弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人猪俣浩三、同伊藤和夫の上告理由第一点について。
 弁護士法二五条一号において、弁護士は相手方の協議を受けて賛助し、又はその
依頼を承諾した事件については、その職務を行つてはならないと規定している所以
のものは、弁護士がかかる事件につき弁護士としての職務を行うことは、さきに当
該弁護士を信頼して協議又は依頼をした相手方の信頼を裏切ることになり、そして、
このような行為は弁護士の品位を失墜せしめるものであるから、かかる事件につい
ては弁護士の職務を行うことを禁止したものと解せられる。従つて、弁護士が右禁
止規定に違反して職務を行つたときは、同法所定の懲戒に服すべきはもちろんであ
るが(同法五六条参照)、かかる事件につき当該弁護士のした訴訟行為の効力につ
いては、同法又は訴訟法上直接の規定がないので、同条の立法目的に照して解釈に
より、これを決定しなければならない。
 思うに、前記法条は弁護士の品位の保持と当事者の保護とを目的とするものであ
ることは前述のとおりであるから、弁護士の遵守すべき職務規定に違背した弁護士
をして懲戒に服せしめることは、固より当然であるが、単にこれを懲戒の原因とす
るに止め、その訴訟行為の効力には何らの影響を及ぼさず、完全に有効なものとす
ることは、同条立法の目的の一である相手方たる一方の当事者の保護に欠くるもの
と言わなければならない。従つて、同条違反の訴訟行為については、相手方たる当
事者は、これに異議を述べ、裁判所に対しその行為の排除を求めることができるも
のと解するのが相当である。
 しかし、他面相手方たる当事者において、これに同意し又はその違背を知り若し
くは知り得べかりしにかかわらず、何ら異議を述べない場合には、最早かかる当事
者を保護する必要はなく、却つて当該訴訟行為を無効とすることは訴訟手続の安定
と訴訟経済を著しく害することになるのみならず、当該弁護士を信頼して、これに
訴訟行為を委任した他の一方の当事者をして不測の損害を蒙らしめる結果となる。
従つて、相手方たる当事者が弁護士に前記禁止規定違反のあることを知り又は知り
得べかりしにかかわらず何ら異議を述べることなく訴訟手続を進行せしめ、第二審
の口頭弁論を終結せしめたときは、当該訴訟行為は完全にその効力を生じ、弁護士
法の禁止規定に違反することを理由として、その無効を主張することは許されない
ものと解するのが相当である。
 本件において、被上告人の第一、二審の訴訟代理人である弁護士Dの訴訟行為が
弁護士法二五条一号に違反するものとしても、記録によれば、D弁護士の被上告人
の訴訟代理人としての訴訟行為について、上告人から異議を述べた形跡は全然なく、
しかも、上告人本人はD弁護士の右弁護士法の禁止規定に違背する事実の存在につ
いて、これを熟知しているものと認められるから、弁護士Dの訴訟行為が弁護士法
二五条一号に違反し無効であるとの論旨は到底採るを得ない。
 同第二、三点について。
 所論は、原審が適法にした証拠の取捨判断、事実認定を非難するものであつて、
採るを得ない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官奥野健一、同山田作之助、
同横田正俊の意見および裁判官石坂修一の反対意見あるほか、全裁判官一致の意見
により、主文のとおり判決する。
 裁判官奥野健一の意見は次のとおりである。
 上告代理人猪俣浩三、同伊藤和夫の上告理由第一点について。
 論旨は被上告人の第一、二審の訴訟代理人である弁護士Dの訴訟行為は弁護士法
二五条一号に違反し無効であるという。
 弁護士法二五条一号は、弁護士が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を
承諾した事件について弁護士の職務を行うことは、相手方の信頼を裏切ることであ
り、かかる行為は弁護士の品位を失墜せしめるものであるから、かかる事件につい
て弁護士の職務を行うことを禁止したものと解せられる。かかる禁止規定に違反し
た弁護士については、同法五六条により懲戒に服せしむべきは無論であるが、かか
る事件につき当該弁護士のした訴訟行為の効力については同法又は訴訟法上直接の
規定がないので、同条の立法目的に照し、これを定めなければならない。
 思うに、民訴七九条によれば、法令によつて裁判上の行為をなすことを得る代理
人のほか、地方裁判所以上では弁護士でなければ訴訟代理人となることができない
ところ、弁護士法二五条により当該事件につき職務の執行を禁止されている弁護士
