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平成28年3月30日判決言渡
平成25年(ワ)第4400号残業代支払等請求事件
主文
1被告は,原告に対し,279万2229円及びこれに対する平成25年5月
15日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを3分し,その2を原告の負担とし,その余は被告の負担と
する。
4この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主文1項と同旨
2被告は,原告に対し,211万0486円及びこれに対する本判決確定の日
の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,平成23年4月1日から平成24年8月20日まで,正社員とし
て被告に勤務していた原告が,被告に対し,[請求1]在職期間中の割増賃
金279万2229円及びこれに対する催告日の翌日である平成25年5月
15日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払
及び[請求2]上記割増賃金について付加金211万0486円(ただし,
原告が訴えを提起した平成25年10月5日の2年前以降に支払期日が到来
する平成23年9月分を始期とする。)及びこれに対する本判決確定の日の
翌日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求
めた事案である。
1前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠により容易に認められる事実)
被告は,一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社であり,愛知県
弥富市にトラックセンター(以下「事業場」という。)を置いている(甲
1,乙27)。
原告は,平成23年4月1日,被告との間で,正社員として,期間の定
めのない雇用契約を締結し,長距離トラックの運転手として,貨物運送に
従事した(争いがない)。
被告における1日の所定労働時間は,午前8時から午後5時まで,うち正
午から午後1時までの1時間を休憩時間とする1日8時間である(甲2)。
また,労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)19条1項4号に
基づいて,1時間当たりの労働単価(以下「基礎時給」という。)を計算
するに当たり,1年間における1月平均所定労働時間数を176時間とす
ることに当事者間に争いはない。
ア被告における賃金は,毎月末日に締め切り,翌月20日に支払われてい
た(甲2)。
イ平成23年4月分から平成24年8月分までの原告の賃金は,別紙1
「給与等一覧表」(以下「給与等一覧表」という。)のとおりである(甲
5の1ないし17)。
ウ賃金のうち,基本給,皆勤手当,報償手当,安全運転手当を,労基則1
9条1項4号における「月によって定められた賃金」とすることに当事者
間に争いはなく,これらを前記⑶の1月平均所定労働時間で除した基礎時
給は,給与等一覧表の「基本給部分基礎時給」欄記載のとおりである。
エ被告の就業規則には,長距離手当,報償手当及び固定残業手当について,
下記の規定がある(甲2)。

37条(基本給,手当等)
3項長距離手当は,大型・中型に乗務した者に対し,原則トラック協会の
資料から換算した走行距離に応じ,1km当たりの単価を会社が決定
し支給するものとする。
7項報償手当は,大型・中型に乗務した者に対し,一行程につき会社が決
めた手配により,会社の決めた距離と積卸しの件数の両方を達成した
者に支給する。
11項固定残業手当は,会社が決めた業務に従事する者に対し,各人の月当
たりの残業・休日・深夜をみこし,毎月決まった額を支給する。なお,
残業・休日・深夜時間は,随時改訂するものとする。
12項残業・法定外休日・法定休日・深夜手当は,法定労働時間を超えた時
間・法定外休日・法定休日に労働した時間・深夜(22時から5時ま
で)に労働した場合に支払うものとする。なお,対象時間が長距離手
当の支給対象時間と重なっている場合で,この項で計算したものより
多くなる場合は,長距離手当をこの項の手当に読み替えるものとする。
原告は,事業場を出発すると,関東,関西,中国,四国その他遠方の複数
の目的地を経由しながら,荷物の積卸し及び積込みを繰り返し,数日後,事
業場に帰着するといった態様で業務に従事していた(甲3。以下,目的地
(経由地を含む)における荷物の積卸し及び積込みも含め,事業場を出発
(トラックが実際に動き始めたことを意味する。)してから事業場に帰着
(トラックが実際に停止したことを意味する。)するまでの業務を「長距離
運送業務」という。)。
平成23年4月1日から平成24年8月18日までの期間に原告が従事し
た長距離運送業務の1日ごとの開始時刻及び終了時刻は,別紙2「労働時間
表」(以下「労働時間表」という。)の「始業」及び「終業」欄記載の時刻
のとおりである。
また,原告は,同表の1日ごとの始業から終業までに,高速道路のサービ
スエリア等において,複数回に分けて休憩を取得しているところ,その合計
時間は同表の「休憩」欄記載のとおりである。
同表に記載された1日ごとの労働時間を,1月ごとに集計すると,別紙3
「労働時間集計表」(以下「労働時間集計表」という。)のとおりである。
(以上につき,争いがない)
