弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
本伴仮処分申請はこれを却下する。
申請費用は申請人の負担とする。
       事   実
申請人訴訟代理人らは、
一 申請人は被申請人会社との間に雇用契約上の地位を有することを仮に定める。
二 被申請人会社は、申請人に対し昭和四二年一〇月三〇日以降本案判決確定に至
るまで一ヶ月金二万九、一一七円の割合による金員を仮に支払え。
三 申請費用は被申請人会社の負担とする。
との裁判を求め、申請の理由として、
一1 申請人は、昭和三五年四月一日被申請人会社に雇用され、それ以来被申請人
会社武蔵工場に勤務していた。
2(イ) 被申請人会社は、昭和四二年四月二一日から同年七月二〇日までの三ヶ
月間に申請人に対し賃金として、五月分(四月二一日から五月二〇日まで)金三万
二、二三三円、六号分(五月二一日から六月二〇日まで)金二万三、六二二円、七
月分(六月二一日から七月二〇日まで)金三万一、四九七円の金員を支払い、その
平均一ヶ月分の賃金は金二万九、一一七円となる。
従って解雇当時の申請人の賃金は右平均賃金に相当する。
(ロ) もっとも申請人は、懲戒解雇される直前、昭和四二年七月二八日から一週
間、同年一〇月五日から二週間の二度にわたり違法な出勤停止処分を受け、その給
与期間の賃金を不当に減額されているので、申請人の解雇当時における賃金は右出
勤停止処分の行われた給与期間(昭和四二年七月二一日から同年一〇月二〇日ま
で)を除く直近の三ヶ月間である前記昭和四二年四月二一日から同年七月二〇日ま
ての賃金を基準として算定すべきである。
二 被申請人会社は、昭和四二年一〇月三〇日申請人に対し懲戒解雇する旨の意思
表示をした。
三1 被申請人会社は、右懲戒解雇の理由として、申請人は、過去に三回就業規則
違反の行為があり、その都度懲戒処分を受けていたものであるところ、「昭和四二
年九月六日上司の命令に反して当日の残業を拒否し、二週間の出勤停止処分を受け
たが、その後もなお右所為について反省しないので就業規則五一条一項一二号(し
ばしば懲戒訓戒を受けたにもかかわらず、なお悔悟の見込がないとき)に該当する
ものとして懲戒解雇したものであると主張する。
2 しかしながら、
(イ) 被申請人会社は、申請人の右残業拒否について先ず前記の如く出動停止二
週間の懲戒処分をなし、更に昭和四二年九月九日以降申請人に対し全く仕事を与え
ないで事実上の懲戒処分をも加え更に右残業拒否を理由に申請人を懲戒解雇したも
のであるから、本件懲戒解雇は残業拒否という一個の事由につき重複してなされた
懲戒処分であり、条理に反し無効である。
(ロ) 申請人の勤務していた被申請人会社武蔵工場における労働時間は、休憩時
間を除き一日八時間、一週四八時間制であり、被申請人会社は、日立武蔵工場労働
組合と、労働者に対し残業を課しうる旨の労働協約を締結し、かつ、就業規則にお
いて同旨の規定を設けているが、元来時間外労働は四八時間労働の例外であるか
ら、その両者は同視しうるものではなく、時間外労働に関する労働協約も就業規則
も個々の労働者に対しその承諾なしに時間外労働の義務を課することはできず、使
用者は、単に、右協約に基づいて個々の労働者に対し合法的に時間外労働の申込み
をなしうるにとどまるものであつて、権利として残業を命じうるものではない。従
つて、被申請人会社が残業を拒否したことを理由として申請人を懲戒解雇するの
は、公の秩序に反する行為であるから本件懲戒解雇は無効である。
四 上記理由のみならず被申請人会社は、申請人が昭和三五年七月一日被申請人会
社武蔵工場労働組合に加入して以来左記のごとく職場で被申請人会社の意に反する
組合活動をするのを嫌悪して本件懲戒解雇処分に及んだものであるから、本件懲戒
解雇は不当労働行為であつて無効である。
1 申請人は、昭和三六年二月に職場委員に選出され、同年八月までその職務を行
つたものであるが、同年二月頃申請外aが組合執行委員に当選したところ、組合執
行部が職場委員会にaの辞任を提案したので、申請人がこれに反対すると、その翌
日b第二製作課長が申請人に対し執行部案に賛成することを強要し、申請人はこれ
を拒否した。すると、被申請人会社は、同年一〇月申請人の賃金の第二加給部分を
従来の四、二二〇円から四〇五〇円に不当に減額した。
2 申請人が昭和三九年一一月評議員して一時金満額獲得のため組合中央執行部の
交渉団へ送るべく、激励文の署名を休み時間中に集めたところ、被申請人会社は署
名に応じた組合員に対し署名活動に応じないよう圧力をかけた。
3 申請人は、昭和四二年七月二七日組合の定期大会があるので、午後七時半から
残業しよう考え、外出を申し出たが、課長、主任、直接の上長が不在であったた
め、同室の同僚に外出する旨および外出届に上長の職印を押印することを告げて押
印し外出した。残業中の外出については、私用外届を警備員室に届け出ることにな
っているが、外出許可の上長の押印は全く形式的なものであった。申請人は、右組
合定期大会で被申請人会社において解雇された申請外c、d、eの解雇闘争支援等
緊急提案について意見を述べた。被申請人会社は、申請人の右組合大会におけるc
ら三名の解雇闘争支援の発言を嫌悪して、申請人が残業休憩時間中無断で外出した
と称し、懲戒処分として同年七月二八日から七日間の出勤停止処分を行った。
4 申請人は、前記cら三名を守る会に加入し、その中心活動家となつたが、昭和
四二年一〇月五日c及ぴdの地位保全仮処分事件の証人として東京地方裁判所八王
子支部に出廷し、職場の実体、被申請人会社の組合活動に対する干渉について証言
した。被申請人会社は、cら三名の解雇闘争が職場に広まり組合が申請人らの活動
家によつて強化されることを恐れ、かつ、申請人が被申請人会社に不利なことを証
