弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
一 被告らは、その販売する「洋服ブラシ」又はその容器、包装用台紙に、「エチ
ケツト」という標章を附してはならない。
二 被告らは、その発行するカタログの広告記事その他の広告に、右「洋服ブラ
シ」の広告として「エチケツト」という標章を附してこれを展示し、又は頒布して
はならない。
三 被告株式会社真山商事は原告に対し、金七五万円及びこれに対する昭和五九年
一月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告ツバキ株式会社は原告に対し、金五万七二二八円及びこれに対する昭和五
八年一二月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用は、原告と被告株式会社真山商事との間に生じた分は五分し、その四
を原告の負担、その余は同被告の負担とし、原告と被告ツバキ株式会社との間に生
じた分は一〇分し、その九を原告の負担、その余は同被告の負担とする。
七 この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
       事   実
一 当事者の求めた裁判
1 原告
(一) 被告らは、その販売する「洋服ブラシ」及び「ヘアーブラシ」又はその容
器、包装用台紙に、「エチケツト」という標章を附してはならない。
(二) 被告らは、その発行するカタログの広告記事その他の広告に、右「洋服ブ
ラシ」及び「ヘアーブラシ」の広告として「エチケツト」という標章を附してこれ
を展示し、又は頒布してはならない。
(三) 被告株式会社真山商事(以下「真山商事」という。)は原告に対し、金一
四〇〇万円及びこれに対する昭和五九年一月五日から完済まで年五分の割合による
金員を支払え。
(四) 被告ツバキ株式会社(以下「ツバキ」という。)は原告に対し、金一三三
〇万円及びこれに対する昭和五八年一二月三〇日から完済まで年五分の割合による
金員を支払え。
(五) この判決は仮に執行することができる。
2 被告ら
(一) 原告の請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
二 原告の請求原因
1 原告は、
昭和三九年九月頃日本ゼオラ株式会社から次の(一)の商標権(以下「本件商標権
(一)」といい、その登録商標を「本件商標(一)」という。)を買受け、同年一
二月四日商標権移転の登録をし、又右商標権の連合商標として次の(二)の商標権
(以下「本件商標権(二)」といい、その登録商標を「本件商標(二)」とい
う。)を有する。
(一) 登録番号 第五五九一二〇号
出願日 昭和三四年四月一三日
公告日 昭和三五年五月一〇日
登録日 同年一〇月二七日
更新登録日 昭和五六年一月二九日
指定商品 旧第六四類頭飾品、調髪具及び「リボン」の類、造花並に刷子類
登録商標 別紙第一商標公報(一)記載のとおり
(二) 登録番号 第一五〇一三五七号
出願日 昭和五二年一〇月二六日
公告日 昭和五六年四月九日
登録日 昭和五七年二月二六日
指定商品 第一九類洋服ブラシ、洗たくブラシ
登録商標 別紙第一商標公報(二)記載のとおり
2 原告は昭和三九年一二月以来、原告が開発した傾斜パイル洋服ブラシを始めそ
の他のブラシ類に「エチケツト」標章を表示して、全国の著名な百貨店、スーパ
ー、問屋及び多数の小売店において大々的に販売するとともに、テレビ、ラジオ、
新聞、雑誌等のマスコミ広告媒体に多額の費用を投じて積極的に宣伝に努めてきた
結果、「エチケツト」標章は原告商品(ブラシ類)であるとの出所表示機能を獲得
するに至り、「エチケツト」標章は昭和五七年一〇月末頃においても、なお原告商
品(ブラシ類)たることを示す標章として周知著名となつている。
3 しかるところ、被告らは、「エチケツト」標章が商品「ブラシ」類について周