原告は,長距離運送業務(事業場からの出発)に先立ち,長距離運送業務
の準備作業(事業場内のコンテナにおけるアルコール検査等)を行っていた。
また,原告は,長距離運送業務の終了(事業場への帰着)後,長距離運送
業務の後始末作業(トラックからメモリカードを取り出して,事業場内の事
務所で,被告の事務員と一緒にプリントアウトした速度チャートの確認作業
を行ったり,日報を提出したりする。)を行っていた。
これらの準備作業及び後始末作業は,労働時間表の「実労」欄記載の実労
働時間には計上されていない。(以上,争いがない)
原告と被告との労働契約は,平成24年8月20日,終了した(争いがな
い。なお,終了事由について,当事者間に争いがあるものの,本請求の当否
には関係しない。)。
原告は,平成25年5月14日配達の内容証明郵便をもって,被告に対し,
平成23年4月分から平成24年8月分の割増賃金を請求した(甲6の1・
2)。
原告は,平成25年10月5日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
2争点
長距離手当の支払が割増賃金の支払として有効か
原告の時間外,深夜及び休日労働に対する割増賃金の額
付加金請求の当否
第3争点に対する当事者の主張
1長距離手当の支払が割増賃金の支払として有効か)について
(原告の主張)
長距離手当は,歩合給として,割増賃金の算定基礎に含まれること
ア労働基準法(以下「労基法」という。)37条1項は,割増賃金の算定
基礎を,「通常の労働時間又は労働日の賃金」と規定する。
長距離手当は,所定労働日の所定労働時間に勤務した場合も支払われ,
時間外・休日・深夜労働の有無によって金額に差は設けられていないこと
から,所定労働日の所定労働時間に対して支払われるものといえる。
イ労基則21条は,算定基礎から除外される賃金として,「別居手当,子
女教育手当,住宅手当,臨時に支払われた手当,1か月を超える期間ごと
に支払われる賃金」と規定している。これらは制限列挙であり(最判昭和
63年7月14日),かつ,名称にかかわらず実質解釈されなければなら
ない(昭和22年9月13日発基17号)。
ウ長距離手当は,通常の労働であるトラック走行の距離に応じて支払われ
るものであり,制限列挙のどれにも当たらず,算定基礎から除外されない。
エ運賃と距離との間にも関連性があるはずであるから,長距離手当は,ま
さしく売上・成果に応じた歩合給と言える。
長距離手当は,割増賃金に該当しないこと
ア長距離手当は,時間外か時間内か,休日か否か,深夜か否かにかかわら
ず,走行距離に応じて支払われるものであり,必ずしも時間外勤務時間数,
深夜勤務時間数に比例するわけではない。走行距離と勤務時間に全く関連
性がないわけではないが,勤務時間に比例する関係にはなっていない以上,
時間数に応じて支払われるべき割増賃金の性格を含むとすることには無理
がある。
イ長距離手当の単価が,深夜かどうか,休日かどうかが全く考慮されてい
ない点も,深夜労働や休日労働について割増賃金を支払わなければならな
いとされた労基法37条の趣旨に反している。
ウ仮に,長距離手当に割増賃金として支払われる部分があるとしても,全
てが割増賃金とはいえず,少なくとも,一部については,時間内労働に対
応する部分が含まれている。
この点,労基法37条の割増賃金が支払われたというためには,割増賃
金の趣旨で支給された手当のうち,どの部分が割増賃金に相当するかが明
確に峻別できなくてはならない。すなわち,その手当を,割増賃金に読み
替えることが許されるのは,①その手当が実質的に割増賃金としての性
格を有すること,②その手当のうち割増賃金相当部分とそれ以外の部分
とが明確に峻別できることが必要である。
本件において,長距離手当のどの部分が割増賃金相当部分といえるか明
確に峻別することは不可能であって,長距離手当を割増賃金に読み替える
ことはできない。
エ仮に長距離勤務が割増賃金を含むものだとすると,時間外勤務時間数が
増えるほど,特に深夜勤務,休日勤務が増えるほど,時間外手当以外の部
分の手当が減るという不合理な結果になる。
また,歩合給部分も残業単価に反映されるべきであるが,残業が増えれ
ば増えるほど,長距離手当のうち歩合給部分が減り,残業単価が低くなる
という矛盾も生じる。
さらに,長距離手当のうち,勤務時間と比例して支払われる部分がどの
部分か対応が明らかになっていない点も問題である。被告は,長距離手当
よりも時間単位で計算した方が多くなるのであれば差額分は当然支給する
前提であるというが,給与明細にはどの部分が割増賃金部分か明らかでな
く,実際上労働者としては差額分の支給を求めることはできない。
オ以上より,就業規則37条12項は,労基法37条を潜脱するものとし
て,無効である。
採用時の説明
労基法は,労働者の雇入れに際し,使用者は労働条件を書面によって明示
すべきことを義務づけており(労基法15条),賃金の計算方法は使用者自
ら進んで説明しなければならないものである(労基則5条3号)。
被告は,原告の採用時に,長距離手当に残業代が含まれることの説明をし
た,原告がこの点を承諾したと主張するが,否認する。
かえって,被告は,原告に対し,長距離手当と固定残業手当との関係を説
明していないことを自認しており,この点を説明していなかったことは,長
距離手当を割増賃金に読み替えることのできない1つの理由となる。
長距離手当を割増賃金と位置付けると最低賃金に違反すること
ア長距離手当が割増賃金であるとすると,原告の基本給12万円を所定労