は、当該事件については適法に訴訟代理人となる資格を欠くものであるから、訴訟
代理人としてなした同人の訴訟行為は無効であるといわねばならない。
 しかし、右規定は前記の如く当該事件につき弁護士の職務を行わせることは、さ
きにその弁護士を信頼して事件の協議又は依頼をなした相手方たる当事者の信頼を
裏切ることになるから、その職務の執行を禁止するというのがその立法の理由であ
る。そして相手方たる当事者は、さきに自ら右弁護士に対し事件の協議又は依頼を
した者であるから、当然右弁護士の訴訟代理の違法であることを知つているわけで
あり、それにもかかわらず何ら異議を述べることなく訴訟手続を進行せしめ、第二
審の口頭弁論を終結せしめた場合は、相手方たる当事者は黙示的にその違法を許容
したものと認めるのが相当である。従つて、かかる場合は、当該弁護士の訴訟代理
に関する違法は補正されたものと解すべきであり、相手方たる当事者において当該
弁護士の訴訟代理人としての訴訟行為が前記弁護士法の禁止規定に反し無効である
として上告をすることは、民訴三九五条一項四号、二項の類推により、許されない
ものと解するのが相当である。
 前記弁護士法の禁止規定の効力を一種の弁論能力の制限と解し、裁判所がこれを
排除して始めて、その訴訟行為を無視し得るに過ぎず、裁判所がこれを排除しない
限り、その効力は妨げられることなく、当事者の異議は右裁判所の排除措置の職権
発動を促す意味を持つに過ぎないと解することは正当でない。けだし、当該弁護士
と雖も、訴訟手続に関して現実に訴訟行為をするに必要な能力、すなわち演述能力
を欠くものではないからである。
 また、弁護士法二五条は弁護士の職務規律を定めたものであり、その違反は単に
懲戒の原因となるに止り、当該弁護士のした行為の訴訟法上の効力になんらの影響
を及ぼすものでないとの説も採り難い。けだし、例えば同条四号に違反して、裁判
官、検察官として職務上取り扱つた事件について、弁護士として職務を行う場合に
は、種々の弊害が考えられるのであるが、かかる場合にも裁判所はその行為の排除
を為すこともできず、その訴訟行為を完全に有効なものとして、是認しなければな
らないとすることは著しく不当であり、裁判官の除斥原因を定めた民訴法三五条五
号の規定や上告理由及び再審事由を定めた民訴法三九五条一項二号、四二〇条一項
二号の規定の趣旨とも矛盾することになるからであり、そして弁護士法二五条本文
の「その職務を行つてはならない」という禁止規定違反の訴訟法上の効力につき、
同条四号違反の場合と他の各号違反の場合とで、解釈を二、三にすべき文理上の理
由もないからである。
 本件において記録を精査するも、D弁護士の被上告代理人としての訴訟行為につ
き、上告人から異議を述べた形跡は全然ない。従つて所論は採るを得ない。
 裁判官山田作之助の意見は次のとおりである。
 上告代理人猪俣浩三、同伊藤和夫の上告理由第一点について。
 弁護士法二五条は、弁護士は相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を受託
した事件(同条第一号)については、その職務を行つてはならない旨を規定し、こ
れらの事件について、その弁護士は、適法なる訴訟代理人となる資格がないことを
明示しているのである(私法上の代理関係についても同様と解する)。従つて、同
条の禁止に違反して為されたる訴訟行為は、代理資格のないものの為した訴訟行為
として、当然違法無効であるといわなくてはならない。けだし、弁護士法二五条の
法意は、弁護士は、司法、特に訴訟運用の面において、裁判所の下に、その一翼を
負担しているもので、その職務は、公益的性質を有し、その任務が厳正公正に行わ
れることが要請せられているのである。いま、弁護士が、甲より協議を受けて賛助
し、又はその依頼を承諾している事件につき、甲の反対の立場にある乙より、さら
にその事件を頼まれたる場合、これを引受け乙のために訴訟行為を為すが如きは、
甲に対する背任背信の所為であるばかりでなく、かかる背信的行為が、弁護士によ
つてなされること自体が、一般弁護士全体に対する世人の信頼、信用を失わしめ、
引いては、司法が公正に運営されることに対する世人の信頼を妨げる結果を生ぜし
める一因となるおそれなしとしないからである。であるから、特に、これら弁護士
の背信行為を禁止し、その禁をおかして為されたる訴訟行為は、当然無効としたる
ものと解すべきである。かく解することにより、前示のような背徳的弁護士に善意
