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平成19年1月25日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成17年(ワ)第9396号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成18年10月19日
判決
原告株式会社堀場製作所
訴訟代理人弁護士伊原友己
加古尊温
訴訟代理人弁理士西村竜平
角田敦志
補佐人弁理士佐藤明子
被告株式会社小野測器
訴訟代理人弁護士小林幸夫
訴訟復代理人弁護士村西大作
坂田洋一
補佐人弁理士國分孝悦
南林薫
大須賀晃
小野亨
桂巻徹
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙物件目録記載の車両運転モード表示装置を製造し,販売し,販
売のための申出をしてはならない。
2被告は,前項記載の車両運転モード表示装置及びその半製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,1160万円及びこれに対する平成17年10月6日
(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「車両運転モード表示装置」とする後記特許権を有す
る原告が,車両運転モード表示装置を製造販売する被告に対し,同特許権に基
づき同装置の製造販売等の差止め,廃棄及び特許権侵害の不法行為に基づく損
害賠償(訴状送達の日の翌日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金を含む)を請求する事案である。。
1当事者間に争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のない事実は当事者間に争
いがない)。
()当事者1
原告は,測定機器の製造,販売等を業とする株式会社である。
被告は,電子計測機器の製造,販売等を業とする株式会社である。
()原告の特許権2
原告は,下記の特許権〔以下「本件特許権」といい,その特許を「本件,
特許」と,本件特許の請求項1の発明を「本件特許発明」と,本件特許発明
に係る明細書(平成14年法律第24号による改正前の「特許請求の範囲」
を含む明細書である)を「本件明細書」という〕の特許権者である。。。
ア登録番号第3616490号
イ出願日平成9年11月22日
ウ登録日平成16年11月12日
エ発明の名称車両運転モード表示装置
オ特許請求の範囲
「請求項1】車両の運転速度を合わせるようにするためのモード運転【
の走行速度パターンを表示するようにした表示画面を有する車両運転モー
ド表示装置において,前記表示画面内に,テスト走行の全工程の速度変化
をグラフにして示す全走行速度データとテスト走行の全工程のうちの現在
の走行位置を前記走行速度パターンと並列的に同時に表示する全走行速度
データ表示部を設けたことを特徴とする車両運転モード表示装置」。
()本件特許発明の分説3
本件特許発明を分説すると,次のとおりである(以下,分説した各構成要
件をその符号に従いそれぞれ「構成要件A」のように表記する。。)
A車両の運転速度を合わせるようにするためのモード運転の走行速度パタ
ーンを表示するようにした表示画面を有する車両運転モード表示装置にお
いて,
B前記表示画面内に,テスト走行の全工程の速度変化をグラフにして示す
全走行速度データとテスト走行の全工程のうちの現在の走行位置を前記走
行速度パターンと並列的に同時に表示する全走行速度データ表示部を設け

Cことを特徴とする車両運転モード表示装置。
()被告の行為4
被告は,業として,平成11年頃から別紙物件目録記載の車両運転モード
表示装置(以下「被告装置」という。ただし,構成には争いがある)を製。
造販売している。
()無効審判事件等5
ア被告は,平成17年11月25日付けの審判請求書により,本件特許に
つき,無効審判を請求した(無効2005−80339(乙3。))
イ上記無効審判事件について,特許庁は,平成18年6月7日付けで,本
件特許を無効とする旨の審決をした(乙5。)
()構成要件充足性6
被告装置は構成要件Aを充足する。
2争点
