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裁判例


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○ 主文
一 (ネ)第一五一四号控訴人の控訴に基づき、原判決主文第一、二項を取り消
す。
本件仮処分申請を却下する。
二 (ネ)第一四八四号控訴人の控訴を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも(ネ)第一四八四号控訴人・(ネ)第一五一四号被
控訴人の負担とする。
○ 事実
〔当事者の求める裁判〕
(一) (ネ)第一四八四号控訴人・(ネ)第一五一四号被控訴人(以下「債権
者」という。)
(1) 原判決中債権者敗訴部分を取り消す。
(2) (ネ)第一四八四号被控訴人・(ネ)第一五一四号控訴人(以下「債務
者」という。)は、債権者が美浦トレーニングセンター南Gの二〇馬房を使用する
のを妨げてはならない。
(3) (予備的申立)債務者が債権者に対し昭和五六年二月二二日付でした調教
師免許不更新処分の効力を東京地方裁判所昭和五六年(ワ)第八七五五号地位確認
等請求訴訟の判決の確定まで停止する。
(4) (ネ)第一五一四号事件控訴人の控訴を棄却する。
(5) 訴訟費用は第一、二審とも債務者の負担とする。
(一) 債務者
(1) 主文同旨
(2) 債権者の予備的申立を却下する。
〔主張及び証拠関係〕
当事者双方の主張は、次のとおり付加又は訂正するほかは原判決事実摘示のとおり
であり、証拠関係は、記録中の原審及び当審の証拠目録記載のとおりであるから、
これらを引用する。
(一) 原判決の事実摘示の訂正
(1) 原判決四枚目裏三行目に「騎棄」とあるのを「騎乗」と改める。
(2) 同八枚目裏九行目に「ホーオヒダカ」とあるのを「ホーオーヒダカ」と改
める。
(3) 同九枚目表六行目に「馬主としも」とあるのを「馬主としても」と改め
る。
(4) 同一九枚目裏八行目に「本訴」とあるのを「本案」と改める。
(二) 債権者の主張
(1) 債務者がいわゆる特殊法人であるにしても、その業務内容等からみて会法
人であるとはいえず、本件処分は行政処分たる性格を有するものではない。
仮に、債務者が公法人であるとしても、債務者の行う調教師の免許の更新は雇用契
約の更新に類似しており、免訂不更新行為は解雇行為とみるべきものである。そう
すると、解雇理由の暇疵ないし不存在が問題となる本件では労使対等の原理が支配
し、本件処分に公定力はなく、その効力を民事訴訟ないし行政事件訴訟法上の当事
者訴訟によつて争いうるものと解すべきである。したがつて、同法四四条の規定を
根拠として本件仮処分を不適法であるとする債務者の主張は、理由がない。
(2) 仮に、本件処分が行政処分たる性格を有し、これについて民事訴訟法上の
仮処分をすることができないとすれば、債権者は、行政事件訴訟法二五条二項に基
づき本件処分の効力の停止を求める。すなわち、本件の本案訴訟として債権者の提
起にかかる東京地方裁判所昭和五六年(ワ)第八七五五号地位確認等請求事件の訴
訟が係属しており、本件処分により債権者は回復困難な損害を現に受けているとこ
ろ、右処分の効力が停止されても公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれは皆無で
あり、また、本件処分が違法なものであることは既述のとおりであるから、本件処
分の効力は本案判決の確定まで停止されるべきである。
(三) 債務者の主張
(1) 本件処分は、行政処分たる性格を有するものであるから、これについて民
事訴訟法上の仮処分をすることはできず、本件仮処分申請は不適法である。
すなわち、勝馬投票券の発売を伴ういわゆる競馬は、元来は刑法一八七条一項(富
くじ発売罪)の規定によつて禁じられた行為であるが、競馬法規の定める所によ
り、その規制の下に行われる場合に限り、「法令による行為」として刑法三五条に
より特にその違法性を阻却されるものであり、競馬法一六条、日本中央競馬会法二
〇条一項三号等の競馬法規の定めるところによつて特殊法人たる債務者の行う調教
師の免許は、右違法性阻却のための条件たる規制の一環である。そして、右免許制
度は、前記のように特に違法性を阻却された競馬につき、その公正を確保する必要
上、私人が自由に調教業務を行うことを禁止し、債務者の行う調教師免許試験の合
格者に限つて右一般的禁止を解除し、適法に調教業務を行うことを可能ならしめて
いるものであり、かかる調教師の免許は、事柄の性質上私法上の行為であるとは到
底考えられず、国から公法人たる債務者に授与された一方的な公法上の規制権能に
基づいて行われるところの会権力の行使にあたる行為というべきである。このこと
は、昭和二九年九月一六日日本中央競馬会法が施行されて債務者が従前の国営競馬
を引き継ぐ以前の競馬法旧一六条の規定が、「省令の定めるところにより、政府が
行う免許を受けた調教師又は騎手でなければ、国営競馬の競走のため、馬を調教し
又は騎乗することができない。
」と定めていたことに照らしても明らかである。
(2) 債権者は、予備的に行政事件訴訟法上の執行停止の申立をしているが、本
案訴訟が係属しているのは東京地方裁判所なのであるから、右申立は同法二八条の
裁判管轄の定めに反するのみならず、右本案訴訟は調教師たる地位の確認を求める
ものであるから、執行停止申立の前提たる本案訴訟に該当しないものというべきで
あつて、右申立は不適法である。
○ 理由
一 まず、本件仮処分申請の適法性について検討する。
競馬法一六条は、省令の定めるところにより債務者が行う免許を受けた調教師でな
ければ、中央競馬の競走のため馬を調教することができない旨を定め、また、日本
中央競馬会法(以下「競馬会法」という。)二〇条一項三号には、債務者の行う業
務の一つとして「調教師及び騎手を免許すること」が挙げられている。このような
調教師の免許制度の趣旨は、中央競馬の公正な運営を確保にその健全な発展を図る
ため、これに出走すべき馬の調教を行う者を一定の水準の人格、技術等を備えた者
に限定することにあるものと解され、これら法律の規定を受けて、競馬法施行規則
は、一定の欠格事由(同規則三条参照)に該当しない者を対象に身体、学力、人
物、技術について行う免許試験に合格した者に対して免許を行うべきものとし(同
規則一条の五、二条)、また、免許を受けている調教師につき一定の事由が生じた
場合には、債務者はその免許を取り消すべきものと定めている(同規則六条)。な
お、昭和二九年法律第二〇五号附則一二項により改正される前の競馬法において
は、現行の中央競馬に相馬する競馬は国営競馬として政府によつて主催されていた
が、右国営競馬の競走のために馬を調教する者は政府の行う免許を受けなければな
らないものとされ(右改正前の競馬法一六条)、具体的には農林大臣が右免許を行
うものとされていた(当時の競馬法施行規則―昭和二三年農林省令第八二号-三七
条一項参照)。また、債務者は、競馬の健全な発展を図つて馬の改良増殖その他畜
産の振興に寄与するため競馬会法により競馬を行う団体として設立された法人であ
つて、農林水産大臣による一般的監督に服する(競馬会法三一条)ほか、規約で調
教師の免許に関する事項について定め、これにつき農林水産大臣の認可を受けなけ
ればならないものとされている(同法八条)。
以上のような法制の内容及びその沿革に照らせば、前記免許制度は、中央競馬の公
正な運営と健全な発展を公益にかかわるものと認め、これを実現するために中央競
馬に出走すべき馬の調教業務についても一定の公法的規制を加えるのが相当である
との見地から、右調教業務にたずさわることのできる調教師の資格を免許によつて
限定するという方法で右規制を行うこととし、前記のような法規や規約の下におい
て具体的に右調教業務を行う者を決定する行為は債務者に行わせることにしたもの
であるとみることができ、また、右免許の性質は、単に受験者の適格性の有無を判
定する作用にとどまるものではなく、債務者が自らの責任ある判定に基づいて中央
競馬の競走のために馬の調教を行うことができるという法的地位を与えることを内
容とする権力的な作用であると解されるから、これを行う債務者は、法律によつて
特に付与された優越的な地位に立つて右権限を行使するものであつて、右免許は、
かかる性質の作用として公定力を有し、行政事件訴訟法上の「公権力の行使」たる
性格を帯有するものというべく、また、債務者は、右免許を行う限りにおいて、同
法上の行政庁にあたるものというべきである。
したがつてまた、右免許ないしはその更新を拒否する処分も、同様の性格を帯有す
るものというべきである。
債権者は、右免許の実質は雇用契約の締結であり、右免許の更新の拒否処分は解雇
行為の性質を有する旨主張するが、そのように解すべき実定法上の根拠は見当たら