知著名であることを知りながら、昭和五七年一二月以降洋服ブラシとヘアーブラシ
とを別紙第二の写真に表示する態様で一体とした商品(検乙第一号証。以下「イ号
商品」という。)を製造販売し、その包装用台紙(以下「イ号台紙」という。)
に、「ケースはエチケツト洋服ブラシです」「エチケツト洋服ブラシケース付折り
たたみヘアーブラシ」と表示して、「エチケツト」なる標章を使用し、又、右商品
に関するカタログなどにも「エチケツト」という標章を附して展示し又は頒布する
行為を敢えて行い、本件商標(一)(二)を故意又は過失により侵害している。
 又、被告らの右行為は、原告が多年にわたり多大の労力と費用をかけて取得した
「エチケツト」標章の周知著名性に便乗して、不法の利得を獲得し続けている極め
て悪質な行為であり、これを放置しておくことは消費者にイ号商品と原告商品との
混同誤認を生じさせるものであつて、これにより原告は営業上の利益を害されるお
それがある。
4 被告らは、故意又は過失によりイ号商品を製造販売して次の(一)(二)の利
益を得ているところ、右各利益額はいずれも原告が受けた損害額と推定されるので
(商標法三八条一項)、原告に対し右利益相当額の損害を賠償すべき義務がある。
(一) 真山商事は、昭和五七年一二月から昭和五九年五月までの間に、イ号商品
を一個八〇〇円の販売価格で一〇万個販売して、一個当たり少くとも一四〇円、合
計一四〇〇万円の利益を得た。
(二) ツバキは、昭和五七年一二月から昭和五八年一二月までの間に、イ号商品
を一個八〇〇円の販売価格で九万五〇〇〇個販売して、一個当たり少なくとも一四
〇円、合計一三三〇万円の利益を得た。
5 よつて、原告は被告らに対し、主位的に本件商標権(一)(二)に基づき、予
備的に不正競争防止法一条一項一号、一条ノ二第一項に基づき、次の各裁判を求め
る。
(一) 「ヘアーブラシ」「洋服ブラシ」又はその包装用台紙、カタログ等への
「エチケツト」標章の使用差止。
(二) 損害賠償金(真山商事は一四〇〇万円、ツバキは一三三〇万円)及びこれ
に対する訴状送達の翌日(真山商事は昭和五九年一月五日、ツバキは昭和五八年一
二月三〇日)から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払。
三 請求原因に対する被告らの認否及び主張
1 請求原因1、2項は不知、同3、4項は否認する。
2 本件商標(一)はエチケツトという太字の図形的文字であり、エチケツトなる
発音は商標の概念に入らないから、被告らが通常の活字でエチケツトなる文字を使
用しても本件商標権(一)の侵害にはならない。
 エチケツトは礼儀作法を意味する英仏共通語で、日本では外来語エチケツトとし
て同じ意味で普通名詞として広く使用し、被告らも礼儀作法にそつた身だしなみの
ためのブラシという意味で使用したにすぎず、本件商標権(一)(二)の侵害には
ならない。
 イ号商品はタツチアツプブラシの商標が表示されているヘアーブラシが本体であ
り、エチケツト洋服ブラシはその容れ物で付属品にすぎない。被告らがイ号台紙に
「エチケツト洋服ブラシケース付」「ケースはエチケツト洋服ブラシです」と記載
し、カタログに「ケースがエチケツト刷子になつているよ」と記載したのは、イ号
商品の説明文として形状・使用の方法を普通に用いられる方法で使用したにすぎ
ず、商標法二六条一項二号により本件商標権(一)(二)の効力はこれに及ばな
い。
 被告らが右の態様で、「エチケツト洋服ブラシ」の文言を用いることは、ヘアー
ブラシの容れ物についての単なる説明文にすぎず、本来の商標的使用には当たらな
い。
 又、エチケツト洋服ブラシはヘアーブラシのほんの付録にすぎないうえ、「エチ
ケツト洋服ブラシケース付」の文字は極めて小さく表示しているにすぎないので、
消費者が右文字に注目してイ号商品を原告商品と誤認混同して購入するものとは考
えられず、不正競争防止法にいう混同誤認を生ずるものでもない。
