弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
第一審原、被告の本件各控訴をいずれも棄却する。
第一審原告の当審における新たな請求を却下する。
第一審原告の控訴及び当審における新たな請求の追加によつて生じた訴訟費用は第
一審原告の負担とし、第一審被告の控訴によつて生じた訴訟費用は第一審被告の負
担とする。
○ 事実
第一審原告は「原判決中第一審原告敗訴の部分を取り消す。第一審被告が、昭和四
三年三月二九日付で、第一審原告の第一審被告に対する別紙目録(原判決末尾添付
の目録と同一)記載の猪苗代町議会会議録(以下「本件会議録」という。)の謄
写、及び謄、抄本の交付請求を拒否した各処分はこれを取り消す。(当審における
新たな請求として)第一審被告は第一審原告に対し右会議録を謄写させ、かつ右会
議録の謄、抄本を交付せよ。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とす
る。」との判決、並びに第一審被告の控訴につき控訴棄却の判決を求めた。第一審
被告は「原判決中第一審被告敗訴の部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却す
る。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決、並びに第一
審原告の控訴につき「右控訴を棄却する。右控訴によつて生じた訴訟費用は第一審
原告の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次に記載するほかは原判決事実摘示のとおりで
あるから、これをここに引用する。
(一審原告の主張)
一、本案前の主張
第一審被告議会は、本件の控訴提起自体については議決を経ているが、もともと本
件訴訟の第一、二審における訴訟追行を弁護士富岡秀夫に委任するにあたつては、
これにつき何ら議決を経ていない。したがつて、第一審被告議会代表者の右弁護士
に対する本件訴訟の委任行為は無効であり、右弁護士は本件訴訟の追行につき訴訟
代理権を有しない。
二、本案についての主張
1 第一審原告が第一審被告に対して閲覧、謄写等を求めている本件会議録は、第
一審被告のもとに保管されている会議録原本である。もつとも、秘密会の議事につ
いてまでその閲覧、謄写等を求める趣旨ではなく、右に請求する本件会議録にはい
ずれも秘密会の議事は含まれていない。
2 第一審原告が昭和四三年三月二九日付で第一審被告に対してなした本件会議録
の抄本の交付請求は、右会議録中、財産区の財産の不当処分に関する部分、ないし
第一審原告に関して問題になつた一般質問及び答弁、並びに総括質問及び答弁に関
する部分について抄本の交付を求めたものである。したがつて、どの部分の抄本で
あるか特定していないとの批判は当たらない。
3 第一審被告は猪苗代町住民である訴外Aや、同町民でない訴外株式会社小川組
福島出張所長Bに対しては、会議録原本の閲覧謄写、謄、抄本の交付を許容してお
りながら、ひとり第一審原告に対してのみこれを認めない。かかる取扱いは、公平
を欠くものであつて、憲法一四条、一五条、地方自治法一〇条二項等に違反し、許
されない。
(第一審被告の主張)
1 議会の会議録の原本は、日時の経過によつて議事の内容が不明になるのを防止
し、議決内容の公正さを担保し、併せて資料として永久に保存するため、その作成
が義務づけられている。右の会議録原本より秘密会の議事及び議長が取消しを命じ
た発言を削除したものが会議録謄本である。また会議録抄本とは、審議される案件
一つごとに部分的に記載したものである。
2 ところで、右の会議録謄本は、議事公開の原則に従つて頒布、公表されてい
る。右にいう「頒布」とは、ある特定の機関あるいは場所を指定して住民一般の閲
覧の用に供することである。
また会議録抄本の交付も、第一審被告議会では議長の裁量によりこれを許容するこ
とになつている。
議事公開の原則は、会議の傍聴を認めるほか、右のような会議録謄本の頒布、抄本
の交付を許容することだけで十分に達せられる。
3 会議録原本の閲覧を許容することが適当でないとすべき実質的な理由は、もし
これが許されると、秘密会における議員の発言が制約され、議員の公正の立場を害
する結果となり、また再製のできない原本の永久保存を期しがたい点にある。さら
