弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
平成年月日岡山県倉敷市長に対する届出によってなされた原112330
告と被告との間の養子縁組は無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。2
事実及び理由
第請求1
主文同旨
第事案の概要2
請求の原因1
()平成年月日,岡山県倉敷市長に対し,原告と被告との間の養子112330
縁組(以下「本件養子縁組」という。)の届出がなされた。
()しかし,本件養子縁組の届出は,被告において,原告が,その当時,老2
人性痴呆で,養子縁組がどのような意味をもつのかについて全く理解してお
らず,意思能力が著しく不十分な状態であるのを利用して,原告の財産を取
得する目的でなされたものである。このことは,本件養子縁組の届出の前後
を通じ,原告と被告との間に親子関係を継続させる事情がないことからもう
かがわれる。
したがって,本件養子縁組は,原告に縁組意思を欠き,無効である。
()よって,原告は,被告に対し,民法条号に基づき,上記届出によ38021
ってなされた本件養子縁組が無効であることの確認を求める。
請求の原因に対する認否2
()請求の原因()の事実は認める。11
()同()の事実は否認する。22
原告は,本件養子縁組の届出当時,正常な意思能力と判断能力を有してい
た。また,本件養子縁組は,約年以上にわたる原告と被告間の事実上の50
親子関係を戸籍上確定し,原告の要請により被告が祭祀承継者となるために
なされたものである。
したがって,本件養子縁組は,原告に縁組意思が認められ,有効である。
第当裁判所の判断3
証拠(甲ないし,ないし,,,乙,,〈書証については枝番を113591213237
含む。以下同じ。〉,証人D,同E,被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,
次の事実が認められる。
()原告及び被告の身分関係は,別紙「関係者一覧」のとおりである。1
被告は,昭和年月日,父Fと母Gとの間の長男として出生したが,17531
197182211Fが昭和年月日に戦死したため,Fの弟である原告が昭和年
月日にGと婚姻届出をし,以後,原告とGのもとで監護養育されてきた18
ところ,昭和年月日,妻Hと婚姻届出をし,Hとの間で男女45121612
をもうけている。
30410556原告とGは,昭和年月日,長女Eをもうけ,Eは,昭和年
月日,夫Iと婚姻届出をし,Iとの間で女をもうけている。42
()原告は,農業に従事するかたわら,Gとともに暮らしていたが,多発性2
脳梗塞に罹り,平成年当時,詳細な程度は不明であるが,痴呆の存在がう5
かがわれていた。
また,原告は,平成年ころ,小脳梗塞を患い,平成年月ころ,E方791
において,自宅に置いてきた金員の額や置き場所が分からなくなったりする
など,物忘れの頻度が増え,理解力も低下するようになり,平成年ころ10
に,Gから,Eに対し,原告の行動に異常がみられるとの相談が何度もある
ようになり,平成年ころには,物や書類の置き場所を自分で移動させて12
おきながら,その所在が不明になり他人のせいにすることが多々みられ,平
成年月日から同年月日までの間,医療法人以心会難波医院に13321421
入院したが,その際,自分の病室が分からなくなることなどもあった。
そして,原告は,平成年月日当時,脳CTの所見で大脳皮質の萎13718
縮や脳室の拡大が認められた上,妄想・記憶障害等が確認されるとともに,
長谷川式簡易知能評価スケールは点で,中等症の老人性痴呆と診断され,15
同年月日当時に,長谷川式簡易知能評価スケールは点で,やや高度10157
のアルツハイマー型痴呆と診断され,平成年月日当時には,中程度1437
の脳血管性痴呆で,知的能力に障害があり,自己の財産を管理処分すること