ない。
したがつて、債権者の調教師としての免許の更新を拒否した本件処分の効力を争
い、債権者に対し調教師の免許が更新された場合と同様の地位を仮に定めることを
求める本件仮処分申請は、行政事件訴訟法四四条の規定に照らし不適法といわざる
を得ない。
二 債権者は、予備的に、行政事件訴訟法二五条二項の規定により本件処分の効力
の停止を求めている。しかしながら、右規定によるいわゆる行政処分の執行停止
は、行政処分の取消しの訴え(同法三八条三項により右二五条二項が準用される場
合については、同法にいう無効等確認の訴え)の提起があることを前提としてその
訴訟の係属する裁判所)同法二八条参照)に申し立てるべきものであるところ、債
権者が本案として主張する訴訟は当裁判所以外の裁判所に係属するものであるばか
りでなく、本件のような仮処分手続においてかかる申立をすることは法の予定しな
いところであるから、右申立はこの点において既に不適法であるといわなければな
らない。
三 以上のとおり、本件仮処分申請は不適法であり、これが適法であることを前提
として右申請の一部を認容した原判決は失当である。よつて、債務者の控訴に基づ
き原判決中本件仮処分申請を認容した部分を取り消したうえ右申請を却下し、債権
者の控訴を葉却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条に
従い、主文のとおり判決する。なお、債権者の本件処分の効力の停止の申立は前記
のとおり不適法であるからこれを却下するが、右は判決事項ではないので主文に掲
げない。
(裁判官 倉田卓次 下郡山信夫 加茂紀久男)
(原裁判等の表示)
○ 主文
一 債権者が債務者に対し、債務者における調教師の地位を有することを阪に定め
る。
二 債務者は、債権者が美浦トレーニングセンター内の一〇馬房を使用するのを妨
げてはならない。
三 債権者のその余の申請を却下する。
四 串請費用は債務者の負担とする。
○ 事実
第1一 当事者の求めた裁判
一 申請の趣旨
1 主文第一、四項と同旨。
2 債務者は、債権者が美浦トレーニングセンター南Gの二〇馬房を使用するのを
妨げてはならない。
二 申請の趣旨に対する答弁
1 本件仮処分申請をいずれも却下する。
2 申請費用は債権者の負担とする。
第二 当事者の主張
一 申請の理由
1 債権者は、昭和三六年調教助手となり、同四五年一二月頃に施行された中央競
馬会の調教師試験に合格して同四六年三月一日調教師免許を取得し、以来毎年三月
一日右免許の更新を受け、同五五年二月末日まで右免許を享有していた者である。
2 調教師は、債務者から厩舎を借受け、その監督の下に馬主から一定の委託料及
び競走馬が入賞した際の一〇パーセントの賞金進上金を受け取り競走馬の育成、調
教を行うことを業としているところ、債権者は昭和五四年度において、債務者から
二〇頭分の厩舎を借り受け、稗田善彦厩舎として調教助手二名、見習助手二名、見
習騎手一名、厩務員一〇名を雇用しておおよそ三〇頭の馬を育成調教し、相当の実
績を挙げている。
3 ところで、競馬法施行規則(以下「規則」という。一五条によれば「調教師の
免許は、免許の日から一年間効力を有する。」とあり、調教師免許は取得後一年で
当然失効するかの如く規定されているが、実際は形式的な面接試験を経て調教師全
員が毎年ほぼ例外なく(過去一六年間に更新拒絶されたものは債権者を含めても僅
か五名である。)その免許を更新されているのが実情であつて、右慣行と期待権の
もとに調教師及びそれに雇用されている多数の厩務員等の生活が成り立つているこ
と、また馬主も右信頼関係のもとに調教師に競走馬を委託していること等に鑑みる
と、調教師の資格は一種の終身資格の如く取り扱われているのである。
4 ところで、債務者は債権者に対し昭和五四年一二月二〇日別紙「制裁」と題す
る書面(以下別紙制裁文という。)のとおり、同年一二月二一日から同五五年二月
二九日までの間、日本中央競馬会競馬施行規程(以下規程という。)一二六条一七
号に基づき調教停止処分をなし、更に同五五年二月二一日債権者に対し口頭で「調
教師に不適格」との事由から同五五年三月一日以降の免許更新に応じない旨の意思
を表明した。そのため債権者は昭和五三年三月債務者から美浦トレーニングセンタ
ー内の美浦南Gの五に二〇馬房を借受けて稗田善彦厩舎を経営していたところ、右
免許不更新のために、同厩舎の解体を余儀なくされた。
5 しかし、債務者の債権者に対する右調教師免許不更新処分(以下本件処分とい
う)は、次のとおり違法である。
(一) 調教師免許は、前記のとおり一種の終身資格の如く取り扱われているとこ
ろ、調教師免許不更新処分は、該調教師が免許を失う点で免許取消と実際の効果が
異ならないのであるから、免許取消と同等の事由がなければ違法といわざるを得な
い。取消事由を定めた規則六条一号によると「競馬法施行令一四条一項四号の規定
により競馬会、都道府県又は指定市町村が行う競馬に関与することを禁止され、又
は停止されたとき。」とあり、競馬法施行令(以下施行令という。)一四条一項二
号の「調教師の調教又は騎手の騎棄を停止すること。」は、右規則の免許取消事由
から除外されている。これは、調教停止処分があつても免許取消はできないことを
意味しているところ、本件処分は、債権者に対する調教停止処分事由たる別紙制裁
文の四項目の事由が存在したことを理由とするものであるが、仮に右事由が存して
いたとしても右事由をもつて免許取消をすることはできず、右を理由とする本件処
分は違法である。
(二) 仮りに右主張が認められないとしても、債務者の本件処分は、債権者に対
する調教停止処分事由たる別紙制裁文の四項目を理由とするものであるが、右四項
目は次のとおり全く事実無根であつて、かかる事実誤認に基づく本件処分は、裁量
権の濫用であり違法である。
(1) 別紙制裁文一項について
債権者は、昭和五二年夏頃知人である馬主のAからBを紹介され、同人の馬主登録
の期限が切れる関係上馬を預託しなければならないので同人の仔分馬であるロンパ
ータイム号を見てやつて欲しいと頼まれた。そこで債権者はB、Aと伴に浦河の村
下牧場を訪れ、ロンパータイム号をみたところ、競走馬としては見込みもなく不適
格であつたため、その旨を二人に告げたにも拘らず、Bは、債権者の弟が場長で債
権者がアドバイザーをしている鳳凰牧場茨城分場にむりやり口ンパータイム号を運
んで来たため、競走馬として見込みがあるか否か様子をみるために鳳凰牧場茨城分
場を育成場として紹介し使用させた。従つて使用料その他も右牧場から直接Bに請
求がなされ、Bもこれに応じていた。しかし、同号は、腰、後肢が弱かつたため、
債権者は昭和五四年六月二二日Bに対し、同号の入厩を断わる旨の手紙を送つた。
ところで、通常馬主が調教師に競走馬を預託する場合には、預託契約書が取り交さ
れるものであるところ、本件の場合右預託契約書が作成されていないことに加え、
右のとおりの経緯からみても、債権者はロンパータイム号の預託を受けていないの
であるから、同号につき管理を行なう義務もないし、又業務上必要な連絡をとる立
場にないから、預託契約の存在を前提として右義務違反があつたとする制裁文一項
には事実誤認がある。
(2) 別紙制裁文二項について
右Bは、馬主登録が切れる関係から競走馬が欲しかつたため、ロンパータイム号の
入厩が困難であつたことから、Aに頼んで共同馬主となつてもらい、岡田牧場のラ
ヴエルの五(後にキヤツシユシルバーと馬名登録、以下キヤツシユシルバー号とい
う。)を購入し、債権者の厩舎に入厩させた。ところで債権者は、右売買に関し裏
金が動いていることは薄々知つていたが、通常競走馬の売買にはありがちなことで
あり、それは生産者と馬主の問題であつて、債権者が積極的にこれをすすめたわけ
でもなく、契約書を作成したり、売買代金の援受に立会つたわけではないのである
から、単に不正な売買があつたことを知つていただけでは右「不正売買契約に介在
した」ということはできない。
また、キヤツシユシルバー号は、共同馬主(A、B)により所有されており、その
預託契約書には代表馬主としてAが記載されていたが、かかる場合当該馬に関する
馬主としてのすべての事務は、この代表馬主が行うことになつている。因に、右代
表馬主の定めは規程一二条の二に規定されており、債務者自体もすべての事務処理
はこの代表馬主の手続に従つて行つている。ところで債権者は、代表馬主のAから
「一ケ月一ケ月高い飼育料がかかるので、処分するのは早い方がいい。」と言われ
たので、同人の指示に従つてキヤツシユシルバー号を同人の母校である明治大学馬
術部に寄付したものである。したがつて同号に関しては債権者は、すべて代表馬主
の右指示にしたがつて行つたことであるから、共有馬主のBの意思を確認すること
なしにキヤツシユシルバー号の事故見舞金の申請手続を行わなかつたことを処分の