3 被告らは既に「エチケツト」なる文言をイ号台紙及びカタログの商品説明から
削除しているので、差止請求の対象物が消滅している。
4 イ号商品の小売価格は八〇〇円であるが、そのうちヘアーブラシの価格が六〇
〇円で洋服ブラシの価格が二〇〇円であるから、エチケツト洋服ブラシの製造販売
による利益はイ号商品の製造販売による利益の四分の一にすぎない。
 ツバキの昭和五八年中のイ号商品の販売数量は二二八一個、販売額は八六万七〇
〇〇円、荒利益は一七万四〇〇〇円にすぎない。
四 証拠(省略)
       理   由
一 成立に争いのない甲第四ないし第七号証によれば請求原因1項の事実が認めら
れ、真山商事、ツバキの各代表者本人の尋問結果によれば、真山商事は昭和五七年
一二月からイ号商品を製造して株式会社井田に販売し、同会社はイ号商品の一部を
ツバキに販売し、ツバキは昭和五八年中にイ号商品を全国各地の装粧品問屋へ販売
したことが認められる。
二 本件商標権(一)(二)の侵害について
1 イ号商品自体が本件商標権(一)(二)を侵害するか否かについて
 成立に争いのない甲第八号証の一ないし三、甲第一八号証、イ号商品であること
に争いのない検乙第一号証、真山商事、ツバキの各代表者本人の尋問結果によれ
ば、イ号商品はヘアーブラシとヘアーブラシを入れるケースが一体となつた商品で
あり、その正面から見た姿は別紙第二の写真のとおりであつて、別紙第三のイ号台
紙上の左右にヘアーブラシとヘアーブラシ用ケースを並べてセツトとし、同ケース
の下方三分の一ないし半分にかけて若い女性がヘアーブラシを使用している写真を
のせ、その上から一体的に硬質塩化ビニール製の透明カバーで覆われたものである
こと、イ号台紙には、その表側上部にヘアーブラシの商標であるタツチアツプブラ
シの表示がカタカナと英語で大きく記載され、その下に小さな文字で「エチケツト
洋服ブラシケース付」「折りたたみヘアーブラシ」の文言が記載され、その裏側に
は、タツチアツプブラシの特色、品質表示、使用方法等とともに、「ケースはエチ
ケツト洋服ブラシです」の文言が記載されていること、イ号商品のうちヘアーブラ
シは真山商事が発明奨励賞を受賞した実用新案権の実施品であり、スライダーを手
前へ移動させて合成樹脂製のブラシを立ち上がらせて使用する折りたたみ式のもの
で、使用時以外はブラシが倒れ、厚さがわずかに一二ミリメートルにすぎないた
め、これをヘアーブラシ用ケースに入れて持ち運びができるようになつているこ
と、右ヘアーブラシ用ケースはその一面が傾斜パイルが装着された除塵用の洋服ブ
ラシ(後記既に消滅している原告の実用新案権の実施品)になつているため、同ケ
ースを洋服ブラシとしても使用できること、ツバキは、自社の昭和五八年度版のカ
タログにイ号商品をタツチアツプブラシの商標を付して掲げ、その説明文中に小さ
な字でイ号商品の特色として、「ケースがエチケツト刷子になつているよ」の文言
を記載したことが認められる。
 右事実によれば、イ号商品は、イ号台紙の表面にヘアーブラシの商標であるタツ
チアツプブラシが大きく表示され、若い女性がヘアーブラシを使用している写真が
印象的であり、イ号台紙の裏側にもタツチアツプブラシの特色、品質表示、使用方
法等についての説明文が記載されていることからして、イ号商品はへアーブラシが
本体であり、ヘアーブラシ用ケースの一面が洋服ブラシとなつていて、同ケースを
洋服ブラシとしても使用できるにすぎないのであるから、洋服ブラシはイ号商品の
本体であるヘアーブラシの付属品にすぎない。このことは、イ号商品の小売価格八
〇〇円の内訳は、ヘアーブラシが六〇〇円でヘアーブラシ用ケースが二〇〇円であ
り(後記四参照)、ヘアーブラシが主たる価値を占めていることからも裏付けられ
る。もつとも、イ号台紙には、「エチケツト洋服ブラシケース付」「ケースはエチ
ケツト洋服ブラシケースです」の文言が記載され、又、ツバキのカタログにも、
