の部分のみを称呼する方が簡潔である。
ウ 観念についてみると,本願商標はフランス語からなり,一般の取引者,
需要者はフランス語の綴り字の意味を理解できるとはいえないから,本願商標が全
体として特定の観念を生じるものではない。
エ 取引の実情について見るに,本願商標のうち下段に配置された「PIERRE
BALMAIN」は原告の商標(ハウスマーク)として著名なものであるから,本願商標に
接する取引者,需要者は,「PIERREBALMAIN」の文字を,当該商品の出所が原告で
あることの標識としてとらえ,上段の「VENTVERT」の文字を,原告の取り扱いに係
る多くの商品の種類を個別化して特定するための標識として認識すると考えられ
る。したがって,「VENTVERT」の部分とその他の部分とは分離して把握されるもの
である。
(3) したがって,本件審決が,本願商標のうち「VENTVERT」の文字部分がそ
の他の部分から分離されて称呼,観念されることも少なくないと認定した上で,同
部分を抜き出して引用各商標との類否判断をしたことに,原告主張のような誤りは
ない。
(4) 原告は,被告の審判便覧及び過去の登録例との矛盾を指摘するが,以下の
とおりいずれも理由がない。
ア 法50条1項は本件で問題となる法4条1項11号と立法趣旨を異にし
ているし,前者の「社会通念上同一」と後者の「類似」とは異なる概念である。し
たがって,法50条1項についての審判便覧の示す基準に従えば「VENTVERT」が本
願商標と「社会通念上同一」の範囲に属しないことと,本件審決が「VENTVERT」の
みを本願商標から分離して引用各商標との類否判断に供したこととが,相矛盾する
とはいえない。
イ 原告は,過去の登録例を援用して本願商標も登録されるべきである旨主
張する。
 しかしながら,援用された登録例と本願商標とは,事案を異にするというべきで
ある。加えて,ある商標が引用する商標と類似するかどうかは,個別に判断される
べきものであって,本願商標と引用各商標との類否判断の過程において,過去の登
録例を参酌しなければならないものではない。
2 取消事由2について
(1) 原告は,我が国におけるフランス語の普及の程度からみて,一般の取引
者,需要者は本願商標の「VENTVERT」の部分をフランス語読みして発音することは
できないから,本願商標から「ヴァンヴェール」の称呼が生じると判断した本件審
決は誤りであると主張する。
 確かに,欧文字による商標は,英語読みまたはローマ字読みによって発音される
のが一般的ではあるが,指定商品との関係において,英語以外の外国語やその発音
をもって取引されているのが一般的であることもある。そして,本願商標の指定商
品である被服,靴等を取り扱う業界においては,フランス製の商品が高級なものと
して輸入及び取引されており,自ずとその商品にフランス語またはフランス語読み
の商標が付されることが多いという取引の実情がある。したがって,本願商標に接
する取引者,需要者は,「VENTVERT」の文字をフランス語読みして「ヴァンヴェー
ル」と発音し,かかる称呼をもって取引に当たることも少なくないというべきであ
り,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,「VENTVERT」の文字からは,これをローマ字読みあるいは英語
読みした「ヴェントヴェルト」あるいは「ヴェントヴァート」の称呼のみが生ずる
と主張する。
 しかし,英語で「穴」「口」等を意味する「vent」はともかくとして,「vert」
は,英語にも存在する単語ではあるが,一般的な英和辞典にも収録されていないも
のであるから,「VENTVERT」を英語読みする動機付けを与えられる者はほとんどな
いというべきである。また,原告自身が,「VENTVERT」をフランス語の読み方にそ
の称呼を特定している。
 したがって,原告の上記主張も失当である。
3 取消事由3について
(1) 原告は,「ヴァ」「ヴェ」の音は「バ」「ベ」とは区別されるから,本件
審決が「VENTVERT」の表記から「ヴァンヴェール」のほか「バンベール」の称呼を
生ずると認定したのは誤りであると主張する。
 しかしながら,日本語に元来存在しない子音「v」に代えて「b」による発音が
され,これに伴って,「ヴァ」行の片仮名文字に代わって「バ」行の表記がなされ