言したことを怒つて申請人を解雇したものである。
五 申請人は、被申請人会社から受ける賃金を唯一の収入として生活しているの
で、本件懲戒解雇によりこの収入を失えば直ちに生活に窮し、回復しがたい損失を
蒙むるおそれがある。
と述べ、被申請人会社の主張に対する答弁として、
1 被申請人の主張1記載の主張事実のうち、申請人が便所に落書したという理由
で被申請会社主張のとおりの懲戒処分を受けたことは認め、その余の主張事実は争
う。
2 同2記載の主張事実のうち、申請人が被申請人会社主張の頃就業時間中同僚に
対し政治的活動について話したこと、そのため被申請人会社主張のとおり懲戒処分
を受けたことは認め、その余の主張事実は争う。
3 同3記載の主張事実のうち、申請人が昭和四二年七月二一日午後五時から約二
時間三〇分にわたつて私用外出したこと、私用外出届に上長の承認印を押捺したこ
と、そのために被申請人会社主張のとおりの懲戒処分を受けたことは認め、その余
の主張事実は争う。
4(イ) 同4の(イ)記載の事実は認める。
(ロ) 同4の(ロ)記載の事実は認める。
(ハ) 同4の(ハ)記載の事実は争う。
(ニ) 同4の(ニ)記載の事実のうち、申請人が昭和四二年九月生産の歩留算出
蓄にあたつて封止前先行試作の歩留の検討をしなかつたこと、九月生産の推定歩留
を七七%と算出したこと、九月六日頃の実績歩留が七三%であることはを認め、そ
の余の主張事実は争う。
(ホ) 同4の(ホ)記載の事実は認める。
(ヘ) 同4の(ヘ)記載の事実のうち、申請人が九月七日に歩留算出を行つたこ
とは認め、その余の主張事実は争う。
(ト) 同4の(ト)記載の事実は争う。
(チ) 同4の(チ)記載の事実のうち、申請人が九月一四日以降数回f課長に対
し反省書と題する書面を提出したこと、f課長が九月二九日申請人の反省所を受領
したことは認め、その余の主張事実は争う。
(リ) 同4の(リ)記載の事実は争う。
(ヌ) 同4の(ヌ)記載の事実は認める。
5(イ) 同5の(イ)記載の事実のうち、申請人が一〇月一九日g議長に呼ば
れ、始末書の提出を求められたこと、その際申請人が就業規則違反の事実はないと
主張し退場を命じられたことは認め、その余の主張は争う。
(ロ) 同5の(ロ)記載の事実のうち、申請人が一〇月二〇日始末書を提出した
こと、その際申請人が退場を命じられたことは認め、その余の主張事実は争う。
(ハ) 同5の(ハ)記載の事実のうち、申請人が被申請人会社主張の日に休業を
命じられ、退場せせらたことは認め、その余主張事実は争う。
(ニ) 同5の(ニ)記載の事実は争う。
(ホ) 同5の(ホ)記載の事実は認める。
と述べた。(立証省略)
 被申請人会社訴訟代理人らは、主文第一、第二項同旨の裁判を求め、申請の理由
に対する答弁として、
一1 申請の理由の1記載の事実は認める。
2(イ) 同一の2の(イ)記載の事実のうち、申請人の昭和四二年五月分の賃金
は金二万七、六〇一円であり、同年六月、七月分の賃金額は申請人主張のとおりで
あることを認める。
(ロ) 同一の2の(ロ)記載の事実のうち、申請人がその主張どおりの出勤停止
処分を受けたことは認め、その余の主張は争う。
二 同二記載の事実は認める。
三1 同三1記載の事実は認める。
2(イ) 同三の2の(イ)記載の主張は争う。
(ロ) 同三の2の(ロ)記載の事実のうち、被申請人会社の労働時間、労働協
約、就業規則に関する主張事実は認め、その余の主張は争う。
四 同四の冒頭記載の主張は争う。
1 同四の1記載の事実は争う。
2 同四の2記載の事実は争う。
3 同四の3記載の事実のうち、申請人がその主張どおりの懲戒処分を受けたこと
は認め、その余の主張事実は争う。
4 同四の4記載の事実のうち、申請人がその主張どおりの日に証人として証言し
たことは認め、その余の主張事実は早う。
五 同五記載の主張は争う。
と述べ、被申請人会社の主張として、
 被申請人会社が申請人を懲戒解雇したのは左記の理由によるものである。
1 申請人は、昭和四〇年三月一七日申請人の所属していた被申請人会社武蔵工場
製造部低周波製作課の課員らが使用する便所の個室内に落書をし、また、それ以前
に同便所で発見された落書の多くが申請人の筆跡と同一であることから、申請人が
書いたものと判断されたので、被申請人会社は、同年三月三一日就業規則五〇条一
項一五号(その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき)、一二号(会
社の施設又は構内において許可なく掲示貼紙し又は放送等を行ったとき)に該当す
るものとして、申請人に対し五日間の出勤停止の懲戒処分を行つた。
2 申請人は、昭和四一年一二月八日午後四時三〇分頃就業時間中であるにもかか
わらず、低周波製作課特性管理係の同僚に対し執拗に申請人自身の政治的活動につ
いて話し、その支持を求め、資金のカンパを強要し、右同僚の業務を妨げたので、
被申請人会社は、昭和四二年一月一〇日就業規則五〇条一項四号(実働時間中許可
なく職場を離れ又は甚だしく自己の職責を怠る等業務怠慢の行為があつたとき)、
五号(正当な理由なく業務を阻害する様な行為があつたとき)に該当するものとし
て、申請人に対し譴責の懲戒処分を行つた。
3 申請人は、昭和四二年七月二一日時間外勤務を命ぜられていたにもかかわら
ず、午後五時から約二時間三〇分にわたつて無断で職場を離れ私用外出したうえ、
右外出に際し、私用外出届に受けるべき上長の承認印を盗印したので、彼申請人会
社は、同年七月二七日就業規則五〇条一項四号(前出)、六号(勤休、外出その他
に関して手続や届出を詐り又は怠ったとき)に該当するものとして申請人に対し七
日間の出勤停止の懲戒処分を行つた。
4(イ) 申請人は、被申請会社武蔵工場において低周波製作課特性管理係に所属