()本件特許(請求項1に係る部分に限る)は特許無効審判により無効と1。
されるべきものであり,特許法104条の3第1項により本件特許権に基づ
く権利行使は許されないか。
ア本件特許発明は本件特許出願前に頒布された刊行物(乙1)に開示され
た発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである
か(特許法29条1項3号,2項(争点1))。
イ本件特許発明は本件特許出願前に頒布された刊行物(乙4の2・3)に
開示された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるか(特許
法29条2項(争点2))。
ウ本件特許発明は本件特許出願前に頒布された刊行物(乙4の2・4)に
開示された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるか(特許
法29条2項(争点3))。
エ本件特許発明は本件特許出願前に頒布された刊行物(乙1)に開示され
た発明及び乙第4号証の5等の周知技術に基づいて当業者が容易に発明で
きたものであるか(特許法29条2項(争点4))。
()被告装置は本件特許発明の技術的範囲に属するか(争点5)2。
()原告の損害額(争点6)3
第3争点に関する当事者の主張(要旨)
1争点1〔本件特許発明は本件特許出願前に頒布された刊行物(乙1)に開示
された発明と同一又は同発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである
か(特許法29条1項3号,2項〕について)
【被告の主張】
()乙第1号証は,本件特許出願前の平成8年(1996年)7月2日に頒1
布された刊行物である米国特許第5531107号公報である(以下「引用
例1」という。。)
()引用例1の図3の102の所望車両速度は,本件特許発明の走行速度パ2
ターンに相当する。また,引用例1の図3のディスプレイ76の上右隅に表
示される所望速度値対時間のグラフ98は,構成要件Bの「テスト走行の全
工程の速度変化をグラフにして示す全走行速度データ」に該当する。また,
引用例1の図3中のカーソル100は,構成要件Bの「テスト走行の全工程
のうちの現在の走行位置」に該当する。そして,引用例1の図3の76はデ
ィスプレイ装置であるから,構成要件Cの「車両運転モード表示装置」に該
当する。
()引用例1には本件特許発明の構成がすべて開示されているから,特許法3
29条1項3号により本件特許発明には新規性がないことは明らかである。
()仮に原告が主張するように,グラフ98がテスト走行の全工程を示すも4
のではなく,一部分の工程を示したものであるとしても,その点の相違をも
って本件特許発明が進歩性を有するものではない。すなわち,グラフ98が
テスト走行の全工程の一部分の速度変化をグラフにして示すものであるとし
ても,それを一部分ではなく全工程を示すようにすることは,テストの内容
等に応じて当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
したがって,仮にグラフ98がテスト走行の全工程の一部分であったとし
ても,本件特許発明は,引用例1に記載された発明に基づいて容易に発明す
ることができたものである。
()なお,引用例1の図3のグラフ98は,原告の指摘する「EPA75」5
()。EPAURBANDYNAMOMETERDRIVINGSCHEDULEとは何の関係もない
【原告の主張】
()引用例1には,本件特許発明の構成要件Bが開示されていない。1
引用例1の図3のグラフ98は,いわゆるEPA75(これは,米国環境
省がロサンゼルスなどの道路状況を想定して規定した走行速度パターンであ
る)のうちの一部分でしかなく,そもそもグラフ98のタイムスケジュー。
ルが変更可能な構成となっているなどということ自体,全く引用例1に記載
されていない。したがって,引用例1の図3のグラフ98の記載及び引用例
1における説明をもって引用例1に「テスト走行の全工程の速度変化をグラ
フにして示す全走行速度データ」が記載されているというのは誤りである。
()被告は,引用例1のグラフ98がテスト走行の一部分を示すものである2
として,これを全工程を示すようにすることは当業者が適宜なし得る設計事
