弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     ただし、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
     右刑の執行猶予期間中、被告人を保護観察に付する。
     当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴趣意は、弁護人中野忠治名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、こ
れを引用する。
 論旨第一点(事実誤認)について、
 所論にかんがみ、記録を精査し、当審における事実取調の結果に徴するに、Aが
被告人の叔父であり、同人の告訴のないことは所論のとおりであるが、Bの司法警
察員に対する供述調書、原審第三回公判調書中証人Aの供述記載及び当審での証人
B、同Aの各供述によれば、AとC株式会<要旨>社との関係について、つぎの事実
を認定することができる。C株式会社は、鉄筋組立工事を請負う会社で、同
社は仕事の能率をあげるため、現場の責任者に対し、一見右責任者の請負いのよう
な形の、工事の実行予算を示し、その予算の範囲内で工事を完成した場合、予算額
から現実に支払つた給料等を差引き、残額を賞与として責任者を通じて、同人及び
その部下に分配する仕組になつていた。そしてAは、同社から日給八〇〇円を支給
されている同社の従業員で現場の責任者である。すなわちAは、同社の一従業員に
すぎなく、同社から鉄筋組立工事を請負つたものではない。それ故A及び同人の部
下の人夫の給料も、実働により、その都度同社から支払われていた。しかして本件
鉄筋は、同社が請負つたD宿舎の新築工事を、Aがその責任者として委されたもの
で、組立て後余ればこれを会社に返し、その価格の四分に相当する歩合を会社から
貰う約旨であつて、本件被害品はその委されたものの一部であり、Aは、現場の責
任者として、その保管の責任のあることは、勿論であるが、本件のように、その鉄
筋が盗難にあつたような場合、同人が直ちに、これを弁償するものとも認められな
い。してみれば、本件鉄筋の所有権は、同社にあるとともに、その刑法上の占有
は、依然同社社長Bにあるものといわねばならぬ。所論は、Aが右工事を、前記会
社から請負つたもので、本件鉄筋の占有が完全にAに移つていることを前提とする
もので、採用することができない。原判決は、この点について事実の誤認はなく、
論旨は理由がない。
 論旨第二点(量刑不当)について
 本件記録および当審で取り調べたB作成の願書及び示談並びに金員受取証書によ
れば、被告人は、本件と同種の鉄筋を窃取した罪により、昭和三六年四月四日、仙
台簡易裁判所において、懲役一〇月に処せられ、三年間その執行を猶予されたもの
で、現に刑の執行猶予中にかかわらず、本件犯行を犯したものでその犯情は甚だよ
ろしくないといわねばならぬ。しかしながら、本件鉄筋を売却した代金の一部は、
Aの留守中、同人の部下である人夫に酒を飲ますために使われたことがうかがえる
し、更に被告人は、保釈出所後、いち早く仕事に就いて、被害者に対し、極力弁償
をする努力をし、昭和三八年五月九日に至り、被害者において、被害品を返却され
た分を差引いた被害見込金一二三、四三〇円のうち金一〇〇、九二〇円を弁償し、
残額についても、八ケ月の月賦で、これを完済する旨を約し、被害者との間に示談
が成立したものである。本件犯行が財産犯であり、被告人がその弁償に極力努力
し、本件被害額の大部分を弁償した点及び本件犯行の態様、被告人の家庭事情等諸
般の情状を考慮すれば、被告人に対し、いま一度刑の執行を猶予することは、刑政
上相当であると解され、原判決が被告人に対し、懲役一年の実刑を言い渡したこと
は、重過ぎるものと認めざるを得ない。論旨は理由がある。
 よつて、刑事訴訟法第三九七条第二項により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但
書により当裁判所において更に次のとおり判決する。
 原判決の確定した事実を、法律に照すと、被告人の原判示各所為はいずれも刑法
第二三五条に該当し、以上は、同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七
条本文、第一〇条により最も重いと認められる判示第五の罪の刑に法定の加重をな
し、その刑期範囲内で、被告人を懲役一年に処し、前示の情状により刑の執行を猶
予するのを相当と認め、同法第二五条第二項本文、第一項に従い本裁判確定の日か
ら三年間右刑の執行を猶予し、同法第二五条ノ二第一項後段により、右刑の猶予期
間中、被告人を保護観察に付することとし、当審における訴訟費用は、刑事訴訟法
第一八一条第一項本文を適用して、全部被告人の負担とし、主文のとおり判決す
る。
 (裁判長裁判官 細野幸雄 裁判官 山田瑞夫 裁判官 高井清次)

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