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裁判例


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       主   文
一 本件各控訴を棄却する。
二 本件附帯控訴に基づき、原判決主文第四ないし第六項を次のとおり変更する。
1 控訴人(附帯被控訴人)大洋潜水株式会社、同株式会社タバタは被控訴人(附
帯控訴人)に対し、各自金三〇万円を支払え。
2 控訴人(附帯被控訴人)株式会社マコト産業は被控訴人(附帯控訴人)に対
し、金三〇万円を支払え。
3 被控訴人(附帯控訴人)の控訴人(附帯被控訴人)らに対するその余の請求を
棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人(附帯控訴
人)の負担とし、その余を控訴人(附帯被控訴人)らの負担とする。
四 この判決の第二項1及び2は仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 昭和五八年(ネ)第二五九五号事件控訴人(附帯被控訴人)大洋潜水株式会社
(「控訴人大洋潜水」という)、同株式会社タバタ(「控訴人タバタ」という)
1 原判決中控訴人大洋潜水、同タバタ敗訴部分を取消す。
2 被控訴人の右控訴人らに対する請求を棄却する。
3 被控訴人の右控訴人らに対する本件附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 昭和五九年(ネ)第二四号事件控訴人(附帯被控訴人)株式会社マコト産業
(「控訴人マコト産業」という)
1 原判決中控訴人マコト産業敗訴部分を取消す。
2 被控訴人の右控訴人に対する請求を棄却する。
3 被控訴人の右控訴人に対する本件附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
三 昭和五八年(ネ)第二五九五号、昭和五九年(ネ)第二四号両事件被控訴人
(附帯控訴人)
1 本件各控訴を棄却する。
2 本件附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
3 控訴人大洋潜水は、原判決添付目録(一)(1)ないし(25)記載のウエツ
トスーツの赤線部分に、原判決添付目録(三)1記載のA′、B′、C′、D′の
各ラインを使用したウエツトスーツを製造、販売してはならない。
4 控訴人タバタは、前項記載のウエツトスーツを販売してはならない。
5 控訴人マコト産業は、原判決添付目録(一)(1)ないし(25)記載のウエ
ツトスーツの赤線部分に、原判決添付目録(三)2記載のA″、B″、C″、D″
の各ラインを使用したウエツトスーツを販売してはならない。
6 控訴人大洋潜水、同タバタ、同マコト産業は被控訴人に対し、それぞれ金四〇
万円ずつを支払え。
7 訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。
8 仮執行の宣言。
第二 主張
 当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加したほか、原判決事実摘示のとおり
(但し、原判決六枚目表六行目「別紙目録(二)1」を「原判決添付目録(三)
1」と、同裏一行目「別紙目録(二)2」を「原判決添付目録(三)2」とそれぞ
れ訂正する)であるから、その記載を引用する。
一 被控訴人
1 原判決八枚目表一行目「弁護士費用として六〇万円を」「弁護士費用として第
一審分六〇万円、第二審分六〇万円、計一二〇万円」と、五、六行目「被告ら各自
に対し、不法行為に基づき、弁護士費用六〇万円」を「控訴人らに対し、不法行為
に基づく弁護士費用相当の損害賠償金として、それぞれ四〇万円ずつ」と改める
(右は、不法行為に基づく損害賠償請求につき、原審においては、控訴人らに対
し、連帯債務の履行として第一審弁護士費用分六〇万円の支払を求めていたのを、
当審においては、控訴人らそれぞれに対し、分割債務の履行として第一審及び第二
審弁護士費用分一二〇万円の三分の一である四〇万円ずつの支払を求める、請求の
変更をしたものである)。
2 控訴人大洋潜水、同タバタの後記三1及び2の主張は、いずれも争う。
(一) 被控訴人は、本件ラインを使用したスーツ、すなわち、商品と色彩、色彩
の配色との組み合わせをもつて商品表示と主張しているのであつて、控訴人大洋潜