し、ゲルマニウムトランジスター2SB370の特性管理すなわち歩留(着工数に
対する完成、選別された良品の数の割合のこと)の向上や不良対策等の業務を担当
していた。
(ロ) トランジスターの製造は、焼付から完成に至るまで約二〇日という時日を
必要とするので、毎月の生産につき一ケ月間の選別後の歩留を予想し、これを基準
として予算を設け、製造に必要な日数を見込んで着工し、右推定歩留を維持向上す
るよう各工程を管理しながら生産するのであるから、選別後推定歩留の算出を誤る
と生産に支障を生じ、製品原価の増大、出荷遅延を招来し、会社は大きな損害を蒙
むることになる。
(ハ) ゲルマニウムトランジスター2SB370の選別後推定歩留の算出は、右
トランジスター製造の各段階に応じ、焼付先行試作の歩留、封止前先行試作の歩
留、選別後実績歩留の三段階の数値を検討し、これに基づかねばならない。
(ニ) 申請人は、右算出方法を熟知していたにもかかわらず、昭和四二年九月h
主任から右トランジスターの九月分の生産の歩留推定表を作成提出するよう命じら
れた際、怠慢にも封止前先行試作の歩留、選別後実績歩留の検討を怠り、単に焼付
先行試作の歩留のみに基づいて右選別後推定歩留を七七%と算出し、九月四日終業
時刻頃その旨の歩留推定表をh主任に提出した。ところが、h主任は、九月六日午
後四時頃右トランジスターの選別後実績歩留が同年八月末頃から次第に低下して、
同日同時刻頃には七三%になっているのを発見した。これは申請人が算出した推定
歩留を大きく下廻つているため、右推定歩留に基づいて生産していたのでは予定の
生産量を達成できたいおそれが生じた。
(ホ) そこで、h主任は、同日午後四時三〇分頃申請人に対しその怠慢を責め、
残業してでも至急推定歩留を検討するよう命じたところ、申請人は、労働者に残業
する義務はないと言つてこれを拒絶し、h主任と口論のあげく、同日午後五時五〇
分頃「きようは友人と約束があるから、きようはこれ以上仕事をしない。」と言い
捨てて帰つてしまつた。
(ヘ) 申請人は、九月七日になつても命じられた推定歩留の再検討をしなかつた
が、同僚のiの指導援助をうけてやつと推定歩留を七四%と算出したので、その歩
留に対する対策を講ずることができた。
(ト) 申請人は、その後も右の件について何ら反省の色もなく、h主任やf低周
波製作課長に謝罪しようともせず、その勤務態度も積極的でなかつたので、f課長
は、九月一一日申請人を呼び、仕事を積極的に、他人と協調してやるよう一時間に
わたつて説得したが、申請人はこれに反抗的態度を示したので、f課長は申請人に
対し「当分の間仕事はしないでもよいから自分の席で反省してみなさい。」と言渡
した。
(チ) その後、申請人が仕事を要求してきたので、f課長が申請人に対し右の件
について反省したことを示す旨の始末書を提出するよう求めたところ、申請人は、
九月一四日以降数回f課長に反省書と題する書面を提出したが、その内容はいずれ
も、単に「九月六日h主任と残業の問題で口論し、その際感情的になつて、今後残
業はしない、責任のある仕事はできないと言つて帰つた」という事件の経過だけを
記載したものであつて、右の件について反省した態度がみられないので、f課長は
これを受取らなかつた。すると申請人は、九月二九日になつて、九月六日の事件の
経過を記載したものの後に、その件を反省し、残業に協力する、仕事には責任をも
つ等の趣旨を記載した書面を提出したので、f課長は、なお申請人の就業について
の基本的な態度についての反省を求めつつも、一応その反省書を受取つたうえ、さ
らにf課長とg勤労課長が一〇月二日朝申請人を呼び、真実に反省しているのかど
うか確めたところ、申請人は、「就業規則に違反したことはない。反省害は出すつ
もりはなかつたが、仕事をくれないので仕方なく出した。残業は労働者の権利だか
ら好きなときにやればよい。給料が安いからその分だけ仕事をすればよい。」等と
明言し、何ら反省の色を見せなかつた。
(リ) 被申請人会社は、九月一二日慣行に従い申請人の属する武蔵工場労働組合
に申請人の件に関するそれまでの経過を話したところ、組合は独自の立場で調査し
ていたが、被申請人会社が一〇月二日申請人と会つた後組合に対しその後の経過お
よび申請人を処分せざるを得ない事情を説明すると、組合は一〇月三日申請人の処
分はやむを得ないとの態度をとることを明らかにした。
(ヌ) そこで、被申請人会社は、一〇月四日就業規則五〇条一項四号(前出)、
五一項六号(故意又は重大な過失により自己の権限外の行為をなし又は故たく業務
に関する上長の指示に従わなかつたとき)該当するものとして申請人に対し一四日
間の出勤停止の懲戒処分を行つた。
5(イ) 被申請人会社は、右出勤停止処分の申渡しの際、申請人に対し、出動停
止期間中就業の態度について反省すること、および右期間終了後出勤するときは就
業規則第四九条第三号基づき出勤停止処分に伴う始末書を提出するよう申渡してお
いたので、j製造部長、f課長、g勤労課長は、一〇月一九日申請人が出勤してく
るとすぐに申請人を呼んで反省の態度を確めたところ、申請人は「この前f課長に
出した反管書以上の反省はしていない。就業規則に違反したことは何もしていない
から始末書は書かない。処分は不当で納得できない。」等と断言し、始末書の提出
を拒否し、反抗的態度を改めなかつたので、翌日までによく考えて反省するよう申
渡して申請人に退場を命じた。
(ロ) さらに、j部長が一〇月二〇日申請人を呼んだところ申請人は、「就業規
則には違反していないので処分されたことを反省していないが、就労したいので始
末書を書いてきた。」と言つて始末書を提出したが、その内容は単に「九月六日感
情的になつてh主任に対し残業には協力できないと言つたが、f課長から仕事を外
され、また組合からも残業に協力して欲しいと言われたので態度を改めた。」とい