「ケースがエチケツト刷子になつているよ」の文言が記載されているが、これは、
タツチアツプブラシなる商標で表示されたヘアーブラシにはヘアーブラシ用ケース
がついていて、同ケースを洋服ブラシとしても使用できることを消費者にアピール
したいためである。
 そうだとすると、「エチケツト」なる文言はイ号商品の単なる付属品にすぎない
洋服ブラシに使用されているにすぎず、イ号商品の主体であるヘアーブラシについ
てはタツチアツプブラシという商標が使用されていて、「エチケツト」標章は使用
されていないのであるから、イ号商品自体が本体商標権(一)(二)を侵害するも
のとは認められない。
2 イ号商品中の洋服ブラシ付ヘアーブラシケースが本件商標権(一)(二)を侵
害するか否かについて
 成立に争いのない甲第一八・第一九号証、甲第二〇号証の一ないし三、甲第二一
号証の一ないし四、証人Aの証言によれば、原告は、傾斜パイルが装着された除塵
用の洋服ブラシ(繊維、糸、毛等よりなる比較的短かい立毛を適宜形状の台体の台
面上に緻密に配置すると共に、立毛の毛足を一定の方向に伏倒させてなる除塵用ブ
ラシ)について、昭和三四年六月二六日実用新案出願し(実願昭三七ー五六〇五九
ー前特許出願日援用)、昭和三八年一〇月一四日出願公告され(実公昭三八ー二一
三二四)、昭和三九年四月二一日登録第五八七六〇七号として実用新案権を取得
し、一〇年間日本国内で独占的に販売したこと、原告は、本件商標権(一)の権利
者となつた昭和三九年以後も、傾斜パイル洋服ブラシに「エチケツト」の標章を表
示して全国の著名な百貨店、スーパー、問屋及び多数の小売店において大々的に販
売するとともに、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等のマスコミ広告媒体に多額の費用
を投じて積極的に宣伝に努めてきた結果、実用新案権が消滅した後も、取引業者、
一般消費者の間で、「エチケツト」の標章が表示された傾斜パイル洋服ブラシは原
告の商品であるとの出所表示機能を獲得するに至り、真山商事がイ号商品の製造販
売を開始した昭和五七年一二月当時も、「エチケツト」の標章は原告の傾斜パイル
洋服ブラシの商品表示として周知著名となつていたことが認められる。
 右事実によれば、取引業者、一般消費者の間では、「エチケツト」の標章が表示
された傾斜パイル洋服ブラシは原告商品であるとの出所表示機能を獲得しており、
「エチケツト」標章は原告の傾斜パイル洋服ブラシの商品表示として周知著名とな
つていたのであるから、被告らが、イ号台紙に「エチケツト洋服ブラシケース付」
「ケースはエチケツト洋服ブラシです」と記載したり、カタログに「ケースがエチ
ケツト刷子になつているよ」と記載すれば、取引業者、一般消費者は、イ号商品中
の洋服ブラシ付ヘアーブラシケースを原告商品である「エチケツト洋服ブラシ」と
誤認混同するおそれがあり、イ号台紙やカタログの「エチケツト」文言は自他商品
の識別機能を果たす商標として使用されているものというべく、被告らは、「エチ
ケツト」標章を本件商標(一)(二)の指定商品と同一商品である「洋服ブラシ」
に使用し、少なくとも過失により本件商標権(一)(二)を侵害したことが認めら
れる。
 被告らは、本件商標(一)はエチケツトという太字の図形的文字であり、被告ら
が通常の活字でエチケツトなる文言を使用しても本件商標権(一)の侵害にはなら
ないと主張するが、本件商標(一)と被告らが使用した標章「エチケツト」とは称
呼、観念が全く同一であり、通常の活字で「エチケツト」の文言を使用しても本件
商標権(一)の侵害となることは明らかである。又、被告らは、エチケツトとは礼
儀作法を意味する英仏共通語で、礼儀作法にそつた身だしなみのためのブラシとい
う意味で「エチケツト」文言を使用したにすぎず、本件商標権(一)(二)の侵害
にはならないと主張する。しかし、被告らは、エチケツト洋服ブラシが傾斜パイル
洋服ブラシの商品表示として周知著名となつていたからこそ、「エチケツト洋服ブ
