弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由第一点について。
 仮に、所論競売取下の事実、訴外株式会社D相互銀行(元E株式会社)が公売代
金の配当要求をせずまた配当がなされなかつた事実および抵当権抹消登記委任状の
交付の事実があつたとしても、それだからといつて抵当債権が存在しないと認めな
ければならないものではないし、また右競売取下行為または会社の内部処理である
償却処分が債務者に対する債権の放棄の意思表示であると解することも困難であり、
更に、債権者が自ら進んで時効にかかつたとして債権を消滅せしめるということは
肯定できないから判示証拠は措信できないとした原判決の判示が、取引の通念に反
し、行為の妥当性を否定するとも解し得ない。本件証拠関係に照せば、原判決の、
被上告人Bが公売によつて本件建物の所有権を取得した当時、抵当債務が弁済によ
つて既に消滅していたと認められる証拠はないとの判断は、首肯するに足りる。所
論は、結局、原審の事実認定乃至証拠の取捨判断を非難するに帰するから、採用で
きない。
 同第二点について。
 原判決は、抵当権は昭和二六年頃債務の弁済によつて消滅した旨の、第一審およ
び原審証人Fの証言は、原審証人G、同Hの各証言、成立に争のない乙第二号証に
照し措信できず、また抵当債務が時効によつて消滅した旨の右G、Hの各証言、乙
第二号証の記載は措信できないと判断しているが、前段は昭和二六年頃債務の弁済
で抵当権が消滅したとの点に関するものであり、後段は抵当債務が時効で消滅した
との点に関するものであつて、その内容を異にするものであり、同一の証拠中別個
の事項について、一は措信し一は措信しないからといつて、理由にくいちがいがあ
りまたは理由を付さない違法があるということはできない。なお所論償却処理が債
権放棄行為と解さなければならないものでないことは第一点に述べたとおりである。
所論はすべて採用できない。
 同第三点について。
 所論は、民法三八八条は、土地建物の両方が同時に抵当権の目的となつている場
合の規定ではないから、右の場合にも類推適用した原判決は、不当に右規定を拡張
解釈したものであり、土地所有者の所有権を犯し憲法二九条に違反するものである
という。しかしながら、民法三八八条の適用は、右のような場合でも妨げないこと
については、すでに大審院判例(明治三八午九月二二日、同年(オ)第三二七号事
件判決、昭和六年一〇月二九日、同年(オ)第八六六号事件判決参照)の認めると
ころであり、本件においてこれを変更するの要をみない。原判決の解釈は違法でな
く、従つて違憲の主張は前提を欠き、採用できない。
 次に所論は、民法三八八条の競売に国税滞納処分による公売を含ましめた原判決
の解釈適用は違法であり、また憲法二九条に違反すると主張する。しかし、民法三
八八条の規定を設けた趣旨は、土地とその上に存する建物が同一の所有者に属し、
その土地またはその建物のみを抵当の目的とした場合において、土地建物の一方の
みの競売があつたときは、土地建物は各別にその所有者を異にするに至り、建物の
所有者は建物所有のため土地使用の権利を有しないこととなり、この結果は建物所
有者ひいては抵当権者に損失を及ぼすことがあるばかりでなく、社会経済上も不利
益である、というにあるものと解せられ、右の関係は、当該抵当権の実行のために
競売が行われた場合でなく、国家等により国税徴収法にもとづく滞納処分により公
売が行われた場合でも同様であり、すでに民法三八八条にいわゆる競売には抵当権
者でない他の債権者の申立にもとづく強制競売の場合をも包含する趣旨であると解
すること、大審院判例(大正三年四月一四日、同年(オ)第三号事件判決参照)の
示すところであるから、これらを併せ考えれば、右公売の場合には民法三八八条を
類推適用すべきものと解するのが相当である。しからば右と同趣旨に出でた原判決
は正当として是認すべく、所論は結局右と異なる見解に立脚して原判決の違法を主
張するものであり、従つて違憲の主張はその前提を欠くに帰し、すべて採用できな
い。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊

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