弁護士法人ITJ法律事務所

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            主     文
       本件上告を棄却する。
      上告費用は上告人の負担とする。
            理     由
 第1 事案の概要
 1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 日本国有鉄道改革法(以下「改革法」という。)は,日本国有鉄道(以下
「国鉄」という。)による鉄道事業その他の事業の経営が破たんし,公共企業体に
よる全国一元的経営体制の下においてはその事業の適切かつ健全な運営を確保する
ことが困難となっている事態に対処して,これらの事業に関し,輸送需要の動向に
的確に対応し得る新たな経営体制を実現し,その下において我が国の基幹的輸送機
関として果たすべき機能を効率的に発揮させることが,国民生活及び国民経済の安
定及び向上を図る上で緊要な課題であることにかんがみ,これに即応した効率的な
経営体制を確立するための国鉄の経営形態の抜本的な改革に関する基本的な事項を
定めるものである(1条)。改革法の骨子は,① 国鉄の旅客鉄道事業を分割して
被上告人北海道旅客鉄道株式会社(以下「JR北海道」という。)外5社を設立し
てこれらに引き継がせる(6条),② 国鉄の貨物鉄道事業を旅客鉄道事業から分
離し,被上告人日本貨物鉄道株式会社(以下「JR貨物」という。)を設立してこ
れに引き継がせる(8条),③ 運輸大臣は,国鉄の事業等の引継ぎ並びに権利及
び義務の承継等に関する基本計画を定め,国鉄は,基本計画に従って承継法人ごと
にその事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する実施計画を作成し,運輸
大臣の認可を受ける(19条),④ 認可を受けた実施計画の定めに従い,承継法
人の成立の時において,承継法人に事業等が引き継がれ,権利及び義務が承継され
る(21条,22条),⑤ 国は,国鉄が承継法人に事業等を引き継いだときは,
国鉄を日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)に移行させ,承継法人
に承継されない資産,債務等を処理するための業務等を事業団に行わせるほか,臨
時に,その職員の再就職の促進を図るための業務を行わせる(15条),というも
のである。
 (2) 被上告人ら承継法人の職員の採用手続について,改革法23条は,① 承
継法人の設立委員は,国鉄を通じ,その職員に対し,それぞれの承継法人の職員の
労働条件及び採用の基準を提示して,職員の募集を行う(1項),② 国鉄は,①
によりその職員に対し労働条件及び採用の基準が提示されたときは,承継法人の職
員となることに関する国鉄の職員の意思を確認し,承継法人別に,その職員となる
意思を表示した者の中から当該承継法人に係る①の採用の基準に従い,その職員と
なるべき者を選定し,その名簿(以下「採用候補者名簿」という。)を作成して設
立委員に提出する(2項),③ 採用候補者名簿に記載された国鉄の職員のうち,
設立委員から採用する旨の通知を受けた者であって,昭和62年4月1日に国鉄の
職員であるものは,承継法人の成立の時(同日)において,当該承継法人の職員と
して採用される(3項),④ 承継法人の職員の採用について,当該承継法人の設
立委員がした行為及び当該承継法人の設立委員に対してなされた行為は,それぞれ
,当該承継法人がした行為及び当該承継法人に対してなされた行為とする(5項)
,⑤ ③により国鉄の職員が承継法人の職員となる場合には,その者に対しては,
国家公務員等退職手当法に基づく退職手当は支給せず(6項),承継法人は,その
者の退職に際し,退職手当を支給しようとするときは,その者の国鉄の職員として
の引き続いた在職期間を当該承継法人の職員としての在職期間とみなして取り扱う
(7項)旨を定める。
 (3) 旅客鉄道株式会社及びJR貨物に関する法律附則2条は,運輸大臣は,旅
客鉄道株式会社6社及び被上告人JR貨物(以下,この7社を「JR各社」という。)