働時間で除した金額が,平成23年の愛知県最低賃金(時給750円)を
下回る。
イ被告は,報償手当も最低賃金の比較の対象となる賃金に算定されるので,
最低賃金を下回らない旨主張する。
しかし,報償手当がどのような基準でいくら支給されるのか就業規則上
不明であり,いわゆる精勤手当(ある一定の基準を達成した者だけに支給
される手当)と解するべきであり,被告の主張は採用できない。
仮に,報償手当を最低賃金の計算に含めたとしても,時間額は750円
と平成23年当時の最低賃金と同水準である。
ウ以上のとおり,長距離手当を割増賃金と位置付けることは,原告に著し
く低額な賃金を強いることになり,不合理である。
(被告の主張)
就業規則37条12項の内容に問題はないこと
ア合理性
被告としては,永年の経験から,トラック運転手に対して,基本給と超
過勤務手当という形で給料を支払うよりも,超過勤務手当の代わりに,長
距離手当を支給する方が,金額面でトラック運転手に有利であると認識し
ていた。
イ必要性
被告の長距離トラックでの輸送先は,東京・大阪・東北・九州など遠方
であるため,必然的に労働時間が長くなり,また運送の便宜(走りやすい
時間帯等)の関係から,深夜労働になる性質がある。
そのため,一方で,そのように,労働時間が長くなった運転手に対して,
基本給以外に必要な手当を支払って,その労働に報いなければならない。
しかし,他方で,トラック運転手は,使用者から直接目の届かないとこ
ろで労務を提供することから,単に時間のみに基づいて賃金を計算すると,
労働者が意図的にスピードを落として労働時間を長くして残業代を請求し
たり,深夜走行時間が長くなるように調整するなど,不要な時間外手当を
発生させることが可能となってしまう。
また,ドライバーによっては,出発してから客先(荷降し先)まで一気
に走り,あとでまとめて休息をとることを好むドライバーもいれば,途中
何度も休憩や休息をしながら時間ギリギリで積卸し先まで到着するドライ
バーもいる。ドライバーによって,走り方の個性は様々である。
この場合に,単に時間のみを基準に残業代や深夜手当を算定すると,例
えば,前者のドライバーのみ給料が少なくなってしまうことになる。
そこで,これらの弊害を回避しつつ,労働者に対して時間外手当を適切
に支給するための手当が,長距離手当である。
ウ許容性
走行距離と労働時間は相当程度比例するため,長距離手当の算定で時間
外労働及び深夜労働時間を,暫定的に算定できる。
しかも,実際の労働時間を前提に算出するよりも,超過勤務手当の代替
として,長距離手当及び長距離手当の補完として現金支給している運行費
の合計額の方が高く,労働者に有利である。なお,タコメーターがあるに
もかかわらず,毎回,事務員が日報と照らし合わせ,かつ,本人に確認し
て,運行開始,積む,降ろす,休息開始などを手書きでタコメーターに書
き込んでいるのは,場合によって,時間単位で計算した割増賃金が長距離
手当を上回る場合に対応するためである。
さらに,タコメーターによって捕捉されない事業場から出発前,事業場
に帰着後,客先での積込み,積卸しなどの労働時間に対しては,固定残業
手当が支払われている。これに加え,長距離運送業務の途中,運転手が給
料等を使い切っていて,食事代などがないといけないということで,時間
外手当分の一部を,会社を出発するときに,現金で交付している。
なお,就業規則37条12項は,(割増賃金の)「対象時間が長距離手
当の支給対象時間と重なっている場合で,この項で計算したものより多く
なる場合は,長距離手当をこの項の手当に読み替えるものとする」と規定
しており,時間単位で計算した額が長距離手当を上回れば,差額分は当然
支給する前提である。
エ賃金総額としての許容性等
公益社団法人全日本トラック協会のデータ(従業員数500人以上の大
企業も含む)によると,男性大型運転者の1か月の平均賃金は,平成23
年度で33万3900円である。
原告の場合,平成23年度分の1か月の平均賃金(給料明細平成23年
5月から平成24年4月分)は,41万5301円であり,業界の実情と
比較しても十分な額が支給されている。
他方,これとは別個に,原告主張のような割増賃金の未払が認められた
ら,被告が運送で得た利益よりもはるかに多い額を原告に支払うことにな
り,会社の経営自体が成り立たなくなってしまう。
長距離手当の全額が割増賃金であり,明確性の原則に反しないこと
前記のとおり,被告の長距離トラックの輸送先は,東京・大阪・東北・九
州などの遠方であるため,必然的に労働時間が長くなり,また運送の便宜の
関係から,深夜労働になる性質がある。したがって,被告における長距離ト
ラックの運転手は,1日目の深夜に事業場を出て,2日目に走行と休憩を繰
り返し,3日目になって事業場に帰着するといった勤務形態となる。
この点,長距離手当は,日帰り勤務のみのトラック運転手には支給されず,
日を超えて勤務するトラック運転手に対してのみ,支給されている。
このことから,長距離手当は,通常の労働時間内の走行距離分について支
給されるものではなく,1日目に事業場を出て,2日目,3日目と走行し,
帰着するという時間外及び深夜の勤務に対して支払われるものであり,全額
が時間外及び深夜の勤務に対する手当といえる。
原告は,「給与明細にはどの部分が割増賃金部分か明らかでない」とも主
張するが,長距離手当全額が割増賃金なのであって,通常の労働時間の賃金
に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別できなけれ
