弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人喜田村洋一の上告理由について
 一 本件は、被上告人の発行する新聞に掲載された記事が上告人の名誉を毀損す
るものであるとして、上告人が被上告人に対して、不法行為に基づく損害賠償を請
求するものであり、原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 被上告人の発行する「朝日新聞」紙の昭和六三年一一月一九日付け朝刊紙面
の第二九面に、第一審判決別紙のとおりの記事(以下「本件記事」という。)が掲
載された。本件記事は、「何を語る 推理小説137冊」との見出しのほか、「A、
ロスのすし屋に”蔵書“」「『異常な読み方』ジャンル選ばず手当たり次第に」等
の小見出しを付した八段抜きの記事である。
 2 上告人は、昭和五六年に他の者をして妻を銃撃させ昭和五七年に同人を死亡
させて殺害したとの公訴事実により、昭和六三年一一月一〇日に公訴を提起されて
いたところ、本件記事は、(1)そのリード部分において、右殺人被告事件につい
ての上告人に対する捜査は間もなく終了しようとしていると報じ、続いて、「自供
を得られず、物証も乏しいものの、Aが金欲しさに仕組んだという事件の構図につ
いては、捜査陣の確信は揺らいでいない。しかし、なぜ殺人に至ったのかという動
機の奥深い部分は、なぞのままだ。その手がかりになりそうな一枚のリストが、警
視庁の捜査本部にある。Aはいつも小説本を離さず、読み終えるとロス市内のすし
屋にあげていた。ほとんどが殺人事件を素材にした推理小説。リストはその一覧表
だが、『ここからAの深層心理を読み取るしかない』と刑事たちはいう。」と記載
されており、(2)その本文の前段部分においては、上告人が、昭和五三年ころか
らしばしば利用していたアメリカ合衆国カリフォルニア州ロス・アンジェルス市郊
外所在の飲食店に対し、前記殺人被告事件等の疑惑が表面化した昭和五九年一月ま
での間に、読み終えた推理小説一三七冊を寄贈していたこと、捜査本部は、これら
の書物について調査した結果、動機の背景に上告人が犯罪小説におぼれたことがか
らんでいないかと注目するに至ったことを報じた後、「事件後にAが見せた芝居が
かった行動、セリフには『金欲しさ』だけで説明しきれない異常さがある。それは
何に由来するのだろうか。(中略)『Aが自分で犯罪小説を創作し、自ら演じよう
としたのではないか』とする見方も、捜査員の中には生まれている。」と記載され
ているほか、本文の後段部分においては、D協会の理事長が、上告人の読書歴に関
し、「『ロスへ行った時期に出版されたものを手当たりしだいに読んだ、という感
じですね(中略)素材の犯罪そのものに対する興味かもしれないが、ちょっと異常
な読み方だと思います』」と述べたことが紹介されており、(3)記事の左側部分
に、「『狙撃者』『迷宮捜査官』『結婚関係』…」との小見出しを付して、飲食店
に寄贈された書物のうち一〇六冊の題名が列記されている。
 3 上告人については、昭和五九年以来、前記殺人被告事件の嫌疑のほか、右殺
人の犯行前に妻を殺害しようとしたとの殺人未遂の嫌疑等についても、数多くの報
道がされていた。被上告人の担当記者は、同年四月ころ、上告人が前記のとおり飲
食店に多数の書物を寄贈していることを知った後、現地の協力者を通じてその書物
の内容について調査し、その一部が右飲食店に現に存在することを確認した上で、
捜査担当官及びD協会の理事長に対する取材を行って、本件記事を作成した。
 二 上告人は、本件記事は一般読者に対して上告人が前記殺人被告事件を犯した
との印象を強烈に与えるもので、上告人の名誉を毀損するものであるなどと主張し
ている。
 これに対し、原審は、以下のように判示して、上告人の請求を棄却した。
 (1) 本件記事は、全体として、一般読者に対し、上告人が金欲しさ又は犯罪
小説を自作自演しようとの動機の下に前記殺人被告事件を犯したとの印象を与える
ものであることは否定できない。(2)しかしながら、本件記事は、上告人の犯罪
行為という公共の利害に関する事実に係るものであり、また、その公表の目的は専
ら公益を図ることにあった。(3)そして、人の行為の動機は、深層心理にかかわ
る事柄である上、人の思考過程が複雑かつ多様であり、必ずしも合理的なものとは
いえないこと等にかんがみると、人の行為の動機を他の者が判断する客観的基準が
あるとはいえず、その真偽を客観的に証拠により証明することが可能なものである
とは到底いえないから、他人の行為の動機についての記載は、意見を表明(言明)
するものに当たる。(4)本件記事における上告人の前記殺人被告事件の動機につ
いての記載は、本件記事が掲載頒布された時点において、既に新聞等により繰り返
し詳細に報道されて社会的に広く知れ渡っていた上告人の前記のような嫌疑に関す
る事実と、被上告人の担当記者の取材に係る真実の事実又は同記者において相当の
理由に基づき真実と信じた事実とを基礎として、捜査担当機関の評価も加味し、上
告人の動機を推論するもので、その推論をもって不相当、不合理なものともいえな
い。(5)したがって、たとえ本件記事が読者に前記の印象を与え、上告人の社会
的信用を低下させることがあり得るものであっても、不法行為を構成しない。
 三 しかしながら、まず、原審の右(3)の判断を是認することができない。
 新聞記事中の名誉毀損の成否が問題となっている部分において表現に推論の形式
が採られている場合であっても、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読
み方とを基準に、当該部分の前後の文脈や記事の公表当時に右読者が有していた知
識ないし経験等も考慮すると、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人
に関する特定の事項を右推論の結果として主張するものと理解されるときには、同
部分は、事実を摘示するものと見るのが相当である。本件記事は、上告人が前記殺
人被告事件を犯したとしてその動機を推論するものであるが、右推論の結果として
本件記事に記載されているところは、犯罪事実そのものと共に、証拠等をもってそ
の存否を決することができるものであり、右は、事実の摘示に当たるというべきで
ある。
 立証活動ないし認定の難易は、右判断を左右するものではない。
 四 次に、原審の前記(4)の判断も是認することができない。
 ある者が犯罪を犯したとの印象を与える新聞記事を掲載したことが不法行為を構
成しないとするためには、その者が真実犯罪を犯したことが証明されるか、又は右
を真実と信ずるについて相当の理由があったことが認められなければならない。そ
して、ある者に対して犯罪の嫌疑がかけられていてもその者が実際に犯罪を犯した
とは限らないことはもちろんであるから、ある者についての犯罪の嫌疑が新聞等に
より繰り返し報道されて社会的に広く知れ渡っていたとしても、それによって、そ
の者が真実その犯罪を犯したことが証明されたことにならないのはもとより、右を
真実と信ずるについて相当の理由があったとすることもできない。このことは、他
人が犯罪を犯したとの事実を基礎に意見ないし論評を公表した場合において、意見
等の前提とされている事実に関しても、異なるところはない。
 五 以上のとおり、原審の前記(3)及び(4)の判断並びにこれらを前提とす
る同(5)の判断は、法令の解釈適用を誤ったものというべきであり、この違法は
原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破
棄を免れない。そして、本件については、更に審理を尽くさせる必要があるから、
原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    福   田       博

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