弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
一被告は
1原告Aに対し,金602万5418円及びこれに対する平成11年6月
13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告Bに対し,金165万円及びこれに対する平成11年6月13日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三訴訟費用はこれを5分し,その2を原告らの負担とし,その余を被告の負
担とする。
四この判決は第一項につき仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一請求の趣旨
1被告は
原告Aに対し,金862万5418円及びこれに対する平成11年6月1
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
原告Bに対し,金379万7700円及びこれに対する平成11年6月1
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3仮執行宣言
二請求の趣旨に対する答弁
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一請求原因
1原告A(昭和4年8月5日生)と,原告B(昭和4年8月13日生)は夫
婦であり,昭和31年4月ころから,肩書住所地所在の自己所有の2階建て
居宅に居住している。
被告は,昭和59年4月ころから,原告夫婦方東隣りに居住し,板金業を
営んでいたが,昭和61年ころ,敷地内に別棟の祈祷所(大師堂)を建て,
「C」の看板を掲げて信者を集め,加持祈祷などを行うようになった。
2被告は,大音声で祈祷文言を唱い上げて読経し,太鼓や鐘を叩き,時には
法螺貝を吹くなどの騒音を巻き散らし,平成2年ころには近隣住民の受忍限
度を超えるようになった。さらに,平成5年ころからは,護摩を焚き,近隣
一帯にその煙を充満させることもあり,原告ら近隣住民から,市消防局を通
じて煙を出さないよう注意がなされた結果,護摩焚きは行わなくなったもの
の,町内会長等を通じて騒音自粛の申し入れがなされると,騒音を一時的に
低下させても,すぐに元通りの騒音を出すことを繰り返し,これに耐えかね
た近隣のD,Eは転居し,アパート「F荘」は6室のうち4室が空室の状態
となった。
原告Aは,被告に対し,電話又は口頭で加持祈祷の音量を控えるよう再三
申し入れたが,被告は逆に,鐘,太鼓の音量を上げる有様であった。
そのため,原告夫婦は,睡眠不足や体調不良になり,原告Bは,従来より
高血圧の傾向があったが,平成2年初めころ,高血圧症,メニュエル病を発
症して,通院治療を余儀なくされ,原告夫婦は甚大な精神的苦痛を受けた。
3平成11年6月13日,被告は,早朝8時ころから,大音声で読経を始め,
鐘,太鼓を叩いて祈祷を始め,午前9時ころには,いったん休止したものの,
午前10時過ぎから,再開したため,原告Bは血圧が急上昇し,顔面が異常
に紅潮する症状が顕れたことから,原告Aは,午前10時30分ころ,被告
方に,静かにするよう申し入れに行った。被告は,祈祷所の奥の祭壇の前に
坐って加持祈祷をしていたが,原告Aが声をかけるや,立ち上がり,いきな
り,右手に持っていた錫杖(木の棒に数個の金属製の輪がついている)を原
告に投げつけた。錫杖は,原告Aに直接は当たらなかったが,横の引き戸の
ガラスに当たり,原告Aは,飛び散ったガラス破片で左頭部に裂傷を負った。
さらに被告は,逃げようとする原告Aの胸の辺りを突くなどの暴行を加えて
転倒(尻餅)させ,立ち上がったところをさらに胸部を突き飛ばして,祈祷
所北側のブロック塀に背中,腰を激突させ,道路上に転倒させる暴行を加え
た。
その結果,原告Aは,頸部打撲(裂傷あり),左手指裂傷,(2カ所),
右前腕部及び右腰部打撲,頸椎捻挫の傷害を負った。
