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平成18年3月23日判決言渡し
平成17年(行ウ)第15号軽油引取税等決定処分取消請求事件
判決
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の請求
愛知県西三河県税事務所長が原告に対し平成14年8月1日付けでした平成9
年4月分軽油引取税及び重加算金賦課の各決定処分をいずれも取り消す。
第2事案の概要
本件は,愛知県西三河県税事務所長が,実際は原告が軽油を輸入・譲渡したに
もかかわらず,軽油引取税の納入義務を免れるために,ダミー会社であるA有限
会社(以下「A」という)名義を使用して軽油を輸入・譲渡したように装った。
として,原告に対し,平成9年4月から平成10年12月までの各月分(平成1
。),0年1月分を除くの軽油引取税及び重加算金賦課の各決定処分をしたところ
原告が,Aはダミー会社ではなく,原告からAに対する軽油の譲渡(保税転売)
は有効であるから,軽油引取税を申告納付すべき納税者はAであって原告ではな
いなどと主張して,上記各決定処分のうち平成9年4月分のもの(以下「本件処
分」という)の取消しを求めた抗告訴訟である。。
1前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)
()当事者1
ア原告は,平成元年4月1日,石油精製業並びに石油類の販売及び輸出入
業等を営むことを目的として設立された資本金1000万円の株式会社で
あり,その代表取締役はB(以下「B」という)である。。
イAは,平成9年3月28日,石油製品の販売等を目的として,原告の元
従業員であるC(以下「C」という)が取締役として設立した有限会社。
であり,その本店所在地はCの住所地である愛知県a市b町c番地,資本
金は300万円とされていた(乙4。)
ウ愛知県西三河県税事務所長は,地方税法3条の2,愛知県県税条例(昭
和25年愛知県条例第24号。ただし,平成15年愛知県条例第59号に
よる改正前のもの)4条2項,愛知県行政機関設置条例(平成13年愛知
県条例第52号)3条,附則3項に基づいて,平成14年4月1日以降,
愛知県知事から原告所在地を含む西三河地域における地方税の賦課,徴収
に関する権限の委任を受けている行政庁である(乙1。)
()原告の軽油取引の概要2
原告は,平成9年4月当時,外国から買い付け,輸送されてきた関税定率
法上の粗油(RAWOIL。ただし,原告による商品名はRESIDUEOIL
であり,地方税法上は軽油に当たるもの。以下「本件軽油」という)を輸。
入申告しないままAに保税転売(タンカーによって外国から搬入された軽油
は,いったん保税蔵置場ないし保税タンクと称されるタンク内に入庫される
が,この時点では外国貨物として扱われ,税関に輸入申告し,関税,石油税
及び消費税を納付して輸入許可を受けることにより初めて内国貨物として国
内に流通することが可能となるところ,平成13年法律第8号による改正前
の地方税法上,輸入申告前に保税タンクに入庫されている状態のまま第三者
に譲渡しても,軽油引取税の納税義務が発生しないことから,このような売
却を保税転売と呼んでいた。以下,原告による本件軽油の保税転売を「本件
」。),,保税転売というしAが輸入申告及び軽油引取税の納付申告をした後
原告がAから買い戻す(以下「本件買戻し」といい,本件保税転売と併せて
「本件各取引」という。なお,後記のとおり,本件の争点は,本件各取引が
有効に成立しているか否かである)という方法で,D株式会社,E株式会。
社及びF株式会社(以下,これらを「本件各譲渡先」という)に対し,本。
件軽油を販売・譲渡していたところ,同月中に本件各譲渡先に販売,譲渡さ
れた本件軽油の総数量は,別表1の総計欄記載のとおり,合計1659.9
43キロリットルであった。
()本件処分及び本訴に至る経緯3
アAは,平成9年4月から平成10年3月までの各月分(平成10年1月
分を除く)の軽油引取税について,愛知県西三河事務所長に対し,別表。
2の内外申告数量及び申告金額欄記載のとおり納付申告書を提出した甲,(
10の1ないし12の各1・2)が,平成9年4月分について49万50
00円,平成10年3月分について5万円を納付しただけで,同年3月分
まででの軽油引取税2億3598万9852円を滞納し,その後は,納付
申告書も提出しなかった(甲8)。
そこで,愛知県行政機関設置条例(平成13年愛知県条例第52号)附
則3項による改正前の愛知県県税条例(昭和25年愛知県条例第24号)
15条1号に基づき,上記事務所長の事務を引き継いだ愛知県東新県税事
務所長は,平成12年7月18日,Aの軽油引取税について納税保証した
有限会社G(以下「G」という)名義の預金を差し押さえた。。
イその後,愛知県西三河県税事務所長は,Aが輸入申告した軽油(本件軽
。),油を含むに係る軽油引取税を納付すべき納税者は原告であると判断し
上記差押処分を解除した上,平成14年8月1日付けで,原告に対し,別
表2の決定税額欄記載のとおり,平成9年4月分から平成10年12月分
まで(平成10年1月分を除く)の軽油の譲渡について,軽油引取税及。
びこれに係る重加算金賦課の各決定処分をした(甲1,11の1ないし1
9。)
,,,,ウ原告は平成14年8月上記各処分を不服として愛知県知事に対し
審査請求を申し立てた(甲9)が,いまだに裁決はなされていない。
そこで,原告は,平成17年4月1日,上記各処分のうち本件処分の取
消しを求める本訴を提起した。
()関係法令の抜粋4
ア地方税法(ただし,平成13年法律第8号による改正前のもの。以下,
「」,「」。)条文を示すときは法といい法律名を示すときは地方税法という
(軽油引取税)
700条道府県は,道路に関する費用に充てるため,及び道路法第7条
第3項に規定する指定市(以下本節において「指定市」という)に対。
し道路に関する費用に充てる財源を交付するため,軽油引取税を課する
ものとする。
(用語の意義)
700条の2軽油引取税について,次の各号に掲げる用語の意義は,そ
れぞれ当該各号に定めるところによる。
1軽油温度15度において0.8017をこえ,0.8762に達
するまでの比重を有する炭化水素油をいい,政令で定める規格の炭化
水素油を含まないものとする。
2元売業者軽油を製造することを業とする者,軽油を輸入すること
を業とする者又は軽油を販売することを業とする者で,第700条の
6の2第1項の規定により自治大臣の指定を受けている者をいう。
3特約業者元売業者との間に締結された販売契約に基づいて当該元
売業者から継続的に軽油の供給を受け,これを販売することを業とす
る者で,第700条の6の4第1項の規定により道府県知事の指定を
受けている者をいう。
(以下略)
(軽油引取税の納税義務者等)
700条の3軽油引取税は,特約業者又は元売業者からの軽油の引取り
(特約業者の元売業者からの引取り及び元売業者の他の元売業者からの
引取りを除く。次項において同じ)で当該引取りに係る軽油の現実の。
納入を伴うものに対し,その数量を課税標準として,当該軽油の納入地
(略)所在の道府県において,その引取りを行う者に課する。
2項前項の場合において,特約業者又は元売業者からの軽油の引取り
を行う者が当該引取りに係る軽油の現実の納入を受けない場合に当該
軽油につき現実の納入を伴う引取りを行う者があるときは,その者が
当該納入の時に当該特約業者又は元売業者から当該納入に係る軽油の
引取りを行つたものとみなして,同項の規定を適用する。
(以下略)
(軽油引取税のみなす課税)
700条の4軽油引取税は,前条に規定する場合のほか,次の各号に掲
げる者の当該各号に掲げる消費又は譲渡に対し,当該消費又は譲渡を同
条第1項に規定する引取りと,当該消費又は譲渡をする者を同項に規定
する引取りを行う者とみなし,その数量を課税標準として,第1号又は
第2号の場合にあつては当該消費をする者の当該消費について直接関係
を有する事務所又は事業所(略)所在の道府県において,第3号又は第
4号の場合にあつては当該軽油に係る免税証を交付した道府県におい
て,第5号の場合にあつては当該消費又は譲渡をする者の当該消費又は
譲渡について直接関係を有する事務所又は事業所所在の道府県におい
