弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
一 当事者双方の申立て
 控訴人は、「一 原判決を取り消す。二1 控訴人が被控訴人に対し、雇用契約
上の地位を有することを確認する。2 被控訴人は、控訴人に対し、金一七四万〇
四六九円及びこれに対する昭和六三年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合
による金員並びに同年一二月一日以降一箇月金一五万円を毎月二五日限り支払え。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに第二項
2につき仮執行の宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
二 事案の概要
 事案の概要は、以下のとおり、付加するほかは、原判決の「事実及び争点」欄の
「事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決六枚目裏五行目に行を改めて以下のとおり付加する。
 「なお、返品整理の仕事は、基本的には別の会社に依頼して行っているものであ
って、被控訴人会社の職員が行うのは例外的であり、しかも、被控訴人会社の職員
が行う場合でも、営業担当の者が行い、編集担当の者は例外的に行うにすぎないも
のであった。そして、控訴人が返品整理の仕事をさせられたのは、確認書作成直後
から二月の終わりまでの一箇月以上の長期に渡っていたこと等からすると、被控訴
人会社に債務不履行はないと評価することはできないものである。」
2 同七枚目表末行の「また、」の次に「被控訴人会社は従業員一〇人程度の会社
で、返品整理は取締役を含め従業員が仕事の合間に行っているのであって、三月末
日には退職する予定でより優先すべき仕事の少なかった控訴人に返品整理の仕事の
割当が多くなるのは自然のことであり、」を付加する。
3 同八枚目裏五行目に行を改めて以下のとおり付加する。
 「なお、民法の和解契約を締結することによって、労働基準法の強行規定の適用
を免れることはできない。労働基準法は、労働者の請求がなくとも、時間外賃金を
支払うべきことを定めているのであるから、現実にした時間外労働時間数全部につ
いて、割増分を含めて支払がされなければならない。
 また、確認書六項記載の『(支払額はA氏請求残業時間数×二分の一×時給七五
〇円とする)』の意味は、『残業時間数』の算出にある。すなわち、現実の残業時
間数につき、裏付けとなる証拠がない旨被控訴人側が主張したので、控訴人として
はやむなく、まず時間数について『控訴人請求残業時間数×二分の一』とすること
に合意した。その後、その時間数に当時の控訴人の時間給である七五〇円を乗じる
ことにしたのである。そして、当時、当事者双方とも、時間外割増賃金の問題は意
識していなかったため、単純に時間数×七五〇円と定めたものである。
 仮に、時間外労働の時間数については双方で和解をすることが可能であったとし
ても、本件では、前記のように、割増賃金分を支払わないという話は一切なかった
のであり、また、時間外割増賃金分は、強行法規である労働基準法によって当然算
出できるものであるから、右で定めた時間外労働時間数に二割五分増しの時間給を
乗じて、控訴人の賃金を算定すべきである。」
4 同八枚目裏末行の「団体交渉の結果、」の次に「『これまでの残業料の見合い
分』として」を付加する。
5 同九枚目表三行目の次に行を改めて以下のとおり付加する。
 「控訴人主張のごとく残業手当てについて労使間でどのような和解をしても後に
それを上回る残業をしたという資料が出てくれば和解は無効ということになると、
このような分野についての和解は無意味になってしまう。」
6 同九枚目表一〇行目の「また、」の次に以下のとおり付加する。
 「確認書七項は、他の職員との関係で差別的取扱を受けないという趣旨を含むも
のであるところ、」
三 争点に対する判断
 以下のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 争点
に対する判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一二枚目裏三行目の「予め」を「確認の意味で」と改める。
2 原判決一四枚目裏三行目から一六枚目表九行目までを以下のとおりに改める。
 「控訴人は、本件退職合意は、被控訴人会社が控訴人を昭和六二年一〇月一日以