項であると主張する。しかし,引用例1記載の発明は,試験車両の速度変化
を予測することによりシャシーダイナモメータにおける仮想慣性を設定する
方法及び装置に関するものであって「現在の走行位置を認識しやすくして,
テストドライバーの疲労を最小限に抑える」という本件特許発明の目的とは
全く異なった目的を持った発明である。本件特許発明の目的や課題が一切開
示ないし示唆されていないことにもよれば,引用例1記載の発明から,設計
変更のような事項も含めて当業者が本件特許発明を容易に想到することはで
きない。
〔()2争点2本件特許発明は本件特許出願前に頒布された刊行物乙4の2・3
に開示された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるか(特許法
29条2項〕)
【被告の主張】
,,(。本件特許発明は以下のとおり特開平8−189880号公報乙4の2
「」。)(。以下引用例2という及び特開昭62−276435号公報乙4の3
以下「引用例3」という)に記載された発明に基づき,容易に発明すること。
ができたものであるから進歩性が欠如している。
すなわち,引用例2には「車両の運転速度を合わせるようにするためのモ,
ード運転の走行速度パターンを表示するようにした表示画面を有する車両運転
モード表示装置」の構成が記載されており,本件特許発明の構成要件A及びC
が開示されている。
また,引用例2には「前記表示画面内に,前記走行速度パターンと並列的,
に同時に(グラフを)表示する表示部を設けたことを特徴とする車両運転モー
。」,。ド表示装置の構成が記載されており構成要件Bの一部が開示されている
引用例3には「前記表示画面内に,テスト走行の全工程の速度変化をグラ,
フにして示す全走行速度データ(テストモード35)とテスト走行の全工程の
うちの現在の走行位置(指標37)を表示する全走行速度データ表示部を設け
たことを特徴とする車両運転モード表示装置」の構成が記載されており,構。
成要件Bの一部が開示されている。
そして,引用例2及び引用例3は,いずれも車両のモード走行試験における
表示に関する技術であるので技術分野の関連性を有し,引用例2の図4の走行
速度パターンと並列的に同時に表示する「グラフ(登降坂データP」を,引)
用例3の「テスト走行の全工程の速度変化をグラフにして示す全走行速度デー
タ(テストモード35)とテスト走行の全工程のうちの現在の走行位置(指標
37)の表示」に置換することは,単なる設計事項にすぎない。
【原告の主張】
本件特許発明は,車両運転モード表示装置の表示内容を合理的かつ使い勝手
よく表示して,全工程における現在の走行位置を認識しやすくしてテストドラ
イバーの疲労を最小限に抑える(本件明細書段落【0006)という課題認】
識の下になされた発明である。そして,そのために構成要件A,Bの構成を採
用し,このことにより,車両の運転速度を合わせるようにするためのモード運
転の走行速度パターンを,時間を区切って大きく見やすく表示して,テストド
ライバーによる走行速度パターンへの追随運転を容易にし,かつ,テスト走行
の全工程中の現在位置を認識しやすくすることによってテストドライバーの精
神的なものも含めた疲労を最小限に抑えることができるのである。
しかし,引用例2及び引用例3のいずれにも,本件特許発明の上記課題及び
効果は記載されていないから,引用例2及び引用例3記載の発明を当業者が容
易に組み合わせて本件特許発明を想到するとは考えられない。
〔()3争点3本件特許発明は本件特許出願前に頒布された刊行物乙4の2・4
に開示された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるか(特許法
29条2項〕について)
【被告の主張】
特開昭61−187617号公報(乙4の4。以下「引用例4」という)。
の第2図に示されている階段状の曲線は,テスト走行の全工程の速度変化をグ
ラフにして示す全走行速度データを表すものであり,走行曲線の右端が,テス
ト走行の全工程のうちの現在の走行位置を表していることは明らかである。
したがって,引用例4には,構成要件Bのうち「前記表示画面内に,テスト
走行の全工程の速度変化をグラフにして示す全走行速度データとテスト走行の
全工程のうちの現在の走行位置を表示する全走行速度データ表示部を設けた」