対象とするのは違法である。
(3) 別紙制裁文三項について
債権者は、アイアンエイコー号について事故見舞金が支給されることは知つていた
が、第一に同馬はアラブであるので事故見舞金は高々三、四〇万円であろうと判断
したこと、第二に事故見舞金の支給を受けるためには、岩手県の湯田温泉医療セン
ターで治療中だつた同号を、美浦トレーニングセンターに運んで中央の獣医の診断
を受けなければならず、それには運送費が相当にかかることから現地で処分した方
が良いと考え、同号の馬主であるCの同意を得て、現地で同号を一五万円で処分し
Cに送金した。
ところが債務者は獣医を岩手まで特別に派遣したうえ、Cに対し事故見舞金として
予想を上廻る五五万円を支給したが、このような異例なことを前提として、債権者
が同号につき事故見舞金の申請を行わなかつたことを処分の対象とするのは違法と
いわざるを得ない。
(4) 別紙制裁文四項について
別表二(別紙制裁文四項掲示)の九頭の馬のうち、テイポーリヤ号、ホーオヒダカ
号は健康馬であり事故見舞金の対象にはなり得ない。またテイキヤスター号、テイ
マーシヤル号、テイブルース号は、登録後すぐに弱い個所が出て四、五ケ月後に抹
消されたので(登録後六ケ月経過しないと事故見舞金の対象にならない。)、事故
見舞金の対象とはなり得ない。
その他の馬は、債権者が怠慢で事故見舞金申請の手続をしなかつたのではない。即
ち、債権者の厩舎の数には限りがあり、又馬主としも、事故見舞金をもらうために
走らない馬を長期間高いかいば料を払つて預託するよりも早い処分を望むことがあ
り、鳳栄産業株式会社(以下鳳栄産業という。)の場合も、同会社の前社長であつ
たDの指示に従つて早く退厩させたため、あえて事故見舞金を申請しなかつたもの
である。
債務者は、昭和五四年一月にDが死亡し、鳳栄産業側で事故見舞金請求関係のいき
さつがわからなくなつているところ、同社に働きかけて債務者に対し見舞金調査依
頼書を提出させたうえ、確たる証拠に基づかず(この点は債務者の方で立証すべき
である)別紙制裁文四項に掲示されている九頭の馬は事故見舞金の対象馬であると
断定している。従つて右九頭の事故見舞金申請手続を怠つたとの理由は全く事実無
根であり、このことをもつて処分の対象とするのは違法である。
(三) 前記のとおり過去一六年間に調教師免許不更新になつた者は、債権者を含
め僅か五名にすぎないが、債権者以外の者の不更新事由をみると、内一名は、競走
馬に興奮剤を注射し競馬法違反で逮捕された者であつて、不更新よりもむしろ免許
取消理由に相当するものであり、内二名は、脳軟化症と高血圧難聴等を理由とする
者、他の一名は高齢による厩舎管理能力低下を理由とする者であつて、いずれも免
許取消理由である規則六条九号の「身体に故障を生じ調教師又は騎手として適当で
なくなつたとき。」に該当するものである。ところで債権者は、人物試験の結果不
適格と判定されたものであるが、過去の右不更新事由に比べて不平等な取り扱いで
あり、かかる見地からしても本件処分は、裁量権の濫用があり違法である。
6 ところで調教師の生活は、専ら入厩馬の賞金進上金に依存しているところ、本
件処分により債権者の生活は困窮の度を増していること、又債権者に雇用されてい
た人々、預託されていた馬は、厩舎の解体に伴ない現在すべて他の調教師の許に雇
用ないし預託されているものの、いずれも便宜的な処置であり、厩務員らは債権者
の復帰を待つていること等がらすると、
一日も早い原状回復が必要である。
よつて、債権者は、免許更新を求める本案訴訟を準備中であるが、後日、本案判決
が認容されても債権者の地位の回復は困難であるため、本件仮処分申請に及んだ。
二 申請の理由に対する認容
1 申請の理由1の事実のうち、債権者が調教助手になつた時期の点を除き認め
る。調教助手になつたのは、昭和三八年一二月である。
2 申請の理由2の事実のうち、債権者が昭和五四年度において凡そ三〇頭の馬を
育成調教し、相当の実績を挙げていることは不知、その余の事実は認める。但し、
債務者が昭和五四年度に債権者に貸与した馬房は定期が一八馬房であり、臨時的な
ものが二馬房であつた。
3 申謂の理由3の事実のうち、規則五条に「調教師の免許は、免許の日から一年
間効力を有する。」と規定されていること、過去一六年間に更新拒絶されたものは
債権者を含め五名であることは認め、その余の事実は否認する。
規則二条四項は、調教師免許試験の具体的課目を定めており、更に更新に際して
は、右課目の一部を省略しうる旨を定めており(規程三五条も同様)、これに基づ
き毎年試験委員会は試験要領を定めたうえ、更新については原則として人物試験を
実施しているが、試験委員会は、右人物試験に際して各調教師につき予め平素の業
務成績について充分詳細な調査を行ない、さらに人物調査のために面接試験を行な
つたうえ、合否を判定している。したがつて、調教師の資格を終身資格の如く主張
するのは、競馬関係法規の解釈からしても、又現実の問題としても到底認められな
い。
4 申請の理由4の事実は認める。
債権者は、昭和五五年二月二〇日の試験委員会において調教師として不適格と認定
されたので、債務者は、同二一日債権者に対しその旨通知し、同二二日付の競馬会
報で試験合格者のみ発表することで正式に発表した。
5 申請の理由5の前文は争う。
申請の理由5の(一)の事実のうち、調教停止処分の存在は免許取消事由に該当し
ないことは認めるが、その余は争う。
免許取消は、現に免許を有する者につきその意に反して資格を奪うものであるか
ら、右要件も法定されており(規則六条、規程四一条)、再受験資格の欠格事由と
なつている(規則三条、規程三七条)。他方免許の更新は、一旦免許期間の満了し
た調教師につき、当該業務の重要性に鑑みてその適格性を再点検する制度であつ
て、右判定は試験委員会の自由裁量にゆだねられ、不更新は再受験資格の欠格事由
とはされていない。したがつて、競馬法規上免許取消と免許不更新とは全く別個の
制度であり、別個の法律効果を有するものであるから、債権者の主張は不当であ
る。
6 申請の理由5の(二)の前文は争う。
申請の理由5の(二)の(1)の事実のうち、債権者はAからBを紹介され、三名
でロンパータイム号をみるために村下牧場を訪れたこと、債権者が、昭和五四年六
月二二日Bに対しロンパータイム号の入厩を断わる手紙を送つたこと、本件の場
合、預託契約書は作られなかつたことは認めるが、その余の事実は否認する。
債権者は自己の厩舎に馬を入れる前には、必ず予め鳳凰牧場に一旦馬を入れていた
ところ、ロンパータイム号も昭和五三年四月四日頃同牧場に入牧しており、それに
伴ない債権者は同号の血統書を預つていることからすると、債権者には、同号を受
託する意思があつたものと推認される。なお、債権者は前記のとおり昭和五四年六
月二二日付でBに対し、同号の入厩を断わる手紙を送つているものの、同号が鳳凰
牧場に人牧した昭和五三年四月四日頃以降預託を断わつた事実もないことからする
と、何とか預託契約を一方的に解除したいとして出した手紙とみるべきである。
7 申請の理由5の(二)の(2)の事実のうち、BとAが共同でキヤツシユシル
バー号を購入し債権者の厩舎に入厩させたこと、同号の預託契約書には代表馬主と
してAが記載されていたこと、代表馬主の定めは規程一二条の二に規定されてお
り、債務者との事務処理は代表馬主の手続に従つて行われていること、債権者は、
代表馬主のAの指示に従つて同号を同人の母校である明治大学馬術部に寄付したこ
とは認めるが、その余の事実は否認する。
岡田牧場主のEは、債権者の実兄Fにキヤツシユシルバー号の買手をみつけてくれ
るよう予め依頼していたこと、Aは同号の代金につき「全部で六〇〇万円で、うち
二〇〇万円が裏金だ。」と債権者から聞いて、債権者の指示によつて代金を支払つ
たこと、債権者は直接岡田牧場のEに電話して「Aが買う。表が四〇〇万円で裏が
二〇〇万円だ。」と指示していること等からすると債権者が「不正売買に介入し
た」ことは明らかである。
また、規程一二条の二には、共有馬主の代表者の規定があるが、右規程は債務者と
馬主との競馬に関する事務関係を簡素化するため便宜上定められた規程であつて、
預託関係にある馬主と調教師との関係を規定したものではない。したがつて、馬の
処分とか見舞金の申請等馬主の利害に重大な影響ある事柄につき、調教師は、一人
の共有の馬主の意見のみを聞いて処置することは許されない。
8 申請の理由5の(二)の(3)の事実のうち、債権者が現地でアイアンエイコ
ー号を一五万円で処分したこと、債務者は獣医を岩手まで派遣したうえ、Cに対し
事故見舞金として五五万円を支給したことは認め、債権者が同号を現地で処分した
方が良いと考えた理由は不知、その余の事実は否認する。
本件は、Cが中山馬主協会宛に苦情申立てをし、同協会から連絡を受けた美浦トレ
