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裁判例


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主文
1被告Aは,別紙物件目録「(専有部分の建物の表示)」欄記載の建物(以下「本
件物件」という。)につき,下記行為をするなどして,指定暴力団道仁会三代目
大平組(以下「本件暴力団」という。)の事務所として使用してはならない。
記5
⑴本件物件内で,本件暴力団の定例会を開催し,又は本件暴力団の構成員を
集合させること
⑵本件物件内に,本件暴力団その他の暴力団の構成員を立ち入らせ,又はそ
の立入りを容認すること
⑶本件物件内に,本件暴力団その他の暴力団の連絡員を常駐させること10
⑷本件物件内又はその周辺の共用部分に,本件暴力団又は指定暴力団道仁会
(以下「道仁会」という。)を表象する紋章,文字板,表札等を設置すること
⑸本件物件内に,本件暴力団又は道仁会等暴力団の綱要,歴代組長,幹部又
は構成員の写真,名札その他これに類するものを掲示すること
⑹本件物件の周辺の共用部分に監視カメラを設置すること15
2被告有限会社Bは,本件物件につき,被告Aをして,第1項⑴ないし⑹記載
の各行為をさせるなどして,本件暴力団その他の暴力団の事務所又は連絡場所
として使用させてはならない。
3訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由20
第1請求
主文と同旨。
第2事案の概要
1本件は,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対
策法」という。)32条の5第1項により国家公安委員会の認定を受けた適格都25
道府県センターである原告が,別紙物件目録「(一棟の建物の表示)」欄記載の
建物(以下「本件マンション」という。)に居住する別紙委託者目録記載の委託
者ら(以下「本件委託者ら」という。)から委託を受け,同法32条の4第1項
に基づき,本件委託者らのために,本件物件が同法3条に基づく指定暴力団で
ある道仁会の傘下組織である本件暴力団の事務所として使用されていることに
より,本件委託者らの平穏に生活する権利が侵害されているなどと主張して,5
本件委託者らの人格権に基づき,本件暴力団の組長として本件物件を使用する
被告A(以下「被告A」という。)に対して本件物件を本件暴力団の事務所とし
て使用することの禁止を,本件物件を所有する被告有限会社B(以下「被告会
社」という。)に対して被告Aをして本件物件を本件暴力団その他の暴力団の事
務所又は連絡場所として使用させることの禁止をそれぞれ求める事案である。10
2前提事実(当裁判所に顕著な事実,当事者間に争いがない事実,文中記載の
証拠(以下,書証のうち枝番のあるものについては,枝番を全て含む。)及び弁
論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
⑴当事者等
ア原告は,暴力団対策法32条の3第1項に基づき,福岡県における都道15
府県暴力追放運動推進センターの指定を受け,同法32条の5第1項に基
づき,国家公安委員会から適格都道府県センターとして認定を受けた公益
財団法人である(甲13)。
イ本件委託者らは,本件物件のある本件マンションに居住し,原告に対し,
暴力団対策法32条の4第1項に基づき,本件物件について暴力団事務所20
の使用及びこれに付随する行為の差止めの請求について委託を行った者
らである。
ウ被告Aは,指定暴力団である道仁会の直若の地位にあり,かつ,道仁会
の傘下組織である本件暴力団の組長として本件暴力団を主宰している者
である(甲2)。25
エ被告会社は,本件物件の所有者であり,被告Aが取締役を務める会社で
ある(甲1,12)。
⑵本件マンション及び本件物件
本件マンションは,久留米市a町b番地所在の鉄骨鉄筋コンクリート造陸
屋根9階建の建物で,住居33戸及び店舗1戸からなる共同住宅であり,本
件物件は,本件マンション5階所在の鉄筋コンクリート造1階建,床面積75
4.47平方メートルの居宅である(甲1,2,4)。
本件マンションでは,管理規約により,その専有部分を暴力団事務所とし
て使用することなどは禁じられている(甲11)。
⑶本件仮処分命令
