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平成11年(行ケ)第350号審決取消請求事件
平成14年1月24日口頭弁論終結
判決
原告インターナショナル・ビジネス・マシーン
ズ・コーポレーション
訴訟代理人弁護士齊藤文彦
同弁理士坂口博
同市位嘉宏
同渡部弘道
訴訟復代理人弁理士加 藤 浩一郎
被告特許庁長官及川耕造
指定代理人麻野耕一
同小林信雄
同新川圭二
同大橋良三
主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日
と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成7年審判第15844号事件について平成11年6月29日に
した審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は,1989年(平成元年)6月16日にアメリカ合衆国においてした
特許出願に基づく優先権を主張して,平成2年5月15日,発明の名称を「不可視
トリガ・フィールドについてサブルーチンを実行する方法及び装置」とする発明に
ついて特許出願をしたが,平成7年4月11日,拒絶査定を受けたので,平成7年
7月26日,拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は,これを平成7年審判第1
5844号事件として審理した結果,平成11年6月29日,「本件審判の請求
は,成り立たない。」との審決をし,平成11年7月14日にその謄本を原告に送
達した。
2 特許請求の範囲(請求項1)
「カーソルを示すための表示スクリーン手段,画像とトリガ・フィールド(当
該トリガ・フィールドは,前記表示スクリーン手段上に領域を画定するのにユーザ
が位置付け可能な幾何学的パターンを画定するデータを有し,当該幾何学的パター
ンは画像の配置とは無関係に前記表示スクリーン手段上の任意の特定位置に配置可
能)とを記憶する記憶手段,前記カーソルを少なくとも2つの形態の間で変更する
手段,サブルーチンを選択する選択手段,および,前記カーソルを移動する手段を
有する装置において,不可視トリガ・フィールドについてサブルーチンを実行する
方法であって,
(a)前記表示スクリーン手段上において,前記画像またはその一部分がそこに
存在しているかどうかとは無関係にユーザが選択可能である特定位置に複数のトリ
ガ・フィールドを位置付け,
(b)前記複数のトリガ・フィールドの表示を禁止し,
(c)前記画像を表示し,
(d)前記カーソルが前記トリガ・フィールドの外から中に移動されると,前記
表示スクリーン手段上の前記カーソルを第1の形態から第2の形態に変更し,前記
カーソルが前記トリガ・フィールドの中から外に移動されると,前記表示スクリー
ン手段上の前記カーソルを第2の形態から第1の形態に変更し,
(e)前記カーソルが第2の形態になると選択動作を可能にし,
(f)(e)において選択動作の付勢があると,当該カーソルが含まれるトリガ・
フィールドについて前記選択手段によって選択されたサブルーチンを実行する方
法。」
(別紙図面(1)参照)
3 審決の理由
 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,上記特許請求の範囲
(請求項1)記載の発明(以下「本願発明」という。)は,特開昭63-2984
31号公報(以下「引用刊行物1」という)に記載された技術(以下「引用発明
1」という。),1988年(昭和63年)12月24日誠文堂新光社発行「Ma
cintosh HyperTalk」72頁及び73頁(以下「引用刊行物2」
という)に記載された技術(以下「引用発明2」という。)及び1988年(昭和
63年)6月6日株式会社ピー・エヌ・エヌ発行「ザ・ハイパーカード(上)」(T
HE COMPLETE HYPERCARD HANDBOOK Vol.1)
(初版第3刷)(以下「引用刊行物3」という)に記載された技術(以下「引用発
明3」という。)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら,特許法29条2項に該当する,というものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 審決書の理由中,Ⅰ(出願の経緯及び本願発明の要旨),Ⅱ(引用刊行物)
を認める。Ⅲ(対比)のうち,一致点,特に,本願発明の「トリガ・フィールド」
が引用発明1の「カーソルを変更する領域」と一致するとした部分を争い,相違点
1ないし3の認定を認める。Ⅳ(当審の判断),Ⅴ(結び)を争う。
 審決が認定する相違点1ないし3(審決書16頁3行~17頁3行)は,次
のとおりである。
①「本願発明では,トリガ・フィールドが不可視であるのに対し,刊行物
1の発明では領域は可視か不可視か特に限定されていない。」(相違点1)
② 「本願発明は,さらに「サブルーチンを選択する選択手段」を有し,カ
ーソルがトリガ・フィールドの中に入り,第1の形態から第2の形態になると,こ
の手段によって選択動作が可能になり,選択動作が付勢されると,当該カーソルが
含まれるトリガ・フィールドについて前記選択手段によって選択されたサブルーチ
ンが実行されるのに対し,刊行物1の発明では,カーソルがトリガ・フィールドの
中に入り,第1の形態から第2の形態になっても,その領域がコマンドを表示する