ーニングセンターが、馬主に気の毒な点もあつたことから便宜をはかり見舞金の支
給がなされたものである。したがつて、債権者が当然なすべき事故見舞金支給手続
を怠つたことは明らかである。
9 申請の理由5の(三)の(4)の事実のうち、テイキヤスター号が登録後約四
か月で抹消されたことは認めるが、その余の事実は否認する。
事故見舞金の趣旨は、一種の馬主救済の保険金的意味及び馬の退厩促進の意味を具
有している。そこで実際の運用は、所謂別表一四項(競走馬事故見舞金支給規程の
別表第一の一四項)を広く解釈し、出来るだけ馬主の利益を計るように取り扱われ
ており、馬名登録を抹消して中央競馬からしりぞく馬の馬主で事故見舞金をもらわ
ない者はないといつても過言ではない。したがつて債務者側で、丸頭の馬が事故見
舞金の対象馬であることを立証すべきであるというのは現実の運用を無視した議論
である。
10 申清の理由5の(三)の事実のうち、過去一六年間に調教師免許不更新とな
つた者は、債権者を含め五名であること、内一名は、競走馬に興奮剤を注射し競馬
法違反で逮捕された者、内二名は、脳軟化症と高血屋難聴等を理由とする者、他の
一名は、高令による厩舎管理能力低下を理由とする者であることは認め、その余の
事実は否認する。
債権者以外の四名も、債権者と同様人物試験の結果不適格と判定されたのであつて
債権者が過去の例に比べて不平等であるとはいえない。
11 申請の理由6の事実のうち、債権者に雇用されていた人々、預託されていた
馬は、現在すべて他の調教師の許に雇用ないし預託されていることは認め、その余
の事実は否認する。
三 債務者の主張
1 法は、調教師免許試験につき、その施行権者が債務者であることを定め(規則
二条一項)、その施行細目を定めることを同じく債務者に委ね(同条三項)、試験
課目について法定し(同条四項)、更新の場合は課目を減少する裁量権を債務者に
委ね(同条同項)、試験委員について法定している(同条五項)。したがつて法
は、債務者に対し債務者が法律の定めた委員をして、法律の定める課目につき試験
を行なう権限を付与したものであり、具体的にその試験の内容程度、合否の決定に
ついては、それを債務者の裁量に任せていると解すべきである。したがつて、調教
師免許更新の際の人物試験は債務者の自由裁量に属しているところ、債務者は別紙
制裁文の四項目の事由を主たる理由とする他、右四項目の事由による調教停止処分
直後の預託馬に関する義務を放棄したこと、更には次に述べる(一)、(二)の規
程違反の事実などを総合勘案して、債権者を調教師として不適格と判定したもので
あり、そこに裁量権の濫用はない。
(一) 債権者は、前記のとおりキヤツシユシルバー号をAの指示に従つて明治大
学馬術部に寄贈したが、乗馬転用は、馬名登録抹消事由に該当(規程二〇条六号)
し、預託契約解除届を債務者理事長宛に提出すべきところ(規程四三条)、債務者
に対する退厩届を放牧という偽りの事由で届出更に預託契約解除届を九ケ月も放置
した。
(二) 債権者は、前記キヤツシユシルバー号の預託契約の債務者に対する届出書
に、同号の売買価格として四〇〇万円と虚偽の記入をしていることは調教師として
の重大な職務違反である。
2 調教師免許試験は新規、更新を問わず合格か不合格の処分しかないのであるか
ら、債権者主張の如く本件処分が違法とされたとしても、一年の免許期間経過後で
は右処分を争うことは無意味である。
3 厩舎の借受関係は、調教師免許を受け或いは免許更新を得た者が、債務者に対
し厩舎借受の申し込みをし(日本中央競馬会厩舎貸付基準八条)、それに対する債
務者の審査がなされ(同一一条)、貸付可となるとその旨通知がなされる(同一
二、一三条)という経緯をたどるものであり、調教師の地位とは別個の法律行為で
あるが、(調教師でありながら厩舎貸付を受けていない者も相当数いる)、債権者
は、右一連の法律行為の如何なる点に違法があるか明らかにしていない。また、債
権者に対する昭和五四年度の馬房の定期貸付は一八馬房であつたが、仮りに昭和五
五年度も免許更新がされたとしても、相当数馬房が減少したはずである。
4 (一)債権者は、調教師として毎年相当の収入を得て来てあり(例えば、昭和
五三年度の進上金収入は一四三三万円)、免許不更新により調教師としての地位を
失つたとしても、競馬社会から排除され生活基盤が失われることはなく、競馬関連
の仕事に就いて生活することは十分可能であるから、本件仮処分を得なければ明日
の生活に窮するというはずはなく、又債権者の厩舎の従業員、預託馬は現在すべて
他の厩舎に雇用ないし預託されていることから干ると本件処分を求める緊急の必要
性はない。
(二) 競馬法(以下「法」という)一は、免許を受けた調教師でなければ馬を調
教できないと規定している(法一六条)が、このことは債務者が行う審査(規程五
条ないし八条の二)を経て正式に馬主登録を得た馬主でなければ馬を出走させるこ
とはできない(法一三条)し、又馬名登録(規程一三条ないし一七条)を受けた馬
でなければ出走できない(法一四条)という法律の規定を受けて、免許を享有する
調教師の調教を受けた馬でなければ中央競馬に出走できないことを意味している。
然るに本件仮処分において漬務者が敗訴した後、本訴において勝訴した場合には、
法律上出走できない馬が出走したという事態が生じることになるが、かかる場合の
競馬成績は本訴の勝訴判決後如何に訂正すべきであるか、又債権者が関与した馬が
入着した場合の馬主に支払われる賞金とか調教師らに支払われる進上金は如何にに
すべきであるか、法律上、事実上解決困難な問題が生じ、到底解決不可能である。
仮りに余銭解決で足るとして債権者に賠償不可能な金額であることは明らかであ
る。
以上の理由からすると、本件仮処分は、その必要性がない。
第三 疎明(省略)
○ 理由
一 申請の理由1(但し債権者が調教助手になつた時期の点は除く。)及び4の事
実、並びに調教師は債務者から厩舎を借受けその監督の下に馬主から一定の委託料
及び競走馬が入賞した際には賞金の一〇パーセンーの進上金を受け取つて競走馬の
育成、調教を行うことを業としている者であること、債権者は昭和五四年度におい
て債務者から二〇馬房を借受けていたこど、規間五条には「調教師の免許は、免許
の日から一年間効力を有する。」と規定されていること、過去一六年間に更新拒絶
された者は債権者を含め五名であり、内一名は、競走馬に興奮剤を注射し、競馬法
違反で逮捕された者、内二名は、脳軟化症と高血圧、難聴等を理由とする者、他の
一名は、高令による厩舎管理能力低下を理由とする者であること、債権者はAから
Bを紹介され、三名でロンパータイム号をみるために村下牧場を訪れたこと、債権
者は、昭和五四年六月二二日Bに対しロンパータイム号の入厩をことわる手紙を送
つたこと、BとAは、共同でキヤシユシルバー号を購入し債権者厩舎に入厩させた
こと、キヤツシユシルバー号の預託契約書には、代表馬主としてAが記載されてい
たこと、代表馬主の定めは規程一二条の二に規定されており、債務者との事務処理
は代表馬主の手続に従つて行われていること、債権者は代表馬主のAの指示に従つ
てキヤツシユシルバー号を同人の母校である明治大学馬術部に寄付したこと、債権
者は岩手県の現地でアイアンエイコー号を一五万円で処分したこと、債務者は獣医
を岩手県まで派遣し、Cに対し事故見舞金として五五万円を支給したこと、債権者
に雇用されていた人々及び預託されていた馬は、現在すべて他の調教師の許に雇用
ないし預託されていることは当事者間に争いがない。
二 右当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない疎甲第一号証、同第二号証
の一、二、同第六号証、同第三〇号証、同第三六号証、疎乙第一号証ないし同第二
〇号証(但し第六号証、第一一号証ないし第一三号証中後記措信しない部分を除
く)同第二一号証の一ないし三、同第二二、第二三号証、同第二六号証、同第二九
号証、同第三二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる疎甲第
九号証ないし同第一一号証、同第一三号証、同第一八号証ないし同第二六号証、同
第二九号証、同第三二号証、疎乙第三五号証の一ないし七、同第三六号証、同第三
八号証、証人G、同H、同Iの各証言、債権者本人尋問の結果(但し後記採用しな
い部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
1 債権者(昭和九年五月二八日生)は、昭和三八年一二月一八日調教助手とな
り、同四六年三月一日調教師免許を取得し、以来毎年三月一日右免許の更新を受
け、同五五年二月末日まで右免許を享有していた者であるが、債務者から昭和四八
年度において一〇馬房の、同四九年ないし同五一年度において一五馬房の、同五二
年度及び同五三年度において一八馬房の各貸付を受け、別表一記載どおりの成績を