ばならないといった明確性の原則に反しない。
採用時の説明及び就業規則の閲覧
ア原告は,平成22年8月2日,株式会社Aの派遣社員として,被告にお
ける勤務を開始し,その後,平成23年4月1日,正社員として採用され
た。
イ被告の専務取締役である訴外甲は,原告が派遣社員として勤務を開始す
るに当たり,原告に対し,必然的に超過勤務が発生すること,時間外手当
の代わりに,長距離手当及び固定残業手当が支払われること,長距離手当
はトラックの走行距離によって算定するので,タコメーターが停まってい
る間,すなわち,客先における積込み及び積卸しに要する時間は長距離手
当に反映しないため,これらの時間のためなどに長距離手当を補完する固
定残業手当が支払われる旨を説明し,原告の了解を得た。
ウ上記訴外甲は,原告を正社員として採用するに当たって,上記イの内容
及び正社員には現金で運行費が支払われる旨を説明し,原告の了解を得た。
エまた,被告では,就業規則を,いつでも閲覧できるよう設置している。
労働基準監督署から指摘を受けたことがないこと
被告は,労働基準監督官の労働時間調査の際,一度も,超過勤務手当の支
給がないと指摘されたことはない。さらに,平成20年度に津島労働基準監
督署の労働基準監督官の労働時間調査があった際には,超過勤務手当につい
ては,「これだけ長距離手当を支給されておれば,問題はないです」との回
答を得ている。
まとめ
以上のとおり,就業規則37条12項に,長距離手当を残業代とする旨が
明記されており,その内容上の問題はないこと,基本給部分と明確に区別さ
れていること,原告に対して採用時に上記規定を説明し承諾を得ていること,
就業規則はいつでも閲覧できる状態になっていること,業界としての賃金総
額としても十分な支払がなされていること,労働基準監督署からも問題がな
い旨の回答を得ていることから,就業規則37条12項の規定は有効であり,
長距離手当は,残業代・深夜手当の支給として有効である。
原告の主張に対する反論等
ア長距離を走行することは,売上ではないし,成果でもないから,これを
歩合給とする原告の主張は失当である。
イ原告に対しては,仕事の内容に応じた報償手当が月額1万2000円な
いし4万8000円支払われており,同手当は,最低賃金の計算に算入さ
れるので,長距離手当を割増賃金に位置付けたとしても,原告の賃金が最
低賃金を下回ることはない。
2(原告の時間外,深夜及び休日労働に対する割増賃金の額)について
(原告の主張)
基本給部分基礎時給
基本給部分の基礎時給は,給与等一覧表の「基本給部分基礎時給」欄記載
のとおりである。
歩合給部分基礎時給
ア労働時間表に基づいて,長距離運送業務に伴う原告の実労働時間を1月
ごとに集計すると,給与等一覧表の「(原告の主張)総労働時間」欄記載
のとおりである。
イと位置づけ
るべきであり,これを毎月の総労働時間で除した歩合給部分の基礎時給は,
給与等一覧表の「(原告の主張)歩合給部分基礎時給」欄記載のとおりで
ある。
割増賃金の対象となる労働時間
ア労働時間表における一日8時間超の時間外労働時間を,月ごとに集計す
ると,労働時間集計表の「時間外」欄記載のとおりとなる。
イ労働時間表における週40時間超の実労働時間を月ごとに集計すると,
労働時間集計表の「土曜実労」欄記載のとおりとなる。
ウ被告における法定休日は日曜日であり,日曜日の労働は休日労働となる
ところ,労働時間表における日曜日の実労働時間を月ごとに集計すると,
労働時間集計表の「日曜実労」欄記載のとおりとなる。
エ労働時間表における深夜労働時間を月ごとに集計すると,労働時間集計
表の「深夜」,「土曜深夜」及び「日曜深夜」欄記載のとおりとなる。
割増賃金の額
の労
働時間に対応する割増賃金の額を算出すると,別紙4「原告計算書」(以下
「原告計算書」という。)記載のとおりとなり,その合計額は407万51
29円である。
控除額
被告が原告に支給した「固定残業手当」,「運行費」及び「休日手当」を,
割増賃金の弁済として,控除することを認める。
小括
の控除額を控除すると,原告計算書の
とおり,279万2229円となる。
(被告の主張)
基本給部分基礎時給
基本給部分の基礎時給は,給与等一覧表の「基本給部分基礎時給」記載の
とおりである(原告の主張に同じ)。
割増賃金の対象となる労働時間
割増賃金の対象となる労働時間は,労働時間集計表記載のとおりである
(原告の主張に同じ)。
割増賃金の額
労働時
間に対応する割増賃金の額を算出すると,別紙5「被告計算書」(以下「被
告計算書」という。)記載のとおりとなり,その合計額は,同計算書
「totalC」欄記載の357万2923円である。
割増賃金は全額弁済されていること
被告は,原告に対し,被告計算書の2段目記載のとおり,固定残業手当,
長距離手当,休日手当のほか,これらの補完として,現金で運行費を支払っ
ており,その合計額は,同計算書の「totalB」欄記載の416万1160
円である。
これらは,すべて割増賃金として支払われたものであり,労基法所定の計
算方法で算出された割増賃金の額を上回るから,割増賃金の未払はない。
3(付加金請求の当否)について
(原告の主張)
被告は,労働省告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」を
遵守しておらず,原告は,所定労働時間に拘わらず,昼夜問わず働き続け,
1週間近く自宅に帰れない勤務状態も多かった。
しかるに,被告は,残業代を全額は支払っておらず,悪質である。
したがって,被告に対しては,労基法114条による付加金の支払いを命ず