ラシ」「エチケツト刷子」という文言を使用したのであり、礼儀作法にそつた身だ
しなみのためのブラシという意味で「エチケツト」文言を使用したものとは到底認
められない。更に、被告らは、「エチケツト洋服ブラシケース付」「ケースはエチ
ケツト洋服ブラシです」「ケースがエチケツト刷子になつているよ」の記載はイ号
商品についての単なる説明文であり、形状・使用の方法を普通に用いられる方法で
使用したにすぎず、商標法二六条一項二号により本件商標(一)(二)の効力はこ
れに及ばないとか、本来の商標的使用には当たらないと主張する。しかし、被告ら
が主張するように単なる説明文であるならば、「洋服ブラシケース付」「ケースは
洋服ブラシです」「ケースが洋服刷子になつているよ」と記載すればよく、原告の
傾斜パイル洋服ブラシの周知著名標章である「エチケツト」を使用する必要性など
全くなく、単なる説明文にすぎないとの主張は失当であり、被告らがイ号商品中の
傾斜パイル洋服ブラシについて「エチケツト洋服ブラシ」「エチケツト刷子」とい
う文言を使用すれば原告商品との誤認混同を生じるおそれがあり、右「エチケツ
ト」文言は自他商品の識別機能を果たす商標として使用されているものであつて、
商標法二六条一項二号の適用の余地はない。
三 本件商標権(一)(二)に基づく差止請求について
 真山商事は、イ号台紙に「エチケツト洋服ブラシケース付」「ケースはエチケツ
ト洋服ブラシです」と記載して洋服ブラシ付ヘアーブラシケースを製造販売し、
又、ツバキは、カタログに「ケースがエチケツト刷子になつているよ」と記載して
右ケースを販売し、本件商標権(一)(二)の侵害行為をしたのであるから、本件
商標権(一)(二)に基づく「エチケツト」標章の差止請求中「洋服ブラシ」に関
する部分は理由がある。しかし、被告らが製造販売したイ号物件の「ヘアーブラ
シ」には「エチケツト」の標章が使用されていないから、右差止請求中「ヘアーブ
ラシ」に関する部分は失当である。
 もつとも、被告らは、既に「エチケツト」なる文言をイ号台紙、カタログの商品
説明から削除しているので、差止請求の対象物が消滅していると主張する。しか
し、被告らが現時点ではイ号台紙やカタログの商品説明から「エチケツト」の標章
を削除しているとしても、被告らは、イ号台紙やカタログに「エチケツト」の文言
を記載しても本件商標権(一)(二)の侵害にはならないと主張して、商標権侵害
の事実を争つていることからして、将来再びイ号台紙やカタログ等に「エチケツ
ト」標章を使用して本件商標権(一)(二)の侵害行為をするおそれがあり、予防
請求としての差止請求が認められる。
四 本件商標権(一)(二)に基づく損害賠償請求について
 成立に争いのない甲第二九・第三一号証の各一・二、甲第三〇・第三二号証、証
人Aの証言、真山商事の代表者本人の尋問結果(但し後記一部措信しがたい部分を
除外)によれば、真山商事は、昭和五七年一二月からイ号商品(検乙第一号証)を
販売し、昭和五八年暮頃からはイ号商品と共に検乙第二号証の商品(ヘアーブラシ
と洋服ブラシ付ヘアーブラシケースとが一体となつたもの、但し包装用台紙にエチ
ケツトの文言が記載されていない。)も販売するようになつたこと、真山商事は、
昭和五七年一二月から昭和五九年五月までの間にイ号商品を一個当たり二八〇円の
単価で三万個販売し、一個当たりの荒利益一〇〇円に三万個を乗じた三〇〇万円の
荒利益を得たことが認められる。真山商事の代表者本人は、イ号商品は昭和五七年
一二月から昭和五八年一一月までの期間販売しただけであり、その販売数量約一万
個、荒利益約一〇〇万円前後にすぎないと供述するが、前掲甲第二九・第三一号証
の各一・二によれば、真山商事は島田印刷紙工株式会社から、昭和五七年一二月一
七日イ号台紙(甲第二九号証の一の品名コード一一九九九の分)を三万〇九一五
枚、そのブリスター(硬質ビニールカバー)を三万枚購入しているが、その後更に