うものであつた。そこで、更に問い質すと、申請人は、「就労したいので残業には
協力するが残業は労働者の権利だからやるかどうかは労働者の自由だ。処分は不当
なので反省していない。今後就業規則を遵守するとは言いたくたい。」等と答え、
全く反省の色が見られないので、よく考えるようにと言つて退場を命じたところ、
申請人は動こうとしないので、やむなく警備員を呼んだら自分で立上つて退場し
た。
(ハ) 申請人の態度は一〇月二三日もやはり同様であつたのでj部長は、就業規
則五二条により懲戒処分決定まで休業を命ずる旨を告げたが、申請入は退去に応じ
ないのでやむなく警備員を呼び、申請人を両脇からかかえて玄関まで連れ出した。
(ニ) 被申請人会社が右の経過を組合に通告したので、組合は一〇月二三日から
一〇月二六日までの間申請人に対し説得を試みたが、申請人は、「被申請人会社に
提出しようとした前述の始末書なら出すが、それ以上は書けない。」とこれを拒否
したので説得できず、組合は、一〇月二七日被申請人会社に対して解雇もやむを得
ないとの態度をとることを明らかにした。
(ホ) そこで、被申請人会社は、一〇月三〇日就業規則五一条一項一二号(前
出)に該当するものとして申請人を懲戒解雇することとし、その旨を申請人に申渡
した。
と述べた。(立証省略)
       理   由
 申請の理由のうち、申請人が昭和三五年四月一日被申請人会社に雇用され、それ
以来被申請人会社武蔵工場に勤務していたこと、被申請人会社が昭和四二年一〇月
三〇日申請人に対し懲戒解雇する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがな
い。また、被申請人会社の主張する解雇理由のうち、
1 申請人が被毛請人会社武蔵工場製造部低周波製作課の課員らが使用する便所の
個室内に落書をしたとの理由で、被申請人会社が昭和四〇年三月三一日申請人に対
し五日間の出勤停止処分を行つたこ2 申請人が昭和四一年一二月八日午後四時三
〇分頃就業時間中同僚に対し政治的活動について話したこと、そのことを理由に被
申請人会社が昭和四二年一月一○日申請人に対し譴責処分を行つたこと、
3 申請人が昭和四二年七月二一日午後五時から約二時間三〇分にわたつて私用外
出する際、私用外出届に上長の承認印を自ら押捺したこと、そのことを理由に被申
請人会社が同年七月二七日申請人に対し七日間の出勤停止処分を行つたこと、
4 解雇理由4の(イ)(ロ)(ホ)(ヌ)記載の事実およぴ申請人が昭和四二年
九月生産のゲルマニウムトランジスター2SB370の推定保留算出にあたつて封
止先行試作の歩留の検討をせず、推定歩留を七七%と算出したこと、同年九月六日
午後四時頃の実績歩留が七三%であること、申請人が同年九月七日に推定歩留の算
出をやり直したこと、申請人が同年九月一四日以降数回f低周波製作課長に反省書
を提出したこと、f課長が同年九月二九日申請人の反省書を受領したこと、
5 解雇理由5の(ハ)(ホ)記載の事実およぴ昭和四二年一〇月一九日g勤労課
長に呼ばれ始末書の提出を求められた際申請人が就業規則違反の事実はないと主張
し退場を命じられたこと、申請人が同年一〇月二〇日始末書を提出したこと、その
際退場を命じられたこと、
についてはいずれも当事者間に争いがない。そこで、被申請人会社の主張する解雇
理由のその余の点について検討するに、申請人本人尋問の結果(第二回)により真
正な成立が認められる疎甲第三号証の一ないし五および疎甲第四号証の一、成立に
争いのない疎乙第一、第四、第六、第七、第九、第一〇、第一二、第二〇号証、そ
の形式および内容から真正に成立したものと認められる疎乙第八、第一五、第一九
号証、その形式および内容から真正に成立したもの認められる疎乙第一八号証、同
号証によりその文字の部分についてはkが作成したものと認められる疎乙第五号
証、証人hの証言により真正な成立が認められる疎乙第一四号証、証人gの証言に
より真正な成立が認められる疎乙第一六号証、証人f(第一、第二回)、h、gの
各証言、申請人本人尋問の結果(第一、第二回)を綜合すると、
1 昭和三九年一二月頃から被申請人会社武蔵工場内の便所個室内部にしばしば落
書が行われようになり、被申請人会社は、そのつどペンキで塗り消していたが、一
向にやむ気配がないので、昭和四〇年一月末頃工場美化に関する通達を出し、全従
業員に落書をすることのないよう注意し、また、各職場における上長からも従業員
に対し工場美化の呼びかけを行つた。
しかるに、申請人は、同年三月一七日朝同工場製造部低周波製作課特性管理係の男
子従業員らが使用する男子便所の個室内において、たまたまその前日書かれた壁の
落書を隠すため画鋲で張つておいたわら半紙に、政府自民党が戦争および軍備の計
画を進めている旨および組合が臨時員の首切りを黙認している旨を十数行にわたつ
て落書した。そこで、被請人会社は、申請人の右の所為が就業規則五〇条一項一二
号(会社の施設又は構内において許可なく掲示貼紙し又は放送等を行つたとき)、
一五号(その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があつたとき)に該当するもの
として、同年三月三一日申請人に対し五日間の出勤停止処分を行つた。
2 申請人は、昭和四一年一二月八日午後四時三〇分頃就業時間中低周波製作課特
性管理係の同僚lが作業しているとき、その隣りの席に坐り、自民党政権を攻撃し
たり、衆議院解散を論じたり、更には共産党に投票するよう依頼したり、政治集会
への参加を勧誘したり、政治運動資金のカンパを執拗に要請したりするので、右l
は、仕事を妨げられて迷惑し、翌日これを上長であるh主任に訴えるに至つた。
そこで、被申請人会社は、申請人の右の所為が就業規則五〇条一項四号(実働時間
