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平成27年3月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(ワ)第4962号著作権及び商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成27年1月16日
判決
東京都練馬区<以下略>
原告有限会社アートステーション
(以下「原告アートステーション」という。)
東京都東村山市<以下略>
原告株式会社コスモ・コーディネート
(以下「原告コスモ・コーディネート」という。)
東京都世田谷区<以下略>
被告株式会社コスミック出版
同訴訟代理人弁護士石新智規
同雪丸真吾
東京都豊島区<以下略>
被告補助参加人株式会社メディアジャパン
同訴訟代理人弁護士村下憲司
同福田純一
同山岸久晃
同木嶋望
主文
1被告は,別紙2被告商品目録記載のDVD商品を販売してはならない。
2被告は,原告アートステーションに対し,79万0160円及びこれに対
する平成26年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告コスモ・コーディネートに対し,79万0160円及びこれ
に対する平成26年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
4原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用のうち,参加によって生じた費用は被告補助参加人の負担とし,そ
の余はこれを3分し,その2を原告らの負担とし,その1を被告の負担とする。
6この判決は,第2,3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1被告は,別紙2被告商品目録記載のDVD商品(以下「被告DVD」と
いう。)を輸入し,複製し,頒布してはならない。
2被告は,原告アートステーションに対し,400万円及びこれに対する
平成26年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
3被告は,原告コスモ・コーディネートに対し,400万円及びこれに対
する平成26年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
4訴訟費用は被告の負担とする。
5第2,3項につき仮執行宣言
第2事案の概要
1請求原因
(1)著作権(持分)に基づく請求(原告ら)
ア原告らの著作権
(ア)原告らは,著作権の保護期間を満了しパブリックドメインとなっ
たディズニーの名作長編アニメーション映画「三人の騎士」(以下
「原作映画」という。)につき,日本語吹替え音声及び日本語字幕
を付け直した,別紙1原告ら商品目録記載のDVD(以下「原告ら
DVD」という。)を製作している。
(イ)原告らDVDの日本語台詞の原稿(以下「本件台詞原稿」とい
う。)及び日本語字幕(以下「本件字幕」という。)は,原告アー
トステーションが著作権を取得した。
すなわち,原告アートステーションは,平成18年3月,著作権
を原告アートステーションに帰属させる前提のもとで,甲ⅰ及び甲
ⅱ(当時,両名は2人で組んで仕事をしており,クエストというみ
なし法人として甲ⅰが税務処理を行っていた。)に原作映画の台詞
翻訳及び字幕作成を依頼し,英語ネイティブが原作映画から聞き
取った英語台詞に甲ⅱが直訳による翻訳を行い,それを基に甲ⅰが
日本語台詞を創作し,原告アートステーションの代表者である甲ⅲ
が監修して,本件台詞原稿及び本件字幕を完成させた。
したがって,本件台詞原稿及び本件字幕の著作者は,甲ⅰ,甲ⅱ,
甲ⅲの3名であり,原告アートステーションが著作権者となった。
(ウ)原告らが著作権侵害を主張する部分は,別紙6「アニメ『三人の
騎士』英日台詞比較表」の「原告らの日本語台詞」欄のうち318
番ないし372番の部分(以下,同部分に対応する本件台詞原稿及
び本件字幕を併せて「本件著作物」という。)である。
同比較表の「原告らの日本語台詞」欄のうち,赤字の部分は日本
語吹替え音声を付けずに日本語字幕のみを付しているが,その余は
日本語字幕と日本語吹替え音声の内容は同一であり,当該日本語吹
替え音声は,本件台詞原稿をそのまま実演したものであり,本件台