等の特別な属性を有することを示す以外は明確でない。」(相違点2)
③ 「本願発明が,カーソル操作によって「サブルーチンを実行する方法」
であるのに対し,刊行物1の発明は,カーソルの操作によって領域の属性を示す方
法である。」(相違点3)
 審決は,引用発明1の認定を誤り,その結果,一致点を誤認し(取消事由
1),また,相違点1ないし3についての判断を誤り(取消事由2~4),さら
に,全体としての評価を欠落させ(取消事由5),本願発明の顕著な効果を看過し
た(取消事由6)ものであるから,違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤りに基づく一致点の誤認)
 審決は,「刊行物1の発明の「カーソルを変更する領域」は,文字どおり
「領域」内で,プログラムを起動して,カーソルの形状を変更するととも
に,・・・ウィンドウ上で,ユーザが「左上隅点の表示画面上の座標,及び領域の
サイズ」を与えればどこにでも設定できるので,本願発明の「トリガ・フィール
ド」に相当する。」(審決書13頁12行~18行)と認定したが,この認定は誤
りである。
(1)本願発明にいう「トリガ・フィールド」は,特許請求の範囲に記載されて
いるとおり,「前記表示スクリーン手段上に領域を画定するのにユーザが位置付け
可能な幾何学的パターンを画定するデータを有し,当該幾何学的パターンは画像の
配置とは無関係に前記表示スクリーン手段上の任意の特定位置に配置可能」なもの
であり,かつ「前記表示スクリーン手段上において,前記画像またはその一部分が
そこに存在しているかどうかとは無関係にユーザが選択可能である特定位置に複数
のトリガ・フィールドを位置付け」るという構成を有するものである。
(2)引用刊行物1には,「カーソルの表示形状を変更することにより,ユーザ
にカーソルの位置する領域の属性を,容易に認識させることができるという効果が
ある」(2頁右上欄6行~8行),「ここでいう表示画面上の領域の属性とは,例
えば,その領域は編集中の文吾(引用刊行物1中の「文吾」の語が「文書」の誤記
であることは,当事者間に争いがない。以下「文書」と読み替えることにする。)
を表示している部分であるとか,文書編集のためのコマンドを表示している部分で
あるとかいうものである。」(2頁右上欄8行~12行)と記載されている。同刊
行物の上記記載によれば,引用発明1における「領域の属性」とは,その領域が編
集中の文書であること,あるいは,文書編集のためのコマンドを表示している部分
であることを意味するものである。
 そして,テキスト編集画面の中で特定の位置にカーソルを移動したときに,カー
ソルの形状が変化すると記載しているのであるから,カーソルを移動したとき形状
が変化すると,「その部分の属性が編集中のテキスト領域だとか編集のためのコマ
ンドであることが認識できるということ」を示しているのである。
 そうすると,属性を備える領域自体が色や文字の配置及び位置等によって他の領
域から区別できない限り,その属性の領域を認識することはできず,また,カーソ
ル形状だけを変化させてもその領域を示すことはできないから,引用刊行物1にお
ける,テキスト入力を行う領域や各種のコマンドを示す領域は,通常,カーソル形
状を変化させるまでもなく画面上明らかとなっており,カーソル形状の変化は,そ
の領域に入ったことを確認的に示すものというべきである。
 引用発明1においては,上記のとおり,「属性」が,編集中の文書を表示してい
る部分,あるいは,文書編集のためのコマンドを表示している部分を示すものであ
る以上,その領域と属性との間は密接な関係を有するものである。したがって,引
用発明1におけるカーソルを変更する領域は,当該領域の属性を示し,その領域自
身と密接な関係を有するものであり,本願発明におけるように,図形や文字データ
の配置と無関係に配置するようなものではない。
 以上のとおりであるから,本願発明の「トリガ・フィールド」が引用発明1の
「カーソルを変更する領域」と一致するとした審決の認定は,誤っている。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
 審決は,相違点1(本願発明では,トリガ・フィールドが不可視であるのに
対し,引用発明1では領域は可視か不可視か特に限定されていない点)に係る本願
発明の進歩性について,「刊行物2を見ると,そこには,本願発明と同様に,画面
に可視のトリガ・フィールドであるボタンを設けて絵を見難くしないように透明
(不可視)なボタンにし,画面上でこのボタンをクリックすると変化が起こるよう
にすることが示されており,トリガ・フィールドを不可視にすることは格別に新規
ではなく,この相違は微小なものである。」(審決書17頁8行~14行)と判断
したが,この判断は誤りである。
 引用発明2にいう「透明ボタン」は,ボタンの存在をユーザーに意識させたくな
いときに用いるものであり,ユーザーは,ボタンの存在に気がつかないようにされ
ている。ユーザーは,引用発明2において,どの部分に透明ボタンが隠されている
かを画面上のいろいろな部分をいちいちクリックして変化が起こるかどうかを試し
てみなくてはならず,ユーザーがどの部分に透明ボタンが存在するかを知るために
は,わざわざ所定のキー操作(コマンドキーと隣にあるオプションキーを二つ同時
に押す。)をして,その透明ボタンの領域を表示させなくてはならない。したがっ