に、地方公共団体にも事務能力の限度があることも考慮されるべきである。
なお、抄本の交付を求めるうえでも、会議録を閲覧することが必要であるとの見解
もあるが、議会事務局においては、何々の案件といえば議案の案件は容易に判明す
るし、また提出議案の目録本備え付けてあるから、これを利用する等の方法によ
り、会議録を閲覧するまでもなく、抄本の交付を求める部分を特定することが容易
である。
4 第一審原告の意図は、会議録原本の秘密事項を閲覧することにより、猪苗代町
長、猪苗代町議会議員等特定の個人を摘発、攻撃する資料を得るにあり、いわば私
憤を晴らさんとするものであり、公共の目的のために住民としての権利を行使しよ
うというものではないから、第一審原告の本件会議録閲覧、謄写等の請求は許され
るべきでない。
(証拠関係)(省略)
○ 理由
一、第一審原告の本案前の主張について
第一審被告議会は、その代表者である議長Cにおいて委任した弁護士富岡秀夫をし
て訴訟代理人として本件の第一、二審の訴訟を追行せしめてきたものであること
は、本件記録上明らかである。ところで、およそ地方公共団体の議会を当事者とす
る訴訟において、その議会の代表者として訴訟行為をなす権限を有する議長が、そ
の訴訟追行をある特定の弁護士に委任(受権)するには、とくにこれについてその
議会の議決を必要とするものとは解されないから、右議長Cが右弁護士富岡秀夫に
本件の訴訟行為を委任するにつき仮に第一審原告主張のように第一審被告議会の議
決を経なかつたとしても、それだけで直ちに右訴訟委任をもつて無効なものという
ことはできない。
よつて、第一審原告の前記本案前の主張は理由がない。
二、本案について
1 当裁判所も、第一審原告の本訴請求中、第一審被告が昭和四三年三月二九日付
で第一審原告の第一審被告に対する本件会議録の閲覧請求を拒否した処分の取消し
を求める部分はこれを正当として認容すべく、また右会議録について第一審被告が
第一審原告の抄本交付請求を拒否した処分の取消しを求める部分はこれを失当とし
て棄却し、さらに第一審被告が第一審原告の右会議録の謄写及び謄本交付の各請求
を拒否した処分の取消しを求める部分はこれを却下すべきものと判断する。
その理由は、次の諸点を付加するほか、原判決の理由において説示するところと同
一であるから、右説示をここに引用する。
(一) 第一審被告は、会議録の閲覧が住民の法律上の請求権として認められる必
要がないとする理由の一つとして、第一審被告議会の会議録謄本が一般に頒布公表
されている旨主張する。しかし、右の「頒布公表」として具体的にはいかなる方法
がとられているかという点については何ら主張・立証がない。もつとも、当審にお
ける第一審被告議会代表者本人尋問の結果によると、第一審被告議会では、地方自
治法一二三条一二項に従い猪苗代町長及び福島県知事に対し会議録謄本を一部ずつ
送付して会議の結果を報告する取扱いをしていることが認められるが、しかしこれ
らの町長及び県知事に送付された会議録謄本が町民一般の閲覧に供される制度的保
障が全く存しない以上、右の送付の事実をもつて会議録が一般に頒布公表されてい
るとすることの到底できないことは多言を要しない。そして、第一審被告議会の会
議録(謄本)が制度として実際に頒布公表されていることを認めるに足りる証拠は
他に存しない。
よつて、第一審被告の前記主張は採用できない。
(二) 第一審被告は、会議録の原本及び謄本を区別して、前者は秘密会の議事や
議長において取消しを命じた発言をも含めて記録したものであり、後者はかかる議
事や発言を削除したものであるとの前提に立つたうえ、住民一般に対し右にいう会
議録原本の閲覧が許されることになると、秘密会における議員の発言が制約される
等の不都合が生じ、また永久保存を期しがたいことになるから、住民の会議録閲覧
請求権は認められるべきではない旨主張する。しかし、会議録の原本及び謄本なる
用語が通常右のような趣旨において用いられているかどうかの疑問を暫らく措くと
しても、一般的に住民の有する会議録閲覧請求権も決して無制限な行使が許される
わけではない。すなわち、閲覧の対象の点についていえば、これを会議録の原本に
のみ固執すべきいわれはなく、通常の意義における謄本、すなわち原本の内容を同
一の文字符号をもつて全部完全に謄写した書面を閲覧に供することで足りることは
原判決も指摘するとおりであるのみならず、その会議録の記載のうち、秘密会の議
