弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士本郷桂の上告理由書第一点について、
 しかし、原判決は所論指摘の法律上の理由だけで上告人らの請求を排斥している
ものでないことは判文上一見明瞭であるから、所論は判決に影響を及ぼすこと明ら
かな法令の違背あることを理由としたものとは言えない。それ故、所論は採用でき
ない。
 同第二点について、
 所論引用の大審院判決が本事案に対し剴切であるか否かは別論として、原判決は
判文に示すとおりのいきさつにより、本件建物の存在する敷地の地番をその登記の
際にa番として申請しその旨登記されたが、実はその地番には存在せず、その登記
の後に合筆した上分筆して登記されたb番のcの上に存在するものであること、然
るに本件債務名義である判決には建物の所在地番を右旧登記簿の記載に従つたので、
建物の所在地の地番と実際の地番とが吻合しない結果になつたものであること(も
し右債務名義の判決裁判所が右の誤謬を覚知だにすればおそらく更正決定をしたで
あろうし、また更正決定をすることこそ裁判所として採るべき当然の筋道だつたの
である。しからば、所論のような論議を生ずるの余地は全くなかつたのである)を
認めているのである。さすれば本件建物の登記簿の地番は、実際の敷地の地番と相
違するとはいえ、その同一性をいささかも害してはいないのであるから、本件債務
名義に基づき執行の委任を受けた執行吏は執行に当つて不都合を感ずべき筋合はな
く、これを執行したればとて何ら違法のかどありというを得ない。所論判例は固よ
り前例とするには足りない。それ故原判決を違法とする所論は採用できない。
 同第三点について。
 文書はその方式及び趣旨に依り官吏その他の公務員が職務上作成したるものと認
むべきときは之を真正なる公文書と推定するという民訴三二三条一項の規定は、そ
れら文書が真正に成立したことを反証なき限り推定するという意味をもつだけのも
のであり、それら文書の記載内容が真実に合致するや否やの判断は裁判官の自由な
る判断に任せられているのであり、書証の成立が推定されているからといつて、そ
の記載内容まで推定されている意味ではないのである。すなわち、右法条は、学者
のいわゆる書証の形式的真実へのある程度の保障をしているだけのものであつて、
いわゆる書証の実質的真実については何ら関するところのものではないのである。所
論は、彼是論議するが結局右の理を弁えない所見を前提とするものであつて、採る
に足りない。
 同第四点について。
 記録を精査し、原判決を熟読するも、原判決には所論のようなかきんは見当らな
い。そのことは上来説述した関係にする説示だけでも肯定できる。所論は採用のか
ぎりではない。
 同第五点について。
 すでに前段において説示したとおり、本件債務名義において收去を命ぜられてい
る建物の敷地として表示されている地番と明渡を命ぜられている土地として表示さ
れている地番とが相違していることは、争われない所であるが、右建物の敷地とし
て表示されている地番が、あやまりで、收去を命ぜられている土地の地番が正しく、
本件建物は結局同一性を有するものであることは亦前段縷述の如くである。されば、
所論のいう主文の既判力も本件債務名義の文字に拘泥すべきでなく、右実質に即し
て理解すべく、すなわち、本件債務名義は本件建物がb番のcに存するものとして
既判力を有するものと解さなければならない。従つて、本件債務名義に基いて強制
執行をすることは毫末も不当ということはできない筋合である。この点に関し、原
判決は所論摘録のような法律論を展開して、本訴請求異議の訴自体が法律上理由の
ないものであることを論及しているが、右はこの場合あらずもがなの蛇足と解する
を相当と考えるが故に、当裁判所はこの点に関する論旨については論評を加えない
こととする。以上の次第で所論はすべて理由がなく、採用できない。
 第六点について。
 所論が採るに足らざる主張であることは、すでに上来縷述したところにより明ら
かであろう。
 同第七点について。
 原判決の確定した事実関係、すなわち判示売買契約が元来無效であつたとの関係
の下においては、判決の結果をまつまでもなく、所論代金返還請求権や利得償還請
求権はその出捐した当時から発生していた筋合であつて、その請求権を以て留置権
を行使することは本件債務名義である判決の控訴審における最終口頭弁論までにこ
れを主張し得べかりし事由である。従つて、その後に至り右事件の確定判決すなわ
ち本件債務名義に基づく強制執行に対し右の留置権を行使して執行を拒否すること
はもはや許さざるところと解すべきであるとした原判決の判断は、当裁判所もこれ
を正当として是認する。所論は自己独自の見解というの外なく、採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   朔   郎

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