ごとに設立委員を命じ,当該会社の設立に関して発起人の職務を行わせる旨を(1
項),設立委員は,同項及び改革法23条に定めるもののほか,当該会社がその成
立の時において事業を円滑に開始するために必要な業務を行うことができる旨を(
2項),それぞれ規定する。そして,運輸大臣は,昭和61年12月4日,JR各
社の共通設立委員16人及び会社ごとに設立委員2ないし5人を任命した。
 (4) 昭和61年12月11日,JR各社合同の第1回設立委員会が開催され,
各社共通の採用の基準として,国鉄在職中の勤務の状況からみて,当該会社の業務
にふさわしい者であること(なお,勤務の状況については,職務に対する知識技能
及び適性,日常の勤務に関する実績等を,国鉄における既存の資料に基づき,総合
的かつ公正に判断すること)等が定められ,同月19日,JR各社合同の第2回設
立委員会において各社の労働条件の細部が決定され,採用の基準と共に国鉄に提示
された。
 (5) 運輸大臣は,昭和61年12月16日,改革法19条1項に基づき,閣議
決定を経て基本計画を定め,国鉄職員のうち承継法人の職員となる者の総数を21
万5000人,うち被上告人JR北海道の職員数を1万3000人,同JR貨物の
職員数を1万2500人と決定した。
 (6) 国鉄は,昭和61年12月24日,採用の基準に該当しないことが明白な
者を除く職員約23万0400人に対し,承継法人の労働条件及び採用の基準を記
載した書面並びに承継法人の職員となる意思を表明する意思確認書の用紙を配布し
たところ,昭和62年1月7日までに,国鉄職員22万7600人が意思確認書を
提出した。そのうち承継法人への採用希望者は21万9340人であり,第2希望
以下の複数の承継法人名を記載しているものを含めた就職申込総数は延べ52万5
720人であった。このうち,被上告人JR北海道への就職申込総数は延べ2万3
710人,同JR貨物への就職申込総数は延べ9万4400人であった。
 (7) 国鉄は,承継法人ごとに採用候補者を選定して採用候補者名簿を作成し,
昭和62年2月7日,これを設立委員に提出した。採用候補者名簿の記載者数は,
被上告人JR北海道については1万3000人であり,同JR貨物については1万
2289人であったが,上告補助参加人国鉄労働組合,同国鉄労働組合札幌地区本
部,同国鉄労働組合青函地区本部,同国鉄労働組合旭川地区本部及び同国鉄労働組
合釧路地区本部(以下「上告補助参加人国労ら」という。)に所属する第1審判決
別紙1記載の者で,上告補助参加人国労らが本件で救済を求めているもの(以下「
本件救済申立対象者」という。)は,採用候補者名簿に記載されなかった。
 (8) 昭和62年2月12日,JR各社合同の第3回設立委員会において,採用
候補者名簿に記載された者全員を当該承継法人の職員に採用することが決定された
が,本件救済申立対象者は,全員不採用となった。JR各社の採用予定者は,同年
4月1日,JR各社の発足と同時に当該会社の職員となった(以下,この被上告人
らの職員の採用を「4月採用」という。)。他方,承継法人に採用されなかった国
鉄職員は,同日以降,事業団の職員となり,国鉄退職希望職員及び事業団職員の再
就職の促進に関する特別措置法(以下「特措法」という。)に基づき,再就職が図
られることとされたが,特措法が平成2年4月1日限りで失効することから,3年
以内に再就職するものとされていた。
 (9)
被上告人JR北海道は,職員に欠員が生じたことから,昭和62年4月13日,募
集対象者を北海道地区に勤務する事業団の職員,採用予定人員を約280人,採用
予定日を同年6月1日とする職員の追加採用(以下「6月採用」という。)を行っ
た。応募者2947人中281人が採用されたが,上告補助参加人国労らに所属す
る組合員は応募者1901人中82人の採用にとどまり,本件救済申立対象者中の
応募者で採用されたものはなかった。
 (10) 上告補助参加人国労らは,4月採用及び6月採用に際し所属組合員が採用
されなかったのは不当労働行為に当たると主張して,北海道地方労働委員会に対し
,救済を申し立てたところ,同委員会は,平成元年1月12日,本件救済申立対象
