弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人小見山繁、同河合怜、同片井輝夫、同仲田哲、同竹之内明の上告理由
について
 一 本件は、被上告人によって建物及び動産類の占有を侵奪されたとする上告人
が被上告人に対して民法二〇〇条に基づきその返還を求めている事件である。原審
の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 被上告人は、宗教法人Dの被包括宗教法人であり、同じくDの被包括宗教法
人であるE寺の塔頭八ヵ寺の一つであるところ、被上告人の宗教法人宝光坊規則で
は、「代表役員は、Dの規定によって、この寺院の住職にある者をもって充てる。」
と規定している(同規則八条一項)。
 2 上告人は、昭和四八年、D管長からE寺塔頭の一つであるFの住職に任命さ
れて同寺院建物に居住するようになったが、さらに、昭和五一年一〇月一八日、被
上告人の住職にも併せて任命され、同時に前記規則により被上告人の代表役員とな
って、被上告人所有に係る第一審判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」
という。)及び右建物内にある第一審判決別紙動産目録記載一ないし九の動産(以
下「本件動産」といい、本件建物と併せて「本件建物等」ともいう。)に対する管
理、所持を開始した。上告人は、Fの建物に居住していたため、宗教行事等のない
ときは、本件建物に施錠をして本件建物等を直接管理していたが、昭和五七年三月
ころから、Gを本件建物に居住させ、同人を通じて本件建物等を管理するようにな
った。
 3 Dの管長Hは、昭和五七年四月五日、上告人が教義上の異説を唱えたとして
上告人を僧籍剥奪処分である擯斥処分に付するとともに、第一審相被告Bを被上告
人の後任住職に任命した。
 そこで、被上告人は、上告人が擯斥処分を受け、Dの僧籍を失うと同時に被上告
人の住職及び代表役員の地位を失って本件建物の占有権原を喪失したとの理由によ
り、上告人に対して、本件建物の明渡しを求める訴訟を提起した(高松地方裁判所
丸亀支部昭和五七年(ワ)第一六九号事件。以下「別件訴訟」ともいう。)。これ
に対して、上告人は、擯斥処分の効力を争い、被上告人の住職、代表役員として本
件建物を占有し得る旨を主張したが、右訴訟においては、上告人が本件建物を占有
していることについては争いがなかった。
 4 被上告人は、別件訴訟を提起するとともに、当時本件建物を現実に占有して
いたIに対して、本件建物の明渡しを求める断行仮処分の申請をしていたが(高松
地方裁判所観音寺支部昭和五七年(ヨ)第一八号事件)、昭和五八年九月、右仮処
分申請事件において、上告人が利害関係人として参加した上での和解が成立した。
その要旨は、被上告人、I及び上告人は、Iが上告人の占有補助者として本件建物
に居住しこれを使用していることを確認し、別件訴訟の判決の帰すうに従って本件
建物を占有すべき者を決め、その者に占有させることに合意するというものであっ
た。
 5 別件訴訟については、平成二年二月二一日に第一審の判決があったが、右判
決の内容は、別件訴訟の訴えはDの教義、信仰と密接にかかわる事柄であり、教義、
信仰の内容に深く立ち入ることなくして判断することはできないからその実質にお
いて法令の適用により終局的に解決することができず、法律上の争訟に該当しない
ので、訴えを不適法として却下するというものであった。被上告人は、右判決に対
して控訴をした。
 6 Iは、別件訴訟の第一審判決で被上告人が勝訴しなかったのを機会に松山市
内に転居することにし、平成二年四月一二日までに、施錠した本件建物の鍵を上告
人に渡し、本件建物を上告人に明け渡した。以後、上告人が本件建物を直接管理し、
信者に掃除などをさせていた。
 他方、被上告人の総代からIが本件建物に居住していないとの通報を受けたBは、
同月一三日ころ本件建物に赴き、Iが他に転居したことを確認したが、なお上告人
が管理していると考えていた。
 7 Bは、檀家から本件建物使用の可否を尋ねられると、裁判中なので最終判決
が出るまで待つよう答えていたが、納得しない者もいたため、DJに対して別件訴
訟の状況を檀家に説明するように依頼した結果、Jは、別件訴訟控訴審の代理人の
千葉隆一弁護士とJのK、Lの両書記を派遣して、E寺塔頭の一つであるMで平成
二年五月二日に判決説明会を開くことにした。
 8 千葉弁護士とK書記は、平成二年五月二日、右判決説明会の前に現状を視察
しておこうと考え、本件建物に立ち寄ったが、その際本件建物の渡り廊下の窓ガラ
スが割れているのを発見し、宝物等の盗難を危ぐして各所の施錠状況を順次確認し
ていったところ、庫裏玄関のガラス戸の施錠が十分でなかったことから、その戸を
開けて本件建物に入った。Bは、K書記の連絡で判決説明会の会場であるMから本
件建物に駆けつけて本件建物に立ち入り、中を点検したところ、本件建物内は人に
荒らされたり物色されたりした形跡はなく、本件動産はあったが、一部の宝物がな
く、上告人が持ち去ったものと理解した。
 K書記らはJに、千葉弁護士は上司の弁護士にそれぞれ現状を報告し、指示を求
めたところ、Jは、Jと弁護団が協議した結論として、Bに対し、同人が本件建物
を管理すべき旨の指示をした。そのため、Bは、上告人から本件建物等を取り戻さ
れるのを防ぐため、同日、本件建物の鍵を付け替え、Jの依頼した警備員が到着す
るまで檀家総代ら二名を泊まり込ませ、同月四日からは東京の警備会社から派遣さ
れた警備員二名を泊まり込ませて、本件建物の管理をするようになった。
