弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告人の上告受理申立て理由について
1本件は,上告人の設置する大学の推薦入学試験に合格した被上告人が,入学
を辞退して在学契約を解除したなどと主張して,上告人に対し,不当利得返還請求
権に基づき,納付済みの授業料等相当額の返還を求める事案である。
2原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)上告人は,学校教育法所定の大学であるA大学を設置する学校法人である
(以下,上告人及び上告人の設置するA大学を「上告人大学」ということもあ
る。)。
(2)被上告人は,上告人大学医学部医学科の平成18年度推薦入学試験を受験
して合格し,上告人大学が定めた入学手続の要領に従い,所定の期限内である平成
17年11月22日,上告人大学に対し,入学金100万円及び授業料等700万
6000円(授業料350万円,実験実習教材費50万円,教育充実費300万円
及び学友会費6000円。以下「本件授業料等」という。)を納付して入学手続を
行い,上告人大学との間で在学契約(以下「本件在学契約」という。)を締結し
た。
(3)上告人大学の平成18年度学生募集要項には,推薦入学については,いっ
たん納付した学生納付金は一切返還しない旨記載されていた(この記載に係る合意
のうち授業料等に関する部分を,以下「本件不返還特約」という。)。
(4)被上告人は,その後,B大学医学部の一般入学試験に合格し,平成18年
3月30日,同大学に入学金,授業料等を納付した。
(5)被上告人は,平成18年4月5日,上告人大学に対し,辞退理由として
「体調をくずし,下宿して通学するのが困難となったため」と記載した入学辞退届
を提出し,本件在学契約を解除する旨の意思表示をした。
(6)上告人大学医学部医学科の平成18年度の入学試験では,推薦入学試験
(募集人員25名)のほか,一般入学試験(同65名)及びセンター利用試験(同
10名)が行われた。なお,推薦入学試験においても,上告人大学を専願あるいは
第1志望とすることなどは出願資格とされていなかった。
(7)上告人大学は,一般入学試験及びセンター利用試験(以下,併せて「一般
入学試験等」という。)について補欠者を設けており,平成16年度以降の学生募
集要項には,補欠者にはその旨郵便で通知すること,合格者に欠員が生じた場合に
は補欠者を順次繰り上げて合格者を決定し,繰上げ合格者には合格通知書等を送付
すること,4月7日までに補欠合格の通知がない場合には不合格となることを記載
していた。
(8)上告人大学は,平成13年度から同16年度までは4月1日以降に補欠者
を繰上げ合格させることはなかったが,平成17年度及び平成18年度には,4月
1日以降にそれぞれ3∼4名の補欠者を繰上げ合格させた。
3原審は,次のとおり判断して,本件授業料等の返還請求を認容すべきものと
した。
(1)本件在学契約は,消費者契約法2条3項所定の消費者契約に該当し,本件
不返還特約は,同法9条1号にいう「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を
予定し,又は違約金を定める条項」に当たるから,「当該消費者契約と同種の消費
者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害」(以下「平均的な損害」
という。)を超える部分が無効となる。
(2)在学契約の解除に伴い当該大学に生ずべき平均的な損害は,1人の学生と
大学との在学契約が解除されることによって当該大学に一般的,客観的に生ずると
認められる損害をいい,在学契約の解除が当該大学が合格者を決定するに当たって
織り込み済みのものであれば,原則として,その解除によって当該大学に損害が生
じたということはできないところ,一般に,4月1日には,学生が特定の大学に入
学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるから,在学契約の解除の意
思表示がその前日である3月31日までにされた場合には,原則として,大学に生
ずべき平均的な損害は存しないものとして,当該解除との関係では不返還特約(授
業料等に関する部分。以下同じ。)はすべて無効となり,在学契約解除の意思表示
が同日より後にされた場合には,原則として,学生が納付した授業料等は,それが
初年度に納付すべき範囲内のものにとどまる限り,大学に生ずべき平均的な損害を
超えず,当該解除との関係では不返還特約はすべて有効となる(最高裁平成17年
(受)第1158号・第1159号同18年11月27日第二小法廷判決・民集6
0巻9号3437頁参照)。
(3)しかしながら,上告人大学においては,平成16年度以降,学生募集要項
に,補欠者につき4月7日までに通知がない場合に不合格となる旨記載し,平成1
7年度及び平成18年度には4月1日以降に3∼4名の補欠者を繰上げ合格させて
いることからすると,平成16年度以降は,毎年4月7日まで最終的な合否の判定
を留保する取扱いが確立していたというべきである。特に,推薦入学試験の合格者
については,いわゆる専願等を資格要件とするものではなく,学生納付金の納付期
限から他大学医学部の一般入学試験日まで相当の期間があることからすると,他大
学医学部に合格してその大学に入学する者が出ることを上告人としても当然に予測
していたものである。
したがって,上告人大学においては,4月7日までは,特に推薦入学試験の合格
者についてはその在学契約が解除されることがあること及び4月1日以降に補欠者
を上告人大学に入学させることを織り込み済みであったから,被上告人が4月5日
に在学契約を解除しても上告人大学に生ずべき平均的な損害は存しないというべき
であって,本件不返還特約は無効である。
4しかしながら,原審の上記3(1)及び(2)の判断は是認することができるが,
同(3)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
前記事実関係によれば,被上告人は,上告人大学の平成18年度の推薦入学試験
に合格し,本件授業料等を納付して上告人大学との間で本件在学契約を締結した
が,入学年度開始後である平成18年4月5日に本件在学契約を解除する旨の意思
表示をしたものであるところ,学生募集要項の上記の記載は,一般入学試験等の補
欠者とされた者について4月7日までにその合否が決定することを述べたにすぎ
ず,推薦入学試験の合格者として在学契約を締結し学生としての身分を取得した者
について,その最終的な入学意思の確認を4月7日まで留保する趣旨のものとは解
されない。また,現在の大学入試の実情の下では,大多数の大学において,3月中
には正規合格者の合格発表が行われ,補欠合格者の発表もおおむね終了して,学生
の多くは自己の進路を既に決定しているのが通常であり,4月1日以降に在学契約
が解除された場合,その後に補欠合格者を決定して入学者を補充しようとしても,
学力水準を維持しつつ入学定員を確保することは容易でないことは明らかである。
これらの事情に照らせば,上告人大学の学生募集要項に上記の記載があり,上告人
大学では4月1日以降にも補欠合格者を決定することがあったからといって,上告
人大学において同日以降に在学契約が解除されることを織り込み済みであるという
ことはできない。そして,専願等を資格要件としない推薦入学試験の合格者につい
て特に,一般入学試験等の合格者と異なり4月1日以降に在学契約が解除されるこ
とを当該大学において織り込み済みであると解すべき理由はない。
したがって,被上告人が納付した本件授業料等が初年度に納付すべき範囲を超え
ているというような事情はうかがわれない以上,本件授業料等は,本件在学契約の
解除に伴い上告人大学に生ずべき平均的な損害を超えるものではなく,上記解除と
の関係では本件不返還特約はすべて有効というべきである。
5以上と異なる見解の下に,被上告人の本件授業料等返還請求を認容した原審
の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由が
あり,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところ
によれば,上記部分に関する被上告人の請求を棄却した第1審判決は正当であるか
ら,上記部分に係る被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官田原睦夫裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官
那須弘平裁判官近藤崇晴)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