るのが一般的であり,このことは内閣告示「日本語の表記」の記載からも明らかで
ある。そうすると,一般商取引の場において,本願商標を構成する「VENTVERT」の
欧文字が「バンベール」と発音されることが多いというべきであり,これと同旨の
本件審決の認定判断に誤りはない。
(2) 原告は,原告がその宣伝活動等を通して「VENTVERT」を「ヴァンヴェー
ル」と発音すべきことを周知徹底させてきたから,「バンベール」の称呼が生じる
余地はないとも主張する。
 しかしながら,原告が援用する新聞記事等の証拠によるも,その一部に「VENT
VERT」を「ヴァンヴェール」と発音することが記載されていることが明らかにされ
ているにとどまり,かかる発音が唯一のものとして周知となっていたと認めること
はできない。
4 取消事由4について
(1) 原告は,「VENTVERT」の文字からは「『緑の風』を意味する原告のサブ
ブランド」の観念が生じ,これが取引者,需要者間で周知となっていたから,仮に
本願商標から引用各商標と同一の「バンベール」の称呼が生じるとしても,本願商
標と引用各商標とが類似するとはいえないと主張する。
 しかしながら,原告が援用する新聞記事,雑誌広告及びライセンシーリスト等の
証拠によっては,そのような記事,広告及びライセンス契約等がなされた事実を認
めることができるにとどまり,「VENTVERT」の文字から原告主張のような観念が周
知となっていたとまでは認めることはできない。
(2) 原告は,取引の実情を考慮するときは,本願商標を付した商品と引用各商
標を付した商品との間で出所の混同が生じるおそれはないと主張し,具体的には,
①流通及び販売の経路が異なること,②本願商標の指定商品の需要者は品質,デザ
イン等によって商品を選択するのであり商標はその基準とはならないこと,③取引
者は発注及び在庫管理等にあたって品番によって取引を管理するのが通常であり商
標の称呼によって取引するのではないこと,等を指摘する。
 しかしながら,まず,①については,商標の類否判断において参酌されるべき取
引の実情とは,その指定商品全般についての一般的,恒常的な取引事情であるか
ら,流通及び販売の経路に関する現時点での個別的事情は,商品の出所につき誤認
混同を生ずるおそれがあるか否かの判断要素として重視すべきものではない。②に
ついては,商標(ブランド)が需要者の商品選択の重要な基準であることは公知の
事実というべきである。③については,取引者が品番によって取引を管理するとし
ても,本願商標の指定商品の主たる需要者たる一般消費者にとっては,商品の出所
につき誤認混同を生じるおそれがないとはいえない。
 したがって,取引の実情を考慮してもなお,本願商標を付した商品と引用各商標
を付した商品との間で誤認混同を生じるおそれがないとはいえず,原告の主張は理
由がない。
(3) このように,本願商標と引用各商標とは観念において明確に相違するとは
いえず,取引の実情を考慮しても,上記各商標を付した商品の間で出所の混同が生
じるおそれがないとはいえないのであるから,両者から共通の「バンベール」の称
呼が生じるものである以上,類似した商標であるというべきである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1について
 原告は,本願商標は「VENTVERTparPIERREBALMAIN」の全体が不可分一体であ
り,「VENTVERT」のみを分離して引用各商標と対比するのは不当であると主張する
ので,検討する。
(1) 一般に,簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれ
を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合して
いるのでない商標は,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念さ
れず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,1個の商標から2
個以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである。そし