との構成が開示されている。
そして,引用例2に,本件特許発明の構成要件A及び構成要件Cと,構成要
件Bのうちの一部が開示されていることは,前記2において主張したとおりで
ある。
引用例2及び引用例4は,いずれも車両の試験に関する表示を行う発明であ
り技術分野の関連性を有するので,引用例2の図4に示す走行速度パターンの
表示画面と,引用例4の第2図に示す全走行速度データと現在の走行位置との
表示画面とを同一画面に表示させることは,単なる設計事項にすぎず格別の困
難性はない。
したがって,本件特許発明は,引用例2及び引用例4に開示された発明に基
づいて当業者が容易に発明できたものである。
【原告の主張】
引用例4の第2図の走行速度データが全走行速度データであることは引用例
4のどこにも記載されていない。
仮に,引用例4に全走行速度パターン及び現在位置が開示されていたとし
ても,引用例2及び引用例4には,本件特許発明の部分部分の構成が示され
ているにすぎず,これらの各引用例に本件特許発明の課題や効果が一切記載
ないし開示されていない以上,引用例2及び引用例4記載の各発明を当業者
が容易に組み合わせられるとは考えられない。
4争点4〔本件特許発明は本件特許出願前に頒布された刊行物(乙1)に開示
された発明及び乙第4号証の5等の周知技術に基づいて当業者が容易に発明で
きたものであるか(特許法29条2項〕について)。
【被告の主張】
引用例1には「所望車両速度を示すグラフ線102を表示するようにした,
表示画面を有するディスプレイ76及びこれに接続されたコントローラ70か
ら成る装置において,前記表示画面内に,右上隅に所望速度値対時間のグラフ
98及び現在の走行位置を示すカーソル100を表示するとともに,中央に所
望車両速度を示すグラフ102を並列的に同時に表示する表示部を設けた装
置」との発明が記載されていると認められる。そして,引用例1記載の「所。
望車両速度を示すグラフ線102「所望速度値対時間のグラフ98「現在」」
の走行位置を示すカーソル100「ディスプレイ76及びこれに接続された」
コントローラ70から成る装置」は,それぞれ本件特許発明の「車両の運転速
度を合わせるようにするためのモード運転の走行速度パターン「テスト走行」
の工程の速度変化をグラフにして示す走行速度データ「テスト走行の工程の」
うちの現在の走行位置「車両運転モード表示装置」にそれぞれ相当する。そ」
うすると,本件特許発明と引用例1記載の発明とは「車両の運転速度を合わ,
せるようにするためのモード運転の走行速度パターンを表示するようにした表
示画面を有する車両運転モード表示装置において,前記表示画面内に,テスト
走行の工程の速度変化をグラフにして示す走行速度データとテスト走行の工程
のうちの現在の走行位置を前記走行速度パターンと並列的に同時に表示する走
行速度データ表示部を設けた車両運転モード表示装置」である点で一致し,。
次の点,すなわち,本件特許発明においては,走行速度パターンと並列的に表
示する走行速度データが,テスト走行の全工程の速度変化をグラフにして示す
,,全走行速度データであるのに対して引用例1記載の発明の走行速度データが
テスト走行の全工程の速度変化を示すものか,一部の工程の速度変化を示すも
のか明らかでない点で相違する。
しかし,試験装置において,試験の全工程のうちのどの位の工程が終了した
か,あるいはどの位の工程が残っているかを表示するために,試験の全工程の
うちの現在の試験位置を表示することは乙第4号証の5(実願昭51−154
571号(実開昭53−72301号)のマイクロフィルム)に見られるよ。
うに周知の技術である。そして,引用例1記載の車両試験においても,モード
運転による試験を行うのであるから,テスト走行の全工程のうちどの位の工程
が終了したのか,どの位の工程が残っているのかが知りたいという課題がある
ことは当業者に明らかである。してみると,試験の全工程のうちのどの位の工
程が終了したか,あるいはどの位の工程が残っているかを表示するために,上
記周知技術を用いて所望速度値対時間のグラフ98をテスト走行の全工程のグ
ラフとし,このグラフにおいて,現在の走行位置を示すカーソルを表示するよ
うにすることは,当業者ならば容易に想到し得たものと認められる。そして,