中許可なく職場を離れ又は甚だしく自己の職責を怠る等業務怠慢の行為があつたと
き)、五号(正当な理由なく業務を阻害する様な行為があつたとき)に該当するも
のとして、昭和四二年一月一〇日申請人対し譴責処分を行つた。
3 昭和四二年七月二一日午後四時から被申請人会社武蔵工場労働組合の定期大会
が開催され、低周波製作課特性管理係のh主任は、評議員として組合定期大会に出
席するため同日午後三時四五分頃その職場を離れたが、その当場工場のトランジス
ター生産において規定の特性を有しない不良品が続出していたので、職場を離れる
に先立つて、申請人含む部下全員に対し残業して不良対策を講ずるよう命じておい
た。ところが、申請人は、これを無視し、同人が測定すべきトランジスターの試作
品が完成するまでに待時間があるから職場を離れ外出しても差支えないと独断し、
組合定期大会を傍聴しようと考えた。同工場においては、就業時間中に私用外出す
る際は私用外出届に所定事項を記入して上長の許可印を受けたうえこれを届出るこ
とになつていたが、申請人は、この手続を軽視して、上長の許可は形式的なもので
あると思い込み、同日午後五時頃、折から申請人の直接の上長であるh主任が前記
の事情で職場に居らず、またf低周波製作課長も見当たらなかつたので、同僚に断
つて自ら私用外出届の上長許可印欄にh主任の職印を押捺して外出し、組合定期大
会を傍聴したうえ大会終了後同日午後七時三〇分頃職場に戻つた。もつとも、私用
外出に際しての上長の許可については、当時同年五月頃から同工場においてトラン
ジスターの製品不良が増加し、従業員の残業時間が増加している状態であつたた
め、残業時間中の従業員が寮に夕食をとりに帰るような場合には特段の制限もなし
に外出が許されていたが、上長の許可印を部下の従業員が押捺するようなことは許
されていなかつた。そこで、被申請人会社は、申請人の右の所為が就業規則五〇条
一項四号(実働時間中許可なく職場を離れ又は甚だしく自己の職責を怠る等業務怠
慢の行為があつたとき)、六号(勤休、外出その他に関して手続や届出を詐り又は
怠つたとき)に該当するとして、同年七月二七日申請人に対し七日間の出勤停止処
分を行つた。
4(イ) 申請人が低周波製作課特性管理係において担当してい仕事のうちにとラ
ンジスターの選別後推定歩留の算出という作業があり、それはトランジスダー製造
の最終の選別工程を経て得られるべき良品の数と当初の着工数との割合(推定値)
を求めるものであつて、その目的とするところはトランジスターの生産にはその特
性の不安定からくる不良品の発生のおそれが常にあるため、生産に先立つて予め完
成する良品の着工数に対する割合を推定し、それに基づいて必要な着工数を計算し
て予算を組み適正な生産計画を立てるところにある。申請人が担当していたトラン
ジスター2SB370(当時月産三五万本)のごとく月産一〇万本以上のものにつ
いては毎週一回その生産月の推定歩留を算出することになつており、もしこの推定
歩留が予算を組んだ段階で基礎とした推定歩留を下まわるような事態になれば、生
産に支障が生ずるのであるから、何らかの対策を講じなければならない。右選別後
推定歩留の算出方法は、製造工程のうち主要な三段階(焼付工程、封止工程、選別
工程)における歩留の数値すなわち焼付先行試作の歩留、封止先行試作の歩留、選
別後実績歩留(先行試作の歩留とは、製造工程の中間段階で一定数の未完成品を抜
取り、これを特別に短期間で試作品として完成したうえ、その電気的特性を検査し
て着工数に対する良品の割合を求めるものをいう。)を検討して行うのであるが、
右の三段階の歩留数個の算出については、それぞれ担当の従業員がこれを行い、そ
の結果をグラフに打点するという仕組みになつているので、選別後推定歩留の算出
とい作業は、単にグラフに示された三段階の歩留の数値を検討することだけであ
り、他に何らの作業を伴うものではない。
(ロ) 申請人は、昭和三九年二月に低周波製作課特性管理係となつてから引つづ
きトランジスターの特性管理の仕事に携つてきたものであり、前記の選別後推定歩
留の算出方法は無論のことその仕事の重要性についても十二分に知つていたもので
あるところ昭和四二年九月一日朝特性管理係における申請人の直接の上長であるh
主任から同年九月生産のトランジスター2SB370について最終的な歩留の推定
表を作成し、九月四日までに提出するよう指示された(一生産月は前月二一日から
当月二〇日までであるので、最終的な歩留の推定は約一五日間の製造日数を見込ん
で当月五日までに行うようになつている。)のに対し、その算出にあたつて、封止
先行試作の歩留および選別後実績歩留についての検討を怠り、単に焼付先行試作の
歩留にのみ基づいて推定歩留を算出して九月四日午後四時過ぎ頃歩留の推定表を提
出した。申請人の右推定表によれば、選別後推定歩留は七七%であつたが、選別後
実績歩留の方は、同年八月末頃から急に低下し、時には七三%まで下つてきていた
ので、このまま従来どおりの生産を続けていたのでは生産目標を達成することがで
きたい虞れがあつた。
(ハ) h主任は、九月六日午後になつてこの事態を知り、同日午後四時三〇分頃
申請人に対し右推定歩留の算出方法等について詳細に問い質し、申請人の前記のよ
うた怠慢を知つてこれを責め、更に、封止先行試作の歩留およぴ選別後実績歩留を
検討して推定歩留の算出をやり直すよう命じたところ、申請人が既に終業時刻に近
いことから翌日やる旨の返事をしたので、h主任と申請人の間で口論となり、h主
任が残業してでも計算のやり直しをせよと命ずるのに対し、申謂人は、「残業はや
らない。」「こんなに残業の多い仕事では責任が持てない。」「そんな仕事をやる
ほど給料は貰つていない。」「残業は労働者のサーピスだから、やるかやらないか