で事件を依頼したものが、その弁護士の為した訴訟行為がすべて無効となる結果を
生じ、不測の損害を蒙むるべきことも考えられるが、それは、その弁護士につき損
害賠償の請求をするとか、他にその損害填補の途を請ずべきであり、このことのた
め、その弁護士の為したる訴訟行為が違法無効であるとすることを変ずることは出
来ない。
 しかしながら、翻つて思うに、本来、訴訟当事者は、いかなる場合においても、
司法が公正にかつ適法に運用されることに、協力する責務あることはいうまでもな
いのであるから、本件のような場合、すなわち、当事者の一方において、相手方代
理弁護士に弁護士法二五条違反の事実あることを知るに拘らず、あえてこの点を裁
判所に申出でるのでもなく、第一審はおろか、第二審口頭弁論終結に至るまで、こ
の事実を秘し、相手方弁護士をして自由にその訴訟行為を為すことを許容しておき
ながら、第二審を終結したる後において、その二審判決の結果が面白くないとして
上告をなし、しかも、その不服の理由の一として上告審に至つて、はじめて、相手
方弁護士に弁護士法二五条違反の事実あることを開示し、因つて、その代理権を否
認し、同人の為した訴訟行為を無効なりとして、原審判決の破棄を求むるが如きは、
訴訟法上許されざるものと解すべきである。なんとならば、かくの如き申立は、前
示訴訟当事者に課せられている訴訟が公正適法に遂行されることに協力すべき責任
に著しく違反する行為であるばかりでなく、信義誠実の原則、殊に禁反言の法理に
照し、裁判所としては到底採用することが出来ないからである。しからば、その弁
護士の為したる訴訟行為は、当事者においては、もはやその効力を争うことを許さ
れざることに帰したるものとして取扱わるべきものであるから、その違法無効を理
由として為されたる本件上告は棄却さるべきものである。
 裁判官横田正俊の意見は次のとおりである。
 上告代理人猪俣浩三、同伊藤和夫の上告理由第一点について。
 所論の要点は、弁護士法二五条一号に違反した訴訟行為は無効であるというにあ
るが、その適否を判断するには、同条所定のその他の場合、ことに右一号と同種又
は類似の関係にある同条二号又は三号違反した行為の効力の問題を併せ考えること
が相当であると考える。
 (一)思うに、弁護士法二五条(以下、法二五条という。)が、弁護士は、(一)
相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件(同条一号)、(二)
相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認め
られるもの(同条二号)、(三)受任している事件の相手方からの依頼による他の
事件(同条三号)については、その職務を行つてはならない旨を規定しているのは、
基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とし、その使命に基づき、誠
実にその職務を行い、社会秩序の維持等に努力すべき弁護士の職務の公共性にかん
がみ、弁護士たるものが前示のごとき事件についてその職務を行うことは、その品
位と信用を失墜するとともに、弁護士がさきに協議を受け又は事件の依頼を承諾し
た者(以下、相手方という。)の利益を害するおそれがあるからであると解される。
もつとも、法二五条が職務の執行を禁止している理由を、右各号について更にし細
に検討すれば、右三号については、それが自己が受任している事件とは異なる他の
事件に関するものであることろからみて、相手方、すなわち、すでに受任している
事件の依頼者の保護ということに重点がおかれているのに対し、右一号及び二号に
ついては、相手方の保護もさることながら、協議をうけ又は依頼を承諾した事件そ
のものについて、相手方と反対の立場にある者のために職務を行うがごときこと(
俗なことばで言えば、敵側にまわること)は、弁護士の品位、信用の保持上許し難
いということに重点がおかれていることが看取されるのである。すなわち、法二五
条は、三号の事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合には、弁
護士はその職務を行うことをうる旨を規定しているが(同条但書)、同条の他の各
号の事件については、同様の規定をなんら設けていないのであり、したがつて、一
号又は二号の事件については、相手方の同意がある場合においても、弁護士たる者
は、その品位、信用を保持するため、その職務を行つてはならないというのが、法
二五条の法意であると解されるのである。(このことは、法二五条四号又は五号の