て,この場合,1つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観念と同一または類似であ
るとはいえないとしても,他の称呼,観念が他人の商標のそれと類似するときは,
両商標はなお類似するものと解するのが相当である(最高裁昭和38年12月5日
判決 民集17巻12号1621頁)。
 原告は,上記判決がなされた当時と現在では前提となる社会基盤が全く異なると
主張するが,社会基盤の相違の内容として具体的に主張しているのは,近時の商品
取引業者がPOSシステム等を導入して,商標から生ずる称呼ではなく品番によっ
て商品の一品管理をしている,という事情のみである。そして,仮にそのような販
売管理及び在庫管理が商品取引業者にとって一般的となりつつあるとしても,宣伝
広告や販売促進の場面においてはブランド名が一定の商品群を他のそれから識別す
るための機能を有していることは,業界紙の記事(甲10等)や原告自身が発した
書状(甲12)によっても明らかであるから,原告の主張は当を得たものではな
い。また,本願商標の指定商品の需要者は一般の消費者であるところ,これら消費
者が,複数の構成部分からなる冗長な商標に接した場合に,その一部から生ずる称
呼,観念によって商品を識別する傾向のあることも経験則上明らかであるというべ
きである。
 したがって,上記判決の示した法理は現在もなお妥当するものであり,以下これ
に沿って検討することとする。
(2) まず,本願商標の構成についてみると,本願商標は3段に分かれた欧文字
からなり,1段目に「VENTVERT」と大書されているのに対して,2段目及び3段目
にはこれよりも小さく「parPIERREBALMAIN」と書されているものである。
 本願商標のかかる構成からすると,本願商標において,「VENTVERT」の文字部分
が,「parPIERREBALMAIN」に比して,顕著に際立った特徴を有する構成部分であ
ることは一見して明らかである。また,「VENTVERTparPIERREBALMAIN」を全体
としてみれば24文字にも及ぶのに対して,「VENTVERT」は8文字であり,しか
も「VENT」と「VERT」という良く似た綴りの2語の組み合わせであるから,まとま
りのよい一個の単位を構成しているということができる。かかる顕著な構成上の特
徴に照らすと,「VENTVERT」の部分が本願商標に接する取引者及び需要者に対して
最も強く訴える部分,すなわち本願商標の要部であることは明らかであるというべ
きである。
 そして,「PIERREBALMAIN」は原告の取扱商品の全般にわたって使用されている
代表的出所標識(ハウスマーク)として著名なものであることは,当事者間に争い
がない。これに対し,「VENTVERT」は原告が任意に選択したフランス語の単語を並
べたものであり,商品の品質及び性能を記述的に表したものでもないから,こ
の「VENTVERT」という部分自体も強い識別力を有しているということができる。そ
うすると,本願商標に接する取引者,需要者は,「parPIERREBALMAIN」の文字に
よって当該商品の出所が原告であることを識別し,「VENTVERT」によって個々の商
品の識別を行うであろうことも容易に推認可能であって,本件全証拠を検討しても
この推認を左右するに足りる証拠はない。したがって,本願商標を個々の商品に付
して使用した場合,出所標識としての「parPIERREBALMAIN」の部分と個々の商品
識別機能を有する「VENTVERT」の部分が,一体不可分の関係にあるものといえない
ことは明らかである。
 このように,本願商標中の「VENTVERT」と「parPIERREBALMAIN」の各部分は,
外観においては前者が要部,後者が付加的部分であると認識されるものであり,機
能においては,両者がそれぞれ独立して前述した各機能を有するものであるという
ことができる。そうすると,簡易迅速をたっとぶ取引の実際においては,本願商標
から,外観において付加的部分である出所標識の「parPIERREBALMAIN」の部分が
省略され,これとは独立した個々の商品の識別標識である「VENTVERT」の部分のみ
によって称呼,観念されることを否定することはできない。
 したがって,本件審決が,本願商標から「VENTVERT」の部分のみを抜き出し,こ