は労働者が自分できめるのだ。」等と反抗的態度を示して残業に応じない旨を言い
張つたあげく、同日午後五時三〇分頃「友達と約束があるからきようはもうこれ以
上仕事はやれないから帰ります。」と言い出した。そこでh主任も感情的になつて
引き止めようとすると、申講人は、「今後残業は一切しない。」「鎖につながれて
もきようは帰る。」等と怒鳴つて、同日午後五時五〇分頃残業せずにそのまま帰つ
てしまつたが申請人は翌九月七日になつて同僚のiの援助を受けて所定の方法によ
つで推定歩留の算出を行い、同日は午後九時三〇分頃まで残業して推定歩留を七四
%と算出し、h主任に報告した。
(ニ) 右の如く申請人は一日おくれて、残業までして、正式な方法で推定歩留の
算出を行い、形式的には一応h主任の要求どおり推定歩留を算出したことにはなつ
たが、申謂人はその後右事件につきh主任に何らの挨拶もしたかつたので右事件は
同主任からf低周波製作課長に報告され、同課長は九月一一日申請人を呼び、事情
を尋ねたところ、申請人は、「自分にはプライベートなこともあつて残業はできな
い。やる時はやるが今はできない。」「残業は自分が必要だと思つた時に必要に応
じてやる。」等と言い、いかにもf課長に対し議論をふきかけるという態度であ
り、さらに、「今後この仕事はできない。」とまで言い出したので、f課長は、申
請人に対し仕事はやらなくてもよいから考え方の違いを反省するようにと命じ、か
つ、反省したり反省の意思を示す反省書を提出するよう申し渡し、それ以後申請人
に仕事を与えなかつた。
(ホ) 申請人は、その後仕事を与えられないので、自席で本を読んだり雑務の手
伝いをしたりしていたが、九月一三日になつてf課長に仕事をくれるよう要求した
ところf課長は、「仕事がしたければ反省書を提出せよ。」と命じたので申請人
は、九月一四日社内用便箋に反省書と題し、「九月六日の主任との口論については
反省している。今後は残業も必要に応じてやる。」という趣旨を乱雑に書い書面を
提出してきたので、西課長がその真意を質すと、残業は自分が判断して自分が必要
と思えばやるという考え方であつたので、f課長は、「残業は主任に命じられたら
やるものだ。これでは反省していることにならない。」と言つて、もつときちんと
書いてくるよう命じ、その反省書を申請人に返した。その後申請人は九月二七日頃
までの間数回右と同趣旨の反省書をf課長に提出して仕事をくれるよう求めたが、
f課長は、これら反省書の文章のうちに「残護必要に応じてやるものだ。」「組合
に言われたから残業に協力する。」「夜遅くまで働いている労働者に同情して残業
する。」等の文言があることから、申請人の残業に対する基本的な態度が上長の命
令に従つて残業をするという会社側の基本的立場と相容れないものであると判断
し、いずれの反省書も受理せず、「就業の基本的態度を直せ。」と申請人に強く反
省を求め、仕事は与えないままにしておいた。
(ヘ) 申請人は、九月二九日になつて新たな反省書を提出した。それには、九月
六日の事件の経過が簡単に記載され、その後に「私はここにその事を反省致しま
す。これからも残業に協力し、仕事に責任を持ち誠意を尽して行きたいと思いま
す。」との謝罪文か記載されていたが、f課良が申請人の残業に対する考え方を尋
ねたところ、それは従前どおり「残業は命令されてやるものではなく個人の意思で
やる。」というものであつた。
しかしながら、f課長は、その点についてなお申請人に反省を求めつつも、一応右
反省書を受理し、申請人の処置について被申請人会社総務部勤労課に相談した。そ
こで、g勤労課長が一〇月二日朝申請人を呼んで反省の意思を確かめたところ、申
請人は、「残巣は労働者の権利だから必要なときにやればよい。」「私はh主任を
信用していない。」「就業規則には反していない。」「反省書を出すつもりはない
が仕事をくれないので反省書を出した。」等と言い、口論のあげく「g課長はeの
首を切つた悪い奴だ。」等と悪口雑言を浴せたりするのでやむたく申請人を帰し
た。
(ト) 右のようた事情であるので、被申請人会社は、申請人に対し懲戒処分を行
うのもやむを得ないとの結論に達し、一〇月二日申請人の属する武蔵工場労働組合
に対し申請人の件に関するそれまでの経過と申請人を処分せざるを得ない旨を説明
したところ、組合は、「更に独自の立場から事情を調べ、また本人を説得した
い。」と猶予を求めていたが、一〇月三日「組合からの説得効果がないので処分も
やむを得ない。」旨の申入があつた。そこで、被申請人会社は申請人の九月六日の
所為が就業規則五〇条一項四号(実働時間中許可なく職場を離れ又は甚だしく自己
の職責を怠る等業務怠慢の行為があつたとき)、五一条一項六号(故意又は重大な
過失により自己の権限外の行為をなし又は故なく業務に関する上長の指示に従わな
かつたとき)に該当するものとして、申請人に対し一四日間の出勤停止処分を行う
こととし、同年一〇月四日申請人にその旨を言渡した。
5(イ) 被申請人会社は、申請人に右懲戒処分を告知する際に、出勤停止期間中
従来からの就業態度等について十分反省するよう、また出勤停止期間満了後出勤す
るときには始末書を提出するよう(就業規則四九条三号によれぱ、出勤停止処分を
行う場合には始末書の提出を求めることになつている。)申し渡しておいたので、
申請人が右出勤停止期間満了後一〇月一九日出勤して来ると、j製造部長、f課
長、g課長、労務係主任の四名が申請人を呼んで、反省の様子を確かめ始末書の提
出を求めることにしたが、申請人は、「f課長に出した反省書以上には書けな
い。」「就業規則に違反しているとは思つていないから出さない。」「処分は不当
であり認められない。」等と言い、出勤停止処分を非難する態度をとるので、翌日
までに反省するよう申し渡したうえ、退場を命じた(就業規則二一条によれば風紀