事件についてはさらに顕著であり、弁護士は、たとえば、裁判官又は仲裁人として
取り扱つた事件については、右事件の当事者の一方の同意がある場合においても、
他の一方のためにその職務を行つてはならないと解すべきことは、何人も異論のな
いところであろう。)
 (二)しかしながら、弁護士が法二五条に違反してした行為の効力については、
他に別段の規定がないので、法二五条の趣旨を探究してこれを判定するほかはない。
私は、以下述べる理由により、法二五条は弁護士がその職務を行うについて遵守す
べき職務規律を定めたものであり、その違反は、単に懲戒の原因(法五六条)とな
るに止まり、弁護士がした行為の訴訟法上の効力にはなんらの影響を及ぼすもので
はないと解するのが相当であると考える。
 (い)相手方の保護ということだけに徹するならば、法二五条を効力規定と解し、
これに違反する訴訟行為を当然に無効のものとするに如くはないが、この無効論は、
同条各号の事件の依頼者に不測の損害を及ぼし、また、弁護士による訴訟代理の原
則を採用している民事訴訟法の法意にも反する結果となつて妥当ではない。けだし、
法二五条一号ないし三号所定の事情の有無、同条三号の事件に関する相手方の同意
の有無などは、弁護士と相手方との間の内部的な問題であり、第三者である事件の
依頼者としてはこれを正確に了知することは必ずしも容易ではないのに、その者の
依頼に基づき弁護士がした訴訟行為が、それらの事実の有無により左右されるもの
とすることは、事件の依頼者に不測の損害を及ぼすこととなるからである。ことに、
その弁護士のした訴訟行為一切を無効なものとするときは、たとえば、その弁護士
による訴(本訴又は反訴)の提起も無効となり、事件の依頼者において時効により
権利を喪失する等の同復しえない損害をこうむることもありうるのである。また、
弁護士による訴訟代理の制度の趣旨から考えても、非弁護士の訴訟行為とは異なり、
真正の弁護士の訴訟行為は、みだりにこれを無効とすべきではない。もし、それに
もかかわらず、法二五条違反の行為を無効とする建前を敢て採用しようというので
あれば、これによつて事件の依頼者がこうむる不利益を緩和し、弁護士と依頼者の
関係を調整し又はある程度において訴訟手続の安定性を保障する等の救済規定を用
意するのが当然であると考えられるが、弁護士法その他にそのような規定がなんら
設けられていないところからみても、法二五条をもつて効力規定とする趣旨ではな
いと解するのが相当である。
 (ろ)多数意見は、法二五条一号違反の行為を懲戒の原因とするに止め、これを
完全に有効なものとなることは、相手方たる当事者の保護に欠けるという理由から、
同条一号違反の訴訟行為については、右当事者はこれに異議を述べ、裁判所に対し
その行為の排除を求めうるともいい、また、右当事者において異議を述べないで第
二審の口頭弁論を終結させたときは、違反行為は完全に効力を生じ、右当事者は、
もはや、その無効を主張しえないとも説いており、これは、さきの最高裁判例(昭
和三〇・一二・一六、第二小法廷判決、民集九卷二〇一三頁)とほぼ同趣旨に出た
もののように解されるが、右最高裁判決におけると同様、その訴訟法的な理由づけ
が必ずしも明らかにされていないばかりでなく、相手方たる当事者が異議を述べた
場合の効果が明らかでなく、その前段の説示によれば、(イ)異議があつても、裁
判所は当該弁護士の訴訟活動を将来に向つて禁止しうるに過ぎないとするもののよ
うであるが、後段の説示によれば、(ロ)異議を述べることにより、当該弁護士の
訴訟行為一切の無効を主張しうるとするもののようでもあり、その趣旨はあいまい
である。しかし、いずれにせよ、法二五条一号の違反は、相手方の同意、いわんや
異議の有無により是正されるものではないとする前示(一)の私見に反するばかり
でなく、右(ロ)の見解が採られているとすれば、それが相当でないことは、前示
(二)の(い)において無効論に関し述べたところに照し明らかである。要するに、
本件訴訟行為をもつて無効と解すべきではないとする多数意見の結論には同調する
が、その理由づけには、とうてい賛意を表し難い。
 (は)奥野裁判官の意見によれば、法二五条により職務の執行を禁止されている
弁護士は、当該事件につき訴訟代理人となる資格を欠くものであるから、その訴訟
行為は違法であるが、相手方たる当事者が異議を述べないで第二審の口頭弁論を終
結させたときは、相手方の黙示の許容により、当該弁護士の訴訟行為の違法は補正
され、民訴法三九四条一項四号、二項の類推により、右違法はもはや絶対的上告理