詞原稿の複製物である(原告らは「二次的著作物」であるとも主張
しているが,本件台詞原稿を日本語吹替え音声にする段階で新たに
創作性が付加されたとの主張はないから,法的には複製物との主張
をしているものと解される。)。
(エ)原告コスモ・コーディネートは,本件著作物を含む本件台詞原稿
及び本件字幕の著作権の共有持分2分の1を,原告アートステー
ションから譲り受けた(甲4)。
イ被告の著作権侵害行為
(ア)被告は,被告DVDを複製し,販売(頒布)している。
(イ)被告DVDの日本語吹替え音声は,原告らDVDの日本語吹替え
音声と同一であり,被告DVDは本件台詞原稿の複製物である。ま
た,被告DVDの日本語字幕は,原告らDVDの日本語字幕と同一
であり,被告DVDは本件字幕の複製物である。
したがって,被告DVDを複製する行為は,原告らの著作権(複
製権)を侵害する行為であり,被告DVDを頒布する行為は,原告
らの著作権(譲渡権)を侵害する行為である。
(ウ)被告DVDには「MadeinTAIWAN」と表示されていることから,
被告は被告DVDを台湾で製造し,輸入している可能性もある。仮
に,台湾において製造され,日本に輸入されているとすれば,被告
DVDは国内において頒布する目的をもって輸入されたものであり,
かつ,輸入の時において,日本国内で作成したとしたならば複製権
侵害となるべき行為によって作成されたものであるから,その輸入
行為は,原告らの著作権を侵害する行為とみなされる(著作権法1
13条1項)。
ウ損害
(ア)被告は,被告DVDを,平成22年から平成26年6月までに2
万8220枚販売した。
(イ)被告DVDを含む10枚組BOXセット(以下「本件セット」と
いう。)の小売価格は1980円,卸販売価格は1287円であり,
本件セットを1セット追加製造・販売する際に要する経費額は多く
見積もっても487円を上回らない。したがって,本件セットの1
セット当たりの利益額は800円であり,被告DVD(10枚セッ
トのうちの1枚)の利益額は1枚当たり80円を下回らない。
(ウ)被告の著作権侵害により原告らの被った損害の額は,それぞれ4
00万円(10万枚×80円×1/2)を下回らない。
(2)商標権に基づく請求(原告コスモ・コーディネート)
ア原告コスモ・コーディネートは,別紙7原告ら商標権目録記載の商標権
を有している(甲7,31ないし33。以下「本件商標権」といい,そ
の商標を「原告商標」という。)。
イ被告DVDの映像の右上部分には,原告商標と同一の標章(以下「被
告標章」という。)が表示されている。
ウ被告DVDは,本件商標権に係る指定商品である「録画済みビデオディ
スク」と同一である。
エ原告は,海賊版摘発のために,原告らDVDの映像の右上部分に原告商
標を表示させており,被告DVDはこれを複製したものである。
したがって,被告標章は自他商品の識別機能及び出所表示機能を果たす
態様で商標的に使用されている。
(3)小括
以上より,
ア原告らは,被告に対し,著作権法21条,26条の2,112条1項,
113条1項に基づき,本件著作物の複製物である日本語吹替え音声及び
日本語字幕を含む被告DVDの輸入,複製及び頒布の差止めを求めるとと
もに,
イ原告らは,被告に対し,民法709条,著作権法114条2項に基づき,
各400万円及びこれに対する不法行為の以後の日である平成26年6月
30日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を
求め,
ウ原告コスモ・コーディネートは,著作権持分侵害による差止請求との選
択的請求として,商標法36条に基づき,被告DVDの輸入,複製及び頒
布の差止めを求める。
2請求原因に対する被告の認否(なお,被告補助参加人は被告と別個の主張を
するものではないから,以下では被告の認否,抗弁のみを摘示する。)
(1)著作権に基づく請求について
ア原告らの著作権について
(ア)原告らが原告らDVDを製作していることは明らかに争わない。
(イ)本件台詞原稿及び本件字幕を原告アートステーションが創作したこ
とは否認する。
(ウ)本件著作物の創作性は争う。
(エ)原告アートステーションの原告コスモ・コーディネートに対する著
作権持分譲渡は不知。
(オ)原告らは,本件著作物の著作権者ではない。
甲16によれば,「三人の騎士」の「SHFT-0009」及び「A