秩序を紊し又はそれに準ずるときは事業所から退場させることができる。)。する
と、申請人は、「工場長に会わせなければ退場しない。」等と言つて、ソフアにそ
り返つたまま動こうとしないので、警備員二名を呼んだところ自分で立上り警備員
に付添われて工場正門から退場した。
(ロ) 前記j部長ら四名は、同年一〇月二〇日再び申請人を呼んだところ、申請
人は、「就業規則に違反したと思わないし、処分に対しては反省していないが、就
労したいので始末書を書いてきた。」と言い、足を組んで坐つたまま始末書をテー
ブルの上に放り投げるようにして提出した。右始末書の内容は、九月六日の事件を
簡単に記した文章の後に「数日してf課長より仕事を外され、また組合からも残業
に協力して欲しいと言われて態度を改めました。今後残業に協力し、誠意をもつて
仕事をするように努力致します。」と記載されているが、申請人が就業規則に違反
したことを認め、爾後上長の指示に従つて仕事をするという趣旨の基本的な反省の
態度を示す文章がないので、j部長は、これを受取らず申請人に返し、更に反省の
態度を求めると、申請人は、「今回の処分は不当であると考えている。」と言い出
したので、前日と同じ議論の繰返しとなるのを避け、申請人に退場を命じたが応じ
ないので、警備具を呼び、立上らせようとすると、申請人は、「さわるな。」と言
つて自ら立上り、警備員に付添われて工場正門を出て行つた。
(ハ) 前記j部長ら四名は、同年一〇月二三日また申請人を呼んでその態度を質
したが、申請人の言動は前記一〇月一九日、二〇日の場合と全く変らぬばかりか、
「始末書は書き直す気はないし、裁判になつても争う。自分には組織がついてい
る。首を切るなら切つてもらいたい。日教組の友人に話をしたら、そんな会社には
全国に指令を出して来年度の卒業生は一名も廻さないようにしてやると言つてい
た。」等と挑発的な言葉を吐くので、j部長らももはや申請人の説得を断念し、申
請人に対し懲戒処分決定まで休業を命じ(就業規則五二条によれば、懲戒解雇事由
に該当する行為のあつた場合において職場秩序に悪影響を与える虞れありと思われ
る場合は懲戒処分の決定に至る間休業させることができる。)、連絡があるまで家
で待機するよう申し渡したところ、申請人がこれに応じないので、やむなく警備員
二名を呼び、申請人を両脇からかかえて立上らせ、工場正門から退場させた。
(ニ) 被申請人会社は、同年一〇月二三日労働組合に対し申請人の前記のような
言動に対して何らかの処分を考慮せざるを得ない旨申入れたところ、組合は、「申
請人な説得するから処分を待つて欲しい。」と言うので、被申請人会社もこれを了
承していたが、申請人は、組合の熱心な説得にも応ぜず、「一〇月二〇日に提出し
ようとした始末書しか書けない。」旨を固執したため、組合も一〇月二七日に至り
被申請人会社に対し「申請人を処分するのもやむを得ない。」との回答をした。そ
こで被申請人会社は、前記のごとく既に四回にわたり申請人に懲戒処分を行つたこ
とおよび申請人がなお反抗的、挑発的な態度を固持していること等に鑑みて、今後
従業員としての雇用関係を継続することは不可能であると結論し、就業規則五一条
一項一二号(しばしば懲戒訓戒を受けたにもかかわらずなお悔悟の見込がないと
き)に基づいて申請人を懲戒解雇することにし、同年一〇月三〇日朝申請人に対し
その旨を申し渡した。
との事実を一応認定することができる。右認定に反する疎甲第五、第六号証の記載
の一部、証人m、n(第二回)の各証言、申請人本人尋問の結果(第一、第二回)
の一部はこれを信用することができない。
 右認定事実によれば、結局、申請人は、過去において三回就業規則違反の所為が
あり、そのつど懲戒処分を受けていたものであるところ、昭和四二年九月六日上長
の命令に背いて当日の残業を拒否したので、これに対し二週間の出勤停止処分を課
されたが、右出動停止期間満了後もなお右の所為について反省の態度を見せず、就
業規則により提出を義務づけられた所定の始末書(その内容は、申請人が上長の残
業命令に背いて残業を拒否したという就業規則違反の事実を認め、それについて陳
謝の意思を表明するものでなければならない。)を提出しないばかりか、「残業は
労働者の権利であるから自分が必要と認める時にやればよい。就業規則違反の行為
をしたことはないから処分は不当である。」という反抗的態度を固執していたもの
である。もつとも、申請人は、出勤停止期間満了後一〇月二〇日になつて始末書を
提出したが、その記載自体も必ずしも前記の趣旨に合致するものとは言えず、申請
人の始末書提出の際の言動を併せ考えると、就業規則違反の行為を反省していると
は認められない。ところで申請人は終始「残業は労働者の権利である。」との意見
を固執して被申請人会社に対し反抗的態度に出たのであり、一部の学説において
も、使用者が労働組合との間で労働者に対し時間外労働(残業)を課しうる旨の労
働協約および労働基準法三六条所定の協定を締結し、かつ同旨の就業規則を制定し
た場合においても、使用者は、単に刑事罰を受けることなく労働者に対し合法的に
残業の申込みをなしうるにとどまり、労働者は任意にその申込みを受諾し又は拒む
ことができると諭じられているが、当裁判所は、右見解には賛成しがたく、むし
ろ、労働組合が労働協約によりその組合の傘下にある労働者が残業に従事すること
を許容した以上、その協約は個々の労働者をも拘束し、労働者自身が残業に従事す
ることを受諾したのと同一の効果を生ずる見解に従うものであるところ、成立に争
のない疎甲第四号証、同第一一号証の一、二、証人m、同gの証言によると、当時
被申請人会社と、日立製作所労働組合連合会、日立製作所武蔵工場労働組合を含む
右連合会傘下の単位労働組合とは、労働協約を以つて残業に関する事項を結び、そ
れに基づく単位組台との協定により原則として、会社は従業員に対し、一ヶ月四〇