はできず,回復の可能性は極めて低いものと判定されている(平成年月146
日,後見開始の審判が確定し,成年後見人としてE及び弁護士Bが選任26
された。)。
()被告が昭和年月日にHと婚姻した後,GとHとの仲がうまくい3451216
かず,次第に対立するようになり,これに伴い,原告及びG夫婦と被告及び
H夫婦との間で接触がほとんどなくなり,逆に,Eが昭和年月日に5564
Iと婚姻してからは,むしろ原告及びG夫婦とE及びI夫婦との間で親戚付
き合いがみられるようになった。
その後,Gが平成年月日に死亡したため,原告は,しばらくの間,11213
いわゆる放心状態になり,原告に対する日常の世話は,主にE及びI夫婦が
これを行い,原告の金銭管理や納税申告事務は,IがGの生前から担当して
いたのをそのまま引き継いだ。
なお,被告も,Gの死後,同年月ころまでの間,原告方に泊まりに行っ8
たり,また,その後,原告も,週に数回の割合で,被告方を訪れたりするこ
とがあった。
()こうした中,被告は,平成年月末ころ,原告に対し,本件養子縁組4122
の話を持ち掛け,養子縁組届の用紙の「養子になる人」欄に自己の氏名,住
所及び本籍等を記入し,同年月上旬ころ,原告の弟Jに「証人」欄への署3
名押印を依頼した上,原告にこれを預けた。
被告は,同月日,原告に対し,養子縁組届の用紙に署名押印するよう29
一方的に話し掛け,これに対し,原告は,ほとんど黙った状態で,積極的な
意思表示をすることなく,養子縁組届の用紙の「養親になる人」欄に自己の
氏名,住所及び本籍等を記入し,被告にこれを渡した。
被告は,友人のKに「証人」欄への署名押印を依頼した上,同月日,30
岡山県倉敷市長に対し,本件養子縁組の届出をしたが,その際,戸籍事務担
当者から,配偶者であるHとともに縁組をするよう指摘され,その場で,
「養子になる人」欄にHの氏名を代署し,上記届出をした。
()Eは,同年月ころ,亡Gを契約者とする火災保険の名義変更の目的で54
原告の戸籍謄本を取り寄せたところ,原告と被告及びH夫婦との間の養子縁
組の届出がなされていることを知った。
Eは,原告に事情を尋ねても要領を得なかったため,同年月ころ,弁護6
士のもとへ相談に行き,弁護士から,原告が被告に暴行脅迫を受けたことが
ない限り原告と被告との間の養子縁組の解消は困難であるが,原告にとって
他人であるHについては養子縁組の解消は可能かもしれないとの助言を受け,
これに基づき,原告が申立人になり,とりあえずHを相手方として,原告と
Hとの間の養子縁組無効の調停を申し立てた。
上記調停の期日呼出状が同年月日にHのもとに送達されたことから,89
被告は,Eに連絡をして話し合いの機会をもつこととし,同月日,原告,15
被告及びH並びにE及びIの人が集まったが,結局,話し合いはまとまら5
なかった。
その後,Hは,同年月日,原告とHとの間の協議離縁届を提出した1010
ため,上記調停の申立ては取り下げられた。
()原告は,岡山県倉敷市内に多数の土地建物を所有し,これらの不動産だ6
けでも平成年度固定資産税評価額で約億円の価値があるほか,多額の132
預貯金を有している。
ところで,本件養子縁組につき,原告は,原告に縁組意思を欠き,無効であ2
ると主張するのに対し,被告は,原告に縁組意思が認められ,有効であると主
張する。
そこで,検討するに,縁組意思は,縁組当事者間において,社会習俗観念か
らみて,真に親子と認められるような身分関係の創設を求める効果意思である
とされているから,基本的には,親子という親族関係を人為的に設定すること
を常識的に理解し得る能力で足りると解するのが相当である。しかし,本件の
ように,養親となるべき者の縁組意思の有無に疑義があり,また,養子縁組の
結果によっては養親となるべき者の推定相続人に財産上重大な影響を及ぼす場
合もあるから,これらのこともある程度理解し得るだけの認識がなければなら