PRO-0010」に収録されている「『日本語吹替え』の日本語セリ
フ脚本と字幕及び音声の著作権」は,有限会社アプロックあるいは甲ⅳ
に帰属している。上記「APRO-0010」収録の「『日本語吹替
え』の日本語セリフ脚本と字幕」は,本件台詞原稿及び本件字幕と同一
である。
甲16,23では「三人の騎士」は他の9作品と共に有限会社アプ
ロックが著作権を保有する作品として扱われているから,有限会社アプ
ロックが本件台詞原稿及び本件字幕の創作を行ったものと推認すべきで
ある。
甲24,25によれば,甲16,23で著作権を有限会社アプロック
から譲り受けた甲ⅳが代表取締役を務める株式会社ワールドピクチャー
が,本件台詞原稿及び本件字幕と同一の日本語吹替え音声及び日本語字
幕を収録した「三人の騎士」DVDを販売し,原告コスモ・コーディ
ネートからの警告にもかかわらず販売を継続している事実が認められ,
このことは,甲16,23により本件台詞原稿及び本件字幕の著作権が
有限会社アプロックから甲ⅳに適切に譲渡されていることと合致する事
実である。
イ被告の著作権侵害行為について
(ア)被告が被告DVDを販売していることは認め,その余は否認する。
被告は被告DVDを自身では一切製造(複製)していない。全て
被告補助参加人から購入している。
(イ)原告らDVDと被告DVDの日本語吹替え音声及び日本語字幕が
同一であることは認め,複製権侵害・譲渡権侵害の主張は争う。
(ウ)被告DVDに「MadeinTAIWAN」の表示があることは認め,その
余は否認する。被告は被告DVDをすべて被告補助参加人から購入
しており,台湾から輸入はしていない。
ウ損害について
(ア)被告が,被告DVDを,平成22年から平成26年6月までに2
万8220枚販売したことは認める。
(イ)本件セットの小売価格は1980円,卸先ごとにその55~6
4%の異なる卸価格率が適用されている。本件セット1セット当た
りの経費額は709円である。
(ウ)損害額は争う。
(エ)寄与度
被告DVDはディズニーアニメ作品であり,映像部分の寄与が大
きい。言語部分(日本語吹替え音声及び日本語字幕)の寄与度は2
0%程度とみるべきである。
(2)商標権に基づく請求について
ア原告コスモ・コーディネートが本件商標権を保有していることは明らか
に争わない。
イ被告DVDの映像の右上部分に原告商標と同一の被告標章が表示されて
いることは認める。
ウ被告DVDが本件商標権の指定商品と同一であることは明らかに争わな
い。
エ被告標章が商標的に使用されていることは否認する。
一般に,商標法上の商標の(商標としての)「使用」に該当するという
ためには,当該商標が商品の取引において出所識別機能を果たしている必
要がある。
原告らDVDや被告DVDのようなパッケージ商品の取引において,取
引者・需要者がパッケージ内のDVDを再生して当該映像中に映りこんだ
標章を見ることによりDVD商品の出所識別をするとは考え難く,自他商
品の識別機能及び出所表示機能は働かない。そのため,本件では被告が商
標を(商標として)「使用」したとはいえない。
3抗弁(譲渡権の消尽)(著作権(持分)に基づく請求に対して)
(1)原告らは,被告補助参加人が本件台詞原稿に基づく日本語吹替え音声及
び本件字幕を収録したDVDを製造し,被告に販売することを承諾していた。
(2)被告補助参加人から被告に被告DVDが譲渡されたことにより,原告ら
の譲渡権は消尽している(著作権法26条の2第2項4号)。
4抗弁に対する認否
(1)原告らが被告補助参加人に被告DVDの製造・販売を承諾していたこと
は否認する。
原告らは,被告補助参加人に被告DVDの製造・販売を承諾したことなど
ない。
仮に,過去において原告らが被告補助参加人に被告DVDの製造・販売を
許諾していたと解釈されたとしても,平成24年7月26日付け内容証明郵
便(甲29)により,被告補助参加人が被告DVDを製造・販売することは
禁止されている。
(2)被告補助参加人から被告に被告DVDの譲渡があったことは明らかに争
わないが,消尽の主張は争う。
第3当裁判所の判断
1被告の本案前の申立てについて
被告は,原告らの著作権侵害に基づく本件訴えが当庁平成25年(ワ)第32
465号事件(以下「別件訴訟」という。)と同一の訴えであるとして,民
事訴訟法142条に基づき却下されるべきである旨の本案前の申立てをしてい