れと引用各商標とを対比して類否の判断を行ったことに原告主張のような誤りはな
い。
(3) 原告は,この点につき,「VENTVERTparPIERREBALMAIN」は,常に一体
として「『PIERREBALMAIN』のサブブランドの『VENTVERT』」の意味で取引者,需
要者に認識されるものであり,上記のように分離して認識されることはないと主張
する。しかしながら,「VENTVERTparPIERREBALMAIN」は,欧文字24文字にも
わたり,またこれを「ヴァンヴェールパルピエールバルマン」と発音した場合にも
15音節にわたるのであるから,商標としてはいかにも冗長に過ぎ,このような場
合,取引者,需要者が,商標の中から称呼または外観においてまとまりの良い一部
を抜き出し,かかる称呼または外観に着目して取引にあたることは,経験則上明ら
かであるといわなければならない。
 なお,原告は,商標の一体不可分性の判断について,審決の判断及び被告の主張
は証拠に裏付けられていないからすべて失当である旨を再三にわたり主張する。し
かしながら,当該商標に接する一般の取引者,需要者の認識がいかなるものである
かは,日常的な経験則によって判断し得るものであって,かかる日常的な経験則に
ついては必ずしも証拠による証明を必要とするものではないから,原告の主張は採
用できない。
(4) 原告は,法50条1項について被告が審査便覧で示した判断基準を援用し
て,「VENTVERT」は「VENTVERTparPIERREBALMAIN」の同一性の範囲内にないか
ら,「VENTVERT」の部分のみを分離して商標の類否判断に供するのは不当であると
主張するが,以下の理由により採用できない。
 法50条1項の趣旨は,商標権者がその登録商標を現実に使用していない場合,
その商標には業務上の信用が化体していないからこれを商標権者に独占させておく
べき理由がなく,これを取り消すとするものである。これに対し,法4条1項11
号は,商品又は役務の出所の混同を生じ得る商標が新規に登録されるのを排除する
ための規定である。このように,両者は立法趣旨を異にしているうえ,前者におけ
る「社会通念上同一」と後者における「類似」とは文言自体が異なるのであるか
ら,それぞれに該当する商標の範囲が異なってくることも当然であるといえる
(「同一」の方が「類似」よりも狭いことは明らかである。)。したがって,審判
便覧の示す基準に従えば「VENTVERT」が法50条1項にいう本願商標の同一性の範
囲に属しないことと,本件審決が「VENTVERT」のみを本願商標から分離して引用各
商標との類否判断に供したこととが,相矛盾するとはいえない。
(5) 原告は,過去の登録例(甲80ないし93)に照らしても,本件審決が,
本願商標のうち「VENTVERT」の部分のみを抜き出して類否の判断を行い,本願商標
は引用各商標と類似すると判断したのは誤りである,と主張する。
 しかし,原告の指摘する登録例を個々に検討すると,原告の主張は成り立たな
い。例えば,甲80ないし甲83によれば,「PASTELパステル」の既登録商標があ
るにもかかわらず「PasteldeGRES」が登録された事実は認められる
が,「PASTEL」の部分は指定商品である化粧品についてその性状(「パステル調」
など)を記述的に表したものであって識別力が弱いこと,「PasteldeGRES」をフ
ランス語読みした呼称である「パストゥルドゥグレ」は冗長とはいえないか
ら「Pastel」と「deGRES」とが分離して称呼,観念されるとは必ずしもいえないこ
と,等の点において引用各商標と本願商標との類否判断とは状況を異にしている。
また,甲84の「SalondeWashington」と甲85の「SALONサロン」,甲88
の「JUNKbyJunkoShimada」と甲89の「JUNK」の各事例では,指定商品が異なっ
ているから,商品が類似しないという判断の結果として登録がなされたことも考え
られる。甲86の「SUIbyANNASUI」は,これを一連のものとして「スイバイアナ
スイ」と呼称することが冗長であるとはいえず,必ずしも最初の「SUI」のみを分離
して甲87の「SUIスイ」との類否判断をするべきだともいえない。このように,
これら
の登録例はいずれも本件とは事案を異にしており,本件審決の判断と必ずしも矛盾