昭和五九年五月二一日イ号台紙(甲第三一号証の一の品名コード一一九九九の分)
を九九〇〇枚、同月二四日イ号台紙(甲第三一号証の二の品名コード一一九九九の
分)を一万〇七一〇枚購入していることからして、真山商事が昭和五七年一二月に
購入したイ号台紙三万枚分は昭和五九年五月までに全て販売され尽くしたことが認
められるし、又、証人Aの証言により成立が認められる甲第二六号証、同証言によ
り昭和五九年三月八日に小売店で販売されていたイ号商品であることが認められる
検甲第四号証、及び同証言によれば、イ号商品は昭和五九年三月八日当時も小売店
で販売されていたことが認められるので、前記真山商事の代表者本人の供述は措信
しがたい。
 成立に争いのない甲第二七号証の二ないし九・一一、甲第二八号証の一・二、ツ
バキの代表者本人の尋問結果(但し後記一部措信しがたい部分を除外)によれば、
ツバキは昭和五八年中に株式会社井田からイ号商品を三〇一二個仕入れ、これを全
国各地の装粧品問屋へ一個当たり三八〇円総額一一四万四五六〇円の価額で販売
し、その二〇パーセントにあたる二二万八九一二円の荒利益を得たことが認められ
る。ツバキの代表者本人は昭和五八年中にイ号商品を二二八一個販売したにすぎな
いと供述し、乙第一号証(ツバキの昭和五八年分の商品別売上実績表)にも同旨の
記載があるが、右各証拠は前掲甲第二七号証の二ないし九・一一、甲第二八号証の
一・二の記載内容に照らして措信しがたい。
 前掲甲第八号証の二、ツバキの代表者本人の尋問結果によれば、イ号商品の小売
価格は一個当たり八〇〇円であるが、そのうちヘアーブラシが六〇〇円(四分の
三)、洋服ブラシ付ヘアーブラシケースが二〇〇円(四分の一)の価値を占めるこ
とが認められる。そうすると、前認定のように、イ号商品中に洋服ブラシ付ヘアー
ブラシケースがあることによつて、ヘアーブラシを主体とするイ号商品がはじめて
商品価値を獲得し、これなくしては売れないというものではないと認められるか
ら、被告らが前認定の商標権侵害行為によつて得た利益は、真山商事においては、
前記イ号商品製造販売による荒利益三〇〇万円の四分の一に当たる七五万円、ツバ
キにおいては、前記イ号商品販売による荒利益二二万八九一二円の四分の一に当た
る五万七二二八円と認めるのが相当である。
 もつとも、商標法三八条一項の適用にあたつては、証拠上被告の純利益を把握し
えたときはこれによるべきものであるが、その場合原告側が荒利益額について一応
の立証を遂げていれば、純利益額を算出するためのこれを減額する要素は、被告側
にその主張・立証責任を負わせるのが相当であると解する。蓋し、原告側には、被
告が得た利益を立証するためには文書提出命令の申立(商標法三九条、特許法一〇
五条)をすることができるが、これにより立証できるのは、侵害品の製造・販売数
量、販売価格、製造・仕入原価など荒利益額を把握できる資料に止まることが多
く、そうした場合、被告の得た利益額の立証責任が原告にあるからといつて、さら
に原告側に被告の利益となる純利益額算出のための減額要素の挙証義務を負わせ、
その資料の提出がないからといつて、損害額についての立証がないとしたのでは、
かえつて商標権侵害訴訟における原告の損害額の立証の困難性を緩和するために特
に設けられた右推定規定の活用が著しく困難となり、右推定規定が設けられた立法
趣旨にも反する結果となるからである。従つて、本件においても、被告らにおい
て、純利益額算出のための前記荒利益額を減額し得る要素について何ら主張・立証
しないので、商標法三八条一項により被告らの前記荒利益額をもつて原告の損害額
と認めるのが相当である。
五 不正競争防止法に基づく請求について
 原告は、イ号台紙に「エチケツト洋服ブラシケース付」「ケースはエチケツト洋
服ブラシです」と記載されていることから、ヘアーブラシと洋服ブラシとが一体と
なつたイ号商品自体について原告商品との誤認混同を生じるおそれがあると主張