て,引用発明2は,ある領域(ボタン)を透明にしてユーザーにその領域の存在を
分からせないように,あるいは,意識させないようにする技術であるということが
できる。
 一方,引用発明1は,上述したとおり,「属性」が,編集中の文書を表示してい
る部分,あるいは,文書編集のためのコマンドを表示している部分を示すものであ
り,カーソルの形状を変更することによりある領域の属性をユーザーに分からせる
ものである。
 そうすると,引用発明1と同2とは,その目的が相反するものであり,このよう
にそれぞれ相反する目的のために用いられる引用発明1と同2とを組み合わせるこ
とはできない。これらを組み合わせることには,契機及び動機付けが欠けているの
である。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)
 審決は,相違点2(本願発明は,さらに「サブルーチンを選択する選択手段」
を有し,カーソルがトリガ・フィールドの中に入り,第1の形態から第2の形態に
なると,この手段によって選択動作が可能になり,選択動作が付勢されると,当該
カーソルが含まれるトリガ・フィールドについて前記選択手段によって選択された
サブルーチンが実行されるのに対し,引用発明1では,カーソルがトリガ・フィー
ルドの中に入り,第1の形態から第2の形態になっても,その領域がコマンドを表
示する等の特別な属性を有することを示す以外は明確でない点)に係る本願発明の
構成につき,引用発明1ないし同3に,特開昭62-156721号公報,特開昭
64-51582号公報,特開昭61-194577号公報,特開昭63-195
727号公報等に記載された周知の技術を組み合わせることによって,当業者が容
易に想到し得たものであると判断している。しかし,この判断は,誤っている。
 引用刊行物3に記載されているのは,あらかじめ決められたテキスト領域に入る
と,カーソル形状が変化してその領域がテキスト領域であるという属性を示すとい
う技術であり,そこには,「所定の領域についてカーソルの変化によりその属性を
示す」という技術が開示されているにすぎない。しかも,同刊行物に記載されてい
るのは,「クリックによりテキスト領域におけるテキスト入力を可能にする」とい
う技術であるから,引用発明3は,選択不可能で,かつ,事前に決められている固
定的な動作を可能とするにすぎない。引用発明3が,上記のとおり,カーソルの変
化により,「その領域がテキスト領域であるという属性」を示す技術である以上,
引用発明1とは基本的に相違しており,これを引用発明1に組み合わせるという発
想が生じる余地はない。
 また,相違点2に係る本願発明の構成は,「カーソルが第1の形態から第2の形
態になると選択動作が可能になり,選択動作が付勢されると,当該カーソルが含ま
れるトリガ・フィールドについて前記選択手段によって選択されたサブルーチンが
実行される」という一体のものとしての形においてのみ,把握されるべきものであ
る。すなわち,「カーソルが第1の形態から第2の形態になる」ことと,「当該カ
ーソルが含まれるトリガ・フィールドについて前記選択手段によって選択されたサ
ブルーチンが実行される」こととは一体の技術なのである。
 一方,審決が掲げる特開昭62-156721号公報,特開昭64-51582
号公報,特開昭61-194577号公報,特開昭63-195727号公報等の
文献は,いずれも,単に画面のある領域のクリックにより所定の選択動作を可能と
する技術を開示しているにすぎないのであり,これらの文献に画面のある領域のク
リックにより所定の選択動作を可能とする技術を開示されているとしても,そのこ
とから,「カーソルが第1の形態から第2の形態になる」こと,及び,「当該カーソ
ルが含まれるトリガ・フィールドについて前記選択手段によって選択されたサブル
ーチンが実行される」ことという技術を導き出すことはできないのである。
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)
 審決は,相違点3(本願発明が,カーソル操作によって「サブルーチンを実
行する方法」であるのに対し,引用発明1は,カーソルの操作によって領域の属性
を示す方法である点)について,「相違点2で示した機能付加によって「方法」の内
容が変化し,それに伴って「方法」の内容表現が変化しただけで,実質的な相違で
はない。」(審決書19頁9行~11行)と判断したが,この判断は誤りである。
 本願発明は,ユーザが画面上に自由に設定し得るトリガ・フィールドにおいて,
カーソルが変化するようにすることによって,ユーザが,そこにトリガ・フィール
ドが存在すると認識することができ,そのトリガ・フィールドにおいて,選択動作
をすることによって,希望するサブルーチンを実行させることができるようにする
という基本的着想に基づくものであり,単に,ある画面上の領域についてその領域
固有の「属性」をカーソルの形状の変化により示すという引用発明1とは,本質的
に異なるものである。これを「実質的な相違ではない。」とするのは,明らかに誤
りである。
5 取消事由5(全体としての評価の欠落)
 審決は,判断対象である本願発明の全体を一体として判断せず,個別の要素
についてのみ公知又は周知であると論証しているにすぎず,進歩性判断の手法とし
て著しく妥当性を欠くものである。
6 取消事由6(顕著な効果の看過)