本件特許発明の作用効果も,引用例1記載の発明及び上記周知技術から当業者
であれば予測できる範囲のものである。
以上のとおり,本件特許発明は,引用例1記載の発明及び乙第4号証の5等
の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであり,同法123条
1項2号に該当し本件特許は無効とすべきものである。
【原告の主張】
争う。
5争点5(被告装置は本件特許発明の技術的範囲に属するか)について。
【原告の主張】
()被告装置の構成1
被告装置の構成は次のとおりである。
ア被告装置のモニターは,横長矩形状の表示画面を有し,車両の運転速度
を合わせるようにするためのモード運転の走行速度パターンが表示画面の
中央部に大きく表示されている車両運転モード表示装置である。
イ①前記表示画面内の表示画面左辺付近に縦長に,テスト走行の全工程の
速度変化を山形グラフにして示す全走行速度データを表示することがで
きるようになっており,その山形グラフは基底部(底辺)を前記表示画
面の縦軸にとり,その基底を速度ゼロとして表示画面右方向へ行くに従
って(つまり山が高くなるに従って)速度が速くなっていることを表示
するとともに,前記表示画面の下部から上部に行くに従って時間が経過
していることを表示するものとなっている。
②前記山形グラフの背景色を時間の経過とともに前記表示画面の下方か
ら上方へ順次変化させることにより,その色彩の境界部がテスト走行の
全工程のうちの現在の走行位置を表示するものとしており,
③前記山形グラフは前記走行速度パターンと並列的に同時に表示するこ
ともできるものとなっている。
ウ以上の表示をなし得ることを特徴とする車両運転モード表示装置であ
る。
()属否2
上記の被告装置の構成は,本件特許発明の構成要件AないしCをすべて充
足する。
【被告の主張】
()構成について1
被告装置が,原告主張のアの構成を備えることは認める。
イ①については「全走行速度データを表示」との点は否認し,その余は,
認める。被告装置の表示画面のMODEMAP表示部は,走行速度データ
を間引いて表示している。したがって,テスト走行の全工程の大体の速度変
化の目安を模した目安表示にすぎず,原告主張の「全走行速度データを表示
する」ものとはなっていない。
イ②については否認する。
まず,被告装置は「前記山形グラフの背景色を時間の経過とともに前記,
表示画面の下方から上方へ順次変化させる」ものではない。すなわち,MO
DEMAP部分の画面全体の色の変化は,MARKMAPの色が変化し
ているにすぎず「前記山形グラフの背景色の変化」ではない。,
,,,また上記のとおり被告装置の表示画面内のMODEMAP表示部は
原告主張の「全走行速度データを表示する」ものではないから,上下色彩の
境界部は全工程のうちの現在の走行位置を表示するものとはならない。した
がって,被告装置は「その色彩の境界部がテスト走行の全工程のうちの現在
の走行位置を表示する」ものではない。
被告装置が,イ③の構成を備えることは認める。
,,ウについては被告装置が車両運転モード表示装置であることは認めるが
「以上の表示をなし得ることを特徴とする」とする点については否認する。
()属否2
したがって,被告装置は,構成要件Bを充足しない。
構成要件Cについては,被告装置が車両運転モード表示装置であることは
認めるが,構成要件Bの構成を備えたことを特徴とするとの点は否認する。
6争点6(原告の損害額)について
【原告の主張】
被告の本件特許権侵害行為により,原告は以下の損害を被った。
被告装置の平均単価は,350万円であり,平成16年12月1日から平成
17年8月31日までの間の被告装置の販売台数は6台であり,被告装置の総
売上額は2100万円である。被告装置の利益率は50%であるから,被告が
被告装置の製造販売によって得た利益額は1050万円であり,原告は同額の
損害を被ったと推定される(特許法102条2項。)
また,本件特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士・弁理士費用の相当
損害金は110万円である。
よって,原告が被った損害額は合計1160万円である。
【被告の主張】
争う。
第4本件特許(請求項1に係る部分に限る)の無効理由の存否に関する当裁判。
所の判断