る。
しかし,原告らが平成26年7月18日の第3回弁論準備手続期日において
同月7日付け訴状訂正申立書2を陳述し,被告が同書面による訴えの変更に同
意したことにより,本件訴えの対象は,被告DVDに係る請求に限定され(当
裁判所に顕著),別件訴訟の対象となっていた請求(アニメ「三人の騎士」C
CP-711に係る請求〔乙1,弁論の全趣旨〕)が除外されたことが認めら
れるから,本件訴えの訴訟物が別件訴訟の訴訟物と重複しているとは認められ
ず,被告の上記申立ては,採用することができない。
2原告らの著作権について
(1)甲14及び弁論の全趣旨によれば,本件著作物は,原作映画の英語音声
を日本語に翻訳した日本語台詞原稿及び日本語字幕であり,その翻訳には翻
訳者の個性が発揮され創作性があるものと認められる。
なお,甲6,甲9の1・2及び弁論の全趣旨によれば,原作映画は194
4年に公開されたものと認められるところ,その映像及び英語台詞が,著作
権存続期間の満了によりパブリックドメインとなっていることは,被告も明
らかに争わない。
(2)甲4,5,34及び弁論の全趣旨によれば,本件台詞原稿及び本件字幕
は,著作権を原告アートステーションに帰属させる合意の下,甲ⅰ,甲
ⅱ及び甲ⅲが原作映画の英語台詞から翻訳したものと認められるから,
原告アートステーションが著作権を取得したものと認められる。
(3)甲4及び弁論の全趣旨によれば,原告アートステーションは,本件
台詞原稿及び本件字幕の著作権の持分2分の1を原告コスモ・コーディ
ネートに譲渡したことが認められる。
(4)ア被告は,本件台詞原稿及び本件字幕の著作権は,原告らではなく
有限会社アプロックに帰属しており,有限会社アプロックから甲ⅳに
譲渡されたものであると主張する。
イ甲16は,有限会社アプロックから甲ⅳに対する平成18年12月
28日付けの著作権譲渡契約書であり,著作権譲渡の対象となってい
る末尾のアニメ20タイトルの中に「81三人の騎士APRO-
0010」が掲げられ,これを含む「本契約書巻末付記リストに明記
された映画DVDタイトルのために制作され,DVDタイトル内に付
加された『日本語吹替え』の日本語セリフ脚本と字幕および音声の著
作権」につき,甲(有限会社アプロック)が「現在瑕疵のない完全な
著作権……を保有することを保証」した上で,当該著作権を乙(甲
ⅳ)に譲渡している(甲16・1条)。
また,甲23は,6条の対価支払時期と作成日以外は甲16と同一
内容の著作権譲渡契約書であり,作成日は平成19年12月28日と
なっている。
しかし,甲16,23の契約書は,原告らの関与しない有限会社ア
プロックと甲ⅳとの契約書であって(同一内容の契約書が作成日付を
異にして2通あるのも不審である。),有限会社アプロックが当該著
作権を保有するに至った経緯も全く不明であるから,これらの契約書
で品番「APRO-0010」の「三人の騎士」の日本語セリフ脚本,
日本語音声及び日本語字幕(これが本件台詞原稿及び本件字幕と同一
内容であるか否かも証拠上は不明である。)の著作権が譲渡の対象と
なっていたからといって,直ちに有限会社アプロックが本件著作物の
著作権者であったと認められるものではなく,上記(2)の認定を左右
するものではない。
ウ被告補助参加人は,丙1ないし3を提出し,その証拠説明書の立証
趣旨の記載などからすると,①「三人の騎士」の日本語吹替え音声及
び日本語字幕の著作権は,平成18年8月7日当時,有限会社アプ
ロックが保有していた,②有限会社アプロックは,平成18年8月7
日付け事業譲渡契約書(丙1)に基づく契約により,当該著作権を株
式会社マックスターに譲渡した,③同契約は,平成20年4月8日ま
でに,株式会社マックスターの代金不払により解除された,④被告補
助参加人は,平成20年4月8日までに,有限会社アプロックから当
該著作権の譲渡を受けた,との事実経過を立証しようとするようであ
る。
この事実経過は,上記イの被告の主張と矛盾する(平成18年8月
7日に当該著作権が有限会社アプロックから株式会社マックスターに
譲渡されていたのであれば,平成18年12月28日,平成19年1
2月28日のいずれの日付においても,有限会社アプロックは当該著
作権を甲ⅳに譲渡することはできなかったはずである。)ことを措く
としても,甲ⅴの陳述書(丙3)によれば,有限会社アプロックは被