また,原告Bは,夫に対する暴行傷害事件による精神的ショックにより,
高血圧症及びメニュエル病を悪化させた。
そして,原告夫妻は,平成11年11月から平成13年10月まで,少し
でも被告による騒音を回避するためと,被告に対する恐怖心から,転居後の
西隣のE方建物を家賃月額3万円で賃借し,仮住まいをした。
4原告Aは,前記傷害治療のため,平成11年6月13日から1ヶ月余り,
G病院脳外科へ通院し,同年7月19日にH病院へ転院したが,現在も,頸
部痛,後頭部痛,腰痛,右肩から指先までの痺れの後遺症が残っており,同
病院脳外科で2,3週間毎に診察を受けながら,その指示により,平成12
年6月16日から近所のI医院で週2,3回温熱療法を受けて,頸,腰など
のリハビリをし,また,平成11年9月中旬から,リハビリのためJ整骨院
に通院している。さらに,左手指裂傷箇所が皮膚血管腫になって摘出手術を
受け,1週間入院し,約7週間通院した。
原告Bは,高血圧症及びメニュエル病のため,平成2年初めころからK病
院,H病院で通院治療を受けた後,平成10年6月から,近所のI医院で投
薬,点滴治療を受けており,平成12年9月以降は介護を必要とするように
なり,単独では外出も不可能で,安静保持を指示されている。
5損害
(一)原告A
(1)治療費小計15万3675円
①G病院(平成11年6月13日から平成12年5月8日まで)
4万7150円
②H病院(平成11年7月19日から平成14年7月31日まで)
2万8515円
③I医院(平成12年6月16日から平成14年7月26日まで)
5万2090円
④J整骨院8480円
⑤L薬局ほか(薬代)1万7440円
(2)通院交通費平成11年6月から同年10月までのG病院へのタクシ
ー代金9070円
(3)コルセット代7683円
(4)転居に伴う損害
平成11年11月から平成13年10月分までの家賃
3万円×12×2=72万円
(5)入通院慰謝料215万円
①通院平成11年6月13日から平成14年7月31日まで
②入院平成11年10月7日から同月14日まで
(6)後遺障害慰謝料
少なくとも自賠責後遺障害等級12級に該当し,故意による不法行為に
よるものであるから,500万円が相当である。
(7)騒音による精神的苦痛に対する慰謝料
本件訴訟提起をした平成12年10月ころまで(なお,平成13年8月
に敷地東側に大師堂を建て替えてからは,騒音は十分に受忍限度を下回る
までに改善された)の受忍限度を超えた被告による騒音のために受けた精
神的苦痛を慰謝するには慰謝料30万円が相当である。
(8)弁護士費用28万4990円
(二)原告B
(1)治療費
①I医院計18万8105円
平成10年6月19日から平成14年7月までの治療費
11万6530円
平成12年9月から平成14年8月までの介護費,居宅療養管理指導
料7万1575円
②K病院及びH病院
平成2年1月から平成10年5月までの治療費
2100円×101(ヶ月)=21万2100円
(2)騒音による精神的苦痛及び発病に対する慰謝料
300万円
(3)弁護士費用39万7495円
6よって,被告に対し,
(一)原告Aは,不法行為による損害金862万5418円及びこれに対す
る本件暴行傷害がなされた日である平成11年6月13日から支払済み
まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求め,
(二)原告Bは,不法行為による損害金379万7700円及びこれに対す
る本件暴行傷害がなされた日である平成11年6月13日から支払済み
まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二請求原因に対する認否
1請求原因1の事実は認める。
2同2の事実は否認する。
太鼓は平成2年5月,信者から奉納されたもので,1ヶ月程で倉庫に収納
し,延べ1時間も使用していない。鐘は読経の始めと終わりに2回ずつ叩く