水、同タバタ主張のように商品の形態を問題としているのではない。
(二) 控訴人大洋潜水、同タバタが先使用の抗弁として主張する本件ライン使用
のスーツの輸入販売の件は、昭和五四年秋頃右輸入スーツが市場に出たため、被控
訴人が警告を発したところ、直ちに市場から姿を消したのであつて、先使用の事実
などあり得ない。
二 控訴人ら
 原判決九枚目表二行目「六〇万円」を「計一二〇万円」と改める(右は、前記請
求の変更に応ずる認否の訂正である)。
三 控訴人大洋潜水、同タバタ
1 被控訴人は、被控訴人製品の商品表示の主張として、「本件ラインを使用した
ウエツトスーツ」との主張をしているが、右主張は、従来の不正競争防止法
(「法」という)一条一項一号の解釈の歴史からすれば、被控訴人製品の形態その
ものを商品表示として主張しているものと解すべきところ、商品の形態は、元来、
商品の出所表示を目的とするものではなく、本件ラインを使用した被控訴人製品の
形態は、千差万別であるから、「本件ラインを使用したウエツトスーツ」というだ
けでは、法一条一項一号の商品表示の主張としてその内容が特定されているとはい
えない。仮に、「本件ラインを使用したウエツトスーツ」という主張を商品と色
彩、色彩の配色との組み合わせの主張と解したとしても、商品と色彩等との組み合
わせも、同様、商品の出所表示を目的とするものではなく、スーツの形態や本件ラ
イン使用部分以外の部分の生地色等との組み合わせにより極めて多様となりうるの
であるから、右主張をもつて法一条一項一号の商品表示の主張としてその内容が特
定されているとすることはできない。
2 控訴人タバタは、本件ラインを使用したウエツトスーツが周知性を有する商品
表示となるに至つた時期であると被控訴人が主張する昭和五四年夏より以前である
同年初頭から、不正競争の目的なくして、本件ラインを使用したダイブ・エヌ・サ
ーフ・ターキー社の「パイピングホツト」というスーツを輸入して国内で販売して
おり、昭和五六年からは、これを国内生産に切り替えてA′ラインを使用したスー
ツを販売するに至つたのである(先使用の抗弁)。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 被控訴人の本訴請求のうち、差止請求については、当裁判所も、原判決が認容
した限度において正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断す
る。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由一ないし五記載のとおり
(但し、原判決一八枚目表末行「⑨、⑭、⑩、(23)」を「(9)、(14)、
(10)、(23)」と訂正し、二四枚目裏一一行目及び末行の各「製品」の次に
それぞれ「の写真」を挿入する)であるから、その記載を引用する。
1 控訴人大洋潜水、同タバタは、被控訴人の「本件ラインを使用したウエツトス
ーツ」という主張は法一条一項一号の商品表示の主張としては内容が不特定である
旨主張する。
 しかし、右主張が、右控訴人ら主張のように商品の形態を問題としているのでは
なく、商品と色彩、色彩の配色との組み合わせをもつて商品表示と主張しているも
のであることは、弁論の全趣旨から明らかであるところ、本件ラインは、原判決が
詳細に説示するとおり、鮮やかな色調を有する同系統の色落ち三色から成る色ライ
ンで、それが製品中に使用されることによりその製品は看る者に他と際立つた特別
の印象を与えており、したがつて、十分な出所表示機能を具備しているものといえ
るから「本件ラインを使用したウエツトスーツ」という主張は、法一条一項一号の
商品表示の主張として十分なものといわなければならない。
2 控訴人らは、いずれも「本件ラインを使用したウエツトスーツ」が出所表示機
能・周知性を有することを争うが(この点に関する当裁判所の認定判断は、原判決
理由二記載のとおりである)、控訴人大洋潜水、同タバタは、この点に関連して、
カラースーツは被控訴人が本件ラインを使用したカラースーツを販売し始めたとす
る昭和五三年五月より以前からわが国においても広く販売され、「本件ラインを使
用したウエツトスーツ」はその中にあつて決して目立つ特異な存在ではなかつた旨
主張し、その点に関する証拠として、当審において、多数の雑誌・カタログ類(乙
第一三ないし第四七号証。なお、乙第一〇号証は原審提出の甲第二号証と、乙第一