るのが相当である。
(被告の主張)
付加金は,割増賃金の未払が悪質といえる場合に,支払を命ずれば足り
る。
仮に,長距離手当の支払が割増賃金の支払として有効でなくとも,被告
としては,原告にサービス残業をさせようとか,被告が支払うべき割増賃
金の支払を免れようとしたものではなく,悪質性はない。
休憩をまとめてとるよう指導していること
運行中の休憩は,ドライバーの判断でとることになるところ,30分から
90分程度の細かな休憩と走行を繰り返すと,不当に拘束時間が長くなって
しまい,一般的に運転者の集中運転にとって適切とはいいがたい。
原告は,30分から90分程度の細かな休憩と走行を繰り返したり,まと
まった時間休憩をとることが可能なところで,短時間に分断して休憩をとる
ことが頻繁にあった。そのため,被告は原告に対し,細かな休憩と走行を繰
り返すのではなく,4時間以上の休憩を2回以上とったり,8時間以上の休
憩をまとまってとるよう指導していた。
このように,被告は「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」に
適合するよう指導し,実際に原告がこれを改善することは可能であったにも
かかわらず,原告の意思で細かに分断して休憩をとったのである。
原告自らの要望があったこと
原告は,被告が過重な労働を強いたかのように主張するが,実際は,原告
が被告に対し,稼ぎたいから仕事をふって欲しいと自ら要望し,自ら進んで
労働時間を長くしたのである。
以上に照らすと,被告に対し,付加金の支払を命じることは相当でない。
第4当裁判所の判断
1長距離手当の支払が割増賃金の支払として有効か)について
労基法37条1項,4項は,使用者が,時間外,休日及び深夜の労働につ
いて,通常の労働時間の賃金(以下「基礎賃金」という。)の計算額に所定
の割増率を乗じた割増賃金を支払うべきことを規定する。
もっとも,労基法の上記規定が使用者に命じているのは,時間外,休日及
び深夜の労働について,所定の計算方法による一定額以上の割増賃金を支払
うことであるから,そのような額の割増賃金が支払われる限りは,同規定所
定の計算方法をそのまま用いなくてもよい。
基礎賃金から除外される賃金(以下「除外賃金」という。)は,労基法3
7条5項,労基則21条各号に限定列挙されており,除外賃金に該当するか
否かは,名称にかかわらず,実質的に判断すべきところ,長距離手当は,上
記限定された除外賃金に当たらない。
方法による割増賃金に代えて,
一定額の手当を支払ったり,労基法と異なる計算方法による手当を支払った
りすることも,同法所定の割増賃金を下回らない限りは適法であるから,長
距離手当が,労基法で支払うべきと規定された割増賃金と同じ性質をもつと
いえれば,長距離手当は基礎賃金から除外された上,同手当の支払をもって
割増賃金の弁済として有効となる(仮に,これを基礎賃金に算入すると,
「割増の割増」を認めることとなり,相当でない。)。
そこで検討するに,長距離手当が,労基法で支払うべきと規定された割増
賃金と同じ性質をもつといえるためには,①当該手当(長距離手当)が割
増賃金としての実質を有すること,②当該手当(長距離手当)内に割増賃
金としての実質を有する部分とそれ以外の部分(通常の労働時間の賃金に当
たる部分)が混在する場合には,割増賃金としての実質を有する部分と,そ
れ以外の部分とを判別でき,労働者において割増賃金として支払われる額が
労基法所定の割増賃金の額を下回らないかを判断しうることという要件を満
たす必要がある。
について
ア通常の労働時間の賃金が含まれていること
長距離手当は走行距離に一定の単価を乗じて算出されるという就業規則
37条3項の規定によると,長距離手当には,原告が通常の労働時間中に
走行した距離に対する対価が含まれているといわざるを得ない。
イ時間比例性がないこと
労基法37条の趣旨は,時間外,休日及び深夜といった特別な労働に対
する労働者への補償を行うとともに,これらの労働について割増賃金とい
う経済的負担を使用者に課すことによって,長時間労働及び深夜労働を抑
制することにあり,同法所定の計算方法がこれら特別な労働の時間の長短
に応じて算定する仕組みを採っていることに照らすと,当該手当が割増賃
金としての実質を有するか否かは,当該手当の金額が,これら特別な労働
に従事した時間と時間比例性を有しているかを重要な指標とすべきである。
この点,長距離手当は走行距離に一定の単価を乗じて算出されるもので
あり,走行距離が同じであれば,時間外,休日及び深夜の労働をした場合
もしなかった場合も,原告に支払われる長距離手当は同額となるから,原
告が特別な労働に従事した時間との時間比例性があるとはいえない。
なるほど,走行距離と走行時間との間にはある程度の相関関係は認めら
れるであろうが,例えば,高速道路で渋滞に巻き込まれるなど,原告がコ
ントロールできない事情により走行時間が増えた場合であっても長距離手
当は増額されない。また,原告の業務には,トラックの運転以外に,客先
における荷物の積込み及び積卸しのように走行距離には反映されない業務
が含まれており,かかる業務に従事した時間が法定労働時間外,休日又は
深夜に及んだ場合であっても,長距離手当は増額されない。
仮に,長距離手当の額と,時間外,休日及び深夜の労働時間との間に時
間比例性があるのであれば,各月の長距離手当の額を,被告計算書のC欄
記載の金額(長距離手当を除外賃金と仮定して,労基法所定の計算方法で
算出した割増賃金の額)で除した値がほぼ一定となるはずであるが,実際