するものとはいえない。
 また,一見,本件審決の判断と異なる見解に出るかのように見られるものにあっ
ても(甲90の「GioDEGIORGIOARMANI」と甲91の「Gio」,甲92の「VENUS
parMONPICASSO」と甲93の「Venus」),もともと商標の類否は,指定商品に関す
る取引の実情等に即して,商標の構成を具体的全面的に対比検討して決せられるべ
きことであって,過去の被告の取扱事例が必ずしもそのまま現在における法的判断
の基準となり得るものではないし,また過去の登録例にも誤りなきを保し難いので
あるから,原告の指摘する登録例の存することをもって,本件における本願商標と
引用各商標との非類似を裏付けることはできない。なお,甲90と甲91ではいず
れも権利者が同一であること,甲92と甲93では甲92の方が先願であるうえに
両商標の審査が同時期に並行して行われていること,といった点で,本願商標と引
用各商標との関係とは異なる面があることも留意されるべきである。
 よって,過去の登録例との矛盾を理由とする原告の主張も,採用の限りでない。
2 取消事由2について
(1) 原告は、本願商標の指定商品の取引者,需要者の相当多数が欧文字を正確
なフランス語読みで発音できるという事実はないから、本願商標から「ヴァンヴェ
ール」の称呼を生ずるとした審決の認定は誤りである旨主張する。
 しかしながら、本願商標の指定商品は被服等のいわゆるファッション製品であ
り,かかる商品の商標名としてはフランス語が好んで用いられる傾向にあることは
当裁判所にも顕著な事実であるから、本願商標の指定商品の取引者,需要者なら
ば、その相当多数が本願商標をフランス語読みすることの動機付けがある。また,
原告がフランスに本拠を置き世界的にも著名なオートクチュールであることは当事
者間に争いがなく,その名称である「PIERREBALMAIN」を構成部分として含む本願
商標にあっては,「VENTVERT」の部分についてもこれをフランス語として読もうと
するのが自然であるといえる。したがって,「VENTVERT」という表記からは,これ
をフランス語読みした「ヴァンヴェール」の称呼が生じると認めるのが相当であ
る。
(2) 確かに,原告が主張するように,我が国においてはフランス語に比べて英
語の方が格段に普及していることは,公知の事実である。そして,本願商標を構成
する「Vent」及び「Vert」という綴りの単語は,いずれも英語にも存在し,その綴
り字は英単語として特異なものではなく,それぞれ「ヴェント」及び「ヴァ-ト」
と発音されるものであると認められる。
 そうすると,本願商標に接した取引者,需要者のうちには,「VENTVERT」の部分
を「ヴェントヴァート」と発音する者も少なくないものと認められる。なお,この
点につき,被告は「vert」が良く知られた英単語とはいえないからこれを英語読み
することの動機付けがないと主張するが,商標として採用される外国語は一般的な
単語に限らず,地名及び人名等の固有名詞や造語であることも少なくないのである
から,語義が知られていないことは,商標として用いられた「VENTVERT」を英語読
みすることの妨げにはならない。
 しかしながら,このことは,商標の類否判断にあたり本願商標からフランス語読
みの「ヴァンヴェール」の称呼が生ずると認定することの妨げにはならない。けだ
し,上記(1)のとおり,本願商標には「VENTVERT」の部分をフランス語読みするこ
とに対する強い動機付けが存在するからである。
(3) よって、本願商標から「ヴァンヴェール」の称呼が生じると認定したこと
について,本件審決の判断に誤りはなく,取消事由2における原告の主張は採用で
きない。
3 取消事由3について
  (1) 原告は,「VENTVERT」の表記から「ヴァンヴェール」の呼称が生じると
しても,「バンベール」の呼称は生じることはなく,本件審決が,かかる呼称が生
じるとして本願商標と引用各商標とが呼称を同一にすると判断したのは誤りである
と主張する。
 確かに,正確なフランス語の発音においては、「v」の綴りを含む語(「ヴァ」
「ヴェ」)と、「b」の綴りを含む語(「バ」「ベ」)とが音として識別され得る
ことは公知の事実である。しかしながら、子音「b」が日本語に存在する音である
