弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決の上告人敗訴部分のうち、上告人の被上告人B1に対する請求中
金五九三万九九九六円およびこれに対する遅延損害金の支払請求に関する部分を破
棄し、右部分を大阪高等裁判所に差し戻す。
     被上告人B1に対するその余の上告および同B2繊維株式会社に対する
本件上告を棄却する。
     前項の上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
  上告代理人松田英雄、同林義久、同葛井久雄の上告理由について。
 原審の認定した事実によれば、上告人は、昭和四二年二月一〇日被上告人B2繊
維株式会社(以下単に被上告会社という。)との間で、同人に織物等の商品を継続
して売り渡す旨の継続的取引契約を締結し、被上告人B1は、被上告会社が右契約
に基づき上告人に対し負担する債務につき連帯保証をなし、被上告会社は同年五月
一〇日現在において上告人に対し右契約に基づく買掛代金七四二万四九九五円の債
務を負担するに至つたところ、被上告会社は同月一五日債権者会議において支払不
能を発表するに至つたため、同年六月一五日被上告会社に対する債権者委員会が開
催され、上告人の代理人も出席のうえ、被上告会社に対する同年五月一〇日現在の
債権額のうち八〇パーセントを免除すること、および上告人は被上告会社に対し有
する債権額七四二万四九九五円につき連帯保証人である被上告人B1からこれを取
り立てることを他の出席債権者も承認する旨の事項を含む原判示の決議をなし、右
決議後被上告人B1は議事録に基づき右決議の内容を読み聞かされ、その際同人は
何年かかつても支払う旨を述べたというのである。
 ところで、原審は、被上告人B1が何年かかつても支払う旨を述べたという事実
を認定しながら、首肯するに足る何らの根拠をも示すことなく、右陳述は儀礼的な
言辞にすぎないと判断している。しかしながら、原審の認定した事実関係のもとに
おいては、他に特段の事情の存しないかぎりは、右陳述をもつて、同被上告人が被
上告会社の債権者らに対し、前記債権者委員会の決議を承諾する旨の意思表示をし
たものと解するのが相当である。したがつて、原審がたやすく右陳述をもつて儀礼
的な言辞にすぎないと判断したことには、前記の意思表示の存否に関する事実認定
につぎ経験則違背の違法があるものというべきである。そして、被上告人B1が前
記の債権者委員会の決議を承諾したとすれば、同被上告人は上告人に対し、被上告
会社の上告人に対し負担する債務の一部が免除されたにもかかわらず、あえて右免
除部分を含む債務全額につき上告人に対しその履行をなすべき債務を負担する旨の
意思表示をしたものと解しうべく、また右意思表示の効力を否定すべき理由も存し
ない。原審は、被上告人B1が債権者委員会の前記決議を承諾したとしても、同被
上告人の上告人に対し負担する債務は、主たる債務者を被上告会社とする連帯保証
債務であるから、主たる債務に付従する性質を有し、主たる債務が免除された限度
においては、右連帯保証債務も消滅すると判断するもののように解される。もとよ
り、連帯保証債務が右のような付従性を有することは、原判示のとおりではあるが、
被上告人B1が前示のように特段の意思表示をした場合においては、同人は右意思
表示によつて主たる債務につき免除があつた部分につき付従性を有しない独立の債
務を負担するに至つたものというべく、同人が負担していた連帯保証債務は右の限
度においてその性質を変じたものというべきである。したがつて、右と見解を異に
する原審の判断には、右意思表示により負担すべき債務の性質を誤つて解釈した違
法があるものといわざるをえない。
 したがつて、被上告人B1がした前記の陳述をもつて、債権者委員会の決議を承
諾する旨の意思表示であるとする場合においては、同被上告人は、上告人に対し、
被上告会社が前記決議により免除をえた上告人に対する金五九三万九九九六円(債
務総額七四二万四九九五円の八〇パーセントに相当する金額)の買掛金債務と同額
の支払債務を負担し、これに対する遅延損害金債務も負担することとなるべきであ
る。論旨は、被上告人B1に対する請求に関し右の限度において理由があるが、右
請求に関しこれをこえる部分および被上告会社に対する請求に関する部分について
は理由がない。
 以上のとおりであるから、原判決の上告人敗訴部分のうち、上告人の被上告人B
1に対する請求中金五九三万九九九六円およびこれに対する遅延損害金の支払請求
に関する部分を破棄し、被上告人B1が前記債権者委員会の決議につき承諾の意思
表示をしたか否かの点につき更に審理を尽くさせるため、右部分を大阪高等裁判所
に差し戻すこととするが、同被上告人に対するその余の上告および被上告会社に対
する本件上告を棄却することとする。
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁
判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    天   野   武   一

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