被告は,本件特許(請求項1に係る部分に限る)は特許無効審判により無。
効とされるべきものであるから,本件特許権に基づく権利行使はできないと主
張し(特許法104条の3第1項,その無効理由の一つとして,本件特許発)
明が,その出願前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明及び周
知の技術に基づいて容易に発明することができたものであって(同法29条2
項,同法123条1項2号の無効理由があると主張する(争点4)ので,ま)
ずこの点について判断する。
1本件特許出願前に頒布された刊行物
()引用例1の内容1
ア本件特許出願前に頒布された刊行物である米国特許第5531107号
公報(引用例1。乙1)には,発明の名称を「シャーシダイナモメータに
おける仮想慣性を設定する方法および装置」とする発明について,その抄
訳文(乙2)によれば次のとおりの記載がある(引用箇所の表示は,乙1
における該当箇所を示す。。)
(ア)「図1および2を参照すると,ダイナモメータシステム10は,本
発明によれば,被試験車両14がその上で駆動される試験台アセンブリ
12を含む(第2欄58ないし60行)。」
(イ)「コントローラ70は,ディスプレイ装置76に接続されている。
ディスプレイ76は,テーブル80またはカートの上に置かれている。
テーブル80の高さおよび試験台28に対するテーブルの位置は,車両
試験中,車両がダイナモメータ試験台12の上にあるときに,車両オペ
レータがディスプレイ76を容易に見ることができるようになってい
る(第3欄61行ないし66行)。」
(ウ)「このシミュレーション制御を達成するに際して,図3に示される
所望速度値対時間のグラフ98が,ディスプレイモニタ76の上右隅に
表示される。本発明の好適な実施形態によると,速度値はY軸に表示さ
れ,時間はX軸に表示される。当業者は,軸を入れ替えて速度値がX軸
に表示され時間がY軸に表示されてもよいことを認識するだろう。これ
らの値は,参照テーブルまたはデータテーブルのいずれかのコントロー
ラ70に記憶されていることが好ましい。
カーソル100は,グラフ98に関連する。カーソル100は,コン
トローラ70によって制御されて,オペレータがキーボード72または
外部制御74を介してそのような指示を出すことによって試験が開始さ
れると,カーソル100は,時間の関数としてグラフ線98にそって移
動する。カーソルでなく,グラフ線98が2つの異なる色に彩色されて
もよい。この場合,グラフ線98は,色の境界面が試験の時間経過を示
す時間の関数であり,試験時間が進むにつれて,グラフ線98の色は左
から右の方向で変わっていく(第6欄21ないし39行)。」
(エ)「車両を試験するために,試験台のオペレータは,キーボード72
またはオペレータ制御ボックス74のいずれかを介して,試験が始まる
ことを示す。このときコントローラは,ディスプレイモニタ76の主要
部分に所望車両速度102を時間の関数として表示する。所望車両速度
102には,速度上限104および速度下限106が隣接する。車両速
度表示器108は,シャフト54とコントローラ70とに接続されてい
,。るRPMセンサ110によって決定される現在の車両速度を表示する
コントローラは,RPMセンサ110から車両速度を計算する。あるい
は,センサ110は,車両速度を直接示す信号を供給するように選ばれ
てもいい。
車両オペレータは,車両のアクセルペダルを制御して,表示器108
(測定された車両速度)がそれぞれ上限および下限104,106の間
に保たれるようにする。このようにして,測定された車両速度は,所望
車両速度と等しくなる。
ディスプレイ76は,所望車両速度102,速度上限104,および
速度下限106を動的に表示して,3つの線が時間の関数としてY軸の
方へ動くように見えるようにする。所望車両速度102のX軸のタイム
スケールは,ディスプレイ76の上右隅に表示されるグラフのタイムス
ケールに比較すると,かなり拡大されている。2つのグラフのタイムス
ケールが同じであれば,グラフ線(所望車両速度)102およびグラフ
線98は同一になる。試験時間が進行すると,線102,104および
106は,グラフ98に示される値と同じようにY軸を上下に移動す
る(第6欄40ないし67行)。」