て,それぞれ当該消費又は譲渡をする者に課する。
1ないし4略
5特約業者及び元売業者以外の者が軽油の製造又は輸入をして,当該
製造又は輸入に係る軽油を自ら消費し,又は他の者に譲渡する場合
における当該軽油の消費又は譲渡
(以下略)
(軽油引取税の徴収の方法)
700条の10軽油引取税の徴収については,特別徴収の方法によらな
ければならない。ただし,第700条の3第3項から第6項まで又は第
700条の4の規定によつて軽油引取税を課する場合その他特別の必要
がある場合における徴収は,申告納付の方法によるものとする。
(軽油引取税の申告納付の手続)
700条の14第700条の10ただし書の規定によつて軽油引取税を
申告納付すべき納税者(納税者」という。以下軽油引取税について同「
じ)は,次に定めるところによつて申告した税額をそれぞれ道府県に。
納付しなければならない。
1ない4略
5第700条の4第1項第1号,第2号又は第5号に掲げる者にあつ
ては,毎月末日までに,前月の初日から末日までの間における当該消
費又は譲渡に係る軽油引取税の課税標準量,税額その他必要な事項を
記載した申告書を当該納税者の当該消費又は譲渡について直接関係を
有する事務所又は事務所所在地の道府県知事に提出すること。
(以下略)
(軽油引取税に係る重加算金)
700条の34前条第1項の規定に該当する場合において,軽油引取税
の特別徴収義務者又は納税者が課税標準量の計算の基礎となるべき事実
の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,かつ,その隠ぺいし,又は仮
装した事実に基づいて申告書を提出したときは,道府県知事は,政令で
定めるところにより,同項の過少申告加算金額に代えて,その計算の基
礎となるべき更正による不足金額に100分の35の割合を乗じて計算
した金額に相当する重加算金額を徴収しなければならない。
2項前条第2項の規定に該当する場合(略)において,特別徴収義務
者又は納税者が課税標準量の計算の基礎となるべき事実の全部又は一
部を隠ぺいし,又は仮装し,かつ,その隠ぺいし,又は仮装した事実
に基づいて申告書の提出期限までにこれを提出せず,又は申告書の提
出期限後にその提出をしたときは,道府県知事は,同条同項の不申告
加算金額に代えてその計算の基礎となるべき税額に100分の40の
割合を乗じて計算した金額に相当する重加算金額を徴収しなければな
らない。
(以下略)
イ地方税法附則(ただし,平成10年法律第27号による改正前のもの)
(軽油引取税の税率の特例)
32条の2
1項略
2項平成5年12月1日から平成10年3月31日までの間に第70
0条の3第1項若しくは第2項に規定する軽油の引取り,同条第3項
の燃料炭化水素油の販売,同条第4項の軽油若しくは燃料炭化水素油
の販売,同条第5項の炭化水素油の消費若しくは第700条の4第1
項各号の軽油の消費若しくは譲渡が行われた場合又は当該期間に軽油
引取税の特別徴収義務者が第700条の3第6項の規定に該当するに
至つた場合における軽油引取税の税率は,第700条の7の規定にか
かわらず,1キロリットルにつき,3万2100円とする。
2本件の争点
本件軽油に係る軽油引取税の納税義務者は,原告(被告の主張)か,A(原
告の主張)か。
具体的には,本件各取引は,ダミー会社であるAとの間で作出された不成立
ないし無効(通謀虚偽表示)なものであり,実際に本件軽油を輸入,譲渡した
のは原告(被告の主張)か,それとも,本件各取引は,独立の取引主体である
,,Aとの間でなされた実体を伴う有効なものでありしたがって本件軽油を輸入
譲渡したのはA(原告の主張)かが本件の争点である。
3争点に関する当事者の主張
()被告の主張1
Bは,真実は原告が本件軽油を輸入,譲渡したにもかかわらず,軽油引取
,,,税を免れようと企てCと通謀して原告からAへの本件保税転売を仮装し
A名義で虚偽の輸入申告をなし,本件買戻し契約を仮装して,Aが本件軽油
を輸入,譲渡したかのように装っていたものであり,このことは,以下の事
実から明らかである。
ア本件各取引の目的
(ア)Bは,かねてから,外国から粗油を輸入し,保税転売制度を利用し
て軽油引取税の納付を免れることにより,一攫千金を狙っている者が大
勢いるとの噂を聞いて,関心を抱き,平成8年4月ころ,愛知県総務部
,。,,税務課を訪れて軽油引取税について尋ねるなどしたその結果Bは
国内における軽油の販売価格はおおむね決まっているため,その価格か
ら仕入れ価格や輸入した軽油について輸入許可を受けるために必要な諸
,,,経費を支払い更に軽油引取税を納付するのでは利益がないどころか
赤字となるのは必至であるが,事実行為としての輸入は行うものの,保
税転売をして,保税転売先に輸入申告及び軽油引取税の納付申告をさせ
た後,保税転売先から軽油を買い戻して他社に譲渡する形式を取れば,
保税転売先に若干の手数料を支払わなければならないとしても,軽油引
取税を納付する必要がなくなることから,利益を上げることができると
考え,これを原告の事業として実行することした。
(イ)実際,平成9年4月における軽油取引についてみると,諸経費を含
む1リットル当たりの仕入れ単価は41円10銭であるのに対し,本件
各譲渡先への販売単価は53円又は54円であったから,その差額は1
1円90銭又は12円90銭にすぎず,1リットル当たり32円10銭
の軽油引取税を納付すれば,赤字取引となることは明らかであった(こ
のことは,平成9年4月の取引に限られない。。)
そうすると,仮に原告がAに保税転売した後,これを買い戻して本件
各譲渡先に販売したとすると,Aが軽油引取税相当額を原告への買戻し
価格に転嫁した場合には,原告にとって赤字取引となり,これを上記買
戻し価格に転嫁しない場合には,Aにとって赤字取引となるため,いず
れにしても商人である原告やAがそのような取引を行うはずがなく,そ
れにもかかわらず,本件各取引の外形を作出したのは,軽油引取税を免
れるためである。
そもそも,原告は,外国から輸入した本件軽油をAに保税転売し,A
名義の軽油引取税の納税申告がなされた後,直ちに買い戻す形式を取っ
ているが,このように,いったん売り渡した物件を買い戻しても利益が
減少するのみであって,かかる取引を行う必要性・合理性は全く存在し
ないから,その目的は,Aを軽油引取税の納税義務者であるように装う
ことのみにあったというべきである。
(ウ)このことは,Bが,平成10年4月ころ,原告がAから買戻しばか
りしていては,不自然で目立つと考え,Aからの買戻しを取りやめ,原
告から他社に譲渡していた本件軽油の販売名義を原告からAに変更した
旨供述していることからも裏付けられる。
すなわち,ある会社が他の特定の会社のみから同一の商品を仕入れる
という取引は,事業上の必要があれば何ら不自然なものではなく,現実
にもそのような取引形態はしばしば見聞されていることから,特に目立
つものでもないにもかかわらず,Bが上記のように不自然で目立つと考
えたのは,原告の軽油引取税の納税義務を免れるために本件各取引を仮
装したため,第三者から不自然な取引であると指摘されることを警戒し
ていたからにほかならない。
イ原告による軽油取引の経緯
,,「」。),(ア)原告は平成8年4月株式会社H以下Hというとの間で
同社がaケミカル・ターミナル内に所有するタンク2基(以下「本件保
税タンク」という)を外国から輸入する粗油の保税蔵置場として使用。
することなどを内容とする契約を締結した。
その上で,原告は,同年5月20日の入港分を皮切りとして,粗油の
,,,,輸入を開始したところ当初の保税転売先は有限会社I株式会社J
株式会社K及びL有限会社の4社であったが,これらに対する保税転売
は,諸種の事情により終了した。そして,同年7月ころからは,主とし
(「」。),て有限会社M以下Mというに保税転売をするようになったが
,,,(「」同社はAと同様に実体のない名前だけの会社でありN以下N
。)。というが原告からの保税転売先となるために設立したものであった
(イ)ところが,Mの表面上の軽油引取税滞納額が増加し,課税庁の注目
するところとなったため,Bは,原告の元従業員であったCに新しい会
,,社を設立させ原告から新会社に本件軽油を保税転売したように装って