 本願発明は,特許請求の範囲(請求項1)に記載された独自の構成を有する
ことにより,ユーザはカーソルの変化によりその不可視トリガ・フィールドについ
て選択されたサブルーチンを実行できることを知ることが可能となり,表示スクリ
ーン上の画像についてその画像のユーザの認識を妨げることなく任意の領域につい
てユーザの選択動作を可能として選択されたサブルーチンが実行できるようにな
る,という顕著な効果を奏するものであり,この効果は,引用発明1ないし同3や
慣用技術から容易に予想し得なかったものである。
第4 被告の反論の要点
 原告の主張はいずれも失当であり,審決に原告の主張するような誤りはな
い。
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤りに基づく一致点の誤認)について
 本願発明にいう「トリガ・フィールド」が,原告主張のとおりの技術的意味
を有することは争わない。
 引用発明1は,一般的なカーソル制御に係るもので,特定の「属性」表示のため
の技術ではない。そして,引用刊行物1には,「ウインドウ内の任意の領域で,マ
ウスカーソルの形状を変更したいという要求が生じている。カーソルの形状を変更
することにより,ユーザにカーソルの位置する領域の属性を,容易に認識させるこ
とができるという効果がある。」(甲第3号証2頁右上欄4行~8行),「まず,
AP1は,カーソルを変更したい領域の位置やサイズなどの情報を設定するようシ
ステム・プログラム2に要求する。このとき,システム・プログラム2は,領域設
定プログラム7を用いて,AP1から与えられた該情報を,管理データ13内にあ
る領域管理データ5に設定する。」(4頁右下欄1行~6行)との各記載があり,
これらの各記載中の「ウインドウ内の任意の領域で」,「カーソルを変更したい領
域の位置やサイズなどの情報を設定する」,「領域設定」という語句からすれば,
引用刊行物1にいう「領域の属性」とは,「領域の又は領域に属する性質」という
意味を有するものであり,より具体的にいえば,カーソルの形状が変化する位置に
ある「領域」が周りの他の領域と異なる性質を有するという意味で特別な「領域」
であることを認識させることができること,すなわち,「何かがある」,「何かが
できる」,「何かが起こる」領域であることを認識させることができるということ
を意味し,この語に接した当業者も上記のように理解するのである。
 原告は,引用発明1における「領域の属性」とは,その領域が編集中の文書
であること,あるいは,文書編集のためのコマンドを表示している部分であること
を意味すると主張するが,失当である。
 引用刊行物1における,編集中の文書や文書編集のためのコマンドを表示し
ている部分は,一例を挙げているにすぎず,カーソル形状の変化は,その領域には
何らかの関連プログラムによってもたらされる機能があることを表示しているので
ある。このことは,引用刊行物1において,「領域設定」に関し,その領域を設定
する位置に何があるかを何ら問題にしていないことからも明らかである。
 「属性」とは,コンピュータ技術の分野では,各種領域(フィールド)やそ
の領域に格納されるデータを規定する特性のことであって,データが文字の場合に
は,英数字か漢字か,かなか,全角か半角か,フォント,大きさ等であり,領域の
場合には,入力域か入力域でないか,どのような入力方法か等である(乙第2号証
の例は,フィールド内で処理ルーチンと連動させる,すなわち,画面の各フィール
ド毎にその画面上アドレスと属性情報を格納したフィールド管理テーブルを設け,
画面上のカーソル位置情報によりフィールド管理テーブルを参照して,フィールド
の属性情報を読み出し,その属性情報に従って音声出力,音声入力を行うというも
のであり,ここでは,フィールドの属性がフィールド管理部で管理されているので
ある。)。したがって,本件でいえば,領域の属性とは,「領域」が何らかのプロ
グラムと関連付けられており,この「領域」では,その外部とは異なり,関連プロ
グラムによってもたらされる「何か」ができること及びできる「何か」の内容を意
味するのである。また,「領域」は,その形状,位置,サイズを,管理プログラム
で座標として管理されており,その座標値を変更することにより,容易に設定,抹
消,移動,変形できるもので,固定的なものではなく,「領域の属性」は,「領
域」に付随し,「領域」が移動,変形すれば,「属性」もこれに追随するものであ
る。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
 引用発明1は,ウインドウ内の任意の「領域」で,マウスカーソルの形状を
変更することによって,ユーザに,その領域が周りの他の「領域」とは異なる「領
域」であるという「属性」を認識させるものであるから,「領域」が可視であるか
不可視であるかに,特に依存するものではない。一方,引用刊行物2には,画面上
の絵を見にくくしないように透明(不可視)なボタンにし,画面上で,このボタン
をクリックすると変化が起こるようにすることが示されており(別紙図面(2)参
照),上記技術が公知となっていることからすると,トリガ・フィールドを不可視
にすることは,新規な技術とはいえない。そして,引用発明1と同2とは,前者が
マウスカーソルの形状を変更することによって,後者がボタンをクリックすると変
化が起こることによって,「領域」の「存在を認識させる」という機能を有してい
