弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人深沢武久の上告理由について。
 親権者が第三者の金銭債務についてみずから連帯保証人となるとともに、子の代
理人として右債務を担保するため子の所有不動産に抵当権等を設定する行為は、民
法八二六条にいう利益相反行為に該当し、親権者としてした右行為は子に対して効
力を生じないものと解するのが相当である。けだし、右のような契約の締結によつ
て同一債務のための担保手段が併存するに至つたのち、債権者が子の所有不動産に
対する担保権の実行を選択したときは、それによつて債権の満足が得られた限度に
おいて親権者の責任が軽減され、また、債権者が親権者に対する保証責任の追究を
選択して弁済を受けたときは、親権者は主たる債務者に代位して子の所有不動産に
対する抵当権を実行しうることとなるが、このように親権者と子との間に利害の衝
突を生ずべき事態が、親権者のした行為の結果として、行為自体の外形から客観的
に当然予想されるからである(最高裁判所昭和四三年(オ)第七八三号同年一〇月
八日第三小法廷判決、民集二二巻一〇号二一七二参照)。
 これを本件について見るに、原審は、上告人の親権者Dが、訴外Eから同人の被
上告人に対する債務の担保として質入されていた宝石類を受け戻すことに協力を求
められ、右債務の担保手段として、上告人所有の本件不動産を目的とする根抵当権
設定契約と停止条件付の代物弁済契約および賃貸借契約(以上を合わせて担保契約
と略称する。)を締結し、なおその際、DはEの右債務につきみずから連帯保証人
となることを承諾し、Eと共同して被上告人に対し金額一五〇万円の約束手形を振
り出したことを認めながら、子の所有不動産を目的とする担保契約が後から親権者
自身が連帯保証人となつたことにより遡つて利益相反行為になると解すべきではな
いとして、Dが親権者としてした右担保契約の効力を肯定している。しかしながら、
本件の証拠関係に照らし、とくに、本件担保契約の締結は、被上告人においてDの
連帯保証だけでは担保物の返還を承諾しないところからやむなくされたものであり、
Dが連帯保証人になることも右契約の締結と同じ機会に承諾されたものであること、
そしてDを連帯保証人とする公正証書の作成に必要な印鑑や印鑑証明書が右担保契
約に基づく登記手続に要する書類とともに被上告人に交付されたが、被上告人は、
登記の実行および公正証書の作成を、ともにEとDの共同振出にかかる約束手形の
満期を過ぎるまで一か月間見合わせていること等、原審も認めている一連の経緯を
前提とするときは、本件担保契約とDの連帯保証契約との成立時期をあえて区別し、
両者が相互に独立して結ばれたものとした原審の認定判断は、首肯しがたく、むし
ろ、他に特段の事情が認められないかぎり、同一債務の担保手段を重畳的に約定し
た合意として、同時に成立したものと認めるのが、経験則に合致するところという
べきであつて、原審は、事実関係を確定するについて、経験則の適用を誤り、ひい
て理由不備の違法をおかすに至つているものといわなければならない。そして、右
違法が原判決の結論に影響すべきことは、前述したところにより明らかであるから、
論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 よつて、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すこ
ととし、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    岡   原   昌   男

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