弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は,原告に対し,20万円及びこれに対する平成19年5月13日
から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2原告のそのほかの請求をいずれも棄却する。
,,。3訴訟費用はその10分の9を原告の10分の1を被告の負担とする
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
(第1事件)
被告は,原告に対し,140万円及びこれに対する平成19年5月13
日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金
員を支払え。
(第2事件)
被告は,原告に対し,60万円及び平成19年5月13日(訴状送達日
の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2事案の概要
,,,,1第1事件は被告が勝手に原告の名義で郵便局に転居届を提出して
自分宛ての郵便物を受け取り続けたとして,原告が,被告に対し,不法行
為に基づいて,慰謝料の支払を求めた事案である。
第2事件は,被告が,勝手に原告の名義で保険契約を締結したことによ
り,精神的な苦痛を被ったとして,原告が,被告に対し,不法行為に基づ
いて,慰謝料の支払を求めた事案である。
2前提事実(末尾に認定に用いた証拠などを掲げた)。
(1)原告は,平成10年3月ころから平成17年2月10日ころまで,
仙台市e区f字gh−i(以下「本件旧住所」という)で,当時の妻であ。
,,,,,るCCの父である被告Cの母であるDCと原告の子であるEF
Gと同居していた。
(2)原告は,平成17年2月10日,j郵便局に対し,本件旧住所から仙
台市a区kl−mn(以下「本件新住所1」という)に転居したので,。
同月11日から,自分宛ての郵便物を本件新住所1に転送することを希
望する転居届(以下「別件転居届1」という)を提出した。。
(第1事件の甲3)
(3)原告は,平成17年8月22日,a郵便局に対し,本件新住所1から
(「」。),仙台市a区bc番地d以下本件新住所2というに転居したので
同月29日から,自分宛ての郵便物を本件新住所2に転送することを希
望する転居届(以下「別件転居届2」という)を提出した。。
(第1事件の甲9)
(4)被告は,平成18年5月16日,j郵便局に対し,原告が本件旧住所
に転居したので,原告宛ての郵便物を本件旧住所に転送することを希望
する転居届(以下「本件転居届」という)を提出した。。
しかし,原告は,このとき,本件旧住所に転居していない。この転居
届は,被告が勝手に原告の名義を使って提出したものであった。
()第1事件の甲3
(5)第一生命保険相互会社は,平成6年1月1日,契約者を原告,被保
険者をEとする保険契約(以下「本件保険契約1」という)を締結し。
たものと取り扱った。また,平成10年4月1日には,契約者を原告,
被保険者をFとする保険契約(以下「本件保険契約2」といい,本件保
険契約1とまとめて「本件各保険契約」という)を締結したものと取。
り扱った。
これら契約は,被告が原告の名義を使って締結の手続をしていた。第
一生命保険相互会社は,本件各保険契約を締結したものと取り扱うに先
立って,原告の意思確認をしていない。
(第2事件の甲4)
3争点
被告は原告に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うか。
(1)第1事件
(原告の主張)
原告は,被告が勝手に本件転居届を提出して,自分宛ての郵便物を受
け取り続けたことで,精神的な苦痛を被った。この苦痛を慰謝するため
の慰謝料は140万円を下回らない。
被告には,不法行為に基づき,この慰謝料を支払う義務がある。
(被告の主張)
被告は,平成18年5月ころ,第三者から,電話で「原告宛てに郵,
便物を郵送しても返送されるので,対応してもらいたい」と相談を受。
けた。そこで,Cを通じて,原告に連絡を取ろうとしたが,連絡が付か
なかったので,深い考えなしに本件転居届を提出し,原告宛ての郵便物
を郵送してもらっていた。その後も,原告と連絡が付かなかったので,
これらの郵便物を手元に置いていた。
転居届に基づく郵便物の転送期間は1年であるから,宛て所を本件旧
住所とする原告宛ての郵便物は,別件転居届1を提出して1年が経過し
た平成18年3月以降は,差出人に返送される。したがって,原告がこ
,,れらの郵便物を受け取れなくなったのは転送期間が過ぎたためであり
本件転居届が提出されたからではない。
(2)第2事件
(原告の主張)
原告は,本件各保険契約を締結していない。これらの契約は,被告が
勝手に原告の名義を使って締結したものである。原告がこれらの契約を
追認したこともない。
したがって,これらの契約は無効であり,被告がこれらの契約を締結
したことは,民法,保険業法に違反する。