る点で変わりがない。しかも,引用発明1の「領域」は,透明(不可視)となって
いて,カーソルの形状の変化がその存在を示す有力な手段となっているというので
ある。
 これらを併せ考えると,引用発明1の「領域」と領域設定技術を,引用発明2の
「透明ボタン」と組み合わせ,又は,置換することは,当業者が容易に想到し得た
ことであり,組み合わせ又は置換することの十分な契機もしくは動機付けがあると
いうべきである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
 引用刊行物2は,グラフィックスの中の不可視の特定部分(透明ボタン)を
クリックすることにより,特別な変化を生じるようにできることを示している。こ
の特別な変化は,特定されておらず,一般に,マウスボタンをクリックすることで
可能となる変化は,すべて含まれるということができる。
 また,引用刊行物3は,不可視の,テキストの入力が可能であるという「特別
な」フィールドの存在を,カーソルの形状の変化でユーザに確認させると同時に,
そのフィールド内でカーソルがI-ビームすなわち本願発明の第2形態に変化して
いる間にマウスボタンをクリックすることによってフィールドへのテキストの入力
という特別な動作を可能にするものである(別紙図面(3)参照)。そして,「特別な
動作」は,「テキストの入力」に限らなければならない技術ではなく,最初に選択
して設定しておくことができるものであれば何でもよく,設定内容があらかじめ決
められているかどうか,設定後に変更できるかどうかなどとは関係がない。
 上述したとおり,引用発明2の透明ボタン,引用発明3の透明なフィールドは,
基本的には,「不可視」の「領域」でマウスボタンをクリックすることにより,特
別な変化・動作を起こさせるものである。そして,引用発明2及び同3の上記「透
明ボタン」,「透明なフィールド」によって示される「領域」についての技術が,
引用発明1に開示されているという関係にあるものである。しかも,クリックによ
って起動することの可能な特別な変化,特別な動作として任意のものを設定するこ
とが可能であることは,当業者であれば当たり前の事項である。ある領域のクリッ
クにより選択メニューをポップアップ又はプルダウン表示し,さらに上記選択メニ
ューの中から一つの項目を「選択」して,当該項目に関連するルーチンを起動する
ことを選ぶことも,周知慣用技術の一つの選択にすぎない。また,プログラム(サ
ブルーチン)選択も,周知慣用技術のうちの一つである。
 以上によれば,当業者は,引用発明1に同2,3を適用して,容易に,相違点2
に係る本願発明の構成に想到し得たということができる。
 原告の主張は,引用刊行物1,同2及び同3,審決が掲げる特開昭62-156
721号公報,特開昭64-51582号公報,特開昭61-194577号公
報,特開昭63-195727号公報等の文献に示される周知慣用技術が,ある領
域でマウスボタンをクリックすることによって特別な変化・動作を起動する技術と
いう明白な共通点を有するという事実を看過し,その結果,相互の組合せの容易さ
を否定するという過ちを犯している。
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)について
 原告の主張は,引用発明1の「領域の属性」を,恣意的に,限定された狭い
意味のものとした上で議論を展開するものであり,前提において,既に失当であ
る。
5 取消事由5(全体としての評価の欠落)について
 原告は,審決は,判断対象である本願発明の全体を一体として判断せず,個
別の要素についてのみ公知又は周知であると論証しているにすぎず,進歩性判断の
手法として著しく妥当性を欠くと主張するが,失当である。
 引用発明1と同2,同3,特開昭62-156721号公報,特開昭64-
51582号公報,特開昭61-194577号公報,特開昭63-195727
号公報等の文献に示される周知慣用技術との間には,一連の密接な技術上の関連が
あり,審決は,この関連性に着目して進歩性の有無を判断しているのであり,原告
の主張するように,本願発明の個別の要素についてのみ公知又は周知であると論証
しているものでないことは,明らかである。
6 取消事由6(顕著な効果の看過)について
 原告主張の取消事由6は争う。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤りに基づく一致点の誤認)について
(1)本願発明にいう「トリガ・フィールド」が,「前記表示スクリーン手段上
に領域を画定するのにユーザが位置付け可能な幾何学的パターンを画定するデータ
を有し,当該幾何学的パターンは画像の配置とは無関係に前記表示スクリーン手段
上の任意の特定位置に配置可能」なものであり,かつ,「前記表示スクリーン手段
上において,前記画像またはその一部分がそこに存在しているかどうかとは無関係
にユーザが選択可能である特定位置に複数のトリガ・フィールドを位置付け」ると
いう構成を有するものであることは,当事者間に争いがない。
(2)引用発明1の「カーソルを変更する領域」の意味について検討する。
(ア)甲第3号証によれば,引用刊行物1(特開昭63-298431号公報)
には,「最近の使用形態の複雑化,高度化に従い,ウィンドウ内の任意の領域で,
マウスカーソルの形状を変更したいという要求が生じている。カーソルの表示形状
を変更することにより,ユーザにカーソルの位置する領域の属性を,容易に認識さ