者につき,被上告人ら設立時(昭和62年4月1日)からの採用取扱い,被上告人
らに採用されていたならば得たであろう賃金相当額(以下「賃金相当額」という。)
と事業団から実際に支払われた賃金額との差額の支払等を命じる救済命令を発した。
 被上告人らは,上告人に対し,上記初審命令を不服として再審査を申し立てたが
,上告人は,平成5年12月15日,4月採用及び6月採用に関して,不利益取扱
いを受けた組合員の具体的な特定はできないが本件救済申立対象者の少なくとも一
部の者について不当労働行為の成立が認められると判断した上で,上記初審命令を
変更して,本件救済申立対象者のうち同2年4月2日に事業団からの離職を余儀な
くされた者であって被上告人らに採用を申し出たものについての職員採用に関する
選考やり直し,選考やり直しの結果採用すべきものと判定した者についての採用取
扱い及び同日以降の賃金相当額の60%相当額の支払等を命じ,その余の救済申立
てを棄却する旨の命令を発した。
 2 本件は,被上告人らが上記命令のうち再審査申立てを棄却して救済を命じた
部分の取消しを求めた事案である。
 第2 上告代理人菅野和夫,同諏訪康雄,同伊藤治,同西野幸雄,同三原裕子の
上告受理申立て理由第一,第二,第四及び上告補助参加代理人宮里邦雄,同後藤徹
,同今重一,同小笠原寛,同菅沼文雄,同山崎英二,同室田則之,同川村俊紀,同
石井将,同福田護,同岡田尚,同河村武信,同上条貞夫,同海渡雄一の上告受理申
立て理由第1点ないし第3点,第5点について
 1 原審は,4月採用における採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過
程に不当労働行為に該当する行為があったとしても,設立委員ひいては被上告人ら
は労働組合法7条の使用者としてその責任を負わないと判断した。論旨は,原審の
この判断には改革法及び労働組合法の解釈適用の誤りがある旨をいう。
 2 改革法23条は,承継法人の職員の採用手続において,設立委員が,国鉄を
通じ,労働条件及び採用の基準を提示して職員の募集を行い(1項),これを受け
て,国鉄が,職員の意思を確認し,採用の基準に従い採用候補者の選定及び採用候
補者名簿の作成を行い(2項),設立委員が,採用候補者名簿に記載された者の中
から職員として採用すべき者を決定し,採用する旨を通知する(3項)とし,採用
手続に段階を設け,各段階ごとに行う事務手続の内容,主体及び権限を規定する。
 改革法は,前記のとおり,承継法人を設立して国鉄の事業等を引き継がせ,国鉄
が承継法人に事業等を引き継いだときは,国鉄を事業団に移行させて,承継法人に
承継されない資産,債務等を処理するための業務等を行わせるほか,その職員の再
就職の促進を図るための業務を行わせることとしたのであり,これを受けて,国鉄
の職員について,承継法人の職員に採用されるべき者と国鉄の職員のまま残留させ
る者とに振り分けることとし,国鉄にその振り分けを行わせることとしたのである。
そして,改革法は,23条において,上記のとおり,承継法人設立時にその職員と
して採用する者を決定する手続を特に定めたのであるから,国鉄の職員であっても
,同条所定の手続によらない限り,承継法人設立時にその職員として採用される余
地はなかったものというべきである。国鉄によって承継法人の採用候補者に選定さ
れず採用候補者名簿に記載されなかった者は,国鉄の職員の地位にとどまり,国鉄
が事業団に移行するのに伴ってその職員となり,国鉄との従前の雇用契約関係が形
を変えて存続することとなったのであるから,上記職員の雇用主は,国鉄,次いで
事業団であることが明らかである。このように,改革法は,国鉄が上記振り分けに
当たって採用候補者として選定せず採用候補者名簿に記載しなかったため承継法人
の職員として採用されなかった国鉄の職員については,国鉄との間で雇用契約関係
を存続させ,国鉄が事業団に移行するのに伴い事業団の職員とし,事業団との間に
雇用契約関係を存続させることとしたが,この措置は,事業団の職員となった者に
ついて特措法により移行日から3年内に再就職を図るものとしてその間に再就職の
準備をさせることとしたものであり,雇用契約関係終了に向けての準備期間を置く