由ともならないというのであり、右意見は、訴訟法的な理由づけがある点において
多数意見より優れているが、前示(一)の私見に反する点においては多数意見と同
じであり、右私見を前提とすれば、相手方たる当事者が異議を述べないことにより
行為の違法が補正されることはありえないこととなる。(しこうして、法二五条違
反が訴訟代理人となる資格に関するものであるとすれば、それは職権調査事項であ
り、その資格の欠缺は絶対的上告理由となるものと解されるから、右違反に関する
主張を第二審の口頭弁論の終結までに制限する理由もないこととなる。)また、奥
野裁判官の意見を採用すれば、当事者が異議を述べたときは、当該弁護士の訴訟行
為は、訴訟代理人たる資格を欠く者の行為としてすべて無効であると解するほかは
なく、この結論が相当でないことは前述したとおりである。
 (に)要するに、法二五条は単なる職務規律であり、その違反は懲戒の原因とな
るに止まるものと解するほかはないが、この見解は、相手方の保護に欠けるきらい
があるとの批判を免れないであろう。しかしながら、現行弁護士法の下においては、
弁護士会の自治が確立され、弁護士会による懲戒の制度が整備されていることを見
逃してはならない。すなわち、旧弁護士法(昭和八年法律五三号)においては、弁
護士会は司法大臣の監督下にあり、弁護士懲戒の手続も、検事長の申立により控訴
院に設けられた懲戒裁判所において行われることとされていたのに対し、現行弁護
士法においては、弁護士会に対する監督の制度は廃止され、弁護士会は、その自治
の作用として、弁護士に対する懲戒の権限をも有することとなると同時に、何人も、
弁護士について懲戒の事由があると思料するときは、その弁護士の所属する弁護士
会にこれを懲戒することを求めることができるものとされている(法五八条)ので
ある。そして、法二五条違反のごとき問題は、当該事件の受訴裁判所において、職
権調査事項として又は相手方たる当事者の異議の申立に基づき、違反事実の有無を
審査した上、訴訟法上の問題として処理することは適当なことではなく、弁護士会
内部の規律の問題として、懲戒手続により処理されるのが相当であり、この懲戒手
続が適切に運用されることにより又は当該弁護士の反省により、法二五条違反の状
態が是正され、その結果、相手方たる当事者の利益も保護されることが期待される
のである。現実の問題として、弁護士のあり方又は弁護士懲戒制度の実績について
批判があるとしても、その是正は別に考究されるべきであり、そのとこあるがため
に法二五条の解釈を二、三にすべきではない。
 以上の理由により、法二五条一号は、単なる職務規律を定めるものであり、その
違反は、弁護士の行為の訴訟法上の効力にはなんらの影響を及ぼすものではないと
思料する次第である。
 本件記録によれば、上告人は、原審において、本件訴訟行為が法二五条一号に違
反し無効であるとの主張をした形跡はなく、しかも、右違反の有無が職権調査事項
に係わるものでないことも明らかであるから、所論は、原審において主張、判断の
ない事項を論難するに帰し、適法な上告理由と認めることはできない。
 裁判官石坂修一の反対意見は次の通りである。
 弁護士法二五条一号の解釈に関する多数意見には賛同し得ない。
 わたくしは、当裁判所第三小法廷が先にこの点に関し示した判断(昭和三一年(
オ)第一四八号同三二年一二月二四日、民集一一卷一四号二三六三頁)は、依然と
して維持すべきものと思料する。若し本件上告理由第一点所論の如き事実があつた
とすれば、右判例の趣旨によるときは、本件訴訟において、被上告人(原告、被控
訴人)の訴訟代理人Dの遂行した訴訟行為は、右弁護士法二五条一号に違反する無
効のものである。而して記録によれば、右所論の事実のあつたことの疑は甚だ濃厚
であることが認められる。原審は須らくこのことにつき審査を遂ぐべきであつたに
も拘らずその措置に出でないで、右訴訟代理人の遂行した訴訟行為を有効なものと
して、上告人(被告、控訴人)の控訴を棄却した原審の判断に理由不備の違法があ
るものとなすべきである。
 原判決を破毀し、本件を原審に差戻すべきものである。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    斎   藤   朔   郎
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    長   部   謹   吾

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