のに対し、子音「v」は日本語の発音には元々存在していなかった音であることも
公知の事実であり,日本人としては、「v」音の発音や聴別が必ずしも容易ではな
いため、日本国内における日常会話や一般商取引の場等において、子音「v」を含
む語(外国語又は外来語)が用いられる場合においても、その綴りの部分が正確に
発音され難く、むしろ、日本人にとってなじみ深く、しかも「v」音と発音が極め
て近似する子音「b」による発音が「v」音による発音に取って代わり、これに伴
って、その表記においても、本来の「ヴァ」、「ヴィ」、「ヴ」、「ヴェ」、「ヴ
ォ」の各片仮名文字に代わって、「バ」、「ビ」、「ブ」、「ベ」、「ボ」の各片
仮名文字が使用されるのが一般的であることは容易に推認することができる。 そ
うすると、一般商取引の場等において、本願商標の一部である「VENTVERT」の欧文
字がその正確なフランス語読みである「ヴァンヴェール」ではなく「
バンベール」と発音されることが多いものと推認され、「VENTVERT」の表記からは
「バンベール」の称呼も生ずるものと認めるのが相当である。
(2)ア 原告及びその保有する商標の「PIERREBALMAIN」が我が国において著名
であること、原告が1989年に開発した香水にフランス語で「緑の風」を意味す
る「VENTVERT」の商標を付し、同年からこれを我が国でも販売していること、原告
が、1996年(平成8年)5月に、「VENTVERT」を「PIERREBALMAIN」のサブブ
ランドとし、香水に加え、あらゆるファッション関連製品について使用し、我が国
においてその商品展開を行うことを決めたこと、その旨が日本経済新聞、日本繊維
新聞、日経流通新聞及び繊研新聞によって報じられたこと、同年6月28日に、原
告が記念パーティを催して関連業者及び報道機関を集め、上記商品展開の告知をし
たことは当事者間に争いがない。
イ 原告は、上記の経過において,「VENTVERT」を「ヴァンヴェール」と称
呼することを原告が周知徹底させたから、本願商標の「VENTVERT」の部分からは
「ヴァンヴェール」の称呼のみ生じ、「バンベール」の称呼は生じない旨主張す
る。
 しかしながら、日本における「VENTVERT」ブランドの商品展開の決定を報じた上
記日本経済新聞(平成8年5月8日付け、甲8)、日本繊維新聞(同月14日付
け、甲9)及び日経流通新聞(同月16日付け、甲10)の各記事は、本文の字数
が五百数十字から七百数十字程度のものであって、それぞれ「ヴァンヴェール」と
のブランド名が記載されているものの、日本繊維新聞記事には「VENTVERT」の語句
の記載はなく、さらに、いずれの記事中にも、「VENTVERT」が「バンベール」では
なく「ヴァンヴェール」と称呼することを強調した記載は全く見当たらない。な
お、繊研新聞記事(同月29日付、甲11)は、株式会社三貴の店舗において「ヴ
ァン・ヴェール・ピエール・バルマン」の婦人パンツスーツの売れ行きがよいとい
う内容の本文三百字余りの記事であって、本願商標の構成、「VENTVERT」の語句、
及び「VENTVERT」を「バンベール」ではなく「ヴァンヴェール」と称呼する旨の記
載は全くない。
 また、雑誌「BRUTUS」平成10年10月1日号(甲41)及び同誌同月15日号
(甲42)、雑誌「ヴァンサンカン」同年10月号(甲43)及び同誌同年11月
号(甲45)、雑誌「エル・ジャポン」同年10月号(甲44)及び同誌同年11
月号(甲46)にそれぞれ掲載された広告には、いずれも「VENT
VERT」、「BALMAIN」、「PARIS」の各欧文字を上下3段に配置し、「VENTVERT」の
部分のみ大きい筆記体とし、また「PARIS」の部分はごく小さく書してなる商標が記
載されているが、同広告中に「VENTVERT」が「バンベール」ではなく「ヴァンヴェ
ール」と称呼する旨の記載もない。
 そうすると、平成8年5月に上記の程度内容の各新聞記事が掲載され、また、平
成10年10月~11月ころに、上記3誌に各2回宛て上記内容の広告が掲載され
たからといって、平成8年5月ないし6月から本件審決時までの間に、「VENT
VERT」の称呼が「バンベール」ではなく「ヴァンヴェール」であることが我が国に
おいて周知になったものとは到底認め難い。
 また,原告が「VENTVERT」の称呼及び日本語表記が「ヴァンヴェール」