(オ)また,図3から,ディスプレイモニタ76の表示画面には,上右隅
に所望速度値対時間のグラフ98及び現在の走行位置を示すカーソル1
00を表示するとともに,中央に所望車両速度を示すグラフ線102を
並列的に同時に表示する構成が開示されていると認められる。
イこれらの記載及び図面によれば引用例1には次の構成を備える発明以,(
下「引用発明」という)が記載されているということができる。。
「所望車両速度を示すグラフ線102を表示するようにした表示画面を
有するディスプレイ76及びこれに接続されたコントローラ70から成る
装置において,前記表示画面内に,上右隅に所望の速度値対時間のグラフ
98及び現在の走行位置を示すカーソル100を表示するとともに,中央
に所望車両速度を示すグラフ線102を並列的に同時に表示する表示部を
設けた装置」。
()本件特許出願前に頒布された刊行物である実願昭51−154571号2
(実開昭53−72301号)明細書のマイクロフィルム(乙4の5)の内

上記刊行物には,考案の名称を「車両自動試験装置」とする考案に関して
次のとおりの記載がある。
ア「試験実行に要する時間あるいは時間に関連した値を試験進行に従い変
化させて表示装置に表示することを特徴とした車両自動試験装置(実。」
用新案登録請求の範囲)
イ「本考案の目的は操作員の不安な気持を解消し,操作性の良い自動試験
装置を提供するにある。
本考案は試験実行中の進行状況が常に把握出来るようにするため,カラ
ーディスプレイ上に,未完了試験の所要時間を表示する(2頁9ない。」
し13行)
ウ「第2図は本考案の他の実施例で,画面の下方に試験全体の所要時間に
相当する長さの白線を画き,試験を実施した時間に相当する長さを緑色に
変える。線の上の数字は分単位の時間を示す。この方式では全体のうちの
どの位が終了したか,或いはどの位が残っているかが一目瞭然となる」。
(2頁16行ないし3頁1行)
以上の記載によれば,上記刊行物には,操作員の不安な気持を解消し,操
作性の良い自動試験装置を提供することを目的とし,試験実行中の進行状況
が常に把握できるようにするため,カラーディスプレイ上に未完了試験の所
要時間を表示することとし,その具体的構成として,画面の下方に試験全体
の所要時間に相当する長さの白線を描き,試験を実施した時間に相当する長
さを緑色に変えるなどというような技術内容が開示されていることが認めら
れる。
2本件特許発明と引用発明との対比
本件特許発明と引用発明とを比較すると,引用発明の「所望車両速度を示す
グラフ線102」は,車両試験をする際の所望の車両速度を示すものであるか
ら,本件特許発明の「車両の運転速度を合わせるようにするためのモード運転
の走行速度パターン」に相当する。また,引用発明もモード運転を行うもので
あるから「所望速度値対時間のグラフ98」は本件特許発明の「テスト走行,
」,の工程の速度変化をグラフにして示す走行速度データに相当するものであり
また「現在の走行位置を示すカーソル100」は,本件特許発明の「テスト,
走行の工程のうちの現在の走行位置」に相当する。さらに,引用発明の「ディ
スプレイ76及びこれに接続されたコントローラ70から成る装置」は,本件
特許発明の「車両運転モード表示装置」に相当すると認められる。
したがって,本件特許発明と引用発明は「車両の運転速度を合わせるように
するためのモード運転の走行速度パターンを表示するようにした表示画面を有
する車両運転モード表示装置において,前記表示画面内に,テスト走行の工程
の速度変化をグラフにして示す走行速度データとテスト走行の工程のうちの現
在の走行位置を前記走行速度パターンと並列的に同時に表示する走行速度デー
タ表示部を設けた車両運転モード表示装置」である点で一致する。。
他方,本件特許発明は,走行速度パターンと並列的に同時に表示する走行速
度データが,テスト走行の全工程の速度変化をグラフにして示す全走行速度デ
ータであるのに対して,引用発明の走行速度データが,テスト走行の全工程の
速度変化を示すのか,一部の工程の速度変化を示すものかが明らかでない点で
相違すると認められる。
3本件特許発明の容易想到性
そこで,上記相違点を当業者が容易に想到できたものであるか否かを検討す
る。本件特許発明において,テスト走行の全工程の速度変化をグラフにして示