のみで回数は少なく,音も小さい。法螺貝は吹いていない。読経は,真言宗
仏前謹言次第26頁にあるとおり,「自分の声が自分の耳に聞こえるように,
高くなく低くなく,大きくもなく小さくもなく,……静かに読む」ものであ
り,「一人でする時も二人以上多人数でする時も同じ」である。
被告が祈祷を行う大師堂は,原告ら方の玄関先と約8メートルの距離があ
り,しかも,その間には,高さ1.8メートル,幅10センチメートルのブ
ロック塀があり,大師堂の窓は東側だけにあったから,大師堂の音声は原告
ら方には届きにくい構造と位置関係にあった。また,大師堂内で発せられる
読経等による騒音量を実験して測定した結果は,暗騒音が常時50デシベル
前後発生している状況にさしたる影響はなく,環境基準60デシベル,ある
いは通常人が1日8時間ずつ10年間聞き続けることによって難聴や神経症
状を引き起こす騒音レベルである85デシベルの基準に照らしても,健康状
態に影響を及ぼすような数値には達しておらず,騒音があったとしても,受
忍限度内にとどまる。
護摩は,病気平癒等の祈念のために依頼された時に焚き,燃え始めると煙
はほとんど出ないし,護摩を焚く場所は,大師堂の北側空き地部分で,原告
ら方にはほとんど影響はなく,平成5年と6年に焚いたのみで,その後は,
護摩壇を組む人が病気になったため,焚かなくなった。被告が市消防局から
注意を受けたことはないし,原告ら以外の者から,護摩の煙のことで注意さ
れたことはない。
原告Bの症状は,加齢又は持病によるものであり,被告が出した音声等と
との因果関係はない。
また,原告らの転居は被告の行為に起因するものではない。
3同3の事実中,平成11年6月13日,被告が,早朝8時ころから読経を
始め,午前9時ころには,いったん休止し,午前10時過ぎから,再開し,
祈祷所の奥の祭壇の前に坐って加持祈祷中,午前10時30分ころ,原告A
が抗議に来た際,右手に持っていた錫杖を同原告横の引き戸のガラスに投げ
つけ,原告Aが,飛び散ったガラス破片でけがをし,原告Aを外に突き出し,
尻餅をついて立ち上がったところをさらに道の方へ突き出して,よろけた同
原告が祈祷所北側のブロック塀にぶつかったことは認め,その余の事実は否
認する。
原告Aは,被告に対し,従前から,理由のない遺恨を抱き,被告を目の敵
にして病的に嫌がらせをしてきた。特に被告が祈祷を始めてからは,不定期
であるが継続的に,読経が始まると,信者を前に怒鳴り込んできた。本件当
日も,信者の依頼によって祈祷中,原告Aが怒鳴り込んできたため,被告は,
我慢の糸が切れ,憤激の余り,錫杖を投げつけるに至ったものである。
原告Aは高齢である上,ヘルニア,ヘルペス等の既往症があり,原告Aの
症状は,加齢又は持病によるものであって,本件暴行と因果関係はない。ま
た,原告Aの左手の傷害部位は,人差指と中指の背であるのに,皮膚血管種
は小指の背にあり,皮膚血管種は,本件暴行とは因果関係を持たない。
4同4,同5の事実は不知,同6は争う。
三被告の過失相殺の抗弁
被告による本件暴行の背景には,原告Aが,長年にわたり,執ように被告方
に怒鳴り込むなどして,被告の宗教行為を妨害したために,被告が原告Aに対
し,強い反感を抱くに至った事情があり,原告Aに挑発に類する行為をなした
過失があるから,過失相殺がなされるべきである。
四過失相殺の抗弁に対する原告らの認否
否認する。
理由
一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二甲第1号証,第2号証の1,2,6ないし8,第7ないし第9,第14,第1
8号証,第19号証の1,2,第20号証の1ないし3,第21号証,乙第1,
第3号証,第4号証の1,第9号証,原告A,被告各本人尋問結果並びに弁論の
全趣旨を総合すると,次のとおり認定できる。
1被告は,子供のころから,原告ら方近隣で育ったが,原告らとは,その当時
から,折り合いがよくなく,被告が,昭和59年4月に,原住居地を購入して,