挙げて来たところ、債権者は、昭和五四年度において債務者から美浦トレ-ニング
センター南Gの五に定期貸付として一八馬房、臨時貸付として二馬房の計二〇馬房
を借受け、調教助手二名、見習助手二名、見習騎士一名、厩務貝一〇名を一雇用し
て稗田善彦厩舎としておおよそ三〇頭の馬を育成調教していた。
2 調教師は、債務者から厩舎を借受け、その監督の下に馬主から一定の委託料及
び競走馬が入賞した際には賞金の一〇パーセントの進上金を受け取つて、競走馬の
育成調教を行うことを業とする者である。ところで右調教師の免許試験は、債務者
によつて毎年実施されているが(規則二条一項)、債務者は右試験の施行細目を定
めたうえ(規則二条三項)、(1)身体、(2)学力、(3)人物、(4)調教の
技術につき(規則二条四項)試験を行ない、調教師免許の許否を決定している。右
調教師免許は、免許の日から一年間効力を有す(一規則五条)とされているが、債
務者は、右いわゆる免許の更新の場合には新規試験の場合と異なり前記試験課目を
一部省略することができる(規則二条四項)との規定を受けて、多年にわたり人物
試験のみを実施し(以下更新試験という。)、調教師免許の更新の許否を決定して
いる。
3 ところでBは、昭和五四年八月一七日中山馬主協会労務委員会に対しロンパー
タイム号の預託に関し債権者に対する苦情申立をなしたところ、右委員会委員長J
は、同一〇月五日債務者理事長宛に右に関し事情調査を依頼した。債務者は、右調
査依頼を受けて債務者の調教師業務に関する調査を始め、関係者の事情聴取を行つ
たうえ、昭和五四年一二月二〇日債権者に対し、別紙制裁文一項ないし四項の各事
由が債権者に存在し、右は規程一二六条一七号に該当するとして、同一二月二一日
から昭和五五年二月二九日までの間調教停止処分にする旨通告した。
4 債権者は、右通告を受けるとともに債務者の指示に従いすみやかに預託馬の預
託契約の変更手続を実現すべく、おじのKに連絡して一たんは転厩の内諾を得たも
のの、調教師会及び預託馬主の一部が右転厩に難色を示したため、預託契約の変更
手続を行うことができず、同一二月二二日に至り関係者の了解を得て右手続を完了
した。
このため債権者の右預託馬中大部分は、同一二月二三日から開催された競馬に出走
できず、預託契約の変更手続を二二日中に完了することができたテイマシーン号の
みが出走できたにとどまつた。
5 債務者は、昭和五五年度の更新試験において、同五五年二月二〇日の試験委員
会の決定に基づき、同二月二一日債権者に対し口頭で、昭和五五年三月一日以降の
免許更新に応しない旨を通告し、翌二二日競馬会報に債権者を除く更新試験合格者
を発表することでこのことを正式に公表した。
6 ところで、債務者は右更新試験において、債権者が昭和五四年一二月二〇日付
で調教停止処分を受けたこと及びその処分事由を主に、附随的に右処分後に預託馬
に関する業務を放棄したこと、キヤツシユシルバー号についての預託契約届、解除
届上の瑕庇等を理由として、債権者に対し免許不更新としたものであるが、右更新
の主たる理由とされる別紙制裁文一項ないし四項関係の事実は次のとおりである。
(一) ロンバータイム号に関する経緯
(1) Bは池田建設工業株式会社を経営する者であるが、昭和四八年頃申請外L
が村下牧場に預託していたモーメンタム号を購入し仔分け馬主となつたものの、二
年間仔分け馬を得ることができなかつた。Bは昭和五〇年モーメンタム号の子ロン
パータイム号を代金六〇〇万円(二年間仔分け馬を得ることができなかつたことを
加味して同馬の評価を一二〇〇万円としその半額)で村下牧場から購入したが、当
時親交のあつたM調教師から同号の預託を断わられたため、同号を入厩させること
ができなかつた。Bは当時馬主登録が切れる恐れがあつたため早急に同号の預託先
を捜す必要があつてAの父からAを紹介された際同人にその旨相談したところ、A
から当時親交のあつた債権者を紹介された。そこでBはAと一緒に昭和五二年八月
二二日頃債権者を伴つて浦河の村下牧場にロンパータイム号を見せに出かけたとこ
ろ、債権者は、同号が小さくて腰が甘い馬であつたためBから預託を受けることに
難色を示したが、結局育成中のこととて馬の状態をみてから決めるということにな
つた。しかし同号は、後記のキヤツシユシルバー号(B、Aが共有馬主となり、債
権者との間に正式の預託契約が成立した馬。)が昭和五二年一〇月鳳凰牧場茨城分
場に送られた後も、依然として村下牧場に置かれたままになつていた。
ところで債権者はAから再三ロンパータイム号の入厩を要請されたので、とりあえ
ず競馬場に入れる前に鳳凰牧場茨城分場で乗つてみて、競走馬として無理なら諦め
てもらうとの約束で同号を昭和五三年四月四日鳳凰牧場茨城分場に引き取つた。そ
の際債権者は、村下牧場から送られて来た同号の登録証明書を自ら管理したが、同
号の預託料は、鳳凰牧場主のDが直接Bから受領していた。
(2) 同号は、鳳凰牧場茨城分場に送られて来た当時、三六〇ないし七〇キロ位
で馬体が小さく腰も弱かつたため、調教を担当していたNは同号に時々しか乗ら
ず、Bにもその旨電話で話したことがあつた。債権者は、夏期の札幌、函館競馬開
催期間中を除き、時々鳳凰牧場茨城分場を訪れては馬を見ていたが、ロンパータイ
ム号の調教については、特段右Nに対し指示することはなかつた。
(3) Aは、前記のとおりBとは父の紹介で知り合つたことから、Bのために何
とか同号を入厩させてやりたいと考え、債権者を再三説得したが、債権者は同号の
腰が弱いことを理由に入厩を渋つていたものの、Aとの間では昭和五四年三月頃、
一度人厩させてみようか等との話しも出たこともあり、AがBにその旨電話したこ
ともあつたが、結局同号は、調教に耐えられないという判断から入厩するまでに至
らなかつた。
(4) ところで昭和五四年一月七日、鳳凰牧場主のDが死亡し、同牧場茨城分場
が閉鎖されることになつたため、債権者はO獣医の紹介で同二月二六日に同号を武
田牧場に移転させた。(債権者は同九月一四日に武田牧場に同号の登録証明書を送
つた。)
(5) Bは、同号の右移転について、債権者から何の連絡も受けていなかつたと
ころ、昭和五四年五月三一日突然武田牧場から同号の預託料の請求を受け、さらに
同六月二二日債権者から腰と後肢が弱いことを理由として同号の入厩を断わる旨の
手紙を受取つたことから債権者に対し不信感を抱き、同八月一七日馬主協会労務委
員会委員長宛に同号の預託に関し、債権者に対する苦情の申立てをなした。
(二) キヤツシユシルバー号に関する経緯
(1) Aは、昭和五二年八月二二日頃B、債権者と伴に村下牧場にロンパータイ
ム号を見に行つた後、自分の仔分け馬を見るために岡田牧場を訪れた際債権者が同
牧場にいたキヤツシユシルバー号に興味を示したので、債権者との預託関係が切れ
ていたこともあつて一頭購入しても良いと考え、債権者を通じてEに価格を尋ねた
ところ、Eは債権者に対し表で四〇〇万円、裏で二〇〇万円の計六〇〇万円である
旨答えた。債権者からこのことを聞いたAは、Bにもすすめて同馬を共同で持つこ
とにした。その後AはEに対し同号の血統を照会したうえ、債権者を通じ、Bと共
同で表四〇〇万円、裏二〇〇万円の計六〇〇万円で購入する旨正式に連絡し、内金
四〇〇万円は二回に分けてE宛銀行送金し、内金二〇〇万円(裏金分)は税務署の
関係上直接Eに現金で手渡して支払つたが、Eは仔分け馬主の有限会社勝福(Eは
勝福の取締役でもある。)に対し、四〇〇万円から種付料を差引いた半額の一七五
万円のみを支払い、裏金二〇〇万円は自ら領得した。なお、キヤツシユシルバー号
は、右勝福の所有馬ラデエルデユール号と稗田牧場の種牡馬ダンシングキヤツプ号
の子であり、五〇〇ないし六〇〇万円程度の価額の馬であつて、Eは昭和五二年夏
頃、債権者の兄に対し七〇〇万円程度で売却方を依頼したこともあつた。
(2) キヤツシユシルバー号は、昭和五二年一〇月二七日頃鳳凰牧場茨城分場に
到着し、債権者はB、Aと預託契約を締結(代表馬主はA、債務者宛の競走馬預託
契約届には、購売価格四〇〇万円と記載。)し同号を入厩させて調教を始めたが、
強い調教をすると肢を故障してしまうため、Aは同号を競走馬とすることを断念
し、債権者に対し同号を母校の明治大学馬術部に寄贈するよう指示するとともに昭
和五三年一一月頃Bに了解を求めたところ、Bは、空いた馬房に自己の仔分け馬で
ある前記ロンパータイム号を入厩させたい一心から右申し出を了解した。その際債
権者は、Aの指示にしたがい同馬につき事故見舞金を申請しなかつたが、Bもこの
ことを認識しながらあえて異議は述べなかつた。
(3) キヤツシユシルバー号は、その後かなり経過した昭和五四年八月二九日に
登録抹消された(登録抹消手続は競走馬預託契約解除届の提出によるが、退厩理由
には放牧と記載)。
(三) アイアンエイコー号に関する経緯