原告は,本件委託者らの委託を受けて,平成31年2月4日,本件物件に10
ついて事務所使用禁止等仮処分命令の申立てをし
当庁は,同月13日,原告の上記申立てを相当と認め,被告Aが本件物件を
本件暴力団の事務所として使用することを禁止し,被告会社が被告Aをして
本件物件を本件暴力団その他の暴力団の事務所又は連絡場所として使用させ
ることを禁止する旨の決定をした(以下「本件仮処分命令」という。甲14)。15
3争点及び争点についての当事者の主張
本件の争点は,人格権に基づく暴力団事務所としての使用禁止の可否である。
(原告の主張)
本件物件が本件暴力団の暴力団事務所として使用されている上,道仁会及び
本件暴力団の危険性,暴力団間の抗争事件が発生する可能性などに照らせば,20
本件委託者らは,暴力団間の抗争事件の発生による生命・身体に対する危険は
切迫したものであり,暴力団事務所の存在自体により平穏な生活を送ることが
困難となっているのであるから,本件委託者らは,人格権に基づき,本件物件
について,暴力団事務所としての使用及びこれに付随する行為の禁止を求める
ことができる。25
(被告らの主張)
本件物件は,現在は暴力団事務所として使用されていない上,暴力団間の抗
争事件の発生による危険はなく,暴力団構成員らが平和な営みを行っているこ
とに照らせば,暴力団事務所の存在により本件委託者らの人格権を損なうもの
ではないから,本件物件について,暴力団事務所としての使用及びこれに付随
する行為の禁止を求めることはできない。5
第3当裁判所の判断
1認定事実
前提事実,争いのない事実,各掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下
の事実が認められる。
⑴道仁会及び本件暴力団の状況等10
ア暴力団による対立抗争事件の全国での発生件数は,平成28年は42件
(うち銃器使用事件は6件),平成26年は18件(うち銃器使用事件は9
件),平成25年は27件(うち銃器使用事件は20件)であったとされて
いる(甲5)。
イ道仁会は,福岡県久留米市に本拠を置く指定暴力団である。15
道仁会は,平成18年に発生した福岡県大牟田市に本拠を置く指定暴力
団九州誠道会との対立抗争において,複数の銃器使用事件や殺人事件を起
こしたことにより,平成24年12月に九州誠道会と共に福岡県公安委員
会による特定抗争指定暴力団の指定を受け,以降は同指定の延長がされて
いたが,平成25年6月に九州誠道会が解散し,道仁会が抗争の終結を宣20
言したことから,平成26年6月に特定抗争指定暴力団の指定延長が見送
られた。
もっとも,九州誠道会は,浪川会に名称を変更して存続しており,平成
29年10月に道仁会系の元組員が,浪川会本部事務所で銃器使用事件を
起こしたことがある。(甲2,6)25
ウ本件暴力団は,道仁会の傘下組織である大平組系列の組織で,被告Aが
三代目の組長である。
本件暴力団の前身である初代大平組については,九州誠道会との対立抗
争下である平成18年5月に事務所として使用する福岡県久留米市所在
の一軒家(被告会社の所在地)に対する銃器使用による襲撃を受けるとい5
う事件が,平成19年11月に福岡県久留米市内で初代大平組組長が射殺
され,同組員が刺殺されるという事件が発生している。
また,本件暴力団の構成員については,平成23年4月頃に福岡県暴力
団排除条例違反事件,平成26年6月頃に暴力行為等処罰に関する法律違
反事件,平成28年2月に詐欺未遂事件,平成29年1月頃に貸金業法違10
反,出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反事件,平
成30年3月に恐喝未遂事件などを起こしたことがある。(甲2,7,8)
⑵本件物件の使用状況等
ア本件物件は,平成13年頃から道仁会大平組系列の組織により暴力団事
務所として使用されていたが,平成16年9月17日に被告会社の所有と15
なり,被告Aによって本件暴力団の事務所として使用されていた(甲1,
2)。
イ本件仮処分命令前の本件暴力団による本件物件の使用状況は,次のとお
りであった。(甲2,4,9,10,15)
本件物件において,本件暴力団の構成員が在所し,本件暴力団の幹部20
等が定期的に参集していた。
本件物件の玄関ドア上部,北側ベランダ及び西側ベランダには,それ