す全走行速度データを表示することとしたのは「前記従来の車両運転モード,
表示装置7の表示では,テストドライバーはテスト走行の全工程のうち現在ど
の地点を走行しているのかを認識することができず,車両の運転速度が表示画
面7A上に表示される走行速度パターン8で示す速度に合うようにテスト走行
運転を続けなければならないので,テストドライバーは試験走行運転を今後ど
れぐらい続ける必要があるのかが気になって,精神的に疲れることがあった。
とりわけ,単調な試験走行運転を一定回数繰り返す場合には,走行している地
点をテストドライバーに確実に認識させることが困難であった」との課題を。
解決するためである(本件明細書の段落【0005。他方,上記1()の刊】)2
行物(乙4の5)記載の考案は,車両自動試験装置におけるカラーディスプレ
イの表示に関するもので,本件特許発明と同一の技術分野に関する考案である
と認められるところ,同考案は,操作員の不安な気持を解消し,操作性の良い
自動試験装置を提供することを目的とするものであり,本件特許発明と共通の
課題解決を目的とするものということができる。そして,同考案に係る実用新
案登録出願は,本件特許出願の約21年前になされていること及び弁論の全趣
旨によれば,上記考案にみられるような,操作員ないしテストドライバーの精
神的疲労の軽減を図る等という課題を解決するため,車両のテスト走行の全工
程を表示した上,現在どの工程まで完了しているのかを操作員ないしテストド
ライバーが認識できるように表示することは,少なくとも本件特許出願当時に
は既に周知の課題を解決する周知の技術であったということができる。
そして,引用発明の車両試験においても,本件特許発明の車両試験と同様,
モード運転による試験を行うのであるから,テスト走行の全工程のうち,どの
程度の工程が終了したのか,どの程度の工程が残っているのかを知りたいとい
う上記の課題があることは,引用例1に明示の課題として記載されていなくと
も当業者にとって明らかであるというべきである。したがって,車両試験の全
工程のうちのどの程度の工程が終了したか,あるいはどの程度の工程が残って
いるかを表示するために,上記周知技術を用いて,引用発明の所望速度値対時
間のグラフ98をテスト走行の全工程のグラフとし,このグラフにおいて,現
在の走行位置を示すカーソルを表示するようにすることは,当業者であれば容
易に想到し得たものであると認められる。
また,本件特許発明の作用効果は「この発明によれば,同一画面内に走行,
速度パターンとテスト走行の全工程の速度変化をグラフにして示す全走行速度
データとテスト走行の全工程のうちの現在の走行位置とを並列的に同時に表示
することができるので,合理的かつ見やすく表示することができるとともに,
表示のために特別なハードウェアを必要としないのでコストを低減することが
できる。そして,テストドライバーにとって最も必要なテスト走行の全工程中
の現在走行位置を見やすくなり,それを認識することでテスト走行運転時の精
神的な疲れを低減できる(本件明細書の段落【0021)というものであ。」】
るところ,これらの作用効果は,走行速度パターンと全走行速度データと全工
程のうちの現在の走行位置とを並列的に同時に表示する構成を採用することに
よって当然に予測される内容であるので,引用発明及び上記周知技術から,当
業者であれば予測できる範囲のものである。
以上によれば,本件特許発明は,引用発明及び上記周知技術に基づいて当業
者が容易に想到できたものであるから,進歩性に欠け,特許法29条2項に違
反して特許されたものというべきである。
4結論
したがって,本件特許発明は,特許法29条2項の規定により,特許を受け
ることができないものであり,本件特許(請求項1に係る部分に限る)は,。
同法123条1項2号の無効理由を有することになる。よって同法104条の
3第1項により,特許権者である原告は,被告に対し本件特許権の請求項1に
基づく権利を行使することができない。したがって,原告の本訴請求は,その
余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官田中俊次
裁判官西理香
裁判官西森みゆき

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