弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 論旨第一点について。
 本件売買契約成立の席上、買主である上告人が同席していたことは、原判決の認
定するところである。論旨は、そのような場合に代理人によつて契約が為されたと
するが為めには特に格段な事情が示されなければならない。然るに原判決は、この
点について何ら説示するところがないから、理由の不備か少くとも理由の齟齬ある
を免れないものであると主張する。しかしながら原判決は、その挙示する証拠によ
つて、「Dは控訴人の息子Eの妻Fの姉である関係から入手困難な小豆の買入方を
懇請したものであるが、Gと右Dと契約した際被控訴人(上告人)は同席しながら
その交渉はDだけに任せ」と認定説示し所論の点に言及しているのであるから原判
決には所論の違法ありというをえない。論旨は畢竟原審の専権に属する証拠の自由
な判断に基づく事実認定を非難するものでしかない。
 第二点について。
 論旨は民法一一〇条を適用するについては、代理人に権限ありと信ずるについて
過失なき場合たるを要するところ、本件解約については、相手方の代理人たるGに、
所論重過失のあつたものである。然るに原判決はこの点につき何ら説明するところ
がないのは、正当の事由の判断に理由不備の違法あるものだと主張する。しかしな
がら原判決はその挙示する証拠によつて原判示前段及び後段の各事実を認定し、そ
れらの事実よりして、「控訴人の代理人Gにおいて右Dに被控訴人の代理人として
前記小豆売買契約を合意解除し右返還金六二、〇〇〇円を受領する権限ありと信ず
べき正当の理由を有していたものである」と認定したものであつて、右前段及び後
段の事実よりすれば右Gに前記Dに代理権あるものと信ずるについて、何ら過失の
なかつたことを、認め得ないわけではなく、原判決は、この事実にも鑑みて、右正
当事由を判断したものと認むるを相当とするから、原判決には所論の違法ありとい
うをえない。
 次に前示Dの売買契約締結の代理権は、右契約成立と同時に消滅し、後日該契約
の合意解約当時には同人には何ら代理権限がなかつたことは所論のとおりである。
 しかしながら、代理権の消滅後従前の代理人が、なお、代理人と称して従前代理
権の範囲に属しない行為をした原判示のような場合でも、相手方が自称代理人に代
理権限ありと信するについて正当の事由ありと認めらるる原判示のような事情ある
においては取引の安全を保護する必要から民法一一〇条一一二条を類推適用して自
称代理人と相手方との間に為された行為について本人をしてその責に任じさせるの
を相当と考えるから、原判決の判断は結局正当と認むへきであり、原判決が民法一
一〇条の適用を誤つたとの所論は採用できない。
 第三点について。
 書証の内容を措信するか、しないかは事実審の裁量に属することであるから、所
論は採用に値しない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎

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