し、予備的に不正競争防止法に基づき、「ヘアーブラシ」又はその包装用台紙、カ
タログ等に「エチケツト」の標章を附すことの差止を求め、又、イ号商品自体の製
造販売による被告らの利益相当額についての損害賠償を求めている。
 しかし、被告らはイ号商品中の「ヘアーブラシ」に「エチケツト」の標章を使用
していないのであるから(前記二の1参照)、不正競争防止法に基づいても、「ヘ
アーブラシ」に関して「エチケツト」標章の使用差止を求めることはできない。
 イ号商品は、イ号台紙の表側にヘアーブラシの商標であるタツチアツプブラシの
表示がカタカナ及び英語で大きく記載され、若い女性がヘアーブラシを使用してい
る写真が印象的であり、イ号台紙の裏側にも「タツチアツプブラシ」「タツチアツ
プブラシ本舗」と大きな太い字で記載され、タツチアツプブラシの特色、品質表
示、使用方法についての説明文が記載されていて、「エチケツト洋服ブラシケース
付」「ケースはエチケツト洋服ブラシです」の文字は小さく目立たないこと、イ号
商品はヘアーブラシ(タツチアツプブラシ)が本体であり、ヘアーブラシ用ケース
の一面が洋服ブラシ(エチケツト洋服ブラシ)となつていて、同ケースを洋服ブラ
シとしても使用できるにすぎないのであるから、イ号商品の外観や形態、説明文か
ら判断して、一般の消費者は、ヘアーブラシに着目してイ号商品を購入する者がほ
とんどであり、洋服ブラシに着目してイ号商品を購入する者は非常に少ないと思わ
れること、原告はイ号商品のヘアーブラシのようなブラシが立ち上つたり倒れたり
する折りたたみ式のヘアーブラシを製造販売していないこと、以上の諸点に照らせ
ば、イ号台紙やカタログに「エチケツト」文言が使用されていても、イ号商品自体
が原告商品と誤認混同されるおそれがあるものとは認められない。
 証人A(原告会社の社員)は、イ号商品を見た取引業者は、原告がタツチアツプ
ブラシ本舗へエチケツト洋服ブラシを販売しているのだなという受け取り方をする
と証言しており(同証人調書一九丁裏、二〇丁表)、右証言によるも、イ号商品中
の洋服ブラシについては原告商品と誤認混同されるおそれがあつても、イ号商品自
体について原告商品と誤認混同されるおそれがあるものとは認められない。
 そうだとすると、イ号商品中の洋服ブラシの製造販売行為が不正競争行為となる
ことがあつても、イ号商品自体の製造販売行為が不正競争行為になるとは認められ
ず、不正競争防止法に基づく損害賠償請求についても、イ号商品中のヘアーブラシ
の製造販売による利益相当分に関する部分は失当である。そして、イ号商品中の洋
服ブラシの製造販売行為が不正競争行為となるとしても、右洋服ブラシの製造販売
により、原告が前記認定の七五万円、五万七二二八円を越える損害を蒙つたことは
認められない。
六 以上の認定・判断によれば、原告の本訴請求については、「洋服ブラシ」又は
その包装用台紙、カタログ等への「エチケツト」標章の使用差止、真山商事に対す
る損害賠償金七五万円及びこれに対する訴状送達の翌日(昭和五九年一月五日)か
ら完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払、ツバキに対する損害賠償金五万
七二二八円及びこれに対する訴状送達の翌日(昭和五八年一二月三〇日)から完済
まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、
その余はいずれも理由がないので棄却することとして、民訴法九〇条、九二条本
文、一九六条一項を各適用のうえ、主文のとおり判決する。
(裁判官 潮久郎 紙浦健二 徳永幸藏)
第一 商標公報
<12547-001>
<12547-002>
第二 イ号商品の写真
<12547-003>
第三 イ号台紙
<12547-004>
<12547-005>

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