であることを周知徹底していたとしても,取引者,需要者が現実に商品に付された
本願商標の「VENTVERT」の表記に接する場面は,上記新聞記事等に接するのとは時
と所を異にする。そうであれば,上記(1)のとおり「ヴァ」「ヴェ」と「バ」「ベ」
の音が相紛れやすいものである以上,「VENTVERT」の表記から正確な「ヴァンヴェ
ール」ではなく「バンベール」の称呼を想起することは十分にあり得ることである
と考えられ,この点からしても,原告の主張は採用できない。
 4 取消事由4について
(1) 原告が主張するように、商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似
の商品に使用された場合に、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるか
どうかによって決せられるべきものであり、その際、商品に使用された商標が、そ
の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合
して、全体的に考察すべく、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、
その具体的取引状況に基づいて判断すべきものであること(前記2(2)引用の最高裁
判決)、そして、この判断に当たり、商標の称呼、外観又は観念の同一又は類似
は、それぞれその商標を使用した商品についての出所の誤認混同のおそれを推測さ
せる基準ではあるが、その一つが類似したとしても、他の二つにおいて著しく相違
したり、具体的な取引の実情のいかんによっては、商品の出所に誤認混同を来すお
それを認め難いものとして、両商標を類似商標と解すべきでない場合もあること
は、一般論として正当である。
 そこで、この点に留意しつつ、本願商標と引用各商標との類否について検討す
る。
(2)ア 本願商標から「バンベール」の称呼が生ずることは上記3のとおりであ
り、また、引用各商標から「バンベール」の称呼が生ずることは当事者間に争いが
ないから、本願商標と引用各商標とは同一の称呼を有するものである。一方,本願
商標と引用各商標とが外観上相違することは当事者間に争いがない。
イ そこで,観念について検討するに,原告は、上記3(2)アの経過を通じ
て,「VENTVERT」が「緑の風」を意味する旨及びこれを原告の新しいサブブランド
として展開する旨を周知徹底させたから,「VENTVERT」からは「『緑の風』を意味
する原告のサブブランド」という周知の観念が生ずる旨主張するが、かかる新聞記
事の掲載等の事実によってはそのような観念が取引者,需要者間において周知にな
ったと認めるには足りない。また,上記3(2)イに検討した新聞記事や雑誌広告等の
具体的内容からみても,「ヴァンヴェール」が「緑の風」を意味する旨の記載はな
いから,たとえ原告自体は著名であっても、「VENTVERT」が「『緑の風』を意味す
る「PIERREBALMAIN」のサブブランド」という観念を有するものであることが我が
国において周知となったとは認められない
 さらに,仮に一旦はそのような観念が周知となったとしても,これらの新聞記事
等は平成8年,雑誌広告は平成10年のものであるから,本件審決時においてその
ような観念がなお周知であることになるわけでもない。
 そうすると、本願商標からは特定の観念が生じないといわざるを得ず、他方、引
用各商標からも特定の観念が生じないことは当事者間に争いがないから、本願商標
と引用各商標とは、観念において相違するということはできない。
ウ 原告は、本願商標を付したその指定商品は量販店向けであり、引用各商
標を付したその指定商品は専らデパート向けであるから、両商品の出所において誤
認混同の生ずる余地はない旨主張し、A作成の「証明書」と題する書面(甲76)
にこれに沿う記載がある。しかしながら、仮にそのような事実が存在するとして
も、少なくとも、本願商標及び引用各商標が使用される「被服」等の商品分野にお
ける主たる需要者である一般的な消費者にとって、本願商標を付した被服等は量販
店において、引用各商標を付した被服等はデパートにおいて専ら販売されることが
周知であるといえなければ、そのような事実が存在するゆえに、商品の出所につい