(1) Cは、昭和五三年五月アラブ抽せん馬(アイアンエイコー号)全二四〇万
円で購入し、P調教師の紹介で同号を債権者に預託した。同号は、同年六月、二回
出走したがいずれも着外であつたところ、同七月頃屈腱炎を患つたため、債権者は
Cに対し、厩舎に置くと預託料が高いし、温泉場で二ケ月位休養すれば出走できる
旨説明し、同人の了解を得て岩手県の湯田温泉医療センターに同号を治療のため預
けた。その際債権者は、同号を再び入厩させるつもりであつたためあえて診断書を
とらなかつた。ところで右湯田温泉医療センターの場長であるQが同号を診察した
ところ、同号は故障が治つても、繁殖馬としては別であるが競走馬としては使えな
いと思われたので、その旨Cに対し再三郵便で連絡した結果、Qは昭和五四年一月
下旬、Cから同号を地方に売却してほしい旨の依頼を受け、さらに債権者からも同
様の依頼を受けたので、知人のRに売却方を依頼し、同三月五日宮城県加美郡の千
葉牧場のSに同号を売却した。Qは右Rから右売買代金として金一五万円を受取
り、未払預託料五万円を清算したうえ、残金一〇万円を債権者に郵送し、債権者は
Cに対し右一〇万円を小切手で郵送した。ところで債権者は、同号の事故見舞金が
四〇万円程度であるということを右診療所で聞いていたので、右見舞金の支給を受
けるために同号を岩手県湯田温泉から美浦トレーニングセンターの診療所に運んで
診察を受けさせる等の手続費用を考えると、現地で処分した方が良いと考え、Cも
それを希望したので、同号の抹消に際し事故見舞金の申請手続をとらなかつた。
(2) ところが、Cは同号の右売却価格が繁殖馬の売買としては予想外に低かつ
たことから、昭和五四年三月一七日中山馬主協会会長宛に同号の休養加療期間中の
補償を求める上申書を提出した。そこで右馬主協会のT会長は、美浦トレーニング
センターに連絡をとつたところ、同センター診療所所長はわざわざ職貝を右湯田温
泉医療センターに派遣して同号を診察させた。そして債務者は右診断に基づきCに
対し事故見舞金四五万円、付加金一〇万円の計五五万円を支給した。
(3) 債権者は、右事実により美浦トレーニングセンター場長名で戒告処分を受
けた。
(四) 鳳栄産業の預託馬に関する経緯
(1) 鳳栄産業は鳳凰牧場主であつたDの競走馬に関する法人であつたが、同社
の実質上のオーナーであつたDは債権者の勧めで昭和四四、五年頃鳳凰牧場茨城分
場を開設し、現場の管理を債権者にまかせる一方、鳳栄産業の所有馬を債権者に対
し継続的に預託していたが、右預託馬の入厩、処分等については右Dが一人で取り
しきつていた。
(2) Dの存命中は、債権者と鳳栄産業との間にはさしたる問題はなかつたが、
債務者は前記二、3の昭和五四年一〇月五日付の調査依頼に基づきBの事情聴取を
行つた際、同人から鳳栄産業も債権者によつて被害を被つている旨指摘されたこと
から調査を開始し、同社の事故見舞金の申請状況を調査したところ、債権者に対す
る預託馬のうち別表二の九頭の預託馬につき事故見舞金の申請がなされていないこ
とが判明したため、同社に対し右の事情に関し調査を求めるか否か回答を求めたと
ころ、同社から正式に債務者宛調査依頼がなされた。
(3) 債務者は、右に基づき債権者に対し別表二(別紙制裁文四項に掲示されて
いる)の九頭の馬につき、事故見舞金を申請しなかつた事由をただしたところ、債
権者は、当時馬の出し入れについてはDが一人で行つていたので、その都度Dの了
解のもとに事故見舞金の申請をしなかつた旨回答したものの個々の馬についての事
情は明らかにしなかつた。
(4) 債務者は、債権者から事故見舞金を申請しなかつた事由について明確な説
明を得られなかつたことから、債権者が見舞金を申請しなかつたことは、規程一二
六条一七号に違反すると判断した。
(5) 事故見舞金制度は、馬主救済と退厩促進という要請から弾力的運用がなさ
れ、現在では九割以上の抹消馬がその支給を受けているが、O獣医のカルテによる
と、前記九頭の馬のうちテイマーシヤル号、テイコマンダー号、テイブルース号、
ホーオーヒダカ号の四頭には既往症なしと判定されている。
7 ところで調教師新規免許試験は、毎年約九〇人受験し、昭和四〇年以降の合格
者数社別表三のとおりである。他方調教師免許更新試験の合格者数及び更新拒絶さ
れた者の数は同じく別表三のとおりであるが、昭和四〇年以降に更新を拒絶された
者(債権者を除く)の不更新事由をみると、内一名は昭和四一年七月一五日競走馬
に興奮剤を注射したとして競馬法違反を理由に兵庫県警に逮捕(処分保留)された
者であり、内一名は脳軟化症のため臨場できず、調教においても指示できず、人の
見分けもつかない状況にあつた者であり、内一名は、健康上の理由(糖尿病、高血
圧、冠不全、難聴)から、昭和四九年度の臨場義務を五六日間依嘱(出走日数八〇
日)した者(但し、昭和五〇年八月三一日限り引退という条件で更新)であり、他
の一名は、高令により厩舎管理能力に低下が見られ、経理面を妻に一任し、馬主へ
の預託料の請求にミスが多く、又馬主から依頼を受けた馬の保険加入手続の懈怠、
騎手への進上金の支払いの再三の遅滞のため、昭和四九年度に調教獅会から警告を
受けた者である。
8 債権者の調教師免許不更新に伴い、債権者に雇用されていた人々ないし預託さ
れていた馬は、現在すべての他の調教師の許に雇用ないし預託されているが、債権
者の元厩務貝の多くは稗田厩舎への復帰を願つている。債権者が債務者から借受け
ていた美浦トレーニングセンター内の南G5の馬房は、現在全て他の調教師に振分
けられており、債権者は同センター内の宿舎を債務者に対し明渡し、現在は稗田厩
舎の再開を願い肩書地に居住している。
以上の事実が認められ、前掲疎乙第六号証、同第一一号証ないし同第一三号証、債
権者本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用せず、他に右認定を覆すに足り
る疎明資料はない。
三 そこで、まず債権者の調教師としての地位保全を求める請求について検討す
る。
1 前記認定のとおり、債権者は昭和四六年三月一日調教師免許を取得し、以来毎
年三月一日、右免許の更新を受けてきたところ、債務者は、昭和五五年度の調教師
免許の更新試験において債権者を不合格としたのであるが、債務者のかかる不合格
処分の効力について判断する前に、調教師免許は免許の日から一年間効力を有する
(規則五条)とされているので、右期間経過後において、債権者が債務者に対しそ
の不合格処分の違法を主張して調教師の地位保全を求める利益があるか否かについ
て検討する。
一般に免許、許可等の処分に期限等が定められている場合、その期限等の到来によ
つて当然に免許、許可等が失効すると一義的に解するのは妥当でなく、免許、許可
の性質、目的及び右更新の運用状況等に照らし、その期限等が不相応に短い場合に
はかかる期限等は右免許、許可の再考期間と解すべきであり、したがつて、右期限
等到来前に適法な更新申請があつて、右申請に対し更新を拒絶する処分がなされな
い限り、免許、許可等は当然には失効しないと解するのが相当である。ところで調
教師免許の期間は前記のとおり一年間と定められているが、前記二、2の認定事実
及び公知の事実のとおり、調教師は馬主から二、三才馬の預託を受けて育成調教
し、主として四才馬以降の競走に右預託馬を出走させて、右競走から得られる進上
金の獲得を目ざしているのであつて、右調教業務自体、馬の育成、調教という一定
の継続性が予定されており、調教師はかかる業務の継続性に対応すべく厩務員を雇
用して預託馬を管理し、又馬主も調教師業務の継続性を前提に馬を預託しているこ
と、加えて昭和四〇年以降毎年一〇〇名以上の調教師の免許が更新されているが、
更新試験において不合格とされた者は債権者を含めて僅か五名であるという右運用
の現状からすると、一年間という右免許期間は不相応に短いものといわざるを得な
いので、かかる期間は調教師免許の再考期間と解するのが相当である。それゆえ右
期間満了前に適法な更新申請があつて、右申請に対し更新拒絶がなされない限り、
免許は継続性を有する(更新拒絶に処分性が認められる)と解すべきである。した
がつて債権者は、昭和五五年度の更新試験において債権者を不合格とした債務者の
右処分の効力を争い、調教師たる地位の保全を求める利益を有すると解するのが相
当である。
2 そこで、昭和五五年度の調教師免許の更新試験において、債権者を不合格とし
た本件処分が違法であるか否かについて検討する。
(一) 債権者は、調教師免許の更新試験において更新を拒絶する処分は、該調教
師が免許を失う点で免許取消と実際の効果が異ならないのであるから、免許取消事
由と同等の事由が必要である旨主張する。しかし調教師免許は前述のとおり、一年
ごとの免許期間到来前に適法な更新申請があり、右申請に対し更新を拒絶されない