せることができるという効果がある。ここでいう表示画面上の領域の属性とは,例
えば,その領域は編集中の文書を表示している部分であるとか,文書編集のための
コマンドを表示している部分であるとかいうものである。」(2頁右上欄3行~1
2行),「このようなカーソルの変更の方式として,従来は,次のような方式を用
いていた。まず,ウィンドウを使用している。文書の編集や印刷などを行うアプリ
ケーション・プログラム(以下,APと呼ぶ)は,機器全体を管理,制御し,表示
やマルチウィンドウを司るシステム・プログラムに対し,指示装置が現在,示して
いる表示画面上の座標値を要求する。次にAPは,その座標値が,カーソルの形状
を変更したい領域の内に入っているかを判定する。入っている場合は,システム・
プログラムに対し,カーソルの形状を変更するための要求を行う。こ
の時,システム・プログラムは,APからの要求に従って,カーソルの形状を変更
して表示する。このような処理をくり返すことにより,APは,必要な領域内でカ
ーソルの形状を変更することが可能となる。」(2頁右上欄13行~左下欄8行)
との記載があることが認められる。
 引用刊行物1の上記記載,特に,「ウィンドウ内の任意の領域で,マウスカーソ
ルの形状を変更したいという要求が生じている。」,「アプリケーション・プログ
ラム(以下,APと呼ぶ)は,・・・指示装置が現在,示している表示画面上の座
標値を要求する。」,「次にAPは,その座標値が,カーソルの形状を変更したい
領域の内に入っているかを判定する。入っている場合は,システム・プログラムに
対し,カーソルの形状を変更するための要求を行う。」との記載によれば,引用発
明1においては,カーソルを変更する領域は,ウィンドウ内,すなわち,表示画面
上の任意の領域にあり,その位置は座標に基づいて特定されるものであり,表示画
面とは関連していないことが明らかである。
(イ)原告は,上記記載を根拠に,引用刊行物1にいう「領域の属性」とは,
その領域が編集中の文書であること,あるいは,文書編集のためのコマンドを表示
している部分であることを示すものであり,したがって,カーソルを変更する領域
と表示画面とは関連している旨主張する。
 引用刊行物1に,「カーソルの表示形状を変更することにより,ユーザにカーソ
ルの位置する領域の属性を,容易に認識させることができるという効果がある。こ
こでいう表示画面上の領域の属性とは,例えば,その領域は編集中の文書を表示し
ている部分であるとか,文書編集のためのコマンドを表示している部分であるとか
いうものである。」(2頁右上欄6行~12行)との記載があることは,上記認定
のとおりである。
 しかしながら,「属性」という語は,一般的な用語例に従えば,「その物の有す
る特徴・性質」(広辞苑第四版)といった意味を有するものであり,「領域の属
性」とは,領域の有する特徴・性質を意味するものということができる。そして,
上述したとおり,引用発明1が,「ウィンドウ内の任意の領域で,マウスカーソル
の形状を変更したいという要求」に対応した技術であることに照らせば,「ここで
いう表示画面上の領域の属性とは,例えば,その領域は編集中の文書を表示してい
る部分であるとか,文書編集のためのコマンドを表示している部分であるとかいう
ものである。」というときの「領域の属性」とは,当該領域に表示されている内容の
特徴・性質をいうのではなく,当該領域自体の具備する特徴・性質をいうものであ
ることは,明らかである。
 そもそも,カーソルを変更する領域と表示画面とが関連しているのであれば,カ
ーソルを変更する領域は,カーソル形状を変化させるまでもなく画面上明らかとな
っていることになるから,わざわざ,その領域に入ったことでカーソル形状の変化
をさせる必要性はないことになる。このことは,原告自身が,「カーソル形状の変
化は,その領域に入ったことを確認的に示すものである」と述べているとおりであ
る。しかし,このことが,引用刊行物1の「カーソルの表示形状を変更することに
より,ユーザにカーソルの位置する領域の属性を,容易に認識させることができる
という効果がある。」との記載及びその具体的な説明と矛盾することは,明らかで
ある。
 原告は,引用刊行物1の「属性」の語を誤解し,この誤解に基づいて引用刊行物
1を把握しているものであり,その主張は失当というほかない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
(1)引用刊行物2(甲第4号証)に,「1.透明ボタン ボタンの存在をユー
ザーに意識させたくないときに用いる。たとえば,グラフィックスの一部にこの透
明ボタンを付けておけば,グラフィックスは透けて見えることから,ユーザーはボ
タンの存在に気がつかない。そこで,グラフィックスの中の特定の部分だけをクリ
ックしたときに,変化が起こるようにすることが可能になる。この透明ボタンがた
くさん使われているスタックが,“C1ipArt”。スタートすると,まずシャ
ーロックホームズ風の男性が現れる。ここで,コマンドキーと隣にあるオプション
キーを二つ同時に押してみる(これは,カードのどこにボタンがあるかを見つける
一番速い方法)。腕,目,帽子,パイプの絵のところに何層にも透明ボタンが付い
ていることが分かる。」(72頁15行~73頁6行,別紙図面(2)参照)と記載さ
れていることは,当事者間に争いがない(審決書10頁5行~11頁1行参照)。