 9 上告人は、同月七日、上告人の妻と信者数名が本件建物に赴いた際に、警備
員から本件建物への立入りを制止されたことから、本件建物等が被上告人に管理さ
れていることを知り、同月一〇日、上告人の訴訟代理人である片井輝夫弁護士らと
共に本件建物に臨み、Bに対して本件建物からの退去を求めたが、Bはこれを拒否
した。
 一方、被上告人は、本件建物の占有を取得した後、別件訴訟の控訴を取り下げた。
 二 原審は、右事実関係の下において、上告人は、被上告人の代表機関として本
件建物等の所持を開始し、平成二年五月二日当時は本件建物に鍵をかけて本件建物
等を管理していたが、(一)被上告人の占有侵奪の態様は、本件建物の鍵を付け替
えて本件建物等の現実支配に着手するというものであり、上告人の身体に対する有
形力の行使ではないこと、(二)上告人は、その効力の点は別として、昭和五七年
四月五日に擯斥処分を受けていること、(三)民法七一七条の占有者には占有機関
は含まれないから上告人が同条に定める損害賠償責任を負うことはないが、被上告
人は、本件建物の占有者、所有者として右責任を免れないことなどを総合考慮する
と、上告人は、被上告人に対して占有の訴えを提起することはできないと解するの
が相当であると判断し、上告人の本件請求を棄却すべきものとした。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 法人の代表者が法人の業務として行う物の所持は、いわゆる機関占有であって、
これによる占有は法人そのものの直接占有というべきであり、代表者個人は、原則
として、当該物の占有者として訴えられることもなければ、当該物の占有者である
ことを理由に民法一九八条以下の占有の訴えを提起することもできないと解すべき
である(最高裁昭和二九年(オ)第九二〇号同三二年二月一五日第二小法廷判決・
民集一一巻二号二七〇頁、最高裁昭和三〇年(オ)第二四一号同三二年二月二二日
第二小法廷判決・裁判集民事二五号六〇五頁参照)。しかしながら、代表者が法人
の機関として物を所持するにとどまらず、代表者個人のためにもこれを所持するも
のと認めるべき特別の事情がある場合には、これと異なり、その物について個人と
して占有の訴えを提起することができるものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、前記の事実関係によれば、上告人は、当初は被上告
人の代表者として本件建物等の所持を開始したのであり、被上告人から上告人がD
管長から擯斥処分を受けたことに伴い本件建物の占有権原を喪失したとしてその明
渡しを求める別件訴訟を提起されたときにも、右擯斥処分の効力を争うと共に、被
上告人の代表者として本件建物を占有し得る旨主張していたのであるが、右訴訟の
提起後の昭和五八年九月、上告人と被上告人は、本件建物に関して被上告人が申し
立てた仮処分申請事件の手続中で和解をし、上告人がIを占有補助者として本件建
物を占有していることを確認し、別件訴訟の帰すうに従って本件建物を占有すべき
者を決め、その者に占有させることに合意したのであり、事実、右和解後も平成二
年五月二日に本件建物等の占有が被上告人に移転するまで、上告人は、被上告人と
の間の別件訴訟を争いつつ、Iを通じ、あるいは自ら直接本件建物等を所持してい
たものということができるのである。右によれば、上告人は、平成二年五月二日当
時、別件訴訟が決着をみるまでは上告人自身のためにも本件建物等を所持する意思
を有し、現にこれを所持していたということができるのであって、正に、前記特別
の事情がある場合に当たると解するのが相当である。そして、本件においては、B
は、平成二年五月二日、被上告人の代表として、上告人が施錠をして管理していた
本件建物に立ち入って、右建物の鍵を付け替え、以後警備員を配置するなどして本
件建物等の管理を行い、上告人の返還要求を拒否しているというのであるから、上
告人は、その意思に反して本件建物等の所持を奪われたものというべきであり、本
件建物等を占有している被上告人に対して、民法二〇〇条に基づき、その返還を求
めることができると解すべきである。
 なお、原判決は、(一)侵奪の態様が有形力の行使によるものではないこと、(
二)上告人がDから擯斥処分を受けていること、(三)被上告人は本件建物の設置
又は保存の瑕疵による損害賠償責任を免れないことを挙げて、上告人の占有の訴え
を否定すべきものとしたが、これらはいずれも上告人の本件請求を否定する理由と
なるものではない。
 以上によれば、本件の事実関係の下で上告人の本件占有の訴えを否定すべきもの
とした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものといわざるを得ず、
この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。右の趣旨をいう論旨
は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記説示に照らせば、上告人の
請求を第一審判決主文第一項の限度で認容すべきものとした第一審判決は正当であ
るから、原判決を破棄し、被上告人の控訴を棄却することとする。よって、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    元   原   利   文
            裁判官    金   谷   利   廣

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