限り一定の継続性が予定されているといえるが、法は調教師免許試験につきその施
行権者が債務者であると定め(規則二条一項)、その施行細目の決定を債務者に委
ね(同条二項)、右試験課目を法定するかたわら、更新試験の場合には課目を減少
する裁量権を債務者に委ね(同条四項)でいるところ、債務者は、右規則に従い更
新試験において人物試験を実施していることからすると、更新試験の内容程度、更
新の許否の決定(処分)については、債務者の自由裁量に属すると解するのが相当
であり、他方免許取消は、取消事由が法定され(規則六条、規程四一条)、その効
果として再受験資格の欠格事由とされている(規則三条、規程三七条)など、更新
試験において更新を拒絶する処分と免許取消とは、その手続、効果を異にしている
のであるから、調教師免許の更新試験において更新を拒絶するためには、免許取消
事由と同等の事由が必要であるとの債権者の右主張は採用できない。
(二) 債権者は、右更新試験において債権者を不合格とした債務者の本件処分に
は裁量権の濫用の違法がある旨主張する。
前記のとおり調教師免許の更新試験において、右更新の許否は債務者の自由裁量に
委ねられていることからすると、右更新許否の当否については、原則として司法審
査権は及ばないというべきである。しかしながら右更新試験において債権者を不合
格とした債務者の処分が、事実の基礎を欠いてなされたと認められる場合、又事実
の基礎を欠いているとまではいえないとしても、従来の更新試験において不合格と
された者の不合格事由に比して著しく不平等であつて社会通念上著しく妥当を欠く
と認められる場合等、債務者の右裁量権の行使につき重大な瑕疵があり、かつその
結果が社会的、経済的に著しい影響がある場合に限り司法審査に服すると解すべき
であつて、かかる場合当該処分は裁量権の濫用として無効であるといわざるを得な
いものである。
そこで、以上の前提にのつとり、債務者の裁量権の濫用の有無について検討する。
(1) まず債務者が昭和五五年度の更新試験において債権者を不合格とした主た
る事由である昭和五四年一二月二〇日付の調教停止処分の処分事由(別紙制裁文一
項ないし四項)につさ、事実誤認があつたか否か判断する。
(イ) 別紙制載文一項について
右制裁文一項は、昭和五二年八月二二日債権者とBとの間でロンパータイム号につ
き預託契約が成立したことを前提としているが、前記二、6、(一)の記定事実に
よると、債権者は昭和五二年八月二二日村下牧場でロンパータイム号をみた際、同
号が小さく腰が甘い馬であつたため同号の預託に難色を示していたこと、このため
同号は、昭和五二年一〇月、キヤツシユシルバー号(Bも共有馬主の一人であり、
同号についてはその頃債権者と預託契約が成立している。)が鳳凰牧場茨城分場に
送られた後の昭和五三年四月四日に至るまで村下牧場に置かれたままになつていた
ものであるが、その間Bは債権者に対し何ら異議を述べていないこと、ロンパータ
イム号は腰と後肢が弱かつたため、鳳凰牧場茨城分場での調教にも耐え得ない馬体
であつたことからすると、昭和五二年八月二二日当時に、Bと債権者間で同号につ
き入厩を前提とする預託契約が成立していたとみるのは不自然であり、制裁文自
体、債権者が同号を入厩させなかつた点の責任を問うてはいないものの、右当事者
間に預託契約が成立したことを前提として債権者の義務違反の責任を問うことは、
事実誤認に基づくものといわざるを得ない。もつとも債権者は、鳳凰牧場茨城分場
でロンパータイム号を調教してみて、無理ならば入厩を諦めてもらうとの意図のも
とに同号を同牧場に入牧させ、かつ村下牧場から送られて来た同号の登録証明書を
保管していたことからすると、時期の点はともかくとして、同号が競走馬として耐
えうる程度に成育した場合には入厩させる旨の条件付預託の合意があつたものと認
められなくはなく、それにも拘らず、債権者は、夏期の北海道での競馬開催期間中
を除き、時々鳳凰牧場茨城分場を訪れて同号をみてはいたものの、直接同号の調教
にあたつていたNに対しあえて調教の指示をしていなかつたことが窺われるが、元
来同号は、競走馬としては腰と後肢が弱く調教に耐えうる状態になかつたのである
から、これをもつて債権者が同号につき前記合意に基づく善良な管理義務を欠いて
いたとまではにわかに断じ難い。しかし、債権者はロンパータイム号の転牧のこと
や、同号の状況や入厩の可能性等につき紹介者のAに連絡しただけで、馬主である
Bに対しては直接連絡をとつていなかつたのであり、BがAから紹介された者であ
つたことを考慮しても、この点でいささか懈怠の責任を問われてもいたしかたない
といわざるを得ない。
(ロ) 別紙制裁文二項について
前記二、6、(二)で認定のとおり、債権者は、AがBとともにEからキヤツシユ
シルバー号を購入する際、Eから右売買価格は表金が四〇〇万円、裏金が二〇〇万
円であることを聞いてこのことをAに伝え、後日AらがEの右申し出の条件で同号
を購入するとの返事をEに連絡するなど、債権者が同号の二重価格の売買に関与し
たことは明らかであるが、右売買契約、代金の決済等はAが行つたものであるこ
と、キヤツシユシルバー号は適正価格が五、六〇〇万円の馬であり、かつ裏金二〇
〇万円については、Eが領得していることからすると、同号の二重価格の売買は、
専らEの税金対策上行なわれたものとみるべきであつて、債権者が不当な利益を得
ることを目的として行つたものとみることはできず、債権者の右関与は、売買契約
の内容を当事者双方に伝える使者的役割を果したにすぎないものというべきであ
る。ところで調教師は、いやしくも競走馬の不正取引に関係することは、いかなる
態様にもせよ是認できないものであるが、証人Iの証言及び弁論の全趣旨による
と、債務者は、債権者の右関与について、何らかの利益にあずかるいわゆる「下
駄」をはきそこねたものとの認識のもとに債権者の責任を問うていることが窺われ
るところ、右は前記認定の事実に照らし事実誤認に基くものといわざるを得ない。
次に債務者は、債権者がキヤツシユシルバー号を乗馬用に用途変更する際、共有馬
主の一人であるBの意思を確認することなく事故見舞金の申請手続をとらなかつた
ことを処分事由にあげているが、そもそも事故見舞金の受給権は馬主に属する(競
走馬事故見舞金支給規程三条一項)ものであつて、通例調教師は、右申請手続を馬
主に代つて行つているにすぎないから、馬主の意思に反しない限り、右申請手続を
行なわなかつたとしても責任はないというべきところ、前記認定のとおり、債権者
はキヤツシユシルバー号をAの指示にしたがつて明治大学馬術部に送つた際、同人
から事故見舞金の申請手続を行わなくても良い旨の了解を得ていたのであり、加え
てBも、キヤツシユシルバー号を退厩させた後に自己の持馬であるロンパータイム
号を入厩させたい一心から、キヤツシユシルバー号について債権者が事故見舞金を
申請しないことを承知しながらこれを黙認していたのであつて、つまるところ債権
者が、キヤツシユシルバー号につき事故見舞金の申請手続をとらなかつたことは馬
主の了解ずみのことであると認められるから、この点につき債権者に、調教師とし
ての業務上の注意義務を怠つたものとはいえない。したがつて、債務者が馬主の真
意を明確に確認することなく債権者の右行為をとり上げ責任を問うのは事実誤認に
基くものという他はない。
(ハ) 別紙制裁文三項について
前記二、6、(三)で認定のとおり、債権者がアイアンエイコー号の登録抹消に際
し、事故見舞金の申請手続をとらなかつたことは明らかであるが、これは債権者が
岩手県の湯田温泉医療センターで治療中のアイアンエイコー号を登録抹消する際、
同号の事故見舞金が四〇万円位であるときいていたので、右支給を受けるために同
号を岩手県から美浦トレーニングセンターに運んで診断を受けさせるためには運送
費、人件費、かいば料等でかなりの費用を要するから、むしろ右現地で売却した方
が良いと判断し、馬主のCも現地での売却方を望んだので、あえて事故見舞金の申
請手続をとらなかつたものであるが、調教師としてかかる判断をしたこと自体あな
がち不当とまでは言いきれない面もあり、むしろ債権者が、その間の事情をCに対
し説明するのが不十分であつたため問題を紛糾させたのであり、この点で債権者の
責任があつたともいえる。もつとも債権者は、この点につき、美浦トレーニシグセ
ンター場長から既に戒告処分を受けている。
(二) 別紙制裁文四項について
前記二、6、(四)で認定のとおり、債権者が鳳栄産業からの別表二の預託馬テイ
キヤスター号他八頭の馬(別紙制裁文四項掲示の各馬)につき事故見舞金の申請を
しなかつたことは認められるが、前記のとおり事故見舞金の申請は、本来馬主がな
すべきものであつて、調教師は右申請手続を代行しているにすぎないものであるか
ら、馬主の意思に反しない限り右申請をしなかつたとしても違法とはいえないもの