前の就業形態に戻す債務を履行することを条件あるいは引換えとしていたと主張す
る。しかしながら、控訴人の退職を定めた本件の確認書には、『七 今後の就労に
ついては、就業規則にもとづき、①就業時間は午前九時から午後六時とする。②就
業については、一九八七年一〇月一日以前の形態とする。なお、雇用期間は一九八
八年三月三一日までとし、同日をもってA氏は退職する。なお会社は離職票を発行
する。』と記載されているにとどまるのであり、特に右書面の記載以上の合意がさ
れたと認める証拠はない(控訴人は、原審において、確認書締結の際に右債務が履
行されなければ、本件退職合意の効力が発生しないことが口頭で確認されたと供述
するが、控訴人のために交渉に当たった労働組合の書記次長である証人Bは、原審
において、『一〇月一日以前の形態にならなければ、三月三一日までに辞めるとい
うことはどうなるのか』という質問に対し、『そういうことが守られなければ問題
になると解釈していた』とあいまいに述べるにとどまっていること、前記引用の原
判決第三の一1認定の事実によれば、本件は雇用契約が存続しているかどうかにつ
いて争いがあり、何回かの労使交渉の結果労働組合の代表者も列席した上で達した
合意を書面化したものであるのであるから、控訴人の主張するような重要な事項が
書面に記載されないということは通常考えられないことを考え併せれば、同人の右
供述は信用し難い。)。右書面の記載に照らすと、被控訴人会社が控訴人を昭和六
二年一〇月一日以前の就業形態に戻す義務を履行したことが控訴人の退職の意思表
示の効力発生の条件であるとか、被控訴人会社の右義務と控訴人の退職の意思表示
をする義務とが対価関係にあり、被控訴人会社が右義務を履行したときに控訴人が
退職の意思表示をする義務を負うと解することは到底できない。控訴人が被控訴人
会社を昭和六三年三月三一日をもって退職するという合意は、雇用契約の期限付き
の合意解約を意味するもので、確認書作成時に確定的にされたものであり、改めて
別に控訴人が右期限に被控訴人会社を退職する旨の意思表示をする旨の債務を負う
ものではないと解するのが相当である(前記のように、被控訴人会社において、右
確認書締結の時点で退職届けの提出を別に求めたのは、単に確認的なものにすぎな
い。)。
 したがって、控訴人の主張は採用できない。
 また、控訴人は、被控訴人会社が就業形態を昭和六二年一〇月一日以前の形態と
するという債務の履行を怠ったから本件退職合意を解除したと主張する。しかしな
がら、右のように、被控訴人会社を昭和六三年三月三一日をもって退職するという
合意は、雇用契約の期限付きの合意解約を意味するもので、確認書作成時に確定的
にされたものであり、別に控訴人が右期限に被控訴人会社を退職する旨の意思表示
をする旨の債務を負うものではないのである。そして、確認書は、右合意解約を決
めるとともに、控訴人と被控訴人会社との間で存続しているかどうかが争われてい
た雇用契約につき、合意解約時点までの存続を確認し、さらに、争いあるその契約
内容の一部(就業形態及び勤務時間)を確定した和解契約を記載したものと解され
る。そうすると、このような和解契約の法的効果自体は即時に発生し、改めて債務
の履行を問題とする余地はないというべきであって、控訴人が問題としている就業
形態の問題は、右契約により確定された雇用契約上の債務の履行の問題にすぎない
のであり、仮に右の点につき債務不履行があったとしても、それを理由に右和解契
約自体を解除する余地はないというべきである(解除できるのは、雇用契約でしか
ないのである。)。
 そうすると、右の控訴人の主張も失当である。
 さらに、控訴人は、被控訴人が就業形態を昭和六二年一〇月一日以前の形態とす
るという債務を履行していないのに退職合意の点を主張するのは信義則に違反する
と主張するが、前記のように、右和解契約において退職合意と就業形態に関する合
意は何ら対価関係に立つようなものではなかったのであるから、仮に被控訴人会社
に就業形態の問題で債務不履行があったとしても、被控訴人が退職合意を主張する
ことが信義則に違反するとはいえない。」
3 同一六枚目裏一〇行目の「支払われたこと、」の次に以下のとおり付加する。
 「右は、時間外労働の時間数がどれだけであったかはさておき、トータルな金額
として右方式で算出した額を、控訴人のした時間外労働に見合う、しかも労働基準
法の定めた割増賃金部分を含めたところの時間外賃金分として支払う旨の合意であ
ったこと(なお、証人Bは、確認書作成に当たり時間外労働に対する割増賃金のこ