原告は,自分を契約者とする本件各保険契約が締結されたことになっ
ていることで,旧姓で記載された契約証書などの書類の受取りや,解決
策を見出すために時間・労力を費やすことを余儀なくされ,精神的な苦
。。痛を被ったこの苦痛を慰謝するための慰謝料は60万円を下回らない
被告には,不法行為に基づき,この慰謝料を支払う義務がある。
(被告の主張)
被告は,自分の孫であるE,Fの将来の学資金に充てるため,本件各
,。,保険契約を締結し保険料の支払をしていた原告の名義を使ったのは
契約者を自分ではなく,E,Fの父である原告にした方が被告の家族感
情からみて自然だったからにすぎない。このことで,被告が利得を図っ
たり,原告に金銭的な損失を及ぼすものではない。
また,原告は,本件各保険契約締結の直後に,Cを通じて,これらの
契約を締結したことを説明され,これらの契約を追認している。被告が
原告の名義を使って本件各保険契約を締結したことの違法性は阻却され
た。
被告には,不法行為に基づき,慰謝料を支払う義務はない。
第3裁判所の判断
1第1事件について
(1)認定事実
,(,,,)前提事実関係証拠第1事件の甲4証人C原告本人被告本人
及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
ア原告は,平成17年2月10日ころ,本件旧住所から本件新住所1
に転居して,C,被告,D,E,F,Gと別居した。
イ原告とCは,平成17年10月13日,仙台家庭裁判所で,離婚調
停を成立させた。この調停調書には,この当時の原告の住所(本件新
住所2)が記載されている。
ウ被告は,平成18年5月ころ,第三者から,電話で「原告宛てに,
郵便物を郵送しても返送されるので,対応してもらいたい」と相談。
を受けた。そこで,Cに,原告への連絡を頼んだ。
Cは,原告の携帯電話に電話をかけたが,原告が電話に出なかった
ため,連絡を取ることができなかった。
エ被告は,Cから連絡を取れないと聞いて,とりあえず自宅で保管し
ようと考え,本件転居届を提出した。
被告は,このとき,原告がHに勤めていることを知っていたくらい
で,どこの部局に勤めているかとか,原告の住所,電話番号は知らな
かった。離婚調停の調書で原告の住所を確認したり,自分で原告の携
帯電話に電話をかけていない。
オ被告は,本件転居届を提出した後,原告宛ての郵便物を郵送しても
らった。これらの郵便物を原告に渡していない。原告に連絡を取って
もいない。
カ原告は,本件旧住所から本件新住所1,本件新住所2に転居した都
度,自分が知り得る限りの相手方に転居通知をしていた。
(2)検討
ア原告は「被告が勝手に本件転居届を提出して,自分宛ての郵便物,
を受け取り続けたこと」を理由として,被告に対し,慰謝料の支払を
請求している。
イ被告が勝手に原告の名義を使って本件転居届を提出し,原告宛ての
郵便物を郵送してもらったことは争いがない。
郵便物はプライバシーに関わるものであり,差し出された郵便物を
どうする(そのまま返送させる,本件旧住所に郵送してもらう,本件
新住所2に転送してもらう)かは,原告の意向で決めることである。
第三者から,電話で「原告宛てに郵便物を郵送しても返送されるの,
で,対応してもらいたい」と相談を受け,原告と被告がかつては同。
居の家族であったからといって,原告の意向を確認しないで,原告宛
ての郵便物を受け取ることが許される理由にはならない(そのまま,
返送させれば済むことである。本件全証拠を検討しても,原告の意。)
向を確認しないで,原告宛ての郵便物を受け取ることが許される事情
。,,,は見当たらないところが被告はCに連絡を試みてさせているが
原告の意向を確認しないで,本件転居届の提出をしている。同居して
いるCのもとには原告の住所が記載された調停調書があり,Cは原告
の携帯電話番号を知っていた。被告が,原告の意向を確認することが
できなかった事情は見当たらない。
仮に,原告の意向を確認しないで,原告宛ての郵便物を受け取るこ
とが許される事情があったとしても,受け取った郵便物をどうするか
原告に確認すべきであった。ところが,被告は,本件転居届を提出し
た後も,原告の意向を確認しないまま,郵便物を手元に置き続けた。
ウしたがって,被告が勝手に本件転居届を提出して,原告宛ての郵便
物を受け取り続けたことは,原告に対する不法行為に当たる。被告に
は,このことで原告が被った損害を賠償する責任がある。
関係証拠(証人C,被告本人,原告本人)及び弁論の全趣旨による
と,原告がこのことで精神的な苦痛を被ったと認められ,原告が転居
通知をしており,本件旧住所に郵送された郵便物は,ダイレクトメー
ルなど原告にとってそれほど重要ではないものが中心だったとうかが
われることや,被告がCを通じて原告の意向を確認しようとしていた
ことや,被告に郵便物を悪用する意図まではうがわれないことなど,
本件でうかがれる事情を総合すると,その苦痛を慰謝するのに足りる
慰謝料は20万円とみるのが相当である。
2第2事件について
(1)認定事実
前提事実,関係証拠(第1事件の乙2の1,乙3,第2事件の甲7,