には0.617から1.027の範囲でばらつきが生じている。
ウ被告の主張について
これに対し,被告は,「タコメーターによって捕捉されない事業場から
出発前,事業場に帰着後,客先での積込み,積卸しなどの労働時間に対し
ては,固定残業手当が支払われている」などと,長距離手当の対象となる
時間外,休日及び深夜の労働時間には,出発前の準備作業及び帰着後の後
照)並びに客先における積込み及び積卸しに要す
る時間は含まれておらず,長距離手当の額と走行時間との間に時間比例性
が認められるかのような主張をする。
しかし,被告が主張するように,客先での積込み,積卸しなどの労働時
間に限定して,固定残業手当が支払われるのであれば,これらの荷役時間
を走行時間と区別して集計することが必要となるが,被告の事務員が事業
場に帰着した原告と共にタコチャートを確認する際も,非走行時間のうち
休憩については「○キ6.5H」,「○キ9H」などと時間を書き込んでい
るのに対し,客先における積込みについては「○ツ」,積卸しについては
「○オ」と記載するのみで,客先における荷役作業時間を走行時間と区別
して集計していた事実は認められない。
長距離手当の対象となる労働時間に,客先における荷役作業時間が含ま
れていることは,被告が,本件審理において実労働時間を集計する際に,
走行時間と荷役作業時間を区別していなかったことからも窺われるところ
であり,前記イのとおり,長距離手当の額と,時間外,休日及び深夜の労
働時間との間に時間比例性があるとはいえない。
エ小括
上記アないしウのとおり,長距離手当には原告が通常の労働時間中に走
行した距離に対する対価が含まれているといわざるを得ないこと,長距離
手当の金額と,時間外,休日及び深夜の労働時間との間に時間比例性があ
るとはいえないことから,少なくとも長距離手当の全額について,割増賃
金としての実質を有すると認めることはできない。
の要件について
ア長距離手当内で,割増賃金としての実質を有する部分と,それ以外の部
分とを判別できないこと
しての実質を有すると認めることはできない以上,長距離手当には,割
増賃金としての実質を有する部分と,それ以外の部分が含まれることに
なる。
就業規則37条12項は,割増賃金の対象となる労働時間が走行時間と
重なる部分は,長距離手当が割増賃金として支給される旨規定するところ,
長距離手当のうち割増賃金としての実質を有する部分とそれ以外の部分を
判別できなければ,割増賃金としての実質を有しない部分をも割増賃金に
充てることとなり,同規定全体が不合理なものとならざるを得ない。
本件において,就業規則上も,給与明細上も,長距離手当のうち割増賃
金の実質を有する部分とそれ以外の部分を判別することはできない。
イ原告において,割増賃金として支払われる額が労基法所定の割増賃金
の額を下回らないかを判断し得ないこと
法による割増賃金に代えて,一
定額の手当を支払ったり,労基法と異なる計算方法による手当を支払っ
たりすることも,同法所定の割増賃金を下回らない限りは適法であるが,
こうした比較をなしうるために,使用者は労働者に対し,時間外,休日
及び深夜の労働時間数及びそれに対して支払われた残業手当の額を明確
に示すことを要請され(最高裁平成24年3月8日第一小法廷判決櫻井
龍子裁判官補足意見・裁判集民事240号121頁),少なくとも,労
働者が簡易な計算によって両者の多寡を比較し,残業手当が労基法所定
の割増賃金を下回る場合にはその差額を請求できる事項を明示する必要
があると解すべきである。
しかし,被告が原告に交付していた給料明細には,時間外労働時間,
休日労働時間及び深夜労働時間の時間数は表示されていない(甲5の1
ないし17)。
また,被告が原告をして長距離運送業務から事業場に帰着する都度,
提出させていた運転日報には,客先における荷物の積込み又は積卸しの
開始時間及び終了時間,サービスエリア等における休憩の開始時間及び
終了時間を記載する欄があるほか(甲3),被告の事務員は,原告が長
距離運送業務から帰着するたびに,タコチャートを印刷し,タコチャー
ト上の非運行時間が,積込み時間,荷卸時間,休憩時間のいずれに当た
るかを原告と確認しながら,タコチャートにメモ書きし,原告にサイン
させていたものの(甲4),これら運転日報やタコチャート上のメモ書
きによっても,時間外労働時間,休日労働時間及び深夜労働時間を一義
的に読み取ることはできない。このことは,被告が答弁書に添付した労
働時間表と,審理を通じて最終的に争いがないものとなった本判決添付
別紙2の労働時間表との間に相当程度のズレが生じていることからも明
らかである。
さらに,原告は,事業場から出発するに先立ち,事業場内のコンテナ
において,アルコール検査を行ったり,事業場に帰着後,トラックから
取り出したメモリーカードを事務室へ持参し,事務員と共にトラックの
参照),
これらの準備時間及び後始末時間が実労働時間に当たることは当事者間
に争いはないが,被告は,これらに要する時間を具体的に把握していな
い。
そうすると,仮に,長距離手当の全額を割増賃金として位置付けたと
しても,原告において,割増賃金として支払われる長距離手当,固定残
業手当及び運行費の合計額が労基法所定の割増賃金の額を下回らないか
を判断することは困難であったといわざるを得ない。
ウ小括
上記ア,イのとおり,長距離手当について割増賃金としての実質を有す
る部分と通常の労働時間の賃金に対応する部分とが混在しているにもかか
わらず,これらを判別することができない上,仮に,長距離手当の全額を