とは失念していたと供述するが、労働組合の書記次長という地位にあるものが、使
用者との交渉においてこのような基本的な事柄を失念するということは考えにく
く、右供述は到底信用し難い。)」
4 同一七枚目表七行目から裏四行目までを以下のとおりに改める。
 「右事実によれば、六項の括弧内の算式は、時間外労働の有無及び時間数に争い
がある中で、これまでの時間外労働全体に見合う時間外賃金の総額を算出するた
め、双方が妥協の上、その総額を算出するための算定方式を示したにすぎない。
『控訴人請求時間数×二分の一』という表現は現実の時間外労働の時間数を確認し
た上でその二分の一分しか時間外割増し賃金を払わないということを意味するもの
ではないし、『×七五〇円』としかされていないことも、時間外労働に対応した時
間外割増賃金部分を払わないということを意味するものではない。あくまで時間外
賃金請求権の有無及び額についての争いを前提として、時間外割増賃金部分も含め
全部でこの額を払うという合意なのである。したがって、右合意には、時間外労働
の一部については賃金を払わないとか、労働基準法に定める割賃増金部分は払わな
いという趣旨は含まれていない。そうすると、控訴人の主張するように、右合意が
労働基準法に違反し、無効であるということはできない。
 そして、時間外賃金の支払を定めた右合意は、時間外労働の有無及びその時間
数、したがって時間外賃金請求権の有無及び額について争いがあり、相互の互譲の
結果定められたものであるから、民法六九五条にいう和解契約と理解される。そう
すると、仮に控訴人がその主張する時間数の時間外労働をしていたことが証明され
たとしても、右合意で確定した金額を超える部分の時間外賃金請求権は、民法六九
六条により消滅したということになり、右合意により算定された金額に加えて別に
時間外割増賃金部分を請求する余地もない。」
5 同一八枚目表三行目冒頭から裏五行目までを以下のとおりに改める。
 「賞与請求権が発生するためには、控訴人と被控訴人との間で賞与を支給するこ
とにつき合意がされていることが必要で、たとえ被控訴人会社の他の従業員全員に
対して賞与が支給されたとしても、そのことから直ちに控訴人に賞与請求権が生ず
るものではない。控訴人は、確認書七項の『就業については、一九八七年一〇月一
日以前の形態とする。』との文言を根拠に賞与の請求権があると主張し、原審にお
ける同人の供述中にはそれに沿うかのごとき部分も存在するが、その文言からして
そこに当然賞与支給の合意が含まれていたとは解し難いのみならず、控訴人自身の
作成によること争いのない乙第五号証(『確認書について』と題する書面)におい
ては確認書において残業代が支払われるに至ったことを『年末のボーナスがゼロで
したから、これでもとても助かります。』としていて、控訴人も右書面作成の時点
(昭和六三年一月二九日)においてはボーナスが支払われないことを特に疑問視し
ていないことが窺われること、原審における証人B及び証人Cの証言によれば、確
認書締結までの交渉の過程で冬季賞与の支払について具体的に話題になったことが
ないことが認められることに照らすと、控訴人の前記供述部分は信用し難く、確認
書七項に賞与支給の合意が含まれているということはできない。さらに、控訴人
は、確認書七項の右合意には、賞与等につき控訴人を他の従業員と差別しない、す
なわち他の従業員と同様に取り扱うとの趣旨が含まれていたところ、昭和六二年の
冬季賞与は控訴人と同期入社者を含む被控訴人会社の従業員全員に支払われたか
ら、控訴人にも昭和六二年の冬季賞与請求権が発生したとも主張し、原審における
控訴人本人の供述中にはそれに沿う部分があるが、右七項の文言からは控訴人の賞
与の支給を含む労働条件を他の従業員と同様にするという合意が含まれていたとは
解し難いことや、原審における証人Bの証言等に照らし、控訴人の右供述部分は信
用し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。そうすると、控訴人の冬季賞与の
請求は理由がない。」
四 よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないか
ら、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用
して、主文のとおり判決する。
(裁判官 宍戸達徳 大坪丘 福島節男)

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