 引用発明1も同2も,いずれも,ある領域でマウスボタンをクリックすることに
よって特別な変化・動作を起動するという技術であることが明らかであるから,こ
れらの技術に接した当業者が,引用発明1の「カーソルを変更する領域」につい
て,不可視のものとしてみようと考えることには,何らの困難もないというべきで
ある。
(2)原告は,引用発明1は,上述したとおり,カーソルの形状を変更すること
によりある領域の属性をユーザーに分からせるものであり,引用発明2は,ある領
域(ボタン)を透明にしてユーザーにその領域の存在を分からせないように,ある
いは,意識させないようにする技術であるから,その目的が相反するとし,これを
前提に,引用発明1と同2とを組み合わせることには,契機や動機付けがないと主
張する。
 しかしながら,原告主張のとおり,引用刊行物2には,ある領域(ボタン)を透
明にしてユーザーにその領域の存在を分からせないように,あるいは,意識させな
いようにする技術が開示されているけれども,それと同時に,この技術を前提とし
て,画面上で,この透明ボタンをクリックすると変化が起こるようにするという技
術も開示されているのである。原告の主張は,引用刊行物2に記載された技術のう
ちの前者のみを強調し,後者を無視しているものである。
 原告の上記主張が失当であることは明らかである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
(1)引用刊行物3(甲第5号証)に,「2.6.8 テキストカーソル フィ
ールドにテキストを入力するのを助けるため,HyperCardは,カーソルの
形をフィールド上で自動的にブラウズ・ツールからI-ビームカーソルに変える
(図2-13参照)。このカーソルは,他のMacintoshのテキストアプリ
ケーションのものと全く同じである。」(82頁1行~5行)との記載があり,ま
た,「図2-13 フィールドに入るとブラウズ・ツールはI-ビームに変わる。
フィールドを出るとI-ビームはブラウズ・ツールに戻る。」の表題の下に別紙図
面(3)記載の図が示され,さらに,「2.6.9 カード上のフィールドを見つける
 書き込み用の罫線や枠のある用紙と違って,HyperCardのフィールドは
カードを見ただけではよくわからない。たとえばスタックから呼び出したブランク
のカードを見た場合,カードにフィールドがいくつあるのか,またどこにあるのか
はすぐにわからない(図2-14参照)。また印刷された用紙と違って,カードに
表示されているテキストがフィールドに入力されたものなのか,バックグラウンド
のものなのかもわからない。幸い,カードのフィールドを見つける方法は二つあ
る。もっとも簡単な方法はカーソルを画面上で動かしてみることだ。アクセスでき
るフィールドがあればブラウズ・ツールはI-ビームに変わる。カーソルがI-ビ
ームに変わっている間にマウスボタンをクリックすれば,テキスト挿入ポインタが
クリックしたフィールドの行の左端に現れて点滅する(テキスト挿入ポインタはフ
ィールド設定の際,指定すれば,中央や右端で点滅させることもできる)。この状態
で,テキストを入力することができる。」(82頁6行~83頁6行)との記載があ
ることは,当事者間に争いがない。
 引用刊行物3の上記認定の記載によれば,引用刊行物3には,カーソルの形状の
変化で,あらかじめ設定された不可視のフィールドの存在をユーザに確認させると
同時に,そのフィールド内でカーソルがI-ビームすなわち本願発明の第2の形態
に変化している間にマウスボタンをクリックすることによってフィールドへのテキ
ストの入力という特別な動作を可能にするという技術(引用発明3)が記載されて
いると優に認めることができる。
(2)相違点2に係る,「サブルーチンを選択する選択手段」を有し,カーソル
がトリガ・フィールドの中に入り,第1の形態から第2の形態になると,この手段
によって選択動作が可能になり,選択動作が付勢されると,当該カーソルが含まれ
るトリガ・フィールドについて前記選択手段によって選択されたサブルーチンが実
行される,との本願発明の構成に進歩性があるかについて検討する。
 上記構成のうち,カーソルがトリガ・フィールドの中に入り,第1の形態から第
2の形態になるとの部分が,引用刊行物1に開示されていることは,論ずるまでも
ないことである。
 前述したとおり,引用発明1及び同2は,いずれも,ある領域でマウスボタンを
クリックすることによって特別な変化・動作を起動するという技術である。特開昭
62-156721号公報(甲第6号証),特開昭64-51582号公報(甲第
7号証),特開昭61-194577号公報(甲第8号証),特開昭63-195
727号公報(甲第9号証)の文献に,いずれも,画面のある領域のクリックによ
り所定の選択動作を可能とする技術が示されていることは,当事者間に争いがな
い。上記の諸技術に接した当業者が,本願発明の,選択動作が可能になり,選択動
作が付勢されるという構成に思い至ることには,何の困難もないというべきであ
る。
 そして,本願発明の「選択動作」として各種のプログラムを関連づけることにも
何の困難性がないことが明らかであるから,適宜のサブルーチンを選択して,これ
を実行させるようにすることは,当業者が,容易に推考し得たことというべきであ
る。
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)について