ことを目的としたものである。承継法人の職員に採用されず国鉄の職員から事業団
の職員の地位に移行した者は,承継法人の職員に採用された者と比較して不利益な
立場に置かれることは明らかである。そうすると,仮に国鉄が採用候補者の選定及
び採用候補者名簿の作成に当たり組合差別をした場合には,国鉄は,その職員に対
し,労働組合法7条1号が禁止する労働組合の組合員であることのゆえをもって不
利益な取扱いをしたことになるというべきであり,国鉄,次いで事業団は,その雇
用主として同条にいう「使用者」としての責任を免れないものというべきである。
他方,改革法は,前記のとおり,所定の採用手続によらない限り承継法人設立時に
その職員として採用される余地はないこととし,その採用手続の各段階における国
鉄と設立委員の権限については,これを明確に分離して規定しており,このことに
改革法及び関係法令の規定内容を併せて考えれば,【要旨1】改革法は,設立委員
自身が不当労働行為を行った場合は別として,専ら国鉄が採用候補者の選定及び採
用候補者名簿の作成に当たり組合差別をしたという場合には,労働組合法7条の適
用上,専ら国鉄,次いで事業団にその責任を負わせることとしたものと解さざるを
得ず,このような改革法の規定する法律関係の下においては,設立委員ひいては承
継法人が同条にいう「使用者」として不当労働行為の責任を負うものではないと解
するのが相当である。
 前記事実関係によれば,設立委員自身が不当労働行為を行ったとはいい難いとこ
ろ,設立委員ひいては被上告人らが同条にいう「使用者」に当たらないとした原審
の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
 第3 上告代理人菅野和夫,同諏訪康雄,同伊藤治,同西野幸雄,同三原裕子の
上告受理申立て理由第三及び上告補助参加代理人宮里邦雄,同後藤徹,同今重一,
同小笠原寛,同菅沼文雄,同山崎英二,同室田則之,同川村俊紀,同石井将,同福
田護,同岡田尚,同河村武信,同上条貞夫,同海渡雄一の上告受理申立て理由第4
点(いずれも4月採用に関する部分を除く。)について
 1 原審は,6月採用は新規採用に当たるから,その採用の拒否は労働組合法7
条1号本文の不利益な取扱いには当たらないと判断した。論旨は,原審のこの判断
には同法の解釈適用の誤りがある旨をいう。
 2 企業者は,経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し,自己の営業の
ために労働者を雇用するに当たり,いかなる者を雇い入れるか,いかなる条件でこ
れを雇うかについて,法律その他による特別の制限がない限り,原則として自由に
これを決定することができるものであり,他方,企業者は,いったん労働者を雇い
入れ,その者に雇用関係上の一定の地位を与えた後においては,その地位を一方的
に奪うことにつき,雇入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではない(
最高裁昭和43年(オ)第932号同48年12月12日大法廷判決・民集27巻
11号1536頁参照)。そして,労働組合法7条1号本文は,「労働者が労働組
合の組合員であること,労働組合に加入し,若しくはこれを結成しようとしたこと
若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもって,その労働者を解雇し,そ
の他これに対して不利益な取扱をすること」又は「労働者が労働組合に加入せず,
若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」を不当労働行為として
禁止するが,雇入れにおける差別的取扱いが前者の類型に含まれる旨を明示的に規
定しておらず,雇入れの段階と雇入れ後の段階とに区別を設けたものと解される。
そうすると,【要旨2】雇入れの拒否は,それが従前の雇用契約関係における不利
益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合
に当たるなどの特段の事情がない限り,労働組合法7条1号本文にいう不利益な取