時間を超えない限度において、実働時間を延長して、残業を命じ得る(例外とし
て、右制限を超えることもできる場合がある)旨を定め、右単位組合員たる申請人
その他の従業員は長期間右定めに従つて、残業に従してきたことが一応認めること
ができるから、正当の事由のない 限り申請人は前記残業を拒否し得ないものであ
るところ、前記認定の事情に照せは残業拒否の正当の理由は存しない。また今後に
おいてもいわれなく残業を拒否できる筋合ではない。もつとも、申請人が右の学説
と同旨の見解をとるとしても、それが単に内心における信条の自由又は言論の自由
として許される範囲においては、無論これを許容すべきであるが、それを超えて現
実の問題として特定の企業の内部にあつてその実現を図るにあつては、労働法上争
議行為として許容される方法によるのは別として、申請人一個人として上長の残業
命令に故なく背いてこれを拒否する手段に出ることは到底許されるものではないか
ら、この点に関する申請人の前記言動は、被申請人会社に対し徒らに反抗的な態度
を誇示するものと評価されても仕方がない。のみならず、前示認定によれば、申請
人は、上長が残業命令を発するきつかけとなつた推定歩留の算出の際の申請人自身
の怠慢ににつても何ら反省の態度が認められないのであるから、申請人の情状は一
層悪いと言わなければならないし、また前記認定の事実によれば被申請人がなした
譴責並びに出勤停止等の懲戒処分はいずれも申請人主張の就業規則遼反の行為に対
する妥当な処分行為と認めることができる。従つて、申講人が一四日間の出勤停止
期間満了後に被申請人会社においてとつた言動は、申請人が爾後上長の命令に服し
て業務に従事するかどうかについて危惧を抱かせるに十分なほど反抗的なものであ
つたと判断されるから、申請人には、被申請人の主張する就業規則に定める懲戒解
雇事由に該当する行為の存することが一応認めることができる。
 ところで、申請人は、「申請人の残業拒否という一個の事由に対して出勤停止処
分、懲戒解雇処分のほか申請人に全く仕事を与えないという事実上の懲戒処分まで
加えられているので、一個の事由につき重複して懲戒処分を行ったことになる。」
あるいは「使用者は労働者に対し残業命令をする権利はないのだから、申請人の残
業拒否に対して懲戒処分を行うのは違法である。」との理由で本件懲戒解雇の効力
を争うので、これを検討するに、後者の主張についての判断は前段説示のとおりで
あり、前者については、前示認定によれば、申請人に対して行われた一四日間の出
勤停止処分は、申請人が上長の残業命令に背いてこれを拒否したことに対して行わ
れたものであり、懲戒解雇は、申請人が右出勤停止処分を受けた後所定の始末書を
提出しないばかりか徒らに反抗的な態度を誇示して、自己の就業規則違反の所為に
ついて反省しなかつたことと申請人のそれまでの懲戒歴とを考え併せて行われたも
のであるから、右出勤停止処分と懲戒解雇とは一応別個の事由について行われたも
のと考えるべきであり、申請人の主張は採用できないし、また、申請人に対し仕事
を与えないという事実上の懲戒処分がなされたとの主張については、前示認定によ
れば、申請人は昭和四二年九月一一日から本件懲戒解雇に至るまで全く仕事を与え
られなかつたものであるが、仮に、申請人の賃金が全部あるいはその相当部分が歩
合給制に基づくなど、仕事を与えられないことが直ちに賃金の減少を来す事情にあ
るため、かかる措置が実質上懲戒処分と看做しうるよう場合であればともかく、そ
のような主張も疎明もない本件においてはこれを懲戒処分と認めることはできない
から、これと本件懲戒解雇とが重複する懲戒処分にあたるかどうかを検討する余地
もない。
 また、申請人は、「被申請人会社は、申請人の職場における組合活動を嫌悪して
本件懲戒解雇に及んだものである。」として本件懲戒解雇は不当労働行為に該当
し、無効である主張をするけれども、申請人本人尋問の結果(第一、第二回)によ
り真正な成立を認めうる疎甲第五、第六号証、成立に争いのない疎甲第七、第一五
号証、証人nの証言(第二回)により真正な成立を認めうる疎甲第一四号証の一、
二、疎甲第二三、第二四号証、証人nの証言(第一、第二回)、申請人本人尋問の
結果(第一、第二回)によれば、所論のごとく申請人が被申請人会社武蔵工場労働
組合において評議員あるいは代議員として活動していたこと、申請人が同工場にお
いて以前解雇された申請外c、d、eの三名を守る会に参加して活動し、右cおよ
ぴdの地位保全仮処分事件において証人として出廷し、被申請人会社に不利な証言
をしたことを一応認めることができるが、被申請人会社がこれを嫌悪して他の事由
に藉口して申請人を解雇したとの主張は、これを疎明するに足る資料がないばかり
か、むしろ前示認定の申請人が懲戒解雇されるに至る経緯に鑑みれば、前記のごと
く申請人には懲戒解雇に処せられてもやむを得ない程度の就業規則違反の所為があ
つたと認められることから、申請人会社は申請人を組合活動家であるが故に解雇し
たのではないと判断できる。
 そうすると、被申請人会社が申請人の所為を就業規則に定める懲戒解雇事由(し
ばしば懲戒訓戒を受けたにも拘らずなお悔悟の見込がないとき)に該当するとし
て、申請人との雇用契約を継続することが不可能であると判断して本件解雇におよ
んだのは正当な処分であつて、何ら違法な点はない。従つて、その余の申請人の主
張事実について判断するまでもなく申請人の本件仮処分申請は理由がないこととな
るので、これを却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法八九条を適
用して主文のとおり判決する。

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