板金業を父親から受けついでからも,板金加工に使う電気ドリルの音や,ブリ
キを叩く音が,西隣の原告らに障り,原告Aから抗議を受けては被告が反感を
持つこともあって,原告らと被告との間は,融和を欠いていた。
被告は昭和61年ころ,敷地内に別棟の祈祷所(大師堂)を建て,「C」
の看板を掲げて信者を集め,加持祈祷などを行うようになったが,祈祷文言を
唱い上げて読経する声や,その前後に鐘を叩く音声が近隣に聞こえ,平成2年
ころには1ヶ月程ではあったが,太鼓を叩く音が響いたこともあり,また,法
螺貝を吹くこともあり,朝,晩を問わず,音声を発し,これが近隣への配慮を
欠くものであったため,近隣住民は,生活を妨害する不快な騒音として,迷惑
に思いながらも,我慢する状況が続いた。
2これに対し,原告Aのみが,自ら,電話又は口頭で加持祈祷の音量を控える
よう被告に抗議したり,町内会長等を通じて被告に注意してもらったりしたた
め,被告はさらに原告Aに対し,被害者意識を持って反感を強め,逆に,加持
祈祷の音量を上げることもあった。
そのため,原告夫婦は,睡眠不足や体調不良になり,原告Bは,平成2年初
めころ発症した高血圧症,メニュエル病の症状に障り,被告の加持祈祷が始ま
ると,血圧が急上昇し,顔面が異常に紅潮する症状が顕れるようになり,その
度に原告Aが,妻の身を案じ,被告に抗議することが重ねられた。
3被告が祈祷を行う大師堂は,原告ら方の玄関先と約8メートルの距離があり,
しかも,その間には,高さ1.8メートル,幅10センチメートルのブロック
塀があり,大師堂の窓は東側にあっただけではあるが,そのことによって,加
持祈祷の際の音声が原告ら方に響かなかったものとまでは認められない。
4平成12年10月の本件訴え提起後は,被告は音声の発生を自重するように
なり,平成13年8月に敷地東側に大師堂を建て替えてからは,騒音は十分に
受忍限度を下回るまでに改善されたが,後記認定の暴行傷害事件発生日である
平成11年6月13日ころまでは,被告の加持祈祷による音声の発生は,近隣
住民である原告夫婦の受忍限度を超えるものであったと言わざるを得ない。
以上の事実が認められ,乙第11号証によれば,平成13年11月22日,
被告が株式会社Mに依頼して,大師堂内で発せられる読経等による騒音量を実
験して測定した結果は,暗騒音が常時50デシベル前後発生している状況にさ
したる影響はなく,環境基準60デシベル,あるいは通常人が1日8時間ずつ
10年間聞き続けることによって難聴や神経症状を引き起こす騒音レベルであ
る85デシベルの基準を超える健康状態に影響を及ぼすような数値には達して
いないことになっているけれども,上記大師堂は立て替えられた後のものであ
る上,甲第23号証によれば,上記測定時の音声は,原告Aが聞いたところで
は,以前の音声と比較して相当小さなものであったというのであって,実験測
定の前提条件に疑問があるから,採用できない。また,乙第2号証の1,2に
よれば,真言宗仏前勤行次第には,読経は大きくもなく小さくもなくなすよう
指導されているけれども,前記認定の状況のもとで,被告において,そのとお
り読経したものともいえないから,前記認定に消長を来すものではない。他方,
被告が,護摩を焚いて,原告らに対し受忍限度を超える発煙を生じさせたこと
を認めるに足る証拠はない。
また,原告Bの前記高血圧症,メニュエル病の発症が,被告の発した騒音に
よるものと認めるに足る証拠はないが,上記騒音が,これらの症状の増悪を招
いたこと,そして,原告夫婦に受忍限度を超える精神的苦痛を与えたことは,
前記認定事実に照らして推認しうるところである。
そうすると,被告は原告らに対し,不法行為責任に基づき,平成2年ころか
ら,平成12年10月ころまでの間の受忍限度を超える騒音により,原告らに
与えた損害を賠償する義務がある。
三前記認定の事実及び請求原因3の事実中当事者間に争いのない部分に,甲第2
号証の3,4,6ないし9,第3,第4号証の1,2,第5,第6,第9号証,