一号証は同じく甲第一〇号証と、乙第一二号証は同じく甲第六号証の二と同一の雑
誌・カタログゆえ除く)を提出する。
 しかし、右雑誌・カタログ類に掲載されたスーツは、うち乙第一二号証中アク・
アクの広告に掲載されたスーツ、乙第一九号証の二に掲載されたスキーウエア、乙
第三一号証の二、同第三三号証の二、同第三六号証の二、同第四〇号証の二、同第
四七号証の二にそれぞれ掲載されたスーツを除いては、いずれも本件ラインのよう
な色落ち三色から成る色ラインを使用したスーツではない点で「本件ラインを使用
したウエツトスーツ」とは明らかに異なるものであり、右のアク・アクの広告に掲
載されたスーツは、弁論の全趣旨からすれば、被控訴人の製品とみられるものであ
り、乙第一九号証の二に掲載されたものは、スキーウエアという全く異なる製品分
野のものであり、乙第三一、第三三、第三六、第四〇号証の各二は、いずれも外国
の雑誌・カタログであつて、これに掲載されたスーツが右雑誌・カタログ発行当時
もしくはその後間もなくの頃にわが国において輸入販売されたことを認めうる証拠
はなく、乙第四七号証の二に掲載されたスーツは、後記「パイピングホツト」とい
うスーツであつて、後記事情からすれば、右カタログ発行当時もしくはその後にわ
が国において輸入販売されたものとは認め難く、以上いずれも「本件ラインを使用
したウエツトスーツ」の特異性を稀釈化するようなものとして存在していたものと
は認められない。
 控訴人大洋潜水、同タバタは、また、「本件ラインを使用したウエツトスーツ」
が出所表示機能・周知性を有していないことの証拠であるとしてスーツ販売業者、
需要者等多数の証明書(乙第九号証の一ないし七、同第四九ないし第一一九号証)
を提出する。
 しかし、当審における控訴人大洋潜水代表者本人尋問(第一、二回)の結果及び
弁論の全趣旨によれば、右証明書は、控訴人タバタの方で文案を作成し、控訴人大
洋潜水、同タバタと過去もしくは現在取引のある業者あるいはそれと取引のある需
要者等に依頼して作成されたものであることが認められるから、控訴人大洋潜水・
同タバタ側の一つの認識を示すにすぎないものであつて、さきの引用にかかる原判
決の認定を左右するものではない。
 控訴人大洋潜水、同タバタは、更に、訴外セド化学工業株式会社作成名義の証明
書(乙第四八、第一二二、第一二三号証)を提出し、控訴人大洋潜水代表者は、当
審第一、二回本人尋問において、右セド化学工業株式会社が被控訴人の「本件ライ
ンを使用したウエツトスーツ」販売以前から訴外ヤマトマリンなどに対し色落ち三
色ラインの原反を販売していたとにおわすような供述をしているが、右証明書は、
右のような事実を認めるに足りるものではなく、控訴人大洋潜水代表者の右供述
は、措信し難い。
 なお、当審証人【A】の証言によれば、被控訴人は、「本件ラインを使用したウ
エツトスーツ」につき意匠登録を出願したが、登録を拒絶されたことが認められる
けれども、意匠法と不正競争防止法とでは、規制目的・規制対象を異にするから、
右のような事実があるからといつて、「本件ラインを使用したウエツトスーツ」が
出所表示機能を有しないものとすることはできない。
 その他この点に関する前記引用にかかる原判決の認定を左右するに足りる証拠は
ない。
3 次に、控訴人らは、いずれもタバタ製品ないしマコト製品とA、Bラインを使
用した被控訴人製品との間に類似性があることを争うが、ある商品表示が不正競争
防止法一条一項一号所定の他人の商品表示と類似のものにあたるか否かについて
は、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が両表示の外観、称呼又は観念
に基づく印象、記憶、連想等から両表示を全体的に類似のものと受け取るおそれが
あるか否かを基準として判断すべきところ(最高裁判所昭和五九年五月二九日判決
判例時報一一一九号三四頁参照)、右基準にしたがつてみた場合、タバタ製品ない
しマコト製品とA、Bラインを使用した被控訴人製品とが極めてよく類似している
ことは、原判決が詳細に認定説示するとおりである。
4 更に、控訴人大洋潜水、同タバタは、先使用の抗弁を主張するが、右控訴人ら
主張の「パイピングホツト」というスーツは、原判決が認定するとおり(原判決理
由二1(七))、訴外山本化学工業株式会社が被控訴人の承諾を得てオーストラリ
アのダイブ・エヌ・サーフ・ターキー社に輸出した本件ラインを、右ダイブ・エ
