弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
原決定を破棄し、大阪地方裁判所平成一一年(ヲ)第七四五六号債権転付命令申立
事件につき同裁判所が平成一一年八月三一日にした申立却下決定を取り消す。
大阪地方裁判所平成八年(ル)第二二九六号債権差押命令により差し押さえられた
別紙債権目録記載の債権を支払に代えて券面額で抗告人に転付する。
抗告手続の総費用は相手方の負担とする。
         理    由
 抗告代理人竹川秀夫の抗告理由について
 一 記録によれば、本件の経過は、次のとおりである。
 1 抗告人は、相手方に対する金員の支払を命ずる確定判決を債務名義として、
別紙債権目録記載の債権(以下「本件債権」という。)の差押命令を得た上、本件
債権を抗告人に転付する旨の命令を申し立てたところ、執行裁判所は、右申立てを
却下し、原審も右決定を維持した。
 2 本件債権は、相手方が、抗告人に対する大阪高等裁判所平成八年(ウ)第三
八五号強制執行停止決定申立事件につき、保証として、平成八年四月八日、株式会
社D銀行との間に支払保証委託契約を締結するに際し、同銀行に預け入れた定期預
金六五〇万円の払戻請求権であるが、本件債権については、相手方が右支払保証委
託契約に基づき同銀行に対して負担する債務を担保するため、同銀行が質権を有し
ている。
 3 原審が、転付命令の申立てを却下すべきものとした理由は、質権が設定され
ている債権は、将来における質権の実行の有無及びその範囲により初めて債権額が
確定するものであるから、民事執行法(以下「法」という。)一五九条一項にいう
券面額を有する債権であるとはいえず、転付命令を発することができないという点
にある。
 二 しかしながら、右3の原審の判断は是認することができない。その理由は、
次のとおりである。
【要旨】質権が設定されている金銭債権であっても、債権として現に存在している
ことはいうまでもなく、また、弁済に充てられる金額を確定することもできるので
あるから、右債権は、法一五九条にいう券面額を有するものというべきである。し
たがって、質権が設定されている金銭債権であっても、転付命令の対象となる適格
がある。もっとも、転付命令が発せられ、執行債権等が券面額で弁済されたものと
みなされた(法一六〇条)後に、質権が実行された結果、執行債権者が転付された
金銭債権の支払を受けられないという事態が生ずることがある。その場合には、転
付命令により執行債権者が取得した債権によって質権の被担保債権が弁済されたこ
とになるから、執行債権者は、支払を受けられなかった金額について執行債務者に
対する不当利得返還請求などをすることができるものと解すべきである(大審院大
正一三年(オ)第九二三号同一四年七月三日判決・民集四巻六一三頁参照)。
 三 以上によれば、原審の前記判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、
右違法が裁判に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原決定は破
棄を免れない。そして、抗告人の本件債権に対する転付命令の申立ては、認容すべ
きものである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 亀山
継夫 裁判官 梶谷 玄)

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