第10号証の1,2,第11,第14,第22号証,乙第4号証の1,証人Nの
証言,原告A,被告各本人尋問結果並びに弁論の全趣旨を総合すると,次のとお
り認定できる。
1平成11年6月13日,被告は,大師堂で,早朝8時ころから読経を始め,
鐘を叩いて祈祷を始め,午前9時ころには,いったん休止したものの,午前1
0時過ぎから,再開した。上記の音声は,原告ら方に響いて,原告Bの血圧が
急上昇し,顔面が異常に紅潮する症状が顕れたことから,原告Aは,午前10
時30分ころ,被告方に,静かにするよう申し入れに行った。被告は,大師堂
の奥の祭壇の前に坐って加持祈祷をしていたが,原告Aが静かにするよう声を
かけると,原告Aに対する反感を募らせて,憤り,立ち上がるや,いきなり,
右手に持っていた錫杖(木の棒に数個の金属製の輪がついている)を原告に向
かって投げつけた。錫杖は,原告Aに直接は当たらなかったが,横の引き戸の
ガラスに当たり,原告Aは,飛び散ったガラス破片で左頭部に裂傷を負った。
さらに被告は,逃げようとする原告Aの胸の辺りを突いて転倒(尻餅)させ,
立ち上がったところをさらに胸部を突き飛ばして,大師堂北側のブロック塀に
背中,腰を激突させ,道路上に転倒させる暴行を加えた。
2その結果,原告Aは,頸部打撲,手指裂傷,(2カ所),右前腕部及び右腰
部打撲,頸椎捻挫の傷害を負った。
また,原告Bは,夫に対する暴行傷害事件による精神的ショックにより,高
血圧症及びメニュエル病を悪化させた。
そして,原告夫妻は,平成11年11月から平成13年10月まで,少しで
も被告による騒音を回避するためと,被告に対する恐怖心から,転居後の西隣
のE方建物を家賃月額3万円で賃借し,仮住まいをした。
3原告Aは,前記傷害治療のため,平成11年6月13日から1ヶ月余り,G
病院脳外科へ通院し,同年7月19日にH病院へ転院し遅くとも平成12年1
0月ころには症状固定した。しかしながら,現在も,頸部痛,後頭部痛,腰痛,
右肩から指先までの痺れの後遺症が残っており,同病院脳外科で2,3週間毎
に診察を受けながら,その指示により,平成12年6月16日から近所のI医
院で週2,3回温熱療法を受けて,頸,腰などのリハビリをし,また,平成1
1年9月中旬から,リハビリのためJ整骨院に通院している。さらに,左手指
裂傷箇所が皮膚血管腫になって摘出手術を受け,1週間入院し,約7週間通院
した。
原告Bは,高血圧症及びメニュエル病のため,平成2年初めころからK病院,
H病院で通院治療を受けた後,平成10年6月から,近所のI医院で投薬,点
滴治療を受けており,平成12年9月以降は介護を必要とするようになった。
上記後遺症の発生については,持病によるものと窺うべき資料はない一方で,
原告Aの加齢による負因を否定し難いところであるが,被告は原告Aが高齢
(当時70歳)であることを認識しながら,前記の相当程度の暴行による加害
行為に及んでいるのであって,その結果は十分に予見し得たものであることに
鑑みると,被告の暴行と後遺症との因果関係はこれを肯定するほかない。
また,皮膚血管腫についても,本件暴行との因果関係を否定すべき事情は窺
われず,その部位等に照らし,因果関係があるものといわざるを得ない。
そうすると,被告は原告らに対し,不法行為責任に基づき,本件の暴行傷害
行為により,原告らに与えた後遺障害を含む損害を賠償する義務がある。
四以上認定したところに照らすと,過失相殺として斟酌すべき程の原告Aの過失
は認められず,本件暴行傷害に至る背景については,後記の慰藉料の認定におい
て考慮しうるにとどまるものというべきである。
五損害額について
1原告A
(一)治療関係費用
甲第24ないし第30号証によると,原告Aは,本件傷害の治療のために
次のとおりの費用を負担したことが認められる。
(1)治療費
①G病院(平成11年6月13日から平成12年5月8日まで)
4万7150円
②H病院(平成11年7月19日から平成14年7月31日まで)