新会社名義で軽油引取税の納付申告をさせ,その後に原告が新会社から
買い戻したように装い,軽油引取税を免れようとした。
このような経緯で設立された新会社がAである。
平成10年4月ころ,Aからの買戻しを取りやめて,A名(ウ)原告は,
義で軽油を直接譲渡するように変更しているところ,原告から軽油を仕
,これにより仕入先が変わったはずであ入れていた本件各譲渡先としては
るにもかかわらず,注文書や領収書の名宛人をAとするだけで,従前と全く同
様の方法で原告に注文し,原告に代金を支払っており,Aと交渉したことはな
かった。
ウAの実態
(ア)Aの本店は,登記簿上,愛知県a市b町c番地に置かれているが,
当該場所はCの自宅であって,事務所等の実体はなく,従業員も皆無で
あり,その資本金300万円もBがCのために支弁し,会社設立後,そ
の返還を受けている。
(イ)Aの取締役はCであるが,これは単に名目的なものにすぎず,実際
に経理を含む管理業務を行っていたのはBであった。
すなわち,本件各譲渡先からの本件軽油代金については,原告の軽油
引取税納税義務を免れるためにAが介在している形式を取る必要があっ
たため,Bの依頼により,A名義の銀行口座(a銀行b支店)に振り込
まれていたが,同口座は,上記目的のため,BがCに指示して開設させ
たものであり,平成10年4月21日の新規入金5000円もBの出捐
に係るものであって,Bが預金通帳を所持し,Cがここから出金するに
,。はBの了解を得る必要があるなど同口座はBによって管理されていた
(ウ)Aの記名印や代表者印も,平成10年3月ころまでは,Cが保管し
ていたが,同人は,必要な都度,愛知県a市b町所在の原告の油槽所に
持参し,Bの指示に従って書類に押印したり,Bが勝手に押したりして
いた。また,それ以降においては,上記代表者印は,滋賀県内の原告b
精製工場にあるC使用に係る机の引出し内等に置かれていたため,Bは
これを勝手に使用することができた。
したがって,A名義の文書は,すべてBの指示によって作成されたも
のである。
エ諸経費の負担
(ア)原告が平成9年4月から平成10年9月までの間に外国から輸入し
て本件保税タンクに搬入した本件軽油を,真実,Aに保税転売したので
あれば,輸入申告事務等の代行業者である株式会社R(以下「R」とい
う)に所要の手続を依頼し,かつ関税,石油税,消費税及び地方消費。
税の合計額1億8138万4500円を負担するのはAのはずである。
しかし,実際には,BがRに諸手続をA名義で行うよう依頼し,かつ上
記関税等は,Rの預金口座から支払われているものの,同口座への入金
は,大部分が原告振出小切手で賄われ,残部もBの管理するA名義の預
金口座からの出金で賄われているなど,原告が全額を負担している。
(イ)原告が輸入した軽油の通関代行手数料については,A又は原告名義
でRに支払われているが,これらも,原告がAからの買戻しの形式を取
りやめた平成10年4月の前後を通じて,すべて原告の出捐によるもの
である。
また,新日本検定協会による輸入数量の検査及び性状分析の検定料等
についても,同協会からRを通じ又は直接原告に請求され,原告がこれ
を支払っている。
さらに,本件保税タンクの使用料,入庫作業料,出庫作業料及び時間
外作業料については,現金による支払済み額及び振込手数料相当額を差
し引いて,原告がH名義の預金口座に振り込んでいる。
オ刑事事件における関係者の自白等
(ア)Bは,地方税法違反事件について,捜査段階から,本件保税転売が
仮装であることを自白し,平成14年7月30日,名古屋地方検察庁に
よって公訴を提起されたところ,揮発油税法違反,地方道路税法違反事
件が併合された名古屋地方裁判所の第一審公判においても,自白を維持
していた。もっとも,Bは,平成16年12月8日,上記各事件で有罪
判決を受け(懲役3年6月。なお,原告は罰金5000万円,控訴審)
では否認に転じたが,平成17年11月16日,名古屋高等裁判所にお
いても有罪判決を受け(ただし,懲役3年2月に減刑。なお,原告につ
いては控訴棄却,同判決は,上告取下げにより確定している。)
(イ)Cも,地方税法違反事件について,捜査段階から自白し,平成15
年5月7日,第一審の名古屋地方裁判所において有罪判決を受け,同判
決は確定している。
カ原告の主張に対する反論
(ア)有限会社I等との権衡について
原告は,A以外に,有限会社I,株式会社K,株式会社J,M,L有
限会社にも保税転売を行い,Aと同様に,通関手続代行の依頼を受け,
売却代金の送金も受けているにもかかわらず,被告は上記5社について
不問に付しているから,Bが通関手続を代行したからといって本件保税
転売が仮装になるものではなく,Aとそれ以外を区別する合理的理由が
ない旨主張する。
しかしながら,被告は,これら5社を不問に付したわけではなく,A
名義を使用した軽油引取税ほ脱事件を調査していたものであるから,上
記5社は本件事案とは直接関係がない。
(イ)Gとの権衡について
原告は,CがAとGに対して同程度の関与をしていたところ,Gにつ
いては揮発油税等の納税義務者とされているにもかかわらず,Aについ
ては軽油引取税の納税義務者であることを否定するのは整合性を欠く旨
主張する。
しかしながら,①原告が,揮発油税等と述べているのは,揮発油税と
地方道路税を指すものと解されるが,これらはいずれも国税であって,
どのような賦課・徴収が行われているかの詳細は被告の関知しないとこ
ろであり,②Gの設立は,Aの活動廃止後であるから,本件処分の対象
とされた平成9年4月当時における本件各取引とGとは関係がなく,し
,,,,かも③AとGとでは会社の実態Cの関与程度が異なっているから
扱いが異なっていても権衡を失するとはいえない。
(ウ)愛知県税事務所の対応について
原告は,愛知県西三河県税事務所長が,名古屋国税局との間の紛争に
よって,Aの軽油引取税を納税保証していたG名義の銀行口座の差押え
に失敗するまで,軽油引取税の納税義務者を一貫してAとしていた旨主
張する。
なるほど,愛知県西三河県税事務所長やこれからAに対する滞納処分
に関する事務の引継ぎを受けていた愛知県東新県税事務所長が,当初,
軽油引取税の納税義務者がAであり,その代表者がCであると認識して
,,,いたことは事実であるが平成12年暮れころにはこれに疑念を抱き
平成13年1月以降の数次にわたる強制調査等の結果により,納税義務
者が原告であることが判明した。そこで,愛知県東新県税事務所長を引
き継いだ愛知県名古屋東部県税事務所長は,上記納税保証に基づいて平
成12年7月18日に行われたG名義の預金に対する滞納処分を解除し
たにすぎず,名古屋国税局との間の紛争によって差押えに失敗したから
ではない。
(エ)輸入申告に係る数量と被告による課税処分の通知書記載の譲渡数量
のそごについて
原告は,被告による課税処分の通知書に記載された粗油(軽油)の譲
渡数量(1万5945.525キロリットル)が輸入申告に係る数量を
下回っており,そごしている旨主張する。
しかしながら,課税処分に係る譲渡数量は,課税庁が原告による譲渡
の事実を証拠によって確認できたものであるから,申告に係る輸入数量
との間に不一致があることは当然であって,何ら異とするところではな
,,,くしかも原告は平成10年4月までの譲渡数量を問題としているが
本件処分は平成9年4月の譲渡のみを対象としているから,原告の主張
は前提を誤っている。
()原告の主張2
被告の主張は否認ないし争う。
租税法律主義の下においては,法律の根拠なく,当事者の選択した法形式
を他の法形式に引き直し,これに対応する課税要件が充足されたものとして
取り扱う権限が課税庁に認められているわけではない。したがって,原告と
Aとの間で本件保税転売がなされた以上,通謀虚偽表示の要件もないにもか
かわらず,実際に保税転売していないと判断するのは明らかな事実誤認であ
る。
被告は,原告に軽油引取税を免れる目的があったと主張するが,当時,保
税転売という法形式は広く行われており,単なる動機が法律行為の効力に影
響を及ぼすことがないのは明らかであるところ,本件各取引が,通謀虚偽表
示に基づくものではなく,いずれも実質を伴った有効な売買契約であること
は,以下の事実から明らかである。
したがって,本件軽油に係る軽油引取税の納税義務者は,通関時の所有者