ないというべきである。
上記認定の事実によれば,①原告は,本件養子縁組の届出当時,歳と79
高齢であった上,平成年当時に痴呆の存在がうかがわれ,平成年ころから59
痴呆の症状が少しずつみられるようになり,次第にその程度を増しつつ,平成
年月ころに中等度の痴呆との診断を受け,平成年月に自己の財産を137143
管理処分することはできないと判定され,同年月には後見開始の審判がなさ6
れており,本件養子縁組届出の前後の経緯に照らし,弁識力,判断力及び決断
力等の意思能力に相当程度の低下がみられたと推認できること,②Gの死亡
前には,GとHとの不仲から,原告及びG夫婦と被告及びH夫婦との間で接触
がほとんどなく,むしろ原告及びG夫婦とE及びI夫婦との間で親戚付き合い
がみられたところ,Gの死亡後も,原告に対する日常の世話は,主にE及びI
夫婦がこれを行っていたこと,③本件養子縁組は,当初,被告及びH夫婦を
原告の養子としようとするものであったが,この届出当時,原告と被告及びH
夫婦との間には,法律上の親子関係を殊更に形成しなければならない特段の必
要性はないこと,かえって,④Eと被告との間で原告の財産管理をめぐる紛
争が潜在していることがうかがわれる中で,本件養子縁組の届出は,原告の遺
産に対する被告の相続分を獲得し,逆に,Eの相続分を減少させる結果をもた
らすものであること,したがって,⑤このような事情の下で本件養子縁組を
しなければならないのであれば,後日,その効力をめぐる紛争の発生を回避す
るため,例えば養子縁組届の用紙の作成ないし提出に際し,原告の意思を確認
できる公正な第三者を立ち会わせるなどの配慮をすべきであるにもかかわらず,
本件では,そのような配慮がなされた形跡はないこと,しかも,⑥仮に本件
養子縁組の届出が原告の真意に基づくものであれば,その届出の前後を通じ,
原告の唯一の実子であり,かつ重大な利害関係を有するEに対し,本件養子縁
組の事実を相談ないし報告して公表してしかるべきであるところ,被告は,本
件養子縁組の届出前はもちろん,届出後に至っても,上記事実を秘匿していた
ことなどの事実が認められる。
これらの事実にかんがみると,本件養子縁組の届出当時,原告が身分上及び
財産上重大な結果を及ぼす本件養子縁組の趣旨をある程度理解し得るだけの認
識を有していたかは疑わしく,しかも,本件養子縁組の届出に至る経緯に不自
50然不合理な点が多々認められる。そうすると,本件養子縁組は,被告が約
年以上にわたる原告と被告間の事実上の親子関係を戸籍上確定し,自ら祭祀承
継者となるためになされたものであることや,原告が養子縁組届の用紙に氏名,
住所及び本籍等を自署したことをもって,原告に縁組意思があることを認める
のは相当でない。かえって原告の縁組意思に対する疑いを否定するに足りる客
観的事情の存在が明らかにされない限り,原告が正常な判断能力のもとに本件
養子縁組をすることを理解し,真意に基づいてその届出を行ったものではない
と推認すべきである。
なお,被告は,本人尋問の結果及び陳述書(乙)において,原告は,本件養3
子縁組を次第に納得したとか,本件養子縁組の後,被告に対し,葬礼関係の積
立証書を託し,原告所有の不動産に関する固定資産税通知書を渡したとか供述
するが,これらの供述等は,いずれも被告の言い分のみに基づくものであり,
原告の縁組意思に対する疑いを否定するに足りる客観的な事情とはいい難い。
したがって,被告の上記主張はいずれも採用できない。
以上によれば,本件養子縁組は,原告に縁組意思を欠き,無効であるといわ4
ざるを得ない。
結論5
よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決
する。
岡山地方裁判所倉敷支部
裁判官中川博文
(別紙添付省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