割増賃金として位置付けたとしても,原告において割増賃金として支払わ
れる額が労基法所定の割増賃金の額を下回らないかを判断することは困難

結論
以上によれば,長距離手当は労基法で支払うべきと規定された割増賃金と
同じ性質をもつということはできず,長距離手当の全額を基礎賃金に算入す
べきである。
被告の主張について
ア被告は,長距離トラックの運転手について必然的に労働時間が長くなり,
また,運送の便宜(走りやすい時間帯等)の関係から,深夜労働になる性
質があることを前提に,かかる労働に報いるための方策が長距離手当であ
るかのような主張をする。
しかし,原告は,トラックの運転以外に,客先での荷物の積込み,積卸
しといった荷役業務にも従事している以上,走行距離に応じて支払われる
長距離手当は,長時間労働を抑止する方策として不十分であり,就業規則
37条12項なお書に規定された精算の運用によっては,運転者がいかに
長時間労働に従事しても,就業規則所定の計算方法によって算出された長
距離手当を超える割増賃金は支払われない危険すらある。
また,労基法37条4項は,時間外及び休日労働とは別に,深夜労働に
対する割増賃金の支払を義務づけており,これは,深夜労働の強度が高い
ことに対する補償の趣旨と解される。運転者としては,渋滞等の道路事情
が原因で走行時間(したがって,労働時間)が大幅に増加したとしても,
長距離手当が増額することがない以上,長時間労働を回避するために,な
るべく道路の混雑しない時間帯に走行をすることを余儀なくされる場合が
あるが,深夜か否かによって計算方法を区別していない長距離手当をもっ
て割増賃金の支払に代えることは,労基法37条4項の趣旨に反するとい
える。
イ被告は,労基法所定の割増賃金の額が長距離手当,固定残業手当及び運
行費の合計額を上回れば,差額は当然支給する前提である旨主張する。
しかし,被告計算書においても,平成24年4月及び同年7月は,労基
法37条に従った割増賃金の額(被告計算書のC欄記載の金額)が,長距
離手当,運行費及び固定残業手当を合計した額(同計算書のB欄記載の金
額)を上回っているにもかかわらず,精算されていない。
に照らすと,被告は,労基法所定の割
増賃金を算出するという観点から,原告の労働時間を把握していたとは認
められず,かかる労務管理の実態に照らすと,長距離手当が労基法所定の
割増賃金を下回ったときに差額を精算する実態があったとは認められない。
ウ被告は,原告に対し,業界の実情と比較しても十分な賃金が支給され
ており,これと別に割増賃金の未払が認められたら,被告が運送で得た利
益よりもはるかに多い額を原告に支払うことになり,会社の経営自体が成
り立たなくなると主張する。
しかし,労基法37条は,使用者に割増賃金の支払義務を負わせること
によって,長時間労働を抑制しようとすることを目的としているのであり,
長距離手当を含めた賃金が業界の実情と比較して十分であるか否かや,こ
れを含めた人件費と利益の割合が適正であるか否かによって,長距離手当
の支払が割増賃金の支払として有効と認められないとの結論が左右される
べきではなく,被告の主張は採用できない。
エ被告は,長距離手当は,日帰り勤務のみのトラック運転手には支給され
ず,日を超えて勤務するトラック運転手に対してのみ,支給されているな
どの事情を指摘して,長距離手当の全額が割増賃金であり,明確性の原則
に反しない旨主張する。
しかし,就業規則上,長距離手当は,大型・中型に乗務した者に対し,
支給されると規定されており,被告が主張するような限定が付されてい
る訳ではない。
仮に,被告が主張するように日帰り勤務のみのトラック運転手に対して
は長距離手当が支給されないという運用があるとしても,原告について,
平成23年5月2日,同年9月23日,同年11月3日,同年12月10
日,同月23日,平成24年1月9日,同年3月3日に,事業場を出発し,
同日中に事業場に帰着するという日帰り勤務に従事している場合がある
(甲3,4,労働時間表)。
割増賃金に該当するか否かは,その名称によらず実質的に判断すべきと
ころ,原告が,これらの日帰り勤務に従事した日についても,走行距離に
応じた長距離手当が支払われている以上(これらの日に長距離手当が支払
われていないという事情は一件記録上,窺われない。),長距離手当の全
額が割増賃金であるという被告の主張は,その前提を欠くといわざるを得
ない。
オ被告は,「専務取締役である訴外甲が,平成22年8月及び平成23年
4月,原告に対し,必然的に超過勤務が発生すること,時間外手当の代わ
りに,長距離手当及び固定残業手当が支払われること,長距離手当はトラ
ックの走行距離によって算定するので,タコメーターが停まっている間,
すなわち,客先における積込み及び積卸しに要する時間は長距離手当に反
映しないため,これらの時間のためなどに長距離手当を補完する固定残業
手当が支払われる旨を説明し,原告の了解を得た」旨の主張をする。
しかし,原告は,採用される際,長距離手当に残業代が含まれることを
承諾したとの事実を否認していることに加え,被告においても,「超過勤
務についての計算と,長距離手当,固定残業手当についての関係について
原告に説明をしていないのは事実である」と主張していたものであり(平
被告主張の事実を認めるに足
りない。
この点を措くとしても,労基法に達しない労働条件を定める労働契約は
無効であり(同法13条),就業規則37条12項が労基法37条の趣旨
に反して無効とされる以上,仮に被告の主張する事実が認められたとして