て誤認混同を生ずるおそれがないとはいえないところ、そのことが一般的な消費者
に周知であることを認めるに足りる証拠はない。かえって,乙4(インターネット
上のホームページ)によれば,引用各商標を付した被服がブティックで販売されて
いる事実も認められ,このように商品の流通経路は変化し得るものなのであるか
ら,原告主張のように流通経路が明確に異なるとはいえない。
 さらに、原告は、本願商標の指定商品は、流通過程における取引及び在庫管理は
品番によって行われ、称呼によって取引されるものではなく、また、本願商標の指
定商品は、購入者の個人的な好みが強く反映する商品であり、消費者は、型、サイ
ズ、色、デザインなどを基準に商品の選択をするものであって、称呼のみによって
商品を購入することはないと主張するが、本願商標の指定商品が、一般に購入者の
個人的な好みが強く反映する商品であるとしても、本願商標の指定商品、特に「被
服」の商品分野で、上記主たる需要者である一般的な消費者の商品選択において、
型、デザイン、色、サイズ等のほか、商標(ブランド)もその重要な基準となるこ
とは公知の事実というべきである。そうとすると、仮に、流通過程における取引及
び在庫管理が品番によって行われているとしても、そのゆえに、上記主たる需要者
である一般的な消費者にとって、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがない
とはいえない。
エ 原告は,本願商標には「parPIERREBALMAIN」の表記が存するから,本
願商標の構成自体からも、本願商標を使用した商品の出所が著名な原告であること
が明示されており,出所の混同は起こり得ないと主張する。
 しかしながら,上記1のとおり,本願商標において「parPIERREBALMAIN」の部
分は「VENTVERT」の部分と不可分一体をなすものではないから,簡易迅速をたっと
ぶ取引の実際においては,本願商標のうち「parPIERREBALMAIN」の部分が省略さ
れて用いられる場合のあることは否定できない。また,本願商標に接した一般消費
者が時と所を異にして引用各商標に接したときには,本願商標のうち「VENTVERT」
の部分のみを記憶しており,かかる記憶をもとに引用各商標との対比を行うことも
十分に考えられる。そうすると,本願商標の構成に「parPIERREBALMAIN」が含ま
れていることをもってしても,常に出所の混同を避けることができるとは限らない
ことになる。
オ そして、他に,具体的な取引の実情において、本願商標を付したその指
定商品と、引用各商標を付したその指定商品との間に、商品の出所につき誤認混同
を生ずるおそれがないといえるような事情を認めるに足りる証拠はない。
  (3) 上記(2)に検討したところによれば,本願商標と引用各商標は称呼を共通
にし、外観においては相違するものの観念において相違するということはできない
上、本願商標及び引用各商標の指定商品も同一又は類似のものであることから,具
体的な取引の実情において、本願商標を付したその指定商品と、引用各商標を付し
たその指定商品との間で、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあることに
なり,両商標は類似するものというべきである。
 したがって、本願商標と引用各商標とが類似の商標であるとした審決の判断に誤
りはなく、そうであれば、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとしたこと
についても誤りはない。
5 以上のとおり,原告主張の取消事由によっては,本件審決を違法として取り
消すことはできず,また,他に,本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。よ
って,本件審決は相当であり,原告の請求は理由がないからこれを棄却することと
して,主文のとおり判決する。
 
   東京高等裁判所 知的財産第1部
          裁判長裁判官  北  山  元  章
             裁判官  清  水     節
             裁判官  上  田  卓  哉
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