ヌ・サーフ・ターキー社が使用して製品化したものを、控訴人タバタが昭和五四年
初め頃輸入したもので、同年秋、被控訴人が右控訴人に警告したことにより、程な
く店頭から姿を消したものと認められ、その後も右スーツがわが国において販売さ
れていた旨の控訴人大洋潜水代表者の当審における供述は措信し難く、他に前掲控
訴人らの先使用の事実を認めるに足りる証拠はない(乙第四七号証の二も右スーツ
が前記警告後もわが国において販売されていたことの証拠となしうるものではな
い)から、先使用の抗弁は採用することができない。
5 他方、被控訴人は、C′、D′ライン及びC″、D″ラインについても控訴人
らがこれを使用するおそれがあるとして、附帯控訴に及んでいるのであるが、原審
証人【A】(第二回)の証言及びこれにより大和ゴム工業製造の色ライン生地見本
の写真であると認める検甲第五号証によれば、大和ゴム工業製造のC、Dライン類
似の色ライン生地がわが国の市場に出ていることは認められるけれども、原判決が
認定するとおり、控訴人らは、未だかつてC、Dライン類似の色ラインを使用した
ウエツトスーツを製造販売したことはなく、大和ゴム工業から右色ライン生地を入
手したと認めるに足りる証拠もないから、控訴人らにC′、D′ライン及びC″、
D″ライン使用のおそれがあるとすることはできない。
二 次に、被控訴人の本訴請求のうち、損害賠償請求については、当裁判所は、次
のとおり判断する。
1 控訴人大洋潜水のA′、B′ラインを使用したスーツの製造・販売行為、控訴
人タバタの右スーツの販売行為及びマコト産業のA″、B″ラインを使用したスー
ツの販売行為が被控訴人に対する不法行為に該当することは、原判決の認定説示す
るとおりであるから、その記載(原判決三一枚目裏二行目から三二枚目裏一行目ま
で)を引用する。
2 したがつて、控訴人らは被控訴人に対し右不法行為によつて被控訴人が被つた
次の損害を賠償する義務がある。すなわち、
 原審証人【A】(第一回)の証言及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、控訴
人らの右不法行為により本訴の提起を余儀なくされ、その追行を被控訴人訴訟代理
人弁護士藤巻次雄に委任し弁護士費用として六〇万円を支払うことを約したことが
認められ、
当審証人【A】の証言及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、控訴人らの本件各
控訴の提起により更にこれに対する応訴を余儀なくされ、その追行のための弁護士
費用として右弁護士に更に六〇万円を支払うことを約したことが認められるが、本
訴第一、二審における事件の難易、訴額、前記差止請求の認容の範囲などを考慮す
ると、前記弁護士費用合計一二〇万円のうち控訴人らの前記不法行為と相当因果関
係がある損害と認められるのはうち六〇万円であると認めるのが相当である。
3 ところで、被控訴人は、右弁護士費用合計一二〇万円相当の損害につき控訴人
ら三名にそれぞれに対し四〇万円ずつの支払を請求しているが、本件の事実関係か
らすれば、右2認定の六〇万円の損害につき控訴人大洋潜水、同タバタに連帯して
うち三〇万円の、控訴人マコト産業に残り三〇万円の賠償義務を負わしめるのが相
当であると考えられる。
4 したがつて、被控訴人の本訴請求のうち損害賠償請求は、控訴人大洋潜水、同
タバタに対し各自三〇万円を支払うことを、控訴人マコト産業に対しこれとは別に
三〇万円を支払うことを求める限度において正当として認容し、その余を失当とし
て棄却すべきものである。
三 よつて、控訴人らの本件各控訴は、いずれも理由がなく棄却を免れないが、被
控訴人の本件附帯控訴は、一部理由があるから、これに基づいて原判決を変更し、
被控訴人の本訴請求を前二項の限度で認容することとし、訴訟費用の負担につき民
事訴訟法九六条、九二条本文、八九条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同
法一九六条一項(原判決主文第八項中金員支払の仮執行宣言の部分は本判決第四項
のとおり変更する)をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 今中道信 露木靖郎 齋藤光世)

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