告補助参加人の100%子会社であり,陳述書作成当時被告補助参加
人の代表者であった甲ⅴは当初有限会社アプロックの代表者でもあっ
たというのに,同陳述書には,有限会社アプロックが「三人の騎士」
の日本語吹替え音声及び日本語字幕の著作権を保有するに至った経緯
について何ら具体的な記載がない(なお,有限会社アプロックは,平
成21年6月10日破産手続開始決定を受け,平成22年3月5日破
産手続が終結しており[甲20],株式会社マックスターは,平成2
1年9月16日破産手続開始決定を受け,平成21年12月17日費
用不足による破産手続廃止決定を受けている[甲27]が,上記「三
人の騎士」の著作権が各破産手続上どのように扱われたかは不明であ
る。)。
また,上記②の事業譲渡契約書(丙1)が,有限会社アプロックか
ら株式会社マックスターへの事業譲渡であるというのに,有限会社ア
プロックの記名押印のない,被告補助参加人と株式会社マックスター
との間の契約書となっているのも不審であるし,同契約書には「三人
の騎士」の日本語吹替え音声及び日本語字幕の著作権が事業譲渡の対
象となっている旨の記載はない。同契約書(丙1)の日付より前の日
付で取り交わされている平成17年5月17日付け契約書(甲28)
は,有限会社アプロックと株式会社マックスターとの間の契約書であ
るが,その譲渡の対象となっている「パブリックドメイン作品9タイ
トル」に「三人の騎士」は含まれていない。
被告補助参加人から有限会社アプロック宛ての平成20年4月8日
付け通告書(丙2)に「譲渡されましたコンテンツ10タイトル(別
紙)については返還されましたことを通知いたします。」との記載が
あり,別紙に「APRO-010三人の騎士」の記載があるが,こ
の記載から,「APRO-010」の「三人の騎士」の日本語吹替え
音声及び日本語字幕の著作権が平成18年8月7日付け事業譲渡(丙
1)の対象となっていたことまで推認できるものではないし,また,
同著作権が,事業譲渡の解除により有限会社アプロックに復帰し,さ
らに有限会社アプロックから被告補助参加人に譲渡されたことが認定
できるものでもない。
結局,丙1ないし3によっても,有限会社アプロックが本件著作物
の著作権者であったとは到底認めるに足りず,前記(2)の認定を左右
するものではない。
(5)以上によれば,原告らは,本件著作物につき,著作権を持分2分の
1ずつ共有しているものと認められる。
3被告の行為について
被告が被告DVDを販売していること,被告DVDの日本語吹替え音声
及び日本語字幕が,本件著作物の複製物である原告らDVDの日本語吹替
え音声及び日本語字幕と同一であることはいずれも争いがなく,そうする
と,被告は,言語の著作物としての本件著作物の複製物である被告DVD
を販売しているのであるから,原告らの譲渡権(著作権法26条の2)を
侵害しているものと認められる(なお,「頒布」とは,「有償であるか又
は無償であるかを問わず,複製物を公衆に譲渡し,又は貸与すること」を
いうところ(著作権法2条1項19号),原告らは,被告DVDの「頒
布」の態様として,専ら「販売」(有償譲渡)を問題にしており,無償譲
渡や有償貸与,無償貸与は主張しておらず,貸与権(同法26条の3)の
侵害の主張も,映画の著作物の頒布権(同法26条)の侵害の主張もして
いない。原告らは,訴状6頁において「頒布」という用語をあたかも「販
売」と同義であるかのごとく用いており,被告が準備書面(1)2頁で認
めたのも,「販売」であって,無償譲渡や有償貸与,無償貸与について認
めたものとは解されない。)。
これに対して,被告が被告DVDを自ら輸入し又は複製していることを
認めるに足りる証拠はない。
4消尽について
(1)被告は,原告らは被告補助参加人が本件台詞原稿及び本件字幕を収
録したDVDを製造し,被告に販売することを承諾していたのであるか
ら,被告補助参加人から被告に対する譲渡により,原告らの譲渡権は消
尽している(著作権法26条の2第2項4号)と主張する。
(2)しかし,原告らが被告補助参加人による被告DVDの製造販売を承
諾していたと認めるに足りる証拠はない。
被告も被告補助参加人も,原告らの承諾を直接立証する証拠(原告ら
と被告補助参加人との間の契約書など)は提出できておらず,後記のと
おり,他の証拠によっても,被告補助参加人による被告DVDの製造及
び譲渡につき原告らの承諾があったとは認めるに足りない。