2万8515円
③I医院(平成12年6月16日から平成14年7月26日まで)
5万2090円
④J整骨院8480円
⑤L薬局ほか(薬代)1万7440円
(2)通院交通費平成11年6月から同年10月までのG病院へのタクシ
ー代金9070円
(3)コルセット代7683円
上記の費用中には,症状固定後の診療によるものも含まれるが,いずれも,
その症状を軽減するなど,本件傷害に伴って必然的に生じる費用と認められ
るから,因果関係のある損害に計上すべきである。
(二)転居に伴う損害
原告Aは,前記認定のとおり,本件暴行傷害事件後,E方を平成11年1
1月から平成13年10月分まで賃借したものであるところ,同年8月大師
堂が立て替えられて,被告の騒音を原因とするトラブルに煩わされることが
ないことの見極めをつけるために2ヶ月程度の猶予期間はさらに賃借するこ
とが必要であるものといえるから,賃借期間全部の家賃額は,被告による騒
音の発生及び本件暴行傷害と因果関係のある損害に計上しうるところである。
3万円×12×2=72万円
(三)入通院慰謝料
前記認定したところと,弁論の全趣旨によると,原告Aは,本件傷害に伴
い,次のとおり入通院をしたことが認められる。
①通院平成11年6月13日から平成14年7月31日まで
②入院平成11年10月7日から同月14日まで
而して,本件暴行傷害事件の背景や,傷害の程度にも照らして考えると,
入通院慰藉料は金160万円が相当である。
(四)後遺障害慰謝料
本件後遺障害の程度は,自賠責後遺障害等級12級に相当するものと評価
すべきところ,本件暴行傷害事件の背景や,傷害の程度にも照らして考える
と,後遺障害慰藉料は300万円が相当である。
(五)騒音による精神的苦痛に対する慰謝料
本件訴訟提起をした平成12年10月ころまで(なお,平成13年8月に
敷地東側に大師堂を建て替えてからは,騒音は十分に受忍限度を下回るまで
に改善された)の受忍限度を超えた被告による騒音のために受けた精神的苦
痛を慰謝するには,その背景事情や,被告が本件訴え提起後,自重するよう
になったことをも考慮すると,慰謝料25万円が相当である。
(六)弁護士費用
本件事案の内容等に照らし,原告A主張にかかる28万4990円を下回
らないことは明らかである。
2原告B
前示認定のとおり,被告による本件の騒音の発生が原告Bの症状の増悪を招
いたものとはいえても,その発症の原因となったものとは認められないから,
原告Bの治療関係費用については,因果関係のある損害とは認め難い。なお,
症状増悪の結果生じた治療関係費用分が存在するものとは考えられるがこれは
特定し難く,後記慰藉料の算定に当たって斟酌するのが相当である。
そして,原告Bの受けた騒音及び夫に対する暴力による精神的苦痛,疾病の
増悪に係る慰謝料は,金150万円が相当であり,また,相当因果関係のある
弁護士費用相当額は15万円をもって相当であると認める。
六以上の次第で,原告Aの本件請求は,本件不法行為による損害賠償金602万
5418円及びこれに対する暴行傷害の不法行為日である平成11年6月13日
から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度
で理由があり,原告Bの本件請求は,本件不法行為による損害賠償金165万円
及びこれに対する原告Aへの暴行傷害の不法行為日である平成11年6月13日
から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度
で理由があるから,それぞれその限度で認容し,いずれもその余の請求部分は失
当として棄却すべく,訴訟費用の負担につき民訴法64条本文,61条,65条
1項本文を,仮執行宣言につき同法259条を各適用して,主文のとおり判決す
る。
岡山地方裁判所第1民事部
裁判官金馬健二

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