扱いに当たらないと解するのが相当である。
 前記事実関係によれば,6月採用は,既に被上告人JR北海道が設立された後に
おいて,同被上告人が採用の条件,人員等を決定して行ったものであり,同被上告
人が雇入れについて有する広い範囲の自由に基づいてした新規の採用というべきで
あって,6月採用における採用の拒否について上記特段の事情があるということは
できない。したがって,6月採用における採用の拒否は,労働組合法7条1号本文
にいう不利益な取扱いに当たらないというべきである。
 これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違
法はない。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官深澤武久,同島田仁郎の反対意見があるほか,裁判官全員一致の
意見で,主文のとおり判決する。
 裁判官深澤武久,同島田仁郎の反対意見は,次のとおりである。
 1 私たちは,① 承継法人の4月採用について,専ら国鉄が採用候補者の選定
及び採用候補者名簿の作成に当たり組合差別をしたという場合には,労働組合法7
条の適用上,国鉄,次いで事業団は,その責任を免れないが,設立委員ひいては承
継法人が同条にいう「使用者」として不当労働行為の責任を負うものではない,②
 6月採用は,被上告人JR北海道が設立された後に雇入れについて有する広い範
囲の自由に基づいてした新規の採用であって,6月採用における採用拒否は同条1
号本文にいう不利益な取扱いに当たらない,とする多数意見に賛同することはでき
ない。その理由は次のとおりである。
 2 4月採用について
 (1) 承継法人の職員採用は,改革法23条によって,① 設立委員が,国鉄を
通じ,その職員に対し,労働条件及び採用の基準を提示して職員の募集をし,② 
国鉄が,その職員の意思を確認し,設立委員から提示された採用の基準に従い,採
用候補者の選定をした上,採用候補者名簿を作成して設立委員に提出し,③ 設立
委員が,その判断と責任によって国鉄から提出された採用候補者名簿に記載された
者の中から職員として採用すべき者を決定するものとされている。改革法は,採用
手続の各段階について,国鉄と設立委員の行う事務手続を定めているが,これは承
継法人の設立に際して27万人を超える国鉄職員の中から改革法成立後約4か月間
に21万5000人という多数の職員を採用しなければならないため,職員につい
ての資料を有し,その事情を把握している国鉄が採用候補者名簿の作成等を行うの
が適切であるとされたからにすぎない。そのために,国鉄は,承継法人の職員の採
用のために設立委員の提示した採用の基準に従って採用候補者名簿の作成等の作業
をすることとされ,国鉄総裁が設立委員に加わり,設立委員会における実際の作業
も国鉄職員によって構成された設立委員会事務局によって行われたものと考えられ
る。このような採用手続の各段階における作業は,各々独立の意味を持つものでは
なく,すべて設立委員の提示する採用の基準に従った承継法人の職員採用に向けら
れた一連の一体的なものであって,同条において国鉄と設立委員の権限が定められ
ていることを理由に,その効果も分断されたものと解するのは,あまりにも形式論
にすぎるものといわざるを得ない。
 (2) 改革法の国会審議において,法案を所管する運輸大臣は,国鉄と設立委員
の関係について,国鉄は設立委員の採用事務を補助する者で,民法上の準委任に近
いものである旨を繰り返し答弁し,さらに,国鉄は設立委員の補助者であるから,
国鉄の組合と団体交渉をする立場にはないと説明しているのである。国会の法案審
議における大臣の答弁は,立法者意思として法解釈に際して重く評価しなければな
らない。特に,改革法は,国鉄の抜本的改革を目的として,昭和61年11月28
日に成立し,同年12月4日に公布,施行されたものであるところ,同62年4月
1日に国鉄改革を実施することとされ(同法5条),極めて短期間のうちにその内
容を実現して,役割を果たしたのであって,この経緯を考慮すれば,合理的な理由
もなく立法者意思に反した法解釈をするのは避けるべきである。これら大臣の答弁