であるところ、前記認定のとおり、凰栄産業の預託馬の入、退厩は、同社の実質上
のオーナーであつたDによつてなされていたものであるが、前掲疎乙第一、二号証
によると、当初は登録抹消馬につき事故見舞金の支給を受けていたにも拘らず、昭
和五一年頃から右申請がなくなつていることが認められ、不自然な面も否定しえな
いが、前記認定事実によれば、登録抹消馬につき事故見舞金の申請手続がなされて
いないことについて凰栄産業或いはD個人から債権者に対し異議の申立はなく、今
回の鳳栄産業から債務者に対する事故見舞金に関する調査依頼は、Dの死後債務者
の調査に呼応してなされたものであることにも照らすと、債権者は、Dの指示によ
つて前記の各馬につき事故見舞金の申請手続をとらなかつたものか、或いは少なく
ともDの了解のもとに申請手続をとらなかつたものと認めるのが相当である。なお
右申請がなされなかつた各馬の事情については定かではないものの、馬主の了解が
あると認められる以上、債権者の右懈怠を問責することはできない。したがつて、
この点に関して債務者が馬主の意向を看過しその責任を問うのは事実誤認に基くも
のといわざるを得ない。
(ホ) 以上のとおり、別紙制裁文一項ないし四項には、事実誤認の部分がある
が、然らざる部分もなくはなく、この点で債権者には調教師としての義務違反の責
任を問われるべき若干の落度があつたといわざるを得ない。しかしながらこの点に
ついては、債権者は既に戒告或は七〇日余に及ぶ調教停止処分を受けている。
(2) 次に本件免許不更新の不随的事由とされている、キヤツシユシルバー号に
関する預託契約届、同解除届の各記載内容及び右解除届の提出時期並びに調教停止
処分後の預託馬の転厩、契約変更状況についてであるが、これらの事実関係は、前
記4及び6、(二)の(2)、(3)で認定したとおりであつて、右届出書中一部
事実と相違する記載のあること、解除届出書の提出がかなり遅延したこと、並びに
調教停止処分後の転厩手続等の遅滞により混乱が生じたこと、いずれもほぼ債務者
主張のとおりである。これらはいずれも債権者の誠意のなさに基づくものといえな
くはないが、前者の届出書関係の義務違背については、それによつて如何なる影響
が生ずるものかは必ずしも定かでなく、後者の転厩等手続義務懈怠についても、債
権者のみにその責を負わせるのは酷であつて、右各事由はそれ程悪質な義務違反で
あるとはいい難い。
(3) 調教師免許者の推移、新規更新別の合格者数等は前記二、7で認定したと
おりであつて、免許不更新の場合には、免許取消の場合と異なり、新規試験の再受
験資格はあるとしても、右試験合格者の競争率は、ほぼ毎年十数倍という高率にな
つている。
(4) 他方、従来の更新試験不合格者をみると、前記二、7で認定したとおり、
競馬法違反で逮捕された者及び調教師として業務遂行不能な者であつていずれも免
許取消事由(規間六条四号、九号)に該当又はこれに準ずる程度の重大な欠格者で
あるといえる。
(5) 以上を綜合すれば、更新試験において、債務者が債権者を不合格とした本
件処分は、その前提たる事実認定に一部誤りがあり且つ従来の更新試験において不
合格と判定された事由に比べ不平等な扱いであつて社会通念上著く妥当を欠くもの
と認めざるを得ず、その結果の債権者に与える不利益が大きいこと、主たる事由に
つき既に調教停止処分を受けていること等をも合せ考えれば本件処分は、裁量権の
濫用であつて違法であるといわざるを得ない。
しからば、本件処分は無効に帰するから債権者は債務者に対し調教師としての地位
を主張し得るものである。
四 次に、債権者の馬房の使用妨害禁止を求める請求について検討する。
成立に争いない疎乙第一八、一九号証及び弁論の全趣旨によると、馬房の使用は、
調教師免許の新規試験及び更新試験に合格した者が債務者に対し厩舎借受の申込を
なし(日本中央競馬会厩舎貸付基準八条)、それに対し債務者の審査がなされ(同
二条)、通常は一〇馬房の貸付がなされるが、更に従来の実績が加味されてそれ以
上に決定されることが認められる。ところで右馬房の貸付は、調教師免許の取得手
続とは全く別個の手続ではあるが、調教師免許を有する者が右申請をした場合、馬
房数については前記二、1にも窺われるように従来の実績が加味されて債務者の裁
量のもとに決定されるものの、馬房の貸付については、特段の事情のなき限り、債
務者には許否の裁量はないものと解すべきである。けだし、調教師は、前記二、2
のとおり馬主から競走馬の預託を受け、当該馬を育成、調教のうえ出走させて、預
託金の他は専ら競走で入賞した際に得られる進上金で生活しているのであるから、
債務者から馬房の提供を受けなければ、全く調教師としての業務を維持できないか
らである。
ところで、債権者は、更新試験において不合格とされたため、債務者から馬房の貸
付を受けられなかつたものであるが、前記三のとおり、債権者を不合格とした債務
者の本件処分は、裁量権の濫用により違法であつて、債権者には調教師免許の継続
性が認められるゆえに、当然債務者に対し馬房の貸付を求めうる権利を有するもの
と解される。もつとも馬房数の指定については、債務者が従前の実績をもとに決定
し得るのであり、前記のとおり、債権者にも調教師として注意義務を欠く行為があ
つたことは否定できないので、昭和五四年度の借受馬房数(二〇馬房)から相当程
度減少されることが予想されるところ、前記認定のとおり、貸付を申請した調教師
は原則として一〇馬房の貸付を受け得るのであるから、債権者は昭和五五年度にお
いて、債務者に対し少くとも一〇馬房の貸付を受け得る権利を有していると解すべ
きである。しかるに債務者は昭和五五年度において全く債権者に対し馬房の使用を
許していないのであるから、右の限度で馬房の使用妨害禁止を求める債権者の主張
は理由がある。
五 次に保全の必要性について検討する。
前記認定のとおり、債権者は昭和五五年度の更新試験で不合格とされたため昭和四
六年度から維持継続しで来た稗田厩舎で預託を受けていた馬及び雇用していた厩務
貝は全て他の調教師のもとに移つており、債権者は美浦トレーニングセンターを去
り、現在は肩書地で生活しているところ、債権者は昭和四六年以降調教師業務に専
念し相当の実績をあげていたのであるから、収入源が絶たれ生活の基盤が失われて
しまつたことは明らかである。確かに債務者の主張するように、他の牧場で何らか
の働き口を見出すことは可能であるかもしれないが、かかる状況での就職は著しく
不利であり、かつ従来の実績からすると、著しく減収が予想され、又厩舎が解体し
ている以上原状をすみやかに回復しないと厩舎を再開するにも厩務貝の獲得、馬主
との信頼関係回復との点で債権者に回復し難い著しい損害が生じることが明らかで
あるから、保全の必要性があると解される。
なお、債務者は、仮りに本件仮処分が認容された後本訴で敗訴した場合には、債権
者の競走馬が出走した競走の勝敗、右競走における償金の分配等訂正不可能な結果
を惹起する旨主張するが、仮処分におけるかかる仮定性は、ひつきよう財産的回復
の可能性をもつて足るというべきであり、本訴で例え敗訴したとしても、この間の
債権者の行為が全て無効となると解すべきではないから債務者の右主張は理由がな
い。また債務者は右のように解したとしても、債権者の資力では財産的回復をはか
ることは不可能である旨主張するが、民事訴訟法七六〇条にいう「著しい損害」を
考えるにあたり、債権者、債務者間の利益衡量をすることはあながち不当ではない
が、債権者の資力を問題にすることは債権者の利益保護の観点から、仮処分を無き
に等しいものにすることになり相当でなくかかる主張も採用できない。
また債務者は一年間の調教師免許期間経過後は右更新試験ガ違法を争うことは無意
味である旨主張する(その趣旨はやや不明である)が、前記三、2のとおり、仮り
に一年間を経過したとしても、次年度以降の地位の継続性は原則として認められる
ところその継続性を確保するために債権者としては、昭和五五年度における調教師
としての地位を保全しておく必要があるというべきであるから(本件口頭弁論終結
時は昭和五五年一二月一八日であり、且つ本件係争中に昭和五六年度以降の免許更
新申請手続等を両当事者に期待することは不可能である。)かかる主張も採用でき
ない。
六 よつて、債権者の本件申請は債務者に対し調教師としての地位保全を認め、債
権者が美浦トレーニングセンター内の一〇馬房の使用することを妨害するのを禁ず
る限度で理由があるから、これをいずれも正当として認容し、その余の申請は失当
として却下することとし、申請費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条但
書を各適用して、主文のとおり判決する。
別紙「制裁」と題する書面及び別表一~三(省略)

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