事中とくに秘密を要するものと議決された部分や、議長が秩序維持等の見地から取
消しを命じた議員の発言に関する部分は閲覧の対象から除外されるものと解すべき
であり、また閲覧の方法の点においても、毀損防止、閲覧秩序の調整、閲覧時間の
制限等のための各種の合理的な規制にも服さざるを得ないものというべきである。
原判決が「特段の事由がない限り」との限定を付したうえ、第一審被告は第一審原
告の会議録閲覧請求を拒み得ないと説示しているのも、右のような趣旨においてこ
れを理解すべきものである。そうだとすると第一審被告の前記主張は、原審及び当
裁判所の是認する住民の会議録閲覧請求権の意義性質を正解しないものであつて、
採用しがたい。
そして、別紙目録記載の本件会議録については、前記のような秘密会の議事中とく
に秘密を要するものと議決された部分等本来閲覧の対象から除外されるべき記載が
含まれていることについては何らその旨の主張立証がないし、また第一審原告の本
件閲覧請求に対して、閲覧時間の制限等前記のような閲覧方法の合理的な規制の必
要上、これを拒否するを相当とする事情の存したことについても何ら主張立証がな
いから、第一審被告が第一審原告の本件会議録閲覧請求を拒否した処分は結局違法
というほかない。
(三) 第一審被告は、会議録の閲覧をまつでもなく、議会事務局において係員に
尋ね、あるいは提出議案の目録を検討することにより、会議録中抄本の交付を求め
るべき部分を特定することが容易である旨主張するが、ときにはかかる方法により
右の特定をすることができる場合があるからといつて、会議録閲覧の必要性がさほ
ど軽減されるものとは考えられないし、まして住民の会議録閲覧請求権を否定する
根拠とするには十分でない。
また、第一審原告に、第一審被告の主張のように猪苗代町長ら特定の個人を摘発、
攻撃する資料を得る意図があつたというだけでは、本件の閲覧請求を拒絶する理由
とするに足りないことは明らかであり、他に第一審原告が閲覧の結果を悪用するで
あろうと認めるに足りる証拠はない。
(四) 第一審原告は、同人が昭和四三年三月二九日第一審被告に対してなした本
件会議録の抄本交付の請求は、右会議録中抄本の交付を求める部分の特定に欠ける
ところがなかつた旨主張するが、第一審原告が右の抄本交付請求にあたり、その主
張のような特定をしたものと認むべき証拠は存しない。
(五) 第一審原告は、第一審被告が訴外A、同Bに対しては会議録の謄写、謄本
の交付を認めながら、ひとり第一審原告に対してこれを認めないのは、公平を欠き
違法である旨主張するが、第一審被告が右主張のように第一審原告以外のものに対
し文字どおり会議録の謄写、謄本の交付を許した事実があることを認めるに足りる
証拠は存しない(成立に争いない甲第一号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立
したものと認められる同第四一号証によるも、右事実を認めるに十分でない。)。
よつて、すでにこの点において、第一審原告の右主張は採用することができない。
六 当審における証拠調の結果によつても、先に引用することとした原判決理由説
示中の認定判断を左右するに足りない。2 第一審原告は、当審において新たな請
求を付加し、第一審被告に対し第一審原告のため本件会議録の謄写をさせ、かつ
謄、抄本の交付を命ずる判決を求めている。しかし、司法機関たる裁判所が行政庁
(第一審被告議会は本来行政庁ではないが、右のような会議録謄写請求、謄、抄本
交付請求拒否の処分に関しては、行政庁の行政処分と同視し得る。)の違法な処分
の全部又は一部の取消しの範囲を超えて、積極的に行政庁に対して作為を命ずるこ
とは、とくに法の許容した場合を除いて許されないことは、三権分立の原則上明ら
かであるから、右請求はすでにこの点において不適法として却下を免れない。
三、よつて、右と同旨の原判決は相当であつて、第一審原、被告の本件各控訴はい
ずれも理由がないので、これらを棄却すべく、また第一審原告の当審における新た
な請求は不適法としてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法
九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松本晃平 石川良雄 小林隆夫)
別紙目録(省略)

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