(3)乙2について
乙2は,原告コスモ・コーディネートから被告代理人宛ての平成25
年1月12日付けFAXであるが,その中に「メディアジャパンは日本
語吹替えのみのDVDをアプロック名で発売していますが,これは過去
にアートステーションと当社で制作してあげたもので,当初はコスミッ
ク出版で販売していた商品です。これに関しては,当社は問題にしてお
りません。」との記載がある。
しかし,原告コスモ・コーディネートがそこで「当社は問題にしてお
りません。」という,「メディアジャパン」が「アプロック名で発売」
した「日本語吹替えのみのDVD」が何のDVDであるかは,乙2自体
からは明確でなく,少なくともこれに「三人の騎士」のDVDが含まれ
ていたと認めるに足りる証拠はない。
仮に「三人の騎士」のDVDが含まれていたとしても,乙2には,上
記引用箇所に続けて,「当社が著作権侵害を指摘しているコスミック出版
発売のDVD商品は,このアプロック版とは,日本語吹替え音声も違って
いますし,アプロック版にはなかった日本湖
ママ
字幕や英語字幕なども付いて
おります。」との記載がある。
なお,本訴で対象としている被告DVDには,日本語字幕が付いており,
英語字幕は付いていない。そうすると,乙2で問題とされていた「日本語字
幕や英語字幕なども付いている」被告発売のDVD商品,「日本語吹替えの
み」で日本語字幕の付いていない「アプロック版」のいずれも,少なくとも
被告DVDを指しているものではない。
したがって,仮に,原告らが被告補助参加人に対し「アプロック版」の何
らかのDVDの製造販売を承諾していたことがあったとしても,本訴で対象
としている被告DVDの製造販売を被告補助参加人に承諾していたことにな
るものではなく,被告補助参加人から被告に対する被告DVDの譲渡によっ
て原告らの譲渡権が消尽することはない。
(4)株式会社ユニアール関係について
被告は,被告補助参加人は,少なくとも平成20年6月2日から平成21
年2月2日までの間,20回にわたり,株式会社ユニアールから本件台詞原
稿及び本件字幕を収録したDVDの購入申込みを受け,同社に対し販売した
(乙4の1ないし20)ところ,株式会社ユニアールは原告アートステー
ションと極めて密接な関連のある会社であるから,原告らは,被告補助参加
人が本件台詞原稿及び本件字幕を収録したDVDを製造し,株式会社ユニ
アールに販売することを承諾していたことは明らかである,と主張する。
しかし,乙4の1ないし20で株式会社ユニアール(旧商号:株式会社コ
スモコンテンツ。乙3の2)が被告補助参加人から購入した「三人の騎士」
のDVDは,品番「APRO-010」(乙4の19のみ「ANC-01
0」)のDVDであって,被告DVD(品番「BCP-018」の本件セッ
トのうちの1枚)ではない。そして,品番「APRO-010」の「三人の
騎士」の内容を認めるに足りる的確な証拠はなく,これが被告補助参加人の
製造に係るものであること,その日本語吹替え音声及び日本語字幕が被告D
VDのものと同一であることのいずれも認めるに足りる証拠はない(品番
「ANC-010」については甲6・2頁に盤面があるが,被告補助参加人
の製造に係るものと認めるに足りる証拠はなく,第三者の製造に係る[当該
製造業者からの第一譲渡によって既に譲渡権の消尽した]ものを被告補助参
加人を介して入手しただけであれば,被告補助参加人が製造販売の承諾を得
ていたことにはならない。)。
また,原告アートステーションの代表者である甲ⅲは,平成20年5月1
9日まで株式会社ユニアール(当時の商号:株式会社コスモコンテンツ)の
代表取締役を務めており(乙3の1),同社のウェブページには平成26年
8月12日現在も甲ⅲが代表取締役と表示されていること(乙3の3),甲
ⅲの息子である甲ⅰが同社の取締役を務めていること(乙3の2),平成2
0年5月20日から平成25年11月1日まで,同社の代表取締役は本件台
詞原稿及び本件字幕の創作に関与した甲ⅱが務めていたこと(乙3の2),
甲ⅲは現在も株式会社ユニアールの株主であること(弁論の全趣旨[原告準
備書面5・6頁])がそれぞれ認められるが,これらの事実があったからと
いって,平成20年6月2日から平成21年2月2日までの間に被告補助参
加人が株式会社ユニアールに販売したDVD商品について,原告らがその製
造販売を承諾していたことになるものではない。