であるAであるから,本件処分は違法である。
ア本件各取引及び輸入申告手続が現実に行われていること
(ア)原告は,本件軽油をAに保税転売した後,同社から譲渡(本件買戻
し)を受け,本件各譲渡先に売却したにすぎない。
本件保税転売が仮装でなく,実質を伴った売買契約であることは,本
件保税転売による代金がAの口座から原告の口座に実際に送金されてお
り,目的物の譲渡に見合う金銭債権の履行が現実に行われていること,
Hにおける本件保税タンクにおいて,原告が保管を依頼した軽油とAが
依頼したそれとは区分して保管されており,原告とAとの間では占有移
転を伴っていたことなどから明らかである。
(イ)本件軽油を輸入したのはAであって,原告ではない。このことは,
Aが,Rに輸入申告事務の代行を依頼して通関手続を行い,本件軽油の
関税等を納付していることや,愛知県西三河県税事務所が,毎月,Aの
軽油引取税納付申告を受理してきたことからも明らかである。大阪税関
も,輸入者がAであることを争っていない。
(ウ)本件軽油の関税等の支払は,Aの銀行口座からされているが,この
資金移動はCが行っており,保税転売契約書にC自身がゴム印及び代表
者印を押したこともある。
のみならず,原告とAとの間には,長期間にわたって資金の移動や取
引関係が存在していた。例えば,平成10年6月16日の原告からAに
対する約1476万円の移動は,原告からの借入金であり,他方,原告
の第11期決算報告書の支払手形の内訳書には,平成11年4月20日
に原告がAに約6828万円の支払手形を振り出した旨の記載がある。
イAには取引主体としての実体があること
(ア)Cは,平成9年3月28日,Cの自宅を本店所在地としてAを設立
しているところ,その設立資金はBからの貸付金によって賄われている
(,。,,,ただしCはその一部を流用しているまた同貸付金はA設立後
Bに返還されている)が,これらをもってAが実体のない会社という。
のは経験則に反する。新設会社の本店所在地が代表者の自宅であること
は珍しいことではない。
Aは,2000万円以上の借金を抱えていたCが,何かもうけ話はな
いかとBに持ちかけて設立した会社であり,現に,設立手続や司法書士
への依頼等はC自身が行っている。
そして,Cは,Aの仕事によって自認しているだけでも1000万円
以上(実際には4000万円以上)の利益を得ている。
(イ)Cは,昭和41年ころ,C石油株式会社を設立して代表取締役に就
任するなど,B以上に長年にわたり石油業界に身を置いており,軽油に
。,,対する知識も豊富であった当時従来からの石油取扱業者だけでなく
高利貸しから借金をしてでも一時的に資金を作り,軽油を輸入して一攫
千金を狙う者が出るなど,誰もが軽油を狙う状況にあった。Cは,多額
の借金を返済するため,軽油を扱う会社を作って利益を上げようとする
一人であった。
したがって,Cは,Bから指示されるまま書類を作成,押印したわけ
ではなく,実際,Aは平成9年4月から平成11年1月27日まで2年
間近くにわたり,原告との間で保税転売書,買戻し契約書,納品書,請
求書等の膨大な書類を作成し,粗油の関税申告,軽油引取税の納付申告
及び数量報告などの書類を作成しているが,これらは脱税の疑いをかけ
られてから作成されたのではない。実体のない会社であれば,このよう
に長期間にわたり煩雑な事務作業を続けるはずがない。
(ウ)Aの社印及び通帳類を所持していたのは,同会社の取締役であるC
である。また,Aの所在地が滋賀県となっているゴム印が存在するが,
これは,C自身が無断で作成したものである。
そして,Cは,平成10年4月21日,a銀行b支店にA名義の口座
を開設しているところ,平成11年1月26日,同支店の普通預金だけ
でも2億8838万円にも上る入金を得ている。その上で,Cは,同口
,,,座から平成10年5月29日に100万円同年7月9日に35万円
平成11年1月11日に150万円など,約9か月間で1636万円を
引き出して,C自身の借金返済に充てており,逆に,平成12年3月3
1日までに2153万円にも上る私的な振込みを行っている。
(エ)Cは,自ら西三河県税事務所に赴いてAの軽油輸入業に係る営業開
始届を提出し,受理されている。
また,Cは,Aの販売先をいくつか探してきて,Bに提案している。
,,,実際Aが輸入した軽油の数量は原告が譲渡した数量を上回っており
。,,Aが輸入した全部を原告が譲り受けたものではないあくまで原告は
Aの譲渡先の1つにすぎない。
このように,Aは,独立した取引行為を行っていた。
ウ他の関連企業との権衡を失すること
(ア)原告による当初の保税転売先は,有限会社I・株式会社J,株式会
社K及びL有限会社の4社であり,同社らにおいて軽油引取税の納付申
告がなされた後,当該軽油の一部を買い戻していたところ,これらにつ
いては,原告ではなく,上記4社に対する滞納処分がなされた上で,欠
損処理がなされている。
また,原告は,上記4社にMを加えた5社に対して保税転売を行って
いるところ,これら5社も,Aと同じように通関手続の代行を受けた者
がいる反面,売却代金の送金を行っている。したがって,Bが軽油の通
,,関手続を代行したからといって保税転売が仮装となるわけでもないし
架空の会社ということにもならない。被告は,上記5社の代表者を不問
に付しているが,本件とこれらを区別する合理的理由が見当たらない。
,,,,(イ)CはAの活動廃止後Gを設立し揮発油税等を滞納しているが
この件では,原告ではなくGが納税義務者とされている。
しかしながら,Cは,A及びGの設立につき同程度の関与をしている
ほか,納税申告書を自ら作成,提出したり,両社名義の銀行口座を管理
しており,両社を区別する合理的理由がない。
むしろ,Aについては,Cは,保税転売を受けた軽油の販売先になり
そうな原告以外の相手を捜し出すなど,より積極的に経営に参加してい
ること,原告の敷地外に独立して事務所を構え,A名義の預金口座を最
後まで管理し,必要な支払をしていたこと,同社名義で軽油引取税営業
,,,,等開始申告書を提出し申告納税をしていたことこれらからすれば
Gが納税義務者であるならば,なおさら,Aを納税義務者とみるべきで
ある。
なお,GやAが原告のダミー会社にすぎないか否かという争点につい
ては,課税される租税債権の種類が国税か地方税かは問題ではなく,大
阪国税局がGが原告と別人格であると認定したことが重要である。
エ愛知県西三河県税事務所の対応
G名義のグリーン近江農協預金口座に,原告のGに対する売却代金等2
億8825万3928円が入金されていたところ,名古屋国税局は,原告
に対する滞納処分として,同口座を差押えた。他方,愛知県西三河県税事
務所は,Aの軽油引取税の納付がないことを理由に,平成12年7月18
日,Aの軽油引取税について納税保証していたGの上記預金債権を差し押
さえた。その結果,名古屋国税局と愛知県西三河県税事務所との間で,こ
の口座の債権者が誰かを巡って紛争が生じた。
このように,愛知県西三河県税事務所は,一貫してAを納税義務者と認
識していたにもかかわらず,Cが名古屋国税局あてに詫び状を提出したた
め,上記口座の差押えに失敗すると,突然,原告が本件軽油引取税の納税
義務主体である旨主張し始めた。これは,Aが活動をやめてから,実に4
年近く経過してからのことであり,Aにめぼしい財産がなくなったため,
本件処分を強行したと考えざるを得ない。
オ適正手続違反について
,,本件処分は軽油引取税脱税事件でBが平成14年7月9日に逮捕され
起訴された後の同年8月1日に行われているが,Bを逮捕・勾留し,連日
厳しい取調べを行うことにより,精神的に追い込んで無理矢理自白をとっ
た後になされたものであり,これら一連の調査手続は,適正手続に違反す
る疑いが極めて強い。
カ被告の主張に対する反論
(ア)経済的合理性について
被告の主張するとおり,Aが軽油引取税相当額を原告への本件買戻し
価格に転嫁しなければ,赤字取引になるが,それはAの問題であって,
原告その他の販売先にとっては,Aに保税転売すれば軽油引取税の納付
義務がなくなる以上,かかる取引を行う経済的合理性があることは明ら
かである。
Cは,当時,軽油引取税を納めることなく売り抜けることができなく
なったら,そうなった時に考えるという心境であったと思われる。
(イ)取引の変更の動機について