は法案説明のために便宜的に用いられたものにすぎないというような見解は,国会
の審議を軽視し,国民の国会審議に対する信頼を損なうもので,到底容認できない。
また,大臣の上記発言を受けて,当時,国鉄が承継法人の職員採用に関しての団体
交渉に応じなかった経緯も考慮すべきである。
 (3) 上記のとおり,改革法は,承継法人の職員採用について国鉄に設立委員の
補助的なものとして権限を付与したものと解すべきであるから,採用手続過程にお
いて国鉄に不当労働行為があったときは,設立委員ひいては承継法人が労働組合法
7条の「使用者」として不当労働行為責任を負うことは免れないのである。
 (4) したがって,承継法人が同条の「使用者」に当たらないとした原審の判断
には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 3 6月採用について
 (1) 雇主は,労働者を採用するに当たり,どのような者を採用するか,いかな
る条件で採用するか,について採用の自由を有するのである。しかし,営業譲渡と
か新会社を設立して旧会社の主たる資産を譲り受け,労働者を承継するといったよ
うな,雇主が労働者の従前の雇用関係と密接な関係があると認められるような事情
がある場合には,採用の自由が制限されることもある。改革法は,国鉄の事業,権
利,義務について,① 国鉄が経営している旅客鉄道事業を承継法人に引き継がせ
る(6条2項),② 運輸大臣は,閣議の決定を経て,事業等の引継ぎ並びに権利
及び義務の承継等に関する基本計画を定め(19条1項),国鉄がこれに従って実
施計画を作成して運輸大臣の認可を受けたときは,承継法人成立の時に,国鉄の事
業等は承継法人に引き継がれ(21条),国鉄の権利及び義務のうち認可を受けた
実施計画において定められたものは,その定めるところに従い,承継法人が承継す
る(22条),③ 国鉄を事業団に移行させ,承継法人に承継されない国鉄の資産
,債務等の処理をするための業務等のほか,職員の再就職の促進を図るための業務
を行わせる(15条)と定めている。また,改革法は,① 国鉄の職員が承継法人
の職員となる場合には,退職手当は支給しない(23条6項),② 上記職員が承
継法人を退職して退職手当の支給を受けるときは,国鉄職員としての在職期間を承
継法人における在職期間に通算する(同条7項)と定め,上記基本計画においては
,当時27万人を超える国鉄職員のうち,21万5000人を承継法人が採用し,
うち1万3000人を被上告人JR北海道が採用することとすると定めている。
 (2) 上記のとおり,承継法人は,国鉄の事業を引き継ぎ,上記実施計画の定め
に従って権利及び義務を承継し,職員は国鉄職員のうちからのみ採用することとし
て,国鉄職員の約80%の職員を採用し,退職手当の支給について国鉄職員の在職
期間を通算することとして雇用契約の一部を承継するなどしたのである。そして,
6月採用は,被上告人JR北海道が,設立直後に追加採用として,募集対象者を北
海道地区に勤務する事業団の職員に限定して行ったものである。同被上告人は,事
業団移行前の上記職員と国鉄との雇用関係とこのような密接な関係を有していた以
上,6月採用において労働者採用の自由について制限を受けるものというべきであ
る。したがって,6月採用が新規の採用であることを理由として,その採用の拒否
が労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いに当たらないと断ずることはでき
ない。これと異なる原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令
の違反がある。
 4 以上の次第であるから,原判決を破棄し,4月採用及び6月採用における不
当労働行為の点について更に審理させるため,本件を原審に差し戻すべきである。
(裁判長裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉
 徳治 裁判官 島田仁郎)

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