したがって,仮に,株式会社ユニアールが被告補助参加人による品番「A
PRO-010」の販売を承諾していたとしても,原告らが被告DVDの製
造販売を被告補助参加人に承諾していたことになるものではなく,被告補助
参加人から被告に対する被告DVDの譲渡によって原告らの譲渡権が消尽す
ることはない。
(5)かえって,原告コスモ・コーディネートは,平成24年7月26日付け
通知書(甲29)において,被告補助参加人に対し,「当社と有限会社アー
トステーションの共同著作物である……『ディズニー名作アニメDVD(改
訂版)』を大量に製造されている旨伺っていますが,これらの作品も当社の
著作物であり,作品としては,日本においてパブリックドメインと認定され
ていても,新たに翻訳し直して,日本語字幕などを作成したもので,二次著
作権が発生しています。従がって
ママ
,当社は貴社に対し,これらのコピー商品
の製造・販売を即座に中止することを要求致します。」と記載し,平成24
年10月30日付け警告書(甲10)においても,被告に対し,「株式会社
メディアジャパンは本件作品[判決注:「当社が貴社の著作権侵害を指摘し
た名作アニメDVD商品」であるが,「三人の騎士」は含まれていなかった
と認められる。]のアブ
ママ
ロック版(日本語吹替えのみ)の製造・販売の権利
は有していますが,著作権は所有しておりません。前回は7作品のみ指摘し
ましたが,『ファンタジア』『ガリバー旅行記』『三人の騎士』の3タイト
ルも同様で,御社は計10タイトルの名作アニメ作品のDVDに関し,当社
の著作権を侵害しております。また,この中の『三人の騎士』に関しては,
株式会社メディアジャパンには製造・販売の権利もありません。」と記載し
ており,原告らが被告補助参加人に被告DVDの製造販売を承諾したことは
なかったように推認されるところである。
(6)以上によれば,消尽の主張は認められない。
5差止めについて
(1)以上によれば,被告による被告DVDの販売は原告らの有する本件
著作物の著作権(譲渡権)持分を侵害する行為であるから,原告コス
モ・コーディネートの商標権侵害に基づく差止請求権の存否につき判断
するまでもなく,原告らは,著作権法112条1項に基づき,被告DV
Dの販売の差止めを求めることができる。
(2)他方,原告らの著作権法112条1項に基づく差止請求及び原告コ
スモ・コーディネートの商標権侵害に基づく差止請求のうち,被告によ
る輸入,複製の差止めを求める部分については,被告が自ら輸入,複製
をしているとは認められず,他に被告が輸入,複製をするおそれがある
ことを基礎付ける事情も認められないから,差止めの必要性は認められ
ない。頒布のうち,販売以外の態様の差止めを求める部分についても,
同様である(なお,有償貸与及び無償貸与についての著作権法112条
1項に基づく請求については,原告らは貸与権侵害や頒布権侵害を主張
していないから,主張自体失当であることになるが,仮にその旨の主張
があったとしても,差止めの必要性が認められないことになる。)。
6損害について
(1)被告が,被告DVDを,平成22年から平成26年6月までに2万
8220枚販売したことは争いがない。
(2)被告DVDを含む本件セット(10枚組)の小売価格は1980円
(消費税5%込み。本体価格1886円)である(甲9の2)。
被告は,本件セットを主に卸売価格で小売業者に売却しているものと
認められるところ(弁論の全趣旨),被告は,卸売価格は卸先ごとに小
売価格の55~64%(1089~1267円)であると主張する(被
告準備書面(3)3頁,準備書面(4)3~4頁)が,その根拠資料を
提出せず,その理由として,被告が被告補助参加人から仕入れた被告D
VDを含む本件セットと,他社から仕入れた同種商品(本訴で対象と
なっている「被告DVD」ではないもの)を入れた10枚組BOXセッ
トとを区別できないからと説明している。
乙5は,被告DVDを含む本件セットと,被告DVD以外の「三人の
騎士」のDVDを入れた10枚組セットの売上が混在した商品別売上実
績表であるが,例えば,2010年5月度の総売上数量が5455セッ
ト,総売上額が682万6204円で1セット当たり1251円(端数
四捨五入。以下同じ)となるが(乙5・2頁),2014年6月度の総
売上数量は930セット,総売上額は75万1528円で1セット当た