被告は,平成10年5月12日送金分を最後に,軽油をAから購入し
なくなったことの理由に「不自然で目立つと考えた」からである旨主張
するが,Aの数量報告書等に譲渡先を申告する必要はないから,原告の
買戻しが目立つはずがない上,原告がAから買い戻した軽油の数量も目
立つほど多かったわけではない。しかも,Aの売却先は,Mなど,原告
の従来からの売却先と何ら変わらなかったのであるから,Aの譲渡先の
変更が「不自然で目立つと考えた」からであるはずがない。
(ウ)経費の負担について
原告は,通関代行手数料等の経費を負担していたが,これをもってA
が原告のダミー会社であると認定することはできない。
まず,Rに対して輸入申告事務の代行を依頼し,委任状を作成したの
はAである。
また,輸入申告事務の代行手数料の最終負担は,保税転売価格なども
勘案して決すべきであるのに,何らの検討をすることなく,原告が負担
していると断定しており失当である。すなわち,保税転売の売主が検査
料や保管料を負担し,これを保税転売価格に上乗せすることは通常の取
引で見られるところである。仮に,原告が費用の最終負担をしていると
しても,そのことはAが原告のダミー会社であることを何ら裏付けるも
のではない。かえって,Aが原告のダミーであるならば,関税等の負担
をAに強いると考えるのが経済的合理性に合致する。
さらに,通関代行手数料については,輸入申告を行った他の4社につ
いても,Aと同じく,ほぼ,原告から支払われている。そうすると,A
だけが特別に扱われているわけではないから,Aが原告と別人格である
ことや保税転売の有効性を認定する上で支障となるものではない。
(エ)B供述,C供述,O(以下「O」という)供述の信用性について。
被告の主張は,主として刑事事件におけるB供述,C供述,O供述に
依拠しているが,以下のように,これらは信用できない。
,,「。」,「」,Bは確かに保税転売を装う内容虚偽の保税転売書を作成
「A……は,いわゆるダミー会社です」などと供述しているが,具体。
性はなく,厳密な意味での自白ではない。のみならず,Bは,逮捕後,
検察官による連日の厳しい取調べにより,精神に異常を来すほどに追い
込まれており,任意性,信用性とも疑わしい。
Cは,Aの代表者であるにもかかわらず,被告が差し押さえていたG
名義のグリーン近江農協預金の真の債権者が原告である旨記載された詫
び状を名古屋国税局に提出し,その結果,同預金が名古屋国税局に納付
されると,一転してAは原告のダミーにすぎない旨供述するなど,自己
の責任を免れるため,他人に責任を転嫁しており,全く信用できない。
Oは,Bらの共犯者として逮捕された原告の従業員であるが,自己の
刑責を免れるためにBに責任を押し付ける内容の供述をしており,信用
性に乏しい。
(オ)申告数量と本件処分の課税標準の基礎となった数量の不一致につい

被告は,BがAの取締役であったCと共謀の上,原告の業務に関し,
軽油引取税を免れようと企てたものと主張する。
しかしながら,Aの申告数量(甲8)と本件処分の課税標準の基礎と
なった数量にはそごがあり,BとCが何を共謀したのか明らかとはいえ
ない。
第3当裁判所の判断
1判断の枠組みについて
()軽油引取税の納税義務者について1
地方税法は,700条の3において,特約業者又は元売業者から現実の納
入を伴う軽油の引取りを行う者等を軽油引取税の納税義務者として定めるほ
か,700条の4第1項柱書及び5号において,特約業者及び元売業者以外
の者が軽油の製造又は輸入をして,当該製造又は輸入に係る軽油を自ら消費
し,又は他の者に譲渡する場合における当該軽油の消費又は譲渡をする者に
ついても,当該消費又は譲渡を法700条の3第1項に規定する「引取り」
とみなし,当該消費又は譲渡をする者を同項に規定する「引取りを行う者」
とみなし,その数量を課税標準として当該消費又は譲渡をする者に軽油引取
税を課する旨定めている。
上記規定によれば,外国から軽油を買い付けて輸入しても,これを保税タ
ンク内に入庫したまま,第三者に保税転売し,当該第三者において輸入申告
した場合には,実際上の輸入者には,軽油引取税の納税義務が発生しないこ
ととなり,この結論は,その後に上記輸入者が当該軽油を買い戻したとして
も変わらないといわざるを得ない(その後,平成13年法律第8号により,
700条の4第1項柱書の「消費又は譲渡」が「消費,譲渡又は輸入」に,
5号の「製造又は輸入」が「製造」に修正されるとともに,6号が新設され
て「特約業者及び元売業者以外の者が軽油の輸入をする場合における当該,
軽油の輸入」が700条の3所定の引取りとみなされることとなった結果,
通関時に軽油引取税の納税が義務付けられるようになり,上記のような事態
の発生が解消されることとなったことは公知の事実である。。)
()課税要件充足の判断の在り方について2
ところで,国民が一定の経済的目的を達成しようとする場合,私法上は複
数の手段,形式が考えられる場合があるが,私的自治の原則ないし契約自由
の原則が存在する以上,当該国民は,原則として,どのような法的手段,法
,。,的形式を用いるかについて選択の自由を有するというべきであるそして
憲法84条の定める租税法律主義の下においては,国民が,その判断によっ
て特定の法的手段,法的形式を選択した場合,課税要件が充足されるか否か
の判断も当該手段,形式に即して行われるべきことは当然であり,租税法の
定める否認規定(所得税法157条,法人税法132条等)によらずして,
課税庁が当該手段,形式を否認し,あるいはこれを引き直すことは許されな
いといわねばならない。
もっとも,このことは,当事者が作出した手段,形式の外形をそのまま承
認しなければならないということを意味するものではなく,上記外形が実体
を伴わないもの,仮装されたものにすぎない場合には,その実質に従って課
税要件の充足を検討すべきことは当然であり,かつ,これは事実認定の問題
,。,であるから租税法律主義に反するものでないことも明らかであるそして
当該法律行為を行った当事者の意図・目的,それに至る経緯,これによって
享受することとなった効果等を総合的に検討した結果,特段の合理的理由が
ないのに,ある法的・経済的目的を達成するための法的形式としては著しく
迂遠,複雑なものであって,社会通念上,到底その合理性を是認できないと
客観的に判断される場合には,その外形的な手段,形式にかかわらず,当事
者の真意がいずれにあったのかという事実認定上の問題を避けて通ることは
できないというべきである。
本件においては,被告は,本件各取引がダミー会社であるAとの間で作出
された不成立ないし無効(通謀虚偽表示)なものであり,実際に本件軽油を
輸入,譲渡したのは原告であると主張するのに対し,原告は,本件各取引が
独立の取引主体であるAとの間でなされた実体を伴う有効なものであり,し
たがって本件軽油を輸入,譲渡したのはAである旨主張して対立していると
ころ,一応,原告からAへの保税転売書(乙3,7の3,8に添付,A名)
義の輸入申告書乙35の1・47の38に添付及び納付申告書甲(,,,)(
),,10の1ないし12の各1等原告の主張に沿う外形が存在しているので
上記の観点から,本件各取引が有効に成立したものであるか又は不成立ない
し無効なものであるかについて検討する。
2本件各取引の成否ないし有効性について
()判断の前提となる事実関係1
前記前提事実及び後掲各証拠を総合すれば,以下の事実が認められる。
ア当事者(甲20の1,乙5の8,6の1,14)
(ア)原告は,平成元年4月1日に設立された株式会社であるが,平成9
年に滋賀県a郡b町所在のb精製工場を購入(競落)して改修するのに
合計約5億6900万円を要し,更に日々の営業によって発生する揮発
油税が毎月1億5000万円程度に上っていたため,資金不足に悩んで
いた。
このほか,Bは,昭和53年ころにP(Q株式会社の代表者)を取締
役として設立したS有限会社の揮発油税約20億円を含む約25億円の
納税義務を負っていたことから,これらの返済にも苦慮していた。
(イ)Cは,昭和34年ころから,C石油の名称で石油製品の販売業を営
んでいるうち,a石油で働いていたBと知り合った。Cは,その後,ギ
,,ャンブルにのめり込んだことなどが原因でC石油の経営権を手放して