ぞれ屋外を監視する監視カメラが1台ずつ合計3台設置されていた。
本件物件の玄関には,道仁会の代紋等が掲示されていた。
本件物件の応接室には,道仁会の代紋,道仁会の会長と被告Aの親子25
盃,道仁会の会長の写真,道仁会の指針等が掲示されていた。
本件物件の和室には,道仁会の代紋が彫刻された壺,道仁会の代紋,
道仁会三代目会長の写真等が掲示されていた。
本件物件の当番部屋には,上記監視カメラのテレビモニターが設置さ
れ,当番者心得,道仁会その他暴力団組織の連絡票等が置かれていた。
ウ被告らは,本件仮処分命令が発令された後は,同命令に従い,本件物件5
を本件暴力団の事務所として使用しておらず,支柱等を一部残して前記監
視カメラを撤去した。
2争点について
⑴何人も,生命・身体の安全を侵されることなく,平穏な生活を営む権利を
有し,かかる権利が違法に侵害された場合には,人格権に対する侵害として,10
その侵害行為の排除を求めることができる。また,かかる侵害が現実化して
いなくとも,侵害の危険が切迫している場合には,人格権に対する侵害の予
防として,あらかじめ侵害行為又は侵害の原因となる行為の禁止を求めるこ
とができると解される。そして,人格権に対する違法な侵害であるかについ
ては,侵害行為の態様,侵害又は侵害の危険の程度,被侵害利益の性質及び15
内容等の諸般の事情を踏まえ,被害が一般社会生活上受忍すべき程度を超え
るものであるかどうかによって決するのが相当である。
⑵これを本件についてみると,認定事実⑴のとおり,本件暴力団の上部組織
である道仁会は,過去に九州誠道会との間で激しい対立抗争を起こしており,
そのような経緯に鑑みれば,今後も同様の対立抗争を起こす可能性が高く,20
道仁会内部の勢力争いに端を発した対立抗争の発生の可能性も否定し難い。
これらの対立抗争が発生すれば,道仁会の傘下組織である本件暴力団もこれ
に巻き込まれ,対立抗争に端を発した事件の当事者となることもあり得る。
本件暴力団がこれらの事件に巻き込まれれば,その事務所は本件暴力団の活
動拠点として,相手方からの主要な攻撃目標となり,その周辺住民の生命・25
身体が深刻な危機にさらされることは明らかである。
そして,認定事実⑵のとおり,本件物件は,長年にわたり道仁会大平組系
列の組織の事務所として使用され,本件暴力団の事務所としても長期間使用
されてきたものである。本件仮処分命令の発令後は,監視カメラは全て撤去
されているものの,代紋その他の暴力団としての活動に関わる物品は残置さ
れたままであり,本件物件が本件暴力団の事務所として十分な広さ,設備を5
備えている上,本件暴力団が本件物件以外にその事務所として使用し得る物
件を確保しているとはうかがわれないことにも照らせば,本件仮処分命令の
発令後は暴力団事務所としての使用が停止されているとしても(なお,この
ような仮処分による仮の履行状態は,本案請求の当否を判断するについては,
斟酌されないと解される。最高裁昭和31年(オ)第916号同35年2月10
4日第一小法廷判決・民集14巻1号56頁参照。),将来的に,再び本件暴
力団等の事務所として使用される蓋然性があるものと認めることができる。
そうすると,本件物件のある本件マンションの住民である本件委託者らの
生命・身体に対する危険は切迫しており,平穏な生活を営む権利が受忍限度
を超えて現に侵害され,今後もその侵害が継続する蓋然性が高いといえる。15
したがって,本件委託者らは,被告らに対し,人格権に基づき,その侵害を
防止し,予防するため,本件物件について暴力団事務所の使用及びこれに付
随する行為の禁止を求めることができるものというべきである。
3まとめ
以上のとおりであるから,本件委託者らから委託を受けた原告の,被告Aに20
対する本件物件を本件暴力団の事務所として使用することの禁止の請求,及び
被告会社に対する被告Aをして本件物件を本件暴力団その他の暴力団の事務所
又は連絡場所として使用させることの禁止の請求は,いずれも理由がある。
第4結論
よって原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし,主文25
のとおり判決する。
福岡地方裁判所久留米支部
裁判長裁判官岡田健
裁判官田辺麻里子
裁判官大西正悟

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