り808円となってしまい(乙5・51頁),ここから平均卸売価格を
算定することはできない。
さらに,甲15,18によれば,被告は,自社ウェブサイトにおいて,
本件セットを小売価格2037円(消費税8%込み。本体価格1886
円)での直接販売も行っていることが認められ,被告の累計販売枚数2
万8220枚のうち,このような小売価格での直接販売の枚数を確定す
ることもできない。
これらの点に鑑み,被告DVDを含む本件セットの卸売価格は,60
00セットを制作した際の卸売価格1267円(乙6。小売価格の6
4%)をもって1セット当たりの卸売価格と認めるのを相当とする。
(3)本件セット6000セットを販売した際の経費が425万4543
円であった(乙6)ことから,1セット当たりの経費は709円(42
5万4543円÷6000)と認める。
著作権法114条2項にいう「利益」とは,侵害者の売上から,侵害
品の製造販売に追加的に要した費用(変動経費)を控除したいわゆる限
界利益をいうと解されるところ,原告らは,乙6に記載された経費の変
動経費性を具体的に争うことを明らかにしないから,乙6に記載された
経費425万4543円は全て変動経費と認める。
そうすると,本件セット1セット当たりの被告の利益は558円(1
267円-709円)と認められる。
被告DVDは,本件セット10枚組のうちの1枚であるから,被告D
VD1枚当たりの被告の利益は56円(558円÷10枚)と認める。
(4)寄与度減額について
被告は,被告DVDはディズニーアニメ作品であり,映像部分の寄与
が大きく,言語部分の寄与度は20%程度であると主張する。
争いのない事実,甲9の1・2及び弁論の全趣旨によれば,被告DVDは,
原告らDVDと映像,日本語吹替え音声及び日本語字幕の全てにおいて同一
であり,原告らDVDの海賊版と言って差し支えないものと認められるとこ
ろ,そのような海賊版を販売した者に利得の一部を保有させるのは相当でな
いから,本件においてパブリックドメイン部分(原作映画の映像,及び原作
映画の英語台詞に由来する部分)の寄与により原告らの損害額を減額するの
は相当でないというべきである。
したがって,本件においては,言語部分の寄与度を原告らの損害額を減額
する要素としては考慮しない。
(5)そうすると,被告DVDの販売により被告が得た利益は,158万
0320円(56円×2万8220枚)となる。
(6)原告らの著作権共有持分はそれぞれ2分の1であるから,原告らが
それぞれ被告に請求できる損害賠償の額は,各79万0160円(15
8万0320円×1/2)となる。
(7)被告の著作権侵害による不法行為は平成26年6月までには終了し
ているから,その不法行為の終了した以後の日である平成26年6月3
0日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金を付す。
(8)なお,原告らは,本件口頭弁論終結後に提出した平成27年1月2
3日付け上申書において,損害額の算定方法を著作権法114条2項に
基づくものから同条1項に基づくものに変更したいとするようであるが,
時機に後れており(そのことについて,原告らには重大な過失があると
いわざるを得ない。),訴訟の完結を遅延させるものであるから,弁論
を再開してこの点の審理を行うことは,相当でない。
7結論
以上によれば,原告らの請求は主文第1項ないし第3項の限度で理由が
あるが,その余はいずれも理由がない。
よって,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条ないし66条を,
仮執行宣言につき同法259条をそれぞれ適用して(主文第1項の差止請求に
ついては,仮執行宣言の申立てはない。),主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
嶋末和秀
裁判官
西村康夫
裁判官
本井修平
別紙1
原告ら商品目録
下記アニメーション作品DVD
1アニメ「三人の騎士」DVD①DFC-109
以上
別紙2
被告商品目録
1「名作アニメ劇場」10枚組BOXセットBCP-018
10作品収録中の1作品「三人の騎士」
ただし,別紙3のDVDジャケット及び別紙4又は5の盤面のもの
以上

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