ガソリンスタンドを営むa商店に雇われることになったが,平成4年こ
ろ,a商店の待遇に不満を抱き,Bを頼って原告で働くようになった。
Cは,当初,原告のa給油所で勤務していたが,ギャンブル等による
約2500万円の借金を抱え,同給油所の学生アルバイトからも借金を
するような状況であったため,原告は,Cの勤務場所をb給油所に変更
した。なお,Bも,度々,Cから借金返済の苦境を訴えられ,やむなく
資金等を融通するなどしたが,Cから返済を受けることはなかった。
イ原告による軽油取引の準備行為(乙2,5の1,5の2,5の5,8,
19,25)
(ア)原告は,設立後,専らガソリン(揮発油)の製造販売を営業内容と
していたが,そのうち,Bは,粗油の輸入と保税転売を利用して大きな
利益を上げている業者がいるとの噂や取引業者からの話を聞き,上記の
ような経済的苦境を脱すべく,かかる取引の実行を考え始めた。
もっとも,粗油を輸入して保税転売を行うには,これを貯蔵する大型
の保税タンクが必要になるため,Bは,平成6年ころから,取引先の知
人等を通じて,新たなタンクの借受先を探していたところ,大阪府a区
に本社があるHが大阪府a市b町c丁目d番所在のaケミカル・ターミ
ナル内に容量2000キロリットルと3000キロリットルの2つのタ
ンク(本件保税タンク)を所有しているとの情報を得,借受条件等につ
いて交渉したが,その際は条件が合わず,契約成立に至らなかった。し
かし,Bは,平成7年11月ころ,再度,Hに対して,タンクの借受け
についての交渉を求め,協議の結果,平成8年4月18日,とりあえず
空いた容量2000キロリットルのタンクについて,月額使用料160
万円,保証金480万円,基本入庫・出庫作業料1キロリットル当たり
400円とする(保管)委託契約を締結し,さらに,同年8月22日,
容量3000キロリットルのタンクにつき,月額使用料240万円,保
証金720万円とする委託契約を追加して締結した。
(イ)上記のように,保税タンクを借りる目途が立ったことから,Bは,
更に情報を収集すべく,平成8年4月ころ,愛知県総務部税務課を訪ね
て係員から事情を聞いたところ,軽油を扱うには,①自分で輸入申告し
て,軽油引取税等を納税した後に販売するか,②保税転売をして,自分
では輸入申告せず,保税転売を受けた者が軽油引取税を負担するかの2
通りしかないとの説明を受けたが,国内における軽油の販売価格はおよ
そ決まっており,その価格から,仕入れ価格,輸入許可を受けるために
必要な関税等の諸税,タンク使用料等の諸費用を払った上に,軽油引取
税を支払うならば赤字になるのは必定と考えた。
実際に原告が行った軽油取引においても,諸経費を含む1リットル当
たりの取得単価は41円10銭であるのに対し,本件各譲渡先への販売
単価は,平成9年4月当時,53円又は54円であったから,1リット
ル当たり32円10銭の軽油引取税を納付すれば,利益にならないこと
は明らかであった(ちなみに,かかる状況は,平成10年12月ころま
で,販売単価から諸経費を含む仕入れ単価を控除した金額が10円ない
し14円にすぎなかったことに照らせば,何ら変わっていない。。)
しかし,当時,軽油を扱っていた業者の中には,軽油引取税の支払意
思がなく,税金を滞納したままの者が多数いたことから,Bも,そのよ
うな業者に保税転売して,保税転売先に軽油引取税の納付申告をさせれ
ば,原告が軽油引取税を納める必要がなくなり,その上で,軽油を買い
戻して販売すれば,利益を上げることができると考え,このような取引
に踏み切ることを決意した。
(ウ)そこで,Bは,かつて原告と石油製品の取引をしていた韓国系企業
の名古屋支店長の地位にあり,平成5年6月ころ,英語力を買われて原
告に入社したOを連れて韓国に行き,交渉した結果,ドンジン・ペトロ
ケミカルから粗油を買い付けることとなった。
もっとも,ほどなくして,競合業者の増加などの要因で,韓国企業か
らの買付け価格が高騰したため,Bは,買付先をシンガポールに変更す
べく,Oを通訳人として現地のグランジャーと交渉した。Bは,交渉に
際し,買い付けに係る石油類が,関税定率法上は軽油に当たらず,地方
税法上は軽油に当たるように,比重は0.8017を超えて0.876
2まで,分留性状90パーセント留出温度は267度を超えて400度
まで,残留炭素は0.2パーセント以下,引火点は130度以下の各条
件を示し,了解を得た。
その後,原告は韓国からの買付けをやめ,必要な都度,Oがシンガポ
ールに赴いて,買付けを行うようになった。
ウ原告による軽油取引の開始(甲8,乙2,3,5の1ないし5,8,1
8,20ないし22,27)
(ア)原告は,平成8年5月20日の入港分を皮切りに,軽油取引を開始
したが,当初は,本件保税タンクに搬入した軽油を,有限会社I,L有
限会社,株式会社K,株式会社Jに保税転売していた。その具体的手続
は,以下のとおりである。
まず,原告が買い付けた軽油を積載したタンカーが,本件保税タンク
,,のある堺泉北港に着く約1週間前に原告からHに入港予定日を連絡し
Hは,入庫予定日の数日前に,新日本検定協会堺事業所及びR堺出張所
に連絡する。新日本検定協会は,入港当日,タンク内の在庫数量を検量
するとともに,タンカーに積載された粗油の性状を分析し,タンカー内
の油とタンク内の油が同じ性状であれば,タンカーからタンクに粗油が
入庫されるので,タンクの入庫数量を検量する。次に,原告を売主,保
税転売先を買主とする保税転売書(売買数量と売買商品の名称の記載は
あるが,売買代金額の記載のないもの)及び買主とされた保税転売先に
よる輸入申告書控え及び輸入許可通知書の写しが輸入手続の代行業者で
あるRから送られてくると,Hは,保税台帳と題する在庫管理帳に輸入
申告数量,所有者等を記載し,その後,原告のa油槽所から保税転売先
名義の出荷依頼書(これには,引取日,出庫数量,積載するタンクロー
リーのナンバープレートの下4桁,運転手名が記載されている)の送。
付を受けると,本件保税タンクから軽油を出庫し,その旨,保税台帳に
記載していた。
(イ)原告は,上記のとおり,輸入手続の代行を依頼していたRに保税転
売書を送付して保税転売先名義で税関に輸入申告書を提出してもらって
いたが,関税,石油税,消費税等の諸税や通関代行手数料,性状分析の
ための検査料等の諸費用を負担していた。また,原告は,保税転売先名
義の出荷依頼書を作成してHに送付し,これを受けたHが,譲渡先への
輸送用タンクローリーに軽油を出庫していたが,本件保税タンクの使用
料や作業料等も,原告が負担していた。このような方法は,平成10年
12月まで続けられた。
(ウ)上記保税転売先のうち,有限会社Iは,平成8年5月分及び同年6
月分の軽油引取税を納付している(平成9年9月分の決定処分は,平成
8年5月に輸入申告された軽油のうち,3.660キロリットルの在庫
が譲渡されたことによるもの)が,株式会社Kは,平成8年5月分の。
申告金額のうちわずかな金額を納付しただけでその余は納付しておら
ず,株式会社J及びL有限会社は,軽油引取税の納付申告を全くしてい
ない。
なお,有限会社I,L有限会社及びKは,平成8年8月以降,原告よ
り安い軽油の取引先を見つけたことなどにより,また,株式会社Jは,
原告に対する代金支払を怠るようになったことから,原告との取引は消
滅した。
(エ)Bは,かねてから石油ブローカーの一人であるNと知り合いであっ
たところ,Nが,平成8年7月ころ,Mを設立して原告との取引を求め
,,。てきたのでそのころから軽油の保税転売の取引を行うようになった
具体的には,原告からMに保税転売された軽油は,第三者に転売され
たものを除いて,Mが輸入申告した後,原告に買い戻される(保税転売
代金と買戻代金とは相殺される)が,買戻価格は保税転売価格よりも。
1リットル当たり1円ないし2円高く設定されているので,軽油引取税
を考慮しなければ,Mは,上記の手続を経るだけで差額を利益として取
得できるものの,軽油引取税の納税を行う場合は,大幅な赤字取引とな
ることは明らかであり,Bは,Nに軽油引取税の納税する意思が最初か
ら存在しないことを十分に承知しており,Mが実体のない会社であると
認識していた。
Mは,平成8年11月分まで軽油引取税の納付申告をしたが,これを
納税することはなかったので,申告に係る軽油引取税は,合計1億51