証人C,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の
事実が認められる。
ア被告は,自分の孫であるE,Fの将来の学資金に充てるため,本件
各保険契約を締結した。原告の名義を使ったのは,契約者を自分では
なく,E,Fの父である原告にした方が被告の家族感情からみて自然
だったからである。
本件各保険契約の保険料を支払っていたのは被告だった。
イ被告は,本件各保険契約を締結するのに先だって,原告の意向を確
認していない。
ウCは,これらの契約を締結した直後,被告から,原告の名義を使っ
,。てこれらの契約を締結したことを説明されそのことを原告に伝えた
このとき,原告は,これらの契約を締結したことに不満を述べたり,
反発する様子をみせなかった。
エ本件旧住所には,第一生命保険相互会社から,保険料控除に必要な
書類を含めて,本件各保険契約に関する書類が郵送されていた。これ
ら書類は原告が受け取ることもあった。また,Cは,毎年,本件各保
険契約に関するものを含めて保険料控除に必要な書類をまとめて,原
告に渡していた。このとき,原告は,これらの契約を締結したことに
初めて気づいた様子をみせたり,このことに不満を述べたり,反発す
る様子をみせなかった。
オ原告は,平成12年8月17日ころ,本件保険契約1について,名
義変更請求書兼改印届,保険証券再発行請求書を作成し,第一生命保
険相互会社に提出した。このときも,原告は,これらの契約を締結し
,,たことに初めて気づいた様子をみせたりこのことに不満を述べたり
反発する様子をみせなかった。
カ原告は,平成18年5月2日ころ,第一生命保険相互会社に対し,
本件各保険契約を締結したことがないのに,締結されたことになって
いるので,調査してもらいたいと申し出た。それまで,原告はこのよ
うな申出をしていない。
キ第一生命保険相互会社は,平成19年2月19日,本件各保険契約
を解消する取扱いをした。
(2)検討
ア原告は「被告が勝手に原告の名義で本件各保険契約を締結したこ,
と」を理由として,被告に対し,慰謝料の支払を請求している。
イしかし,原告は,本件各保険契約が締結された直後から,Cの説明
や第一生命保険相互会社からの郵便物で,被告が原告の名義でこれら
の契約を締結したことを知っていたと認められる。第一生命保険相互
会社に対し,本件各保険契約を締結したことがないと申し出たのは平
成18年5月2日ころになってのことである。
ところが,それまでの間,被告が原告の名義でこれらの契約を締結
したことについて,不満を述べたり,反発する様子をみせていない。
本件保険契約1については,名義変更請求書兼改印届,保険証券再発
行請求書を作成している。
このような経過をみると,原告は,被告が原告の名義でこれらの契
約を締結したことについて,事後的に承諾したとみるのが相当である
(被告は,契約者を自分ではなく,E,Fの父である原告にした方が
被告の家族感情からみて自然だと考えて,原告の名義を使い,本件各
保険契約の保険料を支払っていた。契約の効果が誰に帰属するかは別
として,このような理由から,保険料の負担者が,自分の近親者を契
約者として保険契約を締結することが取り立てて珍しいことではな
い。このことからしても,このようにみるのが相当である。。)
第一生命保険相互会社は,前記認定のとおり,これらの契約を解消
している。しかし,それは,第一生命保険相互会社が,本件各保険契
約を締結したものと取り扱うに先立って,原告の意思確認していなか
ったし,本件保険契約1については,名義変更請求書兼改印届,保険
証券再発行請求書の提出を受けたほかは,前記の経過を把握していな
かったため,承諾したとまでは確認できなかったことによると推測さ
れる。これらの契約が解消されたからといって,この認定を覆すほど
の事情とまではみることはできない。
ウそうすると,被告は,本件各保険契約を締結するのに先だって,原
,,告の意向を確認していないがその後に原告の承諾を受けているから
これらの契約を締結したことが原告の権利や法律上保護された利益を
侵害したものとは認められない。そのほかの要件を検討するまでもな
く,原告は被告に対して損害の賠償を請求できない。
第4結論
以上によれば,原告の請求は,第1事件での請求のうち20万円及び弁
済期が経過した後である平成19年5月13日から支払済みまで民法で定
める年5パーセントの割合による遅延損害金を求める部分は理由があるか
ら認容し,そのほかの部分と第2事件での請求は理由がないからいずれも
棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法64条本文,61
条,仮執行の宣言について同法259条1項を適用して(相当ではないか
ら訴訟費用の負担を求める部分には付さない,主文のとおり判決する。。)
仙台地方裁判所第1民事部
裁判官近藤幸康

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