も。
カ被告は,労働基準監督署から割増賃金の未払を指摘されたことがない点
を指摘するが,労働基準監督署の判断は裁判所の判断を拘束するものでは
なく,被告の主張する事実はの結論を左右しない。
2(原告の時間外,深夜及び休日労働に対する割増賃金の額)について
基本給部分の基礎時給
基本給部分の基礎時給は,給与等一覧表の「基本給部分基礎時給」欄記載
のとおりである(争いがない)。
長距離手当
ア長距離手当については,前記1に説示したとおり,除外賃金に当たらず,
これを割増賃金の算定基礎に算入すべきである。
イ長距離手当は,走行距離に一定の単価を乗じて算出される手当であり,
労基則19条1項1号ないし5号に規定する時間,日,週,月又は月,週
以外の一定の期間によって定められた賃金に当たらない。
労基則19条1項6号は,「出来高払制その他の請負制によつて定めら
れた賃金」の基礎時給の計算方法を規定するところ,「出来高払制その他
の請負制によつて定められた賃金」とは,売上高のみならず,一定の労働
給付の結果に対して支給される賃金と解することができるから,走行距離
に応じて支給される長距離手当もこれに該当するというべきである。
なお,被告は,長距離手当が労基則19条1項6号に規定する賃金に該
当しない旨主張するが,同号にも該当しないとすれば,同条2項によって
月によって定められた賃金とみなされることとなり,かえって,被告に不
利な結果を招くので,かかる主張は採用できない。
ウ以下,労基則19条1項6号に基づいて,長距離手当について基礎時給
を計算する。
労働時間表に基づいて,長距離運送業務に伴う原告の実労働時間を1
月ごとに集計すると,給与等一覧表の「総労働時間」欄記載のとおりで
ある。
原告は,労働時間表に記載された実労働時間以外にも,事業場から出
発するに先立ち,事業場で飲酒検査を行ったり,車両検査をしたりし,
また,事業場に帰着した後,トラックから取り出したメモリーカードを
事務室へ持参し,トラックの走行データを読み取るなどしており,これ
らに要する時間も,実労働時間に含まれるが,被告は,具体的に主張立
証しない。
したがって,長距離手当の額
時給となり,その額は,給与等一覧表の「歩合給部分基礎時給」欄記載
のとおりである。
割増賃金の対象となる労働時間
ア労働時間表における一日8時間超の時間外労働時間を,月ごとに集計す
ると,労働時間集計表の「時間外」欄記載のとおりとなる。
イ労働時間表における週40時間超の実労働時間を月ごとに集計すると,
労働時間集計表の「土曜実労」欄記載のとおりとなる。
ウ被告における法定休日は日曜日であり,日曜日の労働は休日労働となる
ところ,労働時間表における日曜日の実労働時間を月ごとに集計すると,
労働時間集計表の「日曜実労」欄記載のとおりとなる。
エ労働時間表における深夜労働時間を月ごとに集計すると,労働時間集計
表の「深夜」,「土曜深夜」及び「日曜深夜」欄記載のとおりとなる。
(以上,争いがない)
割増賃金の額

働時間に対応する割増賃金の額を算出すると,原告計算書のとおり407万
5129円となる。
控除額
被告が原告に支給した「固定残業手当」,「運行費」及び「休日手当」を,
支払済みの割増賃金として控除することに当事者間に争いがなく,その合計
額は128万2900円である。
小括
29円となる。
3(付加金)について
被告の割増賃金の未払の原因は,長距離手当の支払が割増賃金の支払とし
て有効かという高度に法律的な問題に関する労基法の解釈の相違にあること,
長距離手当には通常の労働時間の賃金に当たる部分と明確に区別できないと
はいえ,時間外,休日及び深夜の割増賃金に当たる部分が含まれていること
からすると,被告に対し,制裁としての付加金の支払を命ずることは相当で
なく,原告の付加金の請求は理由がない。
4訴訟費用の負担について
原告は,本件訴え提起時において,①未払残業代752万7043円,②
未払賃金32万0598円,③解雇予告手当43万8930円及び,④付加
金533万6069円の合計1362万2640円(及び遅延損害金)の支
払を求め,この金額を訴訟物の価額として印紙を納付していたところ,その
後の審理が進むに従って,上記②及び③の請求は,取下げ若しくは放棄され,
上記①及び④についても,請求の減縮により,前記第1に記載のとおりとな
ったことは,当裁判所に顕著である。
もっとも,労基法114条の付加金の請求については,同条所定の未払金
の請求に係る訴訟において同請求とともにされるときは,民訴法9条2項に
いう訴訟の附帯の目的である損害賠償又は違約金の請求に含まれるものとし
て,その価額は当該訴訟の目的の価額に算入されない(最高裁判所第3小法
廷平成27年5月19日決定・民集69巻4号635頁)から,訴訟費用の
負担割合について判断するに際しては,上記④の請求を除くのが相当である。
したがって,訴訟費用は,上記④の金額を控除した残額と認容額を考慮し,
これを3分し,原告に2,被告に1の割合で負担させるのが相当である。
第5結論
よって,訴訟費用の負担について,民事訴訟法61条,64条本文を,仮執
行の宣言について同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判
決する。
名古屋地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官田邊浩典
裁判官安田大二郎
裁判官木野村瑛美子

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