89万7200円のうち滞納処分による回収額3万2303円を除い
て,滞納状態となった。そのため,Bは,かかる取引の実態について県
税事務所から目を付けられているという危惧を抱き,Mに対する保税転
売をそのまま続けることは困難と考えるようになった。
エAの設立とその実態(甲20及び21の各1・2,乙4,5の5,5の
7,5の9,6の1ないし4)
(ア)そこで,Bは,新たな保税転売先を作って県税事務所からの追及を
かわそうと考え,平成9年3月ころ,原告の社員であるCに対し,保税
転売先となる会社を設立してくれるように依頼した。その際,Bは,C
に対し,新会社名義の書類を作成してくれれば,1リットル当たり1円
から1円50銭の手数料を支払うと説明した。
上記説明を聞いて,Cも,新会社は原告と転売先の間に形式的に入る
だけで,原告が軽油引取税を免れるためのダミー会社にすぎないと認識
したが,多額の債務を抱えていたことと,手続に協力するだけで上記手
数料が得られることから,Bの申出を承諾した。
(イ)Cは,平成9年3月26日,Bから設立資金として貸付けを受けた
300万円をa信用金庫b支店の別段預金口座に振り込んで出資払込金
とした上,Bから指示された内容を司法書士に伝えて,定款作成などの
設立手続を依頼した結果,同月28日,Cの自宅を本店所在地とし,目
的を石油製品の販売及びこれに附帯する一切の業務とし,資本金を30
0万円とし,取締役をCとするAが設立された。
設立後,Cは,Bの指示で西三河県税事務所に赴き,Aの軽油輸入業
に係る営業開始届を提出したところ,同届出書は受理された。
なお,Cは,同年4月2日,上記別段預金口座から300万円を出金
し,A名義のa信用金庫b支店普通預金口座(口座番号a)を開設して
入金し,同月30日,そこから280万円を出金して,手持資金と併せ
てBに300万円を返済している。
(ウ)Cの開設したA名義の上記普通預金口座には,平成11年11月3
0日までの間に,1万円ないし3万円の入金が10回程度あり,同口座
からNTTの携帯電話利用料金が引き落とされている。
A名義の預金口座は,上記口座以外に,a銀行b支店において平成1
0年4月21日に開設された普通預金口座(口座番号a)があるが,同
口座に振り込まれた軽油譲渡先からの入金は,数日のうちに原告の口座
に振り込まれ,原告からの入金は,数日のうちに輸入代行手数料の支払
としてRのa銀行b支店の口座に振り込まれているが,これらは,いず
れもBの指示によって行われていた。なお,同口座から,150万円余
がTあてに振り込まれているが,これは,Cの借金の返済のためにBの
了解を得て出金したものである。
,,,そしてCは上記口座の通帳等をb精製工場の机に保管していたが
C以外の者でもいつでも取り出せる状態にあった上,Bからの指示で,
上記通帳等を預けたりしていた。
(エ)Cは,A設立後,Bの指示によって原告を退職したが,平成9年8
月ころまで,原告のa給油所の仕事を手伝った後,A名義の書類作成な
どを行うようになり,さらに,平成10年3月ころからは,原告のb精
製工場において,木の伐採やゴミの焼却等の仕事に従事して日給800
0円を受け取っていた。
オAを介在させた軽油取引の状況(甲16の2,20の1,乙5の7,5
の10,5の12,6の5,6の10・11,10ないし12)
(ア)Hが,平成9年4月中に,原告からA名義の出荷依頼書の送付を受
けて本件保税タンクから出庫した本件軽油の数量及び譲渡先は,別表1
記載のとおりである。
なお,Hのaケミカル・ターミナルに送付された保税転売書には,原
告を売主,Aを買主として,売買商品名(RESIDUEOIL,売)
買数量(キロリットル)の各記載があるが,売買代金についての記載は
ない。
(イ)Cは,平成9年4月ころ,愛知県西三河県税事務所から,粗油が地
方税法上の軽油に該当すれば軽油引取税を納付する必要があるので,一
度来るようにとの連絡を受けたため,Bに相談すると,C自身が同事務
所に行くように指示されたので,Cは,同月下旬ころ,同事務所に赴い
たところ,A名義で扱っている粗油は軽油に該当し,軽油引取税を納め
る必要があると言われた。Cは,そのことをBに伝えたところ,A名義
で納付申告することを指示されたので,以後,納付申告書の「消費又は
譲渡した軽油の数量」欄にBと協議した適当な数値を書き込み,同申告
書に添付する「軽油の受払い等の数量報告書」及び「請求書」の数量,
単価等をBから渡されたメモに従って記載した上,A名義で納付申告す
るようになった。
Cは,納付申告書を提出すれば,軽油引取税の納税義務が生ずること
を認識していたが,実際には滞納しても支払わない業者が相当存在して
いたことから,納税する意思はなかった。
(ウ)Cは,Bから呼び出されて,1週間に1回位の頻度で,Aの記名印
と取締役の印鑑を持参してa油槽所に赴き,Bから指示されたとおりに
金額等を記入したり,押捺したりして請求書や納品書等を作成し,これ
。,,,をBに渡していたまたCは持参した印鑑をBに預けることもあり
保税転売書も,CがBの指示によりA名義の印鑑等を押印した数枚を除
いて,Bが預かった印鑑を利用して作成していた。
また,A名義の輸入申告書や通関手続の代行を依頼するRあての委任
状は,Cが作成したものではなく,Bが作成していた。
,,,(エ)原告はAに対する本件保税転売を開始した後もそれまでと同様
関税,石油税,消費税等の諸税,Rに対する通関代行手数料(なお,平
成9年8月28日付け振込みに係る通関手数料のみがA名義によるもの
であるが,これについても,実際の負担者は原告である,性状分析。)
のための検査料等の諸費用を負担していた。また,原告は,Hに対する
本件保税タンクの使用料や作業料等も負担していた。
()(オ)原告からCに対する手数料1リットル当たり1円から1円50銭
は,原告振出しの小切手や現金で支払われており,その総額は少なくと
も1000万円以上であった。
なお,Cは,軽油の販売先を探すようBから指示されていたが,Bか
ら代金を前払できるような取引相手であるとの条件を付けられていたた
め,結局,販売先を見つけることはできなかった。
(,,,カ平成9年5月以降の取引甲19の1・2乙5の11・126の1
6の3,6の6・7,10ないし12,14,15)
(ア)Bは,平成10年4月ころ,Cが愛知県西三河県税事務所に軽油引
取税の納付申告を行おうとしたところ,それまでほとんど申告に係る税
を納付しておらず,滞納額が約2億円に達していたため,担当者から,
納税しないなら納付申告を受け付けないとの態度を示されたことを聞
き,このまま原告がAからの買戻しばかりしていては不自然で目立つと
考え,Aが直接販売する形式に転換することを思いついた。
そこで,Bは,本件各譲渡先に対し,今後は原告が保税転売先である
Aから買い戻して販売するのではなく,Aから直接販売するので,請求
書はA名義で送付すること,本件各譲渡先は軽油代金をa銀行b支店の
A名義の口座に振り込んで支払うことを依頼し,その了解を得た。もっ
とも,本件各譲渡先は,このような手続の変更後も,Aではなく原告か
ら本件軽油の譲渡を受けていると認識していた。そして,Aの口座に入
金された本件各譲渡先からの代金は,Bの指示により,原告の口座に移
し替えられていた。
(イ)Cは,平成10年12月ころ,b精製工場を利用して原油を精製す
る会社を設立するようにBから指示され,同月8日,滋賀県a郡b町c
番地を本店所在地とするGを設立し,取締役に就任した(Gの設立資金
もBからの借受金が充てられ,設立後直ちに返還されている。Gは,。)
平成11年2月ころから,b精製工場を利用してガソリンを精製するな
ど本格稼動を開始したが,Cは,Bの指示によって申告書等を作成して
いたものの,月額給料約25万円の支払を受ける名目上の取締役にすぎ
ず,その実質的な経営者はBであったため,収支等の詳細については何
ら知るところがなかった。しかし,Cは,GもAと同様,揮発油税の納
税義務を免れるために使われていたことから,平成12年4月ころ,取
締役の地位を事件屋のUに譲ってb精製工場から去った。
(ウ)なお,Bは,平成11年春ころ,原告からAに対する保税転売を装
うべく,すでに倒産していた名古屋市a区bに本店のあるV株式会社あ