 相違点3に係る本願発明の構成(カーソル操作によって「サブルーチンを実
行する方法」)は,相違点2に係る本願発明の構成,すなわち,「サブルーチンを
選択する選択手段」を有し,カーソルがトリガ・フィールドの中に入り,第1の形
態から第2の形態になると,この手段によって選択動作が可能になり,選択動作が
付勢されると,当該カーソルが含まれるトリガ・フィールドについて前記選択手段
によって選択されたサブルーチンが実行されるという構成を,カーソル操作の面か
らいい直したにすぎないものであることが,明らかである。「実質的な相違ではな
い。」とした審決の判断に誤りはない。
 この点について,原告は,本願発明は,ユーザが画面上に自由に設定し得るトリ
ガ・フィールドにおいて,カーソルが変化するようにすることによって,ユーザ
が,そこにトリガ・フィールドが存在すると認識することができ,そのトリガ・フ
ィールドにおいて,選択動作をすることによって,希望するサブルーチンを実行さ
せることができるようにするという基本的着想に基づくものであり,単に,ある画
面上の領域についてその領域固有の属性をカーソルの形状の変化により示すという
引用発明1とは,本質的に異なると主張する。
 しかしながら,原告の主張は,引用発明1の「領域の属性」についての誤った理
解を前提とするものであるから,原告の上記主張は,前提において既に誤っている
ものである。
5 取消事由5(全体としての評価の欠落)について
 原告は,審決は,判断対象である本願発明の全体を一体として判断せず,個
別の要素についてのみ公知又は周知であると論証しているにすぎず,進歩性判断の
手法として著しく妥当性を欠くと主張する。
 発明は,新規性及び進歩性がある場合に限って登録を認められるものであり,特
許を受けようとする発明を特定すべき事項は,そのすべてが特許請求の範囲に記載
されているはずであり,特許請求の範囲は,一般に,発明を特定すべき複数の事項
(構成要素)の組合せから成り立っているのであるから,新規性や進歩性の有無を
判断するに当たっては,同一又は近接する技術分野における従来技術中に,当該発
明の構成要素に係る技術が存在するかどうかを検討し,当該発明の構成要素が複数
の技術として存在する場合には,当業者が,上記複数の技術を組み合わせて当該発
明の構成に容易に想到し得るかどうかを検討し,その後に,本願発明の全体を総合
的に検討するというのが,審判,特許異議申立てや取消訴訟事件において行われる
常套の検討方法であり,かつ,合理性の認められるところである。
 本件についてみると,相違点1及び2に係る本願発明の構成がいずれも当業者に
おいて容易に想到し得たものであり,相違点3が実質的には相違点といえないこと
は,既に述べてきたとおりである。そうである以上,本願発明を全体的に観察した
場合,特別な事情でもない限り,本願発明は,全体として当業者において容易に想
到し得たものというべきである。そして,上記特別の事情は,本件全証拠によって
も見いだすことができない。
 審決が,上記常套の検討方法によって検討し前記結論を導いていることは,審決
書の説示自体から明らかである。審決は,「これら3つの相違点はいずれも格別な
ものとは認められない。」(審決書19頁12行~13行)としているだけで,全
体としての評価についての明示的な記載はない。しかし,審決は,三つの相違点に
ついて検討している以上,当然に全体としての評価についても念頭にあったはずで
あり,上述したとおり,本願発明を全体的に観察した場合に,本願発明を全体とし
て当業者において容易に想到し得たものではないと認めさせるような特別の事情が
ないため,審決に明示的に記載しなかったものと推察することができる。
6 取消事由6(顕著な効果の看過)について
 原告は,本願発明は,特許請求の範囲(請求項1)に記載された独自の構成
を有することにより,ユーザはカーソルの変化によりその不可視トリガ・フィール
ドについて選択されたサブルーチンを実行できることを知ることが可能となり,表
示スクリーン上の画像についてその画像のユーザの認識を妨げることなく任意の領
域についてユーザの選択動作を可能として選択されたサブルーチンが実行できるよ
うになるという顕著な効果を奏するものであり,この効果は,引用発明1ないし同
3や慣用技術から容易に予想し得なかったと主張する。
 原告が特許性の根拠として主張する効果は,本件発明の構成をとった場合の自明
の効果というべきものであって,当業者が容易に予測し得ないような格別の効果で
ないことが明らかである。
7 結論
 以上によれば,原告主張の審決取消事由は,いずれも理由がないことが明ら
かであり,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告
の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのた
めの付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用
して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
  裁判長裁判官山  下  和  明
     裁判官宍  戸     充
裁判官阿  部  正  幸
(別紙)
図面(1)図面(2)図面(3)

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