てのAの請求書,V株式会社名義の原告あて領収書を大量に日付をさか
のぼらせて作成している。
キ刑事事件の経緯(乙9の5,31,弁論の全趣旨)
,(),,Bは地方税法違反軽油引取税の脱税事件について捜査段階から
保税転売が仮装であることを自白し,揮発油税法違反事件及び地方道路税
法違反事件が併合審理された第一審の公判においても自白を維持していた
が,懲役3年6月の実刑に処する旨の有罪判決(名古屋地方裁判所平成1
6年12月8日宣告)を受けて控訴した後は,否認に転じた。しかし,B
は,一審判決後に相当額の仮納付を行ったことを理由に刑期こそ3年2月
に減刑されたものの,控訴審においても実刑の有罪判決(名古屋高等裁判
所平成17年11月16日宣告)を受け,同判決は,上告取下げにより確
定している。
()認定事実に基づく判断2
ア前記認定事実によれば,Bは,原告に軽油引取税の納税義務が生じない
ようにする目的で,CにAを設立するよう持ちかけたものであり,Cも,
その意図を十分に理解した上で,取引の対象となる軽油1リットル当たり
1円ないし1円50銭の手数料の支払が得られることから,これを了解し
たものである。このように,B及びCが,いずれもAの設立当初から正当
な軽油引取税の納税をする意思がない,すなわち,最終的には何らの資力
のないAだけに納税義務を負わせることによって,実質的に原告が納税を
免れる意図を有していたことは,諸経費を含む原告の取得単価と譲渡先へ
の販売単価との格差が,到底,軽油引取税額に満たないことからも明らか
である。
そして,Aの設立の経緯や,同社における経理を含む経営が,取締役と
されたCではなくBの手に握られており,Cとしてはみるべき独自の活動
を何ら展開することがなかったことなどに照らせば,Aは,軽油引取税の
納税を免れる目的でのみ設立され,存続していた原告のダミー会社ともい
うべき存在と認めるほかない。
また,原告からAへの本件保税転売及びAから原告への本件買戻しのい
ずれにおいても,単に買戻価格は保税転売価格に上記手数料相当額を上乗
,,せすることが定められたにすぎず当事者の自由意思に基づく交渉の結果
その内容が定められたものではないこと,実際にも,上記各代金は現実に
,,授受されることがなく本件軽油も本件保税タンク内に保管されたままで
単に会計帳簿上の操作が加えられたにすぎないこと(後に,Aから本件各
譲渡先に直接売却される形式が取られるようになった際も,Aの口座に振
り込まれた代金は,直ちに原告の口座に移し替えられている,このよ。)
うな複雑・迂遠な取引を行うにつき,何らの経済的合理性も見いだすこと
はできないこと(真実,当該軽油の所有権をAに移転する趣旨であるなら
ば,上記の価格差は,Aの負担する軽油引取税以上になるはずである)。
などを総合すれば,本件各取引は,その当事者である原告及びAの双方に
,,,とってその企図した経済的法的効果を実現するための法形式としては
社会通念上,到底その合理性を是認できないといわざるを得ない。
これに加えて,外国からの軽油の輸入と本件各譲渡先への売却について
,,,,,,は原告によって決定実行され通関本件保税タンクへの入庫管理
出庫等の手続も,原告からの依頼,指示によって行われ,その経費も原告
によって負担されていること,とりわけ,本件各譲渡先への売却が原告に
よって決定され,本件保税タンクからの出庫が原告からの指示に基づいて
行われていることに照らせば,本件保税転売後も,その対象となる本件軽
油の処分権が原告に帰属していたことを推認するのに十分である。
そうすると,本件各取引については,そもそも,契約の成立があったと
,,いえるかについて多大な疑問がある上仮にこれを積極に解するとしても
売買契約の成立に向けた内心の効果意思があったと認めることは到底でき
ないので,本件各取引は,通謀虚偽表示として無効というべきである。
イこの点について,原告は,①本件各取引等は現実に行われていること,
②Aには取引主体としての実体があること,③原告にとって本件各取引に
は経済的合理性があること,④他の関連企業に対する課税と権衡を失し,
従前の課税庁の対応と異なること,⑤被告主張の根拠となるB,C,Oら
の供述は,連日の厳しい取調べなどによって得られたものか,Bに責任を
,。負わせる趣旨のものであっていずれも信用できないことなどを主張する
,,,しかしながら①及び②については前記認定・判断のとおりであって
本件各取引においては,軽油相場のいかんにかかわらず,本件保税転売単
価と本件買戻し単価との差額だけが定められ,その売買単価がいくらであ
るかについての主張すらなく,これを裏付ける証拠もないのであるから,
到底,本件各取引が現実に行われていたとはいえないし,Aの預金通帳や
印鑑は,基本的にCが所持してはいたものの,Bがその口座を管理してお
り,Aの業務と無関係な出金についても,Bの了解を得て行われていたこ
とに照らすと,上記口座がAの独自の活動・業務のために使用されていた
とは到底認められず,原告とAとの間で作成された書類についても,専ら
Bの指示に基づいて作成されているのであるから,Aに実体があることを
基礎付けるものではないというほかない。
また,③については,なるほど,原告の立場からは,1リットル当たり
1円ないし1円50銭を上乗せするだけで,実質的な軽油引取税の負担を
免れるのであるから,極めてうまみのある取引であることは明らかである
が,取引の経済的合理性は,当事者双方の立場を視野に入れて客観的に判
断すべきところ,Aにとってかかる取引を継続する利益が全く存在しない
ことは前記のとおりであるから,上記判断を覆すことはできない。
さらに,④については,仮に,他の保税転売先との間の取引がAと同様
に不成立ないし無効となる可能性があり,また,大阪国税局がGを原告と
は別人格と認定したとしても,Aや本件各取引の実態に関する認定・判断
は,それぞれの証拠に照らして個別的に行われるべきものであるから,本
(,件処分の違法性判断に当たって影響を与えるものとはいえない課税庁は
調査によって解明できた範囲で課税処分を行うものであるから,未解明な
部分の課税が行われなかったとしても,何ら不当とはいえない。。)
最後に,⑤については,証拠(甲17)の一部には同主張に沿う部分も
あるが,Bは,検察官に対する取調べにおいて,一貫してAはダミー会社
であり,保税転売を利用した軽油の取引は軽油引取税を免れる目的のもの
であったことを認めている(乙5の1ないし13)ばかりか,第一審の公
判廷においても自白を維持していることなどに照らすと,Bの供述が任意
性や信用性を欠くとはいえず,これと基本的部分において符合するCやO
の供述についても,その信用性を疑うことはできない。
よって,原告の上記各主張は採用できない。
()本件処分の適法性3
以上によれば,原告は,輸入した軽油を平成9年4月に合計1659.9
43キロリットル譲渡したと認められるから,これに1キロリットル当たり
3万2100円の税率を乗じた5328万4170円の軽油引取税納付義務
を負うというべきであり(法20条の4の2第3項,同法施行令6条の17
第2項7号により100円未満の端数切り捨てはしない,さらに,上記。)
認定のとおり,原告は自ら軽油を輸入し譲渡したことを仮装・隠ぺいして納
付申告書を提出期限までに提出しなかったと認められるから,重加算金の賦
課を免れないところ,その金額は,上記税額の1000円未満の端数を切り
捨てた額(法20条の4の2第2項)に法700条の34第2項所定の10
0分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する2131万3600円で
あるから,これらと同額の本件処分は適法というべきである。
3結論
,,以上の次第で原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし
訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主
文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
加藤幸雄裁判長裁判官
舟橋恭子裁判官
片山博仁裁判官

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